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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】磁気軸受制御装置および真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20220809BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017169715
(22)【出願日】2017-09-04
(65)【公開番号】P2019044894
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2019-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-28562(JP,A)
【文献】特開2007-278381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を磁気浮上支持する制御形磁気軸受装置の少なくとも1軸の磁気軸受に対して、
前記磁気軸受に設けられた一対の磁気軸受電磁石の励磁電流に含まれる電流回転周波数成分の、基準回転信号に対する電流回転成分位相値および電流回転成分振幅値を算出する第1演算部と、
前記回転軸の変位信号に含まれる変位回転周波数成分の、基準回転信号に対する変位回転成分位相値および変位回転成分振幅値を算出する第2演算部と、
前記一対の磁気軸受電磁石の前記励磁電流における直流電流成分をIp、Imとし、予め記憶されている前記回転軸と前記磁気軸受の間のクリアランスをDとした場合に、Ip、Im、Dを下記式に代入して定数であるIDを算出する第3演算部と、を備え、
前記電流回転成分位相値が前記変位回転成分位相値に位相値180度を加算した値と等しくなり、かつ、前記電流回転成分振幅値が前記変位回転成分振幅値と前記定数の積に等しくなるようにフィードバック制御する、磁気軸受制御装置。
(式)・・・ID=(1/D)・{(Ip+Im)/(Ip+Im)}
【請求項2】
請求項1に記載の磁気軸受制御装置において、
前記加算した値と前記電流回転成分位相値との第1偏差が入力され、前記第1偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により位相制御信号を出力する第1制御器と、
前記変位回転成分振幅値と前記定数との積と前記電流回転成分振幅値との第2偏差が入力され、前記第2偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により振幅制御信号を出力する第2制御器と、
前記第1制御器の位相制御信号および前記第2制御器の振幅制御信号に基づいて電流回転成分余弦波信号を生成する第4演算部と、を備え、
前記電流回転成分余弦波信号によりフィードバック制御する、磁気軸受制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気軸受制御装置において、
前記少なくとも1軸の磁気軸受は、前記回転軸のラジアル方向の支持を行う2軸のラジアル磁気軸受であって、
前記第2演算部は、前記2軸の各軸方向の前記変位信号に含まれる変位回転周波数成分の振幅値に基づいて、基準回転信号に対する変位回転成分位相値および変位回転成分振幅値を算出する、磁気軸受制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気軸受制御装置において、
前記加算した値と前記電流回転成分位相値との第1偏差が入力され、前記第1偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により位相制御信号を出力する第1制御器と、
前記変位回転成分振幅値と前記定数との積と前記電流回転成分振幅値との第2偏差が入力され、前記第2偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により振幅制御信号を出力する第2制御器と、
前記第1制御器の位相制御信号および前記第2制御器の振幅制御信号に基づいて、前記2軸のラジアル磁気軸受の一方に関するフィードバック制御信号として電流回転成分正弦波信号を生成し、前記2軸のラジアル磁気軸受の他方に関するフィードバック制御信号として電流回転成分余弦波信号を生成する第4演算部と、を備える磁気軸受制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の磁気軸受制御装置において、
前記第3演算部は前記励磁電流の前記直流成分を抽出する抽出部を備えた、磁気軸受制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の磁気軸受制御装置において、
前記回転軸の浮上位置変位を検出する変位センサからのセンサ信号に基づいて、磁気軸受位置における変位に相当する変位信号を生成する変換部を備え、
前記第2演算部は、前記変換部で生成された変位信号に基づいて前記変位回転成分位相値および前記変位回転成分振幅値を算出する、磁気軸受制御装置。
【請求項7】
モータにより回転駆動されるポンプロータと、
前記ポンプロータの回転軸を磁気浮上支持する磁気軸受装置と、
前記磁気軸受装置を制御する請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の磁気軸受制御装置と、を備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受制御装置および真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
制御形磁気軸受で磁気浮上支持されるロータの場合、ロータにアンバランスがあるとそれに起因する回転周波数成分の振動が発生し、電磁石力の反作用によりその振動がステータ側に伝達される。特許文献1には、このようなステータ側で伝達される望ましくない振動を低減することができる磁気軸受装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の磁気軸受装置では、浮上制御に適用する変位信号から回転周波数成分をキャンセルした信号を磁気浮上制御器に入力して励磁電流の制御信号を生成することで、電磁石励磁電流に含まれる回転周波数成分の電流を除去している。さらに、磁気浮上制御器の出力信号に対して、ロータ変位の回転成分に起因して発生する電磁石力の変動を低減する為の信号を加算・減算することで、さらなる低振動化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-075666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に記載の技術では、ロータ変位の回転成分に起因して発生する電磁石力の変動を低減するために生成する信号に対して、ゲインおよび位相の補正が必要である。しかしながら、磁気浮上制御器の出力信号における回転周波数成分の信号残留を完全にゼロにするのは難しい。実際には残留する場合が多いので、出荷前に、機台ごとにゲイン変化、位相遅れを微調整する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい態様による磁気軸受制御装置は、回転軸を磁気浮上支持する制御形磁気軸受装置の少なくとも1軸の磁気軸受に対して、前記磁気軸受に設けられた一対の磁気軸受電磁石の励磁電流に含まれる電流回転周波数成分の、基準回転信号に対する電流回転成分位相値および電流回転成分振幅値を算出する第1演算部と、前記回転軸の変位信号に含まれる変位回転周波数成分の、基準回転信号に対する変位回転成分位相値および変位回転成分振幅値を算出する第2演算部と、前記一対の磁気軸受電磁石の前記励磁電流における直流電流成分をIp、Imとし、予め記憶されている前記回転軸と前記磁気軸受の間のクリアランスをDとした場合に、Ip、Im、Dを下記式に代入して定数であるIDを算出する第3演算部と、を備え、前記電流回転成分位相値が前記変位回転成分位相値に位相値180度を加算した値と等しくなり、かつ、前記電流回転成分振幅値が前記変位回転成分振幅値と前記定数の積に等しくなるようにフィードバック制御する。(式)・・・ID=(1/D)・{(Ip+Im)/(Ip+Im)}
さらに好ましい態様では、前記加算した値と前記電流回転成分位相値との第1偏差が入力され、前記第1偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により位相制御信号を出力する第1制御器と、前記変位回転成分振幅値と前記定数との積と前記電流回転成分振幅値との第2偏差が入力され、前記第2偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により振幅制御信号を出力する第2制御器と、前記第1制御器の位相制御信号および前記第2制御器の振幅制御信号に基づいて電流回転成分余弦波信号を生成する第4演算部と、を備え、前記電流回転成分余弦波信号によりフィードバック制御する。
さらに好ましい態様では、前記少なくとも1軸の磁気軸受は、前記回転軸のラジアル方向支持を行う2軸のラジアル磁気軸受であって、前記第2演算部は、前記2軸の各軸方向の前記変位信号に含まれる変位回転周波数成分の振幅値に基づいて、基準回転信号に対する変位回転成分位相値および変位回転成分振幅値を算出する。
さらに好ましい態様では、前記加算した値と前記電流回転成分位相値との第1偏差が入力され、前記第1偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により位相制御信号を出力する第1制御器と、前記変位回転成分振幅値と前記定数との積と前記電流回転成分振幅値との第2偏差が入力され、前記第2偏差に対して少なくとも積分要素を含む制御により振幅制御信号を出力する第2制御器と、前記第1制御器の位相制御信号および前記第2制御器の振幅制御信号に基づいて、前記2軸のラジアル磁気軸受の一方に関するフィードバック制御信号として電流回転成分正弦波信号を生成し、前記2軸のラジアル磁気軸受の他方に関するフィードバック制御信号として電流回転成分余弦波信号を生成する第4演算部と、を備える。
さらに好ましい態様では、前記第3演算部は前記励磁電流の前記直流成分を抽出する抽出部を備える。
さらに好ましい態様では、前記回転軸の浮上位置変位を検出する変位センサからのセンサ信号に基づいて、磁気軸受位置における変位に相当する変位信号を生成する変換部を備え、前記第2演算部は、前記変換部で生成された変位信号に基づいて前記変位回転成分位相値および前記変位回転成分振幅値を算出する。
本発明の好ましい態様による真空ポンプは、モータにより回転駆動されるポンプロータと、前記ポンプロータの回転軸を磁気浮上支持する磁気軸受装置と、前記磁気軸受装置を制御する上記態様の磁気軸受制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゲインや位相の調整を行うことなく低振動化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、磁気軸受装置を備えたターボ分子ポンプのポンプ本体の概略構成を示す図である。
図2図2は、制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、ロータ軸に作用する力を説明する図である。
図4図4は、磁気軸受制御系の概略構成を示すブロック図である。
図5図5は、変位変換処理を説明する図である。
図6図6は、振動低減制御の詳細を示すブロック図である。
図7図7は、電流回転周波数成分を説明する図である。
図8図8は、変形例1を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、磁気軸受装置を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。ターボ分子ポンプ1は、図1に示すように、ポンプ本体1Aと、ポンプ本体1Aを駆動制御する制御装置1Bとにより構成されている。
【0010】
ポンプ本体1Aのポンプロータ3に設けられたロータ軸5は、ラジアル磁気軸受4A,4Bおよびアキシャル磁気軸受4Cによって非接触支持される。ラジアル磁気軸受4A,4Bの各々は、ロータ軸5の径方向に配置された4つの磁気軸受電磁石を備えている。アキシャル磁気軸受4Cの磁気軸受電磁石は、ロータ軸5の下部に固定されたスラストディスク10を軸方向に挟むように配置されている。
【0011】
ロータ軸5の変位は、ラジアル方向の変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,とアキシャル方向の変位センサ51によって検出される。変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51には、センサコアにコイルを巻き回した構成のインダクタンス式変位センサが用いられている。
【0012】
磁気軸受によって回転自在に磁気浮上支持されたポンプロータ3は、モータ42により高速回転駆動される。モータ42にはブラシレスDCモータ等が用いられる。なお、図1では、模式的にモータ42と記載しているが、より詳細には、符号42で示した部分はモータステータを構成し、ポンプロータ3のロータ軸5側にモータロータが設けられている。
【0013】
モータ42によって回転駆動されるロータ軸5の下端には、センサターゲット29が設けられている。上述したアキシャル方向の変位センサ51は、センサターゲット29の下面と対向する位置に配置されている。磁気軸受が動作していないときには、ロータ軸5は非常用のメカニカルベアリング26a,26bによって支持される。
【0014】
ポンプロータ3には、回転側排気機能部を構成する複数段の回転翼3aと円筒部3bとが形成されている。一方、固定側には、固定側排気機能部である固定翼22とネジステータ24とが設けられている。複数段の固定翼22は、軸方向に対して回転翼3aと交互に配置されている。ネジステータ24は、円筒部3bの外周側に所定のギャップを隔てて設けられている。
【0015】
各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ポンプロータ3を磁気浮上させつつモータ42により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0016】
図2は、制御装置1Bの概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、制御装置1Bに設けられたDC電源40によって交流から直流に変換される。DC電源40は、インバータ41用の電源、励磁アンプ43用の電源、制御部44用の電源をそれぞれ生成する。
【0017】
モータ42に電力を供給するインバータ41には、複数のスイッチング素子が備えられている。これらのスイッチング素子のオンオフを制御部44によって制御することにより、モータ42が駆動される。
【0018】
上述したように、ロータ軸5を磁気浮上支持する磁気軸受は、ラジアル方向に4軸、アキシャル方向に1軸を備える5軸の制御形磁気軸受(active magnetic bearing,AMB)である。各軸毎に一対の磁気軸受電磁石が設けられているので、図2に示すように10個の磁気軸受電磁石45が設けられている。磁気軸受電磁石45に励磁電流を供給する励磁アンプ43は、10個の磁気軸受電磁石45のそれぞれに設けられている。
【0019】
モータ42の駆動および磁気軸受の駆動を制御する制御部44は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル演算器とその周辺回路により構成される。モータ制御に関しては、インバータ41に設けられている複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号41aが、制御部44からインバータ41へ入力される。また、インバータ41から制御部44へは、モータ42に関する相電圧および相電流に関する信号41bが入力される。
【0020】
磁気軸受制御に関しては、励磁アンプ43に設けられたスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWMゲート駆動信号43aが、制御部44から各励磁アンプ43へ入力される。また、各励磁アンプ43から制御部44へは、各磁気軸受電磁石45の電流値に関する電流検出信号43bが入力される。
【0021】
各変位センサ50x1,50y1,50x2,50y2,51には、センサ回路33がそれぞれ設けられている。制御部44から各センサ回路33には、センサキャリア信号(搬送波信号)305が入力される。各センサ回路33から制御部44には、ロータ軸5の変位により変調されたセンサ信号306が入力される。
【0022】
ところで、外部からの振動やロータ振れ回りによりロータ軸5の浮上位置が変化すると、励磁電流が一定であっても磁気軸受からロータ軸5に作用する力が変化する。例えば、ロータ軸5が磁気軸受電磁石45に近づくと吸引力が大きくなり、逆に遠ざかると吸引力が小さくなる。そのため、ロータアンバランスによりロータ軸5が振れ回ると、ロータ軸5に作用する力の反作用によりポンプ振動が発生することになる。以下に説明するように、本実施の形態では、上述したロータアンバランスによるロータ変位(振動変位)に起因する力の変動を、励磁電流の変動に起因する力により相殺することで、アンバランス等に起因する振動を低減するようにした。
【0023】
図3は、ロータ軸5に作用する力を説明する図である。図3は、ロータ軸5と、ラジアル軸受の内の一軸分(x軸方向)を構成する磁気軸受電磁石45p,45mと、それに対応して設けられた変位センサ50x1p,50x1mとを示す図である。磁気軸受電磁石45p,45mに流れる励磁電流ip、imには、所定の軸受剛性を確保するための直流電流成分(バイアス電流とも呼ばれる)と、ロータ軸5の浮上位置を制御するための制御電流とが含まれている。すなわち、制御電流を変動させることで、ロータ軸5の浮上位置(以下では、ロータ浮上位置と呼ぶ)が目標浮上位置Jとなるように制御する。
【0024】
ここで、励磁電流ipの直流電流成分および電流変動成分(振動電流成分)をIp,Δipと表し、励磁電流imの直流電流成分および電流変動成分(振動電流成分)をIm,Δimと表す。一般に、Δip=-Δim=Δiのように設定される。Δdrはロータ浮上位置の目標浮上位置Jからの変位(x軸方向の変位)を表しており、磁気軸受電磁石45pの方向への変位を正とする。なお、Dp,Dmは、ロータ浮上位置が目標浮上位置Jに浮上している場合の、ロータ軸5と磁気軸受電磁石45p,45mとのクリアランスである。
【0025】
磁気軸受電磁石45pの吸引力Fpは次式(1)のように表され、磁気軸受電磁石45mの吸引力Fmは次式(2)のように表される。なお、係数k[Nm/A]は電磁石係数である。
Fp=k(Ip/Dp) …(1)
Fm=k(Im/Dm) …(2)
【0026】
図3では、吸引力Fpの増加に対応する変位Δdr(>0)と電流変動成分Δiを示している。このような変位Δdrおよび電流変動成分Δiに対する吸引力Fp,Fmの変動ΔFp,ΔFmは、式(1)、(2)を用いて次式(3)、(4)のように表される。吸引力Fp,Fmは互いに逆向きになっているので、ロータ軸5に作用する力の変動はΔFp-ΔFmとなり、式(5)で表される。式(3)~(5)において、右辺第1項は電流変動成分Δiに起因する力の変動であって、右辺第2項は目標浮上位置からの変位Δdrに起因する力の変動である。
ΔFp=(2k・Ip/Dp)Δi+(2k・Ip/Dp)Δdr …(3)
ΔFm=(-2k・Im/Dm)Δi+(-2k・Im/Dm)Δdr …(4)
ΔFp-ΔFm={(2k・Ip/Dp)+(2k・Im/Dm)}Δi
+{(2k・Ip/Dp)+(2k・Im/Dm)}Δdr …(5)
【0027】
ロータ軸5に作用する力の変動(ΔFp-ΔFm)をゼロとするためには、式(5)の右辺がゼロとなれば良い。すなわち、励磁電流ip、imの電流変動成分Δiを式(6)のように設定することで、変位Δdrに起因する力の変動を電流変動成分Δiに起因する力の変動で打ち消すことができる。式(6)における変位Δdrは、図2のセンサ回路33から出力されるセンサ信号306に基づいて算出される。
Δi=-{(Ip/Dp+Im/Dm)/(Ip/Dp+Im/Dm)}Δdr …(6)
【0028】
なお、式(6)において{(Ip/Dp+Im/Dm)/(Ip/Dp+Im/Dm)}は励磁電流ip、imの内の直流電流成分Ip,Imに基づく定数であり、ここでは符号I_Dで表すことにする。クリアランスDp,Dmは、精度良く製作されている場合には設計値を用いることができる。一般には、目標浮上位置は磁気軸受電磁石45p,45mの中間位置に設定されるのでDp=Dm=Dとなり、I_Dは次式(7)のようになる。
I_D=(1/D)・{(Ip+Im)/(Ip+Im)} …(7)
【0029】
ここで、変位Δdrの内の角振動数Ωを有する周波数成分である変位回転周波数成分Δdr(Ω)は、回転基準信号θ(=Ω・t)を用いて次式(8)のように表される。また、電流変動成分Δiの内の角振動数Ωを有する周波数成分である電流回転周波数成分Δi(Ω)は、回転基準信号θを用いて次式(9)のように表される。
Δdr(Ω)=|dr(Ω)|cos(θ+φ1) …(8)
Δi(Ω)=|i(Ω)|cos(θ+φ2) …(9)
【0030】
なお、回転基準信号θは、ロータ軸5の回転速度(角振動数)Ωを用いてθ=Ω・tと表される基準電気角であり、本実施形態では図4に示すように、モータ駆動系のモータ制御部420から入力される基準電気角θが用いられる。モータ駆動系では、回転センサ、例えば、モータ磁極位置を検出するホールセンサ等を備える場合にはその検出信号から基準電気角θを生成され、センサレス構成の場合にはモータ起電圧を利用して基準電気角θが生成される。本実施形態では、基準電気角θの生成方法については特に限定されない。
【0031】
変位回転周波数成分Δdr(Ω)に起因する力の変動を電流回転周波数成分Δi(Ω)に起因する力の変動で打ち消して回転成分の振動を除去するためには、式(8),(9)の振幅については次式(10)で表される条件を満たす必要がある。また、位相については式(11)で表される条件を満たす必要がある。
|i(Ω)|=I_D・|dr(Ω)| …(10)
θ+φ2=θ+φ1+π …(11)
【0032】
図4は磁気軸受制御系の概略構成を示すブロック図であり、図3に示す一軸分の制御に関する構成を示したものである。センサ回路33から出力されたセンサ信号は、磁気浮上制御器417および変位変換部442に入力される。磁気浮上制御器417は、センサ信号に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正、その他の制御補償を行い、浮上制御電流設定量を生成する。
【0033】
さらに、浮上制御電流設定量にバイアス電流設定量が加算される。p側の制御には、浮上制御電流設定量にマイナス符号を付したものにバイアス電流設定量が加算したものが用いられる。m側の制御には、浮上制御電流設定量にバイアス電流設定量を加算したものが用いられる。
【0034】
例えば、図3のようにロータ軸5がp側の磁気軸受電磁石45pに近づいた場合、磁気軸受電磁石45pに近づくほど磁気浮上制御器417から出力される浮上制御電流設定量は大きくなり、(バイアス電流設定量)-(浮上制御電流設定量)は小さくなる。すなわち、電流リミッタ回路440pに入力される電流設定量は励磁電流を小さくするような設定となる。通常、電流下限値はゼロに設定されるが、電磁石自体でロータ変位を検出する、所謂、セルフセンシング方式においては、電流リミッタ回路440pは、浮上制御電流設定量が過大になった場合でも、励磁電流がゼロにならないように出力に下限を設けて出力を設定することがある。m側の電流リミッタ回路440mも、ロータ軸5がm側の磁気軸受電磁石45mに近づき過ぎた場合に、電流リミッタ回路440pと同様の動作をする。
【0035】
一方、センサ回路33から変位変換部442にセンサ信号が入力されると、変位変換部442はセンサ位置におけるロータ軸5の変位を電磁石位置における変位に変換する。詳細は後述するが、図3に示すように変位センサ50x1p,50x1mと磁気軸受電磁石45p、45mとは、軸方向(z方向)の位置が異なっているので、ロータ軸5が傾くと、センサ信号に基づく変位と磁気軸受電磁石45p、45mにおける変位とにずれが生じる。変位変換部442は、センサ信号に基づいて電磁石位置における変位を算出し、それを振動低減制御部443に出力する。
【0036】
振動低減制御部443には、上述した電磁石位置における変位とともに、励磁電流ip、imの検出信号が入力される。ここでは、これらの検出信号も励磁電流ip、imと呼ぶことにする。振動低減制御部443は、電磁石位置における変位と、励磁電流ip、imと、ロータ回転の基準回転信号θとに基づいて、上述した式(6)で表されるΔiに相当する電流相当制御信号を出力する。なお、本実施の形態では、基準回転信号θには、モータ制御部420から入力される基準電気角θが用いられる。
【0037】
電流リミッタ回路440p,440mから出力された電流設定は、それぞれフィードバックされた励磁電流信号との差分がとられ、さらに、振動低減制御部443から出力される電流相当制御信号が加算される。従来の磁気軸受制御では、電流設定とフィードバックされた励磁電流成分との差分がゼロとなるように電流制御器441p,441mはPI演算により励磁電流信号を生成するが、本実施の形態では、差分信号に電流相当制御信号を加算した信号に基づいて励磁電流信号を生成することにより、ポンプ振動の低減を図るようにしている。
【0038】
(変位変換部442)
図5を参照して変位変換部442の処理について説明する。図5は、ロータ軸5が傾いている場合におけるx軸方向の変位を示したものであり、ロータ軸5の目標浮上位置Jをz軸に一致させて図示した。z軸方向に関して、上側の変位センサ位置をzs1、下側の変位センサ位置をzs2とし、上側の電磁石位置をzm1、下側の電磁石位置をzm2とする。ロータ軸5は剛体とみなし、ロータ軸5の中心軸J1の各位置zs1,zs2,zm1,zm2におけるx座標をxs1,xs2,xm1,xm2とする。
【0039】
また、ロータ軸5が目標浮上位置Jに浮上している場合のポンプロータ3(図1参照)の重心位置をCGとする。重心位置CGから変位センサ位置zs1,zs2までの距離をL1,L2とし、重心位置CGから電磁石位置zm1,zm2までの距離をl1,l2とする。
【0040】
図5では、目標浮上位置Jをz軸と一致させているので、変位センサ位置zs1,zs2におけるx座標xs1,xs2は、変位センサにより検出されるセンサ位置変位を表している。同様に、電磁石位置zm1,zm2におけるx座標xm1,xm2は、電磁石位置zm1,zm2における磁石位置変位を表している。
【0041】
このとき、磁石位置変位xm1,xm2は、センサ位置変位xs1,xs2を用いて次式(12)、(13)のように表される。なお、式(12)、(13)では、変位xs1,xs2,xm1,xm2を時間tの関数として記載した。同様に、y軸方向の磁石位置変位ym1(t),ym2(t)は、変位センサ位置におけるy軸方向のセンサ位置変位ys1(t),ys2(t)を用いて次式(14)(15)のように表される。
xm1(t)=(l1-L1)/(L1+L2)×{xs1(t)-xs2(t)}+xs1(t)…(12)
xm2(t)=(-l2-L1)/(L1+L2)×{xs1(t)-xs2(t)}+xs1(t)…(13)
ym1(t)=(l1-L1)/(L1+L2)×{ys1(t)-ys2(t)}+ys1(t)…(14)
ym2(t)=(-l2-L1)/(L1+L2)×{ys1(t)-ys2(t)}+ys1(t)…(15)
【0042】
(振動低減制御部443)
図6は、振動低減制御部443における制御の詳細を示すブロック図である。振動低減制御部443には、電流信号に含まれる回転成分を演算する電流回転成分演算部60と、電流信号に含まれる直流成分を演算する電流直流成分演算部61と、センサ回路33からのセンサ信号306に含まれる回転成分を演算する変位回転成分演算部62とを備えている。
【0043】
図4に示したように振動低減制御部443にはp側およびm側の励磁電流信号の両方が入力されるが、電流回転成分演算部60においては励磁電流信号ip(t)、im(t)のいずれか一方を用いて演算を行う。図4の磁気浮上制御器417の出力信号にはバイアス電流設定量(直流成分)に関する信号が加算されているが、ポンプ本体を水平姿勢とした場合のように直流電流成分Ip,Imの非対称性が大きい場合に電流を制限するための電流リミッタ回路440p、440mを備えている。
【0044】
電流リミッタ回路440p、440mを設けたことにより、例えばp側の励磁電流信号ip(t)の直流成分がバイアス電流設定量の2倍以上になると、m側の直流電流成分は0[A]とされる。このように片側が0[A]になる場合があるが、0[A]になった側では電流回転成分を抽出することができない。図6に示す例は直流電流成分がIp>Imのような場合を示しており、この場合、直流電流成分が0[A]とならないp側の励磁電流信号ip(t)を用いて電流回転成分を抽出する。このように、電流回転成分を抽出する場合には、必ず直流電流成分が大きい側の励磁電流信号から抽出する必要がある。
【0045】
電流回転成分演算部60の信号乗算部601にはp側の励磁電流信号ip(t)が入力される。信号乗算部601では、回転基準信号θに基づいて信号cosθ,sinθが生成され、回転成分を抽出するために、入力された励磁電流信号ip(t)に信号cosθ,sinθがそれぞれ乗算される。
【0046】
例えば、ip(t)が回転基準信号θに対してip(t)=i0・cos(θ+φ2)のように変動している場合を考える。ここで、φ2は回転基準信号θに対する位相ずれを表す。このとき、ip(t)は次式(16)のように表されるので、これにcosθ、sinθを乗算したものは次式(17),(18)のように表される。
ip(t)=i0(cosθcosφ2-sinθsinφ2) …(16)
ip(t)cosθ=(i0/2){cosφ2・(1+cos2θ)-sinφ2 sin2θ} …(17)
ip(t)sinθ=(i0/2){cosφ2 sin2θ-sinφ2・(1-cos2θ)} …(18)
【0047】
式(17),(18)で表される信号をローパスフィルタ602でフィルタリングすると、2θを含む項は除去され、式(17)のip(t)cosθからは直流成分としてai=(i0/2)cosφ2が抽出され、式(18)のip(t)sinθからは直流成分としてbi=-(i0/2)sinφ2が抽出される。aiおよびbiは、式(16)におけるcosθ成分およびsinθ成分の各振幅値に対応するものである。
【0048】
電流変動成分Δiの内の電流回転周波数成分Δi(Ω)は、図7に示すように基準位相θで回転する座標上の矢線ベクトルで表される。ただし、ai,biは式(16)のcosθ、sinθの振幅の1/2倍の値なので、次式(19)のように各振幅値ai,biの二乗和の平方根を2倍することで、電流回転周波数成分Δi(Ω)の振幅|i(Ω)|が得られる。また、位相φ2は次式(20)で与えられる。
|i(Ω)|=2√(ai+bi) …(19)
φ2=arctan(-bi/ai) …(20)
【0049】
フィルタリングにより抽出された振幅値ai,biは振幅演算部603および位相演算部604に入力され、振幅演算部603において振幅|i(Ω)|が算出され、位相演算部604において位相φ2が算出される。
【0050】
電流直流成分演算部61では、励磁電流信号ip(t),im(t)をローパスフィルタ611によりフィルタリングして直流電流成分Ip,Imを抽出する。直流電流成分はポンプ本体の設置後は、設置姿勢を変更しない限り基本的に変化しないので、極めて低い周波数(例えば、0.1Hz以下)にコーナー周波数を設定したローパスフィルタ611が用いられる。
【0051】
I_D演算部612は、抽出された直流電流成分Ip,Imを用いて、式(7)で表されるI_D値を算出する。なお、クリアランスDは予め不図示の記憶部に記憶されている。
I_D=(1/D)・{(Ip+Im)/(Ip+Im)} …(7)
【0052】
変位回転成分演算部62の信号乗算部621には、検出された変位信号(センサ信号)dr(t)が入力される。信号乗算部621では、回転基準信号θに基づいて信号cosθ,sinθが生成され、回転成分を抽出するために、入力された変位信号dr(t)に信号cosθ,sinθがそれぞれ乗算される。そして、電流回転成分演算部60の場合と同じように、変位信号dr(t)に信号cosθ,sinθを乗算した信号をローパスフィルタ622によりフィルタリングする。その結果、cosθ成分およびsinθ成分の各振幅値ad,bdが抽出される。
【0053】
振幅値ad,bdは上述した振幅値ai,biに対応するもので、全く同様の演算により、振幅演算部623において振幅|dr(Ω)|が次式(21)のように算出され、位相演算部624において回転基準信号θに対する位相φ1が次式(22)のように算出される。
|dr(Ω)|=2√(ad+bd) …(21)
φ1=arctan(-bd/ad) …(22)
【0054】
I_D演算部612で算出されたI_D値と、振幅演算部623で算出された振幅|dr(Ω)|とは乗算器63において乗算される。さらに、振幅目標値をI_D・|dr(Ω)|として電流回転成分振幅|i(Ω)|との偏差を取り、振幅制御信号生成器64は、振幅偏差「I_D・|dr(Ω)|-|i(Ω)|」に対して少なくとも積分要素を含む、例えば、PI(比例+積分)制御により振幅制御信号を生成する。
【0055】
振幅制御信号生成器64から出力される振幅制御信号は、変位Δdrに起因する力の変動を電流変動成分Δiに起因する力の変動で打ち消して回転成分の振動を除去するための条件式(10)、(11)の内、振幅に関する式(10)に対応するものである。例えば、I_D・|dr(Ω)|に比例した値を振幅制御信号として出力する。この振幅制御信号は最終的には磁気浮上制御器417の浮上制御電流設定量と共に電流制御器441p,441mへ入力しフィードバックされるが、磁気浮上制御器417の入力信号(センサ信号)には残留した回転成分信号が乗ってくるので、その残留成分をキャンセルするための分(ここではγと表す)も鑑みて、I_D・|dr(Ω)|+γと表した値を振幅制御信号とする。
【0056】
変位回転成分演算部62の位相演算部624において算出された位相φ1はπが加算され、位相目標値をφ1+πとして電流回転成分演算部60の位相演算部604において算出された位相φ2との偏差が取られる。位相制御信号生成部65は、その位相偏差「φ1+π-φ2」に対して少なくとも積分要素を含む、例えば、PI(比例+積分)制御により位相制御信号を生成する。この場合も、磁気浮上制御器417の入力信号に残留する回転成分信号をキャンセルするための値ξが加算された位相制御信号が、位相制御信号生成部65から出力される。そして、位相制御信号に回転基準信号θを加算したものが制御出力演算部66に入力される。
【0057】
制御出力演算部66は、入力された振幅制御信号と位相制御信号とに基づいて、フィードバック制御信号である電流相当制御信号、すなわち、電流相当の回転成分の余弦波出力を生成する。すなわち、式(9)で示したΔi(Ω)=|i(Ω)|cos(θ+φ2)および式(8)で示したΔdr(Ω)=|dr(Ω)|cos(θ+φ1)に相当する振幅、位相情報を抽出し、変位Δdrに起因する力の変動を相殺する電流相当制御信号を出力する自動調整機構を作り込む。ここでは、[I_D・|dr(Ω)|+γ]cos(θ+φ1+π+ξ)が、変位Δdrに起因する力の変動を残留成分も含めて相殺する電流相当制御信号として出力される。出力された電流相当制御信号は、図4に示すように、p側にはそのまま加算され、m側にはマイナス符号を付けて加算される(すなわち、減算される)。
【0058】
なお、上述した磁気浮上制御器417の入力に残留する回転成分は、フィードバック制御に対する一種の定常的な外乱となる。本実施の形態では、外乱相当部を除去する振幅分γおよび位相分ξもPI制御出力に定常的に出力偏差として生成され、この外乱に関しても自動調整される。
【0059】
(C1)上述した実施形態では、制御装置1Bの制御部44は、電流回転成分演算部60において、励磁電流に含まれる電流回転周波数成分Δi(Ω)の、基準回転信号θに対する位相φ2および振幅値|i(Ω)|を算出し、変位回転成分演算部62において、変位信号に含まれる変位回転周波数成分Δdr(Ω)の、基準回転信号θに対する位相φ1および振幅値|dr(Ω)|を算出し、電流直流成分演算部61において、変位回転周波数成分Δdr(Ω)により生じる力が電流回転周波数成分Δi(Ω)により生じる力で相殺される場合の、電流回転周波数成分Δi(Ω)の振幅|i(Ω)|と変位回転周波数成分Δdr(Ω)の振幅|dr(Ω)|との比I_Dを算出し、位相φ2が位相φ1に位相値180度を加算した値と等しくなり、かつ、電流回転周波数成分Δi(Ω)の振幅値|i(Ω)|が変位回転周波数成分Δdr(Ω)と比I_Dとの積に等しくなるようにフィードバック制御する。
【0060】
このようなフィードバック制御を行うことで、従来のようにゲイン調整や位相調整を行わなくても、ロータアンバランスによる振れ回り変位Δdrに起因する電磁石からの力を、変位Δdrに対応して生成する励磁電流変動に起因する電磁力によって相殺することができる。
【0061】
(C2)さらに、位相制御信号生成部65および振幅制御信号生成器64に積分相当量(積分要素)を含むように構成することで、残留成分の除去をより効果的に行うことができる。
【0062】
また、電流直流成分演算部61は励磁電流の直流成分Ip,Imを検出するローパスフィルタ611を備え、抽出された直流成分Ip,Imに基づいて比I_Dを算出しているので、磁気軸受搭載装置の重力に対する設置姿勢がユーザによって任意に設定された場合でも、設置姿勢の変更による直流成分Ip,Imの変化が比I_Dに反映される。その結果、設置姿勢によらず低振動化を図ることができる。
【0063】
さらに、変位変換部442において、ロータ軸5の浮上位置変位を検出する変位センサからのセンサ信号に基づき磁気軸受位置における変位に相当する変位信号を生成し、その変位信号に基づいて位相φ1および振幅|dr(Ω)|を算出するようにしたので、ロータ変位の検出精度が向上し振動低減効果が向上する。
【0064】
なお、図1,2に示す構成では、ロータ位置を変位センサで検出する構成であるが、電磁石自体でロータ変位を検出する、いわゆるセルフセンシング方式の磁気軸受装置にも本発明は適用することができる。
【0065】
図4,6に示した制御系は一軸に関して示したものであるが、制御形磁気軸受の全ての軸に対して図4,6に示した制御系を設け、全ての軸に上述した制御を適用しても良い。本実施の形態の場合には、図1に示すように5軸制御形であるので、5組の制御系を適用する。また、ロータの軸方向のみの振動を低減したい場合には、アキシャル軸のみに上述した制御を適用すれば良い。さらにまた、予め振動の大きい特定軸が分かっている場合には、その特定軸にのみ上述した制御を適用しても大きな振動低減効果が得られる。
【0066】
なお、本実施の形態の回転成分低減に関するフィードバック制御に加えて、特許文献1(特開2017-075666号公報)に記載のような回転成分低減に関するフィードフォワード制御を設けても構わない。
【0067】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
図8は、変形例1を説明するブロック図である。図8に示す変形例1は、磁気軸受のラジアル軸の2つのペア、すなわちロータ上部のX-Y軸とロータ下部のX-Y軸において、重力の影響が各々のX-Y軸に対して均等になる(すなわち、直流電流成分の大きい側および小さい側、かつ、x軸、y軸ともに同じになる)ようにポンプ本体が設置される場合に適用できる。すなわち、xy面の変位回転成分が均等に振れ回る場合に適用できる。もちろん、2つのペアの内の1ペアだけに適用しても良い。
【0068】
図8に示す構成では、変位回転成分演算部62における信号乗算部621および振幅演算部623と、制御出力演算部66の処理が、図6における対応する箇所の処理内容と異なっている。電流回転成分演算部60ではx軸の励磁電流信号ixp(t),ixm(t)が用いられ、変位回転成分演算部62では2軸の変位drx(t)、dry(t)に基づいて演算が行われる。
【0069】
電流回転成分演算部60はIpx>Imxの場合を示したものであり、信号乗算部601にはp側の励磁電流信号ip(t)が入力される。信号乗算部601、ローパスフィルタ602、振幅演算部603および位相演算部604における処理は、図6に示す場合と同様であり説明を省略するが、振幅演算部603からは振幅|i(Ω)|が出力され、位相演算部604からは位相φ2が出力される。また、電流直流成分演算部61のI_D演算部612からは、図6に示す場合と同様に直流電流成分Ip,Imに基づくI_D値が出力される。
【0070】
変位回転成分演算部62の信号乗算部621では、変位信号(drx(t)、dry(t))の回転成分を抽出するための信号(図8に示すように行列で表される信号)を、入力された回転基準信号θに基づいて生成する。そして、変位信号(drx(t)、dry(t))に抽出用の信号を作用させて得られる信号をローパスフィルタ622でフィルタリングすることにより、cosθ成分およびsinθ成分の各振幅値ad,bdが抽出される。振幅演算部623では、adおよびbdに基づく振幅|dr(Ω)|=√(ad+bd)が算出される。また、位相演算部624では、adおよびbdに基づいて回転基準信号θに対する位相φ1=arctan(bd/ad)が算出される。
【0071】
振幅制御信号生成器64は振幅偏差「I_D・|dr(Ω)|-|i(Ω)|」に基づいて振幅制御信号を生成し、位相制御信号生成部65は、位相偏差「φ1+π-φ2」に基づいて位相制御信号を生成する。制御出力演算部66は、入力された振幅制御信号と位相制御信号とに基づいて、フィードバック制御信号である電流相当制御信号を、x軸およびy軸の各々に対して出力する。例えば、x軸のp側およびm側には[I_D・|dr(Ω)|+γ]cos(θ+φ1+π+ξ)が出力され、y軸のp側およびm側には[I_D・|dr(Ω)|+γ]sin(θ+φ1+π+ξ)が出力される。ここで、γ、ξは、図6で説明した場合と同様に、磁気浮上制御器417の入力に残留する回転成分を除去するためのものである。
【0072】
上述のような変形例1は、磁気軸受のラジアル軸の2つのペア、すなわちロータ上部のX-Y軸とロータ下部のX-Y軸において、重力の影響が各々のX-Y軸に対して均等になる(すなわち、直流電流成分の大きい側および小さい側、かつ、x軸、y軸ともに同じになる)ようにポンプ本体が設置される場合に適用できる。すなわち、xy面の変位回転成分が均等に振れ回る場合に適用できる。もちろん、2つのペアの内の1ペアだけに適用しても良い。
【0073】
(変形例2)
図6,8における説明では、図4の振動低減制御部443に入力される変位信号は、振幅低減および位相遅延が無い場合を例に説明した。しかしながら、特許文献1に記載されているようにセンサ回路33のフィルタのゲイン変化および位相遅延が無視できない場合には、それらの値(補正ゲインGβおよび補正位相φβ)を予め記憶しておき、振幅目標値をI_D・|dr(Ω)|→Gβ・I_D・|dr(Ω)|のように補正し、位相目標値をφ1+π→φ1+π+φβのように補正すれば良い。その結果、変形例2を図6に適用した場合には、制御出力演算部66から出力される電流相当制御信号は、[Gβ・I_D・|dr(Ω)|+γ]cos(θ+φ1+π+φβ+ξ)となる。
【0074】
以上説明した実施の形態および変形例では、回転周波数成分の基本波を例に説明したが、基準回転信号をθから高調波のnθに置き換えることで、高調波についても基本波の場合と同等の処理が行われる。
【0075】
また、予め重力に対する磁気軸受装置の設置方向が分かっている場合には、励磁電流の直流電流成分は予めわかるので、直流電流成分を検出するためのローパスフィルタ611を省略することができる。
【0076】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、磁気軸受装置を搭載する装置として真空ポンプを例に説明したが、真空ポンプに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
1…ターボ分子ポンプ、1A…ポンプ本体、1B…制御装置、3…ポンプロータ、5…ロータ軸、4A,4B…ラジアル磁気軸受、4C…アキシャル磁気軸受、33…センサ回路、42…モータ、43…励磁アンプ、44…制御部、45…磁気軸受電磁石、50x1,50x2,50y1,50y2,51…変位センサ、60…電流回転成分演算部、61…電流直流成分演算部、62…変位回転成分演算部、64…振幅制御信号生成器、65…位相制御信号生成部、66…制御出力演算部、417…磁気浮上制御器、442…変位変換部、443…振動低減制御部、611…ローパスフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8