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  • 特許-塩素含有灰の脱塩方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】塩素含有灰の脱塩方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20220809BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20220809BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
B09B101:30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019053943
(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公開番号】P2020151676
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】柴原 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】原口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】矢島 達哉
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254456(JP,A)
【文献】特開2015-89864(JP,A)
【文献】特開2003-80199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有灰スラリーに二酸化炭素ガスを吹き込んで塩素含有灰の塩素化合物を分解する脱塩方法において、塩化水素を含む二酸化炭素ガスを用いることによって、ガス吹込口周囲のスケール発生を防止した脱塩方法。
【請求項2】
二酸化炭素ガス中の塩化水素濃度が2vol%以上~50vol%以下である請求項1に記載する脱塩方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有灰スラリーに二酸化炭素を吹き込んで塩素化合物を分解する脱塩方法において、ガス吹込口が閉塞するトラブルを防止した塩素含有灰の脱塩方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物の焼却灰や、セメント工場から発生するダストなどは、概ね10%~25%の濃度で塩素が含まれている塩素含有灰であるので、これらの塩素含有灰を再資源化するためには、用途に応じた程度まで脱塩する必要がある。上記塩素含有灰に含まれる塩素化合物の大部分は水溶性であるので水洗浄して脱塩できるが、塩素化合物の一部は水難溶性のフリーデル氏塩(3CaO・AlO・CaCl・10HO)等を形成しており、水洗浄だけでは脱塩することができない。一方、フリーデル氏塩等は酸によって分解されると水溶性塩になるため、フリーデル氏塩等を酸分解した後に濾過洗浄することによって脱塩する方法が知られている。
【0003】
例えば、フリーデル氏塩は塩酸によって次式[1]のように、水酸化アルミニウムと塩化カルシウムに分解する。この塩化カルシウムは水溶性なので、水洗浄して脱塩することができる。ただし、水洗浄が不十分であると、間隙水中に残存する塩化カルシウム量が多くなり、脱塩不十分になる問題がある。
3CaO・AlO・CaCl・10HO+6HCl →2Al(OH)+4CaCl+10HO ・・・ [1]
【0004】
一方、酸として二酸化炭素を用いると、フリーデル氏塩は次式[2]のように分解し、カルシウムの一部は水不溶性の炭酸カルシウムになるので、塩化カルシウムの生成量が少なくなり、効果的に脱塩できるようになる。
3CaO・AlO・CaCl・10HO+3CO →3CaCO+2Al(OH)+CaCl+7HO・・・[2]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6252653号公報
【文献】特開2006-326462号公報
【文献】特許4482636号公報
【文献】特許3924822号公報
【文献】特許5748418号公報
【文献】特許4358014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩素含有灰のスラリーに二酸化炭素を吹き込んでフリーデル氏塩を分解する場合、上記式[2]に示すように、塩化カルシウムと共に炭酸カルシウムが生成する。この炭酸カルシウムは水不溶性であるので二酸化炭素の吹込口に析出し、次第に該吹込口が閉塞されて脱塩処理が継続不能になると云う問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決したものであり、塩素含有灰スラリーに二酸化炭素ガスを吹き込んで塩素化合物を分解する脱塩方法において、ガス吹込口が閉塞せずに脱塩処理を継続することができる塩素含有灰の脱塩方法を提供する。
【0008】
本発明は、以下の構成によって上記問題を解決した、塩素含有灰の脱塩方法に関する。
〔1〕塩素含有灰スラリーに二酸化炭素ガスを吹き込んで塩素含有灰の塩素化合物を分解する脱塩方法において、塩化水素を含む二酸化炭素ガスを用いることによって、ガス吹込口周囲のスケール発生を防止した脱塩方法。
〔2〕二酸化炭素ガス中の塩化水素濃度が2vol%以上~50vol%以下である上記[1]に記載する脱塩方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の脱塩方法は、塩素含有灰スラリーに二酸化炭素ガスを吹き込んで塩素含有灰の塩素化合物を分解する脱塩方法において、塩化水素を含む二酸化炭素ガスを用いることによって、ガス吹込口周囲のスケール発生を防止した脱塩方法である。
本発明の脱塩方法の例を図1図2に示す。
【0010】
塩素含有灰は脱塩槽において水が加えられ、撹拌されてスラリーになる。塩素含有灰はあらかじめ水洗して水溶性塩を除去した後にスラリーにするのが好ましい。予め塩素含有灰から水溶性塩を除去することによって、最終段階のろ過・ケーキ洗浄による水溶性塩除去の負荷を軽減することができる。
【0011】
塩素含有灰スラリーに、塩化水素を含む二酸化炭素ガスを吹き込んで、フリーデル氏塩を分解する。塩化水素を含む二酸化炭素ガスを吹き込む態様を図1図2に示す。
【0012】
図1の例では、二酸化炭素の貯槽11と塩化水素の貯槽12が設けられており、二酸化炭素の貯槽11から脱塩槽10に至る管路13の途中に、塩化水素の貯槽12から伸びる管路14が接続されており、管路13を流れる二酸化炭素ガスに管路14を通じて塩化水素ガスが混合される。この塩化水素を含む二酸化炭素ガスは管路13を通じて脱塩槽10に導入され、脱塩槽10の塩素含有灰スラリーに吹き込まれる。
【0013】
図2の例では、二酸化炭素の貯槽21、塩酸の貯槽22、およびバブリング槽23が設けられている。管路24を通じて塩酸がバブリング槽23に供給され、このバブリング槽23の塩酸の液中に管路25を通じて二酸化炭素ガスが導入され、塩酸を二酸化炭素でバブリングすることによって、塩化水素を含む二酸化炭素ガスが形成される。この塩化水素を含む二酸化炭素ガスは管路26を通じて脱塩槽20に導入され、脱塩槽20の塩素含有灰スラリーに吹き込まれる。
【0014】
なお、図2に示す塩酸バブリングを行う場合には、塩化水素が蒸発することによって、塩酸濃度が低下して塩化水素蒸発量が少なくなるため、発生した希塩酸を抜き出しながら新たに濃塩酸を供給し、バブリング槽内の塩酸濃度を一定に保つことが好ましい。
【0015】
上記塩素含有灰スラリーは脱塩槽内において二酸化炭素と反応し、上記式[2]に示すように、該灰中に含まれる水難溶性のフリーデル氏塩が分解される。このとき、炭酸カルシウムが生成するが、二酸化炭素とともに塩化水素も吹き込まれるため、次式[3]に示すように、炭酸カルシウムは塩化水素によって分解され、水溶性の塩化カルシウムになるので、ガス吹込口の周囲に炭酸カルシウムのスケールが析出しない。
CaCO + 2HCl → CaCl + HO + CO ・・・ [3]
【0016】
二酸化炭素ガス中の塩化水素濃度は2vol%以上~50vol%以下が好ましい。塩化水素濃度が1vol%程度ではガス吹込みから10分程度で吹込口が閉塞することが多い。この塩化水素はガス吹込口周囲の炭酸カルシウムを溶解すればよいので、塩化水素濃度は過剰に高い必要はない。しかも塩化水素はガス吹込口周囲の炭酸カルシウムと反応して消費されるので、ガス吹込口から離れた場所では二酸化炭素による炭酸カルシウムの生成は実質的な影響を受けず、脱塩効果は低下しない。
【0017】
一方、塩化水素濃度が過剰に高くなると、塩化カルシウムの発生量が多くなって脱塩効果が低下し、さらに余剰の塩化水素が大気中に放出されて作業環境が悪化するので、塩化水素濃度は50vol%以下が好ましい。
【0018】
脱塩処理されたスラリーは脱塩槽からろ過機30に送られ、ろ過・ケーキ洗浄されることによって脱塩時に生じた水溶性塩が除去される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脱塩方法によれば、二酸化炭素の吹込口周囲に炭酸カルシウムスケールが発生しないので、二酸化炭素の吹込口の閉塞が防止でき、塩素含有灰スラリーに二酸化炭素を効率よく吹き込むことができ、脱塩効果を高めることができる。さらに吹込口の閉塞を防ぐためのメンテナンスの手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の塩化水素ガス混合による脱塩処理を示す工程図
図2】本発明の塩酸バブリングによる脱塩処理を示す工程図
図3】散気フィルターの重量増加量のグラフ
図4】散気フィルターに付着したスケールのX線回折チャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を示す。本例では塩素濃度の測定は電量滴定式塩分計(ソルメイト,中研コンサルタント社製品)を用いた。
【0022】
〔実施例〕
塩素含有灰300gを、800mLの水で15分間水洗・ろ過し、さらに800mLの水でケーキ洗浄し、ろ過して水溶性塩を除去した。得られた水洗灰に800mLの水を加えて撹拌しスラリーとした。このスラリーを60℃に加温し、塩化水素と二酸化炭素の混合ガスを0.2L/minの流量で3時間吹き込んだ。吹込口が閉塞してガスが吹き込まれなくなったときはその時点で試験を終了した。なお、塩化水素は塩酸バブリング(図2の方法)で二酸化炭素に混合し、バブリングさせる塩酸の濃度を35wt%、30wt%、27wt%、0wt%にして、塩化水素濃度を11~15vol%、2.8~3.0vol%、1.1vol%、0vol%になるように調整した。
吹込口周囲のスケールの発生量は、吹込口に設けた散気フィルターの重量を脱塩前後で比較することによって求めた。また、発生したスケールを捕集し、X線回折法にて組成を同定した。散気フィルターの重量増加量を図3に示す。
【0023】
図3に示すように、二酸化炭素ガス中の塩化水素濃度が0vol%、1.1vol%のときは、吹込み10分程度で吹込口が閉塞した。一方、塩化水素濃度が2.8vol%~3.0vol%、11vol%~15vol%のときは、吹込み180分でも吹込口は閉塞しなかった。閉塞した場合の散気フィルターの重量増加は5~8mgであったのに対して、閉塞しなかったときの散気フィルターの重量増加は19~24mgであり、重量増加が多くても閉塞していない。これを吹き込み時間に対する重量増加の傾きでみると、閉塞しなかった場合の傾きが小さく、スケールの発生が抑制されていることが分かる。
【0024】
スケール発生量が多くなっても閉塞しなかった原因について確認するため、脱塩処理後の散気フィルター表面を観察したところ、閉塞した場合と閉塞しなかった場合の何れも、散気フィルター表面に白色のスケールが付着していたが、その付着状態は異なり、閉塞したものは、スケールがフィルター表面全体に薄く付着していたのに対して、閉塞しなかったものは、スケールがフィルター表面に偏在しており、スケールが無い箇所が存在していた。この結果より、吹出口が閉塞しなかったものは、混合ガスが吹き出す直近の気孔のみスケールの発生が抑制され、この気孔から離れた領域ではスケールが付着して成長したことによって、散気フィルター全体の重量は増加したが、閉塞は生じなかったことが推測された。
【0025】
散気フィルターに付着したスケールを捕集し、X線回折法で組成を同定した結果を図4に示す。図示するスペクトルは、炭酸カルシウムのリファレンスピークと非常によく対応しており、ほぼ純粋な炭酸カルシウムであることが確認された。
【0026】
また、脱塩処理前の水洗灰中塩素濃度は0.47%であったが、脱塩処理後にろ過・ケーキ洗浄を行い、塩素濃度を測定したところ、0.20%であった。このことにより、適量の塩化水素を二酸化炭素に混合して脱塩しても、スラリー全体の脱塩反応が進み、後段のろ過・ケーキ洗浄を適切に行えば十分な脱塩効果が得られることが確認された。





図1
図2
図3
図4