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  • 特許-昆虫の幼虫の処理 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】昆虫の幼虫の処理
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/04 20060101AFI20220808BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20220808BHJP
【FI】
A23J3/04
A23K10/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021517908
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2019064672
(87)【国際公開番号】W WO2019234106
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】18175914.3
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520480290
【氏名又は名称】ビューラー インセクト テクノロジー ソリューションズ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Buehler Insect Technology Solutions AG
【住所又は居所原語表記】Gupfenstrasse 5, 9240 Uzwil, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ケース ヴィルヘルミュス ペトリュス アールツ
(72)【発明者】
【氏名】マウリツ ペトリュス マリア ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】アンネ ルイーセ ミア ヤーコプス
(72)【発明者】
【氏名】マーク ツェー. メッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト プレントナー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マティス
(72)【発明者】
【氏名】コンスエロ エム. デ モラエス
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/139346(WO,A1)
【文献】特表2008-519855(JP,A)
【文献】国際公開第98/048617(WO,A1)
【文献】昆虫食のentomo, 2018.01.17 [検索日 2021.11.29], インターネット:<URL:https://entomo.jp/blog/cricket-bread-mealworm-hamburg01.html>
【文献】NewSphere, 2017.10.21 [検索日 2021.11.29], インターネット:<URL:https://newsphere.jp/culture/20171021-1/>
【文献】WIRED, 2014.05.29 [検索日 2021.11.29], インターネット:<URL:https://wired.jp/2014/05/29/insect-factory/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/04
A23K 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫の幼虫を処理する方法であって、
冷却により前記昆虫の幼虫に麻酔をかけるステップであって、前記昆虫の幼虫が、15℃未満の温度で冷水に保管されるステップと、続いて
前記昆虫の幼虫の少なくとも90%をそれぞれ少なくとも5個の部分に切断することによって神経系を破壊することにより前記昆虫の幼虫を活動停止させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記昆虫の幼虫および/または前記冷水の冷却温度が、10℃未満である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記昆虫の幼虫が、タンパク質および/または脂肪および/またはキチンを含む粉末へと加工される、請求項1または2項記載の方法。
【請求項4】
前記昆虫の幼虫が、前記麻酔ステップの前に飼育残渣から分離される、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
保管中に、前記昆虫の幼虫が撹拌手段により撹拌される、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法によって昆虫の幼虫を処理するためのシステムであって、
前記昆虫の幼虫を冷却するための手段と、
前記昆虫の幼虫を少なくとも5個の部分に一度に切断するように構成されている、前記昆虫の幼虫を切断するための手段と
を含み、切断前に前記昆虫の幼虫を15℃未満の温度での冷水に保管して冷却するように構成されてもいる、システム。
【請求項7】
前記冷却手段が、10℃未満の温度を維持するように構成されている、請求項記載のシステム。
【請求項8】
前記昆虫の幼虫が、分離手段により飼育残渣から分離される、請求項または記載のシステム。
【請求項9】
保管中に前記昆虫の幼虫を撹拌するように構成されている、請求項からまでのいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、最小限のストレスの影響で昆虫の幼虫に麻酔をかけてこれを活動停止させることを含む、倫理的に最も適切な手法で昆虫の幼虫を処理することに関する。
【0002】
人間および家畜用の食料源としての昆虫の使用は、進行する人口増加により課せられる増大する需要を満たし、持続可能性および長期的な食の安心安全に関する懸念に対処する大きな可能性を秘めている。しかしながら、昆虫の大規模な生産および収穫は、動物福祉に関する倫理的な問題を引き起こす。
【0003】
乾燥、煮沸、凍結、ミンチ、またはガス処理を含む、活動停止ステップの前およびその最中に幼虫を扱うための様々なアプローチがある。しかしながら、大規模な処理を容易にしながらも不必要なストレスを引き起こさないためにどの方法が最も適しているかは、依然として議論の最中である。
【0004】
現在、昆虫を活動停止させるための従来技術は凍結であり、これは高コストなプロセスである。他の方法としては、昆虫の幼虫を、瞬間凍結、乾燥凍結、乾燥、煮沸、またはガス処理することが挙げられる。通常、死んだ昆虫は、その後、粉砕または切断により処理され、タンパク質粉末へと加工される。冷却切断を用いることにより、昆虫にさらなるストレスをかけることなく、神経系の破壊による昆虫の活動停止を達成することができる。麻酔なしの乾燥または煮沸および切断などの熱を伴う他の技術、例えばCOガス処理は、昆虫のストレスレベルを増加させるか、または提示される方法ほど迅速ではない。
【0005】
国際公開第2013/191548号には、昆虫またはぜん虫を栄養流に変換する方法であって、昆虫を押しつぶして柔らかくした物(pulp)を得る第1のステップを含む方法が記載されている。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0075818号明細書には、動物飼料としての高タンパク質の昆虫ミールを製造する方法が開示されている。そのために、昆虫は乾燥され、完全に脱水された後に、粉砕されてミールにされる。ただし、乾燥は、凍結と同様に、時間のかかるプロセスであり、エネルギー消費が大きい。
【0007】
したがって、本発明の課題は、昆虫の幼虫に不必要なストレスをかけることなくこれを処理する効率的な方法を提供することである。
【0008】
本発明は、特許請求の範囲により特定される。
【0009】
本発明によると、昆虫に麻酔をかけて切断によりその神経系を破壊して昆虫を活動停止にするために昆虫を冷却することを含む方法が提案される。
【0010】
冷却は、流体、例えば冷水を添加することにより実施することが可能である。流体/昆虫の幼虫の混合物は、50:50の比を有していても、または30:70~80:20などの他の適切な比を有していてもよい。
【0011】
冷却プロセスの目標温度は、15℃以下である。
【0012】
冷却プロセスの目標温度は、10℃、7℃、またはそれ以下であってもよい。冷却プロセスで使用される冷却媒体は、好ましくは液体である。したがって、水の場合、温度は、好ましくは0℃超に維持される。
【0013】
切断プロセスは、非常に短い時間で、昆虫の幼虫をそれぞれ少なくとも5個または好ましくは10個の部分に切断することができる。好ましくは、幼虫の少なくとも90%が切断される。
【0014】
昆虫の幼虫を、タンパク質および/または脂肪および/またはキチンを含む粉末へと加工することができる。処理すべき昆虫の幼虫は、好ましくはアメリカミズアブの幼虫またはミールワームである。昆虫の幼虫は、好ましくは、動物の飼料または食物を生産するのに適している。
【0015】
本発明による幼虫の処理は、好ましくは、昆虫の幼虫を、冷却すること、分離すること、および活動停止させることを含む。具体的には、昆虫の幼虫は、処理される前に飼育残渣から分離され得る。それにより、分離ステップまたは洗浄ステップを、流体、例えば、水、ガス、または機械的手段を使用して実施することができる。
【0016】
さらに、昆虫の幼虫は、処理に送られる前に冷水中で保管されてもよい。保管は、タンク内で実施され得る。好ましくは、保管中、水-幼虫の混合物中の水量は、30~80重量%である。保管中、昆虫の幼虫を代謝的に活動停止させるために、水は15℃未満の温度になり得て、これは、麻酔ステップであると考えることができる。また、低温環境での保管は、微生物病原体による汚染およびその増殖を防止するのに役立つ。さらに、これらは水に浮くため、自重による幼虫のつぶれを防止することができる。温度は、好ましくは7℃未満であり得る。また、水/昆虫の幼虫の混合物は、均一な冷却をもたらすために、撹拌手段により撹拌されてもよい。このようにして、昆虫の幼虫を4日間まで保管することができる。
【0017】
本発明の特徴、目的、および利点は、詳細な説明および添付の図面により明らかにされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】異なる刺激に応じた昆虫の幼虫のストレスレベルを示す。
【0019】
飼育および処理中の昆虫の幼虫のストレスレベルを評価するために、最小限のストレスレベルで昆虫を活動停止させる手法を特定する研究が行われている。
【0020】
ストレスは、幼虫の麻酔、洗浄、輸送、保管、活動停止などの、処理における様々なステップと相関関係にあり得る。潜在的にストレスのある状態が存在するかは、対応する刺激に対する生理学的応答を測定することにより評価された。
【0021】
ストレスに対する生理学的応答を評価するために、ストレス関連ホルモンであるオクトパミン(OCT)のレベルを測定した。無脊椎動物では、オクトパミンにより、筋肉の活動および闘争・逃走行動が調節される。オクトパミンの濃度は、ストレス状態に対する生理学的応答の代わりとして使用することが可能である。幼虫を様々な刺激に曝露した後に、曝露されていない対照用の幼虫と比較してOCTの増加または減少を測定する。
【0022】
研究の過程で、以下の刺激を試験した。
【0023】
- 水に浸した状態で、5~15分間にわたり4~15℃で幼虫を冷却
- 昆虫の幼虫に永続的な損傷を与えることなく熱に曝露
- 4℃および10℃で50:50の水/幼虫の混合物中にて保管
- 幼虫をCOでガス処理。
【0024】
昆虫の幼虫を4℃の水に浸すことにより急冷すると、すぐに昆虫の幼虫の大部分が動かなくなった。それにより、OCTレベルは低下し、冷却の間、処理前に測定された対照レベルに戻ることはなかった。昆虫の幼虫を室温に曝露した後に、OCTレベルは、再び対照レベルに達した。余談ではあるが、OCTレベルは、常に目に見える行動と相関関係にあるわけではなく、OCTを弛緩/覚醒に関するより信頼できる指標にしていることに留意されたい。
【0025】
厳しい熱に曝露すると(ただし、昆虫の幼虫に実質的に害を与えることはない)、痛みのような行動と見なされる丸まり行動(curling behaviour)に繋がる。熱曝露は、明らかにOCTレベルを上昇させたため、幼虫に事前に麻酔かけることまたはこれを活動停止させることのない熱を伴う方法は、避けられるべきであることを示す。
【0026】
水を噴霧しても、幼虫の視覚的な行動応答は生じなかった。
【0027】
幼虫に麻酔効果のある可能性が最も高い2つの刺激を調べた。幼虫を冷水で冷却し、幼虫をCOでガス処理する。幼虫を4℃の冷水に入れると、ほとんどの幼虫は即座に動かなくなり、1分後に動きは観察されなかった。10分後に、幼虫を水から取り出し、乾燥した表面に置いた。そこから、幼虫が目に見える活動の兆候を示すまで、時間を記録した。動き始めは、約5分後に見られ、通常の動きは、約12分後に回復された。
【0028】
昆虫は変温動物であるため、昆虫の幼虫に麻酔をかけてそれらの代謝を停止させるには、15℃以下、好ましくは10℃以下の温度で十分である。冷却は動物の生理機能に影響を与えず、これらは、4日間まで保管されて、害を及ぼすことなく必要に応じて再び活動させることができる。
【0029】
他方で、COでガス処理した場合、動きは、約2分後にゆっくりと減少し始め、曝露の約8分後に初めて、動きが広範に失われた。10分後に、処理を停止し、幼虫を再び乾燥した表面に置いた。最初のゆっくりとした動きは、1~2分後に始まり、5分後には、通常の行動が回復された。これらの定性的調査結果は、第一に、冷水を使用した冷却が、ガス処理と比較して幼虫に麻酔をかけるのにより効果的であり、第二に、冷却後の回復が、ガス処理後よりも遅いことを示す。
【0030】
上記の研究は非致死性の刺激に焦点を当てていたが、さらなる評価では、異なる処理方法が評価された。これらは、熱の使用を伴った、切断、煮沸、および引裂(ripping)を含んでいた。結果として、致死性の処理の後に、丸まりまたは脱出行動が観察された。表1を参照すると、それにより、切断は非常に弱い応答に繋がり、煮沸は中程度の応答を誘発し、熱間引裂(heat ripping)は他の処理方法と比較してより多くの場合に強いまたは長く続く丸まり行動を引き起こすことが見出された。したがって、熱を伴う活動停止方法は、比較的時間がかかり、応答強度を増加させる傾向があり、一方で、処理目的には、効果的な切断技術を使用する方法が推奨される。動物をガス処理することを含む方法は、ストレスレベルと痛みの観点からは許容できるが、比較的時間がかかる。
【0031】
【表1】
【0032】
従来技術は、液体窒素による衝撃凍結または衝撃凍結よりもわずかに遅い-20℃での幼虫の凍結のいずれかを含む凍結技術に依存している。どちらも致死性であり、痛みまたはストレスを示し得る行動を引き起こさないものの、非常にエネルギー消費が高い。
【0033】
図1は、異なる温度および期間での冷却プロセスならびに各回復の後にOCT濃度について測定されたアメリカミズアブの幼虫のホルモンのストレス応答を示す。このグラフは、動物を冷却してそれによりそれらの代謝を停止させるとオクトパミンレベルが低下するが、動物の温度を室温に戻すと完全な回復が達せられることを示す。したがって、冷却プロセスは完全に可逆的であり、動物に害を及ぼすことはない。
【0034】
さらなる研究から、それぞれ冷却またはガス処理により動物を気絶させることまたはこれに麻酔をかけることはどちらも、ストレスレベルの低下に繋がり、そのことから、冷却がより速く作用し、より良好な結果をもたらすため、これが好ましいことが判明した。したがって、動物を処理する前にこれに麻酔をかけることが推奨される。冷水での保管によって、昆虫の幼虫にさらなるストレスがかかることはなかったが、OCT濃度はわずかに低下した。したがって、水は、昆虫の幼虫の保管および麻酔の双方に使用することが可能である。動物を処理する際は、切断または衝撃凍結などの迅速な方法が推奨される。なぜならば、これらは、熱を伴う方法ほどストレスレベルを上昇させないからである。
【0035】
したがって、最小限のストレスで動物を適切に活動停止させるための処理方法は、上に示した結果を考慮するべきである。
【0036】
本発明による方法は、昆虫の幼虫を冷却することによりこれに麻酔をかけ、続いて昆虫の幼虫を切断することにより活動停止させ、それによりそれらの神経系を破壊することを含む。
【0037】
冷却ステップは、水と幼虫とを混合することにより実施され得る。それにより、水/昆虫の幼虫の混合物は、50:50の比を有していても、または他の適切な比を有していてもよい。
【0038】
好ましくは、冷却プロセスの目標温度は、15℃以下である。また、冷却プロセスの目標温度は、10℃、7℃、またはそれ以下であってもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、切断プロセスは、昆虫の幼虫をそれぞれ少なくとも5個の部分に一度に切断することができる。その後、昆虫の幼虫をタンパク質粉末へと加工することができる。
【0040】
請求項で規定される方法を使用することにより、昆虫の幼虫を処理する適切な手順が示される。少なくとも約15℃未満に冷却することで幼虫に麻酔をかけた後に、昆虫の幼虫を、例えばふるい分けまたは洗浄ステップにより、飼育残渣から分離する。迅速かつ効率的な切断技術は、昆虫の幼虫をすぐに活動停止させることに繋がる。さらに、示される方法では、凍結ステップが、冷却による麻酔およびそれに続く切断に置き換えられるため、コストおよびエネルギー消費がはるかにより少ない。昆虫の幼虫の冷却および活動停止を実施することにより、2つの課題を達成することができる。第一に、プロセスは麻酔および神経系の迅速な破壊を含むため、動物福祉が守られる。第二に、昆虫の幼虫を冷却し、それによりそれらの代謝を停止させることで昆虫の幼虫の現在の状態が維持されるため、製品の品質が一定になる。
【0041】
本方法は、すべてのライフサイクルスタジアム(life cycle stadia)の生きている昆虫にも適用することができる。
図1