(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電縫溶接の監視方法、監視システム、及び監視プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 13/08 20060101AFI20220809BHJP
B23K 13/00 20060101ALI20220809BHJP
B21C 37/08 20060101ALI20220809BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B23K13/08 542
B23K13/00 A
B21C37/08 R
B21C51/00 P
(21)【出願番号】P 2018094860
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】深見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】武田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】軽部 嘉文
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昇
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118560(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 13/08
B23K 13/00
B21C 37/08
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう互いに対向させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造工程において、前記衝合部の溶融状態を監視する監視方法であって、
前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する工程と、
溶接状態が2段収束型第2種溶接状態である場合の監視対象時点における入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力
である基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する工程とを有する、監視方法。
【請求項2】
請求項1に記載の監視方法であって、
前記電力評価値ξは、下記式(1)により算出される、監視方法。
ξ= f(t/D)×(LV0-LV1)+g(t/D) (1)
t:金属管の厚み
D:金属管の直径
f(t/D):t/Dを変数とする関数
g(t/D):t/Dを変数とする関数
【請求項3】
請求項2に記載の監視方法であって、
前記電力評価値ξは、下記式(2)により算出される、監視方法。
ξ= {1945 × (t/D)
2-152×(t/D)+3.7}×(LV0-LV1)
+{-49834×(t/D)
2+4198×(t/D)-82.5} (2)
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の監視方法を含む、金属管を製造する金属管の製造方法であって、
前記算出された電力評価値をモニタに出力するか、又は、前記算出された電力評価値に基づいて前記入力電力を制御する工程をさらに備える、金属管の製造方法。
【請求項5】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう互いに対向させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造工程において、前記衝合部の溶融状態を監視する監視システムであって、
前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する画像情報検出部と、
溶接状態が2段収束型第2種溶接状態である場合の監視対象時点における入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力
である基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する評価算出部とを有する、監視システム。
【請求項6】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう互いに対向させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造工程において、前記衝合部の溶融状態を監視する監視プログラムであって、
前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する処理と、
溶接状態が2段収束型第2種溶接状態である場合の監視対象時点における入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力
である基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する処理とを、コンピュータに実行させる、監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫溶接(すなわちElectric Resistance Welding、以下、ERWと称する)において、溶接部品質を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ERWの技術を用いて製造された鋼管は電縫鋼管と呼ばれる。電縫鋼管は、例えば、石油又は天然ガス用ラインパイプ、油井管の他、原子力発電設備、地熱発電設備、化学プラント、各種機械の配管、及び一般配管に使用されている。電縫鋼管を製造する場合には、帯状の鋼板、例えば、熱延鋼帯を管状に成形する。その際、鋼板の周方向の両端すなわち互いに対向する端面を、径方向から見てV字状になるよう突き合わせる。互いに突き合わされるこれらの両端が衝合(接触)する部分に高周波電流を流すことよって、衝合部を加熱、溶融させて、溶接シームを形成する。
【0003】
ERWでは、溶接欠陥を抑えるために、入熱量(すなわち入力電力)及び溶接速度等を適正な範囲に制御することが求められる。例えば、入熱が不足していたり、溶接速度が速かったりする場合には未溶接部が発生することがある。一方、入熱が過剰であったり、溶接速度が遅かったりする場合には、多量の酸化物が溶接部に残存することがある。
【0004】
一般に、電縫溶接における溶接の状態は、第1種溶接状態と、第2種溶接状態と、第3種溶接状態とに大別される。第1種溶接状態では、鋼板の端面が最初に接触する溶接点の位置変動が非常に小さい。この溶接点の位置変動は、第2種溶接状態、及び第3種溶接状態の順に大きくなる。第2種溶接状態では、衝合部に溶融スリットが発生する。また、溶接速度及び入熱量がある条件を満たす場合に、2段収束を伴う2段収束型第2種溶接状態が出現する。なお、溶接状態は、溶接現象と称されることもある。そのため、第1種溶接状態は第1溶接現象と、第2種溶接状態は第2種溶接現象と、第3種溶接状態は第3種溶接現象と、2段収束型第2種溶接状態は2段収束型第2種溶接現象と称されることもある。
【0005】
2段収束型第2種溶接状態では、径方向から見てV字状に収束する鋼板の両端の延長線が交わる点(幾何学的V収束点:V0点)では鋼板の両端(エッジ)が接触しない。鋼板の端面が最初に接触するV収束点(V1点)は、V0点より造管方向の下流側になる。すなわち、鋼板の両端(エッジ)は、径方向から見て2段のテーパー状になる。なお、V収束点(V1点)は、V字状に収束する金属板の周方向の端部が物理的に衝合(接触)する点である。溶接点(W点)は、溶融スリットの終端点すなわち、溶融スリットの造管方向の下流の端である。
【0006】
図1は、各種溶接状態と、溶接速度及び入力電力との関係を概念的に示す図である。
図1において、領域2001が第1種溶接状態に対応する領域であり、領域2002が第2種溶接状態に対応する領域であり、領域2003が第3種溶接状態に対応する領域であり、領域2004が2段収束型第2種溶接状態に対応する領域である。また、Vmは2段収束型第2種溶接状態が現れる臨界溶接速度であり、Tmは鋼板の融点である。Tは、V0点における鋼板の両端(エッジ)の温度である。T=Tmの線より上の領域では、V0点で鋼板の両端が板厚全体にわたって溶融する。
【0007】
溶接速度が臨界溶接速度Vm未満の場合であって、入力電力が低い場合には、溶接の状態は第1種溶接状態(領域2001)となる。溶接速度が臨界溶接速度Vm未満であっても、入力電力を増加させると、溶接の状態は第2種溶接状態(領域2002)となり、更に入力電力を増加させると第3種溶接状態(領域2003)に移行する。一方、溶接速度が臨界溶接速度Vm以上の場合、溶接の状態は、入力電力の増加と共に、第1種溶接状態(領域2001)から第2種溶接状態(領域2002)に移行し、更に入力電力を増加させると、2段収束型第2種溶接状態(領域2004)となる。
【0008】
特許第5510615号公報(特許文献1)には、電縫鋼管を製造する際のERWの操業を管理する電縫溶接操業管理装置が記載されている。この電縫溶接操業管理装置は、撮像装置で撮像されたV字収束領域の表面と溶融スリット端および溶接点とを含む領域の画像(V字収束領域の画像)を入力する。電縫溶接操業管理装置は、このV字収束領域の画像に対する処理の結果を用いて、溶接の状態が2段収束型第2種溶接状態となるように、高周波電源から出力される電力量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、ラボ試験及び実機試験を行い、入力電力(入熱量)と溶接状態(溶接現象)の関係、及び溶接状態と溶接欠陥面積率の関係を明確化し、最適溶接条件を検討した。その結果、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態へ移行する際に遷移領域が出現することがわかった。そして、溶接欠陥面積率が目標値を満足する溶接条件は、遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力SPLcrから10%程度増加した入力電力における2段階収束型第2溶接状態となる場合があることがわかった。
【0011】
例えば、上記のように、基準入力電力SPLcrから10%程度増加した入力電力を最適入力電力(目標入力電力)と設定して溶接操業する場合、現在の入力電力が基準入力電力から何%離れているかを監視することが有用である。
【0012】
そこで、本発明は、溶接中の入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力からどの程度離れているかを、推定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態における監視方法は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう互いに対向させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造工程において、前記衝合部の溶融状態を監視する監視方法である。
前記監視方法は、前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する工程と、ある監視対象時点における入力電力(又は入熱量)が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接中の入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力からどの程度離れているかを、容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、各種溶接状態と、溶接速度及び入力電力との関係を概念的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る電縫鋼管の製造システムの構成の一例を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、2段収束型第2種溶接状態におけるV字収束領域の一例を概念的に示す図である。
【
図3B】
図3Bは、2段収束型第2種溶接状態におけるV字収束領域の一例を概念的に示す図である。
【
図4】
図4は、入力電力と溶接部画像例および溶接部形状計測値を示す図である。
【
図5】
図5は、入力電力とLV0、LV1、LWそれぞれの関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、入力電力とLV0-LV1の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、板厚6.4mmにおける入力電力毎の溶接状態判定結果と溶接部画像を示す図である。
【
図8】
図8は、板厚12.7mmにおける入力電力毎の溶接状態判定結果と溶接部画像を示す図である。
【
図9】
図9は、板厚19mmにおける入力電力毎の溶接状態判定結果と溶接部画像を示す図である。
【
図10】
図10は、板厚6.4mmにおける入力電力と、LV0-LV1および溶接状態の関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、板厚12.7mmにおける入力電力と、LV0-LV1および溶接状態の関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、板厚19mmにおける入力電力と、LV0-LV1および溶接状態の関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、電力評価値ξとLV0-LV1との関係を板厚毎に示すグラフである。
【
図14】
図14は、t/D変化に伴うLV0-LV1と電力評価値ξの関係を示すグラフである。
【
図15】
図15(a)(b)(c)は、電力評価値ξが、5%、10%、15%のときのt/DとLV0-LV1の関係をそれぞれ示すグラフである。
【
図16】
図16は、電力評価値ξの実測値と計算値の関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、監視システムを含む管理システムの構成例を示す図である。
【
図18】
図18は、管理システム100による溶接状態の監視処理の一例を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、V字収束領域の画像の一例を図面化した図である。
【
図20】
図20は、2値化画像の一例を図面化して示す図である。
【
図21】
図21は、ラベリング処理が行われた2値化画像の一例を図面化して示す図である。
【
図22】
図22は、V字収束領域のブロッブ91が抽出された様子の一例を図面化して示す図である。
【
図23】
図23は、V収束点V1点が検出された様子の一例を図面化して示す図である。
【
図24】
図24は、V収束点V1点が検出された様子の一例を図面化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、溶接時の金属管端部の形状を注意深く観察した結果、第2種溶接状態から2段収束型第2溶接状態への移行時に遷移領域が存在することを見出した。さらに、発明者らは、その遷移領域及び2段収束型第2溶接状態において、入力電力(すなわち入熱量)の増加に伴い距離(LV0-LV1)が変化することを見出した。さらに、発明者らは、金属管の厚みt及び直径Dが変わると、距離(LV0-LV1)も変化することを見出した。これらの知見に基づいて、発明者らは、遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力に対する現在の入力電力の相対的な値を、距離(LV0―LV1)と、金属板の厚みt及び成形される金属管の直径Dを用いて計算できることに想到した。すなわち、距離(LV0―LV1)と、金属板の厚みt及び金属管の直径Dを用いることで、ある時点の入力電力が、基準入力電力に対して、どの程度離れているかを推定できることを見出した。この知見に基づき、以下の実施形態に想到した。
【0017】
本発明の実施形態における監視方法は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう互いに対向させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造工程において、前記衝合部の溶融状態を監視する監視方法である。
前記監視方法は、前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の(造管方向における)上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する工程と、ある監視対象時点における入力電力(又は入熱量)が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する工程とを有する。
【0018】
上記の監視方法を実現する装置、並びに、上記の監視方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及びそのプログラムを記録した記録媒体も、本発明の実施形態に含まれる。
【0019】
上記監視方法を実現する装置の実施形態としての監視システムは、前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する画像情報検出部と、ある監視対象時点における入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する評価算出部とを有する。
【0020】
上記の監視方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの実施形態としての監視プログラムは、前記金属板の両端の衝合部及びその周辺部を前記径方向から撮影した画像に基づいて、前記金属板の両端の衝合部の上流における接触前の前記両端の延長線の幾何学的な交点である幾何学的V収束点V0点と、前記金属板の両端が接触し始める衝合点であるV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する処理と、ある監視対象時点における入力電力が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域における入力電力として決定される基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、前記監視対象時点における距離(LV0-LV1)、前記金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dを用いて、算出する処理とを、コンピュータに実行させる。
【0021】
上記の監視方法、監視システム、又は監視プログラムによれば、溶接中の入力電力が、遷移領域状態を発生させる入力電力からどの程度離れているかを、推定することが可能になる。ここで、入力電力は、金属板の衝合部に流す交流電流を供給するための電力である。入力電力を調整することで、金属板の溶接における入熱量を調整することができる。すなわち、金属板の溶接における入熱量は、入力電力に依存する。そのため、入力電力の値は、入熱量の値として表されてもよい。
【0022】
上記の構成において、溶接状態が第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態への遷移領域にある時の入力電力を、基準入力電力として決定することができる。基準入力電力は、溶接状態が厳密に遷移領域内にある場合の入力電力に限られず、例えば、遷移領域外であっても遷移領域と見なすことができる程度に遷移領域に近い場合の入力電力であってもよい。溶接状態が遷移領域であるか否かは、例えば、衝合部及びその周辺部を径方向から撮影した画像の処理結果に基づいて判断することができる。
【0023】
上記の監視方法、監視システム、又は監視プログラムにおいて、前記電力評価値ξは、例えば、下記式(1)により算出することができる。
ξ= f(t/D)×(LV0-LV1)+g(t/D) (1)
t:金属管の厚み
D:金属管の直径
f(t/D):t/Dを変数とする関数
g(t/D):t/Dを変数とする関数
【0024】
上記の式(1)において、f(t/D)、g(t/D)は、tとDが決まれば定数となる。上記式(1)は、tとDで決まる値を、係数及び定数項とし、距離(LV0―LV1)を変数とする一次関数となる。式(1)を用いることにより、溶接中の入力電力が、基準入力電力SPLcrからどの程度離れているかを、正確に推定することができる。
【0025】
なお、電力評価値ξを算出する式は、上記式に限られない。例えば、距離(LV0―LV1)を変数とする一次関数の代わりに、二次関数、指数関数、その他の関数を用いてもよい。また、例えば、係数及び定数項の少なくともいずれかは、tとDに加えて、他の値に依存する値であってもよい。また、上記例では、電力評価値ξは、例えば、百分率で表される値(すなわち単位が%の値)である。このように電力評価値ξは、基準入力電力SPLcrに対する入力電力の比率で表すことができる。なお、電力評価値ξは、基準値に対する比率の他、差分、その他の基準値に対する相対的な値で表されてもよい。
【0026】
上記の監視方法、監視システム又は監視プログラムにおいて、前記電力評価値ξは、例えば、下記式(2)により算出することができる。
ξ= {1945 × (t/D)2-152×(t/D)+3.7}×(LV0-LV1)
+{-49834×(t/D)2+4198×(t/D)-82.5} (2)
【0027】
発明者らは、上記式(1)における、f(t/D)及びg(t/D)を、二次関数とすることで、精度よく、電力評価値ξを計算できることを見出した。上記式(1)のf(t/D)及びg(g/D)を二次関数として、実験データを基にフィッティングして得られた式が上記式(2)である。そのため、上記式(2)を用いることで、精度良く、電力評価値ξを算出することができる。
【0028】
上記監視方法を含む金属管の製造方法、監視システムを含む金属管の製造システム又は監視プログラムを含む金属管の製造プログラムも、本発明の実施形態に含まれる。この製造方法、製造システム又は製造プログラムは、前記算出された電力評価値をモニタ(表示装置)に出力するか、又は、前記算出された電力評価値に基づいて前記入力電力を制御する工程、機能部、又は処理をさらに含んでもよい。また、電力評価値が予め決められた条件を満たすか否かにより、溶接状態を判断する工程、機能部又は処理が含まれてもよい。これにより、電力評価値を用いた入力電力の制御を容易にすることができる。
【0029】
前記製造方法は、例えば、前記電力評価値と、予め決められた目標入力電力の範囲とを同時に視認可能な状態でモニタに表示する工程を含んでもよい。また、前記製造方法は、前記電力評価値が、予め決められた目標入力電力の範囲内となるように、入力電力を制御する工程を含んでもよい。目標入力電力の範囲は、例えば、SPLcrよりも5%~20%大きい入力電力の範囲内とすることができる。一例として、目標入力電力の範囲を、SPLcrから10%増加した入力電力から所定の範囲内とすることができる。
【0030】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0031】
[実施形態1]
<電縫鋼管の製造システム>
図2は、本発明の実施形態に係る電縫鋼管の製造システムの構成の一例を示す図である。尚、本実施形態では、電縫鋼管の製造システムの各構成要素の位置と、撮像された画像の位置は、それぞれ同一の3次元直交座標(x,y,z座標)で表されるものとする。すなわち、各図に示すx,y,z座標は、その方向のみを示すものであり、その原点の位置は各図において同一であるものとする。
【0032】
図2において、電縫鋼管の製造システムは、スクイズロール2a、2bと、コンタクトチップ3a、3bと、インピーダー4と、撮像装置5と、高周波電源6と、管理システム100と、を有する。
【0033】
まず、電縫鋼管の製造設備の概要を説明する。
図2に示すように、帯状の鋼板1がx軸の正の方向に向かって搬送されながら、ロール群(図示せず)により連続的に円筒状に成形される。円筒状に成形される鋼板1の内部には、磁束を鋼板1の衝合部に集中させるためのインピーダー4が配置されている。高周波電源6から高周波の電力が供給されると、一対のコンタクトチップ3a、3b(又は誘電コイル(図示せず))から、鋼板1のV字状に収束する領域の表面に高周波電流が流れる。このとき、スクイズロール2a、2bにより、鋼板1に対してその両側方から押圧力が加えられる。これにより、鋼板1の周方向の両端11a、11bをV字状に収束させながら突き合わせて接触させるとともに、両端11a、11bが接触する衝合部を加熱し溶融させて、鋼板1を溶融接合する。このような溶融接合は、電縫溶接(ERW)と称される。尚、以下の説明では、「鋼板1のV字状に収束する領域」を必要に応じて「V字収束領域」と称する。また、鋼板1の周方向の両端11a、11bが突き合わされて、1本の線状に観察される部分を必要に応じて「溶接線」と称する。
【0034】
撮像装置5は、V字収束領域の表面を含む領域の自発光パターン(輻射パターン)を撮像する。撮像装置5としては、例えば、1920×512の画素を有する3CCD型カラーカメラが用いられる。撮像装置5は、例えば、撮影視野が50[mm]×190[mm]、分解能が100[μm/画素]、撮影フレームレートが500[fps]、露光時間が1/10000[sec]の条件で、V字収束領域の表面を含む領域を撮像する。撮像装置5による撮像は一定の時間間隔で連続的に行われる。連続的に撮像された複数の画像における一枚の画像をフレームと呼ぶ。また、以下の説明では、撮像装置5で撮像された「画像」を必要に応じて「V字収束領域の画像」と称する。
【0035】
管理システム100は、撮像装置5で撮像されたV字収束領域の画像を入力する。そして、管理システム100は、V字収束領域の画像に対する処理等を行って、溶接状態を監視する。すなわち、画像処理の結果として、溶接状態を示すデータが生成される。管理システム100は、画像処理により得られる溶接状態を示すデータに基づいて、溶接条件を決定する。例えば、管理システム100は、溶接の状態が2段収束型第2種溶接状態となるように、高周波電源6から出力される電力量(VA)を制御することができる。
【0036】
管理システム100は、決定した溶接条件となるように、スクイズロール2a、2b、コンタクトチップ3a、3b、高周波電源6又はその他の部材の動作を制御する。このように、管理システム100は、溶接の状態を監視する監視装置(監視システム)と、監視結果に基づいて溶接を制御する制御装置(制御部)とを含むことができる。監視装置は、上記の撮像装置5で撮像された画像の他にも、必要に応じて、溶接条件に関する情報を取得してもよい。例えば、コンタクトチップ3a、3b及び高周波電源6の出力値、スクイズロール2a、2bの圧力、ロール間距離等、溶接に用いられる装置の動作を示す情報を取得することができる。
【0037】
<2段収束型第2種溶接状態の説明>
図3A及び
図3Bは、2段収束型第2種溶接状態におけるV字収束領域の一例を概念的に示す図である。具体的に
図3Aは、V字収束領域をその上方(z方向)から見た図であり、
図3Bは、鋼板1の搬送方向(x軸方向)すなわち造管方向の上流側からV収束点V1点の方向を見た図である。
【0038】
2段収束型第2種溶接状態では、鋼板1の周方向の両端11a、11bの厚み方向(z軸方向)の溶融部分が排出されながら両端11a、11bが突き合わせられる。その際、両端11a、11bの厚み方向の中心部が溶融して中心から外側へ向かって溶融部分が排出される(
図3Bに示す矢印線を参照)。
【0039】
鋼板1の上方からV字収束領域を含む領域の自発光パターンを高精細に且つ像流れなく撮像(撮影分解能:100[μm/画素]、露光時間:1/10000[sec]の条件)して高い精度でV収束点を測定したところ、2段収束型第2種溶接状態が観測された。溶接の状態が2段収束型第2種溶接状態となると、
図3Aに示すように、鋼板1の搬送方向(x軸方向)すなわち造管方向の相対的に上流側の領域に幾何学的なV収束点である幾何学的V収束点V0点と、相対的に下流側の領域に衝合点であるV収束点V1点とが存在するようになる。幾何学的V収束点V0点は、V字状に収束する鋼板1の周方向の両端11a、11bの下流側への延長線(破線で示す)が幾何学的に交わる点である。一方、衝合点であるV収束点V1点は、V字状に収束する鋼板1の周方向の両端11a、11bが最初に物理的に衝合(接触)する点である。V字を形成していた両端11a、11bは、2段収束型第2種溶接状態では、V字先端から造管方向の上流側のある程度の位置k1、k2において屈曲した2段のテーパー状の形状となる。これに対して遷移領域における両端11a、11bは、直線状と2段のテーパー状の状態が交互に現れる不安定な形態を示す。
【0040】
溶接の状態が第2種溶接状態となる入力電力以上の入力電力が与えられるときには、溶融スリットの終端点である溶接点W点は、衝合点であるV収束点V1点よりも更に造管方向の下流側の領域に存在する。V収束点V1点と溶接点W点との間には、鋼板1の厚み方向において鋼板1を貫通する溶融スリットSが形成される。さらに、この溶融スリットSは、V収束点V1点から、鋼板1の搬送方向(x軸方向)すなわち造管方向の下流側の方へ伸びた後、消失する。このような溶融スリットSのx軸方向の大きさの変動(溶融スリットSの成長と消失)は、数[msec]の周期で周期的に行われる。V収束点V1点と溶接点W点とは、ともに溶接線上に存在する。
【0041】
発明者らは、最適溶接条件は、遷移領域状態における入力電力すなわち基準入力電力SPLcrから10%程度大きい2段収束型第2種溶接状態の入力電力である場合があることを見出した。しかし、2段収束型第2種溶接状態においては、入力電力が基準入力電力SPLcrからどの程度離れているのかを特定することが難しく、入力電力の監視が難しかった。
【0042】
一方、入力電力が変化すると溶接部を直上(径方向)から観察した溶接部形状(V0点、V1点、W点)が変化することがこれまでに分かっている。そこで、発明者らは、溶接部を直上から観察したときの溶接部形状を注意深く観察した。その結果、溶接部形状と入力電力との間にある関係があることを見出した。この関係を用いて。溶接条件を監視する方法を発明した。以下に、発明者らによる実験及び検討の詳細を説明する。
【0043】
<ラボシミュレータを用いた実験>
ラボ試験装置(以下、ラボシミュレータと称す)を使用して溶接実験を行った。供試材は炭素鋼を使用した。試験片の形状は、板厚8mm、幅32mm、長さ4000mmとした。溶接速度は20m/minとし、入力電力は425.9~474.7VAとした。スクイズ量は4mmとした。溶接状態判定は、主にビデオカメラによる動画で実施した。
【0044】
溶接部形状の測定はビデオカメラで撮影した画像から実施した。
図3Aに示すように、鋼板エッジの延長線が接触する点を幾何学的V収束点(V0点)と定義して、スクイズロールの軸芯を結んだ線(スクイズロールセンター:SQC)と、V0点の距離をLV0(mm)とした。V0点より造管方向の下流側で鋼板エッジが接触する場合は、その接触点をV1点とした。SQCとV1点の距離をV1(mm)、V0点とV1点の距離をLV0-LV1(mm)とした。溶接点をW点とし、SQCとW点の距離をLW(mm)とした。距離LV0、LV1、LW、及びLV0-LV1の計測は、連続して撮影された100枚の画像(フレーム)の平均値とした。
【0045】
図4~
図6は、上記ラボシミュレータによる実験結果を示す。
図4に入力電力と溶接部画像例および溶接部形状計測値を示す。また
図5に入力電力と距離LV0、LV1、LWそれぞれの関係を、
図6に入力電力と距離(LV0-LV1)の関係を示す。
【0046】
LV0(mm)は入力電力の増加とともに増加した。LV1(mm)とLW(mm)は入力電力の増加とともに減少した。またLV0-LV1(mm)は、第2種溶接状態では0mmで、遷移領域になると増加し始め、入力電力の増加とともにさらに増加した。すなわち遷移領域以上の入力電力において入力電力と距離(LV0-LV1)に相関関係があることがわかった。
【0047】
このラボシミュレータの実験の結果を検討し、あらかじめ適正入力電力におけるLV0-LV1(mm)を計測し、溶接中のLV0-LV1(mm)と比較することで、適正値からの入力電力の変化を監視できる可能性があることに、発明者らは想到した。
【0048】
<実機における検証>
上記のラボシミュレータによる実験結果を受けて、発明者らは、実機で種々の板厚を用いて距離(LV0-LV1)と入力電力の関係を検証した。以下にその詳細を説明する。
【0049】
(1)実験条件
板厚6.4mm、12.7mm、19.0mm、外径404.4mmの鋼管を造管した。入力電力は第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態となるまでステップ状に増加させた。
【0050】
(2)距離(LV0-LV1)計測方法
距離(LV0-LV1)の計測は、溶接部上方から撮影した画像を用いて行った。計測値は連続して撮影された100枚の画像(フレーム)の平均値とした。
【0051】
板厚6.4mm、12.7mm、19.0mmのそれぞれにおける入力電力毎の溶接状態判定結果と溶接部画像を
図7、
図8、
図9に示す。また、
図10、
図11、
図12に、入力電力と距離(LV0-LV1)および溶接状態の関係を示す。いずれの板厚においても、第2種溶接状態での距離(LV0-LV1)は0mmであるが、入力電力を増加させて遷移領域状態に変化するとV0点とV1点が分離した。さらに入力電力を増加させると2段収束型第2種溶接状態に変化して距離(LV0―LV1)は増加し、2段収束型第2種溶接状態でも入力電力増加に伴って距離(LV0―LV1)が増加した。
【0052】
図13に電力評価値ξと、距離(LV0―LV1)および板厚の関係を示す。ξは基準入力電力SPLcrに対する入力電力の増分の割合(%)を示す。
図13より、ξが大きいほど距離(LV0-LV1)の値が大きく、また板厚が大きくなると、距離(LV0―LV1)が小さくなることが確認された。
【0053】
これらの結果から、実機においてもラボシミュレータと同様に、2段収束型第2種溶接状態の範囲で、入力電力の増加とともに距離(LV0-LV1)が増加することを確認した。以上のことから、あらかじめ設定された入力電力におけるLV0―LV1(mm)を計測し、溶接中のLV0-LV1(mm)と比較することで、最適溶接条件監視の可能性があることを見出した。
【0054】
<LV0―LV1予測式構築による適正溶接条件監視技術の高度化提案>
上記の実験結果を基に、電力評価値ξが、距離(LV0-LV1)と、板厚tを金属管の直径Dで無次元化したt/Dによって求められると仮定して予測式を検討した。
【0055】
まず、t/D変化に伴うξと距離(LV0-LV1)の関係を
図14に示す。ξが距離(LV0-LV1)とほぼ線形の関係にあることから、ξ予測式を、下記式(1)と仮定した。
ξ(%)= f(t/D)×(LV0-LV1)+g(t/D) (1)
【0056】
また、
図15(a)(b)(c)に、ξが、5%、10%、15%のときのt/Dと距離(LV0-LV1)の関係をそれぞれ示す。これらにより、いずれも二次関数で近似できることから、上記式(1)のf(t/D)とg(t/D)を二次関数と仮定して、フィッティングを行い、下記の予測式(2)を演算した。
ξ(%) = {1945 × (t/D)
2-152×(t/D)+3.7}×(LV0-LV1)
+{-49834×(t/D)
2+4198×(t/D)-82.5} (2)
【0057】
上記式(2)では、f(t/D)、g(t/D)が、二次関数であるが、f(t/D)、g(t/D)は、二次関数に限られない。一次関数又はその他の関数を、実測値にフィッティングすることでf(t/D)、g(t/D)を決定することができる。
図15(a)(b)(c)に示す例では、問題となるt/Dの範囲において、t/Dが増加するとf(t/D)、g(t/D)が減少するような関数を、f(t/D)、g(t/D)とすることができる。
【0058】
図16は、ξの実測値と計算値の関係を示すグラフである。
図16に示す結果から、上記式(2)を用いた計算値は、実測値と合っていることがわかった。
【0059】
以上の結果から、今回の実験データを用いた場合に距離(LV0-LV1)の予測をすることが可能であることが分かった。この知見に基づき、発明者らは、溶接中の画像から距離(LV0-LV1)をとらえることで溶接条件を監視する方法及びシステムを発明した。以下にその具体例を説明する。
【0060】
<溶接条件監視の具体例>
図17は、監視システムを含む管理システム100(製造システムの一例)の構成例を示す機能ブロック図である。管理システム100は、監視システム101、制御部104、及びモニタ105を含む。監視システム101は、画像情報検出部102、及び評価算出部103を含む。画像情報検出部102は、撮像装置5が金属板の両端の衝合部及びその周辺部を径方向から撮影した画像を取得する。画像情報検出部102は、取得した画像から、幾何学的V収束点V0点とV収束点V1点との距離(LV0-LV1)を検出する。評価算出部103は、ある監視対象時点における入力電力が、遷移領域における入力電力としていて決定される基準入力電力を示す値であるSPLcrに対して、どの程度離れているかを示す値である電力評価値ξを、算出する。電力評価値ξの算出には、監視対象時点における距離(LV0-LV1)、金属板の厚みt、及び成形される金属管の直径Dが用いられる。
【0061】
監視システム101は、評価算出部103で算出された電力評価値を、モニタ105に出力することができる。監視システム101は、操業中の連続する複数の時点のそれぞれにおける電力評価値を算出して、それらをモニタ105に出力してもよい。これにより、電力評価値をリアルタイムでモニタ105に表示することができる。
【0062】
また、監視システム101は、評価算出部103で算出された電力評価値に基づいて入力電力を制御する制御部104をさらに備える。制御部104は、例えば、電力評価値が予め決められた条件を満たすように、入力電力を制御することができる。例えば、電力評価値の上限と下限を予め設定してもよい。この場合、制御部104は、電力評価値が上限を超えた場合に、入力電力を下げ、電力評価値が下限を下回った場合に、入力電力を上げる制御が可能である。
【0063】
監視システム101は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって構成される。画像情報検出部102及び評価算出部103の各部は、1又は複数のコンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。そのようなプログラム及びそのプログラムを記録した非一時的(non-transitory)な記録媒体も、本発明の実施形態の一例である。プロセッサは、メモリに記録されたプログラムに従って処理を実行する。プログラムは、上記の画像情報検出部102及び評価算出部103を提供するためのプロセッサに対する命令を含むことができる。なお、制御部104も、1又は複数のコンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。
【0064】
図18は、管理システム100による溶接状態の監視処理の一例を示すフローチャートである。
【0065】
S1において、管理システム100は、溶接部に入力される入力電力EpIpを取得する。例えば、管理システム100は、各時刻t=t1、t2、t3、・・・、tnそれぞれにおける入力電力EpIpの値EpIp(t)を取得することができる。EpIp(t)は、例えば、高周波電源6の出力電圧及び出力電流から計算することができる。なお、管理システム100は、入力電力EpIpの代わりに、その他の入熱量を示す値を取得してもよい。
【0066】
S2において、管理システム100は、撮像装置5で撮像された溶接部の画像を取得する。ここでは、一例として、撮像装置5で連続する時刻t=t1、t2、t3、・・・、tnそれぞれにおいて撮像された画像(フレーム)を、管理システム100が受け取る。管理システム100は、取得した各画像について、V0点とV1点との距離(LV0-LV1)を計算する(S3)。これにより、各時刻tにおける距離(LV0-LV1)が得られる。
【0067】
S2で取得する画像は、鋼管の両端部11a、11bの衝合部及びその周辺を径方向(上方)から撮像した画像である。この画像の撮像範囲は、両端部11a、11bが接触し始めるV1点の造管方向の上流の両端がテーパー状又はV字状になって互いに対向する部分、及びV1点から下流の溶接点W点までを少なくとも含むことが好ましい。なお、画像に基づいて、距離(LV0-LV1)を検出する処理の例は、後述する。
【0068】
S4において、管理システム100は、S1で取得した入力電力EpIpと、S3で求めた距離(LV0-LV1)の時間遷移とに基づいて、基準入力電力を示す値SPLcrを検出する。例えば、管理システム100は、距離(LV0-LV1)が、LV0-LV1>0となりその後LV0-LV1>0の状態が一定時間継続する時点tvを決定する。時刻tvにおけるLV0-LV1が、所定の閾値Th1を越える場合に、その時刻tvの入力電力EpIp(tv)をSPLcrと決定することができる。閾値Th1は、例えば、金属管のサイズや材質等に応じて定められる。なお、SPLcrの検出処理は、上記例に限られない。
【0069】
上記の条件を満たす距離(LV0-LV1)の時間遷移が検出されない場合、管理システム100は、SPLcrは未検出すなわち入力電力が基準入力電力に達していないと判断することができる(S5でNo)。例えば、入力電力が低く、第1種溶接状態又は第2種溶接状態の場合は、入力電力が基準入力電力SPLcrに達していないと判断される。
【0070】
S5でSPLcrが検出されないと判断された場合(S5でNo)、入力電力を上昇させて入熱量を増やして、S1~S4の処理を繰り返す。SPLcrが検出されると(S5でYes)、管理システム100は、電力評価値ξを計算する(S7)。電力評価値ξは、S3で演算された距離(LV0-LV1)を、例えば、上記式(1)に代入して計算することができる。上記式(1)におけるf(t/D)、g(t/D)は、金属管の厚みt及び直径Dに基づいて、予め計算された値を用いることができる。
【0071】
S8において、管理システム100は、S7で計算された電力評価値ξを用いて溶接状態を判定する。ここでは、電力評価値ξが、予め設定された範囲内にある場合に、溶接状態が良好と判定することができる。上記範囲を決める閾値は、例えば、5~15%、好ましくは8~12%等、10%付近を示す値とすることができる。また、電力評価値ξが、上記範囲より大きい場合は、入熱量が大きすぎると判定することができる。電力評価値ξが、上記範囲より小さい場合は、入熱量が小さすぎると判定することができる。
【0072】
S9において、管理システム100は、S8で判定した結果を表示する。例えば、管理システムが備える又は接続されるモニタ105(ディスプレイ)、スピーカ、又はプリンタ等の出力装置を介して、判定結果を出力することができる。判定結果は、溶接状態の良否を示す情報であってもよいし、入熱量(入力電力)の適否、過不足、又は過不足の量を示す情報であってもよい。
【0073】
S10において、管理システム100は、S8で判定した結果に基づいて、交流電源6を制御することにより、入力電力を制御する。例えば、S8で判定された入力電力の過不足の量に基づいて、交流電源6の出力値を変更することができる。S10で、入力電力が調整され、溶接が継続される。溶接が継続される間、S1~S10の処理が繰り返し実行される。例えば、管理システム100は、S7で計算された電力評価値ξが、上記の予め設定された範囲内になるように、入力電力を制御することができる。
【0074】
図18に示す処理によれば、入力電力の増加に伴って変化する電力評価値ξ及び距離(LV0-LV1)を監視することによって、溶接状態の良否が判定される。これにより、2段収束型第2種溶接状態における最適な入力電力を判断することができる。例えば、第1種溶接状態から、入力電力を徐々に増加し、第2種溶接状態を経て遷移領域になった後すなわちSPLcrが検出された後、2段収束型第2種溶接状態において、例えば、電力評価値ξが10%となるときの入力電力を、最適溶接条件として決定することができる。
【0075】
上記式(1)により、t/Dをパラメータとして、適正溶接条件を満たすとき(例えば、電力評価値ξが10%となるとき)の距離(LV0-LV1)の予測が可能である。このように、適正溶接条件を満たすとこの距離(LV0―LV1)を高度に予測することで、溶接前に適正溶接条件の距離(LV0―LV1)を計測することなく適正溶接条件の監視と制御が可能になる。
【0076】
なお、上記例では、電力評価値ξを、LV0-LV1、及びt/Dを用いて計算しているが、これらの要素以外の要素を用いて電力評価値ξを決定することもできる。例えば、上記式(1)に、溶接速度又は外径データなど他のパラメータで決まる項を追加してもよいし、上記式(1)を用いて計算された値を、他のパラメータを用いて補正してもよい。
【0077】
上記
図18に示す例では、S4でSPLcrが計算された場合に、電力評価値ξを用いた溶接状態の判定を実行している。これに対して、S4のSPLcrの計算及び、その判定(S5)、判定結果に基づく電力制御(S10)は省略することができる。
【0078】
(距離(LV0L-V1)の計算例)
画像情報検出部102は、V字収束部を含む画像に基づいて、幾何学的V収束点V0点を求める処理、V収束点V1点を求める処理、及び距離(LV0-LV1)を求める処理を実行する。
【0079】
幾何学的V収束点V0点を求める処理は、例えば、画像を2値化して2値化画像を生成する処理、2値化画像から金属板の周方向の両端部を決定する処理、両端部を示す2本の近似線を生成する処理、及び、これら2本の近似線の交点を幾何学的V収束点V0点として決定する処理を含むことができる。或いは、幾何学的V収束点V0点を求める処理は、画像におけるエッジ抽出処理、抽出されたエッジに対してテンプレートマッチングすることにより金属板の周方向の両端部及び交点を決定する処理、この交点を幾何学的V収束点V0点として決定する処理を含んでもよい。なお、幾何学的V収束点V0点を求める処理は、これらの例に限られない。
【0080】
V収束点V1点を求める処理は、例えば、画像を2値化して2値化画像を生成する処理、2値化画像からV収束点V1点を決定する処理を含むことができる。或いは、V収束点V1点を求める処理は、画像におけるエッジ抽出処理、抽出されたエッジに対してテンプレートマッチングすることによりV収束点V1点を決定する処理を含んでもよい。なお、V収束点V1点を求める処理は、これらの例に限られない。
【0081】
画像情報検出部102は、例えば、幾何学的V収束点V0点とV収束点V1点と座標から距離(LV0-LV1)を計算することができる。
【0082】
次に、画像情報検出部102の処理の一例を具体的に説明する。
図19は、撮像装置5により撮像されたV字収束領域の画像の一例を図面化した図である。
【0083】
図19に示すように、撮像装置5により撮像されたV字収束領域の画像では、鋼板1の周方向の端部11a、11bに沿って輝度レベルの高い高熱領域81a、81bが現れる。また、鋼板1の搬送方向(x軸方向)の下流側の領域82には、鋼板1に周方向の端部11a、11bの溶融部分が排出されてできる波状の模様が現れる。またV字状に収束している領域付近から鋼板1の搬送方向(x軸方向)に沿って溶融スリットSが現れる。
【0084】
画像データ処理は、例えば、CPUが、通信インターフェースを介して、撮像装置5から画像データを取得し、取得した画像データを、RAM等に一時的に記憶することにより実現される。
【0085】
(赤色成分抽出処理)
画像情報検出部102は、入力されたV字収束領域の画像データのコントラストを明確にするために、その画像データから赤色成分(波長590[nm]~680[nm])を抽出する。
【0086】
赤色成分抽出処理は、例えば、CPUが、RAM等から画像データを読み出して赤色成分を抽出し、抽出した赤色成分の画像データをRAM等に一時的に記憶することにより実現される。
【0087】
(2値化処理)
画像情報検出部102は、赤色成分抽出処理で得られた赤色成分の画像データを2値化(反転)する。ここでは、画像情報検出部102は、輝度レベルが閾値以上の画素に画素値「0」を、閾値未満の画素に画素値「1」を与える。幾何学的V収束点V0点とV収束点V1点の処理では、輝度レベルの閾値が異なってもよい。
図20は、2値化画像の一例を図面化して示す図である。
【0088】
画像情報検出部102の2値化処理は、例えば、CPUが、RAM等から赤色成分の画像データを読み出して2値化処理を行い、2値化画像データをRAM等に一時的に記憶することにより実現される。
【0089】
(ラベリング処理)
画像情報検出部102は、2値化処理で得られた2値化画像に対し、ブロッブ(Blob)毎にラベルをつけるラベリング処理を行う。ここでいうブロッブとは、ある画素に対し、上下左右方向において隣接する4画素と斜め方向において隣接する4画素とを含む隣接8画素の何れかにおいて、画素値「1」が与えられた画素が隣接している場合、それらの画素を連結することを各画素について行うことにより得られた個々の連結領域を意味する。また、ラベリング処理とは、個々のブロッブにラベル番号をつけて特定のブロッブを抽出し、抽出したブロッブの画像内の位置(x座標の最大点及び最小点、y座標の最大点及び最小点)、幅、長さ、面積等を抽出する処理である。
【0090】
図21は、ラベリング処理が行われた2値化画像の一例を図面化して示す図である。
【0091】
図21に示す例では、3つのブロッブに、それぞれラベル番号「1」、「2」及び「3」が付けられている場合が示されている。
【0092】
ラベリング処理は、例えば、CPUが、RAM等から、2値化画像データを読み出してラベリング処理を行い、その結果をRAM等に一時的に記憶することにより実現される。
【0093】
なお、幾何学的V収束点V0点の計算及びV収束点V1点の計算で、2値化処理で用いられる輝度レベルの閾値が同じである場合、2値化処理及びラベリング処理をそれぞれ共通にすることができる。
【0094】
(V収束点導出処理)
V収束点導出処理は、ラベリング処理によりラべル番号が付与されたブロッブのうち、所定の条件に合致するブロッブが抽出されたか否かを判定する処理を含む。V収束点導出処理では、画像情報検出部102は、所定の条件に合致するブロッブがあると判定した場合、そのブロッブ(
図21に示す例ではラベル番号「2」が付与されたブロッブ)を、V字収束領域のブロッブ91として抽出する。そして、画像情報検出部102は、抽出したV字収束領域のブロッブ91の座標や面積等の形状情報を取得する。
図22は、V字収束領域のブロッブ91が抽出された様子の一例を図面化して示す図である。また、
図23は、V収束点V1点が検出された様子の一例を図面化して示す図である。
【0095】
ここで、画像情報検出部102は、例えば、
図20に示す2値化画像において、左端に接し、且つ、所定の面積条件を有するブロッブがあれば、それをV字収束領域のブロッブ91として抽出する。所定の面積条件としては、例えば、ブロッブの面積の実寸法が15[mm
2]~150[mm
2]であるという条件と、ブロッブに外接する矩形ブロックの実寸法が25[mm
2]~320[mm
2]であるという条件との少なくとも何れか一方を満たす等の条件を設定すればよい。
【0096】
図24に示すように、画像情報検出部102は、V字収束領域のブロッブ91のx軸の正の方向(鋼板1の搬送方向の下流の方向)の先端を、衝合点であるV収束点V1点(の位置)として検出する。
【0097】
本実施形態では、一例として、1つの監視対象時点についてV収束点V1点と幾何学的V収束点V0点との間の距離(LV0-LV1)を測定する際には、画像情報検出部102は、撮像装置5により3[sec]に亘って連続的に撮像された複数のV字収束領域の画像のそれぞれについて、V収束点V1点の位置を検出する。撮像装置5は、500[fps]の撮影フレームレートで画像を撮像するので、1500個のV収束点V1点の位置が画像情報検出部102により検出される。ただし、例えば、V収束点V1点の位置の変動が僅かである場合、画像情報検出部102は、1つの画像から導出したV収束点V1点の位置を検出してもよい(すなわち、必ずしも複数の画像のそれぞれからV収束点V1点を導出する必要はない)。
【0098】
なお、電縫溶接操業管理装置100が鋼板1に対する入熱量の制御を行っているときに、所定のフレーム数以上連続して所定の条件に合致するブロッブが抽出されなければ、画像情報検出部102は、オペレータにエラーメッセージを出力することができる。
【0099】
V収束点導出処理は、例えば、CPUが、ラベリング処理が行われた2値化画像データをRAM等から読み出して、V収束点V1点の座標を導出し、その結果をRAM等に一時的に記憶することにより実現される。
【0100】
(幾何学的V収束点導出処理)
幾何学的V収束点導出処理は、ラベリング処理によりラベル番号が付与されたブロッブのうち、所定の条件に合致するブロッブが抽出されたか否かを判定する処理を含む。画像情報検出部102は、所定の条件に合致するブロッブがあると判定した場合、そのブロッブを、V字収束領域のブロッブ91として抽出する。そして、画像情報検出部102は、抽出したV字収束領域のブロッブ91の座標や面積等の形状情報を取得する(
図21、
図22を参照)。なお、画像情報検出部102は、V収束点導出処理で抽出されたV字収束領域のブロッブ91の情報を流用することもできる。
【0101】
次に、画像情報検出部102は、抽出したV字収束領域のブロッブ91から、鋼板1の周方向の端部11a、11bに対応する領域を探索する。
【0102】
図23は、画像情報検出部102が鋼板1の周方向の端部11a、11bに対応する領域を探索する様子の一例を図面化して示す図である。
【0103】
図23に示すように、画像情報検出部102は、V字収束領域のブロッブ91の、搬送方向(x軸方向)の最下流点(V収束点導出処理により検出されたV収束点V1点)を通り、且つ、x軸方向と平行な直線(
図23に示す一点鎖線)から、y軸の正の方向及びy軸の負の方向に、画素値が「1」から「0」に変化する点をそれぞれ探索し、その点を鋼板1の周方向の端部11aおよび11bとする探索処理を行う。
【0104】
画像情報検出部102は、この探索処理を、V字状に収束する方向(x軸方向)の所定の範囲、例えば2値化画像の左端(鋼板1の搬送方向の上流側)から、V字収束領域のブロッブ91の先端までの範囲のうち、左端から2/3の範囲で実行する(
図23に示す「直線近似する領域」を参照)。そして、画像情報検出部102は、探索した鋼板1の周方向の端部11a、11bに対応する領域をそれぞれ直線近似し、それぞれの近似直線の交点を幾何学的V収束点V0点として検出する。
【0105】
本実施形態では、画像情報検出部102は、V収束点V1点の位置を検出したときに使用したのと同じV字収束領域の画像のそれぞれについて、幾何学的V収束点V0点を検出する。
【0106】
上記の実施形態では、製造対象の金属管が鋼管である場合について説明したが、本発明は、鋼管以外の金属管の製造に適用してもよい。
【0107】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
2a、2b スクイズロール
3a、3b コンタクトチップ
4 インピーダー
5 撮像装置
6 高周波電源
100 管理システム