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特許7119373非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20220809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220809BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220809BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/1393
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017564242
(86)(22)【出願日】2017-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2017002188
(87)【国際公開番号】W WO2017130918
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2016016699
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】加古 美紀
(72)【発明者】
【氏名】降矢 博
(72)【発明者】
【氏名】青木 寿之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕章
(72)【発明者】
【氏名】千澤 卓
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152092(WO,A1)
【文献】特開平09-291490(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152091(WO,A1)
【文献】特開平10-208731(JP,A)
【文献】特開2010-199281(JP,A)
【文献】特開2013-045984(JP,A)
【文献】特開2005-228620(JP,A)
【文献】特開2009-084099(JP,A)
【文献】特表2004-519408(JP,A)
【文献】特開平10-228896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/62
H01M 4/587
H01M 4/1393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電層(ただし、前記集電層を貫通するように形成された貫通孔を含むものを除く。)及び負極合剤層を有する負極を備える非水電解質二次電池であって、
前記負極合剤層は、炭素質粒子及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含有し、
前記炭素質粒子の平均粒子径は、3.5μm以下であり、
前記炭素質粒子は、難黒鉛化性炭素を含み、
前記炭素質粒子のBET法により測定した比表面積は、8.5/g以下であり、
前記炭素質粒子の広角X線解析法により決定される層間距離が3.40Å以上であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩のエーテル化度は、1.3以下である、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
負極合剤層と負極集電層(ただし、前記集電層を貫通するように形成された貫通孔を含むものを除く。)とを有する負極を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
炭素質粒子とカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とを含む合剤層を負極集電層に形成する工程を有し、
前記炭素質粒子の平均粒子径は、3.5μm以下であり、
前記炭素質粒子は、難黒鉛化性炭素を含み、
前記炭素質粒子のBET法により測定した比表面積は、8.5/g以下であり、
前記炭素質粒子の広角X線解析法により決定される層間距離が3.40Å以上であることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。
【0003】
前記用途のうち、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」ともいう。)やハイブリッド式の産業機械(重機、建機等)に用いられる二次電池においては、高い入出力特性が要求される。特に、HEV等の分野においては、このような入出力特性が低温環境下でも要求される。
【0004】
ここで、前記二次電池は、一般的には金属箔等の集電層に活物質を含む合剤層を積層した一対の電極(負極及び正極)を有し、これらをセパレータで電気的に隔離し、負極及び正極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成されている。
【0005】
負極の合剤層には、ハードカーボン等の炭素質粒子がそのバインダーと共に用いられる。バインダーとしては、非水溶剤系のバインダーが従来用いられてきたが、製造コストや環境負荷の低減の観点からスチレンブタジエンゴム等の水系バインダーが使用されつつある(例えば国際公開2013/125710号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2013/125710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される水系バインダーを用いた二次電池は、初期の入出力抵抗が高くなり易く、また低温での入出力特性は不十分となる恐れがある。そのため、数秒から数十秒の短時間に大電流を供給するといった入出力特性が要求されるHEV用電源等への適用が困難であると考えられる。
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、負極に水系バインダーを用いても高い入出力特性が得られ、HEV用電源等への適用が可能な非水電解質二次電池及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた発明は、負極合剤層を有する負極を備える非水電解質二次電池であって、前記負極合剤層は、炭素質粒子及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含有し、前記炭素質粒子の平均粒子径は、7μm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池である。
【0010】
前記課題を解決するためになされた別の発明は、負極合剤層と負極集電層とを有する負極を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、炭素質粒子とカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とを含む合剤層を負極集電層に形成する工程を有し、前記炭素質粒子の平均粒子径は、7μm以下であることを特徴とする。
【0011】
ここで、「炭素質粒子」とは、広角X線回析法により決定される層間距離(d002)が3.40Å以上の炭素粒子を意味する。「平均粒子径」とは、体積標準の粒度分布における累積度50%(D50)の粒子径を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非水電解質二次電池は、低温環境下において高い入出力特性を得ることができる。
【0013】
また、本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、低温環境下において高い入出力特性が得られる非水電解質二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池を示す模式的断面図である。
図2図2は、実施例の炭素質粒子の平均粒子径と低温での直流抵抗との関係を示すグラフである。
図3図3は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池を備える蓄電装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)及びその製造方法の実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0016】
[非水電解質二次電池]
図1は、本発明の二次電池5の構造単位を示すものである。二次電池5は、図1に示すように負極集電層2a及び負極合剤層3aを有する負極1aと、正極集電層2b及び正極合剤層3bを有する正極1bとがセパレータ4を介して配置される蓄電要素を備える。負極合剤層3aは、炭素質粒子及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、「CMC-Na塩」ともいう)を含有する。二次電池5は、蓄電要素を収納するケース(図示せず)を備えていてもよい。二次電池5は、ケース内に非水電解質(電解液)が充填される。
【0017】
<負極>
負極1aは、負極集電層2aと、この負極集電層2aの表面を被覆する負極合剤層3aとを備える。また、負極1aは負極集電層2aと負極合剤層3aとの間に図示しない中間層を有していてもよい。以下、負極1aの各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
(負極集電層)
負極集電層2aは導電性を有する層である。負極集電層2aの材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、導電性の高さとコストとのバランスから銅及び銅合金が好ましい。また、負極集電層2aの形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極集電層2aとしては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0019】
負極集電層2aの平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、負極集電層2aの平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。負極集電層2aの平均厚さが前記下限より小さい場合、負極集電層2aの強度が不足し、負極1aの形成が困難になるおそれがある。逆に、負極集電層2aの平均
厚さが前記上限を超える場合、二次電池の厚さを一定に収めるために他の構成要素の厚さが不足するおそれがある。
【0020】
(中間層)
中間層は、集電層の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極集電層2aと負極合剤層3aとの接触抵抗を低減する。本発明においては、中間層の有無や該中間層の構成は特に限定されない。中間層の構成としては、例えば、樹脂バインダー、導電性粒子、及び非導電性無機粒子を含有する組成物により形成することができる。なお、「導電性」とは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、前記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。
【0021】
(負極合剤層)
負極合剤層3aは、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができ、負極活物質としての炭素質粒子及び増粘剤としてのCMC-Na塩を含む。また、負極合剤層3aは、必要に応じて導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含んでもよい。当該二次電池は、負極合剤層3aが平均粒子径7μm以下の炭素質粒子とCMC-Na塩とを含むことにより、負極に水系バインダーを用いても高い入出力特性が得られる。そのため、当該二次電池によれば、低コスト及び低環境負荷で入出力特性に優れる電池を提供できる。
【0022】
負極合剤層3aが平均粒子径7μm以下の炭素質粒子とCMC-Na塩とを含むことで、二次電池の入出力抵抗が改善される理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察される。すなわち、負極合剤層3aが炭素質粒子とCMC-Na塩とを含むことで、この塩に含まれるナトリウムイオンが電解液中のリチウムイオンや電解液分解物と反応して、イオン伝導性が良好な固体電解質界面(SEI)皮膜が炭素質粒子の表面上に形成されると考えられる。炭素質粒子の表面上にSEI皮膜が形成されることにより、SEI皮膜を介してリチウムイオンの受け渡しが行われ、リチウムイオンの移動が容易になる。SEI皮膜は厚すぎても入出力抵抗が増大してしまうが、SEI皮膜がナトリウムイオンを含み、かつ炭素質粒子の平均粒子径が7μm以下であることによりSEI皮膜の厚さが適切な厚さとなると考えられる。その結果、水系バインダーを用いても初期の入出力抵抗及び低温での入出力特性に優れると考えられる。なお、本発明でいう「低温」とは、0℃以下の温度領域のことを意味する。
【0023】
[炭素質粒子]
炭素質粒子としては、例えば、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン);コークス、熱分解炭素等の易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。これらの中でも難黒鉛化性炭素が好ましい。炭素質粒子が難黒鉛化性炭素を含むことで、当該二次電池の入出力特性を高めることができる。なお、難黒鉛化性炭素とは、一般に不活性雰囲気中で加熱しても黒鉛になり難い物質であって、微小な黒鉛の結晶がそれぞれ異なる方向を向くように配置され、結晶と結晶との間に数nmの大きさの空隙がある炭素材料であり、広角X線回析法により決定される層間距離(d002)が3.60Å以上の炭素質粒子を意味する。
【0024】
炭素質粒子の平均粒子径の下限としては、1μmが好ましく、1.5μmがより好ましい。一方、炭素質粒子の平均粒子径の上限としては、7μmであり、4μmがより好ましい。炭素質粒子の平均粒子径が前記下限より小さい場合、該炭素質粒子の製造コストが高くなるおそれがある。逆に、炭素質粒子の平均粒子径が前記上限を超える場合、二次電池の低温での入出力抵抗が上昇するおそれがある。
【0025】
炭素質粒子のBET法により測定した比表面積の下限としては、1.0m2/gが好ま
しく、1.5m2/gがより好ましく、2.0m2/gがさらに好ましく、5.0m2/gがさらにより好ましい。また、前記比表面積の上限としては、9.0m2/gが好ましく、8.5m2/gがより好ましく、8.0m2/gがさらに好ましい。前記比表面積が前記上限を超える場合、電解液との反応が促進されるおそれがある。なお、「比表面積」とは、BET法により求められる比表面積(BET比表面積)を意味する。
【0026】
負極合剤層3aにおける炭素質粒子の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。一方、炭素質粒子の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、97質量%がより好ましい。炭素質粒子の含有量を前記範囲とすることで、当該二次電池の電気容量を高めることができる。
【0027】
[CMC-Na塩]
CMC-Na塩は、増粘剤として合剤の粘度を増加させるものであり、負極合剤層3aを負極集電層2aに固定することを助力する。
【0028】
CMC-Na塩のエーテル化度の下限としては、0.4が好ましく、0.45がより好ましく、0.5がさらに好ましい。前記エーテル化度の上限としては、1.4が好ましく、1.35がより好ましく、1.3がさらに好ましい。CMC-Na塩のエーテル化度を前記範囲とすることにより、負極合剤の負極集電層2aへの塗工性を向上させることができ、負極合剤層3aの負極集電層2aへの結着力を高めることができる。また、CMC-Na塩のエーテル化度は、無水グルコース1単位あたりに結合しているカルボキシメチル基の置換度をアルカリ度または酸度で測定することにより算出することができる。なお、CMC-Na塩のエーテル化度の上限値は、理論的には3.0まで可能であるが、製造が非常に困難である。
【0029】
負極合剤層3aは、CMC-Na塩以外の増粘剤を含有してもよい。CMC-Na塩以外の増粘剤としては、例えば、ナトリウム塩以外の塩を有するカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0030】
負極合剤層3aにおけるCMC-Na塩の含有量の下限としては、0.3質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、CMC-Na塩の含有量の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。CMC-Na塩の含有量が前記下限未満の場合、負極合剤層3aの負極集電層2aへの固定が不十分となるおそれがある。逆に、CMC-Na塩の含有量が前記上限を超える場合、当該二次電池の電気容量が低下するおそれがある。
【0031】
[バインダー]
バインダーは、炭素質粒子を負極集電層2aに固定するためのものである。バインダーとしては、水系バインダーを用いることができ、非水溶媒系バインダー等をさらに含んでいてもよい。
【0032】
水系バインダーとは、合剤を調整する際に、水系溶媒に溶解又は分散可能なバインダーを意味する。なお、水系溶媒とは、水、又は、水を主体とする混合溶媒を意味する。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコールや低級ケトン等)を例示することができる。また、非水溶媒系バインダーとは、合剤を調整する際に、非水系溶媒に溶解又は分散可能なバインダーを意味する。非水系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を例示することができる。
【0033】
バインダーとしては、公知のものを使用することができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、アラビアゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(PEO-PPO)等を用いることができる。
【0034】
バインダーとしては、製造コストや環境負荷の低減の観点から水系バインダーが好ましい。また、水系バインダーの中でも結着性の観点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。バインダーがスチレンブタジエンゴムを含むことにより、負極合剤層3aの負極集電層2aへの結着力を高めることができる。
【0035】
負極合剤層3aにおけるバインダーの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、バインダーの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダーの含有量を前記範囲とすることで、当該二次電池の電気容量を高めることができる。
【0036】
[その他の成分]
前記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0037】
<正極>
正極1bは、正極集電層2bと、この正極集電層2bの表面を被覆する正極合剤層3bとを備える。また、正極1bは、負極1aと同様、正極集電層2bと正極合剤層3bとの間に中間層を有していてもよい。この中間層は負極1aの中間層と同様の構成とすることができる。
【0038】
(正極集電層)
正極集電層2bは、負極集電層2aと同様の構成とすることができるが、材質としては、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。つまり、正極集電層2bとしてはアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0039】
(正極合剤層)
正極合剤層3bは、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。また、正極合剤層3bを形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0040】
正極合剤層3bに含まれる活物質粒子としては、二次電池に通常用いられる公知のものが使用できる。このような活物質粒子としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することができる活物質の紛体が用いられる。具体的な活物質としては、一般式Li1-aM1O2(0≦a≦1、M1はNi、Mn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、Mo又はZr)で表される化合物、一般式Li1-aNixM2yM3zO2(0≦a≦1、M2、M3はMn、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、Mo又はZrで、かつM2≠M3、x+y+z=1、0<x≦1、0≦y<1、0≦z<1)、一般式LiM4PO4(M4はMn、Fe又はCo)で表される
化合物、一般式LibM52O4(M5は遷移金属、0≦b≦2)で表される化合物等が挙げられる。また、前記一般式Li1-aNixM2yM3zO2で表される化合物のうち、LiNixMnyCozO2(x+y+z=1、0<x<1、0<y<1、0<z<1)で表される化合物がさらに好ましい。
【0041】
前記一般式で表される化合物の具体例としては、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、Co-Mn-Niの3元系リチウム化合物(LiNixMnyCozO2)、オリビン系リチウム化合物(LiFePO4)等を挙げることができる。
【0042】
また、正極活物質としては、MnO2、FeO2、TiO2等のほか、前記一般式で表される化合物以外のV2O5、V6O13、TiS2等の金属カルコゲン化物や、上述した化合物の複合酸化物等も用いることができる。
【0043】
また、正極活物質は、上述した二種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
<セパレータ>
セパレータ4としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0045】
セパレータ4には、片面または両面に絶縁層が形成された多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。絶縁層は、絶縁性の多孔質層である。絶縁層としては、例えば、無機酸化物を含有する多孔質層、樹脂ビーズを含有する多孔質層、アラミド樹脂等の耐熱性樹脂を含有する多孔質層等を採用することができる。これらの中でも、無機酸化物を含有する多孔質層が好ましい。絶縁層は、必要に応じてバインダーや増粘剤を含んでいてもよい。絶縁層に含有されるバインダーや増粘剤としては、それぞれ特に制限されず、例えば合剤層(正極合剤層あるいは負極合剤層)に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0046】
無機酸化物としては、公知のものを使用できるが、化学的安定性に優れている無機酸化物が好ましい。このような無機酸化物としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカ、ベーマイト等が挙げられる。
【0047】
絶縁層を形成する方法としては、公知のものを採用することができ、例えば、無機酸化物およびバインダーを含有する絶縁層形成用合剤を、多孔質樹脂フィルムの片面または両面に塗工して乾燥することにより、絶縁層を形成することができる。
【0048】
<非水電解質>
非水電解質(電解液)は、以下に説明する溶媒に電解質塩を溶解させることにより調製される。
【0049】
非水電解質(電解液)を構成する溶媒としては、非水電解質二次電池に通常用いられる公知のものが使用できる。このような溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。これら二種以上を混合して用いてもよい。このような溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを混合したものが好ましい。
【0050】
非水電解質(電解液)を構成する電解質塩としては、非水電解質二次電池に通常用いられる公知のものが使用できる。このような電解質塩として、LiBF4、LiPF6、L
iClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)、(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等が挙げられる。これら二種以上を用いてもよい。特に、良好なイオン伝導性の観点から、電解質塩としてはLiPF6が好ましい。
【0051】
溶媒中における電解質塩の濃度の下限としては、0.5mol/lが好ましく、0.7mol/lがより好ましい。また、前記濃度の上限としては、1.5mol/lが好ましく、1.3mol/lがより好ましい。溶媒中における電解質塩の濃度を前記範囲とすることで、良好なイオン導電率を得ることができる。
【0052】
[二次電池の製造方法]
当該二次電池の製造方法は、炭素質粒子とカルボキシメチルセルロースナトリウム塩とを含む負極合剤層3aを負極集電層2aに形成する工程と、正極合剤層3bを正極集電層2bに形成する工程とを主に備える。
【0053】
<負極合剤層形成工程>
本工程では、負極集電層2aへの負極合剤の塗工により負極1aを形成することができる。具体的には、負極集電層2aに負極合剤を塗工して乾燥することにより負極合剤層3aを形成する。
【0054】
負極合剤は、上述の炭素質粒子及びCMC-Na塩以外に、バインダー等の任意成分を含んでいてもよい。負極合剤は、さらに溶剤を含むと良い。この溶剤としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶剤;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶剤を用いることができる。
【0055】
CMC-Na塩の平均粒子径としては、例えば30μm以上100μm以下とすることができる。CMC-Na塩の平均粒子径は、篩(JIS規格)または粒度分布による測定における累積体積比から算出することができる。
【0056】
CMC-Na塩の濃度1質量%の水溶液の25℃での粘度の下限としては、100mPa・sが好ましく、200mPa・sがより好ましく、300mPa・sがさらに好ましく、前記粘度の上限としては、8000mPa・sが好ましく、5000mPa・sがより好ましく、2300mPa・sがさらに好ましい。前記粘度を前記範囲とすることで、負極合剤の負極集電層2aへの塗工性を向上させることができ、負極合剤層3aの結着性を高めることができる。
【0057】
乾燥の温度としては、例えば50℃以上150℃以下とすることが好ましい。また、乾燥の時間としては、例えば1分以上60分以下とすることが好ましい。
【0058】
<正極合剤層形成工程>
本工程では、正極集電層2bへの正極合剤の塗工により正極1bを形成することができる。具体的には、正極集電層2bに正極合剤を塗工して乾燥することにより正極合剤層3bを形成する。乾燥の条件としては、前記負極合剤層形成工程と同様とすることができる。
【0059】
なお、前記乾燥後、負極合剤層3aを積層した負極集電層2a及び正極合剤層3bを積層した正極集電層2bのそれぞれをロール等によりプレスすることが好ましい。
【0060】
<その他の工程>
上述のようにして得られた負極1a及び正極1bをケース(不図示)に組み付け、ケー
ス内に電解液を充填し、このケースを密閉する。
【0061】
[その他の実施形態]
本発明の二次電池は、前記実施形態に限定されるものではない。当該二次電池は、一対のみの正極及び負極を備える構成としてもよいし、複数対の正極及び負極を備える構成としてもよい。
【0062】
<蓄電装置>
本発明の二次電池を、単数或いは複数個用いることにより、組電池を構成することができ、当該組電池を用いて蓄電装置を構成することができる。蓄電装置の一実施形態を図3に示す。蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、二次電池5を備えた組電池を用いて構成することができる。蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
まず、負極活物質である炭素質粒子として、難黒鉛化性炭素(平均粒子径(D50):2.5μm、比表面積:7.9m2/g)と、バインダーとして、スチレンブタジエンゴムと、増粘剤として、CMC-Na塩(1質量%濃度における粘度:600mPa・s、エーテル化度:0.6)とを用い、炭素質粒子95質量部、バインダー3質量部、増粘剤2質量部、及び水を混練して負極合剤を調整した。
【0065】
なお、平均粒子径は、測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2200、島津製作所社製)、測定制御ソフトとしてWing SALD-2200を用いて測定した。具体的な測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、測定対象試料(炭素質粒子)が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%(D50)にあたる粒子径を平均粒子径とする。なお、当該体積標準の粒度分布における累積度50%(D50)の粒子径は、極板のSEM画像から、極端に大きい炭素質粒子及び極端に小さい炭素質粒子を避けて100個の炭素質粒子を抽出して測定する粒子径とほぼ一致することが確認されている。
【0066】
また、比表面積は、測定装置として、TiStar3000型(Micromeritics社製)を用い、N2吸着法により求めた。具体的な測定手法としては、多点法(5点プロット)を採用し、相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて測定を行うことで比表面積を測定する。なお、比表面積の測定前には、試料を150℃の窒素フロー環境下に1時間保持して乾燥させる処理を行う。
【0067】
前記負極合剤を、負極集電層としての銅箔(厚み10μm)の表面に塗工し、乾燥して、負極合剤層を形成し、実施例1の負極を得た。
【0068】
[実施例2~4、比較例1]
炭素質粒子の平均粒子径を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1の負極を得た。また、各炭素質粒子の比表面積を表1に示す。
【0069】
[比較例2~5]
増粘剤として、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩(以下、「CMC-NH4塩」ともいう。)(1質量%濃度における粘度:600mPa・s、エーテル化度:0.6)を用いた以外は、実施例2~4及び比較例1と同様にして、比較例2~5の負極を得た。
【0070】
[比較例6、7]
負極活物質として、炭素質粒子ではない黒鉛(平均粒子径(D50):7.9μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例6の負極を得た。同様に、負極活物質として前記黒鉛を用いた以外は、比較例2と同様にして、比較例7の負極を得た。
【0071】
[評価]
実施例1~4及び比較例1~7の負極について、以下の方法で評価を行った。まず、これらの負極と、正極活物質としてLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、ポリフッ化ビニリデンを5質量部含む正極と、ポリエチレン製のセパレータと、PC、DMC及びEMCを体積比で30%:30%:40%で混合した溶剤にLiPF6を1.2mol/L溶かした電解質とを用いて電池を作製した。また、電池の公称容量は450mAhとした。
【0072】
次に、これらの電池を25℃において1CmAの定電流で4.2Vまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で合計3時間充電した後、1CmAの定電流で終止電圧2.25Vまで放電を行うことにより、初期放電容量を測定した。さらに、初期放電容量の確認試験後の各電池について、初期容量の50%を充電することで電池の充電状態(SOC)を50%に調整し、-10℃にて4時間保持した後、0.2CmA(I1)で10秒間放電した時の電圧(E1)、0.5CmA(I2)で10秒間放電した時の電圧(E2)、及び1CmA(I3)で10秒間放電した時の電圧(E3)をそれぞれ測定した。これらの測定値(E1、E2、E3)を用いて、直流抵抗を算出した。具体的には、横軸を電流、縦軸を電圧とするグラフ上に、前記測定値E1、E2、E3をプロットし、それら3点を最小二乗法による回帰直線(近似直線)により近似し、その直線の傾きを-10℃でのSOCが50%の直流抵抗とした。結果を表1及び図2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1及び図2に示されるように、負極の増粘剤としてCMC-Na塩を用い、さらに炭素質粒子の平均粒子径を7μm以下とすることで、増粘剤としてCMC-NH4塩を用いた場合に比べ、低温での直流抵抗が小さく出力特性が向上することがわかる。炭素質粒子およびCMC-Na塩を含む負極を備えた電池は、炭素質粒子の平均粒子径が8μm近傍において低温での出力特性が逆転し、炭素質粒子およびCMC-NH4塩を含む負極を備えた電池と比べて低温での直流抵抗が小さく出力特性が向上することがわかる。
【0075】
また、炭素質粒子の平均粒子径を4μm以下とすることで、抵抗値を大きく低減できることがわかる。
【0076】
また、炭素質粒子の比表面積を5m2/g以上とすることで、抵抗値を大きく低減できることがわかる。
【0077】
また、活物質として炭素質粒子でない黒鉛を用いた比較例6、7では、増粘剤の違いによる抵抗の差異がほとんど見られなかった。従って、上述の抵抗値の低減効果は、炭素質粒子をCMC-Na塩と組み合わせることによって奏されると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明に係る非水電解質二次電池は、負極に水系バインダーを用いても、低温環境下において高い入出力特性が得られるため、例えばHEV用のリチウムイオン二次電池として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0079】
1a 負極
1b 正極
2a 負極集電層
2b 正極集電層
3a 負極合剤層
3b 正極合剤層
4 セパレータ
5 非水電解質二次電池
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3