(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220809BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220809BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220809BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2017169429
(22)【出願日】2017-09-04
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133428(JP,A)
【文献】特開2014-210495(JP,A)
【文献】特開2007-069848(JP,A)
【文献】特開2013-086586(JP,A)
【文献】特開2003-276635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272239(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/00 - 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング操作に伴うステアリングシャフトの回転をラック軸の往復動に変換するラックアンドピニオン機構と、前記ラックアンドピニオン機構とは別の変換機構を用いてモータの回転を前記ラック軸の往復動に変換するアクチュエータと、ステアリングホイールの操舵角を絶対角で検出するステアリングセンサと、前記モータのモータ角を相対角で検出するモータ角センサとを備え、
前記ラック軸のラック歯は、前記ステアリングシャフトの回転量に対する前記ラック軸の移動量である比ストロークが一定の特定範囲及び前記操舵角に応じて変化する変化範囲を含んで形成された操舵装置を制御対象とし、
前記ステアリングセンサにより検出されるステアリングセンサ角の
変化量であるステアリングセンサ角変化量を演算する始点であって、イグニッションがオンされた時点を基準として
前記ステアリングセンサ角変化量が所定変化量よりも大きくなる度に更新される基準角度演算開始時からの
前記ステアリングセンサ角変化量を演算するステアリングセンサ角変化量演算部と、
前記モータ角センサにより検出されるモータ角の前記基準角度演算開始時からのモータ角変化量を演算するモータ角変化量演算部と、
前記ステアリングセンサ角変化量が
前記所定変化量よりも大きく変化した場合に、該ステアリングセンサ角変化量と前記モータ角変化量との比である実測ギア比を演算する実測ギア比演算部と、
前記実測ギア比が前記特定範囲における前記ステアリングシャフトの回転量と前記モータの回転量との間の比である特定ギア比と一致する
場合、前記ステアリングセンサ角、前記モータ角及び前記特定ギア比に基づいて、前記モータ角を用いて絶対角で示される制御舵角の基準となる前記特定範囲内の基準角度を演算する基準角度演算部とを備え
、
前記基準角度は、ステアリング中立位置での前記モータ角であり、
前記基準角度演算部は、前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致する場合、前記ステアリングセンサ角からステアリング中立位置での前記ステアリングセンサ角であるステアリングセンサ中点を差し引いたステアリングセンサ角補正値に、前記特定ギア比を乗算することにより換算値を演算し、前記モータ角から前記換算値を減算することにより前記基準角度を演算する操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置であって、
前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致した場合に、前記基準角度演算開始時に検出された前記ステアリングセンサ角である開始時ステアリングセンサ角、及び前記ステアリングセンサ角変化量が前記所定変化量よりも大きく変化した変化時に検出された前記ステアリングセンサ角である変化時ステアリングセンサ角のうちの大きな角度を上限角度とするとともに、小さな角度を下限角度とする推定範囲を設定する推定範囲設定部を備え、
前記基準角度演算部は、前記基準角度が未設定の状態で、前記ステアリングセンサ角が前記推定範囲内の角度になった場合には、該ステアリングセンサ角、前記モータ角及び前記特定ギア比に基づいて前記基準角度を演算する操舵制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵制御装置であって、
前記推定範囲設定部は、前記基準角度が未設定の状態で、前記ステアリングセンサ角変化量が前記所定変化量よりも大きく変化したと判定され、かつ前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致した場合に、前記開始時ステアリングセンサ角及び前記変化時ステアリングセンサ角のうちの大きな角度が前記上限角度よりも大きければ該上限角度を更新し、小さな角度が前記下限角度よりも小さければ該下限角度を更新する操舵制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の操舵制御装置であって、
イグニッションオフの間に継続して前記推定範囲を記憶する記憶部を備え、
前記基準角度演算部は、イグニッションがオンされる度に前記基準角度を演算する操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)の操舵制御装置として、例えばステアリングホイールを中立位置に復帰させるステアリング戻し制御等、絶対角で検出されるステアリングホイールの操舵角に基づいてモータの作動を制御するものがある(例えば、特許文献1)。ところが、操舵角を検出するステアリングセンサは、モータの回転角(モータ角)を相対角で検出するレゾルバ等のモータ角センサに比べ、一般にその分解能が低い。そのため、こうした操舵制御装置では、例えばイグニッションオン時等にステアリングセンサにより検出されるステアリングセンサ角に基づいてステアリング中立位置でのモータ角(モータ中点)を設定し、モータ中点を基準角度にした絶対角で示されるモータ角を制御舵角(操舵角)として用いる。なお、モータ中点は、例えばモータ角センサにより検出されるモータ角から、ステアリングセンサ角に比ストロークに基づく一定の係数を乗算して得られる換算値を差し引くことで演算される。
【0003】
ここで、例えば特許文献2には、ラック軸に形成されるラック歯の諸元をその軸方向位置によって異ならせることにより、比ストロークを操舵角に応じて変化させる所謂バリアブルギヤレシオのEPSが開示されている。また、このEPSでは、ステアリングシャフトが連結されたラックアンドピニオン機構とは別の変換機構を介してモータの回転をラック軸の往復動に変換することでアシスト力を付与する。したがって、こうした構成のEPSでは、ステアリングシャフトの回転量とモータの回転量との間の比が操舵角に応じて変化する。そこで、同文献のEPSでは、操舵角と該操舵角を比ストロークを考慮して換算した換算値との関係を示すマップを備え、モータ角から、マップを参照することにより得られるステアリングセンサ角の換算値を差し引くことによりモータ中点を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-168659号公報
【文献】特開2014-210495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献2のようなEPSでは、各構成部材の寸法公差や組付け誤差等により、操舵角と該操舵角を換算した換算値との関係が製造されるEPSの個体毎に僅かながら異なることがある。そのため、同構成に基づいてモータ中点を演算した場合、製造されるEPS(個体)によっては当該モータ中点がステアリング中立位置に正確に対応したものとならないことがあり、この点においてなお改善の余地があった。
【0006】
なお、このような問題は、絶対角で示されるモータ角(制御舵角)の基準角度をステアリング中立位置での角度とする場合に限らず、他の角度を基準角度とする場合にも同様に生じ得る。
【0007】
本発明の目的は、制御舵角の基準角度を正確に演算できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、ステアリング操作に伴うステアリングシャフトの回転をラック軸の往復動に変換するラックアンドピニオン機構と、前記ラックアンドピニオン機構とは別の変換機構を用いてモータの回転を前記ラック軸の往復動に変換するアクチュエータと、ステアリングホイールの操舵角を絶対角で検出するステアリングセンサと、前記モータのモータ角を相対角で検出するモータ角センサとを備え、前記ラック軸のラック歯は、前記ステアリングシャフトの回転量に対する前記ラック軸の移動量である比ストロークが一定の特定範囲及び前記操舵角に応じて変化する変化範囲を含んで形成された操舵装置を制御対象としている。操舵制御装置は、前記ステアリングセンサにより検出されるステアリングセンサ角の変化量であるステアリングセンサ角変化量を演算する始点であって、イグニッションがオンされた時点を基準として前記ステアリングセンサ角変化量が所定変化量よりも大きくなる度に更新される基準角度演算開始時からの前記ステアリングセンサ角変化量を演算するステアリングセンサ角変化量演算部と、前記モータ角センサにより検出されるモータ角の前記基準角度演算開始時からのモータ角変化量を演算するモータ角変化量演算部と、前記ステアリングセンサ角変化量が前記所定変化量よりも大きく変化した場合に、該ステアリングセンサ角変化量と前記モータ角変化量との比である実測ギア比を演算する実測ギア比演算部と、前記実測ギア比が前記特定範囲における前記ステアリングシャフトの回転量と前記モータの回転量との間の比である特定ギア比と一致する場合、前記ステアリングセンサ角、前記モータ角及び前記特定ギア比に基づいて、前記モータ角を用いて絶対角で示される制御舵角の基準となる前記特定範囲内の基準角度を演算する基準角度演算部とを備えている。前記基準角度は、ステアリング中立位置での前記モータ角である。前記基準角度演算部は、前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致する場合、前記ステアリングセンサ角からステアリング中立位置での前記ステアリングセンサ角であるステアリングセンサ中点を差し引いたステアリングセンサ角補正値に、前記特定ギア比を乗算することにより換算値を演算し、前記モータ角から前記換算値を減算することにより前記基準角度を演算する。
【0009】
上記構成では、ステアリングセンサ角変化量及びモータ角変化量に基づいて、ステアリングシャフトの回転量とモータの回転量との比である実測ギア比を演算し、実測ギア比が特定ギア比と一致する範囲のステアリングセンサ角、モータ角及び特定ギア比に基づいて制御舵角の基準角度を演算する。つまり、ステアリングセンサ角が制御対象となる操舵装置の個体に応じた特定範囲の角度であることを判断した上で、該ステアリングセンサ角を基準舵角の演算に用いる。そのため、各構成部材の寸法公差や組付け誤差等により特定範囲が個体毎にばらついても、制御舵角の基準角度を正確に演算できる。
なお、ステアリングセンサを組み付ける際等に、ステアリングセンサの原点がステアリング中立位置から僅かながらずれることがある。この場合、ステアリングセンサ角が実際の操舵角からずれることで、該ステアリングセンサ角に基づいて演算される基準角度も実際の操舵角に対応した値からずれてしまう。この点、上記構成によれば、ステアリングセンサ角補正値を用いて基準角度を演算するため、例えばステアリングセンサの組付け誤差が生じても、正確にモータ中点を演算できる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致した場合に、前記基準角度演算開始時に検出された前記ステアリングセンサ角である開始時ステアリングセンサ角、及び前記ステアリングセンサ角変化量が前記所定変化量よりも大きく変化した変化時に検出された前記ステアリングセンサ角である変化時ステアリングセンサ角のうちの大きな角度を上限角度とするとともに、小さな角度を下限角度とする推定範囲を設定する推定範囲設定部を備え、前記基準角度演算部は、前記基準角度が未設定の状態で、前記ステアリングセンサ角が前記推定範囲内の角度になった場合には、該ステアリングセンサ角、前記モータ角及び前記特定ギア比に基づいて前記基準角度を演算することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、基準角度を演算する際に、ステアリングセンサ角変化量が所定変化量よりも大きくなるまで運転者が操舵しなくても、基準角度を演算することが可能になる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記推定範囲設定部は、前記基準角度が未設定の状態で、前記ステアリングセンサ角変化量が前記所定変化量よりも大きく変化したと判定され、かつ前記実測ギア比が前記特定ギア比と一致した場合に、前記開始時ステアリングセンサ角及び前記変化時ステアリングセンサ角のうちの大きな角度が前記上限角度よりも大きければ該上限角度を更新し、小さな角度が前記下限角度よりも小さければ該下限角度を更新することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、推定範囲を徐々に広げて実際の特定範囲に近づけることができ、速やかに基準角度を演算することが可能になる。
上記操舵制御装置において、イグニッションオフの間に継続して前記推定範囲を記憶する記憶部を備え、前記基準角度演算部は、イグニッションがオンされる度に前記基準角度を演算することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、イグニッションスイッチがオンする度に基準舵角を演算するため、ステアリングセンサ角が推定範囲内の角度になった場合に基準角度を演算する構成を採用した際の効果は大である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御舵角の基準角度を正確に演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】操舵角と比ストロークとの関係を示すグラフ。
【
図3】モータ中点設定に係る処理手順を示すフローチャート。
【
図4】ステアリングセンサ中点設定の処理手順を示すフローチャート。
【
図5】モータ中点演算の処理手順を示すフローチャート。
【
図6】推定範囲の設定及び更新の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】(a),(b)は、推定範囲を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、制御対象となる操舵装置としての電動パワーステアリング装置(EPS)1は、運転者によるステアリングホイール2の操作に基づいて転舵輪3を転舵させる操舵機構4を備えている。また、EPS1は、操舵機構4にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアクチュエータとしてのEPSアクチュエータ5と、EPSアクチュエータ5の作動を制御する操舵制御装置6とを備えている。
【0020】
操舵機構4は、ステアリングホイール2が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転に応じて軸方向に往復動するラック軸12とを備えている。なお、ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール2側から順にコラム軸14、中間軸15、及びピニオン軸16を連結することにより構成されている。
【0021】
ラック軸12とピニオン軸16とは、所定の交差角をもって配置されており、ラック軸12に形成された第1ラック歯12aとピニオン軸16に形成された第1ピニオン歯16aとが噛合されることで第1ラックアンドピニオン機構17が構成されている。また、ラック軸12の両端には、タイロッド18を介して転舵輪3が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS1では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト11の回転が第1ラックアンドピニオン機構17によりラック軸12の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド18を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪3の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0022】
ここで、第1ラック歯12aは、その諸元(例えば歯のピッチや圧力角等)がラック軸12における軸方向位置に応じて異なるように設定されている。これにより、EPS1は、ステアリングシャフト11の回転量に対するラック軸12の移動量(転舵輪3の転舵量)である比ストロークが、ステアリングホイール2の操舵角θs(ピニオン軸16の回転角)に応じて変化する所謂バリアブルギヤレシオのEPSとして構成されている。
【0023】
具体的には、
図2に示すように、比ストロークSは、操舵角θsの絶対値が所定の第1操舵角θs1以下の中立位置近傍の特定範囲Aでは、一定の第1比ストロークS1に設定されている。また、操舵角θsの絶対値が第1操舵角θs1よりも大きく、かつ所定の第2操舵角θs2(|θs1|<|θs2|)以下の変化範囲Bでは、比ストロークSは、操舵角θsの絶対値の増大につれて徐々に大きくなるように設定されている。そして、操舵角θsの絶対値が所定の第2操舵角θs2よりも大きなステアリングエンド近傍の特定範囲Cでは、比ストロークSは、一定の第2比ストロークS2(S1<S2)に設定されている。これにより、操舵角θsが大きくなるほど、転舵輪3の転舵角が変化しやすくなり、素早く旋回することが可能になっている。なお、
図2では、一方側(例えば右側)に操舵した場合の操舵角θsをプラス、他方側(例えば左側)に操舵した場合の操舵角θsをマイナスとしている。
【0024】
図1に示すように、EPSアクチュエータ5は、駆動源となるモータ21と、モータ21にウォームアンドホイール等の減速機構22を介して連結されるピニオン軸23とを備えている。ラック軸12とピニオン軸23とは、所定の交差角をもって配置されており、ラック軸12に形成された第2ラック歯12bとピニオン軸23に形成された第2ピニオン歯23aとが噛合されることで変換機構としての第2ラックアンドピニオン機構24が構成されている。そして、EPSアクチュエータ5は、モータ21の回転を減速機構22により減速してピニオン軸23に伝達し、このピニオン軸23の回転を第2ラックアンドピニオン機構24によってラック軸12の軸方向移動に変換することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵機構4に付与する。なお、第2ラック歯12bの諸元は、ラック軸12における該第2ラック歯12bが形成された全領域に亘って同一となるように設定されている。
【0025】
操舵制御装置6には、車両の車速Vを検出する車速センサ31、及び運転者の操舵によりステアリングシャフト11に付与された操舵トルクTを検出するトルクセンサ32が接続されている。なお、本実施形態では、ピニオン軸16の途中にトーションバー33が設けられており、トルクセンサ32は、トーションバー33の捩れに基づいて操舵トルクTを検出する。また、操舵制御装置6には、ステアリングホイール2(ステアリングシャフト11)の操舵角θsを360°を超える範囲の絶対角で検出するステアリングセンサ34、及びモータ21の回転角であるモータ角θmを360°の範囲内の相対角で検出するモータ角センサ35が接続されている。なお、後述するようにステアリングセンサ34により検出される操舵角θsの検出値は、EPS1の実際の操舵角θsと異なることがあるため、以下では該検出値をステアリングセンサ角θs_dとする。また、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角θs_dに基づいてステアリング中立位置でのモータ角θmである基準舵角としてのモータ中点θm_0を演算し、モータ角θmを用いてモータ中点θm_0を基準とする絶対角で示される制御舵角(転舵輪3の転舵角に換算可能な回転軸の回転角)を検出する。さらに、操舵制御装置6には、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ36、及び車両に加わる車両幅方向の横加速度Gを検出する横Gセンサ37が接続されるとともに、車両の起動状態(例えばイングニッションキーの操作位置やスタートスイッチのオンオフ状態)を示すイグニッション信号S_igが入力される。
【0026】
操舵制御装置6は、イグニッションオフ時にも継続して各種のデータを保持可能な記憶部としてのメモリ38を備えている。そして、操舵制御装置6は、これら各センサにより検出される各状態量及びメモリ38に記憶されたデータ等に基づいて、モータ21に駆動電力を供給することにより、EPSアクチュエータ5の作動を制御する。なお、一例として、操舵制御装置6は、車速V及び操舵トルクTに基づいて目標アシスト力を演算するとともに、制御舵角に基づいて、例えばステアリングホイール2の中立位置への復帰性を向上させるステアリング戻し制御等を実行し、該目標アシスト力を補正する。そして、補正後の目標アシスト力を操舵機構4に付与すべく、モータ21への駆動電力の供給を通じてEPSアクチュエータ5の作動を制御する。
【0027】
次に、本実施形態のECUによるモータ中点の演算について説明する。
操舵制御装置6は、オン状態を示すイグニッション信号S_igが入力される度に、特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_d、モータ角θm、及び特定範囲Aにおけるステアリングシャフト11の回転量とモータ21の回転量との間の比である特定ギア比Rfxに基づいてモータ中点θm_0を演算する。なお、特定ギア比Rfxは、メモリ38に予め記憶されている。
【0028】
ここで、
図2に示す操舵角θsと比ストロークSとの関係は、各構成部材の寸法公差や組付け誤差等により、製造されるEPSの個体毎に僅かながら異なることがある。すなわち、特定範囲Aの幅等が製造されるEPSの個体毎に僅かながら異なることがある。この点を踏まえ、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角θs_dがEPS1の個体に応じた特定範囲A内の角度であることを判断した上で、特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_dに基づいてモータ中点θm_0を演算する。また、ステアリングセンサ34を組み付ける際等に、ステアリングセンサ34の原点がステアリング中立位置(車両が直進する操舵角θs)から僅かながらずれることがある。この点を踏まえ、操舵制御装置6は、特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_dからステアリング中立位置でのステアリングセンサ角θs_dであるステアリングセンサ中点θs_0を差し引いたステアリングセンサ角補正値θs_daに基づいてモータ中点θm_0を演算する。
【0029】
詳述すると、操舵制御装置6は、先ずステアリングセンサ中点θs_0の設定を行う。本実施形態では、車両が直進しているか否かの直進判定を行い、車両が直進していると判定した状態で検出されたステアリングセンサ角θs_dをステアリングセンサ中点θs_0として設定する。具体的には、操舵制御装置6は、ヨーレートセンサ36により検出されるヨーレートγが予め設定された直進判定閾値γth以下であり、かつ横Gセンサ37により検出される横加速度Gが直進判定閾値Gth以下の場合に車両が直進していると判定し、このとき検出されたステアリングセンサ角θs_dの値をステアリングセンサ中点θs_0として設定する。なお、直進判定閾値γth,Gthは、それぞれ車両が旋回していないことを示すヨーレートγ及び横加速度Gであり、ノイズ等の影響を考慮してゼロよりもやや大きな値に設定されている。
【0030】
操舵制御装置6は、ステアリングセンサ中点θs_0が設定された状態で、ステアリングセンサ角θs_dの基準角度演算開始時からの変化量であるステアリングセンサ角変化量Δθs、及びモータ角θmの基準角度演算開始時からの変化量であるモータ角変化量Δθmを演算する。操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなると、ステアリングセンサ角変化量Δθsとモータ角変化量Δθmとの比である実測ギア比Res(=Δθm/Δθs)を演算する。そして、操舵制御装置6は、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する場合、基準角度演算開始時からステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなる変化時までの間に検出したステアリングセンサ角θs_dが特定範囲A内の角度であると判断する。
【0031】
なお、操舵制御装置6は、ノイズ等の影響を考慮して、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxを含む所定範囲内の値である場合に、実測ギア比Resと特定ギア比Rfxとが一致すると判断する。また、基準角度演算開始時は、ステアリングセンサ角変化量Δθsを計測するための始点であり、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなる度に更新される。そして、モータ中点θm_0を演算する際の最初の基準角度演算開始時は、任意に設定可能であるが、本実施形態ではオン状態を示すイグニッション信号S_igが入力された時点が最初の基準角度演算開始時とされる。また、所定変化量Δθthは、実測ギア比Resの演算に際して、例えば第1ラック歯12aと第1ピニオン歯16aとの間のバックラッシュ等の影響が十分に小さくなるように予め設定されており、例えば数°程度(例えば5°程度)に設定されている。
【0032】
続いて、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角変化量Δθsが基準角度演算開始時から所定変化量Δθthよりも大きくなる変化時までの間に検出したステアリングセンサ角θs_d、すなわち特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_dからステアリングセンサ中点θs_0を差し引いたステアリングセンサ角補正値θs_daを用いてモータ中点θm_0を演算する。そして、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角補正値θs_daに特定ギア比Rfxを乗算して換算値を演算し、モータ角θmから該換算値を減算することによりモータ中点θm_0を演算する。このように演算されたモータ中点θm_0は、メモリ38に制御舵角の基準角度として設定される。なお、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致しない場合には、モータ中点θm_0を演算せず、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなってから、再度、実測ギア比Resを演算する。
【0033】
操舵制御装置6は、上記のようにモータ中点θm_0を演算した後に、基準角度演算開始時からのステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなるまでの間に検出したステアリングセンサ角θs_dに基づいて、特定範囲Aの推定範囲αを設定する。具体的には、操舵制御装置6は、基準角度演算開始時に検出されたステアリングセンサ角θs_dを開始時ステアリングセンサ角θs_stとし、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなった変化時に検出されたステアリングセンサ角θs_dを変化時ステアリングセンサ角θs_edとする。そして、操舵制御装置6は、開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのうちの大きな角度を推定範囲αの上限角度θs_upとするとともに、小さな角度を推定範囲αの下限角度θs_loとする。推定範囲αは、メモリ38に記憶され、イグニッションオフ時にも継続して保持される。そして、操舵制御装置6は、推定範囲αを設定した以降にイグニッションがオンされ、モータ中点θm_0が未設定の状態で、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度になった場合には、実測ギア比Resを演算することなく、当該ステアリングセンサ角θs_d、モータ角θm及び特定ギア比Rfxに基づいてモータ中点θm_0を演算する。
【0034】
また、操舵制御装置6は、上記のように推定範囲αを設定した以降にイグニッションがオンされ、実測ギア比Resを演算してモータ中点θm_0を演算した場合には、この演算の際に得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edに基づいて推定範囲αを更新する。つまり、操舵制御装置6は、操舵角θsが推定範囲α外にある状態でイグニッションオンされ、操舵角θsが推定範囲α内の角度となることなく所定変化量Δθthだけ変化した場合には、推定範囲αを更新する。
【0035】
具体的には、開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのうちの大きな角度と推定範囲αの上限角度及び下限角度との大小比較を行う。そして、開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのいずれか大きな角度が上限角度θs_upよりも大きければ該上限角度θs_upを更新し、小さな角度が下限角度θs_loよりも小さければ該下限角度θs_loを更新する。
【0036】
次に、操舵制御装置6によるモータ中点θm_0の設定に係る処理手順について説明する。操舵制御装置6は、所定の演算周期毎に以下の各フローチャートに示される各演算処理を実行してモータ中点θm_0を演算し、設定する。
【0037】
図3のフローチャートに示すように、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ中点θs_0が設定されていない場合には(ステップ101:NO)、ステアリングセンサ中点θs_0の設定を行う(ステップ102)。一方、ステアリングセンサ中点θs_0が設定されている場合には(ステップ101:YES)、モータ中点θm_0を設定し(ステップ103)、続いて推定範囲αの設定及び更新を行う(ステップ104)。なお、ステップ104の処理が推定範囲設定部6aに相当する。
【0038】
図4のフローチャートに示すように、ステップ102のステアリングセンサ中点θs_0の設定に際して、操舵制御装置6は、先ず各種状態量を取得し(ステップ201)、ヨーレートγが直進判定閾値γth以下であるか否かを判定する(ステップ202)。ヨーレートγが直進判定閾値γth以下である場合には(ステップ202:YES)、横加速度Gが直進判定閾値Gth以下であるか否かを判定する(ステップ203)。そして、横加速度Gが直進判定閾値Gth以下である場合には(ステップ203:YES)、車両が直進していると判断し、同演算周期のステップ201で取得したステアリングセンサ角θs_dをステアリングセンサ中点θs_0として設定する。なお、ヨーレートγが直進判定閾値γthよりも大きい場合(ステップ202:NO)、及び横加速度Gが直進判定閾値Gthよりも大きい場合には(ステップ203:NO)、車両が直進していないと判断してステアリングセンサ中点θs_0を設定しない。
【0039】
図5のフローチャートに示すように、ステップ103のモータ中点θm_0の設定に際して、操舵制御装置6は、先ず各種状態量を取得し(ステップ301)、ステアリングセンサ中点θs_0が設定されているか否かを判定する(ステップ302)。ステアリングセンサ中点θs_0が設定されている場合には(ステップ302:YES)、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度であるか否かを判定する(ステップ303)。続いて、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度でない場合には(ステップ303:NO)、ステアリングセンサ角変化量Δθsを演算し(ステップ304)、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きいか否かを判定する(ステップ305)。なお、ステップ305の処理がステアリングセンサ角変化量演算部6bに相当する。
【0040】
続いて、操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きい場合には(ステップ305:YES)、モータ角変化量Δθmを演算してから(ステップ306)、実測ギア比Resを演算し(ステップ307)、この実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致するか否かを判定する(ステップ308)。なお、ステップ306の処理がモータ角変化量演算部6cに相当し、ステップ307の処理が実測ギア比演算部6dに相当する。そして、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する場合には(ステップ308:YES)、同演算周期のステップ201で取得したステアリングセンサ角θs_d及びモータ角θm、メモリ38に記憶された特定ギア比Rfxとに基づいてモータ中点θm_0を演算する(ステップ309)。なお、ステップ309の処理が基準角度演算部6eに相当する。
【0041】
一方、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度である場合(ステップ303YES)、すなわち操舵角θsが推定範囲α内にある状態でイグニッションオンされた場合等には、ステップ304~308の処理を実行せずに、ステップ309に移行してモータ中点θm_0を演算する。なお、ステアリングセンサ中点θs_0が設定されていない場合(ステップ302:NO)、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθth以下の場合(ステップ305:NO)、及び実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致しない場合には(ステップ308:NO)には、以降のステップに係る処理を実行せず、モータ中点θm_0を演算しない。
【0042】
図6のフローチャートに示すように、ステップ104の推定範囲αの設定に際して、操舵制御装置6は、先ず推定範囲αが設定され、メモリ38に記憶されているか否か判定する(ステップ401)。推定範囲αが設定されていない場合には(ステップ401:NO)、同演算周期のステップ103で得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのいずれか大きい方の角度を上限角度θs_upとして設定し(ステップ402)、小さい方の角度を下限角度θs_loとして設定する(ステップ403)。これにより、推定範囲を設定する。
【0043】
一方、操舵制御装置6は、推定範囲αが設定されている場合には(ステップ401:YES)、同演算周期に得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのいずれか大きい方の角度が上限角度θs_upよりも大きいか否かを判定する(ステップ404)。そして、いずれか大きい方の角度が上限角度θs_upよりも大きい場合には(ステップ404:YES)、上限角度θs_upを当該角度に更新し(ステップ405)、ステップ406に移行する。なお、いずれか大きい方の角度が上限角度θs_up以下の場合には(ステップ404:NO)、上限角度θs_upを更新することなく、ステップ406に移行する。
【0044】
操舵制御装置6は、ステップ406において、同演算周期に得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edのいずれか小さい方の角度が下限角度θs_loよりも小さいか否かを判定する(ステップ406)。そして、いずれか小さい方の角度が下限角度θs_loよりも小さい場合には(ステップ406:YES)、下限角度θs_loを当該角度に更新する(ステップ407)。なお、いずれか小さい方の角度が下限角度θs_lo以上の場合には(ステップ406:NO)、下限角度θs_loを更新しない。
【0045】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)操舵制御装置6は、ステアリングセンサ角変化量Δθs及びモータ角変化量Δθmに基づいて実測ギア比Resを演算し、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する範囲のステアリングセンサ角θs_d、モータ角θm及び特定ギア比Rfxに基づいてモータ中点θm_0演算する。そのため、各構成部材の寸法公差や組付け誤差等により特定範囲AがEPS1の個体毎にばらついても、モータ中点θm_0を正確に演算できる。
【0046】
(2)操舵制御装置6は、実測ギア比Resが特定ギア比と一致した場合に、基準角度演算開始時からステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなるまでの間に検出したステアリングセンサ角θs_dに基づいて、例えば
図7(a)に示すように、特定範囲Aの推定範囲αを設定する。そして、推定範囲αを設定した以降にイグニッションがオンされ、モータ中点θm_0が未設定の状態で、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度になった場合に、ステアリングセンサ角θs_d、モータ角θm及び特定ギア比Rfxに基づいてモータ中点θm_0を演算する。例えば同図に示す操舵角θsxにある状態でイグニッションオンされた場合に右方向に操舵すれば、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくならずとも、推定範囲α内の角度となった時に、モータ中点θm_0を演算する。また、推定範囲α内の操舵角にある状態でイグニッションオンされた場合には、運転者がステアリングホイール2を操舵せずとも、モータ中点θm_0を演算する。これにより、モータ中点θm_0を演算する際に、ステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなるまで運転者が操舵しなくても、モータ中点θm_0を演算できる。
【0047】
(3)操舵制御装置6は、推定範囲αが設定された状態で実測ギア比Resを演算し、この実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致した場合、実測ギア比Resの演算の際に得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edに基づいて推定範囲αを更新する。そのため、例えば
図7(b)に示すように、実測ギア比Resの演算の際に得られた開始時ステアリングセンサ角θs_st及び変化時ステアリングセンサ角θs_edが検出されれば、同図に示すように推定範囲αが広がる。これにより、推定範囲αを徐々に広げて実際の特定範囲Aに近づけることができ、速やかにモータ中点θm_0を演算することが可能になる。
【0048】
(4)操舵制御装置6は、イグニッションオフ時に継続して推定範囲を記憶するメモリ38を備え、イグニッションオンする毎にモータ中点θm_0を設定するため、ステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度になった場合にモータ中点θm_0を演算する構成を採用する際の効果は大である。
【0049】
(5)操舵制御装置6は、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する範囲のステアリングセンサ角θs_dからステアリングセンサ中点θs_0を差し引いたステアリングセンサ角補正値θs_daを用いてモータ角θmを演算するため、例えばステアリングセンサ34の組付け誤差が生じても、正確にモータ中点θm_0を演算できる。
【0050】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する場合に、基準角度演算開始時からステアリングセンサ角変化量Δθsが所定変化量Δθthよりも大きくなる変化時までの間に検出したステアリングセンサ角θs_dを用いてモータ中点θm_0を演算した。しかし、これに限らず、例えば実測ギア比Resが特定ギア比Rfxと一致する場合に、即座にはモータ中点θm_0を演算せずに推定範囲αを設定し、その後のステアリング操作によってステアリングセンサ角θs_dが推定範囲α内の角度になった時にモータ中点θm_0を演算してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、車両が直進していると判定した状態で検出されたステアリングセンサ角θs_dをステアリングセンサ中点θs_0として設定したが、これに限らず、例えば工場等において予めステアリングセンサ中点θs_0を設定しておいてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、ステアリングセンサ角補正値θs_daに特定ギア比Rfxを乗算して換算値を演算し、モータ角θmから該換算値を減算することによりモータ中点θm_0を演算した。しかし、これに限らず、例えばステアリングセンサ中点θs_0を差し引いたステアリングセンサ角補正値θs_daを用いず、特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_dを用いてモータ中点θm_0を演算してもよい。また、モータ中点θm_0の演算態様は、特定範囲A内のステアリングセンサ角θs_d、モータ角θm及び特定ギア比Rfxに基づくものであれば、適宜変更可能である。
【0053】
・上記実施形態では、ヨーレートγ及び横加速度Gの双方に基づいて直進判定を行ったが、これに限らず、例えばヨーレートγ及び横加速度Gのいずれか一方のみに基づいて直進判定を行ってもよく、また左右の車輪速差等に基づいて直進判定を行ってもよい。
【0054】
・上記実施形態では、イグニッションオン時にモータ中点θm_0を演算したが、これに限らず、イグニッションオン時以外のタイミングでモータ中点θm_0を演算してもよい。
・上記実施形態では、推定範囲αを更新してその範囲を徐々に広げるようにしたが、一度設定した推定範囲αを更新しなくてもよい。また、推定範囲αを設定しなくてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、ステアリング中立位置でのモータ中点θm_0を制御舵角の基準角度として採用したが、これに限らず、特定範囲A又は特定範囲C内の任意の角度を制御舵角の基準角度として採用してもよい。
【0056】
・上記実施形態において、操舵トルクT及びトーションバー33の弾性係数に基づいてトーションバー33の捩れ量を演算し、モータ中点θm_0を演算する際に該トーションバー33の捩れ量を考慮してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、EPSアクチュエータ5は、第2ラックアンドピニオン機構24を用いてモータ21の回転をラック軸12の往復動に変換したが、これに限らず、例えばボール螺子機構等の他の変換機構を用いてモータ21の回転をラック軸12の往復動に変換してもよい。
【0058】
・上記実施形態において、比ストロークSが一定の特定範囲を有していれば、操舵角θsに応じた比ストロークSの変化の態様は適宜変更可能である。
・上記実施形態では、制御対象となる操舵装置としてEPS1を採用したが、これに限らず、例えばステアバイワイヤ(SBW)方式の操舵装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…転舵輪、4…操舵機構、5…EPSアクチュエータ(アクチュエータ)、6…操舵制御装置、6a…推定範囲設定部、6b…ステアリングセンサ角変化量演算部、6c…モータ角変化量演算部、6d…実測ギア比演算部、6e…基準角度演算部、12…ラック軸、16,23…ピニオン軸、17…第1ラックアンドピニオン機構、21…モータ、24…第2ラックアンドピニオン機構(変換機構)、38…メモリ(記憶部)、A,C…特定範囲、B…変化範囲、Res…実測ギア比、Rfx…特定ギア比、α…推定範囲、θm…モータ角、θs…操舵角、Δθm…モータ角変化量、Δθs…ステアリングセンサ角変化量、Δθth…所定変化量、θm_0…モータ中点、θm…モータ角、θs_0…ステアリングセンサ中点、θs_d…ステアリングセンサ角、θs_da…ステアリングセンサ角補正値、θs_ed…変化時ステアリングセンサ角、θs_st…開始時ステアリングセンサ角、θs_up…上限角度、θs_lo…下限角度。