(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】生体用電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/265 20210101AFI20220808BHJP
A61B 5/266 20210101ALI20220808BHJP
【FI】
A61B5/265
A61B5/266
(21)【出願番号】P 2022524719
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042146
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020190735
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】芳野 眞次
(72)【発明者】
【氏名】生駒 光司郎
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003697(WO,A1)
【文献】特開2019-088764(JP,A)
【文献】特開平05-095922(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163881(WO,A1)
【文献】特開平06-189919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25-5/297
A61N 1/04-1/06
B32B 7/025
B32B 15/08-15/098
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層と
、前記非分極性電極層に積層された導電性ゲル層とを備え、
前記非分極性電極層が、前記分極性電極層に積層された第1銀層と、該第1銀層に積層されたポリマー層と、該ポリマー層に積層された第2銀層とを有し、
少なくとも前記第2銀層が、塩化銀を含む、生体用電極。
【請求項2】
前記第2銀層の厚みが、前記ポリマー層の厚みに対して、0.3倍以上3.0倍以下である、請求項1に記載の生体用電極。
【請求項3】
前記ポリマー層の厚みが、20nm以上150nm以下である、請求項1又は2に記載の生体用電極。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、日本国特願2020-190735号の優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生体用電極に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、銀及び塩化銀を利用した生体用電極が使用されている。例えば、特許文献1には、カーボンなどを含む分極性電極層と、該分極性電極層に積層され銀及び塩化銀を含む非分極性電極層とを備えた生体用電極が記載されている。かかる生体用電極は、銀及び塩化銀の非分極性によって、皮膚などの体表面との接触インピーダンスを低くすることができるなどの電気特性を有している。
【0004】
また、かかる生体用電極は、通常、一人の患者に適用された後に廃棄される使い捨ての電極として用いられる。このため、その生産コストが低減されるように、銀の使用量が低減されることが好ましい。例えば、特許文献2には、分極性電極層の表面上に銀蒸着膜を形成し、さらに、電気めっきや塩素プラズマなどの方法によって該銀蒸着膜の表面部分の銀を塩化銀に変換し、銀及び塩化銀を含む非分極性電極層を形成する方法が提案されている。かかる方法によれば、非分極性電極層の厚みを小さくすることができ、すなわち、銀の使用量を低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第4171422号公報
【文献】日本国特表2004-512527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような生体用電極は、通常、皮膚などの体表に接触させる層である導電性ゲル層が前記非分極性電極層に貼り付けられた状態で保管される。これによって、生体用電極は、医療現場などで使用される際には皮膚などに速やかに適用可能となる。
しかしながら、このような保管中には、前記導電性ゲル層に含まれる塩化物イオンと、前記非分極性電極層に含まれる銀とが反応して塩化銀が生成し、それによって、生体用電極の電気特性が不安定になるおそれがある。また、前記非分極性電極層に含まれる銀の量を少なくすると、この不安定な傾向が顕著になり得る。
【0007】
また、前記非分極性電極層の形成は、銀の使用量を低減する上では、銀塩化銀ペーストを塗工するような方法よりも、銀蒸着膜などの金属銀を含有する層を形成し、塩素プラズマなどによって該層に含まれる銀の一部を塩化銀に変換する塩化処理による方法が好ましい。
しかしながら、形成しようとする前記非分極性電極層の厚みが薄いと、塩化処理が不用意に進行し過ぎるなど、塩化銀への変換の程度を調節することが困難となる。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、保管安定性に優れ且つ比較的製造が容易な生体用電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生体用電極は、
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、
前記非分極性電極層が、前記分極性電極層に積層された第1銀層と、該第1銀層に積層されたポリマー層と、該ポリマー層に積層された第2銀層とを有し、
少なくとも前記第2銀層が、塩化銀を含む。
【0010】
斯かる構成によれば、第1銀層がポリマー層及び第2銀層に被覆された状態であるため、導電性ゲル層などの影響が生じにくくなり、保管安定性に優れたものとなる。
また、製造時の塩化処理の際にも、第1銀層は、該塩化処理の影響を受けにくくなる。一方で、第1銀層よりも外側に形成された第2銀層は、塩化処理に一般的に用いられる薬液によって十分に塩化処理される。よって、上記構成によれば、比較的製造が容易なものとなる。
【0011】
また、本発明に係る生体用電極は、好ましくは、
前記第2銀層の厚みが、前記ポリマー層の厚みに対して、0.3倍以上3.0倍以下である。
【0012】
斯かる構成によれば、前記第2銀層の厚みが前記ポリマー層の厚みに対して0.3倍以上3.0倍以下であることによって、製造がさらに容易になり且つ保管安定性により優れたものとなる。
【0013】
また、本発明に係る生体用電極は、好ましくは、前記ポリマー層の厚みが20nm以上150nm以下である。
【0014】
斯かる構成によれば、ポリマー層の厚みが20nm以上150nm以下であることによって、さらに保管安定性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る生体用電極の断面構造の模式図である。
【
図2】
図2は、リード線が
図1とは異なる位置に接続された生体用電極の断面構造の模式図である。
【
図3】
図3は、リード線が
図1及び
図2とは異なる位置に接続された生体用電極の断面構造である。
【
図4】
図4は、実施例における評価時の状態を示す図である。
【
図5】
図5は、SEM画像に基づく、実施例1の第1銀層の厚み及び第2銀層の厚みの実測値を示す。
【
図6】
図6は、SEM画像に基づく、実施例4の第1銀層の厚み及び第2銀層の厚みの実測値を示す。
【
図7】
図7は、SEM画像に基づく、実施例5の第1銀層の厚み及び第2銀層の厚みの実測値を示す。
【
図8】
図8は、実施例における各評価用電極のDCオフセット電圧の経時的な変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例における各評価用電極の交流インピーダンスの経時的な変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例における各評価用電極のSDR-4timesの経時的な変化を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例における各評価用電極のSDR-Slopeの経時的な変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例における各評価用電極のSDR-Impedanceの経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る生体用電極について説明する。
【0017】
本実施形態の生体用電極1は、生体情報を取得するために使用される。かかる生体情報としては、心電図、脳波、筋電図などが挙げられる。生体用電極1は、通常、一人の患者への使用後に廃棄される使い捨て電極であるため、安価に製造され得るものであることが好ましい。これを実現する上で、生体用電極1は、銀の使用量が少なく、且つ、容易に製造され得るものであることが好ましい。
なお、以下では、塩化銀のように銀イオンとなっていない銀を金属銀と称することがあり、該金属銀と塩化銀を形成している銀イオンとしての銀とを含めて銀元素と称することがある。
【0018】
図1~
図3に示されるように、生体用電極1は、電気的に絶縁されたシート状の基材層10と、基材層10の一表面に積層され生体からの電気信号を検出する電極層20と、電極層20と電気的に接続され電極層20が検出した電気信号を測定器に伝送するリード線30とを備えている。
【0019】
基材層10は、通常、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の電気絶縁性フィルムによって構成されている。ここで、該電気絶縁性フィルムとは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上のフィルムを意味する。基材層10の厚みは、通常5~100μmである。
【0020】
電極層20は、基材層10の一面に積層された分極性電極層22と、分極性電極層22に積層された非分極性電極層24と、非分極性電極層24に貼り付けられた導電性ゲル層26とを有している。
【0021】
分極性電極層22は、樹脂に加えて、黒鉛及び/又はカーボン粉を含んでいる。分極性電極層22の厚みは、通常2~100μm、好ましくは3~50μm、さらに好ましくは4~20μmである。
【0022】
非分極性電極層24は、分極性電極層22に直接的に積層された第1銀層241と、第1銀層241に直接的に積層されたポリマー層243と、ポリマー層243に直接的に積層された第2銀層242とを有している。
【0023】
ここで、本実施形態の生体用電極1は、第2銀層242に導電性ゲル層26が貼り付けられた状態で保管されるものである。このため、特に第2銀層242は、導電性ゲル層26に含まれる塩化物イオンによって、塩化銀の含有量が増加する可能性がある。そして、これによって、保管中に、生体用電極1の電気特性が変化する可能性がある。
これに対して、本実施形態では、第1銀層241がポリマー層243及び第2銀層242に覆われた状態となっている。よって、第1銀層241が導電性ゲル層26の影響を受けにくくなる。従って、第1銀層241は、製造時に設定された金属銀の含有量が保管時においても維持され易くなる。
このように、本実施形態の生体用電極1は、保管中、少なくとも第1銀層241に含まれる金属銀の含有量の低下が抑制されるため、電気特性が安定する。
【0024】
第1銀層241及び第2銀層242のうち、少なくとも第2銀層242が塩化銀を含む。なお、第1銀層241が、塩化銀を含んでいてもよい。
【0025】
第1銀層241に含まれる金属銀の質量割合(第1銀層241の総質量に対する質量割合)は、第2銀層242に含まれる金属銀の質量割合(第2銀層242の総質量に対する質量割合)よりも大きいことが好ましい。言い換えれば、第1銀層241は、第2銀層242に比べて金属銀リッチな状態となっていることが好ましい。これによって、保管中に、塩化銀に変換されない金属銀が十分に確保され得る。
【0026】
第2銀層242に含まれる塩化銀の質量割合(第2銀層242の総質量に対する質量割合)は、第1銀層241に含まれる塩化銀の質量割合(第1銀層241の総質量に対する質量割合)よりも大きいことが好ましい。言い換えれば、第2銀層242は、第1銀層241に比べて塩化銀リッチな状態となっていることが好ましい。
【0027】
ここで、非分極性電極層24がポリマー層243を有していない態様において、単に銀元素の使用量を低減させようとすると(具体的には、銀元素の使用量を低減させるべく各銀層の厚みを小さく形成しようとすると)、非分極性電極層の非分極性が低下するなどして、生体用電極の電気特性が悪化するおそれがある。
これに対して、本実施形態の生体用電極1は、非分極性電極層24が第1銀層241と第2銀層242との間にポリマー層243を介在させることによって、第1銀層241や第2銀層242の厚みをナノレベルにまで小さくすることが可能となる。具体的には、銀の使用量を低減させるという観点から、第1銀層241の厚みは、300nm以下であってもよく、200nm以下であることがより好ましい。また、第2銀層242の厚みは、200nm以下であってもよく、100nm以下であることがより好ましい。さらに、第1銀層241の厚みと第2銀層242の厚みとの合計厚みが、500nm以下であることが好ましい。
また、第1銀層241の厚みは、50nm以上であることが好ましく、第2銀層242の厚みは、30nm以上であることが好ましい。また、前記合計厚みは、80nm以上であることが好ましい。
【0028】
生体用電極1のより長期の保管安定性を確保するために、非分極性電極層24に含まれる金属銀の含有量は所定量以上であることが好ましい。例えば、金属銀リッチな状態の第1銀層241の厚みが、第2銀層242の厚みよりも厚いことが好ましい。
【0029】
一方、塩化銀リッチな状態の第2銀層242の厚みはできるだけ薄いことが好ましく、少なくとも第1銀層241の厚みよりも薄いことが好ましい。これによって、生体用電極1の電気特性がより優れたものとなる。
【0030】
第1銀層241及び第2銀層242の厚みがナノレベルにされた場合の生体用電極1にさらに期待される効果としては、生体用電極1が、X線を十分に透過させるものとなり得ることである。具体的には、医療現場では、心電図などの測定と並行してX線写真の撮影が行われる場合がある。かかる場合に、本実施形態の生体用電極1は、X線撮影画像における器官の観察の妨げになりにくいものとなる。このような生体用電極1は、臓器の小さい小児や胎児のX線検査のための使用に適したものとなり得る。
【0031】
第1銀層241及び第2銀層242の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって、平均厚みとして求めることができる。具体的には、生体用電極1から導電性ゲル層26を切除したものに、エポキシ樹脂などによる包埋及びイオンミリング装置による断面加工を行うことによって測定試料を作製する。次に、SEMにおいて、第1銀層241とポリマー層243と第2銀層242との長さ方向及び画像の幅方向が平行になるよう試料を設置し、画像の幅が4μm(高さが3.2μm)程度になるように反射電子像を撮影する。SEM画像において、第1銀層241及び第2銀層242の任意に選択した複数箇所(例えば9箇所)の厚みを測定し、これらを算術平均することによって、各厚みを求める。
【0032】
ポリマー層243は、ポリマー系の腐食防止剤を含むことが好ましい。これによって、導電性ゲル層26に起因する劣化が抑制されることに加えて、第1銀層241への空気の侵入が抑制され、第1銀層241の劣化が抑制される。
【0033】
ポリマー層243の厚みは、生体用電極1の使用時の第1銀層241と第2銀層242との間のイオンや電子の交換を妨げない程度の厚みであることが好ましい。このような観点から、ポリマー層243の厚みは、20~150nmであることが好ましく、30~100nmであることがより好ましい。これによって、生体用電極1が、さらに優れた電気特性を有するものとなる。なお、ポリマー層243の厚みは、第1銀層241及び第2銀層242の厚みを測定する場合と同様にして作製した測定試料から測定する。SEMでは、第1銀層241及び第2銀層242をRGB256階調の110~185に、生体用電極を包埋したエポキシ樹脂をRGB256階調の20~70になるようコントラストと輝度を調整した反射電子像を撮影する。次に、撮影画像を画像解析ソフトによる二値化処理を行うことによって得られる画像において、第1銀層241と第2銀層242とに挟まれた部分の面積を自動解析によって求める。そして、該面積を長さにより除算することによって、ポリマー層の厚みを平均厚みとして求める。
【0034】
第2銀層242の厚みは、ポリマー層243の厚みに対して、0.3倍以上であることが好ましく、0.6倍以上がさらに好ましく、0.9倍以上がとりわけ好ましい。これによって、製造時の塩化処理において第1銀層241の銀が塩化銀に変化されにくくなるため、生体用電極1の製造がさらに容易になる。また、第2銀層242の厚みは、ポリマー層243の厚みに対して、3.0倍以下であることが好ましく、2.5倍以下であることがより好ましい。これによって、生体用電極1の電気特性を安定したものとしつつも、銀元素の使用量を低減することが可能となる。
【0035】
ポリマー層243に含まれる前記腐食防止剤は、樹脂と、熱硬化剤とを含む。
【0036】
前記腐食防止剤としては、例えば、大日精化工業株式会社製のVM-AL、VM-C、VM-TOP、NCU-30(B)などが挙げられる。
【0037】
前記樹脂としては、銀元素の腐食防止に優れるという観点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、シロキサン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フェノール系樹脂などからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。前記樹脂は、耐候性の観点から、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂を含有することが好ましい。
【0038】
ポリマー層243の総質量に対する前記樹脂の質量割合は、通常80~99.9%であり、85~99%であることが好ましく、90~95%であることがより好ましい。
【0039】
前記熱硬化剤としては、一般的に入手可能な熱硬化剤が挙げられ、例えば、イソシアネート系熱硬化剤、エポキシ系熱硬化剤、イミダゾール系熱硬化剤などからなる群より選択される1種又は2種以上のものが挙げられる。前記熱硬化剤は、耐候性及び反応性の観点から、前記イソシアネート系熱硬化剤を含有することが好ましい。前記イソシアネート系硬化剤としては、TDI(トリレンジイソシアネート)系、XDI(キシレンジイソシアネート)系、MDI(メチレンジイソシアネート)系、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系などが挙げられる。
【0040】
ポリマー層243の総質量に対する前記熱硬化剤の質量割合は、通常0.1~20%であり、1~15%であることが好ましく、5~10%であることがより好ましい。
【0041】
導電性ゲル層26は、生体用電極1を皮膚の表面に接触させる層である。導電性ゲル層26は、通常、電解質として塩化ナトリウムや塩化カリウムなどのハロゲン化アルカリ金属を含有している。導電性ゲル層26は、従来公知のものが使用可能である。導電性ゲル層26は、第2銀層242に直接的に貼り付けられている。
【0042】
リード線30は、従来公知のものが使用可能であり、例えば、金属導体が被覆材で覆われたものの他、カーボン繊維で構成された導体が被覆材によって覆われたものが使用され得る。
図1に示されるように、リード線30は、一端部が第2銀層242と導電性ゲル層26とで挟まれるようにして第2銀層242に接続されていてもよい。また、
図2に示されるように、導電性ゲル層26が非分極性電極層24の全体を被覆しておらず非分極性電極層24の一部が露出している場合には、リード線30は、一端部が非分極性電極層24の露出面に接続されていてもよい。また、
図3に示されるように、非分極性電極層24が分極性電極層22の全体を被覆しておらず分極性電極層22の一部が露出している場合には、リード線30は、一端部が分極性電極層22の露出面に接続されていてもよい。
【0043】
次に、生体用電極1の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態の生体用電極1の製造方法は、PET製の前記電気絶縁性フィルムとしての基材層10の一表面に分極性電極層22を形成する分極性電極層形成工程と、分極性電極層22の一表面に非分極性電極層24を形成し積層体とする積層工程とを備える。
【0045】
前記分極性電極層形成工程では、樹脂に加えて、黒鉛及び/又はカーボン粉及び有機溶剤を含むカーボンペーストを基材層10の一表面にコーティングした後、前記有機溶剤を乾燥により除去し、分極性電極層22を形成する。
【0046】
前記積層工程は、めっき法や銀蒸着などの薄膜形成法によって分極性電極層22の表面に塩化処理前の未処理第1銀層を積層し第1積層体を得る第1銀層積層工程と、前記未処理第1銀層にポリマー層243を積層し第2積層体を得るポリマー層積層工程と、薄膜形成法によってポリマー層243に塩化処理前の未処理第2銀層を積層し第3積層体を得る第2銀層積層工程と、少なくとも前記未処理第2銀層に含まれる銀の一部を塩化銀に変換し非分極性電極層24を形成して前記積層体を得る塩化処理工程とを備える。
【0047】
前記第1銀層積層工程における前記薄膜形成法としては、湿式めっき法や乾式めっき法が挙げられる。前記湿式めっき法としては、電解めっき法、無電解めっき法が挙げられる。また、乾式めっき法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。生体用電極1の製造コストを抑制する上では、前記乾式めっき法が好ましく、前記真空蒸着法がより好ましい。また、前記乾式めっき法や前記真空蒸着法によれば、前記未処理第1銀層及び前記未処理第2銀層のそれぞれの厚みを比較的均一にすることができ、これによって、生体用電極1の電気特性が安定し得る。
【0048】
前記真空蒸着法を採用する場合、圧力1×10-2Pa以下、ルツボ温度900~1600℃の条件で各銀薄膜を形成することが好ましい。
【0049】
前記ポリマー層積層工程では、前記未処理第1銀層の表面に前記腐食防止剤を塗布した後、加熱処理し、該腐食防止剤に含まれる前記熱硬化剤を硬化させることによって、ポリマー層243を形成する。
【0050】
前記第2銀層積層工程では、前記第1銀層積層工程と同様にして、前記薄膜形成法によってポリマー層243の表面に前記未処理第2銀層を積層し、前記第3積層体を得る。
【0051】
前記塩化処理工程では、銀を塩化銀に変換可能な塩化処理剤に前記第3積層体を浸漬し、該第3積層体の少なくとも前記未処理第2銀層に含まれる銀の一部を塩化銀に変換し、非分極性電極層24を形成する。このとき、前記未処理第1銀層に含まれる銀の一部を塩化銀に変換してもよく、塩化銀に変換しなくてもよい。
【0052】
前記塩化処理剤としては、例えば、亜塩素酸ナトリウム水溶液、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。
【0053】
前記塩化処理工程では、前記第3積層体の表面を構成する前記未処理第2銀層に、直接的に前記塩化処理剤が作用することとなるため、金属銀の塩化銀への変換が速やかに生じ得る。従って、使用する前記塩化処理剤の濃度を比較的低く設定し、且つ、塩化処理の時間を比較的短く設定する場合であっても十分に塩化処理を実施することが可能となる。例えば、前記塩化処理剤は、前記未処理第2銀層に含まれる銀のみを塩化銀に変化可能な濃度であってもよい。また、前記塩化処理剤への前記第3積層体の浸漬時間は、例えば、10~120秒であってもよい。
一方、塩化処理がより促進されるような前記塩化処理剤の濃度及び浸漬時間であってもよい。このような条件であっても、前記積層体には前記未処理第1銀層を覆うようにポリマー層243が形成されているため、前記未処理第1銀層に含まれる金属銀は塩化銀に変換されにくくなる。
このように、前記第1銀薄膜及び前記第2銀薄膜の間にポリマー層243を介在させることによって、非分極性電極層24に含ませる金属銀の量を所定量以上にすることが容易になる。
【0054】
前記塩化処理剤への前記第3積層体の浸漬温度は、通常、20~50℃である。
【0055】
前記塩化銀処理工程では、通常、前記積層体を蒸留水やイオン交換水などで水洗し且つ乾燥させる。
【0056】
なお、金属銀の一部を塩化銀に変換する方法としては、食塩水や塩酸を用いる電解法や塩素蒸着を採用することも可能である。
【0057】
以上のように構成された生体用電極1は、小児用サイズであっても米国標準規格(ANSI/AAMI EC12:2000/(R)2010)を十分に満たすものとなり得る。なお、小児用サイズのような面積の小さい生体用電極の場合、電気特性が悪化し易くなり米国標準規格を十分に満たさなくなるおそれがある。これに対して、本実施形態の生体用電極1は、このような面積であっても、米国標準規格を十分に満たすものとなり得る。ここで、前記小児用サイズの生体用電極は、非分極性電極層24と導電性ゲル層26との接触面積が400mm2以下のサイズのものが一般的であり、該接触面積が300mm2以下のサイズものがより好ましい。
例えば、本実施形態の生体用電極1は、DCオフセット電圧(DC offset voltage、以下ではDC offsetとも称する)が、確実に100mV以下となり、より好ましい値である10mV以下にもなり得る。
また、生体用電極1は、交流インピーダンス(AC impedance)が確実に2,000Ω以下となり、より好ましい値である1,000Ω以下、500Ω以下、又は200Ω以下にもなり得る。
また、生体用電極1は、除細動過負荷後の回復(Defibrillation overload recovery)に関し、5秒後の分極電圧の絶対値(absolute value of polarization potential、以下ではSDR-4timesとも称する)が100mVより小さくなり、より好ましい値である20mVよりも小さくなり、且つ、30秒後の残留分極電圧の変化率(rate of change of the residual polarization potential、以下ではSDR-Slopeとも称する)が±1mV/secよりも小さくなり得る。さらに、生体用電極1は、除細動過負荷後のインピーダンス(以下ではSDR-Impedanceとも称する)が2,000Ω以下となり、より好ましい値である200Ω以下にもなり得る。
【0058】
また、本実施形態の生体用電極1は、上記のような性能を、室温で2年間以上維持可能である。例えば、温度40℃での加速度試験において、生体用電極1は、3週間以上、5週間以上、7週間以上又は10週間以上、上記性能を維持可能である。なお、40℃30週間の保管は、室温2年間の保管に相当する。
【0059】
以上のとおり、本実施形態に係る生体用電極1は、
分極性電極層22と、分極性電極層22に積層された非分極性電極層24とを備え、
非分極性電極層24が、分極性電極層22に積層された第1銀層241と、第1銀層241に積層されたポリマー層243と、ポリマー層243に積層された第2銀層242とを有し、
少なくとも第2銀層242が、塩化銀を含む。
【0060】
斯かる構成によれば、第1銀層241がポリマー層243及び第2銀層242に被覆された状態であるため、導電性ゲル層26などによる影響が生じにくくなり、保管安定性に優れたものとなる。
また、製造時の塩化処理の際にも、第1銀層241は、該塩化処理の影響を受けにくくなる。一方で、第1銀層241よりも外側に形成された第2銀層242は、塩化処理に一般的に用いられる薬液によって十分に塩化処理される。よって、上記構成によれば、比較的製造が容易なものとなる。
【0061】
また、本実施形態に係る生体用電極1は、好ましくは、
第2銀層242の厚みが、ポリマー層243の厚みに対して、0.3倍以上3.0倍以下である。
【0062】
斯かる構成によれば、第2銀層242の厚みがポリマー層243の厚みに対して0.3倍以上3.0倍以下であることによって、製造がさらに容易になり且つ保管安定性により優れたものとなる。
【0063】
また、本実施形態に係る生体用電極1は、好ましくは、ポリマー層243の厚みが20nm以上150nm以下である。
【0064】
斯かる構成によれば、ポリマー層243の厚みが20nm以上150nm以下であることによって、さらに保管安定性に優れたものとなる。
【0065】
なお、上記では、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る生体用電極は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る生体用電極は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る生体用電極は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0067】
[実施例1]
(分極性電極層形成工程)
基材層を構成する材料としてのPET製の電気絶縁性フィルムの一表面に、導電性のカーボンペースト(日本黒鉛工業株式会社製、UCC-2)を塗布した。塗布したカーボンペーストを120℃で乾燥させ、フィルム上に分極性電極層(厚み約5μm)を形成した。
(積層工程)
下記表1に示される各層の厚み目標値から、各層の形成に必要になると考えられる銀及び腐食防止剤の量を決定し、各層を形成した。具体的には、まず、分極性電極層の表面全体に、真空蒸着法によって未処理第1銀層を形成した。次に、該未処理第1銀層の表面全体に、ポリエステル系樹脂とイソシアネート系熱硬化剤とを含有する腐食防止剤を塗布した。続いて、塗布した腐食防止剤を加熱乾燥し、ポリマー層を形成した。次に、ポリマー層の表面全体に、真空蒸着法によって未処理第2銀層を形成し、第3積層体を作製した。次に、該第3積層体を0.02%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬し(温度30~35℃、1分間)、非分極性電極層を形成し、積層体とした。該積層体を蒸留水によって洗浄後、恒温槽内(120℃)で乾燥させた。
得られた積層体の各層の厚みを下記表2に示した。
【0068】
[実施例2~5]
第1銀層、第2銀層、及びポリマー層の厚み(目標値)を表1に示される値とした以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0069】
[比較例1]
実施例1と同様にして、基材層に分極性電極層を形成した。
次に、分極性電極層の表面全体に、真空蒸着法によって未処理第1銀層を形成し、第1積層体を作製した。該第1積層体を、実施例1における第3積層体と同様にして塩化処理し、第1銀層を有する非分極性電極層を備えた積層体を得た。
【0070】
実施例1、4、及び5に関しては、SEMによる断面観察を行い、各層の厚みを上記した方法によって実測した(
図5~7のSEM画像)。結果を表2に示した。なお、表2の実測値と表1の目標値とを比べると、ポリマー層の厚みに差があることが認められた。これは、腐食防止剤の塗工に使用した塗工ローラに腐食防止剤の一部が残存したためと考えられる。
【0071】
【0072】
【0073】
[評価方法]
図4に示されるように、作製した積層体を15×30mm(450mm
2)に切断したものに、15×15mm(225mm
2)の導電性ゲル層(積水化成品工業株式会社製、CR-H)を、それぞれの三つの端縁どうしが重なり合うようにして貼り付け、導電性ゲル層どうしを貼り合わせた一対の評価用電極を作製した。この評価用電極をアルミパック内に入れ、40℃に設定した恒温槽内で保管した。ANSI/AAMI ECI2:2000の評価方法に準拠し、各評価用電極の電気特性を経時的に観察した。結果を表3及び
図8~12に示した。
【0074】
【0075】
表3及び
図8~12に示したように、実施例1~5の評価用電極は、保管初期から30週にわたって優れた電気特性を維持しており、保管安定性に優れたものであることが認められた。
【符号の説明】
【0076】
1:生体用電極、10:基材層、20:電極層、22:分極性電極層、24:非分極性電極層、241:第1銀層、242:第2銀層、243:ポリマー層、26:導電性ゲル層、30:リード線
【要約】
分極性電極層と前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、前記非分極性電極層が、前記分極性電極層に積層された第1銀層と、該第1銀層に積層されたポリマー層と、該ポリマー層に積層された第2銀層とを有し、少なくとも前記第2銀層が塩化銀を含む、生体用電極。