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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】LGPS系固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20220809BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220809BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220809BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220809BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20220809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/058
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
C04B35/547
H01M10/052
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018153200
(22)【出願日】2018-08-16
(65)【公開番号】P2020027780
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/038037(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/155119(WO,A1)
【文献】特開2017-45613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/058
H01B 13/00
H01B 1/06
C04B 35/547
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiPSと、LiSnSとを有機溶媒中で混合することによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記LiPSが、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有し、前記LiSnSが、ラマン測定において346±10cm-1にピークを有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、N-メチルホルムアミドを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°の位置にピークを有する、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のLGPS系固体電解質の製造方法に用いられる均一溶液であって、
前記均一溶液が、Li、Sn、PおよびSの元素からなる化合物を溶質として含み、N-メチルホルムアミドを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも340±10cm-1、415±10cm-1にピークを有する、前記均一溶液。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法によって得られたLGPS系固体電解質を加圧成形する工程を含む、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LGPS系固体電解質の製造方法に関する。なお、LGPS系固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、例えば、Li、M(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)、P及びSを含む固体電解質が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
これらの固体電解質の中で、硫化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかく固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。活物質にも安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0005】
全固体電池は固体-固体の界面形成が難しく、そのために高いプレス圧をかけて成形する必要がある。これに対し、溶液化した固体電解質を用いることで、低いプレス圧で良好な界面が形成されることが開示されている(特許文献1)。しかし、正極層および負極層自体は高いプレス圧で成形する必要があるとともに、硫化物固体電解質をアルコール溶媒で溶かすと、徐々に硫化物固体電解質が分解し、硫化水素が発生するという課題があった。また、LiS-P系固体電解質をN-メチルホルムアミド溶媒を用いて均一化する手法も開示されているが、この系から得られる固体電解質のイオン伝導度は2.6×10-6S/cmであり、必ずしも高いものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-2080号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】第54回電池討論会、3E17(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の下、生産性に優れ、副生成物の発生を抑え、安定した性能を示すLGPS系固体電解質の製造法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、以下の本発明によって、不純物の少ない安定した性能を示すLGPS系固体電解質を製造できるという、予想外の知見を得た。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> LiPSと、LiSnSとを有機溶媒中で混合することによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法である。
<2> 前記LiPSが、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有し、前記LiSnSが、ラマン測定において346±10cm-1にピークを有する、上記<1>に記載の製造方法である。
<3> 前記有機溶媒が、N-メチルホルムアミドを含む、上記<1>または<2>に記載の製造方法である。
<4> 前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、上記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法である。
<5> 前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°の位置にピークを有する、上記<1>から<4>のいずれかに記載の製造方法である。
<6> 前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満である、上記<5>に記載の製造方法である。
<7> 前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、上記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法である。
<8> 前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、上記<1>から<7>のいずれかに記載の製造方法である。
<9> Li、Sn、PおよびSの元素からなる化合物を溶質として含み、N-メチルホルムアミドを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも340±10cm-1、415±10cm-1にピークを有する、均一溶液である。
<10> 上記<1>から<8>のいずれかに記載の製造方法によって得られたLGPS系固体電解質を加圧成形してなる成形体である。
<11> 上記<1>から<8>のいずれかに記載の製造方法によって得られたLGPS系固体電解質を加圧成形する工程を含む、全固体電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LGPS系固体電解質の製造方法を提供することができる。しかも、この製造方法であれば、大量製造にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るLGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。
図3】実施例1および参考例1で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例1および参考例1で得られたイオン伝導体のイオン伝導度測定の結果を示すグラフである。
図5】実施例1で調製したβ-LiPS、LiSnSおよび均一溶液のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のLGPS系固体電解質の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0014】
<LGPS系固体電解質の製造方法>
本発明のLGPS系固体電解質の製造方法は、LiPSと、LiSnSとを有機溶媒中で混合することによって均一溶液を調製する溶液化工程と、前記均一溶液から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含む。
本発明で使用されるLiPSは、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有することが好ましい。また、本発明で使用されるLiSnSは、ラマン測定において346±10cm-1にピークを有することが好ましい。
前記LGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.60°(より好ましくは29.10°±0.50°)の位置にピークを有することが好ましい。なお、2θ=17.00±0.50°、19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、23.50±0.50°、26.60°±0.50°、28.60±0.50°、29.10°±0.60°(より好ましくは29.10°±0.50°)の位置にピークを有することがより好ましい。
【0015】
また、前記LGPS系固体電解質は、前記2θ=29.10°±0.50°のピークの回折強度をIとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIとした場合に、I/Iの値が0.50未満であることが好ましい。より好ましくは、I/Iの値が0.40未満である。これは、Iに相当するのがLGPS結晶のピークであり、Iはイオン伝導性が低い結晶相のためである。
更に、前記LGPS系固体電解質は、図1に示されるように、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体Tと、P元素およびS元素から構成される四面体Tとを有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体Tおよび前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有することが好ましい。
【0016】
従来のLGPS系固体電解質の製造方法として、LiSとPとM(例えばGeS)を原料に用いてイオン伝導体を合成した後、振動ミルや遊星ボールミルによるメカニカルミリング法(WO2011-118801)や、WO2014-196442に記載の溶融急冷法が行われていた。しかし、メカニカルミリング法では工業スケールへの大型化が困難であり、溶融急冷法を大気非暴露で実施するには雰囲気制御の面から大きな制限がかかる。なお、LGPS系固体電解質およびその原料は、大気中の水分や酸素と反応して変質する性質がある。これに対して、本発明による製造方法によれば、アモルファス化工程を必要としない。LiPSとLiSnSとを原料とし、有機溶媒中で混合することで均一溶液を調製し、この均一溶液から有機溶媒を除去して前駆体を得、その後に加熱処理を行うことで、LGPS系固体電解質を得ることができる。また、LiPSを原料とすることは、加熱処理時の前駆体の揮発・分解を抑えることができるため重要である。前駆体中にPが存在する場合(ラマン測定で判断できる)には、揮発・分解性の高いPの影響により、熱処理工程において副生成物の生成や未反応原料が多くなり、安定した高性能なLGPS系固体電解質が得られにくくなる。
【0017】
<LiSnS
本発明におけるLiSnSは、市販品を用いてもよいが、例えば、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、LiSおよびSnSで表される硫化物から合成することができる。LiSnSの製造方法の一例を示すと、LiS:SnS=2:1のモル比になるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合する。次に、得られた混合物をジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボールを投入して、ポットを完全に密閉した後、このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、メカニカルミリングを行うことにより、LiSnSを製造することができる。
【0018】
<LiPS
LiPSは、α、β、γのいずれでも使用することができるが、より好ましくはβ-LPSである。この理由は、LGPS合成系において、比較的安定に存在するためである。
本発明におけるLiPSは、市販品を用いてもよいが、例えば、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、LiSおよびPで表される硫化物から合成することができる。LiPSの製造方法の一例を示すと、LiSおよびPを、LiS:P=1.5:1のモル比となるように量り、(LiS+P)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフランに対して、LiS、Pの順に加え、室温下で所定時間混合することで均一溶液を得ることができる。なお、この際に、原料の純度や反応の進行度次第で、わずかな析出物が存在することがあるが、最終的に得られるLiPSの純度には大きな影響はない。ただし、析出物が生じた場合は、濾過を行い、析出物を除去することもできる。得られた均一溶液に、上記を含めた全原料組成がLiS:P=3:1の重量比となるように、LiSを更に加え、室温下で所定時間混合しながら、沈殿を得る。これを濾過して得られた濾さいを真空乾燥することにより、LiPSを製造することができる。
【0019】
LiSは、合成品でも市販品でも使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
なお、上記原料の一部はアモルファスであっても問題はなく使用することができる。
いずれの原料においても粒子径が小さいことが重要であり、好ましくは粒子の直径として10nm~10μmの範囲であり、より好ましくは10nm~5μm、更に好ましくは100nm~1μmの範囲である。なお、粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。粒子が小さいことで、加熱処理時に反応がしやすくなり、副生成物の生成が抑制できる。
【0020】
<溶液化工程>
溶液化工程では、LiPSとLiSnSとを有機溶媒中で混合することによって均一溶液を調製する。そのモル比としては上述した結晶構造を構成する元素比となるように調整すればよいが、LiPS:LiSnS=3:1~2:3のモル比であれば、得られるイオン伝導体はXRD測定において、ほぼLGPS結晶のみのピークとなり、イオン伝導度は高いものとなる。例えばLi10SnP12であれば、LiPS:LiSnS=2:1のモル比で混合する。
有機溶媒を用いた混合方法は、均一に混合できることから大量に合成する場合に適している。使用する有機溶媒としては、原料や得られる前駆体と反応しないことが好ましい。例えば、アミド系溶媒などが挙げられる。具体的には、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの中でも、N-メチルホルムアミドが好ましい。原料組成物が劣化することを防止するため、溶媒中の酸素と水分は除去しておくことが好ましく、特に水分については、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下である。
【0021】
混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができ、不活性ガス中の酸素および水分も除去することで原料組成物の劣化を抑制できる。不活性ガス中の酸素および水分は、どちらの濃度も1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0022】
混合の際には、原料のすべてが均一に溶けていることが好ましい。
混合における温度は、加熱する必要はないが、有機溶媒を用いた場合は基質の溶解度や溶解速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分である。しかし、オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能である。なお、高い温度で混合を行うと、原料がよく混じり合う前に反応が進行し、副生成物が生成しやくなることから、室温付近で行うことが好ましい。
混合時間としては、混合物が均一となる時間が確保できれば十分である。その時間は製造規模に左右されることが多いが、例えば0.1~24時間行うことで均一にすることができる。
【0023】
<乾燥工程>
乾燥工程では、溶液化工程で得られた均一溶液から有機溶媒を除去することによって前駆体を得る。溶媒除去は加熱乾燥や真空乾燥で行い、その最適な温度は有機溶媒の種類によって違いがある。沸点よりも十分に高い温度をかけることで溶媒除去時間を短くすることが可能である。また、溶媒の種類と乾燥温度は重要な関係があり、溶媒が十分に除去できる温度を保ち、かつ、必要以上に乾燥温度を高くしないことは、前駆体と溶媒の副反応を抑制することができる。有機溶媒を除去する際の温度は、60~280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは100~250℃である。なお、真空乾燥等のように減圧下で有機溶媒を除去することで、有機溶媒を除去する際の温度を下げると共に所要時間を短くすることができる。また、十分に水分の少ない窒素やアルゴン等の不活性ガスを流すことでも、溶媒除去に要する時間を短くすることができる。なお、後段の加熱処理工程と溶媒除去を同時に行うことも可能である。
【0024】
<加熱処理工程>
本発明の製造方法においては、乾燥工程で得られた前駆体を300~700℃で加熱処理することによって、LGPS系固体電解質を得る。加熱温度は、好ましくは350~650℃の範囲であり、より好ましくは400~600℃の範囲である。300℃よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、700℃よりも温度が高くても、目的とする以外の結晶が生成する。
【0025】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化される。高い温度で上記範囲を超えて長時間加熱することは、LGPS系固体電解質の変質が懸念されることから、好ましくない。
加熱は、真空もしくは不活性ガス雰囲気下で合成することができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができるが、中でもアルゴンが好ましい。酸素や水分が低いことが好ましく、その条件は溶液化工程の混合時と同じである。
【0026】
上記のようにして得られる本発明のLGPS系固体電解質は、各種手段によって所望の成形体とし、以下に記載する全固体電池をはじめとする各種用途に使用することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、後述する全固体電池において述べた全固体電池を構成する各層の成形方法と同様の方法を使用することができる。
【0027】
<全固体電池>
本発明のLGPS系固体電解質は、例えば、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。また、本発明の更なる実施形態によれば、上述した全固体電池用固体電解質を含む全固体電池が提供される。
【0028】
ここで「全固体電池」とは、全固体リチウムイオン二次電池である。図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。全固体電池10は、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。
本発明のLGPS系固体電解質は、正極層1、負極層3および固体電解質層2のいずれか一層以上に、固体電解質として含まれてよい。正極層1または負極層3に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、本発明のLGPS系固体電解質と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層1または負極層3に含まれる本発明のLGPS系固体電解質の量比は、特に制限されない。
固体電解質層2に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、固体電解質層2は、本発明のLGPS系固体電解質単独で構成されてもよいし、必要に応じて、酸化物固体電解質(例えば、LiLaZr12)、硫化物系固体電解質(例えば、LiS-P)やその他の錯体水素化物固体電解質(例えば、LiBH、3LiBH-LiI)などを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0029】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0030】
本発明のLGPS系固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
なお、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加圧成形してなる成形体が包含される。該成形体は、全固体電池として好適に用いられる。また、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加圧成形する工程を含む、全固体電池の製造方法が包含される。
【実施例
【0031】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<β-LiPSの製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP(アルドリッチ社製、純度99%)を、LiS:P=1.5:1のモル比となるように量り取った。次に、(LiS+P)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、LiS、Pの順に加え、室温下で12時間混合した。スラリーは徐々に溶解し、わずかな不溶物を含むほぼ均一な溶液を得た。
得られた溶液に、上記を含めた全原料組成がLiS:P=3:1の重量比となるように、LiSを更に加え、室温下で12時間混合しながら、沈殿を得た。これを濾過して得られた濾さいを150℃、4時間、真空乾燥を行うことにより、ラマン測定において420±10cm-1にピークを有するβ-LiPSを得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
【0032】
<LiSnSの製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS(アルドリッチ社製、純度99.8%)およびSnS(Santa Cruz Biotechnology、 Inc.>98 Weight%)を、LiS:SnS=2:1のモル比になるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。
次に、得られた混合物を45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、18個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数370rpmで4時間、メカニカルミリングを行い、ラマン測定において346±10cm-1にピークを有するLiSnSのアモルファス体を得た。
【0033】
<LGPS(Li10SnP12)の合成>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記のβ-LiPSおよびLiSnSをβ-LiPS:LiSnS=2:1のモル比となるように量り取った。次に、(β-LiPS+LiSnS)の濃度が10wt%となるようにN-メチルホルムアミド(和光純薬工業社製)に対して、β-LiPS、LiSnSの順に加え、室温下で12時間混合した。スラリーは徐々に溶解し、均一な溶液を得た。得られた均一溶液を、200℃、3時間、真空乾燥を行うことにより、前駆体を得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
得られた前駆体を、ガラス製反応管に入れて、電気管状炉に設置した。反応管は、サンプルが置かれた部分は電気管状炉の中心で加熱され、もう一端のアルゴン吹込みラインが接続される部分は電気管状炉から飛び出した状態でほぼ室温状態であった。550℃、8時間の焼成を行うことによりLi10SnP12結晶を合成した。
【0034】
(参考例1)
LGPS合成において、原料を、LiS:P:GeS=5:1:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。次に、得られた混合物を45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、18個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数370rpmで40時間、メカニカルミリングを行い、アモルファス体を得た。
得られたアモルファス体を、ガラス製反応管に入れて、電気管状炉に設置した。アルゴン雰囲気下で550℃、8時間の焼成を行うことによりLi10GeP12結晶を合成した。
【0035】
<X線回折測定>
実施例1および参考例1で得られたイオン伝導体の粉末について、Ar雰囲気下、室温(25℃)にて、X線回折測定(PANalytical社製「X’Pert3 Powder」、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
【0036】
実施例1および参考例1の測定結果を図3に示す。
図3に示したとおり、実施例1では、少なくとも、2θ=19.80°±0.50°、20.10°±0.50°、26.60°±0.50°、及び29.10°±0.50°に回折ピークが確認できた。実施例1のLi10SnP12サンプルは、参考例1の標準的合成法で得られたLi10GeP12と、XRDパターンは一致した。
【0037】
<リチウムイオン伝導度測定>
実施例1および参考例1で得られたイオン伝導体を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、直径10mmのディスクを得た。室温(25℃)および30℃から100℃と、-20℃までの温度範囲において10℃間隔で、インジウム電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定し、続いて30℃~100℃まで10℃ずつ恒温槽を昇温し、各温度で25分間保持した後にイオン伝導度を測定した。100℃での測定を終えた後は、90℃~30℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。次に、25℃に設定した恒温槽で40分間保持した後のサンプルのリチウムイオン伝導度を測定した。その後、20℃~-20℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。降温時のリチウムイオン伝導度の測定結果を図4に示す。
【0038】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに接する状態で保持させた後、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間5秒にて測定を行った。
【0039】
実施例1における<β-LiPSの製造方法>で得られたβ-LiPS、<LiSnSの製造方法>で得られたLiSnS、及び<LGPS(Li10SnP12)の合成>で得られた均一溶液のラマン分光測定の結果を図5に示す。ラマン分光測定では、<β-LiPSの製造方法>で得られたβ-LiPSで、少なくとも420±10cm-1においてピークが、<LiSnSの製造方法>で得られたLiSnSで、少なくとも346±10cm-1においてピークが、<LGPS(Li10SnP12)の合成>で得られた均一溶液で、少なくとも340±10cm-1、415±10cm-1においてピークが得られた。
【符号の説明】
【0040】
1 正極層
2 固体電解質層
3 負極層
10 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5