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特許7119579凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置及び昇温方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置及び昇温方法
(51)【国際特許分類】
   F25D 3/02 20060101AFI20220809BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F25D3/02
A23L3/36 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018101205
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019207038
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】赤路 康一
(72)【発明者】
【氏名】新宮 充久
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-280279(JP,A)
【文献】特開2016-154453(JP,A)
【文献】特開2004-138274(JP,A)
【文献】登録実用新案第3119561(JP,U)
【文献】実開平06-072393(JP,U)
【文献】実開平05-015793(JP,U)
【文献】特開2017-172839(JP,A)
【文献】特開2002-013855(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093311(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0062038(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 3/02
A23L 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するため昇温装置であって、
前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納される外側容器と、熱伝導率が水の熱伝導率以上の緩衝部材と、を備え、
前記金属製容器が前記緩衝部材の内側に配置され、前記緩衝部材を介して、前記流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする昇温装置。
【請求項2】
前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷である請求項1記載の昇温装置。
【請求項3】
前記緩衝部材が、水及び/又は銅から成る請求項1又は2記載の昇温装置。
【請求項4】
前記緩衝部材の少なくとも一部が、水が充填された銅製容器であり、該銅製容器が前記外側容器内に設置され、前記金属製容器が前記銅製容器内に設置される請求項1~3の何れかに記載の昇温装置。
【請求項5】
前記金属製容器の上部には開口部が形成されており、該開口部は、前記流動性媒体の界面よりも上方に位置し、
前記緩衝部材の少なくとも一部が、天面及び該天面の周縁から垂下する側壁から成る部材であり、前記金属製容器の開口部の少なくとも一部を覆い、且つ前記側壁の下部が、前記外側容器内の流動性媒体に浸漬されている請求項1~4の何れかに記載の昇温装置。
【請求項6】
前記金属製容器が、スチール製である請求項1~5の何れかに記載の昇温装置。
【請求項7】
前記外側容器内に配置され、前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための攪拌装置を備える請求項1~6の何れかに記載の昇温装置。
【請求項8】
金属製容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温方法であって、
前記金属製容器を、熱伝導性が水以上の緩衝部材を介して、流動性媒体が収納された外側容器の内側に設置し、前記流動性媒体が、凍結点が水よりも小さく且つ前記内容物の凍結点以下の温度で流動性を有する流動性媒体であり、前記緩衝部材を介して、前記流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間の熱交換を行うことにより凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする昇温方法。
【請求項9】
前記流動性媒体が、外側容器内に備えられた撹拌装置により撹拌されて温度が均一化される請求項8記載の昇温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置及び昇温方法に関するものであり、より詳細には、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いて効率よく昇温させる昇温装置及び昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で液体状の食品や薬品等の品質を長期に亘って保持するために、所定の容器に入れ、凍結した状態で保存や輸送等に供されることが広く行われている。
例えば、果物や野菜のジュース等の場合には、果物等の生産地に近い場所で果汁を絞り、これを凍結することにより、新鮮な果物等から風味や栄養価に優れた果汁をその品質を損なうことなく凍結状態として保管又は輸送することができる。
このような凍結状態にある物質の解凍方法として、従来は、自然解凍や多段階冷凍冷蔵解凍の他、熱風を当てる解凍方法、マイクロ波を照射して解凍する方法等が提案されている。
【0003】
また食品の解凍方法として、シャーベット氷を解凍媒体として使用した凍結食品解凍法も提案されている(特許文献1)。この方法は、表面積が大きく且つ水よりも熱伝導率の高い微細氷によって、凍結品の冷熱を奪い、短時間での高品質解凍を可能にするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-154453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したような常温で液体状の果汁等の凍結品を自然解凍等の従来の解凍方法を利用すると、凍結品はその表面から溶け始めることから、凍結品の表面に液状の境界膜が形成される。この液状の境界膜が形成されると、熱伝達率が極端に低下するため、結果として中心部分まで完全に昇温することなく硬い芯が残った状態になる。また果汁等の凍結品は、凍結状態によっては、中心部分及び下部に果汁濃度が高い部分が形成される、凍結濃縮が生じる場合があり、果汁濃度の相違により凍結点が異なることから、やはり均一に解凍することが困難である。更に自然解凍等では凍結品全体を完全に解凍するには長時間を必要とし、その間に、腐敗、酸化、内容成分の分解、色の変化等の品質劣化が生じるおそれがあると共に、品質が劣化した物質の廃棄のためのコスト増の問題もある。また熱風やマイクロ波を用いた解凍方法では、時間は短縮できるとしてもエネルギーコストがかかると共に、熱風では凍結品表面の境界膜による問題があり、マイクロ波加熱では部分的な過加熱が生じやすく均一な昇温が困難である。
【0006】
また上述したシャーベット氷を利用した解凍方法は塩分濃度を調整して、解凍媒体の温度を凍結食品の氷結温度に近い温度に調整するものであることから、凍結品を収納する容器に制限がある。すなわち、凍結品が金属製容器に収納されている場合には、シャーベット氷との接触により金属製容器に錆が発生するおそれがあり、また容器が完全に密閉状態にない場合には、塩水の混入により品質が劣化するおそれがある。
従って本発明の目的は、上記のような問題を生じることなく、シャーベット氷のような内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いて、凍結状態にある常温時に液体状の内容物全体を均一に且つ効率よく昇温可能な昇温装置及び昇温方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、金属製容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するため昇温装置であって、前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納される外側容器と、熱伝導率が水の熱伝導率以上の緩衝部材と、を備え、前記金属製容器が前記緩衝部材の内側に配置され、前記緩衝部材を介して、前記流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする昇温装置が提供される。
【0008】
本発明の昇温装置においては、
1.前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷であること、
2.前記緩衝部材が、水及び/又は銅から成ること、
3.前記緩衝部材の少なくとも一部が、水が充填された銅製容器であり、該銅製容器が前記外側容器内に設置され、前記金属製容器が前記銅製容器内に設置されること、
4.前記金属製容器の上部には開口部が形成されており、該開口部は、前記流動性媒体の界面よりも上方に位置し、前記緩衝部材の少なくとも一部が、天面及び該天面の周縁から垂下する側壁から成る部材であり、前記金属製容器の開口部の少なくとも一部を覆い、且つ前記側壁の下部が、前記外側容器内の流動性媒体に浸漬されていること、
5.前記金属製容器が、スチール製であること、
6.前記外側容器内に配置され、前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための攪拌装置を備えること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、金属製容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温方法であって、前記金属製容器を、熱伝導性が水以上の緩衝部材を介して、流動性媒体が収納された外側容器の内側に設置し、前記流動性媒体が、凍結点が水よりも小さく且つ前記内容物の凍結点以下の温度で流動性を有する流動性媒体であり、前記緩衝部材を介して、前記流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間の熱交換を行うことにより凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする昇温方法が提供される。
本発明の昇温方法においては、前記流動性媒体が、外側容器内に備えられた撹拌装置により撹拌されて温度が均一化されること、が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の昇温装置及び昇温方法では、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いることにより、従来の解凍方法のように界面に熱伝導率を低下させる境界膜を形成することがないため、凍結状態にある常温で液体状の内容物の冷熱を流動性媒体が効率よく奪って昇温させることができる。
しかも本発明の昇温装置においては、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を収納する金属製容器と、凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体とが、緩衝部材を介して接しているため、流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷を使用した場合にも、金属製容器が発錆等の劣化損傷を生じるおそれや、或いは内容物への塩水の混入のおそれもない。
また緩衝部材が熱伝導率の高い材料で形成されていることから、流動性媒体と凍結状態にある内容物の熱交換を損なうことも防止されている。
更に、凍結状態にある常温で液体状の内容物は、内容物の凍結点未満の所望温度まで昇温されることにより、固体の状態を保ったまま内部まで均一に昇温するため、品質劣化のおそれもない。
また凍結濃縮により、凍結品に濃度勾配があった場合でも、内部まで均一に昇温できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の昇温装置の一例を示す図であり、(A)は上面図、(B)側断面図である。
図2】本発明の昇温装置の他の一例を示す図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
図3】本発明の昇温装置の他の一例を示す図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の昇温装置及び昇温方法は、凍結状態にある常温で液体状の内容物(以下、単に「内容物」ということがある)を、内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用い、該流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、前記凍結状態にある内容物の温度を効率よく昇温させるという知見に基づくものであり、この昇温操作を効率よく、しかも装置の劣化損傷や内容物の品質劣化などを生じることなく、行うことができる。
すなわち、凍結状態にある常温で液体状の内容物を昇温させる際に、内容物の界面には熱伝導率の低い境界膜が形成されると、内容物から効率よく冷熱を奪うことが困難であるが、本発明では、内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いることにより、このような境界膜の形成を抑制することが可能になる。本発明で使用する流動性媒体は、内容物との温度差が小さいことから境界膜を形成することなく、しかも内容物の凍結点未満の温度で流動性を有していることから、大きな接触面積で熱交換が可能であり、内容物を過剰に昇温することがなく、内容物を固体の状態のまま均一に昇温できるため、品質を劣化させるおそれもない。
尚、本明細書において、「凍結点」とは、「凝固点」及び「融点」と同じ概念であり、常温で液状の物質の凍結点とは、物質が均一に溶けた状態で、氷結状態から溶け始める温度を意味する。尚、凍結点は、JIS K 0065に準拠して測定することができる。
また、「冷熱」とは、相対的に温度の高い流動性媒体から温度の低い凍結品へエネルギーが移動する際に、一方で、凍結品から流動性媒体へ移動すると観念できるマイナスのエネルギーのことをいう。
【0013】
[常温で液体状の物質]
本発明の昇温装置及び昇温方法で昇温される対象は、凍結状態にある常温で液体状の物質であり、前述したとおり、かかる凍結品は、自然解凍等の従来公知の方法で昇温させると、界面に液状膜を形成してしまうため、効率よく熱交換することが困難であるが、本発明の昇温方法によれば、液状膜の形成が抑制されるため効率よく昇温することができる。
常温で液体状とは、液状,ゲル状,エマルジョン等であり、少なくとも液体を有して流動性を有していればよく、この液体中に固形分が存在してもよい。
本発明の昇温装置及び昇温方法は、常温で液体状の物質であって、品質保持のために凍結状態で保存や輸送することが必要な物質に好適に使用でき、これに限定されないが、果汁等の飲料、ゼリー、液卵、母乳、薬品、血液等に特に好適に使用できる。
また本明細書において、「凍結品」は、内容物が缶等の金属製容器に充填された後、凍結されたものをいう。
【0014】
[流動性媒体]
本発明の昇温方法において、凍結品との間で熱交換する流動性媒体としては、被昇温対象である常温で液体状の物質の凍結点未満の温度で流動性を有することが重要である。すなわち、被昇温対象物である物質の凍結点未満で流動性を有することにより、被昇温対象物と大きな接触面積で接触して効率よく凍結品と熱交換することができる。
このような流動性媒体は、微細な氷と液体(水溶液)の固液二相混合物であるシャーベット氷(アイススラリー)から成る。シャーベット氷は、凍結品から奪った冷熱を氷として蓄えることができると共に、氷は蓄熱能力及び融解潜熱が大きいことから、シャーベット氷の温度を一定に維持することができ、安定して凍結品を昇温させることが可能である。
流動性媒体の水溶液の溶質としては、塩(塩化ナトリウム)、砂糖、尿素、エチレングリコール、プロピレングリコールエタノール等を例示することができる。また微細氷は、数百μm程度の粒子径を有している。
本発明においては、このようなシャーベット氷の氷充填率、溶質の種類及び濃度を調整することによって、凍結品の凍結点未満で流動性を有する流動性媒体とすることができる。
【0015】
本発明において流動性媒体は、食品用途にも安全に使用できる塩水から成るシャーベット氷を好適に使用することができる。塩水から成るシャーベット氷は、塩分濃度及び氷充填率を適宜変更することによって、シャーベット氷の温度を調整することができる。すなわち、塩分濃度及び氷充填率を高くすることにより、シャーベット氷の温度を下げることができる。
流動性媒体の好適な流動性を確保するためには、氷充填率は5~30%の範囲にあることが望ましい。5%未満だと、温度の保持機能が乏しく、30%を超えると、流動性が不十分となり、凍結品の表面に氷が形成され易くなり凍結品表面での熱伝達が低下する虞がある。
【0016】
ここで、所望の温度及び氷充填率の塩水からなるシャーベット氷を製造する方法について説明する。一般的に、塩分濃度d(%)と凍結点(融点/凝固点)Te(℃)との関係は、下記式(1)
Te=-0.559d+0.000118d―0.000568d・・・(1)
で近似される。
まず流動性を確保するための所望の氷充填率を決め、凍結品を解凍するための所望の温度を決定する。そして、その温度を塩水の凍結点(融点/凝固点)とする塩分濃度を上記式(1)から求め、求めた塩分濃度の塩水を生成する。
例えば、シャーベット氷の温度を-1.5℃にするためには、氷充填率を30%とした場合、上記式(1)より、塩分濃度は、2.6%となる。予め製造しておいたシャーベット氷を、この塩水の塩分濃度を保ちながら、塩水に少しずつ投入し、塩水の温度が所望の温度に下がるまで塩分の追加と、シャーベット氷の投入を行う。そして、塩水の温度が所望の温度まで下がったら、所望の氷充填率となるようにシャーベット氷の投入量を調整すればよい。
【0017】
あるいは、上記式(1)から塩分濃度を求めて、所望の氷充填率の氷分が全て水である場合の初期塩分濃度を計算し、その塩分濃度の塩水を生成する。例えば、シャーベット氷の温度を-1.5℃にするためには、氷充填率を30%とした場合、上式より、最終的な塩分濃度が2.6%となり、氷が生成する前の初期塩分濃度は1.8%となる。生成した塩水を、当該塩水の凍結点まで温度を下げて所望の氷充填率となるまで氷を生成すればよい。
尚、上記式(1)は、塩水以外では、dを溶質の濃度(%)として、エタノールの場合、
Te=-0.358d-0.00814d-0.0000788d
で近似され、エチレングリコールの場合、
Te=-0.302d-0.00226d-0.000125d
で近似され、プロピレングリコールの場合、
Te=-0.267d-0.00253d-0.000138d
で近似されることが知られている。
【0018】
[昇温装置]
本発明の昇温装置は、金属製容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物(凍結品)を、昇温するため昇温装置であって、前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納される外側容器と、熱伝導率が水の熱伝導率以上の緩衝部材と、を備え、前記金属製容器が前記緩衝部材の内側に配置され、前記緩衝部材を介して、前記流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする。
前述したとおり、流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷等を用いる場合、流動性媒体が内容物を収納する金属製容器と直接接触すると、金属製容器が発錆等によって劣化するおそれがあると共に、塩水の混入などにより内容物の品質が損なわれるおそれがある。
本発明の昇温装置においては、流動性媒体と内容物を収納する金属製容器を直接接触させずに、熱伝導率の高い緩衝部材を介在させることにより、上述した金属製容器の劣化及び流動性媒体の内容物への混入が有効に防止できる。
また緩衝部材が水の熱伝導率以上の熱伝導率を有することにより、流動性媒体と金属製容器を直接接触させた場合と同等の熱交換率を実現することが可能である。
【0019】
図1は、本発明の昇温装置の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。全体を1で表す昇温装置は、内容物を収納するための底面2a及び側壁2bから成る円筒状の金属製容器2、及びこの金属製容器2の側壁2bを取り囲むように配置された4つの緩衝部材3、各緩衝部材3の金属製容器2と反対側に配置された流動性媒体5を収納する外側容器4がそれぞれ備えられている。
緩衝部材3は、図1(B)から明らかなように、金属製容器2の底部2a及び側壁2bと接触するように、底部3a及び側部3bを有し、側断面形状がL字状に形成されている。また緩衝部材の側部3bは外側容器4と一体化されて、外側容器中の流動性媒体5に直接接触して、流動性媒体5の熱が伝達される。これにより、緩衝部材3は、内容物を収納する金属製容器と流動性媒体との間の熱交換を行うが、緩衝部材3は水よりも熱伝導率の高い材料から形成されているので、金属製容器が直接流動性媒体と接触したと同様に、効率よく熱交換が行われる。またこの態様においては、金属製容器と流動性媒体との間には緩衝部材が介在していることから、流動性媒体が金属製容器内に侵入するおそれがなく、内容物の品質を損なうことが有効に防止されている。
また図に示す具体例では、緩衝部材3及び外側容器4が金属製容器2の半径方向(図1(A)中、矢印P方向)に移動可能であり、内容物が充填された金属製容器の設置及び取り外しを容易に行うことができる。
【0020】
この態様においては、図に示す具体例に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、図1では、緩衝部材は、外側容器の金属製容器側の一側面に形成されていたが、図1(A)に示す下部の外側容器4Aに形成されているように、外側容器内に突出する複数個のフィン6を形成し、流動性部材との接触面積を増大させることによって、熱交換率を更に向上できる。また、隣接する緩衝部材の間には間隙が形成されているが、断熱材等を配置して緩衝部材の熱効率を低下させない等の設計変更をすることもできる。更に、金属製容器と緩衝部材の接触面は、空間が形成されないように密着させることが望ましく、必要により、水分を含む緩衝材を用いて確実に密着させることもできる。
尚、緩衝部材を構成する水以上の熱伝導性を有する材料としては、銅、アルミニウム、真鍮、ステンレススチール等の金属を挙げることができるが、熱伝導率が高く、しかも流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷を用いた場合の劣化を防止するために、銅を好適に使用することができる。またこの態様においては、金属製容器は流動性媒体と直接接触しないことから、スチール製のものを使用することができる。
【0021】
図2は、本発明の昇温装置の他の一例を説明する概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。全体を1で表す昇温装置は、内容物を収納するための底面2a及び側壁2bから成る円筒状の金属製容器2、及びこの金属製容器2を入れ子として収納可能な容器から成る緩衝部材3を構成する円筒状容器3a、この円筒状容器3aを内部に設置可能な、流動性媒体5が収納された外側容器4とを備えている。
この緩衝部材3は、水以上の熱伝導性を有する材料から成る円筒状容器3a、及びこの容器3a内に金属製容器2を収納した際に金属製容器2の外面及び円筒状容器3aの内面との間に形成される空間3bを満たす水又は氷水から成っている。緩衝部材3は、内容物を収納する金属製容器2と外側容器4内に収納された流動性媒体との間の熱交換を行うが、緩衝部材3は、水以上の熱伝導性を有する容器3a及び水又は氷水から形成されているので、効率よく熱交換が行われる。
【0022】
この態様においては、緩衝部材を構成する円筒状容器3aは、外側容器4に収納される流動性媒体5の液面5aよりも高く形成されており、流動性媒体が円筒状容器3a内に流入することがない。また内容物を収納する金属製容器2は、流動性媒体は勿論、緩衝部材を構成する水又は氷水の流入をも防止するために、緩衝部材を構成する円筒状容器3aよりもその高さが高く形成されている。
この態様においては、外側容器内の流動性媒体は、経時により緩衝部材との界面付近の温度が外側容器の外壁付近の温度に比して低くなる温度勾配を生じるので、外側容器に流動性媒体を撹拌或いは循環させる装置を備えることが望ましい。これにより流動性媒体の温度を均一化して効率よく内容物を昇温することができる。
尚、この態様においては、上述した図1の態様と同様に、凍結品を収納する金属製容器は流動性媒体と直接接触しないので、緩衝部材及び金属製容器共に、図1の態様で述べた素材を使用できる。
【0023】
図3は、本発明の昇温装置の他の一例を説明する概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。全体を1で表す昇温装置は、内容物を収納するための底面2a及び側壁2bから成る円筒状の金属製容器2、この金属製容器2の上部を覆う、天面3a及び該天面から垂下する側壁3bから成る蓋状の緩衝部材3、及び金属製容器2を内部に設置可能な、流動性媒体5が収納された外側容器4を備えている。
この態様においては、金属製容器2の上面には開口(図示せず)が形成されていてもよく、かかる開口から外側容器内に収納された流動性媒体5が侵入することを防止するために、金属製容器2は流動性媒体5の液面5aよりもその高さが高くなるように構成されている。このため金属製容器2の流動性媒体と接触してない上部は流動性媒体と熱交換を行うことができないが、本発明においては、金属製容器2の上部を覆う蓋状の緩衝部材3の側壁3bの下部が流動性媒体5に浸漬されていることにより、金属製容器の上部に位置する内容物の熱交換を、流動性媒体と接触して熱交換した場合と同程度に行うことができる。
【0024】
この態様においては、緩衝部材の雰囲気温度による温度上昇を防ぐために、緩衝部材の天面3aの外面及び側壁3bの上部外面(流動性媒体に浸漬されない部分)に断熱材を装着することが望ましい。
また、金属製容器は流動性媒体に直接浸漬されるため、流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷を使用する場合には、金属製容器は発錆しにくい金属から成ることが望ましく、特に銅から成ることが望ましい。
更に、図3に示した蓋状の緩衝部材を、上述した図1及び図2に示した円筒状容器2aと組み合わせて用いることもできる。
またこの態様においても図2に示した態様と同様に、外側容器4に流動性媒体を撹拌又は循環するための装置を備えることが好ましい。
【0025】
[昇温方法]
本発明の昇温方法は、上述した昇温装置を用い、金属製容器に収納された凍結状態にある常温時に液体状の内容物(凍結品)を、内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用い、熱伝導性が水以上の緩衝部材を介して、これらを緩衝部材に接触させて熱交換することにより、内容物を凍結点未満の所望の温度に昇温する。
尚、内容物の昇温目標温度は、内容物の凍結状態に応じて決定され、内容物が均一に凍結されている場合には、凍結点未満であり、特に凍結点よりも-0.5℃程度低い温度を目標にすることが望ましい。一方、内容物が凍結濃縮している場合には、内容物の外側部分は水分が多い氷であるので、このような場合には、溶けきった内容物の凍結点ではなく、水の凍結点(0℃)未満の所望の温度となるまで昇温させる。その場合、凍結点(0℃)よりも-0.5℃程度低い温度を目標にすることが望ましい。
【0026】
本発明の昇温方法においては、内容物の比表面積が小さいほど容器表面での熱伝達効率が高くなるため、内容物は体積が大きいほど効率よく昇温することができる。凍結品の種類、およびその形状にもよるが、2L以上の容量で昇温操作に賦することが望ましい。
【0027】
本発明の昇温方法においては、内容物が充填された金属製容器を、図1~3に示した昇温装置の流動性媒体が収納された外側容器内に設置することにより、内容物を解凍直前の状態まで昇温することが好適である。固体から液体への相変換には大きなエネルギーを要するが、解凍直前の固体の状態で昇温を止めることにより、凍結品表面に液状膜を形成することなく、昇温時間を短縮でき、効率が良い。また、凍結品の内部まで均一の温度で昇温できるため、凍結品の内部に硬い芯が残ることなく、昇温後の凍結品が取扱い易いものにすることができる。しかも解凍直前の状態なので品質劣化を防止できる。
また流動性媒体が充満された外側容器中は、経時により凍結品との界面付近の温度が外側容器の外壁付近の温度に比して低くなる温度勾配を生じるので、流動性媒体を撹拌或いは循環することが望ましい。これにより効率よく凍結品を昇温することができる。
【実施例
【0028】
(実施例1)
果汁濃度100%のオレンジ果汁飲料が、容積25L(直径285mmの円筒で高さ約370mmのペール缶)のスチール製容器に充填され、-40℃で冷凍された凍結品を入手した。このスチール製容器入り凍結品のおおよそ中心位置(直径方向の中心位置で上端から160mm位置)及び、高さ方向中心位置で外側部分(容器辺から25mm離れた位置)に温度計測のための熱電対を設置し、このスチール製容器入り凍結品を、図2に示す昇温装置を用いて昇温した。尚、外側容器には、塩分濃度2.6%、氷充填率30%の塩水から成るシャーベット氷(目標温度-1.5℃)を収納し、緩衝部材として、銅製円筒状容器中に水を収納した。凍結品の内部の温度が-20℃から-10℃まで昇温する時間を計測したところ、約2時間であった。また、そのときの凍結品の外部の温度は-9℃であり、凍結品の内部の温度との温度差も小さく、均一に昇温することができた。
【0029】
(比較例1)
実施例1で用いた凍結品と同じものを、室温15℃で自然解凍を行った。実施例1の昇温時間である2時間経過後の状態は、中心温度-25℃、外側温度-20℃であり、全く解凍できていない状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の昇温装置及び昇温方法は、金属製容器内に収納された凍結状態にある常温で液体状の内容物を、内容物の凍結温度未満の所望の温度に短時間で昇温することができ、しかも金属製容器が緩衝部材を介して流動性媒体との熱交換を行うことから、流動性媒体による金属製容器の劣化や内容物の品質低下のおそれもないことから、果汁、液卵、薬品、血液等の凍結品の解凍に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 昇温装置、2 金属製容器、3 緩衝部材、4 外側容器、5 流動性媒体。
図1
図2
図3