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特許7119689ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法及びヒートシンク付き絶縁回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法及びヒートシンク付き絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220809BHJP
   H01L 23/40 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/40 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018135549
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020013915
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎介
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072563(JP,A)
【文献】特開2015-153925(JP,A)
【文献】特開2018-006649(JP,A)
【文献】特開2012-248576(JP,A)
【文献】特開2010-171437(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101971329(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0017496(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成された絶縁回路基板と、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に配置され、一方の面に複数のフィンを有するヒートシンクとを備えたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法であって、
前記ヒートシンクの他方の面と前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を備え、
前記ヒートシンクは、前記フィンの高さが大きい第1領域と、該第1領域よりも前記フィンの高さが小さい第2領域と、を有しており、
前記ヒートシンク接合工程では、前記第1領域における前記フィンの先端にグラファイトシートを当接させ、かつ前記第2領域における前記フィンの先端に前記グラファイトシートよりも少なくとも表面の高さが大きいカーボンフェルトを当接させた状態で、前記絶縁回路基板及び前記ヒートシンクを押圧することを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2領域は、前記一方の面の中央部に位置し、前記第1領域は、前記一方の面の外周部に位置していることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記グラファイトシートにおける前記第2領域に対応する位置が切り欠かれており、切欠き部に前記カーボンフェルトが嵌め込まれていることを特徴とする請求項2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記グラファイトシート上に前記カーボンフェルトが重ねて設けられていることを特徴とする請求項2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記ヒートシンク接合工程は、前記セラミックス基板に前記回路層及び前記金属層が接合された前記絶縁回路基板を前記ヒートシンクに接合することを特徴とする請求項1又は2から4のいずれか一項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記グラファイトシートの表面に対して前記カーボンフェルトの表面の高さが0.05mm以上1.0mm以下大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項7】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成された絶縁回路基板と、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に配置され、一方の面に複数のフィンを有するヒートシンクとを備えたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、
前記ヒートシンクの他方の面側に接合部を介して前記絶縁回路基板が配置されており、
前記ヒートシンクは、前記フィンの高さが大きい第1領域と、該第1領域よりも前記フィンの高さが小さい第2領域とを備え、
前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクとの接合率が95%以上、前記回路層の面積をAとし、前記回路層の反り量をZとし、前記回路層の接合面側に凹状の変形を正の反り量とした場合に、AとZの比率Z/Aが0μm/cm以上10μm/cm以下の範囲内であることを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項8】
前記回路層は、前記セラミックス基板に形成された純アルミニウムからなる第1回路層と、前記第1回路層の上面に形成されたアルミニウム合金からなる第2回路層と、を備え、
前記金属層は、純アルミニウムで構成され、前記ヒートシンクは、アルミニウム合金で構成されていることを特徴とする請求項7に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板等の絶縁回路基板にヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法及びヒートシンク付き絶縁回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートシンク付き絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が接合されるとともに、他方の面にアルミニウム板を介してアルミニウム系のヒートシンクが接合されたヒートシンク付きパワーモジュール用基板が知られている。
例えば、特許文献1に開示されているヒートシンク付きパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層を介してヒートシンクが接合されてなり、ヒートシンクの天板部には、絶縁回路基板が収容される収容凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-181549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されているヒートシンク付きパワーモジュール用基板のヒートシンクの底面に、パワーモジュール用基板の冷却効率を向上させるため、複数のフィンを設けることが考えられる。この場合、ヒートシンクの製造過程において、該ヒートシンクの中央部分に形成されるフィンの高さがその周囲に形成されるフィンの高さよりも小さくなる場合がある。このような複数のフィンの高さが異なるヒートシンクにパワーモジュール用基板を接合した場合、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との接合率が低下する。
この接合率の低下を抑制するため、例えばグラファイトシートのようなクッション材を複数のフィンに当接させた状態でこれらを積層方向に押圧することが考えられるが、クッション材により面荷重の均一化を図ることができるものの、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との接合率を十分向上させることができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒートシンクと絶縁回路基板との接合率を向上できるヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法及びヒートシンク付き絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成された絶縁回路基板と、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に配置され、一方の面に複数のフィンを有するヒートシンクとを備えたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法であって、前記ヒートシンクの他方の面と前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を備え、前記ヒートシンクは、前記フィンの高さが大きい第1領域と、該第1領域よりも前記フィンの高さが小さい第2領域と、を有しており、前記ヒートシンク接合工程では、前記第1領域における前記フィンの先端にグラファイトシートを当接させ、かつ前記第2領域における前記フィンの先端に前記グラファイトシートよりも少なくとも表面の高さが大きいカーボンフェルトを当接させた状態で、前記絶縁回路基板及び前記ヒートシンクを押圧する。
【0007】
ここで、フィンの高さが大きい第1領域と、該第1領域よりも前記フィンの高さが小さい第2領域とを備えるヒートシンクの各フィンを1枚のグラファイトシートで押圧すると、該グラファイトシートが第2領域の各フィンに当接しないか、若しくは当接しても押圧力が弱くなる。このため、ヒートシンクの第2領域に対応する部分と絶縁回路基板との接合率が低下する。
これに対し、本発明の製造方法によれば、絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとを接合する際に、第1領域におけるフィンの先端にグラファイトシートを当接させ、第2領域におけるフィンの先端にグラファイトシートよりも高さが大きくかつクッション性が高いカーボンフェルトを当接させた状態で、絶縁回路基板及びヒートシンクを押圧するので、第1領域及び第2領域に均等に押圧力を作用させることができ、絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとを確実に接合して、これらの接合率を向上できる。
【0008】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記第2領域は、前記一方の面の中央部に位置し、前記第1領域は、前記一方の面の外周部に位置しているとよい。
ここで、複数のフィンを有するヒートシンクを鍛造により製造すると、その際の材料の流れにより中央部に材料がいき渡りにくいため、中央部のフィンの高さが外周部のフィンの高さより小さくなる傾向にある。すなわち、ヒートシンクにおける複数のフィンが形成される一方の面における中央部に第2領域が位置し、外周部に第1領域が位置することとなる。
上記態様では、外周部にグラファイトシートを配置し、中央部にカーボンフェルトを配置するだけで、絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとをより確実に接合できる。
【0009】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記グラファイトシートにおける前記第2領域に対応する位置が切り欠かれており、切欠き部に前記カーボンフェルトが嵌め込まれているとよい。
上記態様では、第1領域をグラファイトシートのみで押圧し、かつ、第2領域をカーボンフェルトのみで押圧できるので、絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとをさらに確実に接合できる。
【0010】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記グラファイトシート上に前記カーボンフェルトが重ねて設けられているとよい。
上記態様では、グラファイトシートにカーボンフェルトを嵌め込むための切欠き部を形成する必要がないことから、グラファイトシートの構成を簡略化できる。
【0011】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記ヒートシンク接合工程は、前記セラミックス基板に前記回路層及び前記金属層が接合された前記絶縁回路基板を前記ヒートシンクに接合するとよい。
ここで、回路層、セラミックス基板、金属層、ヒートシンクをこの順で重ね合わせた積層体を積層方向に加圧してこれらを接合する場合、接合部位が多いので接合位置がずれる可能性がある。
これに対し、上記態様では、セラミックス基板に回路層及び金属層が接合された絶縁回路基板にヒートシンクを接合するだけで、ヒートシンク付き絶縁回路基板を製造できるので、これらの接合位置がずれることを抑制でき、ヒートシンク付き絶縁回路基板の信頼性を高めることができる。
【0012】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記グラファイトシートの表面に対して前記カーボンフェルトの高さが0.05mm以上1.0mm以下大きいとよい。
【0013】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が形成された絶縁回路基板と、前記金属層の前記セラミックス基板とは反対側の面に配置され、一方の面に複数のフィンを有するヒートシンクとを備えたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記ヒートシンクの他方の面側に接合部を介して前記絶縁回路基板が配置されており、前記ヒートシンクは、前記フィンの高さが大きい第1領域と、該第1領域よりも前記フィンの高さが小さい第2領域とを備え、前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクとの接合率が95%以上、前記回路層の面積をAとし、前記回路層の反り量をZとし、前記回路層の接合面側に凹状の変形を正の反り量とした場合に、AとZの比率Z/Aが0μm/cm以上10μm/cm以下の範囲内である。
このヒートシンク付き絶縁回路基板は、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合率が95%以上、回路層の反り量Z/回路層の面積Aが0μm/cm以上10μm/cm以下の範囲内であるので、ヒートシンク付き絶縁回路基板の回路層上にチップなどの電子部品を固定する際のはんだ付け時におけるボイドの発生等を抑制できる。
【0014】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記回路層は、前記セラミックス基板に形成された純アルミニウムからなる第1回路層と、前記第1回路層の上面に形成されたアルミニウム合金からなる第2回路層と、を備え、前記金属層は、純アルミニウムで構成され、前記ヒートシンクは、アルミニウム合金で構成されているとよい。
上記態様では、セラミックス基板の両面に形成される第1回路層及び金属層を純アルミニウムにより構成し、ヒートシンクと第2回路層とをアルミニウム合金により構成することで、セラミックス基板の両側の構成材間をバランスさせることができ、反りを軽減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒートシンクと絶縁回路基板との接合率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
図2】上記実施形態におけるヒートシンク付き絶縁回路基板の平面図である。
図3図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図であり、(a)が絶縁回路基板とヒートシンクとの接合前、(b)が接合後の状態を示す。
図4】上記実施形態の変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を接合する際に用いられる支持板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の概略構成]
本発明に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法により製造されるヒートシンク付き絶縁回路基板1は、図1に示すように、絶縁回路基板10に、複数のフィンが立設されたフィン一体型のヒートシンク20が接合されたものである。
【0018】
絶縁回路基板10は、図1に示すように、いわゆるパワーモジュール用基板であり、絶縁回路基板10の表面には、図1の二点鎖線で示すように、素子30が搭載されパワーモジュール100となる。この素子30は、半導体を備えた電子部品であり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の種々の半導体素子が選択される。この場合、素子30は、図示を省略するが、上部に上部電極部が設けられ、下部に下部電極部が設けられており、下部電極部が回路層12の上面にはんだ31等により接合されることで、素子30が回路層12の上面に搭載される。また、素子30の上部電極部は、はんだ等で接合されたリードフレーム等を介して回路層12の回路電極部等に接続され、パワーモジュール100が製造される。
【0019】
[絶縁回路基板の構成]
絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13とを備える。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、アルミナ(Al)等により形成され、その板厚は0.2mm~1.2mmである。
【0020】
回路層12は、回路パターンにより分断された複数の小回路層からなり、セラミックス基板11に接合される第1回路層121と、第1回路層121の上面に接合される第2回路層122とを備えている。このような回路層12の面積Aは、例えば、49cmに設定されている。
これらのうち第1回路層121は、純度99質量%以上の純アルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。
金属層13は、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。
【0021】
本実施形態においては、第1回路層121及び金属層13は、純度が99.99%以上の純アルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板とされ、その厚さは0.4mm~1.6mmに設定されており、第1回路層121の厚さ寸法と金属層13の厚さ寸法とが同一に設定されている。
一方、第2回路層122は、A6063系等のアルミニウム合金が用いられており、その厚さは0.5mm~1.5mmに設定されており、後述するヒートシンク20の中央部の厚さ寸法と同一の厚さ寸法に設定されている。
そして、これら回路層12及び金属層13は、第1回路層121、第2回路層122、セラミックス基板11、及び金属層13の順に、例えば、Al-Si系やAl-Si-Mg系のろう材を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより接合される。
【0022】
[ヒートシンクの構成]
この絶縁回路基板10に接合されるヒートシンク20は、A6063系等のアルミニウム合金を鍛造により成形することにより形成される。そして、金属層13に接合されるヒートシンクの中央部に、絶縁回路基板10の少なくとも一部が収容される収容凹部21が形成され、収容凹部21の外周側に厚肉部分が残されることにより周壁部23が形成されている。この収容凹部21の底面22に絶縁回路基板10の金属層13が、Al-Si-Mg系のろう材を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合される。
【0023】
また、ヒートシンク20は、収容凹部21の厚み寸法(収容凹部21の底面22の厚み寸法)が周壁部23の厚み寸法よりも薄く形成されている。例えば、ヒートシンク20がA6063系アルミニウム合金からなる総厚2.1mm~6.8mmの板材により形成され、周壁部23の厚み寸法が2.1mm~6.8mm、収容凹部21の底面22の厚み寸法が0.5mm~1.5mmに設定されている。
【0024】
このヒートシンク20の収容凹部21における底面22の反対側の面22bには、複数のピン状フィン25が立設されている。このため、図2及び図3に示すように、ピン状フィン25の高さが大きい第1領域Ar1と、第1領域Ar1よりもピン状フィン25の高さが小さい第2領域Ar2とを備えている。具体的には、ヒートシンク20が鍛造により成形されることから、その材料の流動により、図2に示すように、上記面22bの外周部にピン状フィン25の高さが大きい第1領域Ar1が配置され、中央部にピン状フィン25の高さが小さい第2領域Ar2が配置されることとなる。これら第1領域Ar1におけるピン状フィン25の高さは、0.5~10mmであり、第2領域Ar2におけるピン状フィン25の高さは、0.4925~9.975mmであり、その高さ差は、25~75μm程度である。
なお、ヒートシンク20に立設されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、本実施形態のようなピン状フィン25の他、ひし形フィンや帯板状のフィン等を形成することもできる。
【0025】
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13を接合して絶縁回路基板10を形成する絶縁回路基板形成工程と、絶縁回路基板10にヒートシンク20を接合するヒートシンク接合工程と、からなる。以下、この工程順に説明する。
【0026】
(絶縁回路基板形成工程)
第1回路層121、セラミックス基板11、金属層13を、それぞれAl-Si系ろう材箔を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面11aに第1回路層121、他方の面11bに金属層13が接合される。ろう材箔は加熱により溶融し、回路層12や金属層13中に拡散して、これらをセラミックス基板11と強固に接合する。
このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa~1.5MPaで、630℃以上655℃以下の加熱温度に20分以上120分以下保持するのが好適である。また、Al-Si系ろう材箔は、厚さ5μm~15μmであるとよい。さらに、Al-Si系ろう材の他、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材や、これらのクラッド材などを用いることもできる。
【0027】
そして、第1回路層121上にAl-Si系ろう材箔を介して第2回路層122を配置し、積層方向に加圧した状態で加熱することにより、第1回路層121と第2回路層122とを接合する。この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
これにより、セラミックス基板11の両面に回路層12及び金属層13が接合された絶縁回路基板10が形成される。
【0028】
(ヒートシンク接合工程)
図3(a)に示すように、絶縁回路基板10の金属層13の下面と、ヒートシンク20の収容凹部21の底面22との間にAl-Si系ろう材箔14介在させ、図3(b)に示すように、加圧板61A,61Bと、グラファイトシート64及びカーボンフェルト65を備える支持体62とにより積層方向に加圧した状態で加熱することにより、金属層13とヒートシンク20とを接合する。
【0029】
(加圧板の構成)
加圧板61A,61Bのそれぞれは、図3(b)に示すように、絶縁回路基板10に形成された回路層12を構成する小回路層のそれぞれに対向して配置され、回路層12を押圧する。このような加圧板61A,61Bのそれぞれは、例えば、角柱状のステンレス鋼材の表面にカーボン板が積層されたものである。
なお、図3(b)の例では、加圧板61A,61Bの2つの加圧板により回路層12を押圧することとしたが、これに限らず、上記小回路層が3つ以上である場合には、3つ以上の加圧板により押圧してもよいし、全ての小回路層をまとめて押圧可能な大きさの1つの加圧板により押圧してもよい。
【0030】
(支持板の構成)
支持体62は、ステンレス鋼材からなる支持板63と、支持板63の上面に固定されたグラファイトシート64及びカーボンフェルト65と、を備えている。カーボンフェルト65は、炭素繊維からなるフェルトであり、支持板63の中央に配置される略矩形板状の部材である。このカーボンフェルト65の周囲には、グラファイトシート64が配置されている。
グラファイトシート64は、第1領域Ar1に位置するピン状フィン25に対向して配置され、カーボンフェルト65は、第2領域Ar1に位置するピン状フィン25に対向して配置される。具体的には、グラファイトシート64における第2領域Ar2に対応する位置が該第2領域Ar2と同形状に切り欠かれており、該切欠き部651内にカーボンフェルト65が嵌め込まれている。すなわち、グラファイトシート64は、平面視において図2に示す第1領域Ar1と同形状に形成され、カーボンフェルト65は、平面視において図2に示す第2領域Ar2と同形状に形成されている。
【0031】
また、第1領域Ar1のピン状フィン25は、第2領域Ar2のピン状フィン25に比べて長いため、グラファイトシート64の表面に対してカーボンフェルト65の表面の高さが0.05mm以上1.0mm以下大きく形成される。例えば、グラファイトシート64の厚さは、1.0mmに設定され、カーボンフェルト65の厚さは、2.0mmに設定され、グラファイトシート64の表面に対してカーボンフェルト65の表面の高さが1.0mm高く設定される。
なお、グラファイトシート64の厚さ及びカーボンフェルト65の厚さは、これに限らず、各領域Ar1,Ar2のピン状フィン25の高さ差に応じて適宜変更可能であり、カーボンフェルト65の厚さがグラファイトシート64の厚さよりも大きければよい。
【0032】
また、これらグラファイトシート64及びカーボンフェルト65のそれぞれは、クッション性に優れている。例えば、グラファイトシート64は、圧縮率47%、復元率15%、応力緩和率1.0%であり、カーボンフェルト65は、圧縮率55%、復元率70%、応力緩和率2.0%である。すなわち、カーボンフェルト65は、グラファイトシート64に比べてクッション性が高い素材であり、このカーボンフェルト65により第2領域Ar2のピン状フィン25を押圧し、グラファイトシート64により第1領域Ar1を押圧することで、第1領域Ar1及び第2領域Ar2のそれぞれにかかる押圧力を略均等にしている。
【0033】
このような加圧板61A,61B及び支持体62により絶縁回路基板10及びヒートシンク20を挟持して積層方向に加圧することにより、絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合される。すなわち、一方の面22bに複数のフィン25を有するヒートシンク20の他方の面側(収容凹部21の底面22)に接合部を介して絶縁回路基板10が配置(固定)される。
なお、この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。また、Al-Si系ろう材箔は、厚さ5μm~15μmであるとよい。さらに、Al-Si系ろう材の他、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材や、これらのクラッド材を用いることもできる。
【0034】
このような各種工程を経たヒートシンク付き絶縁回路基板1は、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合率が95%以上、回路層12の面積をAとし、回路層12の反り量をZとし、回路層12の接合面側に凹状の変形を正の反り量とした場合に、AとZの比率Z/Aが0μm/cm以上10μm/cm以下の範囲内となる。
このため、ヒートシンク付き絶縁回路基板1の回路層上にチップなどの電子部品を固定する際のはんだ付け時におけるボイドの発生等を抑制できる。
また、セラミックス基板11の両面に接合される第1回路層121及び金属層13を純アルミニウムにより構成し、ヒートシンク20と第2回路層122とをアルミニウム合金により構成することで、セラミックス基板11の両側の構成材間をバランスさせることができ、反りを軽減できる。
【0035】
ここで、ピン状フィン25の高さが大きい第1領域Ar1と、該第1領域Ar1よりもピン状フィン25の高さが小さい第2領域Ar2とを備えるヒートシンク20の各ピン状フィン25を1枚のグラファイトシートで押圧すると、該グラファイトシートが第2領域Ar2の各ピン状フィン25に当接しないか、若しくは当接しても押圧力が弱くなる。このため、ヒートシンク20の第2領域Ar2に対応する部分と絶縁回路基板10との接合率が低下する。
これに対し、本実施形態の製造方法によれば、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク20とを接合する際に、第1領域Ar1におけるピン状フィン25の先端にグラファイトシート64を当接させ、第2領域Ar2におけるピン状フィン25の先端にグラファイトシート64よりも高さが大きくかつクッション性が高いカーボンフェルト65を当接させた状態で、絶縁回路基板10及びヒートシンク20を押圧するので、第1領域Ar1及び第2領域Ar2に均等に押圧力を作用させることができ、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク20とを確実に接合して、これらの接合率を向上できる。
【0036】
また、支持体62(支持板63)の上面における外周部にグラファイトシート64を配置し、中央部にカーボンフェルト65を配置するだけで、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク20とをより確実に接合できる。この場合、カーボンフェルト65がグラファイトシート64に形成された切欠き部651に嵌め込まれていることから、第1領域Ar1をグラファイトシート64のみで押圧し、かつ、第2領域Ar2をカーボンフェルト65のみで押圧できるので、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク20とをさらに確実に接合できる。
さらに、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13が接合された絶縁回路基板10にヒートシンク20を接合するだけで、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を製造できるので、例えばこれらを同時に接合する場合に比べて、これらの接合位置がずれることを抑制でき、ヒートシンク付き絶縁回路基板1の信頼性を高めることができる。
【0037】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ヒートシンク接合工程において、絶縁回路基板10とヒートシンク20と、を接合することとしたが、これに限らない。例えば、セラミックス基板11に第1回路層121及び金属層13を接合した後、第1回路層121上にろう材箔を配置するとともに、金属層13とヒートシンク20との間にろう材箔を配置して、第2回路層122とヒートシンク20とを同時に接合することとしてもよい。
【0038】
図4は、上記実施形態の変形例に係る絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に用いられる支持体62Aを示す断面図である。
上記実施形態では、支持体62は、支持板63の上面に第2領域Ar2と同形状の切欠き部651を形成したグラファイトシート64の該切欠き部651にカーボンフェルト65を嵌め込んだ状態で固定することとしたが、これに限らない。
本変形例では、支持板63の上面に矩形板状のグラファイトシート64Aを固定し、該グラファイトシート64Aの上面にカーボンフェルト65Aを固定している。具体的には、このカーボンフェルト65Aは、上記実施形態の厚さの半分の厚さ(例えば、0.1mm)に設定され、グラファイトシート64Aの上面におけるヒートシンク20の第1領域Ar1に対向する位置に固定されている。
本変形例では、グラファイトシート64Aを1枚の矩形板状に形成でき、例えば、上記実施形態のように、中央に第2領域Ar2と同形状の空間を設ける必要がないことから、支持体62Aの構成を簡略化できる。
【実施例
【0039】
絶縁回路基板として、窒化珪素(Si)により形成された平面視で70mm×70mm、厚さ0.32mmのセラミックス基板の一方の面に4Nアルミニウムからなる第1回路層、A6063系のアルミニウム合金からなる第2回路層、他方の面に4Nアルミからなる金属層を接合したものを用い、これに、中央部に平面視で72mm×72mm、深さ3.2mmの収容凹部が形成され、周壁部の外径が100mm×100mm、厚さ4mm、収容凹部の底面に対向する面に複数のピン状フィンが鍛造により形成され、第一領域の高さは8.0mm、第二領域の高さは7.95mmであるA6063系のアルミニウム合金からなるヒートシンクを接合した。
この絶縁回路基板とヒートシンクとの接合においては、絶縁回路基板の回路層(第2回路層)を上記実施形態と同じ加圧板で押圧し、ヒートシンクの複数のピン状フィンについては、ステンレス鋼材からなる支持体の上面に表1に示すクッション材が固定された支持板にて支持した。なお、加圧力及び温度等の条件は、上記実施形態と同じである。
【0040】
この表1に示した手順にて接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板について、絶縁回路基板の回路層の上面の反り量を算出するとともに、絶縁回路基板とヒートシンクとの接合率を評価した。
【0041】
(回路層の上面における反り量)
上面の平面度は、回路層全面に対する4隅を基準面とし、島状に存在する回路層のそれぞれの4隅を3次元測定器により測定し、Z軸座標を測定した。そして、Z軸座標の最大値とZ軸座標の最小値の差を反り量Zとして算出した。なお、測定面積は、回路層の全面4隅を範囲とした総面積Aとした。これらから比率Z/Aを算出し、表1に記載した。
【0042】
(接合率の評価)
接合率の評価は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ社製FINESATを用いて、金属層とヒートシンクの界面を測定し、以下の式から算出した。ここで、接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち金属層の面積とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において接合されていない領域は白色部で示されることから、この白色部の面積を非接合部面積とした。結果を表1に示す。
(接合率)(%)={(接合面積)-(非接合部面積)}/(接合面積)×100
なお、接合率95%以上を良「○」、95%未満を否「×」と評価した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から明らかなように、第1領域におけるピン状フィンの先端にグラファイトシートを当接させ、かつ第2領域におけるピン状フィンの先端にカーボンフェルトを当接させた状態で、絶縁回路基板及びヒートシンクを押圧した実施例1、2及び3では、回路層の反り量が小さく、接合率も高いヒートシンク付き絶縁回路基板が得られることが分かった。
【0045】
一方、比較例1では、グラファイトシートにより第1領域及び第2領域におけるピン状フィンを押圧したことから、回路層の反り量及びZ/Aの値は最も小さかったものの、クッション性がカーボンフェルトよりも劣っているので、接合率の評価が否「×」であった。また、比較例2では、カーボンフェルトにより第1領域及び第2領域におけるピン状フィンを押圧したので、回路層の上面の反り量が1000μm、Z/Aが12.5μm/cmと大きくなり、接合率の評価は否「×」となった。
【符号の説明】
【0046】
1 ヒートシンク付き絶縁回路基板
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
121 第1回路層
122 第2回路層
13 金属層
14 ろう材箔
20 ヒートシンク
21 収容凹部
22 底面
22b 面
23 周壁部
25 ピン状フィン
30 素子
31 はんだ
61A 61B 加圧板
62 62A 支持体
63 支持板
64 64A グラファイトシート
65 カーボンフェルト
651 切欠き部
図1
図2
図3
図4