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特許7119402膜電極接合体およびこれを備えた固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】膜電極接合体およびこれを備えた固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220809BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220809BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 M
H01M8/10 101
H01M8/1067
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018021933
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019139952
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友希
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-076907(JP,A)
【文献】特開2003-331851(JP,A)
【文献】特開2009-211869(JP,A)
【文献】特開2009-259782(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0169950(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0107480(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/10
H01M 8/1067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の両面にそれぞれ配置された触媒層と、を有する、膜電極接合体であって、
前記触媒層は、触媒、前記触媒を担持している炭素粒子、前記高分子電解質膜と同質の材料からなる高分子電解質、及び繊維状物質を含み、
前記高分子電解質膜の平均厚みは1μm~500μmであり、
前記繊維状物質の繊維径は0.5nm~500nmであり、前記繊維状物質の繊維長は1μm~200μmであり、
前記触媒層の平均厚みは0.1~100μmであり、
前記触媒層の前記高分子電解質膜とは反対側の面の入射角60°で測定された光沢度が3.0GU以上10.0GU以下である膜電極接合体
【請求項2】
前記繊維状物質は、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバーである請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または2記載の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池は、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、固体高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造を有し、燃料極側に水素を含む燃料ガス、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H → 2H+ 2e・・・(1)
カソード:1/2O + 2H + 2e → HO ・・・(2)
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側触媒層に供給された燃料ガスは、触媒によりプロトンと電子となる(上記(1)の反応)。プロトンは、アノード側触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスが反応して水を生成する(上記(2)の反応)。このように、電子が外部回路を通ることにより発電する。
【0004】
このような固体高分子形燃料電池では、製造中に触媒層にクラックが発生することがある。これに伴い触媒層が島状に形成されてしまうと、触媒層における電気抵抗が増大し、燃料電池の出力が著しく低下する可能性がある。
特許文献1では、固体高分子形燃料電池の耐久性を十分に確保しながら、触媒層における電気伝導性及びガス拡散性の両方の向上を実現させるために、触媒層の触媒担持体として、カーボン粒子とカーボン繊維とを混合して用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-362875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、触媒層の触媒担持体として、カーボン粒子とカーボン繊維とを混合して用いるだけでは、固体高分子形燃料電池の発電性能および耐久性が向上しない場合があることが分かった。
本発明の課題は、固体高分子形燃料電池の膜電極接合体として用いた場合に、触媒層の耐久性が維持されるだけでなく、固体高分子形燃料電池を高電流密度域で運転した場合でも、高い出力を実現することが期待できる膜電極接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、高分子電解質膜と、高分子電解質膜の両面にそれぞれ配置された触媒層と、を有する膜電極接合体であって、下記の構成(a)と構成(b)の両方を有する。
(a)触媒層は、触媒、炭素粒子、高分子電解質、及び繊維状物質を含む。
(b)触媒層の高分子電解質膜とは反対側の面の入射角60°で測定された光沢度が3.0GU以上10.0GU以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池によれば、触媒層の耐久性が維持されるだけでなく、高電流密度域での運転においても、触媒層による生成水の排水性やガス拡散性が向上でき、高い出力を実現することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態である固体高分子形燃料電池を示す概略構成図である。
図2図1の固体高分子形燃料電池を構成する膜電極接合体を示す断面図である。
図3図2の膜電極接合体を構成する触媒層の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施形態」と称する。)について説明する。なお、本発明は、以下に記載する各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0011】
図1に示すように、実施形態の固体高分子形燃料電池11は、膜電極接合体12を備えている。膜電極接合体12は、高分子電解質膜1、アノード触媒層2、カソード触媒層3、および枠状のガスケット4からなる。図2に示すように、高分子電解質膜1の両面に、それぞれアノード触媒層2及びカソード触媒層3が配置され、アノード触媒層2及びカソード触媒層3の外周に、ガスケット4が配置されている。
【0012】
また、図1に示すように、固体高分子形燃料電池11は、一対のガス拡散層5と一対のセパレータ10を備えている。各ガス拡散層5は、アノード触媒層2及びカソード触媒層3と対向して配置されている。
セパレータ10は、導電性を有し、かつ不透過性の材料よりなる。セパレータ10の一方の面にはガス流通用のガス流路8が形成され、他方の面(ガス流路8が形成された面の反対面)には、冷却水流通用の冷却水流路9が形成されている。一対のセパレータ10は、各ガス拡散層5を介して、膜電極接合体12を挟持するよう配置されている。
【0013】
アノード触媒層2側のセパレータ10のガス流路8からは燃料ガスが供給される。燃料ガスとしては、例えば水素ガスが挙げられる。カソード触媒層3側のセパレータ10のガス流路8からは、酸化剤ガスが供給される。酸化剤ガスとしては、例えば空気などの酸素を含むガスが供給される。
固体高分子形燃料電池11は、1組のセパレータ10に、高分子電解質膜1と、アノード触媒層2と、カソード触媒層3と、ガスケット4と、ガス拡散層5とが挟持された、いわゆる単セル構造の固体高分子型燃料電池である。しかし、セパレータ10を介して複数のセルを直列に積層したスタック構造を採用することも出来る。
【0014】
図3に示すように、アノード触媒層2及びカソード触媒層3は、触媒21、炭素粒子22、高分子電解質23、及び炭素繊維24からなる。図2に示すアノード触媒層2の表面(高分子電解質膜1とは反対側の面)201およびカソード触媒層3の表面301は、入射角60°で測定された光沢度が3.0以上10.0以下になっている。
触媒層の表面201,301の光沢度がこの範囲にあることで、固体高分子形燃料電池11の出力(発電性能)を向上させることが出来る。
上述したように、固体高分子形燃料電池では燃料ガス及び酸化剤ガスが持続的に供給されるため、ガスを触媒層の深奥部まで充分に侵入させることにより反応点を増やすことが出来る。触媒層の表面(高分子電解質膜とは反対側の面)の光沢度が一定値以上であると、ガスが触媒層の内部に供給されやすくなり、その結果として出力が向上する。
【0015】
しかし、触媒層の表面の光沢度が大きすぎると、ガスの流路が詰まってしまい、高電流密度域での排水性低下を抑制するという点で好ましくない。
つまり、触媒層表面の光沢度が一定値以下であることで、高電流密度域での排水性を確保し、固体高分子形燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。
なお、触媒、炭素粒子、高分子電解質のみからなる触媒層の場合、触媒層表面の光沢度を小さく(表面粗さを大きく)すると、激しいクラックが誘発されて触媒層の形成が困難になるが、炭素繊維などの繊維状物質を含むことで、触媒層の構造的な強度が増し、触媒層表面の光沢度を大きくしてもクラックを抑制することが可能となる。
【0016】
触媒層表面の光沢度が上述の範囲になっていれば、触媒層は単層でも良いし、複層構造でも良い。
触媒層を複層構造にする場合、各層における触媒、炭素粒子、高分子電解質、繊維状物質、溶媒等の組成は同じであっても良いし、異なっていても良い。
触媒としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属又はこれらの合金、または酸化物、複酸化物等が使用できる。その中でも、白金や白金合金が好ましい。また、これらの触媒の粒径は、大きすぎると触媒の活性が低下し、小さすぎると触媒の安定性が低下するため、0.5nm~20nmが好ましい。更に好ましくは、1nm~5nmが良い。
【0017】
炭素粒子としては、微粒子状で導電性を有し、触媒におかされないものであれば特に限定は無い。例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト、黒鉛、活性炭、フラーレン等が挙げられる。
炭素粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると触媒層が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下したりするので、10nm~1000nm程度が好ましい。更に好ましくは、10nm~100nmが良い。
高表面積の炭素粒子に触媒を担持することで、高密度で触媒が担持でき、触媒活性を向上させることができる。
【0018】
高分子電解質としては、プロトン伝導性を有する樹脂成分であれば特に限定は無く、なかでもフッ素系高分子電解質若しくは炭化水素系高分子電解質が好適に用いられる。
フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)等を用いることができる。
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。
【0019】
高分子電解質としては、触媒層と電解質膜の密着性の観点から、高分子電解質膜と同質の材料を選択することが好ましい。
高分子電解質膜の平均厚みは、例えば1μm~500μm、好ましくは3μm~200μm、更に好ましくは5μm~100μm程度である。
繊維状物質としては、導電性繊維や電解質繊維が使用できる。導電性繊維としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバー又はカーボンナノチューブが好ましい。また、電解質繊維は高分子電解質を繊維状に加工したものである。繊維状物質として電解質繊維を用いることでプロトン伝導性を向上することができる。更に、これらの繊維状物質は、一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併用してもよく、導電性繊維と電解質繊維を併せて用いても良い。
【0020】
繊維状物質の繊維径としては、0.5nm~500nmが好ましく、10nm~300nmがより好ましい。この範囲にすることにより、触媒層内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
繊維状物質の繊維長は1μm~200μmが好ましく、1μm~50μmがより好ましい。この範囲にすることにより、触媒層の強度を高めることができ、形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、触媒層内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0021】
(触媒層の製造方法)
触媒層は、触媒層用スラリーを作製し、基材またはガス拡散層に塗工・乾燥した後、高分子電解質膜へ触媒層を熱圧着することで製造できる。
触媒層用スラリーは、触媒、炭素粒子、高分子電解質、繊維状物質及び溶媒からなる。触媒層用スラリーの溶媒としては、高分子電解質と触媒を溶解または分散できるものであれば特に限定は無い。
【0022】
例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が挙げられ、単独若しくは複数種を組み合わせて使用できる。
また触媒インクに用いられる溶媒は加熱によって除去しやすいものが好ましく、特に沸点が150℃以下のものが好適に用いられる。
【0023】
触媒層用スラリー中の溶質(炭素粒子、触媒粒子、高分子電解質)の濃度は、例えば、1~80重量%、好ましくは5~60重量%、更に好ましくは10~40重量%程度で用いられる。
触媒層用スラリーに用いられる高分子電解質としては、プロトン伝導性を有する樹脂成分であれば特に限定は無く、なかでもフッ素系高分子電解質若しくは炭化水素系高分子電解質が好適に用いられる。
フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)等を用いることができる。
【0024】
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。
触媒層用スラリーは、触媒、炭素粒子、高分子電解質、繊維状物質、溶媒を混合し、分散処理を加えることで作製できる。分散方法としては、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、剪断ミル、湿式ミル、超音波分散、ホモジナイザー等が挙げられる。
触媒層用スラリーを基材上に塗布する手法として、慣用的なコーティング法を用いることが出来る。
【0025】
具体的なコーティング法として、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター、スプレー、スピナーなどが挙げられる。
なお、最終的に同様の触媒インクを塗布できるならば、その塗工手段については特に制限は無い。
触媒層用スラリーを基材上に塗布し、加熱によって触媒インク中の溶媒を揮発させることによって、所望の触媒層を得ることができる。
【0026】
触媒層用スラリーの乾燥方法としては、温風乾燥、IR乾燥などが挙げられる。乾燥温度は、40~200℃、好ましくは40~120℃程度である。乾燥時間は、0.5分~1時間、好ましくは1分~30分程度である。
また、乾燥工程は、単一の乾燥機構であっても良いし、複数の乾燥機構を組み合わせて使用しても良い。
触媒層用スラリーを乾燥することで得られる触媒層の平均厚みは、例えば0.1~100μm、好ましくは0.5~50μm、更に好ましくは1~20μm程度である。
【0027】
転写工程に用いられる基材としては、少なくとも片面に触媒層用スラリーを塗布することができ、加熱によって触媒層を形成でき、形成した触媒層を高分子電解質膜に転写できるものであれば特に限定は無い。
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等の高分子フィルム、若しくはポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等の耐熱性フッ素樹脂フィルムを用いることができる。
【0028】
また、これらの基材に離型処理したもの、若しくは共押出等により離型層が一体となった複層構造のものを用いても良い。
基材は、シート、フィルム、板、膜、若しくは箔、又はこれらのうち少なくとも1つを粘着、接着、癒着、若しくは貼合したものであっても良い。
基材が複層構造である場合、最表面に位置するフィルムが開口部を有していてもよい。ここでいう開口部とは、断裁や打ち抜き等の手段によりフィルムの一部を取り除いた箇所を指す。
また、開口部の形状によって乾燥後の触媒インク(即ち、電極)の形状を成形してもよい。
【0029】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の製造方法としては、転写基材またはガス拡散層に触媒層を形成し、高分子電解質膜に熱圧着で触媒層を形成する方法や、高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法が挙げられる。また、高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法は、高分子電解質膜と触媒層との密着性が高く、触媒層が潰れる恐れがないため、好ましい。
ガスケット4に用いられる部材としては、少なくとも片面に粘着材を塗布若しくは貼合することができ、高分子電解質膜1に貼合できるものであれば特に限定は無い。
【0030】
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等の高分子フィルム、若しくはポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等の耐熱性フッ素樹脂フィルムを用いることができる。
【0031】
また、これらの基材に離型処理したもの、若しくは共押出等により離型層が一体となった複層構造のものを用いても良い。
ガスケット4に用いられる部材は、シート、フィルム、板、膜、若しくは箔、又はこれらのうち少なくとも1つを粘着、接着、癒着、若しくは貼合したものであっても良い。
ガスケット4の平均厚みは、例えば1μm~500μm、好ましくは3μm~200μm、更に好ましくは5μm~100μm程度である。
以上のように作製された膜電極接合体は、触媒層表面の光沢度が小さい(表面粗さが大きい)ことに起因して空孔率が増大し、ガス透過性や排水性を確保したままクラックが抑制され、これを用いて製造された単セル若しくは固体高分子形燃料電池は、従来品より高い発電性能を発揮出来る。
【実施例
【0032】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
[実施例1]
白金担持カーボン触媒(TEC10EA50E,田中貴金属工業社製)と、水と、1-プロパノールと、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液,和光純薬工業社製)と、繊維状物質としてのカーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)とを混合し、遊星型ボールミルで30分間分散処理を行い、触媒インクを調製した。
調製した触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両表面にスリットダイコーターを用いて塗布し、100℃の温風オーブンに入れて触媒インクのタックがなくなるまで乾燥させ、実施例1の膜電極接合体を得た。
【0033】
[実施例2]
繊維状物質としてカーボンナノファイバーではなくカーボンナノチューブ(NC7000(商標),Nanocyl社製)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の膜電極接合体を得た。
[実施例3]
高分子電解質量を実施例1の1.25倍とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の膜電極接合体を得た。
【0034】
[比較例1]
カーボンナノファイバー量を実施例1の3倍とした以外は、実施例1と同様の手順で比較例1の膜電極接合体を得た。
[比較例2]
カーボンナノファイバー量を実施例1の0.5倍とした以外は、実施例1と同様の手順で比較例2の膜電極接合体を得た。
【0035】
[比較例3]
カーボンナノファイバーを添加しない以外は実施例1と同様に調製した触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布し、100℃の温風オーブンに入れて触媒インクのタックがなくなるまで乾燥させ、触媒層付き基材を得た。この触媒層付き基材を、カソード触媒層用とアノード触媒層用に二枚用意し、各触媒層が高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両面とそれぞれ対向するように配置して、積層体とした。この積層体を120℃、5MPaの条件でホットプレスして接合した後に、両触媒層付き基材からPTFEフィルムを剥離することで、比較例3の膜電極接合体を得た。
【0036】
このようにして得られた実施例1~3及び比較例1,2の膜電極接合体のカソード側の触媒層表面における光沢度と、各膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池の発電性能および耐久性を、以下のようにして計測、測定した。
【0037】
[光沢度の計測]
カソード側の触媒層表面における光沢度は、光沢計を用いて計測した。具体的には、RhopointInstruments社製「Rhopoint IQ 20°/60°/85° オールインワン光沢計」を使用し、入射角60°で、カソード側の触媒層表面の計測を行った。なお、この光沢計では、「JIS Z 8741:1997」で規定された方法に準じた光沢度の測定を行うことができる。
【0038】
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、膜電極接合体の両面にガス拡散層及びガスケットを配置し、さらに外側にセパレータをそれぞれ配置し、所定の面圧となるように締め付けたセルを、評価用単セルとして用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載のI-V測定を実施した。
【0039】
[耐久性の測定]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを、評価用単セルとして用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDOが刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験を5,000サイクル実施した。その後、上述の方法で発電性能の測定を行った。
【0040】
[比較結果]
得られた結果を表1に示す。
発電性能については、電流密度1.0A/cm2のときの電圧が0.6V以上である場合を「○」、0.6V未満である場合を「×」とした。耐久性については、湿度サイクル試験後の発電性能測定で、電流密度1.0A/cm2のときの電圧が0.6V以上である場合を「○」、0.6V未満である場合を「×」とした。
【0041】
【表1】
【0042】
以上の結果から、触媒層表面の入射角60°で測定された光沢度が3.0GU以上10.0GU以下である膜電極接合体を用いることで、固体高分子形燃料電池の発電性能及び耐久性を高くできることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池の高電流密度域での運転において問題となるフラッディング現象を回避するのに必要十分な、排水性およびガス拡散性を有し、長期的に高い発電性能を発揮することが可能な触媒層を有する膜電極接合体、およびこれを備えた固体高分子形燃料電池を提供することができる。
したがって、本発明は、固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に適用できるため、産業上の利用価値が大きい。
【符号の説明】
【0044】
1・・・高分子電解質膜
2・・・アノード触媒層
3・・・カソード触媒層
4・・・ガスケット
5・・・ガス拡散層
8・・・ガス流路
9・・・冷却水流路
10・・・セパレータ
11・・・固体高分子形燃料電池
12・・・膜電極接合体
21・・・触媒
22・・・炭素粒子
23・・・高分子電解質
24・・・炭素繊維
201・・・アノード触媒層の表面(高分子電解質膜とは反対側の面)
301・・・カソード触媒層の表面(高分子電解質膜とは反対側の面)
図1
図2
図3