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  • 特許-塩化ビニル樹脂組成物および成形体 図1
  • 特許-塩化ビニル樹脂組成物および成形体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220809BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220809BHJP
   C08K 9/12 20060101ALI20220809BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20220809BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220809BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/013
C08K9/12
C08K5/57
C08K5/09
C08L31/04 S
C08L33/06
C08J5/00 CEV
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018070035
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178301
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】兼原 克樹
(72)【発明者】
【氏名】天牛 英清
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-302184(JP,A)
【文献】特許第6191752(JP,B1)
【文献】特開2003-267749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤と、
安定剤と、
滑材と、
無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含む抗菌剤と、を含み、
前記安定剤は、ジブチルスズ系化合物を含み、
前記滑材は、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩、エチレン酢酸ビニル重合体およびメタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体のうちの少なくとも1つを含み、
前記粒子の平均粒径は、3μm以下であることを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記抗菌剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上2.0重量部以下である請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機担持体は、ガラス、ゼオライト、リン酸ジルコニウムからなる群から選択される材料である請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記補強剤は、アクリル系ポリマーを含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
前記滑材は、ステアリン酸を含む請求項1ないしのいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、オートバイ、鉄道等の車両の各種部材、航空機、住宅等の内装材や、医療機器、OA機器等のカバー部材には、硬質塩化ビニル樹脂組成物が用いられている。硬質塩化ビニル樹脂組成物は、加工性、耐衝撃性、耐薬品性および耐熱性等に優れ、上記内装材や上記カバー部材に用いられている。
【0003】
これらのうち、特に、医療機器等では、抗菌性が要求されており、抗菌剤が含有される硬質塩化ビニル樹脂組成物が用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献2には、塩化ビニル樹脂と、無機系抗菌剤とを含む樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、従来では、抗菌剤の種類、粒径に関して十分な研究がなされておらず、抗菌剤の種類によっては、成形時(押し出し成形時)に、塩化ビニル樹脂の熱分解を誘発してしまい、成形性が低下する。また、抗菌剤の粒径によっては、成形体の耐衝撃性が低下してしまう。すなわち、抗菌剤の粒子の平均粒径を大きくするにつれて、抗菌作用は高くなる傾向を示すが、耐衝撃性が低下する傾向を示す。これは、平均粒径が大きくなるに連れて、その部分に応力が集中し易くなるためである。さらに、平均粒径が大きくなるに連れて、含有量の上限値が低下する傾向を示す。すなわち、平均粒径が大きくなるに連れて、十分な強度を確保するために、抗菌剤の含有量を減らす必要が生じる。
【0005】
このように、従来では、成形性、抗菌性および耐衝撃性に優れる塩化ビニル樹脂組成物を得るのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6115002号公報
【文献】特開2017-132916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、審美性、抗菌性および耐衝撃性に優れる塩化ビニル樹脂組成物および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~()の本発明により達成される。
(1) 主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、
補強剤と、
安定剤と、
滑材と、
無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含む抗菌剤と、を含み、
前記安定剤は、ジブチルスズ系化合物を含み、
前記滑材は、脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩、エチレン酢酸ビニル重合体およびメタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体のうちの少なくとも1つを含み、
前記粒子の平均粒径は、3μm以下であることを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記抗菌剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上2.0重量部以下である上記(1)に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0010】
(3) 前記無機担持体は、ガラス、ゼオライト、リン酸ジルコニウムからなる群から選択される材料である上記(1)または(2)に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記補強剤は、アクリル系ポリマーを含む上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0013】
) 前記滑材は、ステアリン酸を含む上記(1)ないし()のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【0014】
) 上記(1)ないし()のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、審美性、抗菌性および耐衝撃性に優れる塩化ビニル樹脂組成物および成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材(成形体)の断面図である。
図2図1に示すシート材を製造する製造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物および成形体を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の塩化ビニル樹脂組成物および成形体を説明するのに先立って、塩化ビニル樹脂組成物をシート材1(成形体)に成形するのに用いる製造装置10について説明する。
【0019】
図1は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材(成形体)の断面図である。図2は、図1に示すシート材を製造する製造装置の側面図である。
【0020】
なお、図1では、上側を「上方」または「上」と言い、下側を「下方」または「下」とも言う。また、本明細書で参照する図面では、一部を誇張して図示しており、実際の寸法とは大きく異なる。
【0021】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニルと、補強剤としてのアクリル系ポリマーと、安定剤としてのジメチルスズと、滑材としての酸化ポリエチレンと、を含むものである。この塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造装置10により成形することにより、図1に示すシート材1(成形体)が得られる。
【0022】
この製造装置10は、図2に示すように、供給部100と、押出機200と、成形部300と、冷却部400と、切断部500とを有している。
【0023】
供給部100は、塩化ビニル樹脂組成物が貯留されており、貯留された塩化ビニル樹脂組成物を押出機200に供給するものである。供給部100では、塩化ビニル樹脂組成物が混合された状態で貯留されている。
【0024】
押出機200は、供給部100から供給された塩化ビニル樹脂組成物を押出法によりシートとして押し出すものである。押出機200は、塩化ビニル樹脂組成物が通過する流路と、流路内に設けられたスクリューとを有している。スクリューが回転することにより、塩化ビニル樹脂組成物がシートとして押し出される。
【0025】
成形部300は、3つのローラー301、302、303を有している。各ローラー301~303は、鉛直方向に並んで配置されており、互いに独立して回転するよう構成されている。これらローラー301~303には、押し出されたシート材が掛け回され、ローラー301~303の間でシート材がそれぞれ挟持されて成形される。
【0026】
冷却部400は、複数の冷却ローラー401を有している。各冷却ローラー401が成形されたシートの一方の面と当接し、該シートを冷却する。
【0027】
切断部500は、刃部501を有し、該刃部501によってシートを所定の長さに切断するものである。
【0028】
このような製造装置10では、供給部100から供給された塩化ビニル樹脂組成物が押出機200によって連続的にシート材が押し出され、成形部300によって、表面が平坦化されて所定の厚さに成形される。そして、冷却部400と当接して冷却され、切断部500によって所定の長さに切断されて塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材1が得られる。
【0029】
なお、本明細書中では、切断されたシートをシート材1として説明するが、シートを切断するのを省略し、シートをロール状に巻回したものをシート材1としてもよい。
【0030】
また、製造装置10では、ローラー301、302、303に冷却機能を付与し、成形部300を冷却部として機能させてもよい。
【0031】
以上のような製造装置10によって、塩化ビニル樹脂組成物をシート材1(本発明の成形体)に成形することができる。
【0032】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物および成形体について説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤と、安定剤と、滑材と、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含む抗菌剤と、を含み、粒子の平均粒径は、3μm以下であることを特徴とする。
【0033】
抗菌剤の粒子の平均粒径を3μm以下とすることにより、成形体(シート材1)に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中するのを緩和することができるとともに、抗菌剤の含有量を十分に高めることができる。これにより、十分な強度と高い抗菌性とを両立することができる。
【0034】
抗菌剤の粒子の平均粒径が3μmよりも大きかった場合、成形体(シート材1)に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中し易くなり、耐衝撃性が低下する。さらに、抗菌剤の含有量を低くする必要があり、十分な抗菌性が得られない。
【0035】
なお、抗菌剤が、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含むものであるため、無機担持体の粒径を調節することにより、抗菌剤の粒径を容易に調節することができる。
【0036】
また、抗菌剤が、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含むものであるため、成形時に塩化ビニル系樹脂が熱分解によって炭化してしまうのを防止することができる。よって、外観が悪化するのを防止することができ、審美性に優れる。
【0037】
以上より、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、審美性、抗菌性および耐衝撃性に優れる。
【0038】
また、前述したように、シート材1(本発明の成形体)は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形されたものである。これにより、上記効果を発揮することができるシート材1(本発明の成形体)を得ることができる。このようなシート材1(本発明の成形体)は、例えば、自動車、オートバイ、鉄道等の車両の各種部材、航空機、住宅等の内装材や、医療機器、OA機器等のカバー部材や部品として用いることができるが、例えば、医療機器等、抗菌性が要求される現場で用いられるものであるのが好ましい。
【0039】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物の構成材料について詳細に説明する。
<主材>
塩化ビニル樹脂組成物は、主材として、ポリ塩化ビニル系樹脂を含んでいる。
【0040】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体や、塩化ビニルと共重合可能なビニル系単量体との共重合体、塩化ビニルと各種重合体またはポリ塩化ビニルとビニル系単量体とのグラフト重合体、後塩素化塩化ビニル重合体が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、単独重合体を用いるのが一般的である。
【0041】
また、塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が600~1000のものであるのが好ましい。平均重合度が高すぎた場合、可塑剤を添加しないと加工性が悪く、そのために可塑剤を多量に添加すると柔軟温度の低下をもたらす。一方、平均重合度が低くすぎた場合、成形されたシート材1の耐熱性が低下する傾向を示す。
【0042】
<補強剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、強度を高める補強剤として、塩化ビニル系樹脂よりも硬質な樹脂材料を含んでいる。この樹脂材料としては、特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、MBS系(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、補強剤は、アクリル系ポリマーであるのが好ましい。これにより、シート材1の強度を十分に高めることができる。
【0044】
アクリル系ポリマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート等のアクリレートを主体として、これらのモノマーと2-クロロエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等との共重合体であり、例えば、鐘淵化学社製「カネエースFM」、呉羽化学社製「クレハKM-334」等が挙げられる。このようなアクリル系ポリマーを含むことにより、耐久性を高めることができる。
【0045】
前記補強剤の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10.0重量部以上、25.0重量部以下であるのが好ましく、12.0重量部以上、23.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物の耐久性を確実に高めることができる。
【0046】
なお、本発明の塩化ビニル樹脂組成物では、補強剤として、上記で挙げたアクリル系ポリマー以外のものを含んでいてもよい。
【0047】
<安定剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、安定剤を含んでいる。この安定剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物類、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属を含む有機酸化合物等の金属石鹸化合物、ステアリン酸バリウム-亜鉛、ラウリン酸バリウム-亜鉛、リシノール酸バリウム-亜鉛、オクチル酸バリウム-亜鉛、ステアリン酸カルシウム-亜鉛、ラウリン酸カルシウム-亜鉛、リシノール酸カルシウム-亜鉛、オクチル酸カルシウム-亜鉛等の複合金属を含む有機酸化合物等の金属石鹸化合物、ジメチルスズ系化合物、ジブチルスズ系化合物、ジオクチルスズ系化合物等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルスズ系化合物、ジブチルスズ系化合物、ジオクチルスズ系化合物のうちの少なくとも1つであるのが好ましい。これにより、安定剤としての効果をより顕著に発揮することができる。
【0048】
安定剤の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上、5.0重量部以下であるのが好ましく、2.0重量部以上、4.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、安定剤としての効果を確実に発揮することができる。
【0049】
<滑材>
塩化ビニル樹脂組成物は、滑材を含んでいる。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際、ローラー301~303から塩化ビニル樹脂組成物が離れるとき、ローラー301~303に塩化ビニル樹脂組成物の成分や、その他の汚れが付着してしまうのを防止することができる。
【0050】
滑材としては、特に限定されず、例えば、酸化ポリエチレン、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸の金属塩、エチレン酢酸ビニル重合体、メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。
【0051】
酸化ポリエチレンは、低分子量のものであるのが好ましい。このような低分子量の酸化ポリエチレンは、例えば、ポリエチレンを熱分解して分子量を低下させることにより得られる。
【0052】
また、上記低分子量の酸化ポリエチレンの重量平均分子量は、500以上、10000以下であるのが好ましく、1000以上、5000以下であるのがより好ましい。これにより、長期の連続成形加工において成形安定性の向上を図ることができる。
【0053】
また、上記酸化ポリエチレンの酸価は、0.5(KOHmg/g)以上、60(KOHmg/g)以下であるのが好ましく、10(KOHmg/g)以上、40(KOHmg/g)以下であるのがより好ましい。酸価は、JIS K 3504に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ワックス類1g中に含有する遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数として測定される。酸価が上記範囲内にあると、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良く、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0054】
また、上記酸化ポリエチレンの滴点は、90℃以上、140℃以下であるのが好ましく、90℃以上、120℃以下であるのがより好ましい。滴点は、ASTM D127に準拠した方法により測定することができる。具体的には、金属ニップルを用いて、溶融したワックスが金属ニップルから最初に滴下するときの温度として測定される。滴点が上記範囲内にあると、熱安定性に優れ、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0055】
また、上記酸化ポリエチレンの密度は、0.90g/cm以上、1.00g/cm以下であるのが好ましく、0.90g/cm以上、0.95g/cm以下であるのがより好ましい。密度は、例えばASTM D1505に準拠した浮遊法にて、20℃における密度測定により算出することができる。密度が上記範囲内にあると、熱安定性に優れ、長期の連続成形加工においてさらなる成形安定性の向上を図ることができる。
【0056】
酸化ポリエチレンの含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、2.00重量部以下であるのが好ましく、0.1重量部以上、1.50重量部以下であるのがより好ましい。これにより、上記効果を確実に発揮することができる。
【0057】
このような酸化ポリエチレンを配合することにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成型する際、ローラー301~303から塩化ビニル樹脂組成物が離れるとき、ローラー301~303に塩化ビニル樹脂組成物の成分が付着してしまうのを防止することができる。
【0058】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0059】
これらの中でもステアリン酸であるのが特に好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際の押出性を高めることができるとともに、シート材1の外観が悪化するのを防止することができる。
【0060】
ステアリン酸の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、1.0重量部以下であるのが好ましく、0.3重量部以上、0.8重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を成形する際の押出性をさらに高めることができるとともに、得られたシート材1における外観が悪化するのを確実に防止することができる。
【0061】
脂肪族モノカルボン酸の金属塩の金属としては、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。
【0062】
脂肪族モノカルボン酸の金属塩の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、3.0重量部以下であるのが好ましく、0.3重量部以上、2.5重量部以下であるのがより好ましい。これにより、塩化ビニル樹脂組成物を押出成形する際の押出性を高めることができるとともに、得られたシート材1における外観が悪化するのを防止することができる。
【0063】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の滑材として、エチレン酢酸ビニル重合体を含んでいてもよい。エチレン酢酸ビニル重合体の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.2重量部以上、2.0重量部以下であるのが好ましい。
【0064】
また、塩化ビニル樹脂組成物は、上記以外の滑材として、メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体を含んでいてもよい。メタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、0.5重量部以下であるのが好ましい。
【0065】
<顔料>
塩化ビニル樹脂組成物は、顔料を含んでいてもよい。この顔料としては、要求される着色に応じて選択されるが、酸化チタン、カーボンブラックの他、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系等の有機顔料や、チタンイエロー、黄鉛等の無機顔料が挙げられる。
【0066】
<抗菌剤>
塩化ビニル樹脂組成物は、抗菌剤を含んでいる。これにより、塩化ビニル樹脂組成物は、抗菌作用を有するものとなる。よって、例えば、塩化ビニル樹脂組成物の成形体を医療機器等、抗菌性が要求される現場で用いることができる。
【0067】
本発明では、抗菌剤は、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含むものである。
銀は、銀原子が含まれていればよく、銀の形態は特に限定されず、例えば、金属銀、銀イオン、銀塩(銀錯体を含む)などの形態で含まれる。これらの中でも、銀イオンである、すなわち、イオン交換法によって無機担持体に電気的に担持されたものであるのが好ましい。これにより、安定性に優れ、長期的に抗菌性を発揮することができる。
【0068】
無機担持体としては、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、各種ゼオライト、各種ガラス材料、ヒドロキシアパタイト、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。このような無機担持体を用いることにより、有機系担持体に比べて、安全性、耐熱性、長期安定性に優れる。
【0069】
これらの中でも、無機担持体は、ガラス(低分子ガラス)、ゼオライト、リン酸ジルコニウムからなる群から選択される材料であるのが好ましい。これにより、抗菌剤は、安定性に優れ、長期的に抗菌性を発揮することができる。
【0070】
なお、ゼオライトとしては、例えば、チャバサイト、モルデナイト、エリオナイト、クリノプチロライト等の天然ゼオライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト等の合成ゼオライトが挙げられる。
【0071】
また、無機担持体は、多孔質体であるのが好ましい。これにより、銀(銀原子)が無機担持体の中に入り込んだ状態とすることができ、さらに長期安定性に優れる。
【0072】
例えば、亜鉛等を担持体に担持させた亜鉛系抗菌剤等では、押し出し成形時に、塩化ビニル系樹脂が炭化してしまい、押出機200が目詰まりを起こすことがあり、成形性が低下するが、本発明では、このような銀系の無機抗菌剤を含有することにより、前記目詰まりを防止することができる。よって、成形性に優れる。
【0073】
なお、抗菌剤としては、銀が担持されたものであればよく、銀以外の成分が担持されていてもよい。銀以外の成分としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等が挙げられる。また、上記銀以外の成分のみが無機粒子に担持された抗菌剤の粒子が含まれていてもよい。
【0074】
ここで、抗菌剤の粒子の平均粒径を大きくするに連れて、シート材1の耐衝撃性が低下する傾向を示す。これは、平均粒径が大きくなるに連れて、その部分に応力が集中し易くなるためである。さらに、平均粒径が大きくなるに連れて、含有量の上限値が低下する傾向を示す。すなわち、平均粒径が大きくなるに連れて、十分な強度を確保するために、抗菌剤の含有量を減らす必要が生じる。
このように、従来では、十分な強度と高い抗菌性とを両立するのが困難であった。
【0075】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ね、抗菌剤の粒子の平均粒径を3μm以下とすることにより、十分な強度と高い抗菌性とを両立することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0076】
抗菌剤の粒子の平均粒径を3μm以下とすることにより、シート材1に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中するのを緩和することができるとともに、抗菌剤の含有量を十分に高めることができる。これにより、十分な強度と高い抗菌性とを両立することができる。
【0077】
なお、本明細書中における平均粒径とは、レーザー方式のパーティクルカウンターや沈降式の粒度分布計を用いて測定された平均値とする。
【0078】
抗菌剤の粒子の平均粒径が3μmよりも大きかった場合、シート材1に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中し易くなり、耐衝撃性が低下する。さらに、抗菌剤の含有量を低くする必要があり、十分な抗菌性が得られない。
【0079】
抗菌剤の粒子の平均粒径を3μm以下とすれば、本発明の効果を得ることができるが、平均粒径は、2.5μm以下であった場合、本発明の効果がより顕著に得られ、2.1μ以下であった場合、本発明の効果がさらに顕著に得られる。
【0080】
なお、抗菌剤の粒子の平均粒径は、0.1μm以上であるのが好ましい。これにより、抗菌性を十分に確保することができるとともに、無機担持体の材料の選定が比較的容易となる。
【0081】
抗菌剤の粒子の形状、すなわち、無機担持体の形状は、特に限定されず、例えば、球状、鱗片状、針状等が挙げられる。
【0082】
なお、平均アスペクト比は、例えば、SEM観察像から測定された粒子の長手方向の寸法(最大長さ)をAとし、短手方向の寸法(最大幅または最大厚さ)をBとしたとき、A/Bを算出することにより得られる値である。
【0083】
抗菌剤の含有量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上2.0重量部以下であるのが好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であるのがより好ましい。これにより、十分な抗菌性を得ることができる。抗菌剤の含有量が少なすぎると、十分な抗菌性を得るのが困難になる。一方、抗菌剤の含有量が多すぎると、耐衝撃性が低下する傾向を示す。
【0084】
このように、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、主材としてのポリ塩化ビニル系樹脂と、補強剤と、安定剤と、滑材と、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含む抗菌剤と、を含み、粒子の平均粒径は、3μm以下であることを特徴とする。
【0085】
抗菌剤の粒子の平均粒径を3μm以下とすることにより、成形体(シート材1)に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中するのを緩和することができるとともに、抗菌剤の含有量を十分に高めることができる。これにより、十分な強度と高い抗菌性とを両立することができる。
【0086】
抗菌剤の粒子の平均粒径が3μmよりも大きかった場合、成形体(シート材1)に衝撃が加わった際に、当該粒子に応力が集中し易くなり、耐衝撃性が低下する。さらに、抗菌剤の含有量を低くする必要があり、十分な抗菌性が得られない。
【0087】
なお、抗菌剤が、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含むものであるため、無機担持体の粒径を調節することにより、抗菌剤の粒径を容易に調節することができる。
【0088】
また、抗菌剤が、無機担持体に銀を担持させた複数の粒子を含むものであるため、成形時に塩化ビニル樹脂が熱分解によって炭化してしまうのを防止することができる。よって、外観が悪化するのを防止することができ、審美性に優れる。
【0089】
以上より、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、成形性、抗菌性および耐衝撃性に優れる。
【0090】
以上、本発明の塩化ビニル樹脂組成物および成形体について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、塩化ビニル樹脂組成物には、任意の構成物が付加されていてもよい。
【実施例
【0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
1.塩化ビニル樹脂組成物の検討
1-1.塩化ビニル樹脂組成物の形成
[実施例1]
[1]まず、100重量部のポリ塩化ビニル樹脂(重合度800)と、補強剤として、15.0重量部のアクリル系ポリマー(分子量300万、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体)と、安定剤として、3.0重量部のジブチルスズマレイン酸塩と、滑材として、0.5重量部の酸化ポリエチレン1(重量平均分子量1200、酸価15mgKOH/g、滴点101℃、密度0.93g/cm、低密度ポリエチレンポリマーの酸化物)と、滑材として、1.0重量部のエチレン酢酸ビニル共重合体と、滑材として、0.2重量部のメタクリル酸アルキル-アクリル酸アルキル共重合体と、滑材として、0.5重量部のステアリン酸と、滑材として、1.5重量部の脂肪族モノカルボン酸カルシウム塩と、顔料として、3.0重量部の酸化チタン(堺化学社製、「R-42」)と、0.2重量部の抗菌剤(東亞合成社製「ノバロンAG1100」)とを攪拌・混合することにより塩化ビニル樹脂組成物形成用材料を準備した。
【0092】
抗菌剤は、リン酸ジルコニウムで構成された無機担持体に銀イオンが担持されたものである。
また、抗菌剤の粒子の平均粒径は、1.0μmであった。
【0093】
[2]次に、調製された塩化ビニル樹脂組成物形成用材料を、図1に示す製造装置10が備える押出機200に収納し、押出、溶融または軟化状態とされたシートを得た。そして、溶融または軟化状態とされたシートをローラー301~303に掛け回し、挾持することで、平坦化し、冷却部400にて冷却する。そして、切断部500によって所定長さで切断することにより、塩化ビニル樹脂組成物からなるシート材(成形体)を得た。
【0094】
[実施例2~4、比較例1~14]
前記工程[1]において、安定剤、滑材、抗菌剤の種類、配合量および粒径を表1に示すように変更したこと以外は前記実施例1と同様にして、実施例2~4、比較例1~14のシート材(成形体)を得た。
【0095】
1-2.評価
各実施例および各比較例の塩化ビニル樹脂組成物を、以下の方法で評価した。
【0096】
<分解性(炭化性)(審美性)>
目視により、押出機から出てきた樹脂が炭化しているか否かを観察した。
【0097】
◎:120分以上分解なし
〇:30分から120分未満で分解発生
×:30分未満で分解発生
【0098】
<抗菌性>
JIS-Z2801:2010に基づく抗菌性試験法に従い、以下の基準に従い評価した。
【0099】
◎:抗菌活性値が4以上である。
○:抗菌活性値が2以上4未満である。
×:抗菌活性値が2未満である(抗菌性なし)。
【0100】
<耐衝撃性>
ASTM D256に規定されたアイゾット衝撃試験に準拠して、シート材(成形体)を破壊するのに要したエネルギーを測定し、以下の基準に従い評価した。
【0101】
◎: 700J/m以上である。
○: 500J/m以上、700J/m未満である。
×: 500J/m未満である。
【0102】
以上のようにして得られた各実施例および各比較例の塩化ビニル樹脂組成物(シート材)における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示したように、各実施例における塩化ビニル樹脂組成物(シート材)では、各比較例以上に審美性、抗菌性および耐衝撃性に優れ、満足のいく結果となった。
【符号の説明】
【0105】
1 シート材(成形体)
10 製造装置
100 供給部
200 押出機
300 成形部
301 ローラー
302 ローラー
303 ローラー
400 冷却部
401 ローラー
500 切断部
501 刃部
図1
図2