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  • 特許-オフフレーバーの抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】オフフレーバーの抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20220809BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20220809BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220809BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220809BHJP
   A23F 5/40 20060101ALI20220809BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220809BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20220809BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
A23L29/00
A23C9/152
A23L2/38 P
A23L2/00 B
A23F5/40
A23L27/00 Z
A23L27/20 A
A23L27/20 D
A23L5/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018015745
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019129774
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100169041
【弁理士】
【氏名又は名称】堺 繁嗣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真悟
(72)【発明者】
【氏名】河戸 弥生
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 千織
(72)【発明者】
【氏名】若林 秀彦
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-015685(JP,A)
【文献】特開2012-034603(JP,A)
【文献】特表2012-520063(JP,A)
【文献】特表2003-513994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23C、A23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品のオフフレーバーを抑制する方法であって、
エチルイソチオシアネートを飲食品またはその原料に添加することを含み、
前記飲食品が、乳成分を含有する飲食品であり、
前記エチルイソチオシアネートが、喫食濃度が0.00001ppm(w/w)超且つ100ppm(w/w)未満となるように添加される、方法。
【請求項2】
前記飲食品が、コーヒー飲料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物であって、
飲食品のオフフレーバー抑制用であり、
エチルイソチオシアネートを含有し、
前記飲食品が、乳成分を含有する飲食品であり、
前記エチルイソチオシアネートを、0.00001ppm(w/w)超且つ100ppm(w/w)未満の喫食濃度で含有する、組成物。
【請求項4】
前記飲食品が、コーヒー飲料である、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品のオフフレーバーを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「オフフレーバー」とは、飲食品に生じる異臭をいう。オフフレーバーは、例えば、飲食品の加熱や保存により生じ得る。オフフレーバーとしては、例えば、乳成分に起因するものが知られている(特許文献1)。
【0003】
オフフレーバー等の異臭を抑制する方法としては、例えば、デンプン分解物を利用した加熱劣化臭を抑制する方法(特許文献1)、イソチオシアネート類を利用した酸臭を抑制する方法(特許文献2)、アリルイソチオシアネートを利用したネギの乾燥臭を抑制する方法(特許文献3)、特定の成分を含有するコーヒーフレーバー組成物を利用する方法(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-295335
【文献】特開2012-034603
【文献】特開2017-135987
【文献】特開2006-020526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、飲食品のオフフレーバーを抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エチルイソチオシアネート等の特定の化合物がミルクオフフレーバーを抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
飲食品の製造方法であって、
下記成分(A)を飲食品またはその原料に添加すること:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物
を含み、
前記飲食品が、乳成分を含有する飲食品である、方法。
[2]
前記製造される飲食品においてオフフレーバーが抑制されている、前記方法。
[3]
飲食品のオフフレーバーを抑制する方法であって、
下記成分(A)を飲食品またはその原料に添加すること:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物
を含み、
前記飲食品が、乳成分を含有する飲食品である、方法。
[4]
前記成分(A)が、喫食濃度が0.00001ppm(w/w)超且つ100ppm(w/w)未満となるように添加される、前記方法。
[5]
前記成分(A)が、エチルイソチオシアネートである、前記方法。
[6]
前記飲食品が、コーヒー飲料である、前記方法。
[7]
下記成分(A)および乳成分を含有する飲食品:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
[8]
オフフレーバーが抑制されている、前記飲食品。
[9]
前記成分(A)を、0.00001ppm(w/w)超且つ100ppm(w/w)未満の喫食濃度で含有する、前記飲食品。
[10]
前記成分(A)が、エチルイソチオシアネートである、前記飲食品。
[11]
コーヒー飲料である、前記飲食品。
[12]
組成物であって、
飲食品のオフフレーバー抑制用であり、
下記成分(A):
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物
を含有し、
前記飲食品が、乳成分を含有する飲食品である、組成物。
[13]
前記成分(A)が、エチルイソチオシアネートである、前記組成物。
[14]
前記飲食品が、コーヒー飲料である、前記組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、飲食品のオフフレーバーを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】加熱劣化ミルク入りコーヒーにおける、エチルイソチオシアネート(EI)による加熱劣化臭の抑制効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>有効成分
本発明においては、下記成分(A)を利用する:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリ
ド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0012】
成分(A)としては、特に、エチルイソチオシアネートが挙げられる。成分(A)としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
成分(A)を「有効成分」ともいう。
【0014】
有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を飲食品に配合することにより、飲食品のオフフレーバーを抑制することができる。すなわち、有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を飲食品に配合することにより、飲食品のオフフレーバーを抑制する効果が得られる。同効果を、「オフフレーバー抑制効果」ともいう。「オフフレーバーの抑制」を、「オフフレーバーのマスキング」ともいう。なお、「オフフレーバーの抑制」には、将来的に発生し得るオフフレーバーの抑制および既に発生しているオフフレーバーの抑制の両方が包含される。また、「オフフレーバーの抑制」には、オフフレーバーが完全に消失する場合も包含される。「オフフレーバー」とは、飲食品に生じる異臭をいう。オフフレーバーとしては、飲食品の加熱により生じる異臭や、飲食品の保存により生じる異臭が挙げられる。オフフレーバーとしては、特に、飲食品の加熱により生じる加熱劣化臭が挙げられる。オフフレーバーとして、具体的には、乳成分に起因するオフフレーバー(ミルクオフフレーバー)が挙げられる。オフフレーバー抑制効果は、有効成分の非利用時と有効成分の利用時における飲食品のオフフレーバーを測定し比較することにより決定できる。すなわち、有効成分の非利用時と比較して、有効成分の利用時にオフフレーバーが低減されている場合に、オフフレーバー抑制効果が得られたと判断できる。オフフレーバーの測定および比較は、例えば、専門パネルによる官能評価により実施できる。
【0015】
有効成分としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。有効成分の製造方法は特に制限されない。有効成分は、例えば、化学合成、酵素反応、発酵法、抽出法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。有効成分は、所望の程度に精製されていてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、有効成分としては、精製品を用いてもよいし、有効成分を含有する素材を用いてもよい。有効成分としては、例えば、純度が50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上のものを用いてもよい。
【0016】
<2>飲食品
飲食品は、既にオフフレーバーを呈しているか、将来的にオフフレーバーを呈し得るものであれば特に制限されない。飲食品としては、乳成分を含有する飲食品が挙げられる。「乳成分」とは、乳原料に由来する成分をいう。すなわち、「乳成分を含有する飲食品」とは、乳原料を用いて製造された飲食品であってよい。乳原料としては、牛乳、山羊乳、羊乳、水牛乳、トナカイ乳、ロバ乳、ラクダ乳等の哺乳類の乳が挙げられる。乳原料は、生乳(原乳)であってもよく、そうでなくてもよい。乳原料は、加熱、濃縮、乾燥、分離、精製、ホモジナイズ、成分調整等の加工がなされたものであってもよく、そうでなくてもよい。これらの加工は、1種を単独で実施してもよく、2種またはそれ以上を組み合わせて実施してもよい。乳原料として、具体的には、例えば、上記例示したような乳の、全乳、脱脂乳、部分脱脂乳、乳清(ホエイ)、クリーム、カード、チーズ、ヨーグルト、バター、バターミルク、乳脂肪、乳タンパク質、それらの加工品が挙げられる。乳原料としては、1種の原料を用いてもよく、2種またはそれ以上の原料を組み合わせて用いてもよい。乳成分として、具体的には、例えば、上記例示したような乳原料そのものや、それら乳原料に含まれる成分が挙げられる。乳成分を含有する飲食品として、具体的には、例えば、コーヒー飲料、発酵乳、乳酸菌飲料等の飲料;ケーキ、ホットケーキ、ドーナツ、プ
リン等の菓子;クリームスープ等のスープ;ホワイトソース、ブラウンソース、カスタードソース、チーズソース、シチュー、カレー、グラタン等のソースやそれを利用した料理;粉ミルク、脱脂粉乳等の乳加工品が挙げられる。乳成分を含有する飲食品としては、特に、コーヒー飲料が挙げられる。また、乳成分を含有する飲食品として、具体的には、例えば、上記例示したような乳原料そのものも挙げられる。飲食品は、例えば、加熱工程を経て製造されたものであってもよい。飲食品は、具体的には、例えば、加熱工程が実施された乳原料を配合して製造されたものであってもよく、乳原料を配合してから加熱工程を実施して製造されたものであってもよい。
【0017】
飲食品の提供態様は特に制限されない。飲食品は、そのまま喫食できる態様で提供されてもよく、そうでなくてもよい。飲食品は、例えば、喫食前または喫食時に喫食に適した態様に調製されて喫食されてもよい。例えば、コーヒー飲料等の飲料の場合、そのまま喫食できる容器詰飲料(缶コーヒー等)として提供されてもよく、希釈して喫食する粉末等の濃縮物(スティックコーヒー等)として提供されてもよい。すなわち、例えば、コーヒー飲料等の飲料は、容器詰コーヒー飲料等の容器詰飲料であってもよい。容器としては、ペットボトル等のプラスチックボトル、スチール缶やアルミ缶等の金属製缶、紙パックが挙げられる。また、飲食品には、一般食品に限られず、栄養補助食品(サプリメント)、栄養機能食品、特定保健用食品等の、いわゆる健康食品や医療用食品も包含される。例えば、上記例示したような飲食品は、一般食品として提供されてもよいし、健康食品や医療用食品として提供されてもよい。
【0018】
なお、ここでいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を含有する飲料であって、乳成分を含有するものをいうものとする。ここでいう「コーヒー飲料」には、例えば、コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約における「コーヒー」(内容量100g中にコーヒー生豆換算で5g以上のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むもの)、「コーヒー飲料」(内容量100gにコーヒー生豆換算で2.5g以上5g未満のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むもの)、「コーヒー入り清涼飲料」(内容量100g中にコーヒー生豆換算で1g以上2.5g未満のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むもの)のいずれもが包含される。
【0019】
<3>本発明の組成物
本発明の組成物は、有効成分を含有する組成物である。
【0020】
すなわち、本発明の組成物は、下記成分(A)を含有する組成物である:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0021】
本発明の組成物は、飲食品に配合して利用できる。本発明の組成物の使用態様は、「本発明の方法」において詳述する。本発明の組成物を利用することにより、具体的には本発明の組成物を飲食品に配合することにより、飲食品のオフフレーバーを抑制することができる、すなわち、オフフレーバー抑制効果が得られる。すなわち、本発明の組成物は、飲食品のオフフレーバー抑制用の組成物であってよい。オフフレーバー抑制用の組成物を、「オフフレーバー抑制剤」ともいう。本発明の組成物は、例えば、調味料として構成されてもよい。
【0022】
本発明の組成物は、有効成分からなるものであってもよく、有効成分以外の成分を含有していてもよい。有効成分以外の成分を、「その他の成分」ともいう。
【0023】
「その他の成分」は、オフフレーバー抑制効果を損なわない限り、特に制限されない。
「その他の成分」としては、経口摂取可能なもの等の、本発明の組成物の用途に応じて許容可能なものを利用できる。「その他の成分」としては、例えば、調味料、飲食品、または医薬品に配合して利用されるものを利用できる。「その他の成分」として、具体的には、例えば、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、スクロース、グルコース、フルクトース、異性化糖、オリゴ糖等の糖類;キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール類;高甘味度甘味料;食塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;酢酸、クエン酸等の有機酸類およびその塩;グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸類およびその塩;イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸等の核酸類およびその塩;食物繊維、pH緩衝剤、賦形剤、増量剤、香料、食用油、エタノール、水が挙げられる。「その他の成分」としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の組成物の形態は特に制限されない。本発明の組成物は、例えば、粉末状、顆粒状、液状、ペースト状、キューブ状等のいかなる形態であってもよい。
【0025】
本発明の組成物における各成分(すなわち、有効成分および任意でその他の成分)の含有量や含有量比は、オフフレーバー抑制効果が得られる限り、特に制限されない。本発明の組成物における各成分の含有量や含有量比は、有効成分の種類、その他の成分の種類、飲食品の種類、および本発明の組成物の利用態様等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0026】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、0.0001ppm(w/w)以上、0.001ppm(w/w)以上、0.01ppm(w/w)以上、0.1ppm(w/w)以上、1ppm(w/w)以上、10ppm(w/w)以上、100ppm(w/w)以上、1000ppm(w/w)以上、1%(w/w)以上、5%(w/w)以上、または10%(w/w)以上であってもよく、100%(w/w)以下、99.9%(w/w)以下、70%(w/w)以下、50%(w/w)以下、30%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、または1%(w/w)以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。
【0027】
また、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、有効成分の喫食濃度が所望の範囲となるような量であってもよい。具体的には、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、本発明の組成物を利用して飲食品を製造した際に、有効成分の喫食濃度が所望の範囲となるような量であってよい。有効成分の喫食濃度は、例えば、後述する範囲であってよい。
【0028】
なお、各成分の含有量は、同成分を含有する素材を用いる場合にあっては、特記しない限り、当該素材中の同成分そのものの量に基づいて算出されるものとする。
【0029】
本発明の組成物が2種またはそれ以上の成分を含有する場合、各成分は、互いに混合されて本発明の組成物に含有されていてもよく、それぞれ別個に、あるいは、任意の組み合わせで別個に、本発明の組成物に含有されていてもよい。
【0030】
<4>本発明の方法
本発明の方法は、有効成分を飲食品またはその原料に添加することを含む方法である。
【0031】
すなわち、本発明の方法は、下記成分(A)を飲食品またはその原料に添加することを含む方法である:
(A)エチルイソチオシアネート、2-メチルベンゼンチオール、15-ペンタデカノリド、エチルメルカプトアセテート、メチルイソチオシアネート、およびフェネチルイソチオシアネートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0032】
本発明の方法により、具体的には有効成分を飲食品に配合することにより、飲食品のオフフレーバーを抑制することができる、すなわち、オフフレーバー抑制効果が得られる。すなわち、本発明の方法は、飲食品のオフフレーバーを抑制する方法であってよい。
【0033】
また、本発明の方法により飲食品が得られる。すなわち、本発明の方法は、飲食品の製造方法であってもよい。本発明の方法により得られる飲食品を「本発明の飲食品」ともいう。本発明の飲食品は、有効成分が添加された飲食品であり、また、有効成分を含有する飲食品である。なお、「添加」を「配合」ともいう。また、本発明の飲食品は、オフフレーバーが抑制された飲食品であってよい。
【0034】
本発明の飲食品は、有効成分を添加すること以外は、通常の飲食品と同様の原料を用い、同様の方法によって製造することができる。有効成分の添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行われてもよい。すなわち、有効成分は、飲食品の原料に添加されてもよく、製造途中の飲食品に添加されてもよく、完成した飲食品に添加されてもよい。有効成分は、1回のみ添加されてもよく、2またはそれ以上の回数に分けて添加されてもよい。
【0035】
本発明の方法は、さらに、その他の成分(有効成分以外の成分)を添加することを含んでいてもよい。ここでいう「その他の成分」については、上述した本発明の組成物における「その他の成分」についての記載を準用できる。「その他の成分」を添加する場合、「その他の成分」の添加も、有効成分の添加と同様に行うことができる。
【0036】
2種またはそれ以上の成分を添加する場合、各成分は、同時に飲食品またはその原料に添加されてもよいし、それぞれ別個に、あるいは、任意の組み合わせで別個に、飲食品またはその原料に添加されてもよい。
【0037】
本発明の方法における各成分(すなわち、有効成分および任意でその他の成分)の添加量や添加比率は、オフフレーバー抑制効果が得られる限り特に制限されない。本発明の方法における各成分の添加量や添加量比は、有効成分の種類、飲食品の種類、および飲食品の摂取態様等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0038】
有効成分は、飲食品またはその原料に、例えば、有効成分の喫食濃度が所望の範囲となるように添加されてよい。有効成分の喫食濃度は、例えば、0.00001ppm(w/w)超、0.0001ppm(w/w)以上、0.001ppm(w/w)以上、0.01ppm(w/w)以上、0.1ppm(w/w)以上、0.2ppm(w/w)以上、0.5ppm(w/w)以上、または1ppm(w/w)以上であってもよく、100ppm(w/w)未満、70ppm(w/w)以下、50ppm(w/w)以下、30ppm(w/w)以下、20ppm(w/w)以下、10ppm(w/w)以下、7ppm(w/w)以下、5ppm(w/w)以下、3ppm(w/w)以下、2ppm(w/w)以下、または1ppm(w/w)以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。有効成分の喫食濃度は、具体的には、例えば、0.00001ppm(w/w)超且つ100ppm(w/w)未満、好ましくは0.0001ppm(w/w)~10ppm(w/w)、より好ましくは0.001ppm(w/w)~1ppm(w/w)であってもよい。
【0039】
上記例示した有効成分の喫食濃度は、飲食品の喫食態様に応じて、そのまま、あるいは適宜修正して、当該有効成分の添加量とすることができる。すなわち、濃縮または希釈されず喫食される(例えば、そのまま喫食される)飲食品を製造する場合、上記例示した有効成分の喫食濃度は、そのまま、当該有効成分の添加量と読み替えてよい。また、濃縮または希釈されて喫食される飲食品を製造する場合、上記例示した有効成分の喫食濃度と、
濃縮または希釈の倍率とから、当該有効成分の添加量を設定することができる。例えば、10倍希釈して喫食される飲食品を製造する場合、上記例示した有効成分の喫食濃度の10倍を、当該有効成分の添加量として設定してよい。
【0040】
なお、有効成分の添加量は、有効成分を含有する素材を用いる場合にあっては、当該素材中の有効成分そのものの量に基づいて算出されるものとする。
【0041】
有効成分は、例えば、本発明の組成物を利用して(すなわち本発明の組成物を飲食品に配合することにより)、飲食品に配合することもできる。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、本発明の組成物を飲食品またはその原料に添加することを含む方法であってよい。「有効成分の添加」には、本発明の組成物の添加も包含される。
【0042】
本発明の組成物を添加する場合、その添加量は、オフフレーバー抑制効果が得られる限り特に制限されない。本発明の組成物の添加量は、本発明の組成物の組成(例えば、有効成分の種類や含有量)、飲食品の種類、飲食品の摂取態様等の諸条件に応じて適宜設定することができる。例えば、飲食品またはその原料に対して、本発明の組成物を、1ppm(w/w)~50%(w/w)添加してもよく、10ppm(w/w)~10%(w/w)添加してもよい。また、本発明の組成物の添加態様については、上述したような有効成分の添加に関する記載を準用できる。すなわち、本発明の組成物は、例えば、有効成分の喫食濃度が上記例示した有効成分の喫食濃度範囲内となるように、飲食品またはその原料に対して添加されてよい。また、本発明の組成物を「その他の成分」とさらに併用してもよい。
【0043】
<5>有効成分の使用
また、本発明は、上記のような用途での有効成分の使用を提供する。すなわち、本発明は、例えば、オフフレーバーの抑制のための有効成分の使用やオフフレーバー抑制用の組成物の製造のための有効成分の使用を提供する。
【実施例
【0044】
以下、非限定的な実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0045】
実施例1:エチルイソチオシアネートによるミルクにおけるオフフレーバーの抑制
<方法>
124℃ 20分間レトルト加熱処理したミルク(市乳:アルミ缶封入)に対してエチルイソチオシアネート(EI)を10ppt~1000ppmの濃度になるように添加し、被験サンプルとした。
【0046】
被験サンプルについて、パネラー4名、繰り返し1回で、オフフレーバー(加熱劣化臭)の官能評価を実施した。EIを添加していないレトルト処理ミルクを5点とし、以下の基準
に従い被験サンプルを0.1点刻みで評点付けした。
5点:無添加品と加熱劣化臭に差がない
4点:加熱劣化臭がやや抑制されている
3点:加熱劣化臭が抑制されている
2点:加熱劣化臭がかなり抑制されている
1点:加熱劣化臭が非常に抑制されている
0点:加熱劣化臭を感じない
【0047】
<結果>
EIの添加によるオフフレーバー(加熱劣化臭)の抑制が確認された。特に、EI添加濃度が100ppt~10ppmのサンプルでEI添加濃度依存的な加熱劣化臭の抑制が確認された。なお
、評点「-」のサンプルは、EI自体が有する香りが強く付与されたため、定量的な評価を
実施しなかった。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例2:エチルイソチオシアネートによるコーヒー飲料におけるミルク入りコーヒーにおけるオフフレーバーの抑制
<方法>
表2の配合に従い124℃ 20分レトルト加熱処理したミルク(アルミ缶封入)を用いて加熱劣化ミルク入りコーヒーを調製した。加熱劣化ミルク入りコーヒーに対してエチルイソチオシアネート(EI)を1ppmの濃度になるように添加し、被験サンプルとした。
【0050】
【表2】
【0051】
被験サンプルについて、パネラー5名、繰り返し2回で、オフフレーバー(加熱劣化臭)の官能評価を実施した。加熱劣化ミルク入りコーヒーを10mL嚥下した時の加熱劣化臭の強度を5とし、被験サンプルの加熱劣化臭の強度を0から10(0.5刻み)の20段階で評価した。
【0052】
<結果>
結果を図1に示す。EIの添加によってオフフレーバー(加熱劣化臭)の強度が有意に低下した。すなわち、加熱劣化ミルク入りコーヒーにおいても、EIの添加による加熱劣化臭の抑制が確認された。
図1