(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/06 20060101AFI20220809BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220809BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220809BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20220809BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C21C7/06
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21C7/04 B
C21C7/04 D
C21C7/04 F
B22D1/00 J
B22D1/00 E
B22D1/00 F
(21)【出願番号】P 2018121388
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】溝口 利明
(72)【発明者】
【氏名】武川 隼
(72)【発明者】
【氏名】大賀 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗本 英典
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-192439(JP,A)
【文献】特開2005-002421(JP,A)
【文献】特開2003-183722(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106636880(CN,A)
【文献】特開2000-087128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/06
C22C 38/00
C22C 38/60
C21C 7/04
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉で溶製された未脱酸の溶鋼を取鍋に出鋼した後、出鋼された溶鋼を、AlまたはAl-Siにより脱酸し、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を製造する方法であって、
酸素を含有する成分調整用合金を、前記取鍋への出鋼中または出鋼後であって、前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の前の溶存酸素量が50ppm以上の溶鋼に投入するとともに前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の後の溶鋼に投入し、
前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の前に投入される成分調整用合金から溶鋼に持ち込まれる脱酸前持込み酸素量(ppm)と、前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の後に投入される成分調整用合金から溶鋼に持ち込まれる脱酸後持込み酸素量(ppm)との比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)を2以上とし、
前記脱酸後持込み酸素量を10ppm以下とし、
脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量の合計を15ppm以上とするとともに、
前記Alまたは前記Al-Siにより脱酸され、その後に前記成分調整用合金を投入され、T.Oを30ppm以下にした溶鋼に、1種類以上のREMを添加することにより、質量比率で0.5・T.O<REM含有量≦50-1.2・T.Oとする、鋼の製造方法。
【請求項2】
前記成分調整用合金は、MeMn、MeTi、MeCu、MeNi、FeMn、FeP、FeTi、FeS、FeSi、FeCr、FeMo、FeB、およびFeNbから選択される1種以上である、請求項1に記載の鋼の製造方法。
【請求項3】
前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
C:0.0005~1.5%、
Si:0.005~1.2%、
Mn:0.05~3.0%、
P:0.001~0.2%、
S:0.0001~0.05%、
T.Al:0.005~1.5%、
Cu:0~1.5%、
Ni:0~10.0%、
Cr:0~10.0%、
Mo:0~1.5%、
Nb:0~0.1%、
V:0~0.3%、
Ti:0~0.25%、
B:0~0.005%、
REM:0.1~20ppm、
T.O:5~30ppm、
残部がFeおよび不純物である、請求項1または2に記載の鋼の製造方法。
【請求項4】
前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.1~1.5%、
Ni:0.1~10.0%、
Cr:0.1~10.0%、および
Mo:0.05~1.5%、
から選択される1種以上を含有する、請求項3に記載の鋼の製造方法。
【請求項5】
前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.005~0.1%、
V:0.005~0.3%、および
Ti:0.001~0.25%、
から選択される1種以上を含有する、請求項3または4に記載の鋼の製造方法。
【請求項6】
前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
B:0.0005~0.005%、
を含有する、請求項3~5のいずれかに記載の鋼の製造方法。
【請求項7】
前記鋼は、鋳片のスライム抽出で得られるアルミナクラスターの最大径が100μm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の鋼の製造方法。
【請求項8】
前記鋼は、鋳片のスライム抽出で得られる20μm以上のアルミナクラスターの個数が2個/kg以下である、請求項7に記載の鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の製造方法に関し、具体的には、例えば、自動車用鋼板、構造用・耐摩耗用厚板や油井管用鋼管等の素材に好適なアルミナクラスターが少ない鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の鋼材は、通常、転炉等の一次精錬炉により大気圧下で脱炭精錬を行われた未脱酸の溶鋼を取鍋に出鋼した後、脱炭精錬により増加した溶鋼中の酸素を、例えばRH真空脱ガス装置でAlまたはAl-Siにより脱酸するAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼として、製造されている。
【0003】
脱酸時に不可避的に生成するアルミナは、硬質であり、凝集してクラスター化し易く、数100μm以上の大きさの介在物として鋼中に残留する。このため、溶鋼からのアルミナの除去が不十分であると、連続鋳造時にタンディッシュの浸漬ノズルでノズル孔内付着によるノズル詰まりを生じる。
【0004】
また、アルミナが最終製品である鋼材に残存すると、例えば、薄板では熱間圧延または冷間圧延でのスリバー疵(線状疵)、構造用厚板では材質不良、耐摩耗用厚板では低温靭性の低下、油井用鋼管では溶接部のUST欠陥といった、アルミナクラスターに起因した介在物欠陥が発生する。
【0005】
アルミナを溶鋼から除去する方法として、
(a)脱酸後に、アルミナの凝集、合体による溶鋼からの浮上、分離時間をできるだけ長く確保するため、脱酸剤のAlを転炉での出鋼時に投入する方法、
(b)二次精錬法の一つであるCAS法やRH真空脱ガス法処理で溶鋼の強攪拌を行い、アルミナの浮上、分離を促進する方法、
(c)溶鋼中へのCaの添加によってアルミナを低融点介在物であるCaO-Al2O3に形態制御して無害化する方法
等が行われていた。
【0006】
ところが、(a),(b)の方法によるアルミナの浮上分離対策には限界があり、数100μm以上の大きさの介在物を完全に除去できないため、スリバー疵を防止できないという問題があった。
【0007】
(c)のCaによる酸化物系介在物の改質は、介在物の低融点化によってアルミナクラスターの生成を防止でき、微細化する。しかし、非特許文献1によれば、アルミナを溶鋼中で液相のカルシウムアルミネートにするためには、[Ca]/[T.O]を0.7~1.2の範囲に制御する必要がある。このためには、例えばT.Oが40ppmで28~48ppmという多量のCaを添加する必要がある。
【0008】
一方、タイヤ用のスチールコードや弁バネ材では、介在物を圧延加工時に変形し易い低融点のCaO-SiO2-Al2O3(-MnO)系に制御し、無害化することが一般的に広く知られている。
【0009】
しかし、これらの方法では、通常、Caを安価なCaSi合金により添加するため、Si含有量の上限の管理が厳しい自動車用鋼板や缶用冷延鋼板では実用化されていないのが現状である。
【0010】
CeやLa等のREM(希土類元素)を利用した溶鋼の脱酸では、(i)Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を前提とし、AlまたはAl-Si脱酸後にREMをアルミナの改質剤として使用する方法や(ii)Alを使用せずにREMを単独で、またはCa、Mg等と組み合わせて脱酸する方法が知られている。
【0011】
特許文献1には、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を前提にした方法として、Al脱酸またはAl-Si脱酸後にSe、Sb、LaおよびCeの一種以上を0.001~0.05質量%添加することにより、またはこれと溶鋼攪拌と組み合わせることにより、溶鋼/アルミナクラスター間の界面張力を制御して溶鋼中のアルミナクラスターを浮上分離させて除去することによって、非金属介在物が少ない清浄鋼を製造する方法が開示されている。
【0012】
特許文献2には、溶鋼をAlおよびTiにより脱酸した後、Caおよび/またはREMを添加することにより、酸化物系介在物の大きさを50μm以下とし、組成をAl2O3:10~30質量%、Caおよび/またはREM酸化物:5~30質量%、Ti酸化物:50~90質量%とすることにより、表面性状および内質に優れる冷延鋼板を製造する方法が開示されている。
【0013】
さらに、特許文献3には、Al、REMおよびZrの複合脱酸によってアルミナクラスターがなく、欠陥が少ない清浄なAlキルド鋼を製造する方法が開示されている。しかし、特許文献1~3により開示された方法では、アルミナクラスターを確実に浮上分離させることが困難であり、介在物欠陥を要求される品質レベルまで低減することができなかった。
【0014】
特許文献4には、Alを使用しない方法として、溶鋼をCaO含有フラックスで脱酸した後、Ca、MgおよびREMの一種以上を含む合金を例えば100~200ppm添加し、介在物を低融点化および軟質化することにより、スチールコード用鋼を製造する方法が開示されている。
【0015】
特許文献5には、Mn、Si等のAl以外の脱酸剤によりT.O≦100ppmに調整した後、空気酸化防止を目的にREMを50~500ppm添加することにより極細伸線性が良好な線材を製造する方法が開示されている。
【0016】
しかし、特許文献4および5により開示された方法では、脱酸により安価なAlを使用しないため、脱酸剤のコストが上昇するという問題があった。また、Siで脱酸する場合には、Si含有量の上限値の制限が厳しい薄板材への適用は困難であった。
【0017】
一方、アルミナ粒子のクラスター化に関して幾つかの生成機構が開示されている。例えば、特許文献6には、溶鋼中のP2O5がAl2O3粒子の凝集合体を促進しているとし、Caを添加してP2O5をnCaO・mP2O5とし、Al2O3のバインダーであるP2O5の結合力を低下させることにより、浸漬ノズルへのAl2O3の付着を防止できることが開示されている。
【0018】
非特許文献2には、連続鋳造でタンディッシュの浸漬ノズルの閉塞防止のために用いているArガスに捕捉されたアルミナ粒子が、冷延鋼板に発生するスリバー疵の原因であると推定されることが開示されている。
【0019】
さらに、非特許文献3には、気泡に捕捉されたアルミナ粒子がキャピラリー効果により気泡表面で凝集合体するという観察結果が開示されている。このように、アルミナクラスターの微視的な生成機構についても解明されつつあるが、クラスター化の防止のための具体的方法は明らかではなかった。このため、アルミナクラスターによる介在物欠陥を、要求される品質レベルまで低減することは困難であった。
【0020】
本発明者らは、特許文献7として、REMを微量添加することによりアルミナ中の介在物の組成を0.5~15質量%とすることにより、自動車用や家電用の薄板のスリバー疵、構造用厚板の材質不良、耐摩耗用厚板の低温靭性の低下、油井管用鋼管の溶接部UST欠陥等の表面疵や内部欠陥の原因になる粗大なアルミナクラスターの少ない鋼材を開示した。
【0021】
また、本発明者らは、特許文献8により、溶鋼中のREM/T.Oを0.05~0.5の範囲とし、アルミナクラスターの生成を抑制することにより、製品での表面疵や内部欠陥を低減し、連続鋳造時にタンディッシュの浸漬ノズルの閉塞を防止する方法を開示した。
【0022】
しかし、低T.Oで、かつREM添加量が微量の場合、アルミナクラスターの生成は平均的に抑制され、製品欠陥とノズル閉塞は改善されるものの、アルミナ中のREM酸化物含有量のばらつきが大きく、粗大なアルミナクラスターの生成を安定して抑制できず、結果として、上記の改善効果を得られない場合があった。
【0023】
さらに、本発明者らは、さらに実験および検討を重ねた結果、(x)T.O≦30ppmでは、REM>0.5・T.Oで歩留りが安定し、介在物の組成のばらつきが小さくなり、粗大なアルミナクラスターの生成が安定して抑制できること、(y)T.Oが低いほど、REM酸化物とAl2O3の複合酸化物からなる粗大なクラスターが生成する上限REM量が拡大することを見出した。
【0024】
そこで、本発明者らは、特許文献9により、T.Oが30ppm以下のAl脱酸またはAl-Si脱酸した溶鋼中にCe、La、PrおよびNd等の1種類以上の希土類金属(REM)を添加して質量比率で0.5・T.O<REM≦50-1.2・T.Oとすることにより、粗大なアルミナクラスターの生成を溶鋼中およびAr気泡の表面で防止する発明を開示した。
【0025】
特許文献9により開示された発明によれば、自動車用や家電用の薄板のスリバー疵、構造用厚板の材質不良、耐摩耗用厚板の低温靭性の低下、油井管用鋼管の溶接部UST欠陥等の表面疵や内部欠陥が少ない鋼材を製造できる。
【0026】
特許文献9により開示された発明は、連続鋳造時の浸漬ノズルの閉塞による操業トラブルの防止により、耐火物コストの低減や浸漬ノズルの交換に伴う生産性の低下を防止することもできる。
【0027】
なお、特許文献9により開示された発明において、T.Oは鋼中の総酸素量で溶存酸素と介在物中酸素の合計を意味し、希土類元素とは、原子番号57のLaから原子番号71のLuを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】特開昭52-70918号公報
【文献】特開2001-26842号公報
【文献】特開平11-323426号公報
【文献】特開昭56-5915号公報
【文献】特開昭56-47510号公報
【文献】特開平9-192799号公報
【文献】特開2004-52076号公報
【文献】特開2004-52077号公報
【文献】特開2005-2421号公報
【非特許文献】
【0029】
【文献】材料とプロセス,4(1991),p.1214(城田ら)
【文献】鉄と鋼,(1995),p.17(安中ら)
【文献】ISIJ Int.,37(1997),p.936(H.Yin et al.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
特許文献9により開示された発明によれば、確かに、アルミナクラスターが少ない鋼材を提供できる。
【0031】
近年、アルミナクラスターによる介在物欠陥を低減することへの要請は、鋼材の需要家の生産性向上のための無欠陥指向や加工特性の向上の要求の高まりにより、従来に増して一段と高まっており、アルミナクラスターによる介在物欠陥をより一層低減することが強く求められている。
【0032】
このため、製鋼工程での溶鋼の徹底的な清浄化や、鋳片の重手入れ化といった様々な対策が行われてはいるものの、アルミナクラスターによる介在物欠陥を、現在要求される程度まで十分に低減することは、実現できていない。
【0033】
本発明は、従来の技術が有するこの課題に鑑みてなされたものであり、アルミナクラスターに起因する介在物欠陥を、現在要求される程度まで十分に低減しながら、鋼を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者らが特許文献8により開示したように、低融点酸化物であるFeOは、Alにより脱酸された平衡状態の溶鋼中には本来存在しない。しかし、1600℃程度の溶鋼(O濃度:6~8ppm程度)の一部に、O濃度が0.2質量%程度の溶鋼が非平衡に存在すると、Al2O3と液体のFeOとが同時に生成し、液体のFeOがAl2O3同士の間にバインダーとして介在することにより、アルミナクラスターが発生する。
【0035】
本発明者らは、アルミナクラスターのこの発生機構に基づき、アルミナクラスターの発生防止手段を鋭意検討した結果、以下に列記の知見(A)~(F)が得られた。
【0036】
(A)製鋼工程でMn濃度の調整のためにAlまたはAl-Si脱酸後に投入されるMeMn(「金属Mn」を意味する。なお、本明細書では、以下成分濃度の調整用合金における「金属」を同様に「Me」と表現する。)は、例えば0.5質量%程度と極微量ではあるものの、Oを含有する。Oを含有するMeMnが溶鋼に持ち込む全O量は例えば15ppm以上になる。
【0037】
このため、従来のようにAlまたはAl-Si脱酸後にMeMnを投入すると、MeMnからの持込みOにより、溶鋼は局所的に酸素汚染され、これにより、液体状態のFeOがAl2O3と同時に生成し、生成したFeOがAl2O3同士のバインダーになってアルミナクラスターが発生する。
【0038】
(B)MeMnの投入量が多い鋼種、すなわち持込み酸素量が15ppm以上と多い鋼種では、MeMnを、従来のようにAlまたはAl-Si脱酸後の溶鋼に投入するのではなくて、AlまたはAl-Si脱酸前の溶存酸素量が50ppm以上である溶鋼に投入するとともにAlまたはAl-Si脱酸後の溶鋼に投入することにより、液体状態のFeOがAl2O3と同時に生成することを阻止してアルミナクラスターの生成を抑制できるため、アルミナクラスターによる介在物欠陥を低減できる。
【0039】
(C)脱酸後持込み酸素量を10ppm以下にすることにより、アルミナクラスターによる介在物欠陥を低減できる。
【0040】
(D)AlまたはAl-Siによる脱酸前に投入されるMeMnから溶鋼に持ち込まれる脱酸前持込み酸素量と、AlまたはAl-Siによる脱酸後に投入されるMeMnから溶鋼に持ち込まれる脱酸後持込み酸素量との比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)を2以上に高めることにより、アルミナクラスターによる介在物欠陥を低減できる。
【0041】
(E)AlまたはAl-Si脱酸前にMeMnを投入することにより、Mnの投入歩留まりは若干低下するものの、アルミナクラスターによる介在物欠陥を、現在要求される品質レベルまで十分に低減できる。このため、最終製品である鋼材の生産性や品質を顕著に向上でき、鋼材の製造コストを大幅に抑制することが可能になる。
【0042】
(F)溶鋼の成分調整用合金としては、MeMn以外に、MeTi、MeCu、MeNi、FeMn、FeP、FeTi、FeS、FeSi、FeCr、FeMo、FeBおよびFeNb等があり、これらの成分調整用合金もOを含有する。このため、これらの成分調整用合金を、上記B項に記載したようにAlまたはAl-Si脱酸の前後に投入することにより、アルミナクラスターの発生を防ぐことができる。
【0043】
本発明は、これらの知見(A)~(F)に基づくものであり、以下に列記の通りである。
(1)転炉で溶製された未脱酸の溶鋼を取鍋に出鋼した後、出鋼された溶鋼を、AlまたはAl-Siにより脱酸し、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を製造する方法であって、
酸素を含有する成分調整用合金を、前記取鍋への出鋼中または出鋼後であって、前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の前の溶存酸素量が50ppm以上の溶鋼に投入するとともに前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の後の溶鋼に投入し、
前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の前に投入される成分調整用合金から溶鋼に持ち込まれる脱酸前持込み酸素量(ppm)と、前記Alまたは前記Al-Siによる脱酸の後に投入される成分調整用合金から溶鋼に持ち込まれる脱酸後持込み酸素量(ppm)との比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)を2以上とし、
前記脱酸後持込み酸素量を10ppm以下とし、
脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量の合計を15ppm以上とするとともに、
前記Alまたは前記Al-Siにより脱酸され、その後に前記成分調整用合金を投入され、T.Oを30ppm以下にした溶鋼に、1種類以上のREMを添加することにより、質量比率で0.5・T.O<REM含有量≦50-1.2・T.Oとする、鋼の製造方法。
【0044】
(2)前記成分調整用合金は、MeMn、MeTi、MeCu、MeNi、FeMn、FeP、FeTi、FeS、FeSi、FeCr、FeMo、FeB、およびFeNbから選択される1種以上である、上記(1)に記載の鋼の製造方法。
【0045】
(3)前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
C:0.0005~1.5%、
Si:0.005~1.2%、
Mn:0.05~3.0%、
P:0.001~0.2%、
S:0.0001~0.05%、
T.Al:0.005~1.5%、
Cu:0~1.5%、
Ni:0~10.0%、
Cr:0~10.0%、
Mo:0~1.5%、
Nb:0~0.1%、
V:0~0.3%、
Ti:0~0.25%、
B:0~0.005%、
REM:0.1~20ppm、
T.O:5~30ppm、
残部がFeおよび不純物である、上記(1)または(2)に記載の鋼の製造方法。
【0046】
(4)前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.1~1.5%、
Ni:0.1~10.0%、
Cr:0.1~10.0%、および
Mo:0.05~1.5%、
から選択される1種以上を含有する、上記(3)に記載の鋼の製造方法。
【0047】
(5)前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.005~0.1%、
V:0.005~0.3%、および
Ti:0.001~0.25%、
から選択される1種以上を含有する、上記(3)または(4)に記載の鋼の製造方法。
【0048】
(6)前記Alキルド鋼または前記Al-Siキルド鋼の前記化学組成が、質量%で、
B:0.0005~0.005%、
を含有する、上記(3)~(5)のいずれかに記載の鋼の製造方法。
【0049】
(7)前記鋼は、鋳片のスライム抽出で得られるアルミナクラスターの最大径が100μm以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の鋼の製造方法。
【0050】
(8)前記鋼は、鋳片のスライム抽出で得られる20μm以上のアルミナクラスターの個数が2個/kg以下である、上記(7)に記載の鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、酸素を含有する成分調整用合金をAlまたはAl-Si脱酸後の溶鋼に投入することに起因した、Al2O3および液体のFeOの同時発生、およびアルミナクラスターの生成を抑制することができる。
【0052】
このため、本発明によれば、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼からなる最終製品における表面疵や内部欠陥の原因となる粗大なアルミナクラスターの発生を、現在要求される程度まで十分に低減しながら、溶鋼を製造できるようになる。
【0053】
さらに、本発明によれば、連続鋳造における溶鋼中アルミナの浸漬ノズルへの付着も防止できる。したがって、浸漬ノズルの閉塞防止効果も大きい。したがって、本発明によれば、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼からなる鋼材における表面疵や内部欠陥の原因となる粗大アルミナクラスターの生成を防止できるとともに、連続鋳造工程の生産性を高めることもできる。
【0054】
したがって、本発明は、従来のAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼における課題を一掃し、アルミナクラスターが少ない鋼材を確実に製造でき、産業の発展に寄与するところは極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】
図1は、本発明におけるREM含有量、T.Oおよびアルミナクラスターの最大径の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例における脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明を説明する。以降の説明において化学組成は特段の断りがない限り、質量%を用いる。
【0057】
1.本発明の概要
本発明では、基本的に、転炉で溶製された未脱酸の溶鋼を取鍋に出鋼した後、出鋼された溶鋼を、AlまたはAl-Siにより脱酸し、Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を製造する。
【0058】
この際、酸素を含有する成分調整用合金を、取鍋への出鋼中または出鋼後であって、AlまたはAl-Siによる脱酸の前の溶存酸素量が50ppm以上の溶鋼に投入するとともに、AlまたはAl-Siによる脱酸の後の溶鋼に投入する。なお、溶鋼の溶存酸素量は、500ppm以下であることが好ましい。
【0059】
さらに、AlまたはAl-Siにより脱酸し、かつその後に成分調整用合金を投入してT.Oを30ppm以下にした溶鋼中に、1種類以上のREM(希土類元素)を添加することにより、質量比率で0.5・T.O<REM≦50-1.2・T.Oとする。
【0060】
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有することができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0061】
本発明では、成分調整用合金とREMは、例えば、以下に示す投入順序で溶鋼に投入される。
(i)転炉 未脱酸溶鋼(成分調整用合金、REMのいずれも未投入)
(ii)転炉またはRH真空脱ガス装置(脱酸前成分調整用合金投入)
(iii)RH真空脱ガス装置(AlまたはAl-Si脱酸→脱酸後成分調整用合金投入→REM投入)
【0062】
本発明では、このようにして、Al2O3および液体のFeOの同時発生、およびアルミナクラスターの発生を防ぎながら、アルミナクラスターに起因した介在物欠陥の発生を、現在要求される程度まで十分に低減して溶鋼を製造できる。
【0063】
2.成分調整用合金
本発明では、取鍋への出鋼中または出鋼後であって、かつAlまたはAl-Siによる脱酸前および脱酸後に、酸素を含有する成分調整用合金を溶鋼に投入する。すなわち、酸素を含有する成分調整用合金の溶鋼への投入タイミングを、従来のAlまたはAl-Siによる脱酸後だけではなく、取鍋への出鋼中または出鋼後であってAlまたはAl-Siによる脱酸前および脱酸後に変更する。
【0064】
本発明では、AlまたはAl-Siによる脱酸前に投入される成分調整用合金から、溶存酸素量が50ppm以上の溶鋼に持ち込まれる脱酸前持込み酸素量(ppm)と、AlまたはAl-Siによる脱酸後に投入される成分調整用合金から溶鋼に持ち込まれる脱酸後持込み酸素量(ppm)との比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)を2以上にする。また、前記比率は、好ましくは、2.5以上、130以下である。
【0065】
なお、持込み酸素量(脱酸前持込み酸素量、脱酸後持込み酸素量)は、各成分調整用合金からの持込み酸素量(質量ppm)を、成分調整用合金投入量(kg)×当該成分調整用合金中酸素濃度(%)/100/溶鋼量(kg)×106により求め、全ての成分調整用合金からの持込み酸素量を合計して求めることができる。さらに、本発明では、脱酸後持込み酸素量を10ppm以下とし、好ましくは、0.2ppm以上、5ppm以下とする。
【0066】
これらにより、Al2O3および液体のFeOが溶鋼中で同時に発生することを防止でき、アルミナクラスターの発生を防ぐことができる。このため、アルミナクラスターによる介在物欠陥を、現在要求される品質レベルまで十分に低減しながら、溶鋼を製造することができる。
【0067】
本発明では、脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量との合計が15ppm以上とする。脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量との合計の持込み酸素量が15ppm未満であると、Al2O3および液体のFeOが少量しか発生せず、酸素を含有する成分調整用合金を溶鋼に投入することの弊害が発生しないからである。なお、合計の持込み酸素量は、好ましくは、170ppm以下である。
【0068】
成分調整用合金の溶鋼への投入タイミングは、取鍋への出鋼中または出鋼後であって、かつAlまたはAl-Siによる脱酸前および脱酸後であれば、特に制限されない。しかし、AlまたはAl-Siによる脱酸よりできるだけ前のタイミング、例えば取鍋への出鋼直後に投入すれば、AlまたはAl-Siによる脱酸前に一旦生成した液体FeOが確実に溶鋼中に溶解することになるために、好ましい。
【0069】
酸素を含有する成分調整用合金としては、MeMn、MeTi、MeCu、MeNi、FeMn、FeP、FeTi、FeS、FeSi、FeCr、FeMo、FeBおよびFeNbから選択される1種以上が例示される。
【0070】
各成分調整用合金の酸素濃度としては、MeMn:0.5%程度、MeTi:0.2%程度、MeCu:0.04%程度、MeNi:0.002%程度、FeMn:0.4%程度、FeP:1.5%程度、FeTi:1.3%程度、FeS:6.5%程度、FeSi:0.4%程度、FeCr:0.1%程度、FeMo:0.01%程度、FeB:0.4%程度、FeNb:0.03%程度が例示される。
【0071】
3.REM
本発明では、Al脱酸またはAl-Si脱酸し、その後にかつ成分調整用合金を投入してT.Oを30ppm以下にした溶鋼に、1種類以上のREMを添加することにより、質量比率で、0.5・T.O<REM含有量≦50-1.2・T.Oとする。これにより、介在物の組成ばらつきが小さくなり、粗大アルミナクラスターの生成を安定して抑制することができる。なお、本式中のREMおよびT.Oとは鋼中の含有量を意味する。また、本発明におけるREMとは、上述したように、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称を意味する。
【0072】
REM含有量を50-1.2・T.O(ppm)以下とする理由は、これを超えてREMを含有させると、REM酸化物とAl2O3の複合酸化物からなる粗大クラスターが生成するおそれがあること、スラグとの反応によって複合酸化物が多量に生成するため、溶鋼の清浄性が悪化し、タンディッシュの浸漬ノズルを閉塞させること、および、溶鋼中の溶存REM量が多くなり、タンディッシュ内壁やストッパー耐火物を溶損し、操業トラブルを引き起こす可能性があることためである。
【0073】
また、REM含有量を0.5・T.O(ppm)超とする理由は、これを下回るとREM添加の効果が不十分であるためである。
【0074】
図1は、本発明におけるREM含有量と、T.Oと、アルミナクラスターの最大径の関係を示すグラフである。REM含有量と、T.Oと、アルミナクラスターの最大径の関係は、
図1のグラフに示す通りである。
【0075】
溶鋼中へのREMの添加は、例えば二次精錬装置のCASやRH真空脱ガス装置を使って、溶鋼のAl脱酸またはAl-Si脱酸し、その後にかつ成分調整用合金を投入した後に、0.5・T.O<REM含有量≦50-1.2・T.Oの範囲になるように行う。
【0076】
REMは、Ce、La等の純金属、REM金属の合金または他金属との合金のいずれでもよい。REMの形状は、塊状、粒状、またはワイヤー等であってもよい。REMを添加する量は極微量であるので、溶鋼中REM濃度を均一にするため、RH真空脱ガス槽内での還流溶鋼中への添加や取鍋添加後のArガス等での攪拌が望ましい。また、タンディッシュ、鋳型内溶鋼へREMを添加することもできる。
【0077】
4.本発明により製造されるAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼の化学組成
本発明により製造されるAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼の化学組成は、質量%で、C:0.0005~1.5%、Si:0.005~1.2%、Mn:0.05~3.0%、P:0.001~0.2%、S:0.0001~0.05%、T.Al:0.005~1.5%、Cu:0~1.5%、Ni:0~10.0%、Cr:0~10.0%、Mo:0~1.5%、Nb:0~0.1%、V:0~0.3%、Ti:0~0.25%、B:0~0.005%、REM:0.1~20ppm、T.O:5~30ppm、残部Feおよび不純物である、炭素鋼または合金鋼であることが好ましい。この化学組成を有する鋼材に必要な加工を加えることにより、薄板、厚板、鋼管、形鋼、棒鋼等へ適用できる。この範囲が好ましい理由は以下の通りである。
【0078】
C:0.0005~1.5%
Cは、鋼の強度を最も安定して向上させる基本的な元素である。C含有量は、鋼材の強度あるいは硬度の確保のためには好ましくは0.0005%以上である。しかし、C含有量が1.5%を超えると鋼の靭性が損なわれる。このため、C含有量は、所望する鋼材の強度に応じて好ましくは0.0005~1.5%の範囲で調整する。
【0079】
Si:0.005~1.2%
Si含有量が0.005%未満であると溶銑予備処理を行う必要が生じ、精錬に大きな負担をかけ経済性が損なわれる。一方、Si含有量が1.2%を超えるとメッキ不良が発生し、鋼の表面性状や耐食性が劣化する。このため、Si含有量は好ましくは0.005~1.2%である。
【0080】
Mn:0.05~3.0%
Mn含有量が0.05%未満であると、精錬時間が長くなって経済性が損なわれる。一方、Mn含有量が3.0%を超えると鋼の加工性が大きく劣化する。このため、Mn含有量は、好ましくは0.05~3.0%である。
【0081】
P:0.001~0.2%
P含有量が0.001%未満であると溶銑予備処理の時間およびコストが増加し経済性が損なわれる。一方、P含有量が0.2%を超えると鋼材の加工性が大きく劣化する。このため、P含有量は好ましくは0.001~0.2%である。
【0082】
S:0.0001~0.05%
S含有量が0.0001%未満であると、溶銑予備処理の時間およびコストがかかり経済性が損なわれる。一方、S含有量が0.05%を超えると、鋼材の加工性および耐食性が大きく劣化する。このため、S含有量は好ましくは0.0001~0.05%である。
【0083】
T.Al:0.005~1.5%
本発明では、Al含有量について材質に影響する固溶Al(sol.Al)量と、介在物であるAl2O3に由来するAl(insol.Al)量の合計量である、Al量をT.Al(Total.Al)として規定する。換言すれば、T.Al=sol.Al+insol.Alを意味する。
【0084】
T.Al含有量が0.005%未満であるとAlNとしてNをトラップし、固溶Nを減少させることができない。一方、T.Al含有量が1.5%を超えると鋼の表面性状と加工性が劣化する。このため、T.Al含有量は好ましくは0.005~1.5%である。
【0085】
以上が必須元素であるが、本発明では、これらの他にそれぞれの用途に応じて、任意元素として、(i)Cu、Ni、CrおよびMoから選択される1種以上、(ii)Nb、VおよびTiから選択される1種以上、および(iii)B、をさらに含有してもよい。
【0086】
Cu:0~1.5%、Ni:0~10.0%、Cr:0~10.0%およびMo:0~1.5%から選択される1種以上
Cu、Ni、Cr、およびMoは、いずれも、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、上記の元素から選択される1種以上を必要に応じて含有させてもよい。
【0087】
しかし、CuおよびMoは1.5%を超えて、NiおよびCrは10.0%を超えて、それぞれ含有させると、鋼の靭性および加工性が損なわれる。このため、好ましくは、Cu:1.5%以下、Ni:10.0%以下、Cr:10.0%以下、Mo:1.5%以下とする。鋼の焼入れ性の向上効果を確実に得るためには、Cu含有量、Ni含有量およびCr含有量はそれぞれ好ましくは0.1%以上であり、Mo含有量は好ましくは0.05%以上である。
【0088】
Nb:0~0.1%、V:0~0.3%およびTi:0~0.25%から選択される1種以上
Nb、V、Tiは、いずれも、析出強化により鋼の強度を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。
【0089】
しかし、Nbは0.1%を超えて、Vは0.3%を超えて、Tiは0.25%を超えて、それぞれ含有すると、鋼の靭性が損なわれる。このため、好ましくはNb:0.1%以下、V:0.3%以下、Ti:0.25%以下とする。鋼の強度を向上する効果を確実に得るためには、Nb含有量およびV含有量はそれぞれ好ましくは0.005%以上であり、Ti含有量は好ましくは0.001%以上である。
【0090】
B:0~0.005%
Bは、鋼材の焼入れ性を向上させ、強度を高める元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、0.005%を超えて含有するとBの析出物を増加させ、鋼材の靭性を損なうおそれがある。このため、このため、B含有量は、好ましくは、0.005%以下である。鋼材の焼入れ性の向上効果を確実に得るためには、B含有量は好ましくは0.0005%以上である。
【0091】
REM:0.1~20ppm
Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼のREM含有量が0.1ppm未満であると、アルミナ粒子のクラスター化の防止効果が得られない。一方、REM含有量が20ppm超であると、REM酸化物とAl2O3の複合酸化物からなる粗大クラスターが生成する恐れがある。また、スラグとの反応によって複合酸化物が多量に生成するため、溶鋼清浄性が悪化し、タンディッシュの浸漬ノズルを閉塞させる可能性がある。このため、REM含有量は好ましくは0.1~20ppmとする。REM含有量は15ppm以下であるのが好ましい。
【0092】
T.O:5~30ppm
本発明では、O含有量について材質に影響する固溶O(sol.O)量と、介在物に存在するO(insol.O)量の合計量である、O量をT.O(Total.O)として規定する。Alキルド鋼またはAl-Siキルド鋼のT.Oが5ppm未満では二次精錬、例えば真空脱ガス装置での処理時間が大幅に増大するため、コストがかかり経済性も損ねる。一方、T.Oが30ppm超であるとアルミナ粒子の衝突頻度が増加して、クラスターが粗大化する場合があるためである。また、アルミナの改質に必要なREMの添加する量が増大するため、コストがかかり経済性も損ねる。このため、T.Oは好ましくは5~30ppmとする。
【0093】
5.アルミナクラスターの最大径および個数
5-1.最大径
鋳片のスライム抽出で得られるアルミナクラスターの最大径は100μm以下であるのが好ましい。上記アルミナクラスターの最大径が100μmより大きいと、鋼の表面欠陥や内部欠陥に繋がるためである。
【0094】
5-2.個数
鋳片のスライム抽出で得られる20μm以上のアルミナクラスターの個数が2個/kg以下であるのが好ましい。上記20μm以上のアルミナクラスターの個数が2個/kgより多いと加工後に鋼の表面欠陥や内部欠陥に繋がるためである。
【0095】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
270トンの転炉で溶製された未脱酸の溶鋼を、所定の炭素濃度に調整して取鍋に出鋼した後、出鋼された溶鋼を、RH真空脱ガス処理装置においてAlまたはAl-Siにより脱酸することによってAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼を溶製した。
【0097】
この際、取鍋への出鋼中または出鋼後であって、かつAlまたはAl-Siによる脱酸前の溶存酸素量を有する溶鋼、および脱酸後の溶鋼に、酸素を含有する成分調整用合金を投入した。表1に投入した成分調整用合金の合金濃度および酸素濃度を示す。
【0098】
【0099】
表2~4に、合金投入条件(溶存酸素量,投入タイミング(未脱酸時の出鋼開始からの経過時間))、投入合金種(脱酸前、脱酸後)、持込み酸素量(脱酸前持込み酸素量、脱酸後持込み酸素量)、比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)、脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量との合計)を示す。また、
図2に、脱酸前持込み酸素量と脱酸後持込み酸素量との関係をグラフで示す。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
表2~4における「合金投入条件」は、脱酸前と脱酸後の比較で持ち込み酸素量が多いほうの投入条件を示す。
【0104】
表2~4における持込み酸素量(脱酸前持込み酸素量、脱酸後持込み酸素量)は、各成分調整用合金からの持込み酸素量(質量ppm)を、成分調整用合金投入量(kg)×当該成分調整用合金中酸素濃度(%)/100/溶鋼量(kg)×106により求め、全ての成分調整用合金からの持込み酸素量を合計して求めた。
【0105】
さらに、AlまたはAl-Si脱酸後であって成分調整用合金を投入した溶鋼に、REMを添加した。REMはCe、La、ミッシュメタル(45%Ce-35%La-6%Pr-9%Nd)、あるいはミッシュメタル、Si、およびFeの合金(Fe-30%Si―30%REM合金)として添加した。
【0106】
溶製されたAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼の溶鋼を垂直曲げ型連続鋳造機により連続鋳造し、寸法が245mm厚×1200~2200mm幅、鋳造速度が1.0~1.8m/min、タンディッシュ内溶鋼温度が1520~1580℃の条件で連続鋳造鋳片を製造した。
【0107】
その後、連続鋳造鋳片に、(a)熱間圧延および酸洗を行って、表5~7に示す化学組成を有する厚板を製造し、(b)熱間圧延、酸洗および冷間圧延を行って、表5~7に示す化学組成を有する薄板を製造し、または(c)熱間圧延および酸洗を行って製造した厚板を素材として、表5~7に示す化学組成を有する溶接鋼管を製造した。熱間圧延後の板厚は2~100mmとし、冷間圧延後の板厚は0.2~1.8mmとした。
【0108】
鋳片から採取したサンプルの最大クラスター径、クラスター個数、欠陥発生率およびノズル閉塞状況等を、表5~7に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
表5~7における「REM」,「T.O」は、REM添加から1分経過時に採取した溶鋼サンプルの分析値である。
【0113】
表5~7の「REM合金」の欄におけるMMはミッシュメタル(45%Ce-35%La-6%Pr-9%Nd)を示し、MMSiはFe-30%Si-30%REMを示す。
【0114】
表5~7における「最大クラスター径」は、質量1kgの鋳片からスライム電極抽出(最小メッシュ20μmを使用)した介在物を実体顕微鏡で写真撮影(40倍)し、写真撮影した介在物の長径と短径の平均値を全ての介在物で求めてその平均値の最大値を最大介在物径とすることにより、測定した。
【0115】
表5~7における「クラスター個数」は、質量1kgのスライム電極抽出(最小メッシュ20μmを使用)した介在物であり、光学顕微鏡(100倍)で観察した20μm以上の全ての介在物個数を1kg単位個数に換算することにより、測定した。
【0116】
表5~7における「欠陥発生率」は、薄板の場合には、板表面でのスリバー疵発生率(=スリバー疵総長/コイル長×100,%)であり、厚板の場合には、製品板でのUST欠陥発生率あるいはセパレーション発生率(=欠陥発生板数/検査総板数×100,%)であり、シャルピー試験後の破面観察でセパレーション発生有無を確認した。鋼管の場合には、油井管溶接部でのUST欠陥発生率(=欠陥発生管数/検査総管数×100,%)である。
【0117】
厚板の場合には、シャルピー試験後の破面観察でセパレーションの発生の有無を確認した。なお、表5~7における厚板材の欠陥発生率では、欠陥がUST欠陥のときにはUSTと記載し、セパレーション欠陥のときにはSPRと記載した。
【0118】
表5~7における「衝撃吸収エネルギ」は、-20℃での圧延方向における幅が10mmのVノッチシャルピー衝撃試験値であり、試験片5本の平均値である。表5~7における「板厚方向絞り値」は、室温における製品板の板厚方向絞り値(=引張り試験後の破断部分の断面積/試験前の試験片断面積×100,%)である。
【0119】
さらに、表5~7における「ノズル閉塞状況」は、鋳造後に浸漬ノズルの内壁の介在物付着厚みを測定し、円周方向10点の平均値からノズル閉塞状況を、○:付着厚さ1mm未満、△:付着厚さ1~3mm、×:付着厚さ3mm超とレベル分けした。
【0120】
表5におけるNo.A1~A31は、本発明の範囲を全て満足する本発明例であり、表6におけるNo.B1~B16は、比率(脱酸前持込み酸素量/脱酸後持込み酸素量)が本発明の範囲を満足しない比較例であり、表7におけるNo.C1~C13は、0.5・T.O<REM含有量≦50-1.2・T.Oを満足しない比較例である。
【0121】
表5~7に示すように、本発明例によれば、酸素を含有する成分調整用合金をAlまたはAl-Si脱酸後のAlキルド鋼またはAl-Siキルド鋼に投入することに起因した、Al2O3および液体のFeOの同時発生、およびアルミナクラスターの発生を防ぐことができる。
【0122】
さらに、鋳片から採取したサンプルの最大クラスター径、クラスター個数、鋳造後の浸漬ノズル閉塞状況等は、表5~7に示すとおりであり、本発明がアルミナクラスター起因の製品欠陥を大幅に低減して優れた生産性を示すものであることが確認できた。
【0123】
本発明により、アルミナクラスターに起因した介在物欠陥の発生を、現在要求される程度まで十分に低減しながら、溶鋼を製造でき、最終製品である鋼材における粗大アルミナクラスターに起因する表面疵や内部欠陥を低減できる。