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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】パワー半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/38 20060101AFI20220809BHJP
   H01L 35/30 20060101ALI20220809BHJP
   H01L 35/14 20060101ALI20220809BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20220809BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20220809BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01L23/38
H01L35/30
H01L35/14
H01L35/32 A
H01L35/34
H05K7/20 S
H05K7/20 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018160186
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020035849
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 宣英
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-235834(JP,A)
【文献】特開2005-302783(JP,A)
【文献】国際公開第2004/001865(WO,A1)
【文献】特開2012-109451(JP,A)
【文献】特開2015-056562(JP,A)
【文献】特開2016-162912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0172991(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/38
H01L 35/30
H01L 35/14
H01L 35/32
H01L 35/34
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子と、前記パワー半導体素子に接合されたペルチェ素子とを備えたパワー半導体装置であって、
前記ペルチェ素子は、複数の構成体が電気的に接続されてなり、
前記構成体は、その表面積を拡大した表面積拡大部を有しており、
前記ペルチェ素子における少なくとも前記表面積拡大部と熱的に接触する熱容量体を備え
前記熱容量体は、固液相変化物質であるパワー半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワー半導体装置において、
前記ペルチェ素子の構成体の前記表面積拡大部は、稜線が前記パワー半導体素子の上面と並行に延びる三角屋根状、又は平面波型状、又はポーラス状であるパワー半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパワー半導体装置において、
前記ペルチェ素子は、半導体シリコンにより構成されているパワー半導体装置。
【請求項4】
請求項に記載のパワー半導体装置において、
前記固液相変化物質は、有機アルコール又は糖アルコールであるパワー半導体装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のパワー半導体装置において、
前記熱容量体と熱的に接触する冷却部をさらに備えているパワー半導体装置。
【請求項6】
パワー半導体素子と、前記パワー半導体素子に接合されたペルチェ素子とを備えたパワー半導体装置の製造方法であって、
絶縁性基板の上に、前記ペルチェ素子を構成する複数の構成体を、下部電極を介在させて配置する工程と、
前記複数の構成体のうち、互いに隣接する構成体同士を上部電極によって接続する工程と、
電気的に接続された複数の構成体を、前記絶縁性基板を介在させて前記パワー半導体素子と接合する工程と、
前記パワー半導体素子と接合されたペルチェ素子を、該ペルチェ素子と熱的に接触する熱容量体により覆う工程とを備え、
前記複数の構成体は、その表面積を拡大した表面積拡大部を有し
前記熱容量体は、固液相変化物質であるパワー半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のパワー半導体装置の製造方法において、
前記ペルチェ素子の構成体の前記表面積拡大部は、稜線が前記パワー半導体素子の上面と並行に延びる三角屋根状、又は平面波型状、又はポーラス状であるパワー半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のパワー半導体装置の製造方法において、
前記ペルチェ素子は、半導体シリコンにより構成されているパワー半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載のパワー半導体装置の製造方法において、
前記複数の構成体を配置する工程は、
前記各構成体の配置位置に開口部を有するマスクを用いて行うパワー半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸熱素子を備えたパワー半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子からの発熱を吸収するように、パワー半導体素子の発熱部と冷却用ペルチェ素子とを隣接して配置した構成が知られている。
【0003】
以下に挙げる特許文献1には、半導体素子の炭化シリコンからなる発熱部の上に、絶縁体で且つ熱伝導体である真性炭化シリコン(i-SiC)が連続して形成された半導体装置が記載されている。この構成により、半導体素子の発熱部とペルチェ素子との接触部での熱抵抗を小さくし、外部への排熱の熱流速(W/m)を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-028118号公報
【文献】特開2012-028520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に開示された構成をもってしても、自動車に搭載されたパワー半導体素子からの瞬間的な発熱に対して、ペルチェ素子による冷却(吸熱及び放熱)が間に合わず、結果的に、半導体素子の出力を制限せざるを得ないという問題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決し、パワー半導体素子の出力を抑制することなく、当該半導体素子からの発熱を吸熱し且つ放熱できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、ペルチェ素子を構成する各構成体の外形の側面の表面積を大きくし、且つ、この拡大された側面を容量体と接触させる構成とする。
【0008】
具体的に、本発明は、パワー半導体装置及びその製造方法を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明は、パワー半導体素子と、パワー半導体素子に接合されたペルチェ素子とを備えたパワー半導体装置であって、ペルチェ素子は、複数の構成体が電気的に接続されてなり、構成体は、その表面積を拡大した表面積拡大部を有しており、ペルチェ素子における少なくとも表面積拡大部と熱的に接触する熱容量体を備え、熱容量体は固液相変化物質である。
【0010】
これによれば、ペルチェ素子は、その構成体が表面積を拡大した表面積拡大部を有しており、ペルチェ素子における少なくとも表面積拡大部と熱的に接触する熱容量体を備えている。これにより、熱容量体がペルチェ素子の表面積拡大部からの放熱の熱流束を瞬間的に上回るピークを持つ熱量を一時的に貯留し、この熱量のピークが過ぎた後に、熱容量体に貯留された熱を半導体素子側から放熱することができる。従って、パワー半導体素子に対してその出力を十分に引き出すことが可能となる。
【0011】
なお、上記した特許文献2には、潜熱蓄熱材(容量体)を吸熱部に用いた半導体冷却装置が開示されているものの、この場合は、温度が高い領域から低い領域への熱伝導(熱移動)を用いるに過ぎず、本実施形態のように、ペルチェ素子20を用いる構成、すなわち、熱移動に外部からのエネルギー(電気エネルギー)を積極的に供給する構成とは異なる。
【0012】
また、熱容量体として、固液相変化物質からなる潜熱蓄熱剤を用いることができる。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、ペルチェ素子の構成体の表面積拡大部は、稜線がパワー半導体素子の上面と並行に延びる三角屋根状、又は平面波型状、又はポーラス状であってもよい。
【0014】
これによれば、ペルチェ素子の構成体の表面積を確実に拡大することができる。
【0015】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、ペルチェ素子は、半導体シリコンにより構成されていてもよい。
【0016】
これによれば、ペルチェ素子を安価で入手が容易な半導体材料によって形成することができる。
【0017】
の発明は、上記第の発明において、固液相変化物質は、有機アルコール又は糖アルコールであってもよい。
【0018】
の発明は、上記第1~第の発明において、熱容量体と熱的に接触する冷却部をさらに備えていてもよい。
【0019】
これによれば、熱容量体が吸収した熱を冷却部を通して速やかに放熱することができる。
【0020】
また、第の発明は、パワー半導体素子と、パワー半導体素子に接合されたペルチェ素子とを備えたパワー半導体装置の製造方法であって、絶縁性基板の上に、ペルチェ素子を構成する複数の構成体を、下部電極を介在させて配置する工程と、複数の構成体のうち、互いに隣接する構成体同士を上部電極によって接続する工程と、電気的に接続された複数の構成体を、絶縁性基板を介在させてパワー半導体素子と接合する工程と、パワー半導体素子と接合されたペルチェ素子を該ペルチェ素子と熱的に接触する熱容量体により覆う工程とを備え、複数の構成体はその表面積を拡大した表面積拡大部を有し、熱容量体は固液相変化物質である。
【0021】
これによれば、ペルチェ素子を構成する複数の構成体がその表面積を拡大した表面積拡大部を有しており、さらに、複数の構成体の表面積拡大部と熱的に接触する熱容量体を備えたペルチェ素子が実現される。このペルチェ素子は、通常(既存)のパワー半導体素子と接合が可能であるので、パワー半導体素子の種類、例えば用途や半導体材料に限定されず、従って、適用範囲を拡げることができる。
【0022】
また、熱容量体として、固液相変化物質からなる潜熱蓄熱剤を用いることができる。
【0023】
の発明は、上記第の発明において、ペルチェ素子の構成体の表面積拡大部は、稜線がパワー半導体素子の上面と並行に延びる三角屋根状、又は平面波型状、又はポーラス状であってもよい。
【0024】
これによれば、ペルチェ素子の構成体の表面積を確実に拡大することができる。
【0025】
の発明は、上記第又は第の発明において、ペルチェ素子は、半導体シリコンにより構成されていてもよい。
【0026】
これによれば、ペルチェ素子を安価で入手が容易な半導体材料によって形成することができる。
【0027】
の発明は、上記第~第の発明において、複数の構成体を配置する工程は、各構成体の配置位置に開口部を有するマスクを用いて行ってもよい。
【0028】
これによれば、絶縁性基板上の所定の位置に、微小な構成体を効率良く配置することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、パワー半導体素子の出力を抑制することなく、当該半導体素子からの発熱を吸熱し且つ放熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は一実施形態に係るパワー半導体装置を示す模式的な断面図である。
図2図2は一実施形態に係るパワー半導体素子及びペルチェ素子を示す模式的な斜視図である。
図3図3は一実施形態に係るパワー半導体素子の発熱温度と車両用モータにおける要求トルクとの時間依存性を示すグラフである。
図4図4は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、パワー半導体素子の上面にペルチェ素子の電極を形成する工程を示す断面図及び平面図である。
図5図5は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、ペルチェ素子用の単結晶シリコンインゴットをダイシングする工程を模式的に示す正面図及び平面図である。
図6図6は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、ペルチェ素子用シリコンの表面積を拡大する工程を模式的に示す正面図及び平面図である。
図7図7は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、ペルチェ素子用シリコンの表面に高濃度ドーピング層を形成する工程を示す正面図及び平面図である。
図8図8は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、ペルチェ素子の高熱伝導絶縁性基板を形成する工程を示す断面図及び平面図である。
図9図9は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板に下部電極を形成する工程を示す断面図及び平面図である。
図10図10は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板にペルチェ素子のn型シリコン層を配置するためのマスクを設置する工程を示す断面図及び平面図である。
図11図11は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板上の下部電極の上にマスクを介してはんだ材を塗布し、n型シリコン層を配置する工程を示す断面図及び平面図である。
図12図12は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板にp型シリコン層を配置するためのマスクを設置する工程を示す断面図及び平面図である。
図13図13は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板上の下部電極の上にマスクを介してはんだ材を塗布し、p型シリコン層を配置する工程を示す断面図及び平面図である。
図14図14は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、高熱伝導絶縁性基板にペルチェ素子のn型シリコン層及びp型シリコン層を配置し、上部電極を形成した後、パワー半導体素子と接合する工程を示す断面図及び平面図である。
図15図15は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、複数のパワー半導体素子を筐体に配置する工程を示す正面図である。
図16図16は一実施形態に係るパワー半導体装置の製造方法であって、パワー半導体素子を搭載した筐体に熱容量体を充填する工程を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物又はその用途を制限することを意図しない。また、各図面の構成部材における寸法比は、便宜上に過ぎず、必ずしも実際の構成部材における寸法比を表してはいない。
【0032】
(一実施形態)
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0033】
図1及び図2は一実施形態に係るパワー半導体装置の模式的に表し、図1はその断面構成を表し、図2はパワー半導体素子10とペルチェ素子20とを模式的に表している。
【0034】
図1に示すように、パワー半導体装置1は、パワー半導体素子10と、該パワー半導体素子10の上に載置されて固着されたペルチェ素子20と、パワー半導体素子10及びペルチェ素子20と接触して覆う熱容量体30とを備えている。
【0035】
パワー半導体素子10は、公知のパワーデバイスでよく、例えば、SiC-DMOSFET又はSi-IGBTを用いることができる。SiC-DMOSFETは、炭化シリコン(SiC)からなる二重拡散MOSFET(酸化金属半導体電界効果トランジスタ)であり、Si-IGBTは、シリコン(Si)からなる絶縁ゲート型バイポーラトランジスタである。ここで、パワー半導体素子10は、例えば、冷却部を兼ねる金属からなる基台40の上にパワー素子電極11及び高熱伝導性の接着材12を介して固着されている。基台40は、筐体の底部であってもよい。
【0036】
図2に示すように、ペルチェ素子20は、パワー半導体素子10の上に、それぞれ複数のドット(島)状に交互に配置された構成体であるn型シリコン層20n及びp型シリコン層20pと、これらシリコン層20n、20pに交互に電流が流れるように、その下部に配置された下部電極21及びその上部に配置された上部電極22とから構成されている。下部電極21及び上部電極22には、例えばニッケル(Ni)を用いることができる。これら電極21、22には、ニッケル(Ni)の他にも、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)又は金(Au)を用いることができる。
【0037】
ここで、ペルチェ素子20におけるシリコン層20n、20pの少なくとも一部は、パワー半導体素子10との接合面の反対側、すなわちシリコン層20n、20pの各側面において、その上端の稜線がパワー半導体素子10の上面と並行に延びる、例えば三角屋根状に形成されている。このように、シリコン層20n、20pが三角屋根状に形成されることにより、各シリコン層20n、20pの側面の表面積が拡大される。以降、表面積が拡大された側面を表面積拡大部20aと呼ぶ。なお、表面積拡大部20aは、三角屋根状に限られず、平面視において波型状であってもよく、又は少なくとも各側面が多孔性のポーラス状であってもよい。
【0038】
ペルチェ素子20は、パワー半導体素子10の上面に、該半導体素子10と接合されている。詳細には、ペルチェ素子20は、その複数の下部電極21が、パワー半導体素子10の上面に形成された2つのソース電極(図示せず)と電気的に接続された金属からなるペルチェ素子接続用ソース電極13と、該接続用ソース電極13の上に形成された高熱伝導絶縁性基板23とを介在させて熱的に接続されている。すなわち、ペルチェ素子20とパワー半導体素子10とは、ペルチェ素子接続用ソース電極13、高熱伝導絶縁性基板23及び下部電極21を介して互いに熱的に連結されている。また、下部電極21の両端部は、直流電源53と接続されている。
【0039】
ペルチェ素子接続用ソース電極13には、2つのソース電極が互いに対向する側の側端部(図4を参照。)にそれぞれ複数のソース引き出し線15が設けられている。また、パワー半導体素子10の上面における2つのソース電極の間の領域で、且つこの領域のうちの一方の端部には、ゲート電極接続部14が形成されている。ゲート電極接続部14にはゲート引き出し線16が設けられている。
【0040】
さらに、図1に示すように、ペルチェ素子20及びパワー半導体素子10は、熱容量体30により接触するように覆われている。具体的には、パワー半導体素子10における側面、n型シリコン層20n及びp型シリコン層20pの各側面、並びに高熱伝導絶縁性基板23及び下部電極21における各露出部分が、熱容量体30と接触して覆われている。
【0041】
熱容量体30には、例えば、固液相変化物質である潜熱蓄熱材を効果的に用いることができる。この潜熱蓄熱材には、例えば、糖アルコールを用いることができる。有効な糖アルコールの例として、エリスリトール(erythritol:C10)又はマンニトール(mannitol:C14)を挙げることができる。エリスリトールの融点は約120℃であり、マンニトールの融点は約167℃である。すなわち、これらの糖アルコールは常温では固体であり、従って、熱容量体30によって、ペルチェ素子20等と接触して覆うには、一旦、加熱して溶融し、液相とすればよい。
【0042】
なお、図1及び図2に示すパワー半導体装置1は、1つのパワー半導体素子10のみを示しているが、通常、複数個のパワー半導体素子10を有している。
【0043】
また、それぞれペルチェ素子20が接合された複数個のパワー半導体素子10は、筐体の内部に封止されてもよい。図1に示すように、筐体の蓋体50が、熱容量体30の上面と接触してもよい。蓋体50に比較的に熱伝導率が高い、例えばアルミニウムのような金属を用いれば、筐体内及び熱容量体30からの熱を蓋体50を通して外部に放熱することが可能となる。なお、熱容量体30を筐体に封止する際には、上記の糖アルコールは、固相の場合には、液相の場合と比べて体積が膨張することを考慮する必要がある。
【0044】
-効果-
このように、本実施形態に係るパワー半導体装置1によると、パワー半導体素子10と接合され、熱的に連結されたペルチェ素子20は、その構成体であるn型シリコン層20n及びp型シリコン層20pの各側面が拡大された表面積拡大部20aを有している。さらに、これらの表面積拡大部20aは、熱容量体30によって熱的に接触している。これにより、熱容量体30がペルチェ素子20の各シリコン層20n、20pの表面積拡大部20aからの放熱の熱流束を瞬間的に上回るピークを持つ熱量を一時的に貯留することができる。さらに、この熱量のピークが過ぎた後、車両の場合は数秒以内の後には、ペルチェ素子20における直流電源53の極性を反転することにより、熱容量体30に貯留された熱をパワー半導体素子10側から放熱することができる。従って、当該パワー半導体素子10に対してその出力(能力)を十分に引き出すことが可能となる。
【0045】
図3に、例えば、IGBTからなる複数のパワー半導体素子10を用いたパワーモジュールを車両に搭載した場合の、モータトルクの要求仕様値とパワー半導体素子10の発熱温度との関係を示す。ここで、破線のグラフはモータトルクの要求仕様値(右縦軸)であり、実線のグラフはパワー半導体素子10の温度(左縦軸)である。図3に示すように、モータへの3秒間程度のトルク要求に対して、パワー半導体素子10が60℃程度から90℃程度にまで上昇する。このときの温度の上昇率は約40℃/sである。インバータシステムの構成によっては、110℃程度まで上昇する場合もあり、本実施形態では、ペルチェ素子20に電気エネルギーを瞬間的(間欠的)に付与することにより、このピーク部分の熱を熱容量体30に放熱する(図1の矢印Tを参照。)。また、パワー半導体素子10の温度が60℃程度の定常状態の下では、熱容量体30に蓄熱された熱を上面の蓋体50を通して放熱すると共に、ペルチェ素子20の上部電極22から吸熱して、下部電極21、高熱伝導絶縁性基板23、ペルチェ素子接続用ソース電極13、パワー半導体素子10、パワー素子電極11、及び接着材12等を通して、冷却部である基台40に放熱する(図1の矢印Tを参照。)。
【0046】
(製造方法)
以下、本実施形態に係る製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0047】
第1の製造方法においては、パワー半導体素子10として、既存のIGBT又はDMOSFET等を用い、このパワー半導体素子10の上にペルチェ素子20を接合して形成する。
【0048】
まず、図4に示すように、パワー半導体装置1に用いる既存のパワー半導体素子10の2つのソース電極17の上に、該ソース電極17と接触した状態で覆う板状のペルチェ素子接続用ソース電極13を導電性接着材によって固着する。ここでは、パワー半導体素子10の平面寸法は、例えば、10mm程度とする。また、パワー半導体素子10の上面に設けられたゲート電極接続部14は露出させる。ペルチェ素子接続用ソース電極13には、例えば、厚さが1mmの銅(Cu)又はアルミニウム(Al)等からなる金属板を用いることができる。
【0049】
一方、図5に示すように、径が8cm程度で、厚さが0.2cm程度の単結晶シリコンからなるウエーハ20Aから、底辺が最大で0.9×0.8mm程度の立柱体状にダイシングすることにより、複数のn型シリコン層20Anを切り出す。ここでは、予めインゴット20Aを所定の不純物濃度を有するn型としておく。図示はしないが、p型の単結晶シリコンからなるインゴット(図示せず)から、同様にして、複数のp型シリコン層20Apを切り出す。
【0050】
次に、図6に示すように、形成した各n型シリコン層20Anに対して、例えば、レーザ光を用いて、立柱体の対向する側面を三角屋根状に加工して、それぞれn型シリコン層20Anからn型シリコン層20nを形成する。同様に、各p型シリコン層20Apから、それぞれp型シリコン層20pを形成する。使用するレーザ光は、単結晶シリコンの加工が容易に行えればよく、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、紫外線(UV:ultraviolet)レーザ、又は半導体レーザ等を用いることができる。
【0051】
なお、単結晶シリコンからなるインゴット20Aの表面(底面)の面方位を、例えば{100}面とし、立柱体の対向する側面の面方位を{001}面とすれば、三角屋根状の斜面の面方位は、{101}となるので、加工はより容易且つ確実に行うことができる。
【0052】
次に、図7に示すように、各シリコン層20n、20pの表面領域に対して、例えばイオン注入を行って、下部電極21及び上部電極22とのコンタクト用の高濃度ドーピング層20hを形成する。n型シリコン層20nのドーパントには、例えば燐(P)を用いることができ、p型シリコン層20pのドーパントには、例えばホウ素(B)を用いることができる。
【0053】
次に、図8に示すように、高熱伝導絶縁性基板23を作製する。まず、平面寸法が約10mmのほぼ正方形状で、厚さが約0.22mmの窒化シリコン(Si)基板を用意する。用意した窒化シリコン基板に対して、下部電極回路形成用パターン23aを形成する。当該パターン23aにおける1つ分は、図中のx方向に隣接する1対のシリコン層20n、20pの底面が配置できる平面寸法を持つ。ここでは、50対分のパターン23aを形成する。従って、窒化シリコン基板には、各シリコン層20n、20pが併せて10行10列の100個分配列される。なお、x方向とは、図2に示すソース引き出し線15が引き出される方向である。また、y方向とは、x方向と直交する方向である。
【0054】
x方向及びy方向に共に隣接する各パターン23a同士の境界部分には、窒化シリコンからなる絶縁壁23bが形成されている。これにより、隣接する各シリコン層20n、20pが隣り合うパターン23a同士の底部において電気的に接触することを防止している。
【0055】
下部電極回路形成用パターン23aの形成方法の一例として、リソグラフィ法により、絶縁壁23bの形成領域をマスクするマスク膜をレジスト又は無機材によって形成する。続いて、マスクされた窒化シリコン基板に対して、例えば、フッ化炭素(CF)と酸素(O)との混合ガス、又はフッ化硫黄(SF)等をエッチングガスとするプラズマエッチング法によりドライエッチングを行って、図8に示す高熱伝導絶縁性基板23を得る。
【0056】
次に、図9に示すように、高熱伝導絶縁性基板23の上に、下部電極回路形成パターンを構成する複数の下部電極21を形成する。下部電極21には、例えば、厚さが約70μmの銅(Cu)を用いることができる。下部電極21の形成方法には、銅をターゲット材とするスパッタリング法を用いることができる。このスパッタリング法を用いることにより、高熱伝導絶縁性基板23上における下部電極回路形成用パターン23aの1つ1つに確実に下部電極21を形成することができる。また、銅からなる下部電極21には、めっき法(電界めっき又は無電界めっき)を用いることができる。
【0057】
次に、高熱伝導絶縁性基板23上の複数の下部電極21の上に、n型シリコン層20nとp型シリコン層20pとをそれぞれ所定の位置に配置する。
【0058】
ここでは、図10図13に示すように、例えば、高熱伝導絶縁性基板23上に形成された下部電極21の上にそれぞれ配置されるn型シリコン層20n又はp型シリコン20pの各配置位置と対応する複数の開口部60aを有するマスク60を用いる。マスク60における開口パターンは、1種類であってもよい。この場合、例えばp型シリコン20pを配置する際には、n型シリコン層20nの配置位置に対して、平面視で1列分だけ左方向又は右方向にずらして使用すればよい。また、当該マスク60の構成材料には金属膜を用いてもよい。この場合、複数の開口部60aはエッチングにより形成してもよい。
【0059】
まず、図10に示すように、マスク60を、その各開口部60aが高熱伝導絶縁性基板23上の下部電極21におけるn型シリコン層20nの各配置位置と一致するように、絶縁性基板23の上方に保持する。続いて、マスク60の各開口部60aを通して、その下方の下部電極21の上に、クリームはんだ等の流動性(粘性)を持つはんだ材24の必要量を塗布又は滴下する。
【0060】
次に、図11に示すように、n型シリコン層20nの配置位置と一致するように保持されたマスク60の各開口部60aを通して、それぞれn型シリコン層20nを下部電極21上のはんだ材24の上に載置する。
【0061】
次に、図12に示すように、マスク60を、その各開口部60aが絶縁性基板23上の下部電極21におけるp型シリコン層20pの各配置位置と一致するように、絶縁性基板23上の上方に保持する。ここでは、マスク60の保持位置をn型シリコン層20nの場合と比べて、1列分だけ左方向にずらしている。続いて、マスク60の各開口部60aを通して、その下方の下部電極21の上に、はんだ材24を塗布又は滴下する。
【0062】
次に、図13に示すように、p型シリコン層20pの配置位置と一致するように保持されたマスク60の各開口部60aを通して、それぞれp型シリコン層20pを下部電極21上のはんだ材24の上に載置する。
【0063】
その後、マスク60を除去し、上方から各シリコン層20n、20pを押圧しながら所定の温度に加熱して、はんだ材24を硬化する。これにより、各シリコン層20n、20pが下部電極21と固着する。
【0064】
なお、図5で説明したように、各シリコン層20n、20pの底面の形状は、正方形ではなく長方形である。これにより、図11及び図13に示すn型シリコン層20n及びp型シリコン層20pをマスク60を介して配列する際に、例えば、三角屋根状の稜線の方向を揃えるのが容易となる。
【0065】
また、本実施形態においては、n型シリコン層20nをp型シリコン層20pよりも先に配置したが、これに限られず、p型シリコン層20pをn型シリコン層20nよりも先に配置してもよい。
【0066】
続いて、図14に示すように、高熱伝導絶縁性基板23上の下部電極21の上に固着された複数対のシリコン層20n、20pのそれぞれの上に、上部電極22を形成する。具体的には、図14において、下から1行目の左端に位置するp型シリコン層20pからその右端に位置するn型シリコン層20nまでを直列に接続する。このとき、下から1行目の右端に位置するn型シリコン層20nと下から2行目の右端に位置するp型シリコン層20pとを接続する。さらに、下から2行目の右端に位置するp型シリコン層20pからその左端に位置するn型シリコン層20nまでを直列に接続する。この直列接続を全10行分行う。なお、一の下部電極回路形成用パターン23aとこれとx方向に隣接する他の下部電極回路形成用パターン23aとは、隣接する各シリコン層20n、20pの側面(斜面)同士を電気的に接続するように上部電極22を形成する。
【0067】
上部電極22の形成方法は、まず、リソグラフィ法により、上部電極22の形成領域を除く領域マスクするマスク膜を形成する。続いて、例えば、銅をターゲット材とするスパッタリング法により、高熱伝導絶縁性基板23上の全面に銅膜を成膜する。その後、マスク膜を除去する、いわゆるリフトオフ法により、各上部電極22を形成して、ペルチェ素子20を得る。本実施形態においては、一の対のp型シリコン層20pとそれとx方向に隣接する他の対のn型シリコン層20nとは、絶縁壁23bによって絶縁されており、このある程度の高さを持った絶縁壁23bによって、上部電極22が下部電極21と短絡することを防止できる。
【0068】
続いて、図14に示すように、ペルチェ素子20とパワー半導体素子10上のペルチェ素子接続用ソース電極13とを接着材等によって接合する。
【0069】
次に、図15に示すように、本実施形態に係るパワー半導体装置1は、一例として、2組の3アーム構成のインバータ装置を搭載するモジュールとしている。すなわち、それぞれペルチェ素子20が接合された6個のパワー半導体素子10を含むインバータ装置を、外部端子52を有する筐体51内に配設する。なお、図15においては、配線の図示を省略している。
【0070】
次に、図16に示すように、筐体51の内部に、熱容量体30として、例えばエリスリトール等の糖アルコールからなる潜熱蓄熱材を封入する。
【0071】
その後、図1に示す蓋体50によって筐体51を封止する。この場合、熱容量体30にエリスリトールを用いた場合は、固相の方が液相よりも密度が低いため、溶融後はその体積が収縮する。一方、マンニトールを用いた場合は、逆に液相の方が固相よりも密度が低いため、溶融後はその体積が膨張するので、封入量に注意する必要がある。
【0072】
-効果(製造方法)-
上述したように、本実施形態に係るパワー半導体装置1の製造方法によると、パワー半導体素子10として、IGBT又はDMOSFET等の既存のパワー半導体素子を用いることができる。従って、本実施形態のペルチェ素子20は、所望の性能を有するパワー半導体素子と組み合わせて製造できるので、パワー半導体素子の種類、例えば、用途や半導体材料に限定されないので、ペルチェ素子20の適用範囲を拡げることができる。
【0073】
また、本実施形態のペルチェ素子20は、上述したように、ペルチェ素子20の構成体であるn型シリコン層20n及びp型シリコン層20pの各側面が拡大された表面積拡大部20aを有している。さらに、これらの表面積拡大部20aは、熱容量体30によって熱的に接触する。この構成により、熱容量体30がペルチェ素子20の各シリコン層20n、20pの表面積拡大部20aからの放熱の熱流束を瞬間的に上回るピークを持つ熱量を一時的に貯留することができる。従って、当該パワー半導体素子10に対してその出力を十分に引き出すことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、パワー半導体素子の出力を抑制することなく、当該半導体素子からの発熱を吸熱し且つ放熱でき、車両用のパワー半導体装置として特に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 パワー半導体装置
10 パワー半導体素子
11 パワー素子電極
13 ペルチェ素子接続用ソース電極
20 ペルチェ素子
20a 表面積拡大部
20h 高濃度ドーピング層
20n n型シリコン層(構成体)
20p p型シリコン層(構成体)
21 下部電極
22 上部電極
23 高熱伝導絶縁性基板(絶縁性基板)
23a 下部電極回路形成用パターン
23b 絶縁壁
24 はんだ材
30 熱容量体
40 基台(冷却部)
50 蓋体
51 筐体
60 マスク
60a 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16