(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電解めっき用の電極
(51)【国際特許分類】
C25D 1/00 20060101AFI20220809BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20220809BHJP
C25D 17/12 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C25D1/00 B
C25D1/04
C25D17/12 B
(21)【出願番号】P 2018161573
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】寺田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】肥後橋 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】勝圓 由希子
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-099294(JP,A)
【文献】増子 昇,酸素発生用チタン基体電極,鉄と鋼,日本,1991年,Vol.77 No.7,p.871-877
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00
C25D 7/00
C25D 17/00
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解めっき用電極であって、
電極基材、
前記電極基材上に設けられる触媒層、および
前記触媒層上に設けられる保護層
を有して成り、
前記電解めっき用電極が前記電極基材と前記触媒層との間に中間層を更に有して成り、前記保護層は、前記電解めっき用電極において最上層を成し、イリジウムとタンタルとを含んで成り、
前記保護層を有する電極の表面積
は、保護層を有しない電極の表面積と比べて相対的に小さい表面積を有
し、前記保護層を有する電極の表面積S
a
が前記保護層を有しない電極の表面積S
b
との関係で0.2×S
b
≦S
a
≦0.9×S
b
の条件を満たしており、
前記表面積が、サイクリック・ボルタンメトリーに基づく比表面積である、電解めっき用電極。
【請求項2】
前記
電解めっき用電極が電解めっき用陽極に相当する、請求項1
に記載の電解めっき用電極。
【請求項3】
前記触媒層が、白金族元素の金属を含んで成る、請求項1
または2に記載の電解めっき用電極。
【請求項4】
前記電極基材が、バルブ金属を含んで成る、請求項1~
3のいずれかに記載の電解めっき用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解めっき用の電極に関する。より詳細には、本発明は、めっき法の電解に用いる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電解めっきは、従前より工業的に広く利用されている。例えば、電解めっきによって金属箔を製造する技術などが知られている。このような電解めっきは、電気鋳造(特に“電鋳”)とも称され得る。電鋳は、連続的に金属箔を比較的簡易に得ることができると共に、表面平滑性などの金属箔特性の制御が比較的容易であり、銅箔などの金属箔の製造に多く用いられている。
【0003】
電解めっき法による金属箔の製造は、電気めっきの原理を利用しており、電極が用いられている。例えば、
図8に示すように、電解槽500の電解液510に浸漬させた電極520と、それと対を成すドラム状の対極530が用いられる。電解めっき用の電極520は、ドラム状の対極530に対して向き合うように設けられて使用される。電解めっき用の電極520とドラム状の対極530との間で通電させると、対極530の表面に金属成分を電解析出させることができる。よって、ドラム状の対極530を電極520に対して回転させながら通電を行い、電解析出に起因して形成される金属層を対極530から順次剥離することによって金属箔550を連続的に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-47758号公報
【文献】特許第3278492号公報
【文献】特表2016-503464号公報
【文献】特許第3832645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、従前の電解めっきに用いる電極では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0006】
電解めっき法による金属箔の製造においては、ドラム状の電極と対向する電極として不溶性電極が一般に用いられる。特に、ドラム状の陰極と対向して設置される不溶性陽極が用いられる。かかる不溶性陽極における反応は、一般に水の酸化反応、すなわち、酸素発生反応が起こる。しかし、電解液の成分によっては塩素発生反応が起こる可能性もあるが、酸素発生反応が主反応である。よって、酸素発生に対して活性の高い触媒がそのような電解めっき用の電極に用いられることが多い。
【0007】
一方、電解めっき法による金属箔の製造に用いられる電解液には添加剤が加えられることが多い。例えば、電解金属箔の表面平滑性および/または光沢性などの観点から添加剤が加えられていることがある。このような添加剤は、所望の金属箔を得るには望ましいものの、触媒を備えた電極にとっては必ずしも望ましいといえない場合がある。
【0008】
具体的には、電解めっき法による金属箔製造用の電解液に含まれる添加剤によっては、触媒消耗を促進する一因となり、電極触媒が金属箔の製造に伴って減じられることを見出した(
図7参照)。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、触媒消耗が抑制された電解めっき用の電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された電解めっき用の電極の発明に至った。
【0011】
本発明では、電解めっき用電極であって、
電極基材、
前記電極基材上に設けられる触媒層、および
前記触媒層上に設けられる保護層
を有して成り、
前記保護層を有する電極の表面積が、保護層を有しない電極の表面積と比べて相対的に小さい表面積を有する、電解めっき用電極が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電極は、触媒消耗が抑制された電解めっき用の電極となっている。
【0013】
具体的には、本発明の電極では、保護層を有する電極の表面積が、保護層を有しない電極の表面積と比べて相対的に小さい表面積を有するため、電解めっき時における触媒層の消耗がより効果的に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の電解めっき用の電極の積層構造を示した模式的断面図
【
図2】サイクリック・ボルタンメトリーを説明するための模式図および原理式
【
図3】“中間層を有する電極積層構造”を説明するための模式的断面図
【
図4】「触媒消耗速度の相対比較」の結果を示すグラフ
【
図5】「保護層特性の確認試験」で得られたサイクリック・ボルタモグラム
【
図6】「保護層特性の確認試験」の結果(表面積の相対比)を示すグラフ
【
図7】電解金属箔の製造に伴って電極触媒が減じられることを示す模式的断面図
【
図8】電解めっきで連続的な金属箔を製造する態様を例示説明するための模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電解めっき用電極を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示される内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0016】
本発明の説明に際して直接的または間接的に用いる「断面視」は、電極の厚み方向に沿って切り取った断面図に相当し、実質的には対象物を側方から捉えた図に相当する。端的にいえば、「断面視」は、
図1などで示されるような形態で捉えた場合の図に相当し得る。また、電解めっき用電極に関連して直接的または間接的に用いる「上」および「下」といった方向的な事項も、端的にいえば、
図1などで示されるような形態にそれぞれ基づいている。
【0017】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものを含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明の付記がない限り、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0018】
《本発明の電極》
本発明の電極は、電解めっきに用いられる電極である。電解めっきは、例えば金属箔等を製造するために用いられたり、あるいは、防錆めっき、鋼板めっきなどに用いられたりする。特に、前者の場合、本発明の電極は電解金属箔製造用の電極であるといえる。ここで用いる「電解金属箔」といった用語は、電解めっき法によって製造される金属箔のことを指している。電解金属箔としては、銅、ニッケルおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種を含んで成る金属箔を挙げることができる。典型的な例を1つ挙げるとすると、電解金属箔は銅箔(または銅合金箔)である。
【0019】
図1に示すように、本発明の電解めっき用(例えば、電解金属箔製造用)の電極100は、ドラム状の対極200と対向するように用いられる。好適な金属箔製造では、本発明の電極100が“陽極”に相当する一方、対極200が“陰極”に相当する。電解金属箔の製造時には陽極と陰極との電極間が通電されることによって、電解析出に起因して陰極上に金属箔(より正確には、金属箔の前駆体となる金属層)が形成される。このような陽極として用いられる電極100は、いわゆる不溶性陽極であることが好ましい。不溶性陽極の場合、陽極電極の溶解によってめっき金属成分が供給されるのではなく、電解槽の電解液に元々含まれる成分がめっき金属成分の供給源となる。
【0020】
陰極となる対極は、全体としてドラム状を有し、回転可能に設けられる。ここでいう「ドラム状」とは、対極が金属箔の連続製造に資する円筒形状または略円筒形状を有することを指している。そして、陽極となる本発明の電極は、使用に際してドラム状の陰極と離隔してその一部を囲むように配置される。
【0021】
本発明の電解めっき用電極は、層状構造を有している。これにつき、本発明の電極は、電極基材、触媒層および保護層を少なくとも有して成る。具体的には、
図1に示すように、電極の本体部を成す電極基材10に対して触媒層30が設けられ、その触媒層30に保護層50が設けられている。図示される態様から分かるように、本発明の電極100では、電極基材10、触媒層30および保護層50がそれぞれ層状に積み重なるように設けられている。
【0022】
電極基材10は、電解めっき時の通電に資するものである。例えば、電極基材10は、電解金属箔製造時の通電に資するものであって、電鋳時に陽極として実質機能する部分である。電極基材10は、電解めっき用電極100の本体部分を成している。電極基材10の材質は、特に制限するわけではないが、バルブ金属であってよい。より具体的にいえば、電極基材は、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、タングステン、ビスマスおよびアンチモンから成る群から選択される少なくとも1種の金属を含んで成っていてよい。あくまでも例示にすぎないが、耐食性および/または汎用性などの観点から、ある好適な態様に従った電極基材10はチタンまたはチタン合金を含んで成る。電極基材の厚さ(平均厚さ)は、特に制限するわけではないが、例えば0.5mm~30mm程度であってよい。
【0023】
なお、「電極基材」についていうと、本発明の電極は、電解槽とは別個の部材を成しているものであってよい。これは、電極基材と電解槽とが互いに別個であることを意味している。かかる場合、電解めっきに際しては電極(例えば複数の板状の電極)が電解槽に対して取り付けられることになる。あるいは、本発明の電極は、電解槽と一体化した形態を有していてもよい。これは、電解槽自体が電極基材を実質的に成していることを意味している。あくまでも例示にすぎないが、“一体化”の場合、ドラム状の対極に所定間隔で向き合うように湾曲する電解槽が用いられ、その電解槽の湾曲表面に対して触媒層および保護層が形成されている。
【0024】
触媒層30は、電極基材10の上に設けられている。別の異なる層が中間層として介在してもよいが、触媒層30が電極基材10の表面に対して直接的に設けられてもよい。電解めっき法による電解金属箔製造に際して本発明の電極100が不溶性陽極として用いられる場合、かかる電極の反応は、酸素発生反応が主になる。それゆえ、酸素発生に対して活性の高い触媒成分が触媒層30に含まれていてよい。例えば、白金族金属またはその酸化物を含んで成る触媒がコーティングされていてよい。つまり、電極基材10上に設けられる触媒層30がイリジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、ロジウムおよびオスミウムから成る群から選択される少なくとも1種の白金族金属、および/または、それら白金族金属の酸化物を少なくとも含んで成っていてよい。なお、触媒層30は、白金族金属および/またはその酸化物以外の金属成分を含んでいてもよく、例えば第5族元素の金属成分などを付加的に含んでいてもよい。あくまでも1つの例示にすぎないが、ある好適な態様に従った本発明の電極では触媒層30がイリジウム(Ir)を含んで成るものか、あるいは、それにタンタル(Ta)を含んで成るようなものであってよい。触媒層の厚さ(平均厚さ)は、特に制限するわけではないが、例えば1μm~20μm程度であってよい。
【0025】
保護層50は、触媒層30の上に設けられている。好ましくは、保護層50が電極基材10の触媒層30の表面に対して直接的に設けられている。
図1に示すように、触媒層30は、保護層50の存在によって電解液に直接的に接しないようになっていることが好ましい。本発明の電極で設けられる保護層50は、主に触媒層30を保護するための層に相当する。つまり、本明細書でいう「保護層」とは
、電解めっき法による電解金属箔製造用の電極に用いられる触媒を保護する層のことを指しており、
より具体的には、電解めっき法による電解金属箔製造の電解液に含まれる添加剤から電極触媒(特に陽極触媒)を保護する層のことを指している。
【0026】
電解めっき法による電解金属箔製造の電解液には、製造される金属箔の特性を向上させる添加剤が通常加えられている。例えば、プリント回路材および/または電池の集電体などに用いられる銅箔が電鋳で製造される場合、銅箔の表面平滑性および/または光沢性などを向上させる観点から電解液に添加剤が加えられていることが多い。つまり、得られる電解銅箔の表面平滑性および/または光沢性などの特性向上に鑑みて、硫酸銅水溶液を含んで成る電解質に対して添加剤が加えられていることが多い。あくまでも例示にすぎないが、そのような添加剤としては、サッカリン、ゼラチン、ニカワ、チオ尿素およびPEGから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。添加剤は、所望の金属箔を得るには望ましいものの、電極触媒に対しては消耗促進要因となり、経時的にみて電極触媒層(特に、電解金属箔の製造時の陽極に含まれる触媒層)の低減を促進してしまうことを本願発明者は見出している。そこで、本発明の電極では、そのような不都合な低減促進を抑えるべく触媒層に保護層が設けられている。
【0027】
本発明の電解めっき用(例えば、電解金属箔製造用)の電極100において、保護層50は、遷移金属を含んで成ることが好ましい。つまり、触媒層30上に設けられる保護層50は、遷移元素の金属を含んで成ることが好ましい。遷移金属を含んだ保護層50は、触媒層の保護に好適に資するからである。
【0028】
遷移金属のなかでも、特に第5族元素の金属が好ましい。つまり、保護層50が、第5族元素の金属を含んで成ることが好ましい。換言すれば、触媒層30上に設けられる保護層50が、バナジウム族の金属を含んで成ることが好ましいといえる。このようなバナジウム族、すなわち、第5族元素を含んだ保護層50は、触媒層の保護により好適に資するからである。例えば、保護層50がタンタル(Ta)を含んで成り、ある好適な態様に従った本発明の電極では、タンタル(Ta)のみから保護層50が形成されている(つまり、100%のTa含有率を有する保護層となっていてよい)。
【0029】
また、別の切り口でいえば、本発明における保護層50の材質は、電極基材10の材質と異なっていることが好ましい。ある好適な態様に従った本発明の電極では、保護層50がタンタル(Ta)のみから成る材質またはタンタル(Ta)とイリジウム(Ir)との組合せから成る材質である一方、電極基材10がチタンまたはチタン合金から成る材質となっている。
【0030】
ここで、本発明では、保護層を有する電極の表面積の点で特異なものとなっている。具体的には、本発明の電解めっき用(例えば、電解金属箔製造用)の電極において、保護層を有する電極の表面積が、保護層を有しない電極の表面積と比べて相対的に小さい表面積を有する。これは、電解めっき用(例えば、電解金属箔製造用)の電極について、保護層を有する電極表面と、保護層を有しない電極表面とを比べた場合、前者の方が後者よりも表面積が小さくなっていることを意味している。また、これは、保護層を設けることで電極(特に電極頂面)の表面積が低減化されることを意味している。
【0031】
具体的には、ある好適な態様では、保護層を有する電極の表面積が、保護層を有しない電極の表面積の20%~90%程度と小さくなっている。つまり、保護層を有する電極の表面積Saが保護層を有しない電極の表面積Sbとの関係で0.2×Sb≦Sa≦0.9×Sbの条件を満たしている。このような表面積特徴を有する保護層を有する電極では、後述する実施例で示されているように、触媒層の保護効果が好適にもたらされる。これについて、本願発明者は、触媒消耗が抑えられる電解めっき用の電極について鋭意検討する過程において、保護層を有する電極の表面積が触媒消耗の要因に少なからず関係することを見出した(後述する実施例の「触媒消耗速度の相対比較」参照)。特に、触媒消耗の抑制効果が奏される保護層を有する電極の表面積は、保護層を有しない電極の表面積よりも小さいことを見出した。相対的に表面積が小さい保護層を備えた電極の触媒消耗速度Vaは、そのような保護層を備えていない電極の触媒消耗速度Vbの例えば20%~90%となる。より具体的には、“保護層有り”の触媒消耗速度Vaは、保護層形成時の焼成温度や保護層成分などによって違いはあり得るものの、“保護層無し”の触媒消耗速度Vbの20%~85%となり得る、例えばVbの20%~30%、Vbの35%~45%、Vbの70%~80%、あるいは、Vbの75%~85%などとなり得る。
【0032】
本発明では、保護層を有する電極の表面積は、好ましくは保護層を有しない電極の表面積の20%~90%程度と小さくなっているが、より好ましくは、保護層を有する電極の表面積が保護層を有しない電極の表面積の25%~85%程度と小さくなっており、それゆえ、保護層を有する電極の表面積Saが、保護層を有しない電極の表面積Sbとの関係で0.25×Sb≦Sa≦0.85×Sbの条件をより好ましくは満たす。保護層形成時の焼成温度や保護層成分などによって違いはあり得るものの、さらなる例示でいえば、保護層を有する電極の表面積Saが保護層を有しない電極表面積Sbとの関係で0.25×Sb≦Sa≦0.35×Sbの条件となっていたり、あるいは、0.75×Sb≦Sa≦0.85×Sbの条件となっていたりしてよい。特に前者は、保護層を設けることによって、それを設けない電極と比べて電極表面積が1/4程度にまで低減することを意味している。
【0033】
本発明の電極に関して“保護層を有する電極の相対的に小さい表面積”は、電気化学的な測定で得られるものであり、特には電気二重層の静電容量測定を通じて得られる表面積・比表面積である。これにつき、“保護層を有する電極の相対的に小さい表面積”が、サイクリック・ボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltammetry)に基づくものであり、それゆえ、サイクリック・ボルタモグラムに基づいて算出される表面積・比表面積である。
【0034】
サイクリック・ボルタンメトリーでは、電極電位が掃引され、応答電流の測定を通じて判明する静電容量に基づいて表面積が求められるところ(
図2参照)、本発明の電極では保護層を有する電極の表面積が保護層を有しない電極の表面積の20%~90%程度と小さくなっている。つまり、サイクリック・ボルタンメトリーに基づいて得られる表面積・比表面積の点で保護層を有する電極が保護層を有しない電極よりも20%~90%程度と小さくなっているといえる。
【0035】
本発明でいう「サイクリック・ボルタンメトリーに基づく比表面積」とは、電気化学測定マニュアル 基礎編「(第9版、丸善株式会社、編者社団法人電気化学会、第37頁~第44頁)」で説明されているCV測定で得られる表面積のことを意味している。より具体的にいえば、本発明における「サイクリック・ボルタンメトリーに基づく比表面積」は、オートマチックポラリゼーションシステムHSV-110(北斗電工株式会社)の計測装置を用いて得られる表面積のことを指している。かかる計測装置における測定手順(評価手法)および測定条件を詳述しておくと以下のようになる。
測定手順(評価手法)
(1)まず、
図2のような測定セル
を組む。
(2)次いで、HSV-110の端子を作用極、対極および参照極と接続する。
(3)作用極の前処理を行う。
(4)所定の走査速度で測定を行う。
測定条件
・測定時の温度:室温(約25℃)
・電解液 :0.5M 硫酸水溶液
・作用極 :当該発明電極(“保護層を有する電極”)および比較用の電極(“保護層を有しない電極”)のいずれかの電極(電解面積10mm×10mm)
・対極 :白金板(25mm×25mm)
・参照電極:銀塩化銀電極
・前処理条件:0.5~1.0V(vs.Ag/AgCl)の範囲を100mV/sの走査速度にて10サイクル行う。
・測定条件:0.5~1.0V(vs.Ag/AgCl)の範囲を10mV/sの走査速度にて3サイクル行う。
【0036】
保護層を有しない電極の表面積Sbについて詳述しておく。かかる表面積の対象となる保護層を有しない電極は、保護層形成前の電極であってもよい。つまり、表面積測定に供される電極は、本発明の電極の前駆体となる保護層形成前の電極であってもよい。
【0037】
上記説明から分かるように、本発明において「保護層を有しない電極」とは、本発明の電解めっき用電極から保護層のみが除された構成とみなせる電極のことを意味している。したがって、ある好適な態様では、「保護層を有しない電極」は、電極基材と、その上に設けられる触媒層とから構成される電極であって、最表層として触媒層が設けられている電極である。なお、このような電極は、後述する“中間層”を有する構成であってもよく、それゆえ、「保護層を有しない電極」は、最表層として触媒層を有しつつも、触媒層と電極基材との間に中間層を付加的に有する電極であってもよい。
【0038】
なお、本発明では、保護層を有しない電極の表面積Sbは、電解めっき用の電極(例えば、ダイソーエンジニアリング株式会社製、MD-100またはMD-160)の表面積を便宜上採用してよい。かかる電極(例えば、MD-100またはMD-160)は、市販の電解めっき用の電極であるところ、電極基材に設けられた触媒層を有するなどの点で上記前駆体の電極に相当し得るので、その電極の表面積を本発明における「表面積Sb」とみなしてよい。
【0039】
本発明の電解めっき用の電極は、種々の態様で具現化され得る。例えば、以下の態様が考えられる。
【0040】
(トップコート保護層)
かかる電極の態様では、保護層がトップコートの形態を有している。つまり、保護層50が、
図1に示すように電極100において最上層を成している。これは、電解めっき法による金属箔の製造時に保護層が電解液と直接的に接し、電解液に対する触媒層の保護作用が、かかる保護層の存在で直接的に奏されることを意味している。
【0041】
最上層を成すので、保護層は露出しており、その上には付加的な層などが設けられていない。本発明では、このような保護層を有する電極が、好ましくは保護層を有しない電極の表面積の20%~90%程度と小さくなっている。
【0042】
(薄膜形態の保護層)
かかる態様では、保護層が薄膜形態を有している。つまり、触媒層の保護のための層が、肉厚な形態となっておらず、電解めっき用の電極の軽量化などに少なくとも寄与し得る。
【0043】
具体的には、保護層が例えば15μm以下の平均厚さを有している。このような15μm以下の薄膜形態の保護層であっても、本発明の電極では、電解金属箔製造時に触媒消耗の抑制効果が奏され得る。保護層の平均厚さは、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは8μm以下である。一方、保護層の平均厚さの下限値は、例えば4μmであり、3μm、2μmまたは1μmなどであってもよい。
【0044】
本明細書でいう「保護層の平均厚さ」とは、SEM画像などの顕微鏡写真・画像に基づいた保護層の断面視(例えば、日本電子製、型式JSM-IT500HRで撮像した断面画像)において、任意の10点の平均(相加平均)を指している。なお、このような“平均”厚さの意味合いは、他の層についても同様に適用され得る。
【0045】
(中間層を有する電極積層構造)
かかる態様では、電極の積層構造が中間層を付加的に有している。具体的には、
図3に示すように、電解金属箔製造用の電極100が、電極基材10と触媒層30との間に中間層60を更に有している。
【0046】
特に制限されるわけではないが、中間層が存在すると、電極基材の保護特性が向上したり、あるいは、触媒層の電極基材への密着強度が向上したりする効果が奏され得る。図示する態様などから分かるように、「中間層」の“中間”とは、電極の基材を成す部分と触媒部分との間に層が設けられていることに基づいている。
【0047】
あくまでも例示にすぎないが、中間層の平均厚さは、5μm~20μm程度であってよい。また、中間層の材質は、タンタルなどであってよく、更にはチタンなどが含まれていてもよい。
【0048】
(保護層の複合成分態様)
かかる態様では、保護層の材質が単一ではなく、複数の成分から成っている。上述したように、保護層は、遷移金属を含んで成ることが好ましいところ、かかる遷移金属として少なくとも2種の金属が保護層に含まれている。これにより、保護層が、より好適な保護特性を発揮しやすくなる。
【0049】
ある好適な1つの態様では、2種の金属が、白金族元素の金属と、白金族元素以外の元素の金属となっている。例えば、第5族元素の金属および白金族元素の金属となっている。つまり、保護層が、白金族元素とそれ以外の元素との双方の金属を含んで成り、好ましくは白金族元素と第5族元素との双方の金属成分を含んで成る。かかる場合、好ましくは、白金族以外の金属の方が白金族元素の金属よりも相対的に多くなっている。白金族以外の金属は電極触媒として活性が低く、電気化学的な反応を起こさないからである。例えば、保護層の白金族元素以外の金属(例えば第5族元素金属)の含量が、50重量%(50重量%を含まず)~98重量%、好ましくは60重量%~98重量%、より好ましくは70重量%~98重量%、例えば80重量%~98重量%であるのに対して、白金族元素金属の含量が、2重量%~50重量%、好ましくは2重量%~40重量%、より好ましくは2重量%~30重量%、例えば2重量%~20重量%等であってよい。
【0050】
保護層に含まれる複合成分としては、第5族元素がタンタル(Ta)であって、白金族元素がイリジウム(Ir)であってもよい。つまり、第5族元素としてのタンタル(Ta)と、白金族元素としてのイリジウム(Ir)との組合せであってよく、そのような遷移金属の複合成分から保護層が成っていてよい。より具体的な例を挙げていえば、例えばタンタル(Ta)とイリジウム(Ir)とを主成分とする保護層について、タンタル(Ta)成分の含量が、50重量%(50重量%を含まず)~98重量%、好ましくは60重量%~98重量%、より好ましくは70重量%~98重量%、例えば80重量%~98重量%であるのに対して、イリジウム(Ir)成分の含量が、2重量%~50重量%、好ましくは2重量%~40重量%、より好ましくは2重量%~30重量%、例えば2重量%~20重量%であってよい。
【0051】
以下では、本発明のより良い理解のために「電解めっき用電極の製造方法」および「電解めっき用電極を用いた電解金属箔の製造装置」について説明しておく。
【0052】
《電解めっき用電極の製造方法》
本発明の電解めっき用電極は、電極基材に触媒層を形成して触媒層付き電極を得た後、それに保護層を設けることで得ることができる。
【0053】
触媒層は、電極基材上に設けることができるのであれば、いずれの手法で形成してもよい。1つ例示すれば、触媒層は焼成を経ることで形成することができる。具体的には、触媒層前駆体に相当する原料液を電極基材に塗布して乾燥させ、次いで焼成に付すことによって、触媒層を形成できる。かかる塗布・乾燥・焼成は、以下で詳述する保護層形成におけるのと同様に行うことができる。なお、触媒層付き電極は、市販の電解めっき用(例えば、電解金属箔用)の電極などを利用してもよく、例えば、ダイソーエンジニアリング株式会社製の電極の品番MD-100、MD-160などを用いてもよい。
【0054】
次いで、保護層の形成が行われるが、電極の触媒層上に設けることができるのであれば、いずれの手法で保護層を形成してもよい。1つ例示すれば、保護層は焼成を経ることで形成できる。
【0055】
具体的には、保護層前駆体に相当する原料液を触媒層上に塗布して乾燥させ、次いで焼成に付すことによって、保護層を形成できる。原料液は、あくまでも例示にすぎないが、遷移金属と、それを溶解させる有機溶媒および/または水などの溶媒を少なくとも含んで成る。遷移金属は、上述したような第5族元素の金属などであり、一例を挙げるとタンタル(Ta)である。また、原料液の遷移金属としては白金族元素の金属が更に含まれていてもよく、例えば、タンタル(Ta)とイリジウム(Ir)との組合せが含まれていてよい。有機溶剤としては、特に制限されるわけではないが、メタノール、エタノール、プロパノール(n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール)、ブチルアルコール(n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、および、tert-ブチルアルコール)等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。なお、保護層の原料液には添加剤(あくまでも1つの例示にすぎないが例えば無機酸など)が原料液に加えられていてもよい。
【0056】
保護層前駆体の塗布は、制限するわけではないが、例えば、吹き付け法、ハケ塗り法、浸漬法などによって行うことができる。触媒層上に塗布された保護層前駆体は、溶媒の気化により減じるべく乾燥に付される。よって、塗布された保護層前駆体を高温下の乾燥に付してよく、あるいは、塗布された保護層前駆体を減圧下または真空下に置いてもよい。高温下の乾燥を行う場合では、例えば、塗布された保護層前駆体を大気圧下で80~200℃程度(1つ例示すると100℃~150℃)の乾燥温度条件下に2~40分程度付すことが好ましい。また、減圧下または真空下に置く場合では、塗布された保護層前駆体を、例えば7~0.1Paの減圧下または真空下に置くことが好ましい。必要に応じて「減圧下または真空下」と「熱処理」とを組み合わせてもよい。乾燥温度条件下に付すより具体的な態様を1つ例示しておくと、適当な乾燥機(例えば、大同工業所、防爆乾燥機、DBO3-450など)を用いることによって塗布された保護層前駆体の乾燥を行うことができる。このような乾燥に付された後、保護層前駆体は、焼成に付される。焼成温度は、好ましくは300℃~600℃、より好ましくは350℃~550℃である。焼成時間は、特に制限するわけではないが、好ましくは5~90分程度、より好ましくは10~60分程度である。より具体的な態様を例示しておくと、適当な焼成炉(例えば、電気炉、ガス炉、赤外線炉などの加熱炉)を用いることによって焼成を行うことができる。以上のような塗布、乾燥および焼成を経ることによって、最終的には所望の保護層が得られる。
【0057】
なお、塗布・乾燥・焼成は、1回に限らず、それよりも多く実施してもよい。保護層の厚さなどを適宜調整することが可能となるからである。あくまでも例示にすぎないが、塗布・乾燥・焼成の工程を例えば2~10回程度行ってよい。
【0058】
《電解めっき用電極を用いた電解金属箔の製造装置》
本発明の電極が用いられる電解金属箔の製造装置は、本発明の電極100を陽極として備え、ドラム状の対極200を陰極として備えている(
図1参照)。
【0059】
電解金属箔の装置において、陽極と陰極との間は所望の離隔距離(両電極の近位面間の距離)となっており、例えば5~25mm程度となっている。陽極として用いられる本発明の電極は、陰極に相対するように取り付けられる一方、陰極としてドラム状の対極は回転自在に設けられる。つまり、陰極が回転ドラムとして電解槽に設けられている。具体的には、陰極の回転ドラムの略下半分以上が電解槽の電解液(すなわち、めっき液)に浸漬されるように設けられることが好ましい。ドラム状の陰極自体は、電解金属箔製造に常套的なものであってよい。金属箔製造時においては、陰極のドラムが回転し、それが電解液に接触する際に電着がなされる。ドラムの回転に起因して、電解液に接触した陰極ドラムの一部が空気中へと露出されることになるが、その際にドラム表面から機械的に電着層が剥離される。これによって、所望の金属箔を得ることができる。金属箔は連続的に得られるので、それを巻き取るための適当なリール手段が設けられていてもよい。
【0060】
電解金属箔の装置は、電極への給電のためのブスバーを更に有して成る。例えば、ブスバーが、電極の電極基材および/または支持基体に対して取り付けられていてよい。このようなブスバーによって、陽極と陰極との間に直流電流を流すことができ、所望の電鋳を実施することができる。また、支持基体などは、電解液の供給に資する供給口(例えば間隙部)を有していてよい。かかる供給口を介して、消費されるめっき成分を適宜補充することができるようになっていてよい。
【0061】
以上、本発明の各種態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に規定される発明の範囲から逸脱することなく種々の態様が当業者によって具現化され得ると理解されよう。
【実施例】
【0062】
本発明に関連して各種の実証試験を実施した。
【0063】
『触媒消耗速度の相対比較』
電解液における添加剤影響ならびに本発明における保護層効果を確認すべく、電解試験を実施した。
【0064】
具体的には、実施例1~4および比較例1ならびに「電解液の“添加剤無し”条件」に従って電解金属箔製造を模した電解試験を行い、触媒消耗速度を比較した。
【0065】
●実施例1
以下の試験電極を用いて電解試験を行った。
試験電極(電解金属箔製造用の陽極)
・電極積層構造:(下側)電極基材/中間層/触媒層/保護層(上側)
・電極基材
材質:バルブ金属(チタン)
厚さ:1~3mm
・中間層
材質:タンタル
厚さ:5~10μm
・触媒層
材質:白金族金属(イリジウム)
厚さ:5~20μm
・保護層
材質:イリジウムおよびタンタル(Ir:Taの重量比:5:95)(イリジウム成分:東京化成工業製、タンタル成分:東京化成工業製)、
厚さ:5~10μm
原料液(保護層前駆体)の溶媒:ブタノール(東京化成工業製)
原料液塗布後の乾燥温度:120℃
乾燥後の焼成温度:400℃
・保護層の調製方法
電極基材/中間層/触媒層の積層構造(中間層の介在で電極基材上に触媒層が設けられた積層構造)を有する市販の電解金属箔用の電極(ダイソーエンジニアリング株式会社製、品番:MD-160)に対して保護層前駆体の原料液を塗布、乾燥および焼成に付すことによって、トップコートとして保護層を形成した。塗布・乾燥・焼成の一連の工程は所定の厚みが得られるまで5~10回繰り返した。
電解試験条件
・対極(陰極):白金板(10mm×10mm)
・参照電極:銀塩化銀電極
・電流密度:100A/dm2
・電解温度:80℃
・電解液:20重量% H2SO4 および 10重量% Na2SO4
・添加剤:サッカリン(東京化成工業製) 1000ppm
・触媒消耗速度の把握
初期触媒量W初期から「一定時間(T:300時間)の電気分解後の触媒量W電解後」を差し引き、それを時間Tで割ることで電極の触媒層の具体的な消耗速度Vを算出した。算出式は以下の通りである。なお、「初期触媒量W初期」および「電気分解後の触媒量W電解後」は、それぞれ蛍光X線分析(堀場製作所製 ハンドヘルド型蛍光X線分析装置 MESA Portable)によって求めた。
V=(W初期-W電解後)/T
●実施例2
保護層の焼成温度条件を“490℃”としたこと以外は、実施例1と同一条件で電極を作製して同一の電解試験を行った。
●実施例3
保護層の材質条件を“タンタル100%”としたこと以外は、実施例1と同一条件で電極を作製して同一の電解試験を行った。
●実施例4
保護層の材質条件を“タンタル100%”とすると共に、保護層の焼成温度条件を“490℃”としたこと以外は、実施例1と同一条件で電極を作製して同一の電解試験を行った。
●比較例1(保護層無し)
保護層を設けなかったこと以外は、実施例1と同一条件の電極で同一の電解試験を行った。より具体的には、ダイソーエンジニアリング株式会社製、品番MD-160の電極を電解試験に付した。
●電解液の“添加剤無し”条件
電解液が添加剤を含んでいない条件としたこと以外は、比較例1と同一の電解試験を行った。
【0066】
試験結果を
図4に示す。
図4のグラフから以下の事項を把握することができた。
・電解液に用いられる添加剤は、電極の触媒層の消耗を促進する。
・保護層は、触媒層の保護に資する。
・特に、保護層を設けることによって触媒消耗速度が減じられ、保護層により触媒消耗が抑えられる。
【0067】
『保護層特性の確認試験』
触媒消耗を抑制する保護層の特性を確認すべく試験を行った。特に、本願発明者は、上記試験を通じて、電極面(頂面)の表面特性が異なっている可能性、すなわち、保護層を有する電極の表面特性が保護層を有しない電極と異なっている可能性があり得るとの認識を持つに至り、電極の表面積について確認する試験を行った。
【0068】
具体的には、以下のサイクリック・ボルタンメトリーを行い、電極A、電極Bおよび電極Cの表面積を相対比較した。
・
電極A:「比較例1(保護層無し)」で使用した電極
・
電極B:「実施例2」で使用した電極
・
電極C:「実施例1」で使用した電極
サイクリック・ボルタンメトリー(CV)
CV計測装置として、オートマチックポラリゼーションシステムHSV-110(北斗電工株式会社)を用いた。
測定手順(評価手法)
(1)まず、
図2のような測定セル
を組んだ。
(2)次いで、HSV-110の端子を作用極、対極および参照極と接続した。
(3)作用極の前処理を行った。
(4)所定の走査速度で測定を行った。
測定条件
・測定時の温度:室温(約25℃)
・電解液 :0.5M 硫酸水溶液
・作用極 :上記の電極A、電極Bおよび電極Cの各々(電解面積10mm×10mm)
・対極 :白金板(25mm×25mm)
・参照電極:銀塩化銀電極
・前処理条件:0.5~1.0V(vs.Ag/AgCl)の範囲を100mV/sの走査速度にて10サイクル行った。
・測定条件:0.5~1.0V(vs.Ag/AgCl)の範囲を10mV/sの走査速度にて3サイクル行った。
【0069】
結果を
図5および
図6に示す。
図5および
図6のグラフから以下の事項を把握することができる。
・保護層を有する電極の表面積は、保護層を有しない電極の表面積と比べて相対的に小さい表面積を有している。
・具体的には、保護層を有する電極の表面積が保護層を有しない電極の表面積の20%~90%と小さくなっている。
【0070】
上記の『触媒消耗速度の相対比較』および『保護層特性の確認試験』の双方に基づくと、触媒層上に保護層が設けられた電解めっき用の電極は、電解金属箔の製造時に触媒消耗が抑制される効果を奏し、そのような抑制効果に寄与する保護層を有する電極の表面積は保護層を有しない電極の表面積よりも相対的に小さい表面積を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る電極は、電解めっきが実施される様々な分野で利用することができる。特には、電解金属箔を製造する電鋳で好適に利用できる。あくまでも例示にすぎないが、プリント回路材または二次電池の電極集電体に用いられる電解金属箔を製造する装置の陽極として、本発明に係る電極を好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 電極基材
30 触媒層
50 保護層
60 中間層
100 電解めっき用の電極
150 基体
200 対極