(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】軸連結構造
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20220809BHJP
F16D 3/26 20060101ALI20220809BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B62D1/20
F16D3/26 X
F16D1/06 210
(21)【出願番号】P 2018101614
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 裕
(72)【発明者】
【氏名】筒井 照夫
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043555(JP,A)
【文献】特開2017-056794(JP,A)
【文献】特開2014-129073(JP,A)
【文献】特開2015-143047(JP,A)
【文献】実開昭60-102524(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16 - 1/20
F16D 3/26
F16D 1/00 - 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転軸部材と第2の回転軸部材とを
連結する自在継手
と、位置決め部材とを備える軸連結構造であって、
前記自在継手は、前記第1の回転軸部材に固定される第1の継手部材と、前記第2の回転軸部材に固定される第2の継手部材と、前記第1の継手部材と前記第2の継手部材とを揺動可能に連繋する連繋部材とを有し、
前記第1の回転軸部材は、その端部の外周面
に複数のセレーション溝が形成されており、
前記第1の継手部材は、前記連繋部材を支持する支持部と、
前記第1の回転軸部材の端部が嵌合する筒部とを有し、
前記筒部は、前記複数のセレーション溝に係合する複数のセレーション歯を内周面に有すると共に、軸方向
と平行にスリットが形成さ
れ、かつ前記スリットに交差するボルト孔が形成されており、
前記位置決め部材は、前記第1の継手部材よりも奥側で前記第1の回転軸部材の前記複数のセレーション溝に係合する複数のセレーション歯を有する環状のリング部と、前記スリットに収容される板部とを有し、前記筒部
と前記第1の回転軸部材との嵌合が不十分な半嵌合状態において前記ボルト孔にボルトが挿入されたときに
前記板部が同ボルトに干渉するように形成されており、
前記板部は、前記第1の回転軸部材に近接する側の端部が他側の端部よりも板厚が厚く形成された厚肉部とされ、前記厚肉部に前記複数のセレーション溝のうち少なくとも1つに係合する少なくとも1つのセレーション歯を有
し、
前記スリットは、前記筒部における前記位置決め部材の前記リング部側の端面から前記支持部側に延びるように形成され、
前記板部には、前記ボルトを挿通するためのボルト挿通孔が板厚方向に貫通して形成されており、
前記半嵌合状態において前記ボルト挿通孔よりも前記支持部側で前記ボルトに干渉する前記板部の干渉部位が、当該干渉部位及び前記厚肉部を除く部分よりも肉厚に形成されている、
軸連結構造。
【請求項2】
前記板部は、前記厚肉部に複数の前記セレーション歯を有する、
請求項1に記載の軸連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の回転軸部材と第2の回転軸部材とを、これら両回転軸部材の回転方向の相対位置を規定する位置決め部材を用いて自在継手によって連結する軸連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばラックアンドピニオン式のステアリング装置は、車幅方向に延在するラック軸及びこのラック軸に噛み合うピニオン軸を有するステアリングギヤと、ステアリングホイールに結合されたステアリングシャフトと、ステアリングシャフトのトルクをステアリングギヤに伝達する中間軸とを有し、ピニオン軸と中間軸とが十字継手等の自在継手によって連結されている。ピニオン軸と中間軸とは、ステアリングホイールが中立位置にあるときに転舵輪である前輪の転舵角がゼロとなるように、これらの回転方向の相対位置(相対的な角度位置)が位置決め部材によって規定されている。本出願人は、このようなステアリング装置の連結装置として、特許文献1のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の位置決め部材は、樹脂からなり、ピニオン軸に外嵌された第1の筒部と、ピニオン軸の軸端面に突設されたボス部に嵌合された第2の筒部と、第1の筒部と第2の筒部の間にわたって設けられた平板状の板部とを一体に有している。一方、自在継手は、ピニオン軸にセレーション嵌合してピニオン軸との相対回転が規制された第1の継手部材としての第1のヨークと、中間軸にセレーション嵌合して中間軸との相対回転が規制された第2の継手部材として固定ヨークと、第1のヨークと固定ヨークとを揺動可能に連結する十字軸とを有している。位置決め部材の板部は、そのピニオン軸側の端部がピニオン軸の外周面に形成されたセレーション溝に係合している。
【0004】
第1のヨークには、周方向の1箇所に軸方向のスリットが形成されており、このスリットに位置決め部材の板部が収容されるように第1のヨークをピニオン軸にセレーション嵌合することで、ピニオン軸と中間軸との回転方向の相対位置が規定される。また、第1のヨークには、スリットに交差するボルト孔が形成されており、このボルト孔に挿通されるボルトによって第1のヨークがピニオン軸に締め付けられる。
【0005】
位置決め部材の板部には、このボルトを通過させることが可能な切り欠きが形成されており、第1のヨークがピニオン軸に対して半嵌合状態(不完全な嵌合状態)であるときにボルト孔にボルトが挿入されると、ボルトが板部に干渉する。これにより、組み付け作業を行う作業者は、半嵌合状態であることを認識することができ、第1のヨークをピニオン軸に嵌め合わせる嵌合作業をやり直してボルトをボルト孔に挿通させ、第1のヨークをボルトによって締め付ける締結作業を確実に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のものでは、半嵌合状態でボルト孔にボルトが挿入されてボルトが板部に干渉したとき、板部がその板厚方向に沿ってボルトに押し付けられ、板部における切り欠きよりも先端側(第2の筒部側)の部分がピニオン軸の周方向にずれる場合があった。この場合、板部における切り欠きよりも先端側の部分が係合するセレーション溝と、板部における切り欠きよりも基端側(第1の筒部側)の部分が係合するセレーション溝とが異なり、板部が板厚方向(ピニオン軸の周方向)に湾曲した状態となる。そして、この状態で嵌合作業をやり直そうとすると、板部の湾曲部分が第1のヨークに干渉してしまい、嵌合作業が行えなくなる。このため、作業者は板部を湾曲状態から元の平板状の状態に戻してから嵌合作業をやり直す必要があり、その作業負担が大きかった。
【0008】
そこで、本発明は、回転軸部材同士を連結する自在継手の継手部材が半嵌合状態であるときにボルトが位置決め部材の板部に干渉した場合の嵌合作業のやり直しを容易に行えるようにし、以って組み付け時間の短縮を図ることができ、ひいては製造コストを低減することが可能な軸連結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、第1の回転軸部材と第2の回転軸部材とを連結する自在継手と、位置決め部材とを備える軸連結構造であって、前記自在継手は、前記第1の回転軸部材に固定される第1の継手部材と、前記第2の回転軸部材に固定される第2の継手部材と、前記第1の継手部材と前記第2の継手部材とを揺動可能に連繋する連繋部材とを有し、前記第1の回転軸部材は、その端部の外周面に複数のセレーション溝が形成されており、前記第1の継手部材は、前記連繋部材を支持する支持部と、前記第1の回転軸部材の端部が嵌合する筒部とを有し、前記筒部は、前記複数のセレーション溝に係合する複数のセレーション歯を内周面に有すると共に、軸方向と平行にスリットが形成され、かつ前記スリットに交差するボルト孔が形成されており、前記位置決め部材は、前記第1の継手部材よりも奥側で前記第1の回転軸部材の前記複数のセレーション溝に係合する複数のセレーション歯を有する環状のリング部と、前記スリットに収容される板部とを有し、前記筒部と前記第1の回転軸部材との嵌合が不十分な半嵌合状態において前記ボルト孔にボルトが挿入されたときに前記板部が同ボルトに干渉するように形成されており、前記板部は、前記第1の回転軸部材に近接する側の端部が他側の端部よりも板厚が厚く形成された厚肉部とされ、前記厚肉部に前記複数のセレーション溝のうち少なくとも1つに係合する少なくとも1つのセレーション歯を有し、前記スリットは、前記筒部における前記位置決め部材の前記リング部側の端面から前記支持部側に延びるように形成され、前記板部には、前記ボルトを挿通するためのボルト挿通孔が板厚方向に貫通して形成されており、
前記半嵌合状態において前記ボルト挿通孔よりも前記支持部側で前記ボルトに干渉する前記板部の干渉部位が、当該干渉部位及び前記厚肉部を除く部分よりも肉厚に形成されている、軸連結構造を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る軸連結構造によれば、回転軸部材同士を連結する自在継手の継手部材が半嵌合状態であるときにボルトが位置決め部材の板部に干渉した場合の嵌合作業のやり直しを容易に行うことが可能となり、組み付け時間の短縮ならびに製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る軸連結構造が用いられたステアリング装置を示す概略構成図である。
【
図2】ステアリング装置の一部を示す拡大図である。
【
図3】第1ヨーク及び位置決め部材を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
【
図4】(a)はピニオン軸の端部に装着された位置決め部材7を示す斜視図であり、(b)は位置決め部材を単体で示す斜視図である。
【
図5】(a)は
図3(b)のA-A線断面図であり、(b)は
図3(b)のB-B線断面図である。
【
図6】
図5(a)の一部をハッチングの図示を省略して示す拡大図である。
【
図7】(a)は第1ヨークの筒部がピニオン軸の端部に完全に嵌合した完全嵌合状態でボルトによって固定された状態を示す断面図である。(b)は第1ヨークの筒部がピニオン軸の端部に完全に嵌合していない半嵌合状態を示す断面図である。
【
図8】(a)は第2の実施の形態に係る位置決め部材を示す斜視図であり、(b)は(a)のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る軸連結構造が用いられたステアリング装置を示す概略構成図である。
図2は、ステアリング装置の一部を示す拡大図である。
【0014】
(ステアリング装置の全体構成)
このステアリング装置1は、車幅方向に延在するラック軸21及びこのラック軸21に噛み合うピニオン軸22を有するステアリングギヤ2と、ステアリングホイール30に結合されたステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31のトルクをステアリングギヤ2に伝達する中間軸32と、ステアリングシャフト31を支持する筒状のステアリングコラム33とを有している。ラック軸21には、その軸方向に沿って並列するラック歯211が設けられており、ピニオン軸22の下端部における外周面には、ラック歯211に噛合するピニオン歯221が設けられている。
【0015】
ラック軸21は、その両端部を除き、車体に固定されたハウジング23に収容されている。ハウジング23から突き出たラック軸21の両端部には、蛇腹構造のベローズ24の内側に配置された図略のボールジョイントを介して左右のタイロッド25が連結されている。ラック軸21は、車幅方向への移動により、左右のタイロッド25を介して転舵輪である左右の前輪11,11を転舵させる。
【0016】
また、ステアリング装置1は、運転者によるステアリングホイール30の操舵操作を補助する操舵補助装置4を有している。本実施の形態では、操舵補助装置4が電動モータ41のトルクを減速してステアリングシャフト31に操舵補助力として付与するように構成されている。ただし、操舵補助装置4としては、電動式に限らず、油圧式のものなど、種々な構成のものを用いることができる。
【0017】
中間軸32は、ステアリングシャフト31から入力されたトルクをピニオン軸22に伝達する。中間軸32とステアリングシャフト31とは、入力側の自在継手5により連結されている。また、中間軸32とピニオン軸22とは、出力側の自在継手6により連結されている。本実施の形態では、入力側及び出力側の自在継手5,6がユニバーサルジョイント(クロスジョイントとも称される)からなるが、これらの自在継手5,6として、例えばアウタレースとインナレースとの間に複数のボールが転動可能に配置されたボール型等速ジョイントを用いてもよい。
【0018】
図2に示すように、入力側の自在継手5は、ステアリングシャフト31に固定された第1ヨーク51と、中間軸32の上端部に固定された第2ヨーク52と、第1ヨーク51と第2ヨーク52とを揺動可能に連繋する十字状のスパイダ53とを備えている。第1ヨーク51は、ボルト54によってステアリングシャフト31に締付固定されている。出力側の自在継手6も同様に、ピニオン軸22に固定された第1ヨーク61と、中間軸32の下端部に固定された第2ヨーク62と、第1ヨーク61と第2ヨーク62とを揺動可能に連繋する十字状のスパイダ63とを備えている。第1ヨーク61は、ボルト64によってピニオン軸22に締付固定されている。
【0019】
出力側の自在継手6による中間軸32とピニオン軸22との連結は、ステアリングギヤ2のハウジング23が車体に固定され、かつ入力側の自在継手5によって中間軸32と連結されたステアリングシャフト31がステアリングコラム33を介して車体に支持された状態で、作業者の手作業によって行われる。また、中間軸32とピニオン軸22とは、ステアリングホイール30が中立位置にあるときに前輪11,11の転舵角がゼロ(直進状態)となるように、回転方向の相対位置(相対的な角度位置)が位置決め部材7によって規定されている。
【0020】
以下、この位置決め部材7及び出力側の自在継手6を用いた中間軸32とピニオン軸22との軸連結構造について詳細に説明する。出力側の自在継手6の第1ヨーク61、第2ヨーク62、及びスパイダ63は、本発明の第1の継手部材、第2の継手部材、及び連繋部材にそれぞれ相当する。また、ピニオン軸22は本発明の第1の回転軸部材に相当し、中間軸32は本発明の第2の回転軸部材に相当する。
【0021】
(軸連結構造)
図3は、第1ヨーク61及び位置決め部材7を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は背面図である。
図3(c)では、ボルト64が挿通されるボルト孔614を破線で示している。
図4(a)は、ピニオン軸22の端部に装着された位置決め部材7を示す斜視図であり、
図4(b)は、位置決め部材7を単体で示す斜視図である。
図5(a)は、
図3(b)のA-A線断面図であり、
図5(b)は、
図3(b)のB-B線断面図である。
図6は、
図5(a)の一部をハッチングの図示を省略して示す拡大図である。
【0022】
図4(a)に示すように、第1ヨーク61が取り付けられるピニオン軸22の端部の外周面には、軸方向に延びる複数のセレーション溝220が形成されている。また、ピニオン軸22の外周には、ボルト64の周方向の一部を通過させる断面円弧状の環状溝222が形成されている。環状溝222は、セレーション溝220が形成された部分において周方向の全周にわたって形成されており、セレーション溝220が環状溝222によって軸方向に分断されている。
【0023】
図3(a)~(d)に示すように、第1ヨーク61は、ピニオン軸22の端部に嵌合固定される筒状の筒部611と、スパイダ63を支持する支持部612とを一体に有している。支持部612は、二股状に対向する第1アーム612a及び第2アーム612bからなり、第1アーム612a及び第2アーム612bのそれぞれの先端部にスパイダ63の軸部を回転可能に支持する支持孔612c,612dが形成されている。
【0024】
筒部611には、ピニオン軸22の端部を収容する嵌合孔610が形成されている。嵌合孔610の内面には、軸方向に対して平行に複数のセレーション歯610aが形成されている。第1ヨーク61は、セレーション歯610aがピニオン軸22に形成されたセレーション溝220に係合することで、ピニオン軸22との相対回転が規制されている。
【0025】
第1ヨーク61には、筒部611の軸方向における支持部612とは反対側の端面611a(後述する位置決め部材7のリング部71との対向面)から支持部612側に軸方向に延びるようにスリット613が形成されている。スリット613は、筒部611の軸方向全体と、第1アーム612aにおける筒部611側の一部とにわたって形成されている。スリット613は、例えば切削によって筒部611の周方向の1箇所に形成され、嵌合孔610の内面から筒部611の外面に至っている。
【0026】
筒部611には、スリット613に交差するボルト孔614が形成されている。ボルト孔614は、スリット613に対して垂直な方向に延在し、筒部611を貫通している。ボルト孔614は、スリット613の一側における丸穴614aと、スリット613の他側における螺子穴614bとからなる。ボルト64は、丸穴614a及びスリット613を通過して螺子穴614bに螺合する。第1ヨーク61は、ボルト64の軸力によって嵌合孔610に嵌合したピニオン軸22の端部を締め付ける。第1ヨーク61は、ボルト64の軸力により、スリット613の幅が狭くなるように変形する。
図3(c)及び
図6では、ボルト孔614の中心軸線C
1を一点鎖線で示している。また、
図5(a)及び(b)では、ボルト64の軸力によって変形した筒部611の形状を二点鎖線で示し、変形前の形状を実線で示している。
【0027】
位置決め部材7は、第1ヨーク61よりも奥側(ピニオン軸22の先端から見た奥側)でピニオン軸22の外周に配置される環状のリング部71と、ピニオン軸22の先端面に設けられたボス部223に嵌着される止め輪部72と、第1ヨーク61のスリット613に収容される板部73と、リング部71と板部73との間に設けられた補強部74とを一体に有している。リング部71及び止め輪部72は、ピニオン軸22の軸方向に並列し、板部73によって架橋されている。
【0028】
リング部71は、ピニオン軸22の端部に外嵌され、その内周面にはピニオン軸22のセレーション溝220に係合する複数のセレーション歯71aが形成されている。リング部71の複数のセレーション歯71aは、第1ヨーク61の筒部611よりも下側でピニオン軸22の複数のセレーション溝220に係合する。
【0029】
板部73は、その一部が止め輪部72を越えて上側(第1アーム612a側)に突出している。中間軸32の軸方向に沿った方向の板部73の長さは、第1ヨーク61のスリット613内にその全体が収容される長さであるが、入力側の自在継手5の第1ヨーク51に形成されたスリット511(
図2に破線で示す)には収容不能な長さである。これにより、作業者が中間軸32の上下を間違え、出力側の自在継手6によってステアリングシャフト31に中間軸32を連結してしまった場合には、中間軸32とピニオン軸22とを入力側の自在継手5によって連結することができず、このような誤組み付けを防止することができる。
【0030】
板部73は、ピニオン軸22に近接する側の端部が他側の端部よりも板厚が厚く形成されている。本実施の形態では、ピニオン軸22側の径方向における内径側の端部に厚肉部732が設けられており、この厚肉部732の厚みが当該厚肉部732よりもピニオン軸22の径方向外側の本体部731よりも板厚に形成されている。本実施の形態では、厚肉部732の厚みがピニオン軸22側ほど徐々に厚くなるように形成されている。厚肉部732の端面732bのピニオン軸22の径方向に対する傾斜角度θは、例えば15°である。なお、本体部731の厚みは、その全体にわたって均一である。
【0031】
図6に示すように、本体部731の厚みをT
1とし、厚肉部732の最大の厚みをT
2とすると、T
2はT
1の1.3~2.0倍であることが望ましい。本実施の形態では、T
2がT
1の約1.5倍である。T
2がT
1の1.3倍未満であると厚肉部732の剛性を高める効果が必ずしも十分ではなく、T
2がT
1の2.0倍を超えると、本体部731が薄くなって本体部731の剛性が低くなってしまうためである。また、第1ヨーク61の自然状態におけるスリット613の幅WはT
2よりも広く、第1ヨーク61は板部73に干渉することなくピニオン軸22の端部に取り付け可能である。スリット613の幅Wは、ボルト64の軸力により、特に筒部611の外径側の端部で狭くなり、ピニオン軸22に近い内径側の端部ではスリット613の幅Wが大きくは変化しない。このため、板部73の内径側の端部に厚肉部732を形成しても、この厚肉部732がスリット613の内面613aに挟まれることはない。この構成は、ボルト64の軸力が全て第1ヨーク61の筒部611によってピニオン軸22を締め付ける締め付け力として作用するように考慮されたものである。ボルト64の軸力により変形したスリット613の最小幅W
0(
図5(a)参照)は、本体部731の厚みT
1よりも大きく、厚肉部732の最大の厚みT
2よりも小さい。
【0032】
板部73の厚肉部732には、2つのセレーション歯732aが連続して形成されており、これら2つのセレーション歯732aがそれぞれピニオン軸22のセレーション溝220に係合する。2つのセレーション歯732aは、板部73の厚み方向における厚肉部732の両端部に形成されている。なお、板部73が2つのセレーション歯732aを有する構成は、板部73に厚肉部732を設けることにより可能となった構成である。
【0033】
なお、厚肉部732に1つのセレーション歯732aのみが形成され、そのセレーション歯732aがセレーション溝220に係合していてもよい。この場合でも、厚肉部732により板部73の剛性が高まることにより、後述する板部73の位置ずれ防止効果が得られる。すなわち、厚肉部732には、複数のセレーション溝220のうち少なくとも1つのセレーション溝220に係合する少なくとも1つのセレーション歯732aが形成されていればよい。ただし、厚肉部732に複数のセレーション歯732aが形成されていれば、板部73の位置ずれ防止効果がより高められる。
【0034】
位置決め部材7には、ボルト64を挿通させるボルト挿通孔730が、板部73をその板厚方向に貫通して形成されている。ボルト挿通孔730は、ピニオン軸22の環状溝222に対応する部位に形成され、ピニオン軸22に向かって開口している。
【0035】
また、位置決め部材7は、前輪11,11の転舵角がゼロとなるようにハウジング23内におけるラック軸21の軸方向の位置が調整された状態で、板部73がハウジング23に対して所定の角度位置となるようにピニオン軸22に取り付けられる。一方、第1ヨーク61は、スリット613の角度位置とステアリングホイール30の角度位置とが所定の関係を満たすように中間軸32に取り付けられる。そして、スリット613に板部73が収容されるように第1ヨーク61の筒部611をピニオン軸22に嵌合し、ボルト64によって固定することで、ステアリングホイール30が中立位置にあるときに前輪11,11の転舵角がゼロとなるようにステアリング装置1が組み立てられる。
【0036】
図7(a)は、第1ヨーク61の筒部611がピニオン軸22の端部に完全に嵌合した完全嵌合状態でボルト64によって固定された状態を示す断面図である。この完全嵌合状態では、第1ヨーク61のボルト孔614と位置決め部材7のボルト挿通孔730及びピニオン軸22の環状溝222とが連通し、ボルト64をボルト孔614の丸穴614aから挿入して螺子穴614bに螺合させることが可能である。
【0037】
図7(b)は、第1ヨーク61の筒部611がピニオン軸22の端部に完全に嵌合していない半嵌合状態を示す断面図である。この半嵌合状態では、第1ヨーク61のボルト孔614と位置決め部材7のボルト挿通孔730及びピニオン軸22の環状溝222とが連通せず、ボルト孔614の丸穴614aに挿入されたボルト64が位置決め部材7の板部73に干渉する。これにより、組付け作業を行う作業者は、第1ヨーク61が半嵌合状態であることを認識し、嵌合作業をやり直した後にボルト64をボルト孔614に挿通させる。
【0038】
半嵌合状態においてボルト64が位置決め部材7の板部73に干渉すると、板部73がその厚み方向に押圧される。そして、この押圧力により、ボルト挿通孔730よりも止め輪部72側の部分の板部73がピニオン軸22の周方向にずれると、板部73が湾曲してしまい、嵌合作業のやり直しができなくなるおそれがある。ここで、周方向にずれるとは、板部73の内径側の端部(本実施の形態では2つのセレーション歯732a)が、ボルト挿通孔730の止め輪部72側とリング部71側とで、それぞれ異なるセレーション溝220に係合してしまうことをいう。
【0039】
しかし、本実施の形態では、板部73のピニオン軸22側の端部が厚肉部732として形成されており、剛性が高められているので、上記のような位置ずれが発生しにくくなる。またさらに、本実施の形態では、厚肉部732に複数のセレーション歯732aが形成され、それぞれのセレーション歯732aがピニオン軸22の周方向に隣り合う複数のセレーション溝220に係合するので、板部73の位置ずれ防止効果がより高められている。
【0040】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の第1の実施の形態によれば、板部73の内径側の端部に厚肉部732を設けることによる板部73の剛性向上効果、及び複数のセレーション歯732aが厚肉部732に形成されていることによるピニオン軸22との係合箇所の増大効果により、第1ヨーク61の半嵌合状態において板部73がボルト64に押されても、板部73におけるボルト挿通孔730よりも止め輪部72側の部分がピニオン軸22の周方向にずれることが抑制される。これにより、嵌合作業のやり直しを容易に行えるようすることができ、組み付け時間の短縮を図ることができると共に、製造コストを低減することも可能となる。
【0041】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る位置決め部材7Aについて、
図8を参照して説明する。
図8(a)は、第2の実施の形態に係る位置決め部材7Aを示す斜視図であり、
図8(b)は、
図8(a)のC-C線断面図である。
図8(a)において、第1の実施の形態に係る位置決め部材7について説明した構成要素と共通する構成要素については、
図4(a)に付したもの同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、以下の説明においては、第1の実施の形態で説明した第1ヨーク61等の各部の名称及び符号を援用する。
【0042】
位置決め部材7Aは、第1ヨーク61の半嵌合状態においてボルト挿通孔730よりも支持部612側でボルト64に干渉する板部73の干渉部位が、その軸方向のリング部71側の部分よりも肉厚に形成されている。本実施の形態では、止め輪部72から第1アーム612a側に突出する板部73の本体部731における干渉部位である先端部731aが、そのリング部71側の部分よりも肉厚に形成されている。すなわち、干渉部位が、当該干渉部位及び厚肉部732を除く部分よりも肉厚に形成されている。
図8(b)では、先端部731aを含む板部73の一部を軸方向に沿った断面で示している。先端部731aの厚さT
3は、例えば厚肉部732の最大厚さT
2と同じである。
【0043】
なお、ボルト64の軸力により第1ヨーク61がピニオン軸22に締め付けられたとき、スリット613の幅は、筒部611の端面611a付近では大きく変化するが、第1アーム612a側の端部付近ではスリット613の幅の縮小が限定的である。このため、先端部731aがスリット613の内面613aに挟まれることはない。
【0044】
本実施の形態によれば、板部73の剛性が先端部731aにおいて高められるので、半嵌合状態においてボルト64がボルト孔614に挿通されることをより確実に防ぐことができる。また、半嵌合状態において先端部731aにボルト64が当接したとき、スリット613内における板部73の変形が、スリット613の内面613aに先端部731aが当接することによって制限される。これにより、板部73の位置ずれ防止効果をさらに高めることができる。
【0045】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0046】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、板部73の厚みが厚肉部732においてピニオン軸22側ほど徐々に大きくなる場合について説明したが、板部73の全体がピニオン軸22側ほど徐々に厚くなるようにしてもよい。つまり、板部73は、ピニオン軸22に近接する側の端部が他側の端部よりも板厚が厚く形成されていればよい。
【0047】
また、上記の実施の形態では、本発明の軸連結構造を車両のステアリング装置1に適用した場合について説明したが、これに限らず、一対の回転軸部材がこれらの回転方向の相対位置を規定する位置決め部材を用いて自在継手によって連結される様々な装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
22…ピニオン軸(第1の回転軸部材) 220…セレーション溝
32…中間軸(第2の回転軸部材) 6…出力側の自在継手(自在継手)
61…第1ヨーク(第1の継手部材) 611…筒部
611a…端面 612…支持部
613…スリット 614…ボルト孔
62…第2ヨーク(第2の継手部材) 63…スパイダ(連繋部材)
7,7A…位置決め部材 71…リング部
71a…セレーション歯 73…板部
730…ボルト挿通孔 731a…先端部(干渉部位)
732…厚肉部(内径側の端部) 732a…セレーション歯