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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20220809BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20220809BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
F01N3/24 N
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018084871
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019190386
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】303002158
【氏名又は名称】三菱ふそうトラック・バス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】大賀 英明
(72)【発明者】
【氏名】片渕 雅之
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/112073(WO,A1)
【文献】特開2009-115057(JP,A)
【文献】特開2000-087728(JP,A)
【文献】特開2013-136991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00-3/38
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの排気が内部を流通する排気管と、
前記排気管内に排気浄化用の添加剤を噴射するインジェクタと、を備え、
前記排気管は、前記インジェクタが取り付けられるボス部を有し、
前記ボス部は、前記インジェクタの噴射孔が配置される貫通孔が形成された座部と、前記座部の外周面から前記貫通孔まで延設され、前記座部の外周を流れる前記排気を前記貫通孔まで導く通路部とを有する
ことを特徴とする、排気浄化装置。
【請求項2】
前記通路部が、直線状に延在する
ことを特徴とする、請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記貫通孔が、円形状であって、
前記通路部が、前記貫通孔の接線に沿って延在する
ことを特徴とする、請求項2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
複数の前記通路部が、前記貫通孔の周方向に等間隔で配置されている
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記通路部には、前記座部において前記インジェクタの噴射方向を向く面に凹設された溝状の第一通路部が少なくとも一つ含まれている
ことを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記排気管が、筒状に形成されて前記座部に外嵌されるとともに前記インジェクタから噴射された前記添加剤を前記排気と混合させる混合部を備え、
前記第一通路部は、断面が半長円形状であり、前記混合部が前記座部に外嵌された状態で前記外周面において半円形状に開口する
ことを特徴とする、請求項5に記載の排気浄化装置。
【請求項7】
前記通路部には、前記座部に貫設された空洞状の第二通路部が少なくとも一つ含まれている
ことを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項8】
前記通路部には、前記排気管内における前記排気の流れ方向において、前記貫通孔よりも上流側に設けられた第三通路部が少なくとも一つ含まれている
ことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたエンジンの排気が流通する排気管と、この排気管のボス部に取り付けられたインジェクタとを備えた排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたエンジンの排気を浄化する排気浄化装置として、排気管内に添加剤を噴射するインジェクタを備えたものが知られている。例えば、インジェクタにより排気管内に尿素水(添加剤)を噴射し、この尿素水の熱分解によって生成されるアンモニア(NH3)を利用して、排気中の窒素酸化物(NOx)を窒素(N2)に還元するものが普及している(特許文献1参照)。また、インジェクタで排気管内に未燃燃料(添加剤)を噴射し、この未燃燃料を燃焼させることにより、フィルタに捕集された排気中のPM(Particulate Matter;粒子状物質)を除去するものも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-097479号公報
【文献】特開2011-144747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したようなインジェクタを備える排気浄化装置では、インジェクタから噴射された添加剤が排気管内に残留した場合にデポジットとして堆積,固着するという課題がある。特に、インジェクタにおいて添加剤が噴射される噴射孔やその付近には添加剤が残留しやすいため、インジェクタの噴射孔及びその周辺におけるデポジットの生成を抑制する構造が求められている。
【0005】
本件の排気浄化装置は、前述したような課題に鑑み創案されたものであり、インジェクタの噴射孔及びその周辺におけるデポジットの生成を抑制することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する排気浄化装置は、車両に搭載されたエンジンの排気が内部を流通する排気管と、前記排気管内に排気浄化用の添加剤を噴射するインジェクタと、を備えている。前記排気管は、前記インジェクタが取り付けられるボス部を有し、前記ボス部は、前記インジェクタの噴射孔が配置される貫通孔が形成された座部と、前記座部の外周面から前記貫通孔まで延設され、前記排気を前記貫通孔へ導く通路部とを有する。
【0007】
(2)前記通路部が直線状に延在することが好ましい。
(3)この場合、前記貫通孔が円形状であって、前記通路部が前記貫通孔の接線に沿って延在することが好ましい。
(4)複数の前記通路部が、前記貫通孔の周方向に等間隔で配置されていることが好ましい。
【0008】
(5)前記通路部には、前記座部において前記インジェクタの噴射方向を向く面に凹設された溝状の第一通路部が少なくとも一つ含まれていることが好ましい。
(6)この場合、前記排気管が、筒状に形成されて前記座部に外嵌されるとともに前記インジェクタから噴射された前記添加剤を前記排気と混合させる混合部を備え、前記第一通路部は、断面が半長円形状であり、前記混合部が前記座部に外嵌された状態で前記外周面において半円形状に開口することが好ましい。
【0009】
(7)前記通路部には、前記座部に貫設された空洞状の第二通路部が少なくとも一つ含まれていることが好ましい。
(8)前記通路部には、前記排気管内における前記排気の流れ方向において、前記貫通孔よりも上流側に設けられた第三通路部が少なくとも一つ含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示の排気浄化装置によれば、通路部を通じて貫通孔へ導かれた排気により、インジェクタの噴射孔及びその周辺に残留した添加剤を吹き飛ばすことができる。このため、インジェクタの噴射孔及びその周辺におけるデポジットの生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る排気浄化装置の上面図である。
図2図1の排気浄化装置における要部の断面図(図1のA-A矢視断面図)である。
図3図1の排気浄化装置におけるボス部の斜視図である。
図4】変形例に係る通路部を有するボス部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としての排気浄化装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
[1.構成]
[1-1.全体構成]
本実施形態に係る排気浄化装置1は、エンジンを搭載した車両に設けられ、このエンジンの排気を浄化するものである。本実施形態では、排気浄化装置1がディーゼルエンジンの排気を浄化する場合について説明する。以下の説明では、排気浄化装置1が適用された車両を基準にして、前後方向及び左右方向を定める。また、重力が作用する方向を下方とし、この逆方向を上方とする。なお、排気浄化装置1が適用された車両は水平な路面上にあるものとする。
【0014】
図1に示すように、排気浄化装置1は、車両に搭載されたエンジンの排気が流通する排気管2と、排気管2内に添加剤を噴射するインジェクタ3とを備えている。インジェクタ3は、排気管2に設けられたボス部4に取り付けられている。以下、排気管2,インジェクタ3,ボス部4について順に説明する。
【0015】
[1-2.排気管]
排気管2は、エンジンの気筒から車両の外部へと排気を導くためのものである。ここでは、排気の流れ方向を基準として上流及び下流を定める。排気管2は、前段酸化触媒51及びDPF(Diesel Particulate Filter)52が設けられた第一ユニット10と、SCR(Selective Catalytic Reduction)53及び後段酸化触媒54が設けられた第二ユニット20とを含んで構成される。本実施形態では、第一ユニット10が第二ユニット20の左方に隣接して配置される場合を例示する。また、第一ユニット10の左方には、前後方向に延びるプロペラシャフト(図示略)が隣接して配置される。
【0016】
第一ユニット10は、第二ユニット20の直上流に設けられる。第一ユニット10は、前段酸化触媒51に排気を送り込む第一入口部11と、前段酸化触媒51を収容する前段ケース部12と、DPF52を収容するDPFケース部13と、DPF52を通過した排気を受ける第一出口部14と、排気に乱流を生じさせる混合部15とで構成される。
【0017】
第一入口部11,前段ケース部12,DPFケース部13及び混合部15は何れも、両端の開口が互いに逆方向を向く略円筒状に形成される。一方、第一出口部14は、下流側の端部が略平板状の端壁部14aで塞がれた略有底円筒状に形成される。第一入口部11,前段ケース部12,DPFケース部13及び第一出口部14は、何れも軸心が前後方向に沿う姿勢とされ、前方から後方に向かってこの順に配置される。
【0018】
これに対し、混合部15は、軸心が左右方向に沿う姿勢とされ、その左側の部分が第一出口部14に入り込んだ状態で配置される。混合部15のうち、第一出口部14内に配置される部分には、排気を混合部15内に取り入れるための複数の孔部15hが形成される。混合部15は、孔部15hから流入した排気と、インジェクタ3から噴射された添加剤との混合を促進する機能をもつ。
【0019】
第二ユニット20は、SCR53に排気を送り込む第二入口部21と、SCR53及び後段酸化触媒54を収容するSCRケース部22と、SCR53及び後段酸化触媒54を通過した排気を下流側へ送る第二出口部23とで構成される。第二入口部21及び第二出口部23は何れも、緩やかに湾曲した略円筒状に形成される。第二入口部21の上流端は、混合部15の下流端に接続される。
【0020】
SCRケース部22は、SCR53及び後段酸化触媒54を収容する部位が略円筒状に形成され、その軸心が前後方向に沿う姿勢とされる。第二入口部21,SCRケース部22及び第二出口部23は、後方から前方に向かってこの順に配置される。なお、SCRケース部22内では、SCR53が後段酸化触媒54よりも上流側に配置される。
【0021】
エンジンの排気は、第一入口部11を通って前段ケース部12に流入し、前段酸化触媒51を通過した後にDPFケース部13内のDPF52を通過して第一出口部14に流れる。そして、この排気は、混合部15の孔部15hから混合部15内に流れ、インジェクタ3から噴射された添加剤と混ざり合いながら第二入口部21に流れる。このように、排気は、第一出口部14の内部で混合部15に流れ込むことで、その流れ方向が後方へ向かう方向から右方へ向かう方向へと略90°変更されて、第二入口部21へと到達する。続いて、この排気は、SCRケース部22に流入し、SCR53及び後段酸化触媒54を順に通過した後に第二出口部23から下流側へと流れる。
【0022】
ここで、第一出口部14の詳細な構成について説明する。
本実施形態の第一出口部14は、その内側に向かって凹んだ凹部14bと、凹部14bから更に内側に向かって凹んだボス部4とを有する。本実施形態では、凹部14b及びボス部4が、第一出口部14の左側の部位に形成されている場合を例示する。すなわち、凹部14b及びボス部4は何れも、第一出口部14において、プロペラシャフトから離隔する方向(右方)に向かって凹んだ部位である。
【0023】
凹部14b及びボス部4は、インジェクタ3の突出量(第一ユニット10の左側面から左側へ突出する長さ)を低減する機能をもつ。具体的には、凹部14b及びボス部4のそれぞれが凹むことによって形成される空間にインジェクタ3が配置されることで、インジェクタ3の左方への突出量が低減され、インジェクタ3とプロペラシャフトとの干渉が抑制される。
【0024】
第一出口部14は、ボス部4を除く部分が二重の構造とされている。具体的には図2に示すように、第一出口部14は、内壁材41と、内壁材41よりも一回り大きく形成されて内壁材41の外側に配置された外壁材42とを有する。内壁材41及び外壁材42は何れも、前述した凹部14bを構成するように略筒状に形成されている。
【0025】
内壁材41には、ボス部4及び混合部15がそれぞれ配置される孔部(何れも図示略)が形成される。同様に、外壁材42には、インジェクタ3が配置される孔部43と、混合部15が配置される孔部(図示略)とが形成される。なお、図示は省略するが、第一出口部14の端壁部14aも同様に、内壁材と外壁材とで二重の構造とされている。
【0026】
[1-3.インジェクタ]
図2に示すように、インジェクタ3は、その基端に設けられた供給孔31に供給される添加剤を、その先端に設けられた噴射孔32から混合部15内に噴射するものである。本実施形態のインジェクタ3は、添加剤の単位時間当たりの噴射量を所定量に調整したうえで、混合部15の軸心C1に沿って添加剤を噴射する。
【0027】
インジェクタ3が噴射する添加剤としては、尿素水,アンモニア水,無水アンモニア(NH3)が挙げられる。インジェクタ3が尿素水を噴射する場合、排気管2内では、尿素水の熱分解によってNH3が生成される。また、インジェクタ3がアンモニア水を噴射する場合、排気管2内では、アンモニア水の加水分解によってNH3が生成される。すなわち、インジェクタ3が尿素水,アンモニア水,無水アンモニアの何れを噴射する場合も、排気管2内ではNH3が排気と混ざり合って流れる。排気と混ざり合ったNH3は、SCR53で還元剤として機能し、排気中の窒素酸化物(NOx)を窒素(N2)に還元する。
【0028】
供給孔31と噴射孔32とは、同一の軸心C2上に設けられる。インジェクタ3は、この軸心C2に沿って添加剤を噴射する。以下、この軸心C2を「インジェクタ3の軸心C2」ともいい、供給孔31から噴射孔32に向かう方向(すなわち、インジェクタ3が添加剤を噴射する方向)を噴射方向Dともいう。
【0029】
インジェクタ3の軸心C2は、インジェクタ3がボス部4に取り付けられた状態で、混合部15の軸心C1上に位置する。言い換えると、インジェクタ3は、混合部15と同一軸心上に位置する(すなわち、インジェクタ3の軸心C2が混合部15の軸心C1と重なる)ように、ボス部4に対して位置決めされる。また、本実施形態のインジェクタ3は、噴射方向Dが水平方向に対して下降傾斜する姿勢でボス部4に取り付けられている。より具体的には、本実施形態の噴射方向Dは、左方から右方に向かって下降傾斜する方向である。
【0030】
[1-4.ボス部]
ボス部4は、第一出口部14の内側へ向かって凹んだ略有底筒状に形成される。本実施形態のボス部4は、鋳造により、第一出口部14の他の部位とは別体で形成されている。ボス部4は、略平板状に形成された底部(座部)5と、略円筒状に形成された周壁部6とを有する。
【0031】
底部5は、その法線が左方から右方に向かって下降傾斜する姿勢で、内壁材41の内側(凹部14bよりも右方〔図2中の左方〕)に配置される。底部5の外周面5aは、略円柱面状に形成される。底部5の外周面5aには、混合部15の左端部が例えば溶接により固定される。言い換えると、混合部15は底部5に外嵌される。なお、混合部15は、このように底部5に固定された状態では、底部5から周壁部6と離隔する方向に延在する。
【0032】
底部5には、インジェクタ3の噴射孔32が配置される貫通孔7が形成される。本実施形態の貫通孔7は、略円錐台形状とされ、底部5の正面視で円形状をなす。貫通孔7は、底部5の略中心に設けられる。貫通孔7の軸心C3は、底部5の法線と平行に延び、混合部15及びインジェクタ3のそれぞれがボス部4に取り付けられた状態では混合部15及びインジェクタ3の各軸心C1,C2と重なる(一致する)。以下、底部5において貫通孔7を囲む壁面5bを内周面5bともいう。
【0033】
周壁部6は、底部5の外縁から第一出口部14の外側に向かって延設される。周壁部6は、内壁材41に形成された孔部に配置されたうえで内壁材41に固定される。ボス部4は、このように周壁部6が内壁材41に固定されることで、第一出口部14の他の部位(ボス部4以外の部位)と一体化される。
【0034】
ボス部4のうち、内壁材41の内側に配置される部位は、内壁材41と非接触に設けられる。すなわち、ボス部4が内壁材41に固定された状態で、周壁部6の一部と底部5との各外周には排気が流通可能な空間が設けられる。また、底部5に固定された混合部15の外周にも同様に、排気が流通可能な空間が設けられる。
【0035】
ここで、底部5の構造について詳述する。底部5には、排気を貫通孔7へ導く通路部8が設けられている。図3に示すように、通路部8は、底部5の外周面5aから貫通孔7まで延設される。このように、通路部8は、底部5の外周面5a及び内周面5bのそれぞれにおいて開口する排気の通路である。
【0036】
本実施形態では、三つの通路部8が貫通孔7の周方向に等間隔に配置されている場合を例示する。具体的には、通路部8は、貫通孔7の前方(第一出口部14における上流側)と、貫通孔7の後方(第一出口部14の端壁部14a側)と、貫通孔7の下方とのそれぞれに設けられている。三つの通路部8は、互いに等しい形状である。
【0037】
本実施形態の各通路部8は、底部5において噴射方向Dを向く面5c(以下、端面5cという)に凹設された溝状の通路部(第一通路部)8Aで構成されている。以下、この溝状の通路部8Aを「溝通路部8A」ともいう。また、本実施形態の各通路部8は、貫通孔7の接線Lに沿って直線状に延在する。なお、ここでいう接線Lとは、底部5の正面視で、内周面5bが端面5cにおいてなす円形状の接線Lである。
【0038】
溝通路部8Aは、その全長にわたって底部5の端面5cで開口する窪みである。本実施形態の溝通路部8Aは、断面(溝通路部8Aの延在方向に直交する横断面)が半長円形状であって、底部5の外周面5aにおいて半長円形状に開口する。ただし、前述したように底部5には混合部15が外嵌されるため、溝通路部8Aは、底部5の外周面5aにおいて一部が混合部15により塞がれる。図3に二点鎖線で示すように、本実施形態の溝通路部8Aは、混合部15が底部5に外嵌された状態では、底部5の外周面5aにおいて半円形状に開口する。
【0039】
前述したように、本実施形態の通路部8には、貫通孔7よりも上流側に設けられた通路部(第三通路部)8Bが含まれている。以下、この通路部8Bを「上流通路部8B」ともいう。上流通路部8Bは、その全体が貫通孔7よりも上流側(すなわち、DPF52が配置される側)に形成されている。上流通路部8Bは、底部5の外周面5aにおいて上流側に向かって開口するとともに、底部5の内周面5bにおいて下流側(DPF52が配置される側と反対側)に向かって開口する。
【0040】
[2.作用,効果]
(1)排気浄化装置1では、ボス部4の底部5の外周面5aから貫通孔7まで通路部8が延設されているため、排気管2内の排気の一部は、ボス部4の底部5の外側から通路部8を通って貫通孔7へと流れる。このように、排気浄化装置1によれば、通路部8を通じて、インジェクタ3の噴射孔32が配置される貫通孔7まで排気を積極的に供給することができる。
【0041】
したがって、たとえインジェクタ3で噴射された添加剤が噴射孔32やその付近に付着(残留)していたとしても、通路部8から貫通孔7に吹き出た排気により、この添加剤を吹き飛ばすことができる。よって、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺における添加剤由来のデポジットの生成を抑制することができる。これにより、インジェクタ3の噴射孔32がデポジットで目詰まりする事態を生じにくくすることができる。
【0042】
また、添加剤は低温下でデポジットを生成しやすいのに対し、排気浄化装置1では高温(通常300℃程度)の排気を通路部8により貫通孔7に導くため、貫通孔7内を排気で適度に温めることができる。これによっても、貫通孔7内における添加剤由来のデポジットの生成を抑制することができる。
【0043】
(2)通路部8が直線状に延在するため、例えば通路部8が曲線状や折れ線状に延在する場合と比べて、加工(成形)やメンテナンスを容易にすることができる。また、通路部8を直線状とすれば通路部8の長さを短くしやすくなるため、通路部8を流れる排気の圧力損失の低減を図ることができる。よって、貫通孔7まで排気をより導きやすくすることができる。
【0044】
(3)貫通孔7が円形状であって、通路部8が貫通孔7の接線Lに沿って延在するため、通路部8から貫通孔7に導かれた排気を貫通孔7内で旋回させることができる。すなわち、貫通孔7の接線Lに沿う通路部8から貫通孔7へと排気を供給することで、底部5の内周面5bに沿って排気を流すことができる。これにより、インジェクタ3の噴射孔32の周囲に排気の旋回流が生じることから、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0045】
(4)複数の通路部8が貫通孔7の周方向に等間隔で配置されているため、通路部8から貫通孔7に導かれる排気の流れ方を周方向において均等化することができる。これにより、貫通孔7の周方向の全域にわたって排気を積極的に流すことができるため、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0046】
(5)通路部8には、底部5の端面5cに凹設された溝状の溝通路部8Aが少なくとも一つ含まれているため、端面5c側からの溝通路部8Aの加工(成形)及びメンテナンスを容易にすることができる。また、溝通路部8Aは、底部5の外周面5a及び内周面5bだけでなく端面5cにおいても開口するため、底部5の外周面5a側に加えて端面5c側からも排気も貫通孔7へと導くことができる。これにより、貫通孔7への排気供給が促進されるため、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0047】
(6)溝通路部8Aは、断面が半長円形状であり、混合部15が底部5に外嵌された状態で底部5の外周面5aにおいて半円形状に開口する。このように、底部5のうちの混合部15で塞がれる領域を加味して溝通路部8Aの形状を設定することで、底部5の外周面5aにおける溝通路部8Aの開口面積をより適切に確保することができる。よって、溝通路部8Aに排気をより確実に取り入れることができる。また、溝通路部8Aの断面が半長円形状であれば、溝通路部8Aが曲面で構成されることから、溝通路部8Aを流れる排気の圧力損失を低減することができる。
【0048】
(7)通路部8には、貫通孔7よりも上流側に設けられた上流通路部8Bが少なくとも一つ含まれているため、貫通孔7まで排気をより導きやすくすることができる。すなわち、上流通路部8Bは、底部5の外周面5aにおいて上流側に向かって開口するとともに、底部5の内周面5bにおいて下流側に向かって開口していることから、排気を積極的に取り入れて、よりスムーズに貫通孔7まで導くことができる。このように、上流通路部8Bを設ければ、排気が貫通孔7に流れやすくなるため、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0049】
(8)貫通孔7の下方に位置する通路部8が少なくとも一つ設けられるため、例えば添加剤が重力の作用によりインジェクタ3の噴射孔32から下方へ滴下,流下した場合に、この添加剤を貫通孔7の下方の通路部8から吹き出る排気で効果的に吹き飛ばすことができる。よって、デポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0050】
(9)底部5及び混合部15の各外周には排気が流通可能な空間が設けられているため、底部5及び混合部15の各外周に排気を回り込ませることができる。底部5の外周に排気が回り込むことで、上流通路部8B以外の通路部8にも排気を取り入れやすくなることから、貫通孔7への排気供給をより促進することができる。よって、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成をより効果的に抑制することができる。
【0051】
また、混合部15の外周に排気が回り込むことにより、混合部15に流入する排気に乱流が生じやすくなるとともに、混合部15の全周から混合部15内に排気を流入させることができる。よって、インジェクタ3から噴射された添加剤と排気との混合を混合部15内でより促進することができる。したがって、排気浄化性能の向上に寄与することができる。
【0052】
[3.変形例]
前述した通路部8の形状は一例である。ボス部4は、前述した溝状の溝通路部8Aに代えて、図4に示すように、底部5に貫設された空洞状の通路部(第二通路部)8Cを有していてもよい。以下、この空洞状の通路部8Cを「洞通路部8C」ともいう。なお、図4では、前述した実施形態で説明した要素と同一又は対応する要素に同一の符号を付し、ここでは重複する説明を省略する。
【0053】
洞通路部8Cは、溝通路部8A及び上流通路部8Bと同様に通路部8の一種であって、底部5の外周面5aから貫通孔7まで延設され、排気を貫通孔7へと導く機能をもつ。洞通路部8Cは、その両端部のみが底部5の外周面5a及び内周面5bにおいて開口した貫通孔である。言い換えると、洞通路部8Cの両端部以外の部分は、底部5の内部に設けられており、底部5の外部に露出しない。なお、本変形例では、洞通路部8Cが底部5の外周面5a及び内周面5bのそれぞれで円形状に開口する場合を例示する。また、本変形例では、溝通路部8Aが設けられないことから、底部5の端面5cの全域が平面状とされている。
【0054】
ボス部4に洞通路部8Cを少なくとも一つ設ければ、底部5の外側から貫通孔7まで排気をより確実に導くことができる。すなわち、洞通路部8Cは、両端部以外の部分が底部5の外部に露出しないため、底部5の外周面5a側から取り入れた排気を外部に漏らすことなく貫通孔7まで流すことができる。これにより、インジェクタ3の噴射孔32及びその周辺におけるデポジットの生成を抑制することができる。
【0055】
なお、ボス部4の構成は前述したものに限定されない。ボス部4は、溝通路部8Aと洞通路部8Cとの双方を有していてもよい。また、通路部8の個数,配置及び形状も、前述したものに限られない。例えば、通路部8は、複数の上流通路部8Bを有していてもよい。また、通路部8は、貫通孔7の径方向に沿って延在していてもよいし、曲線状に延在していてもよい。さらに、通路部8は、前述した形状以外の断面形状や開口形状を有していてもよい。
【0056】
底部5の外周面5a及び内周面5bの各形状も特に限定されない。すなわち、貫通孔7は、円形状でなくてもよい。また、ボス部4は、少なくとも、貫通孔7が形成された底部5と、一つ以上の通路部8とを有していればよく、有底筒状以外の形状とされてもよいし、排気管2の他の部位と一体に形成されていてもよい。
【0057】
前述したインジェクタ3の配置は一例である。インジェクタ3は、その噴射方向Dが下降傾斜する姿勢とされてなくてもよい。
前述した前段酸化触媒51,DPF52,SCR53及び後段酸化触媒54は、排気浄化装置1で浄化する排気の成分に応じて適宜設けられればよく、これらの一部が省略されてもよい。また、排気管2内には、これら以外の触媒やフィルタが更に設けられてもよい。
【0058】
なお、インジェクタ3の下流に酸化触媒及びフィルタを設けるとともに、インジェクタ3によって噴射する添加剤として未燃燃料を採用してもよい。この場合も、排気浄化装置1によれば、前述したように添加剤由来のデポジットの生成を抑制することができる。また、この場合は、インジェクタ3から噴射された未燃燃料が酸化触媒において酸化することで排気温度が上昇するため、フィルタに捕集された排気中のPM(Particulate Matter;粒子状物質)を燃焼させることができる。よって、排気の浄化を促進することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 排気浄化装置
2 排気管
3 インジェクタ
4 ボス部
5 底部(座部)
5a 外周面
5b 内周面
5c 端面(噴射方向Dを向く面)
6 周壁部
7 貫通孔
8 通路部
8A 溝通路部(第一通路部)
8B 上流通路部(第三通路部)
8C 洞通路部(第二通路部)
10 第一ユニット
11 第一入口部
12 前段ケース部
13 DPFケース部
14 第一出口部
14a 端壁部
14b 凹部
15 混合部
15h 孔部
20 第二ユニット
21 第二入口部
22 SCRケース部
23 第二出口部
41 内壁材
42 外壁材
43 孔部
51 前段酸化触媒
52 DPF
53 SCR
54 後段酸化触媒
C1 混合部15の軸心
C2 インジェクタ3の軸心
C3 貫通孔7の軸心
D 噴射方向
L 接線
図1
図2
図3
図4