(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】VOC処理用触媒の製造方法、VOC処理方法及びVOC処理用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20220809BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20220809BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220809BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20220809BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B01J23/89 A
B01D53/86 280
B01J37/08
B01J37/00 H
B01J37/02 101C
(21)【出願番号】P 2017131884
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104396
【氏名又は名称】新井 信昭
(72)【発明者】
【氏名】井上研一郎
(72)【発明者】
【氏名】染川正一
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105013508(CN,A)
【文献】特開2013-208621(JP,A)
【文献】特開2015-217324(JP,A)
【文献】特開2011-224546(JP,A)
【文献】特許第6140326(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOCを含有するガス燃焼処理用の、分散剤で保護された白金コロイドの溶液を原料に
してなる白金をコバルト・セリウム系複合酸化物の表面に直接担持させるVOC処理用触媒の製造方法であって、
触媒全体の質量に占めるコバルト・セリウム系複合酸化物の質量割合が80%以上であ
り、コバルト・セリウム系複合酸化物の質量に占める白金の含有量をa(単位:質量%)
とすると、0<a≦20の範囲であることを特徴とするVOC処理用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、バインダー成分とともに成型してなる、或いは
所望形状のステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金、及びセラミックス材の何
れか1つの担体に担持されていることを特徴とする請求項1記載のVOC処理用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記コバルト・セリウム系複合酸化物は、コバルトとセリウムの炭酸塩を前駆体とする化合物を空気中300~500℃で焼成し、その後粉砕処理した後、この表面に白金を直接担持して作製することを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のVOC処理用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のVOC処理用触媒の製造方法によって製造したVOC処理用触媒を用いたVOC処理方法であって、
運転温度が、100~300℃であることを特徴とするVOC処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法によって製造されたVOC処理用触媒であって、
白金がコバルト・セリウム系複合酸化物の
表面に直接担持された構造を有し、かつ、触媒全体の質量に占めるコバルト・セリウム系複合酸化物の質量割合が80%以上であり、コバルト・セリウム系複合酸化物の質量に占める白金の含有量をa(単位:質量%)とすると、0<a≦20の範囲であることを特徴とするVOC処理用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC処理用触媒の製造方法、VOC処理方法及びVOC処理用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工場、印刷工場、化学工場等からの排ガスによる悪臭苦情や大気汚染の問題、家庭・オフィスで使用される建材から放散され健康被害の原因となりうる揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:以下「VOC」と表記する)を簡易的に処理する技術が求められている。処理方法としては直接燃焼法、触媒燃焼法、物理化学的吸着法、生物処理法、プラズマ法等、各種の方法が提案されているが、これらの中で、触媒燃焼法は装置及び維持管理が比較的容易であることから特に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、触媒燃焼法による処理には一般に300~350℃程度の温度が必要なため、加熱のための電気代、燃料費がかかるという問題点があった。またこの方法を家庭・オフィス向け装置に応用する場合においても電気代が高く、安全性確保や小型化実現等の課題が生じ、適用範囲が限定されていた。適応範囲を拡大するためにも、より低温で高活性を示す触媒が求められている。
【0004】
発明者らは、次に示す特許文献1~3で、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒がVOC処理に有効であることや新しい触媒担持方法を提案した。これらにより、低コスト且つ白金触媒と同等以上の性能を確保できるようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
VOCの種類によって処理性能に差が生じることが多く、たとえば、市販の白金担持ア
ルミナ触媒(Pt/Al2O3)を用いた場合、トルエンのような芳香族の化合物は200~250℃程度の比較的低温で処理できるが、芳香環を含まない酢酸エチル等は300~350℃程度の高温で処理する必要がある。一方、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒(Co3O4-CeO2)を用いた場合は、逆に芳香環を含まないVOCは200~250℃程度の比較的低温で処理できるが芳香族の化合物の処理は300℃程度の高温で処理する必要が生じる。このため、芳香環を含むVOCとそれを含まないVOCを個別に処理する場合はよいが、両者のVOCを300℃より低い温度領域で同時に処理するための新しい用途のために新たな触媒を開発する課題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った発明者らは、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒に直接担持、さらに好ましくはコロイド溶液を原料とするという方法で所定量の白金を担持させるという新規な組み合わせにより、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒の低温活性がより高まることを見出した。以下、具体的に説明する。なお、発明のカテゴリーに関わらず、何れかの請求項に係る発明を説明するにあたり行う用語の定義等は、その記載順などに関わらず性質上許される範囲で他の請求項に係る発明にも適用されるものとする。
【0007】
本件発明は、これらの課題を解決しようとするものであり、芳香環を含む含まないに関わらず低温で高い活性が持続可能なVOC処理用触媒の製造方法、VOC処理方法及びVOC処理用触媒に関する発明である。
【発明の効果】
【0008】
本発明で提案するVOC処理用触媒及びその製造方法により製造するVOC処理用触媒及びVOC処理方法を用いれば市販の白金アルミナ触媒やコバルト・セリウム系複合酸化物触媒と比較して低い温度で性能を確保できる。これにより、工場等での処理温度を低下させることによる電気代、燃料費の削減や家庭・オフィス向け小型触媒処理装置の実用化が可能となる。さらに既存の触媒では対応が困難であった低温仕様の触媒の処理技術分野への用途拡大を図ることで、大気環境、室内環境の改善に貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5422320号公報
【文献】特許第5414719号公報
【文献】特許第5717491号公報
【0010】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明は、VOCを含有するガス燃焼処理用の、分散剤で保護された白金コロイドの溶液を原料にしてなる白金をコバルト・セリウム系複合酸化物の表面に直接担持させるVOC処理用触媒の製造方法に係るものである点に最大の特徴がある。ここで 触媒全体の質量に占めるコバルト・セリウム系複合酸化物の質量割合が80%以上であり、コバルト・セリウム系複合酸化物の質量に占める白金の含有量をa(単位:質量%)とすると、0<a≦20の範囲であることが好ましい。すなわち、従来であれば、酸化アルミニウム等の担体に白金を担持させていたが、本件発明に係るVOC処理用触媒は、コバルト・セリウム系の酸化物上に直接担持させるという新規な組み合わせによるものである。なお、当該VOC処理用触媒は、不活性担体に担持してなるものとならないものの双方を含み、担持してなる場合の当該質量は不活性担体の質量を含まない。なお、分散剤としては、たとえばポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone、PVP)を好適に用いることができる。
【0011】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の好ましい態様として、前記触媒は、バインダー成分とともに成型してなる、或いは所望形状のステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金、及びセラミックス材の何れか1つの担体に担持されていることを特徴とする。
【0012】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明は、請求項1又は2いずれか記載のVOC処理用触媒の製造方法であって、前記コバルト・セリウム系複合酸化物とは、コバルトとセリウムの炭酸塩を前駆体とする化合物を空気中300~500℃で焼成し、その後粉砕処理してその後粉砕処理した後、この表面に白金を直接担持して作製することを特徴とする。
【0013】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3いずれか記載のVOC処理用触媒の製造方法によって製造したVOC処理用触媒を用いたVOC処理方法であって、運転温度が、100~300℃であることを特徴とするVOC処理方法。請求項1又は2いずれか記載のVOC処理用触媒を用いることにより、上記低温度領域において処理することができる。
【0014】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明は、請求項1記載の製造方法によって製造されたVOC処理用触媒であって、白金がコバルト・セリウム系複合酸化物の表面に直接担持された構造を有し、かつ、触媒全体の質量に占めるコバルト・セリウム系複合酸化物の質量割合が80%以上であり、コバルト・セリウム系複合酸化物の質量に占める白金の含有量をa(単位:質量%)とすると、0<a≦20の範囲であることを特徴とするVOC処理用触媒である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】トルエン燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性を示す図である。
【
図3】酢酸エチル燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性を示す図である。
【
図4】トルエン燃焼により触媒表面に蓄積したコーキングの燃焼に伴う二酸化炭素の発生を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、本発明を実施するための形態を説明する。本発明のVOC処理用触媒は、VOCを含有するガス燃焼処理用の、白金をコバルト・セリウム系複合酸化物上に直接担持させた触媒である。ここで触媒全体の質量に占めるコバルト・セリウム系複合酸化物の質量割合が80%以上であり、コバルト・セリウム系複合酸化物の質量に占める白金の含有量をa(単位:質量%)とすると、0<a≦20の範囲であることが好ましい。上記範囲外であると白金の凝集が生じやすくなるため望ましくないからである。なお、当該VOC処理用触媒は、不活性担体(バインダーを含む。以下同じ)に担持してなるものとならないものの双方を含み、担持してなる場合の当該質量は後述する不活性担体の質量を含まない。
【0017】
コバルト・セリウム系複合酸化物は、コバルトとセリウムの炭酸塩を前駆体とする化合物を空気中300~500℃で焼成し、その後粉砕処理して作製することができる。粉砕処理によりコバルト・セリウム系複合酸化物上の細孔、特にミクロ孔が崩壊され、これによって後述する分散剤で保護された白金コロイドの拡散性が向上し白金が表面に均一に分散するためコーキング量が減少すると考えられる。ミクロ孔とは細孔の直径が2nm以下の細孔のことをいうが、この細孔を崩壊させることによってコーキング量をより効率的に減少させることができる。コーキング量の減少により低温で高い活性が持続可能となる。
【0018】
白金は、分散剤で保護された白金コロイドの溶液を原料とすることが好ましい。白金コロイド溶液を原料としたのは、担持される白金粒子の分散性を高くするという点で有利と考えられるからである。白金コロイドの保護剤としては、ポリビニルポロリドンが好適であるが、それ以外にも、たとえば、ポリビニルポロリドン以外の高分子、配位子、ミセル等を使用することを妨げない。
【0019】
特に限定されるものではないものの、触媒は、バインダー成分とともに成型してなる、或いは所望形状のステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金、及びセラミックス材の何れか1つの不活性担体に担持されていてよい。前者において粉末あるいは粉末成型触媒を触媒充填層に充填した場合、空隙が小さくなることによる充填層の閉塞を避けることができる。
【0020】
上記した構造のVOC処理用触媒を用いたVOC処理の運転温度が、100~300℃の範囲が好適である。上記VOC処理用触媒を用いれば300℃を超えなくてもVOC処理ができるからである。この状態を保持すれば、従来の処理方法に比べ電気代や燃料費を削減することができる。逆に言えば、300℃を超えて運転することは、上記VOC処理触媒の低温度でも処理できるという特徴を稀釈化してしまうので特段の事情がない限り好ましいことではない。100℃以下の運転温度は、コーキングの蓄積を招きやすいため避けるべきである。
【実施例】
【0021】
触媒性能評価は実施例1、比較例1~3ともに以下のように行った。
図1に示すヒーター付の管状電気炉内に設置した触媒充填管内にVOC処理触媒を充填し、この充填層にVOC含有ガスを連続的に流通させた。VOC含有ガスの組成は乾燥空気にトルエン若しくは酢酸エチルの蒸気を含有させたものとし、トルエン、酢酸エチル濃度は、それぞれ400ppm、900ppm、乾燥空気流速は100mL・min
-1とした。作製した触媒粉末はいったんペレット化し、それを適度な大きさに砕いて充填管内を閉塞しないように充填した。
【0022】
管状電気炉のヒーター温度を調整することにより触媒充填層の温度を調整した。トルエン燃焼においては300℃、酢酸エチル燃焼においては400℃に昇温した後、1時間その温度を保持し、その後30℃まで1分間に1℃ずつ降温させた。降温時に熱伝導度検出器付きガスクロマトグラフを用いてガス中の二酸化炭素濃度、及びトルエン若しくは酢酸エチル濃度を測定した。トルエン若しくは酢酸エチルが完全燃焼した際のガス中の二酸化炭素濃度をC1、触媒充填層を通過したガス中の二酸化炭素濃度をC2とした時、CO2生成率(燃焼率)c(%)はc=C2/C1×100の式から求めた。
【0023】
触媒のコーキング生成評価は実施例1、比較例4ともに以下のように行った。
同じく
図1に示す管状電気炉内に設置した触媒充填管内に触媒を充填し、この充填層にトルエンの蒸気を含有させた乾燥空気(VOC含有ガス)を連続的に流通させた。トルエン濃度は400ppm、乾燥空気流速は100mL・min
-1とした。作製した触媒粉末はいったんペレット化し、それを適度な大きさに砕いて充填管内を閉塞しないように充填した。管状電気炉を用いて触媒層の温度を調整した。150℃若しくは170℃に昇温した後、24時間その温度を保持しトルエンの蒸気を含有させた乾燥空気を連続的に流通させ、トルエンの燃焼を継続させた。その後、乾燥空気のみを流して30℃まで降温し、乾燥空気のみを流したまま300℃まで1分間に1℃ずつ昇温させ、触媒表面に蓄積したコーキングの燃焼に伴う二酸化炭素の発生を熱伝導度検出器付きガスクロマトグラフで測定した。
【実施例1】
【0024】
(白金担持コバルト・セリウム複合酸化物)
<1>触媒の作製
コバルト炭酸塩とセリウムの炭酸塩の前駆体を空気中、300℃で1時間焼成してコバルト・セリウム複合酸化物を作製した。これをポリビニルピロリドンで保護された白金コロイド(田中貴金属工業株式会社製)の水溶液に浸漬させ、撹拌及び加温しながら、溶液を蒸発させた。白金の担持率は、コバルト・セリウム複合酸化物に対して重量比で1、2、5%とした。乾燥した試料を空気中で1分間に0.9℃ずつ徐々に昇温して最終的に300℃で1時間焼成することにより目的触媒を得た。
【0025】
<2>触媒の性能評価
トルエン及び酢酸エチルに対するCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性
図2のA(トルエン、白金(1%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、B(トルエン、白金(2%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、C(トルエン、白金(5%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、
図3のA(酢酸エチル、白金(1%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、B(酢酸エチル、白金(2%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、C(酢酸エチル、白金(5%、白金コロイド)担持コバルト・セリウム複合酸化物)
150℃で24時間燃焼を継続した後のコーキング生成評価
図4のA(150℃、粉砕前の酸化セリウムを使用)
170℃で24時間燃焼を継続した後のコーキング生成評価
図4のB(170℃、粉砕前の酸化セリウムを使用)
【0026】
前述のとおり、芳香族のVOCと芳香環を含まないVOCで触媒処理温度(燃焼温度)が大きく異なる。芳香族の典型的なVOCとしてトルエン、芳香環を含まない典型的なVOCとして酢酸エチルを選び試験を実施した。CO
2の生成率が90~100%に達する燃焼温度に着目し、触媒処理可能な温度を整理した。ポリビニルピロリドンで保護された白金コロイドの水溶液を用いて白金を担持したコバルト・セリウム複合酸化物を用いた場合、酢酸エチルのCO
2生成率が90~100%に達する温度は200~250℃程度に(
図3のA、B、C)、トルエンの同温度は約200℃以下に(
図2のA、B、C)減少した。白金担持率の増加に伴い、燃焼温度が減少することも見出された。芳香族のVOCと芳香環を含まないVOCを同時に概ね250℃以下で処理することが可能となった。
【0027】
トルエン燃焼により触媒表面に蓄積したコーキングの燃焼に伴うCO
2の発生に関して、酸化セリウムを粉砕せず、コバルト・セリウム複合酸化物を合成し、ポリビニルピロリドンで保護された白金コロイドの水溶液を用いて白金を担持した触媒では、150℃・24時間のトルエン燃焼後の触媒(
図4のA)、170℃・24時間のトルエン燃焼後の触媒(
図4のB)ともにCO
2が生成し、コーキングの存在が認められた。
【0028】
[比較例1]
白金担持コバルト・セリウム複合酸化物(塩化白金酸を用いた担持)
<1>触媒の作製
コバルト炭酸塩とセリウムの炭酸塩の前駆体を空気中、300℃で1時間焼成してコバルト・セリウム複合酸化物を作製した。これを塩化白金酸の水溶液に浸漬させ、撹拌及び加温しながら、溶液を蒸発させた。白金の担持率は、コバルト・セリウム複合酸化物に対して重量比で2%とした。乾燥した試料を水素雰囲気下において400℃で1時間還元することにより目的触媒を得た。
【0029】
<2>触媒の性能評価
トルエン及び酢酸エチルに対するCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性
図2のD(トルエン、白金(2%、塩化白金酸)担持コバルト・セリウム複合酸化物)、
図3のD(酢酸エチル、白金(2%、塩化白金酸)担持コバルト・セリウム複合酸化物)
【0030】
従来から広く用いられている典型的な原料である塩化白金酸を用いて白金を担持したコバルト・セリウム複合酸化物を用いた場合、後述するコバルト・セリウム複合酸化物(白金担持なし)を用いた場合と比して、トルエンの燃焼温度はほとんど変わらず(
図2のD)、酢酸エチルのCO
2生成率が90~100%に達する温度は200~250℃程度に上昇し(
図3のD)、白金を担持することにより性能がむしろ悪くなった。これは、比表面積が小さい、表面との親和性が低い等の理由によりコバルト・セリウム複合酸化物上に白金が均一に分散されず、凝集してしまったため、性能が悪くなったと考えられる。
【0031】
[比較例2]
コバルト・セリウム複合酸化物(白金担持なし)
<1>触媒の作製
コバルト炭酸塩とセリウムの炭酸塩の前駆体を空気中、300℃で1時間焼成してコバルト・セリウム複合酸化物を作製した。
【0032】
<2>触媒の性能評価
トルエン及び酢酸エチルに対するCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性
図2のE(トルエン、コバルト・セリウム複合酸化物(白金担持なし))、
図3のE(酢酸エチル、コバルト・セリウム複合酸化物(白金担持なし))
【0033】
コバルト・セリウム複合酸化物(白金担持なし)を用いた場合、酢酸エチルのCO
2生成率が90~100%に達する温度は約250℃付近であった(
図3のE)が、トルエンでは300℃程度を必要とした(
図2のE)。
【0034】
[比較例3]
白金担持アルミナ(日揮ユニバーサル株式会社製市販品)
<1>触媒
白金担持アルミナを適度な大きさに砕いて触媒充填管内を閉塞しないように充填した。
【0035】
<2>触媒の性能評価
トルエン及び酢酸エチルに対するCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性
図2のF(トルエン、市販白金担持アルミナ)、
図3のF(酢酸エチル、市販白金担持アルミナ)
【0036】
市販の白金担持アルミナ触媒を用いた場合、トルエンのCO
2生成率が90~100%に達する温度は200~250℃程度であった(
図2のF)が、酢酸エチルでは約350℃付近となった(
図3のF)。
【0037】
[比較例4]
白金担持コバルト・セリウム複合酸化物(粉砕した酸化セリウムを使用)
<1>触媒の作製
コバルト炭酸塩を空気中、300℃で1時間焼成することにより酸化コバルトを作製した。
【0038】
セリウムの炭酸塩を空気中、300℃で1時間焼成して酸化セリウムを作製し、湿式粉砕機(フリッチュ・ジャパン株式会社製遊星型ボールミル クラシックラインP-7)を用いて粉砕した。粉砕前のメディアン径は23.3μm、粉砕後のメディアン径は0.415μ
mであった。粉砕前後の細孔分布はマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxを用いて測定した。粉砕後の試料をポリビニルピロリドンで保護された白金コロイド(田中貴金属工業株式会社製)の水溶液に浸漬させ、撹拌及び加温しながら、溶液を蒸発、乾燥させた。乾燥させた試料と酸化コバルトを混合し、空気中で1分間に0.9℃ずつ徐々に昇温して最終的に300℃で1時間焼成することにより目的触媒を得た。白金の担持率は、コバルト・セリウム複合酸化物に対して重量比で2%とした。
【0039】
<2>触媒の性能評価
150℃で24時間燃焼を継続した後のコーキング生成評価
図4のC(150℃、粉砕後の酸化セリウムを使用)
170℃で24時間燃焼を継続した後のコーキング生成評価
図4のD(170℃、粉砕後の酸化セリウムを使用)
粉砕前の酸化セリウムの細孔分布
図5のA(粉砕前)
粉砕後の酸化セリウムの細孔分布
図5のB(粉砕後)
【0040】
トルエン燃焼により触媒表面に蓄積したコーキングの燃焼に伴うCO
2の発生に関して、酸化セリウムを粉砕後にコバルト・セリウム複合酸化物を合成し、ポリビニルピロリドンで保護された白金コロイドの水溶液を用いて白金を担持した触媒では、150℃・24時間のトルエン燃焼後の触媒(
図4のC)、170℃・24時間のトルエン燃焼後の触媒(
図4のD)ともにコーキングの存在が認められなかった。これは粉砕により細孔容積が減少し(
図5のA、B)、白金を担持する際、分散剤で保護された白金コロイド(直径33nm)の拡散性が向上し白金が表面により均一に分散するため、コーキング量が減少すると考えられる。