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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】多層シート、トレイ及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/08 20060101AFI20220809BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220809BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B32B27/08
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018111916
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214152
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】山口 啓太
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012263(JP,A)
【文献】特開2005-105164(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146935(WO,A1)
【文献】特開2014-059054(JP,A)
【文献】特開2015-223701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、
前記水蒸気バリア層が、下記式(1)-1で表される構成単位、下記式(1)-2で表される構成単位、及び下記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物、並びに第1のポリオレフィン系樹脂を含み、且つ前記水蒸気バリア層に含まれる樹脂成分の総量に対して、前記化合物の含有率が、2.5質量%以上30質量%以下であり、
前記酸素バリア層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル及びポリ塩化ビニリデンからなる群から選ばれる1種以上を含み、
前記一対の表面層が、いずれも第2のポリオレフィン系樹脂を含み、
前記多層シートの、JIS-Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下である、多層シート:
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
【請求項2】
前記水蒸気バリア層が、高密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレン及び石油樹脂の混合物を含む、請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記石油樹脂が、ジシクロペンタジエンを用いて得られた重合体である、請求項2に記載の多層シート。
【請求項4】
前記水蒸気バリア層が、更に、無機充填剤を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項5】
前記式(1)-1で表される構成単位、前記式(1)-2で表される構成単位、及び前記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物が、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項6】
前記第1のポリオレフィン系樹脂及び前記第2のポリオレフィン系樹脂の少なくともいずれか一方が、高密度ポリエチレンである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項7】
少なくとも一方の表面層と前記水蒸気バリア層とが、隣接して積層される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項8】
前記表面層が、高密度ポリエチレンのみからなる、または高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項9】
前記表面層が、更に、下記式(2)-1で表される構成単位、下記式(2)-2で表される構成単位、及び下記式(2)-3で表される構成単位を有する化合物を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の多層シート:
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、o及びpは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
【請求項10】
2つの前記水蒸気バリア層を有し、当該水蒸気バリア層が前記表面層とそれぞれ隣接して積層される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項11】
前記多層シートの厚さが、500μm以上、1500μm以下である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項12】
前記多層シートの引張衝撃強度が、110kJ/m以上である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項13】
前記多層シートの、デュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が、1.5J以上である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項14】
前記表面層と前記水蒸気バリア層との剥離強度が、11N/15mm以上である、請求項7乃至13のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項15】
前記多層シートの、25℃、60%RHの条件における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下である、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の多層シートを成形したトレイ。
【請求項17】
請求項16に記載のトレイと、蓋材と、を備える包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シート、トレイ及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医薬品、医療品、食品、飲料等の包装材としては、紙、合成樹脂シートあるいはフィルム、蒸着フィルム、合成樹脂フィルムとのラミネート物、アルミ包装等が使用されている。上記のような用途で使用する際には、内容物保護性とりわけ、水蒸気や酸素に対するバリア性が必要な特性となっており、内容物を長期的に保護するには高度なバリア性が求められている。
【0003】
上記のような水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方を満たすものとしては、蒸着フィルムやアルミ包装等が挙げられる。しかしながら、これらはパウチ形状等の特定の包装体として使用することは可能であるが、成形機等で任意の形状に成形することが難しく、使用用途が限られていた。
【0004】
一方、包装容器の形態としては、底材として合成樹脂製のシートを用いて容器に成形した後、蓋材としてフィルム及びアルミ箔をヒートシールした包装形態がよく用いられている。底材である合成樹脂製のシートとしては、成形性、生産性、耐薬品性、水蒸気バリア性に優れたポリオレフィン系の樹脂が特に用いられている。
【0005】
しかしながら、ポリオレフィン系の樹脂は、水蒸気バリア性に優れるが、酸素バリア性に劣る。そのため、内容物が酸化、劣化、腐敗、又は錆の発生等、種々の問題が生じる場合があった。
【0006】
上記問題を解決するため、例えば、特許文献1には、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ナイロン等の酸素バリア性に優れる樹脂を含有する層と、ポリオレフィン系等の水蒸気バリア性に優れる樹脂を含有する層とを備える樹脂積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平06-015227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂積層体では、酸素バリア性及び水蒸気バリア性が十分ではないという問題があった。特に、医療用等のいくつかの用途では、さらなる水蒸気バリア性が要求されているのが実状であった。
【0009】
また、特許文献1に開示された樹脂積層体では、衝撃により割れが生じるという問題もあり、耐衝撃性の改良が求められていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた多層シートを提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れたトレイ及び包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0013】
[1]水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、前記水蒸気バリア層が、下記式(1)-1で表される構成単位、下記式(1)-2で表される構成単位、及び下記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物、並びにポリオレフィン系樹脂を含み、前記一対の表面層が、いずれもポリオレフィン系樹脂を含み、前記多層シートの、JIS-Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下である、多層シート:
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
[2]前記水蒸気バリア層が、高密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレン及び石油樹脂の混合物を含む、[1]に記載の多層シート。
[3]前記石油樹脂が、ジシクロペンタジエンを用いて得られた重合体である、[2]に記載の多層シート。
[4]前記水蒸気バリア層が、更に、無機充填剤を含む、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の多層シート。
[5]前記式(1)-1で表される構成単位、前記式(1)-2で表される構成単位、及び前記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物が、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体である、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の多層シート。
[6]前記ポリオレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンである、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の多層シート。
[7]少なくとも一方の表面層と前記水蒸気バリア層とが、隣接して積層される、[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の多層シート。
[8]前記表面層が、高密度ポリエチレンのみからなる、または高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を含む、[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の多層シート。
[9]前記表面層が、更に、下記式(2)-1で表される構成単位、下記式(2)-2で表される構成単位、及び下記式(2)-3で表される構成単位を有する化合物を含む、[1]乃至[8]のいずれか1つに記載の多層シート:
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、o及びpは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
[10]2つの前記水蒸気バリア層を有し、当該水蒸気バリア層が前記表面層とそれぞれ隣接して積層される、[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の多層シート。
[11]前記多層シートの厚さが、500μm以上、1500μm以下である、[1]乃至[10]のいずれか1つに記載の多層シート。
[12]前記多層シートの引張衝撃強度が、110kJ/m以上である、[1]乃至[11]のいずれか1つに記載の多層シート。
[13]前記多層シートの、デュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が、1.5J以上である、[1]乃至[12]のいずれか1つに記載の多層シート。
[14]前記表面層と前記水蒸気バリア層との剥離強度が、11N/15mm以上である、[7]乃至[13]のいずれか1つに記載の多層シート。
[15]前記多層シートの、25℃、60%RHの条件における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下である、[1]乃至[14]のいずれか1つに記載の多層シート。
[16][1]乃至[15]のいずれか1つに記載の多層シートを成形したトレイ。
[17][16]に記載のトレイと、蓋材と、を備える包装体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多層シートは、水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、前記水蒸気バリア層が、下記式(1)-1で表される構成単位、下記式(1)-2で表される構成単位、及び下記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物、並びにポリオレフィン系樹脂を含み、前記一対の表面層が、いずれもポリオレフィン系樹脂を含み、前記多層シートの、JIS-Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下であるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れている。
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
【0015】
また、本発明のトレイは、上記多層シートを2次成形することにより得られるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れている。
【0016】
また、本発明の包装体は、上記トレイと、蓋材とを備えるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を適用した一実施形態である多層シートの構成を示す断面図である。
図2】本発明を適用した一実施形態である包装体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態である多層シート、及びこの多層シートを2次成形することにより得られるトレイ、並びにこのトレイを備える包装体について、詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
<多層シート>
先ず、本発明を適用した一実施形態である多層シートの構成の一例について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である多層シート1の断面模式図である。図1に示すように、本実施形態の多層シート1は、酸素バリア層2と、接着層3と、水蒸気バリア層4と、一対の表面層5及び6と、を備えて概略構成されている。
本実施形態の多層シート1は、例えば、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、化粧品、医薬部外品、食品、飲料、工業部材、電子部品等の包装材の用途に用いることができる。
【0020】
酸素バリア層2は、酸素及び水蒸気の透過を抑制する樹脂層であり、多層シート1に酸素バリア性及び水蒸気バリア性を付与するために設けられている。また、多層シート1を包装体に成形した場合には、包装体内外への酸素及び水蒸気の透過を抑制することができる。
【0021】
酸素バリア層2に含まれる樹脂としては、具体的には、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。この中でも、特に、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミドが、水蒸気バリア層4との製膜性の観点から好ましい。酸素バリア層2は、上記樹脂を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。また、酸素バリア層2として酸素吸収材を用いたものでもよい。
【0022】
酸素バリア層2の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、12.5μm以上、225μm以下であることが好ましく、12.5μm以上、150μm以下であることがより好ましい。酸素バリア層2の厚さが12.5μm以上であることにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、酸素バリア層2の厚さが225μm以下であることにより、容器成形時に成形しやすく、シートとしての伸びも維持することができる。さらに、上記厚さが、12.5μm以上、150μm以下であることにより、上記効果をより顕著に発揮することができる。
【0023】
酸素バリア層2の厚さの比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上、15%以下であることが好ましく、2.5%以上、10%以下であることがより好ましい。酸素バリア層2の厚さの比率が、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上であることにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を十分に発現させることができる。また、酸素バリア層2の厚さの比率が、多層シート1の総厚に対して、15%以下であることにより、水蒸気バリア層4の厚さの比率を維持することができ、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を十分に発現させることができる。さらに、上記比率が、2.5%以上、10%以下であることにより、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0024】
接着層3は、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着するために、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4との間にそれぞれ1層ずつ設けられている。酸素バリア層2、接着層3及び水蒸気バリア層4をこの順に積層することにより、接着層3を介して酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着することができる。
【0025】
接着層3の材料としては、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、無水マレイン酸変性オレフィン等の接着性樹脂、酸素バリア層2や水蒸気バリア層4に含まれる樹脂を混合した樹脂等が挙げられる。
【0026】
水蒸気バリア層4は、水蒸気の透過を抑制する樹脂層であり、多層シート1に水蒸気バリア性を付与するために設けられている。水蒸気バリア層4は、酸素バリア層2の表面の両側に、接着層3を介してそれぞれ1層ずつ積層されている。これにより、本実施形態の多層シート1を包装体に成形した場合には、内容物を保護するとともに、包装体内への水蒸気の透過を抑制することができる。また、その結果、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下を抑制することができる。さらに、酸素バリア層2を構成する樹脂の分子間水素結合の水蒸気による切断が妨げられ、酸素バリア層2を構成する樹脂の分子間隙を狭い状態で維持できるため、酸素バリア層2が水蒸気バリア性を発現することができる。
【0027】
水蒸気バリア層4は、下記式(1)-1で表される構成単位、下記式(1)-2で表される構成単位、及び下記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物(以下、この化合物を化合物(1)と呼ぶことがある。)、並びにポリオレフィン系樹脂を含む。
水蒸気バリア層4が化合物(1)を含むことにより、多層シート1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【化4】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
【0028】
及びRにおける炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
及びRは、メチル基であることが好ましい。
【0029】
及びRにおける炭素数1~4のアルキル基は、R及びRにおける炭素数1~4のアルキル基と同様である。
及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0030】
m及びnは、それぞれ独立に、2以上の整数であることが好ましい。
【0031】
化合物(1)の重量平均分子量Mwは、5000~500000であることが好ましく、20000~300000であることがより好ましく、50000~200000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、化合物(1)は、多層シート1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値による。
【0032】
化合物(1)は、化合物(1)全体の質量に対して、式(1)-1で表される構成単位及び式(1)-3で表される構成単位を合計で10~40質量%含むことが好ましい。また、耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、化合物(1)全体の質量に対して、式(1)-1で表される構成単位及び式(1)-3で表される構成単位を合計で10~30質量%含むことがより好ましい。
【0033】
化合物(1)は、式(1)-2で表される構成単位のモル数と、式(1)-1で表される構成単位及び式(1)-3で表される構成単位の合計モル数と、のモル比が、化合物(1)のゴム弾性の点から40/60~95/5であることが好ましい。
【0034】
化合物(1)のゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では化合物(1)は液状になる)の点から、化合物(1)において、式(1)-2で表される構成単位の重合度は、10,000~150,000であることが好ましく、式(1)-1で表される構成単位及び式(1)-3で表される構成単位の合計重合度は10,000~30,000であることが好ましい。
【0035】
化合物(1)のガラス転移点は、-100~20℃であることが好ましく、-80~5℃であることがより好ましく、-70~0℃であることがより好ましい。ガラス転移点が上記範囲内であることにより、化合物(1)は、多層シート1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【0036】
化合物(1)としては、具体的には、例えば、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-2-メチルブテン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのうち、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0037】
本実施形態の多層シート1は、水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分の総量に対して、化合物(1)の含有量が、2.5質量%以上、30質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上、20質量%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分の総量に対して、化合物(1)の含有量が上記下限値以上であることにより、高い耐衝撃性を発現させることができる。また、化合物(1)の含有量が、上記上限値以下であることにより、水蒸気バリア性を維持することができる。
【0038】
水蒸気バリア層4は、ポリオレフィン系樹脂を含む。水蒸気バリア層4がポリオレフィン系樹脂を含むことにより、耐衝撃性及びバリア性を向上させることができる。前記ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンが好ましく、なかでも高密度ポリエチレンが、耐衝撃性及びバリア性の観点からより好ましい。
【0039】
水蒸気バリア層4中のポリオレフィン系樹脂の含有率としては、具体的には、例えば、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、10~97.5質量%であることが好ましく、20~95質量%であることがより好ましい。水蒸気バリア層4中のポリオレフィン系樹脂の含有率が、水蒸気バリア層4の質量に対して、上記範囲内であることで、ポリオレフィン系樹脂を用いたことによる効果がより顕著に得られる。
【0040】
水蒸気バリア層4において、化合物(1)の含有量(質量部):ポリオレフィン系樹脂の含有量(質量部)の含有比率は、2.5:97.5~50:50であることが好ましく、5.0:95~45:55であることがより好ましい。前記含有比率がこのような範囲であることで、化合物(1)及びポリオレフィン系樹脂を併用した効果がより顕著に得られる。
【0041】
水蒸気バリア層4は、上述のとおり、ポリオレフィン系樹脂として、高密度ポリエチレンを含んでいてもよく、その場合、高密度ポリエチレン及び石油樹脂の混合物を含んでいてもよい。水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分中に、高密度ポリエチレンや石油樹脂が含まれることにより、多層シート1に対して極めて高い水蒸気バリア性を付与することができる。
【0042】
水蒸気バリア層4が、高密度ポリエチレンを含み、石油樹脂を含まない場合、化合物(1)以外に、高密度ポリエチレンのみを含んでいてもよいし、高密度ポリエチレンと、石油樹脂と、のいずれにも該当しない他の成分を含んでいてもよい。
【0043】
水蒸気バリア層4が、高密度ポリエチレン及び石油樹脂の混合物を含む場合、化合物(1)以外に、前記混合物のみを含んでいてもよいし、前記混合物(すなわち、高密度ポリエチレン及び石油樹脂)に該当しない他の成分を含んでいてもよい。
【0044】
この場合、水蒸気バリア層4中の前記混合物の含有率としては、具体的には、例えば、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、30~97.5質量%であることが好ましく、35~95質量%であることがより好ましい。水蒸気バリア層4中の前記混合物の含有率が、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、上記範囲内であることで、前記混合物を用いたことによる効果がより顕著に得られる。
【0045】
水蒸気バリア層4が、高密度ポリエチレン及び石油樹脂の混合物を含む場合、この混合物において、高密度ポリエチレンの含有量(質量部):石油樹脂の含有量(質量部)の含有比率は、97.5:2.5~60:40であることが好ましく、95:5~65:35であることがより好ましい。前記含有比率がこのような範囲であることで、高密度ポリエチレン及び石油樹脂を併用した効果がより顕著に得られる。
【0046】
なお、本明細書において高密度ポリエチレン(HDPE)とは、密度が0.941g/cm~0.970g/cmの範囲のポリエチレン樹脂をいうものとする。これらのなかでも、水蒸気バリア性の点から、0.950g/cm以上のものが好ましく、0.955g/cm以上のものがより好ましい。
【0047】
ここで、石油樹脂とは、石油ナフサを熱分解してエチレン、プロピレンやブタジエンなどの留分を採取した残りの留分のうち、主としてC系あるいはC系留分から得られる樹脂をいう。
【0048】
石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族炭化水素樹脂系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂系石油樹脂、共重合系石油樹脂等が使用可能である。
なかでも前記石油樹脂は、透明性と臭気の観点から、脂肪族系炭化水素樹脂であることが好ましく、より好ましくはジシクロペンタジエンを用いて得られた重合体であり、更に好ましくはジシクロペンタジエンを熱重合したのちに水添反応を施して得られる水素添加ジシクロペンタジエン系石油樹脂である。石油樹脂中の、すべての構成単位に対する、ジシクロペンタジエンから誘導された構成単位の含有割合は、30%以上が好ましい。
【0049】
また、石油樹脂の軟化点(環球法、JIS K2548に準ずる)は、70~150℃程度であることが好ましく、より好ましくは90~140℃である。軟化点が70℃以上であることにより組成物のポリオレフィンに対する接着性能および耐熱性のバランスが良好となる。軟化点が150℃以下であることで、樹脂の製造が容易になり、製造コストの面でも有利になるため好ましい。
【0050】
石油樹脂の数平均分子量は、300~2000であることが好ましく、より好ましくは350~1000である。数平均分子量が前記範囲以上であることにより、樹脂組成物の凝集力等の接着性能が良好となり、水蒸気バリア性も向上する。数平均分子量が前記範囲以下であることで、ベースポリマーのゴム系重合体または合成樹脂系重合体との相溶性が良好となるとともに、樹脂の製造が容易になり、製造コストの面でも有利になるため好ましい。なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値による。
【0051】
水蒸気バリア層4中の石油樹脂の含有率としては、具体的には、例えば、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上、35質量%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4中の石油樹脂の含有率が、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、40質量%以下であることにより、水蒸気バリア層4の水蒸気バリア性を向上させ、多層シート1全体として水蒸気バリア性を劇的に向上させることができる。また、水蒸気バリア層4中の石油樹脂の含有率が、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、5質量%以上、35質量%以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0052】
水蒸気バリア層4は、多層シート1への成形性、包装体への成形性、蓋材とのシール性、隣接する層との接着性、コストの観点から、樹脂成分中に、化合物(1)と、前記高密度ポリエチレンと、前記石油樹脂と、のいずれにも該当しない他の樹脂を1種類以上含むものであってもよい。例えば、水蒸気バリア層4は、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン原子を含む樹脂等を含んでいてもよい。
【0053】
水蒸気バリア層4は、更に、無機充填剤を含有していてもよい。無機充填剤としては、具体的には、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン、クレー、ベントナイト、ヘクトライト等の層状ケイ酸塩類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ガラスフィラー、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化アルミニウム、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。これらのうち、タルク、マイカが好ましい。水蒸気バリア層4は、上記無機充填剤を1種類含むものでもよいし、2種類以上含むものでもよい。
【0054】
水蒸気バリア層4が、無機充填剤を含有することにより、多層シート1に対して極めて高い水蒸気バリア性を付与することができる。また、無機充填剤として、例えば、顔料である酸化チタン等を含有することにより、多層シート1を着色することもできる。一方、水蒸気バリア層4が無機充填剤を含有すると、耐衝撃性が低下するおそれがある。そのため、耐衝撃性の低下を抑制する観点から、無機充填剤の含有率は、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
水蒸気バリア層4の1層の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、112.5μm以上、660μm以下であることが好ましく、125μm以上、640μm以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4の1層の厚さが112.5μm以上であることにより、水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、水蒸気バリア層4の1層の厚さが660μm以下であることにより、多層シート1を包装体へ成形しやすくすることができる。さらに、上記厚さが、125μm以上、640μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0056】
水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、45%以上、87.5%以下であることが好ましく、50%以上、85%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率が、多層シート1の総厚に対して、45%以上であることにより、シート全体として水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率が、多層シート1の総厚に対して、87.5%以下であることにより、水蒸気バリア性に加え、十分な酸素バリア性を確保することができる。さらに、上記比率が、50%以上、85%以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0057】
水蒸気バリア層4の水蒸気透過量としては、具体的には、例えば、40℃、90%RHの雰囲気下において、0.6g/m・day以下が好ましく、0.55g/m・day以下がより好ましく、0.5g/m・day以下が特に好ましい。水蒸気バリア層4の水蒸気透過量が、40℃、90%RHの雰囲気下において、0.6g/m・day以下であることにより、酸素バリア層2への水蒸気透過量が減少し、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下が抑制され、さらに酸素バリア層2が水蒸気バリア性を十分に発現することができる。さらに、上記水蒸気透過量が、0.55g/m・day以下、0.5g/m・day以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0058】
なお、水蒸気バリア層4の水蒸気透過量の測定は、JIS-Z 0208法に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0059】
一対の表面層5及び6は、多層シート1にシール性、光沢性、耐衝撃性を付与するために、多層シート1の両側の最表層となるように、それぞれ設けられている。ここでは、一対の表面層5及び6は、水蒸気バリア層4にそれぞれ隣接するように積層されている。
多層シート1においては、一対の表面層5及び6の少なくとも一方が水蒸気バリア層4と隣接して積層されていれば、表面層を設けた効果がより高くなり、図1に示すように、表面層5及び6がいずれも水蒸気バリア層4と隣接して積層されていれば、表面層を設けた効果がさらに高くなる。
【0060】
一対の表面層5及び6は、いずれもポリオレフィン系樹脂を含む。一対の表面層5及び6のいずれもがポリオレフィン系樹脂を含むことにより、耐衝撃性及びバリア性を向上させることができる。前記ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンが好ましく、なかでも高密度ポリエチレンが、耐衝撃性及びバリア性の観点からより好ましい。
【0061】
多層シート1をトレイに成形する際、例えば、表面層5を内側(内表面)に設けた場合、表面層5はシール性を付与する機能を発揮するため、トレイと蓋材とのシール強度のばらつきを抑えると同時に、シール性を向上させることができる。一方、外側(外表面)となる表面層6は、光沢性及び耐衝撃性を付与するため、トレイのつやを向上して、優れた外観を付与したり、衝撃によるトレイの割れを防止したりすることができる。
【0062】
内表面となる表面層(以下、「内表面層」ともいう)5は、高密度ポリエチレンのみからなるものであってもよく、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を含んでいてもよい。内表面層5に含まれる樹脂中に、このように必須成分として高密度ポリエチレンを含むことにより、多層シート1を成形してトレイとした際に、当該トレイと蓋材とのシール強度および隣接する水蒸気バリア層との接着性を十分に確保することができる。
【0063】
内表面層5が、高密度ポリエチレンを含み、ポリプロピレンを含まない場合、高密度ポリエチレンのみを含んでいてもよいし、高密度ポリエチレンと、ポリプロピレンと、のいずれにも該当しない他の成分を含んでいてもよい。
この場合、内表面層5中の高密度ポリエチレンの含有率としては、具体的には、例えば、内表面層5全体の質量に対して、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。内表面層5中の高密度ポリエチレンの含有率が、内表面層5全体の質量に対して、上記範囲内であることで、高密度ポリエチレンを用いたことによる効果がより顕著に得られる。
【0064】
内表面層5が、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を含む場合、前記混合物のみを含んでいてもよいし、前記混合物(すなわち、高密度ポリエチレン及びポリプロピレン)に該当しない他の成分を含んでいてもよい。
この場合、内表面層5中の前記混合物の含有率としては、具体的には、例えば、内表面層5全体の質量に対して、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。内表面層5中の前記混合物の含有率が、内表面層5全体の質量に対して、上記範囲内であることで、前記混合物を用いたことによる効果がより顕著に得られる。
【0065】
内表面層5が、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を含む場合、この混合物において、高密度ポリエチレンの含有量(質量部):ポリプロピレンの含有量(質量部)の含有比率は、10:90~95:5であることが好ましく、15:85~90:10であることがより好ましい。前記含有比率がこのような範囲であることで、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを併用した効果がより顕著に得られる。
【0066】
内表面層5は、更に、下記式(2)-1で表される構成単位、下記式(2)-2で表される構成単位、及び下記式(2)-3で表される構成単位を有する化合物(以下、この化合物を化合物(2)と呼ぶことがある。)を含んでいてもよい。
内表面層5が化合物(2)を含むことにより、多層シート1に対して高い耐衝撃性を付与することができる。
【化5】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、o及びpは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、*は、結合を表す。)。
【0067】
式(2)-2中のR及びRは、それぞれ、式(1)-2中のR及びRと同様のものである。
式(2)-2中のR及びRは、それぞれ、式(1)-2中のR及びRと同様のものである。
式(2)-1中及び式(2)-3中のoは、式(1)-1中及び式(1)-3中のmと同様のものである。
式(2)-2中のpは、式(1)-2中のnと同様のものである。
【0068】
内表面層5が含む化合物(2)は、水蒸気バリア層4が含む化合物(1)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0069】
内表面層5には、上記ポリオレフィン系樹脂や化合物(2)の他に、水蒸気バリア層4や、(トレイに成形した際に)蓋材等に接着することができる樹脂を含んでいてもよい。具体的には、例えば、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等の、高密度ポリエチレン以外のポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン原子を含む樹脂等が挙げられる。
【0070】
内表面層5は、上記樹脂を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。上記樹脂を選択することで、多層シート1を成形してトレイとした際に、当該トレイと蓋材とのシール強度を十分に確保することができる。
【0071】
また、内表面層5は、無機充填剤を含有しないことが好ましい。無機充填剤を含有する樹脂層を多層シート1の最表層とした場合、多層シート1を成形したトレイと蓋材とのシール強度のばらつきが大きくなり、十分なシール性を得ることができないおそれがある。これに対して、無機充填剤を含まない内表面層5を多層シート1の最表層とすることにより、シール強度のばらつきを抑え、シール性を向上させることができる。なお、無機充填剤としては、具体的には、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン、クレー、ベントナイト、ヘクトライト等の層状ケイ酸塩類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ガラスフィラー、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化アルミニウム、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。
【0072】
さらに、内表面層5が無機充填剤を含まないことにより、多層シート1の製造時に多層シート1がダイリップと接着した際に、ダイリップへ無機充填剤等が付着することにより生産性が低下するのを防止することができる。
【0073】
なお、内表面層5に含まれる樹脂は、上述した水蒸気バリア層4に含まれる樹脂と同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0074】
一方、外表面となる表面層(以下、「外表面層」ともいう)6に含まれる樹脂としては、内表面層5と同様のものを用いることができる。また、外表面層6は、内表面層5と同様に、無機充填剤を含有しないことが好ましい。無機充填剤を含有する樹脂層を多層シート1の最表層とした場合、多層シート1の光沢性が失われるおそれがある。これに対して、無機充填剤を含まない外表面層6を多層シート1の最表層とすることにより、多層シート1の光沢性を十分に担保することができる。
【0075】
表面層5及び6のうち一方の層の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、6.25μm以上、375μm以下であることが好ましく、12.5μm以上、330μm以下であることがより好ましい。表面層5及び6のうち一方の層の厚さが6.25μm以上であれば、シール強度の安定化と光沢性を十分に発現することができる。また、表面層5及び6のうち一方の層の厚さが375μm以下であれば、水蒸気バリア性を十分に発現することができる。さらに、上記厚さが、12.5μm以上、300μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0076】
一対の表面層5及び6を合わせた厚みの比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上、50%以下であることが好ましく、5%以上、45%以下であることがより好ましい。一対の表面層5及び6を合わせた厚みの比率が、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上であれば、シール強度の安定化と光沢性を十分に発現することができる。また、上記比率が、多層シート1の総厚に対して、50%以下であれば、十分な水蒸気バリア性を確保することができる。さらに、上記比率が、5%以上、45%以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0077】
本実施形態の多層シート1の総厚としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、500μm以上、1500μm以下であることが好ましく、800μm以上、1350μm以下であることがより好ましい。多層シート1の総厚が500μm以上であれば、水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方を十分に発現することができる。また、多層シート1の総厚が1500μm以下であれば、容器形状への成形サイクルを短くすることができる。さらに、上記総厚が、800μm以上、1350μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0078】
本実施形態の多層シート1の水蒸気バリア性としては、JIS-Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15g/m・day以下であり、0.13g/m・day以下であることが好ましく、0.10g/m・day以下であることがより好ましい。
【0079】
多層シート1の40℃、90%RHの雰囲気下における水蒸気透過量が、0.15g/m・day以下であることにより、多層シート1を包装体に成形した場合、内容物を外部の水分から十分に保護することが可能となり、水分に弱い内容物を長期的に保存することが可能となる。また、内容物が液体を含む場合には、内容物からの水分の蒸発を防ぐことが可能となり、長期的に内容物の液体濃度を維持することができる。
【0080】
その結果、従来の包装体では水蒸気バリア性が低く、短期間で廃棄となっていた商品の使用期間を延長することが可能となり、廃棄物の量を減らすことが可能となる。そのため、製品のトータルコストや製品及び包装体の廃棄量を減らすことができる。
【0081】
さらに、上記水蒸気透過量が、0.13g/m・day以下、0.10g/m・day以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0082】
本実施形態の多層シート1の酸素バリア性としては、具体的には、例えば、25℃、60%RHの雰囲気下において、酸素透過量が0.35cc/m・day以下であることが好ましく、0.30cc/m・day以下であることがより好ましく、0.25cc/m・day以下であることが特に好ましい。
【0083】
多層シート1の25℃、60%RHの雰囲気下における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下であれば、多層シート1を包装体に成形した場合、内容物を外部の酸素から十分に保護することが可能となり、内容物の酸化、劣化、腐敗、錆等の発生を防ぎ、内容物を長期的に保存することができる。また、酸化防止剤を使用せずに内容物を長期保存することができるため、包装体に酸化防止剤を同封する手間が省けると同時に、酸化防止剤の誤飲を防ぐことが可能となる。
【0084】
さらに、上記酸素透過量が、0.30cc/m・day以下、0.25cc/m・day以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0085】
なお、多層シート1の酸素透過量の測定は、酸素透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「OX-TRAN MODEL 2/21」等)を用いて、JIS K 7126B法に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0086】
本実施形態の多層シート1の耐衝撃性としては、具体的には、例えば、引張衝撃強度が、110kJ/m以上であることが好ましく、150kJ/m以上であることがより好ましく、230kJ/m以上であることが更に好ましい。
【0087】
多層シート1の引張衝撃強度が、110kJ/m以上であれば、多層シート1を包装体に成形した場合、衝撃による前記包装体の割れを防ぐことができる。
【0088】
さらに、上記引張衝撃強度が、150kJ/m以上、230kJ/m以上であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0089】
本実施形態の多層シート1の耐衝撃性としては、具体的には、例えば、デュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が、1.5J以上であることが好ましく、2.1J以上であることがより好ましく、3.4以上であることが更に好ましい。
【0090】
多層シート1のデュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が、1.5J以上であれば、多層シート1を包装体に成形した場合、衝撃による前記包装体の割れを防ぐことができる。
【0091】
さらに、上記デュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が、2.1J以上、3.4J以上であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0092】
本実施形態の多層シート1は、前記水蒸気バリア層4と前記一対の表面層5及び6が、いずれも高密度ポリエチレンを含んでいてもよい。前記水蒸気バリア層4と前記一対の表面層5及び6が、いずれも高密度ポリエチレンを含むことにより、耐衝撃性及びバリア性を向上させる効果が顕著に高くなる。また、前記一対の表面層5及び6と前記水蒸気バリア層4とが隣接して積層される場合に、前記一対の表面層5及び6と前記水蒸気バリア層4との間の密着性を向上させることができる。
【0093】
本実施形態の多層シート1において、前記一対の表面層5及び6と前記水蒸気バリア層4とが隣接して積層される場合に、前記一対の表面層5及び6と前記水蒸気バリア層4との剥離強度としては、具体的には、例えば、11N/15mm以上であることが好ましく、15N/15mm以上であることがより好ましい。
【0094】
多層シート1における一対の表面層5及び6と水蒸気バリア層4との剥離強度が、11N/15mm以上であれば、多層シート1を包装体に成形した場合、前記包装体における水蒸気バリア層と一対の表面層との間の剥離を、より高度に防ぐことができる。
【0095】
さらに、上記剥離強度が、15N/15mm以上であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0096】
多層シート1においては、前記一対の表面層5及び6のうち、いずれか一方の表面層と前記水蒸気バリア層4との剥離強度が、上述の条件を満たしていなくてもよいが、両方の表面層と水蒸気バリア層4との剥離強度が、上述の条件を満たしていることが好ましい。
【0097】
<多層シートの製造方法>
次に、上述した多層シート1の製造方法について説明する。
本実施形態の多層シート1の製造方法は、特に限定されるものではないが、数台の押出機により、原料となる樹脂等を溶融押出するフィードブロック法やマルチマニホールド法等の共押出Tダイ法、空冷式又は水冷式共押出インフレーション法及びラミネート法が挙げられる、この中でも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚さ制御に優れる点で特に好ましい。
【0098】
その後の工程として、各層を形成する単層のシート又はフィルムを適当な接着剤を用いて貼り合せるドライラミネート法、押出ラミネート法、ホットメルトラミネート方法、ウエットラミネート方法、サーマル(熱)ラミネート方法等、及びそれらの方法を組み合わせて用いられる。また、コーティングによる方法で積層してもよい。
【0099】
また、無機充填剤を添加する際には、二軸混練機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で事前混練したものを使用した方がシート性能及びシート製膜時の無機充填剤の飛散によるコンタミを防ぐことができるため、より好ましい。
【0100】
<包装体>
次に、上述した多層シート1を用いた包装体について説明する。図2は、本発明を適用した一実施形態である包装体11の断面模式図である。図2に示すように、本実施形態の包装体11は、トレイ12と、蓋材13と、を備えて概略構成されている。
【0101】
本実施形態の包装体11は、内容物14として、例えば、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、化粧品、医薬部外品、食品、飲料、工業部品、電子部品、電化製品等を包装する際に用いることができる。また、上記内容物14を包装した一次包装体の二次包装容器としても用いることができる。さらに、多層シート1は耐熱性を有しているため、レトルトや滅菌等が必要な内容物14であっても、適用することができる。
【0102】
トレイ12は、多層シート1を2次成形することで得られる。具体的には、多層シート1を凹ませることで、収納空間Sと、この収納空間Sの周りに端縁部15と、を成形する。
【0103】
多層シート1からトレイ12を2次成形する方法としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、真空成形、圧空成形、圧空真空成形、プラグアシスト圧空成形、プラグアシスト真空成形、プラグアシスト圧空真空成形、プラグ成形、プレス成型等が挙げられる。
【0104】
蓋材13は、トレイ12の端縁部15において内表面側となる表面層5と接着している。これにより、収納空間Sが密封される。蓋材13の材料としては、トレイ12と接着するものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、アルミ、透明蒸着フィルム等が挙げられる。
【0105】
本実施形態の包装体11は、収納空間S側から、酸素バリア層2と、水蒸気バリア層4と、外表面層6とが、この順番で積層されていることが好ましい。これにより、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下を抑制し、包装体11の水蒸気バリア性及び酸素バリア性が最大限に発揮されることで、内容物14の保護期間の長期化が可能となる。
【0106】
また、本実施形態の包装体11は、収納空間S側から、内表面層5と、第1の水蒸気バリア層4と、酸素バリア層2と、第2の水蒸気バリア層4と、外表面層6とが、この順番で積層されていることが好ましい。すなわち、酸素バリア層2の両側に水蒸気バリア層4,4が設けられていることが好ましい。これにより、外部からの水蒸気バリア性及び酸素バリア性が十分に発揮されると同時に、収納空間S側からの水分蒸発を防ぐことが可能となる。
【0107】
以上説明したように、本実施形態の多層シート1は、水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、前記水蒸気バリア層が、下記式(1)-1で表される構成単位、下記式(1)-2で表される構成単位、及び下記式(1)-3で表される構成単位を有する化合物を含み、前記一対の表面層が、いずれもポリオレフィン系樹脂を含み、前記多層シートの、JIS-Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下であるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた多層シート1を提供することができる。
【0108】
また、本実施形態のトレイ12は、上記多層シート1を2次成形することで得られるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れている。
【0109】
また、本実施形態の包装体11によれば、上記トレイ12と、蓋材13とを備えるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、更に耐衝撃性にも優れている。
【0110】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述した多層シート1は、基本的な性能を損なわない範囲で結晶核剤、石油樹脂、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、染料、顔料、難燃剤、消臭剤、可塑剤、分散剤等の添加剤を、多層シート1に含まれる1つ以上の層に添加したものであってもよい。このような層を含むことで、多層シート1及び包装体11の生産性の向上、劣化の防止、及び識別性の付与が可能となる。
【0111】
また、上述した多層シート1は、外表面層6を備える構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、外表面層6を備えない構成であってもよい。
【0112】
また、上述した多層シート1は、接着層3、水蒸気バリア層4を2層ずつ備える構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、接着層3、水蒸気バリア層4は、それぞれ1層のみ備える構成としてもよいし、それぞれ2層以上備える構成としてもよい。
【0113】
また、上述した多層シート1は、一対の表面層5及び6と水蒸気バリア層4とが隣接して積層される構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、一対の表面層5及び6と水蒸気バリア層4との間に他の層が挿入されていてもよい。
【実施例
【0114】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0115】
<多層シートの作製>
(実施例1)
図1に示す構成の多層シートを、以下の手順で作製した。
先ず、酸素バリア層に含まれる樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製、品番:F101A)を用意した。
また、第1及び第2の接着層に含まれる樹脂として、無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、品番:NF536)を用意した。
また、第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂として、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(カネカ社製、品番:102T-UC)及び高密度ポリエチレン(旭化成ケミカル社製、品番:B161)を用意した。
第1及び第2の水蒸気バリア層では、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が15質量%、高密度ポリエチレンが85質量%となるように混合比を調整した。
また、内表面層及び外表面層の樹脂として、高密度ポリエチレン(旭化成ケミカル社製、品番:B161)を用意した。
【0116】
次に、内表面層と、第1の水蒸気バリア層と、第1の接着層と、酸素バリア層と、第2の接着層と、第2の水蒸気バリア層と、外表面層とを、この順番で共押出成形して多層シートを作製した。また、シートを冷却ロールに固定する際にはエンボスタッチロールを使用し、その固定圧力を0.2MPaとした。
【0117】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が35.0%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が35.0%、外表面層が10%であった。
【0118】
(実施例2)
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂として、水素添加ジシクロペンタジエン系石油樹脂(JXTGエネルギー社製、品番:T-REZ OP501)を用意した。
第1及び第2の水蒸気バリア層では、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が15質量%、高密度ポリエチレンが75質量%、石油樹脂が10質量%となるように混合比を調整した以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0119】
(実施例3)
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる無機充填剤として、タルク(日本タルク社製、品番 K-1)を用意した。
第1及び第2の水蒸気バリア層では、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が15質量%、高密度ポリエチレンが45質量%、石油樹脂が10質量%、タルクが30質量%となるように混合比を調整した以外は実施例2と同様にして、多層シート1を作製した。
【0120】
(実施例4)
内表面層及び外表面層に含まれる樹脂として、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(カネカ社製、品番:102T-UC)を用意した。
内表面層及び外表面層では、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体が10質量%、高密度ポリエチレンが90質量%となるように混合比を調整した以外は実施例3と同様にして、多層シート1を作製した。
【0121】
(比較例1)
第1及び第2の水蒸気バリア層、並びに内表面層及び外表面層に含まれる樹脂として、ポリプロピレン(住友化学社製、品番:FH1016)を用意した。
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる無機充填剤として、タルク(日本タルク社製、品番 K-1)を用意した。
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂を、ポリプロピレン75質量%、タルク25質量%とし、内表面層及び外表面層に含まれる樹脂をポリプロピレンとしたこと以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作成した。
【0122】
(参考例2)
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂からスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を除き、高密度ポリエチレンが90質量%、石油樹脂が10質量%となるように混合比を調整した以外は実施例2と同様にして、多層シート1を作成した。
【0123】
(比較例2)
第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂からスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を除き、高密度ポリエチレンが60質量%、石油樹脂が10質量%、タルクが30質量%となるように混合比を調整した以外は実施例3と同様にして、多層シート1を作成した。
【0124】
<水蒸気バリア性の評価>
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1で作製した多層シート、及び水蒸気バリア層(単層)について、水蒸気バリア性の評価を行った。水蒸気バリア性の評価は、40℃、90%RHの雰囲気下における、水蒸気透過量を測定することにより行った。結果を表1に示す。
なお、水蒸気バリア層(単層)について、水蒸気透過量は、JIS-Z 0208法に記載の方法に準拠して行った。
また、多層シートについて、水蒸気透過量は、JIS-Z 0208法に記載の方法に準拠して行った。
【0125】
<酸素バリア性の評価>
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1で作製した多層シートについて、酸素バリア性の評価を行った。酸素バリア性の評価は、25℃、60%RHの雰囲気下における、酸素透過量を測定することにより行った。
なお、酸素透過量の測定は、酸素透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「OX-TRAN MODEL 2/21」等)を用いて、JIS K 7126B法に記載の方法に準拠して行った。結果を表1に示す。
【0126】
<耐衝撃性:引張衝撃試験の評価>
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1で作製した多層シートについて、耐衝撃性の評価を行った。耐衝撃性の評価は、JIS K 7160A法に記載の方法に準拠して、多層シートの引張衝撃強度を測定することにより行った。結果を表1に示す。
【0127】
<耐衝撃性:デュポン衝撃試験の評価>
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1で作製した多層シートの衝撃強度を測定することにより、耐衝撃性の評価を行った。具体的には、デュポン式落下衝撃試験機(例えば、上島製作所製、「IM-4500」等)の撃ち型と受け台の間に多層シートを挟み、一定の高さからおもりを落下させて、多層シートを衝撃変形させた。おもりの質量と落下高さを変化させて、多層シートに割れが生じたときのおもりの質量と落下高さから、以下の式に基づいて衝撃強度を算出した。結果を表1に示す。
[数1]
衝撃強度(J)=おもりの質量(kg)×g(重力加速度)×落下高さ(m)
【0128】
<剥離強度の評価>
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1で作製した多層シートについて、剥離強度の評価を行った。具体的には、15mm幅に多層シートをカットし、最表層(表面層)とそれに隣接する層(水蒸気バリア層)との層間をピンセットでつまんで、つかみ代を作製し、オートグラフ(例えば、エー・アンド・デイ社製、「RTF-1250」等)にて200mm/分の速度で多層シートを引っ張り、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に示すように、実施例1~4の多層シートによれば、水蒸気バリア層、並びに内表面層及び外表面層が高密度ポリエチレン(HDPE)を含んでいるため、水蒸気透過量が0.15g/m・day以下であり、非常に優れた水蒸気バリア性を有していることを確認した。
これに対して、比較例1の多層シートによれば、水蒸気バリア層がポリプロピレン(PP)を含んでいるため、水蒸気透過量が0.16g/m・dayであり、0.15g/m・day以下という非常に優れた水蒸気バリア性は得られなかった。
【0131】
実施例1~4の多層シートによれば、酸素透過量が0.35cc/m・day以下であるため、非常に優れた酸素バリア性を有していることを確認した。
【0132】
実施例1~4の多層シートによれば、水蒸気バリア層がスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を含んでいるため、引張衝撃強度が110kJ/m以上であり、デュポン式落下衝撃試験機での衝撃強度が1.5J以上であり、非常に優れた耐衝撃性を有していることを確認した。
【0133】
実施例2の多層シートによれば、水蒸気バリア層がスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を含んでいるため、参考例1の多層シートよりも耐衝撃性に優れていることを確認した。
【0134】
実施例3の多層シートによれば、水蒸気バリア層がスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を含んでいるため、比較例2の多層シートよりも耐衝撃性に優れていることを確認した。
【0135】
実施例4の多層シートによれば、内表面層及び外表面層が更にスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を含んでいるため、実施例3の多層シートよりも耐衝撃性に優れていることを確認した。
【0136】
実施例1及び2の多層シートによれば、水蒸気バリア層がタルクを含んでいないため、実施例3及び4の多層シートよりも耐衝撃性に優れていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の多層シートは、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、食品、飲料、工業部材、電子部品等の包装材として利用可能性がある。また、本発明のトレイ及び包装体は、医薬品、化粧品、医薬部外品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、食品、飲料、工業部材、電子部品等を包装するのに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0138】
1…多層シート、2…酸素バリア層、3…接着層、4…水蒸気バリア層、5…表面層(内表面層)、6…表面層(外表面層)、11…包装体、12…トレイ、13…蓋材、14…内容物、15…端縁部、S…収納空間
図1
図2