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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64C 39/02 20060101AFI20220809BHJP
   B64C 13/18 20060101ALI20220809BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B64C39/02
B64C13/18 Z
B64C27/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018161982
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020032903
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100116920
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531718(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020671(WO,A1)
【文献】特開2017-065467(JP,A)
【文献】特開2017-052389(JP,A)
【文献】特開2018-018398(JP,A)
【文献】特開2011-246105(JP,A)
【文献】特開2001-039397(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0081839(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106707790(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64C 13/18
B64C 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロータを回転させて飛行する飛行体において、
少なくとも前記ロータの回転により機体に作用する力を演算する第一演算部と、
少なくとも前記機体の運動状態により前記機体に加わっている力を演算する第二演算部と、
前記第一演算部により演算される力と前記第二演算部により演算される力の差に基づいて前記機体に加わる外力を演算する外力演算部と、
前記機体に加わる外力を用いて飛行制御を行う飛行制御部と、
を備える飛行体。
【請求項2】
前記第二演算部は、前記機体の運動状態により前記機体に加わっている力及び重力により前記機体に加わっている力を演算する、
請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記飛行制御部は、前記外力が予め設定された外力値以上である場合に前記外力に抗する飛行指令を受け付けずに前記複数のロータの回転数を制御する、
請求項1又は2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記飛行制御部は、前記外力の目標値となる目標外力が入力された場合、前記機体を外部物体に押し付けて前記機体に前記目標外力が加わるように前記複数のロータの回転数を制御する、
請求項1又は2に記載の飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のロータを備えた飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のロータを備えた飛行体として、例えば、特許第6207003号公報に記載されるように、複数のロータを備えたマルチロータ機であって、機体にケーブルが取り付けられ、ケーブルの張力を考慮して飛行制御を行うものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6207003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような飛行体においては、ケーブルなどから受ける外力を正確に算出するために、外力検出のためのセンサを取り付けることが考えられる。この場合、飛行体の通常の飛行を制御するためのセンサのほかに特別なセンサが必要となる。このため、飛行体のコストアップや重量増加などの要因となってしまう。
【0005】
そこで、機体に加わる外力を検出するセンサを用いずに飛行制御が行える飛行体の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本開示の一態様に係る飛行体は、複数のロータを回転させて飛行する飛行体において、少なくともロータの回転により機体に作用する力を演算する第一演算部と、少なくとも機体の運動状態により機体に加わっている力を演算する第二演算部と、第一演算部により演算される力と第二演算部により演算される力の差に基づいて機体に加わる外力を演算する外力演算部と、機体に加わる外力を用いて飛行制御を行う飛行制御部とを備えて構成されている。この飛行体によれば、第一演算部により少なくともロータの回転により機体に作用する力を演算し、第二演算部により少なくとも機体の運動状態により機体に加わっている力を演算し、第一演算部により演算される力と第二演算部により演算される力の差に基づいて機体に加わる外力を演算する。このため、機体に加わる外力をセンサによって検出しなくても、機体に加わる外力を算出することができる。従って、機体に加わる外力を直接検出するセンサを用いることなく機体に加わる外力を取得し、機体に加わる外力を用いて飛行制御が行える。
【0007】
また、本開示の一態様に係る飛行体において、第二演算部は、機体の運動状態により機体に加わっている力及び重力により機体に加わっている力を演算してもよい。この場合、第二演算部により重力により機体に加わっている力を演算することにより、重力を加味して機体に加わる外力を演算することができる。
【0008】
また、本開示の一態様に係る飛行体において、飛行制御部は、外力が予め設定された外力値以上である場合に外力に抗する飛行指令を受け付けずに複数のロータの回転数を制御してもよい。この場合、外力に抗して飛行することが抑制される。従って、飛行体が構造物に向かって飛行するなどの無理な飛行を抑制することができる。
【0009】
また、本開示の一態様に係る飛行体において、飛行制御部は、外力の目標値となる目標外力が入力された場合、機体を外部物体に押し付けて機体に目標外力が加わるように複数のロータの回転数を制御してもよい。この場合、飛行体を外部物体に積極的に押し付けるような飛行が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機体に加わる外力を検出するセンサを用いずに機体に加わる外力を演算し、機体に加わる外力を用いて飛行制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る飛行体の概略構成を示す斜視図である。
図2図1の飛行体の電気的構成を示す図である。
図3図1の飛行体における飛行制御の一例を示すブロック線図である。
図4図1の飛行体における外力演算処理を示すフローチャートである。
図5図1の飛行体における飛行動作を示す図である。
図6】第二実施形態に係る飛行体における飛行制御の一例を示すブロック線図である。
図7図7の飛行体における飛行動作を示す図である。
図8図7の飛行体の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明では、本発明が、無人航空機(以下、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)という)に適用される場合について説明する。
【0013】
(第一実施形態)
図1に示されるように、本実施形態の飛行体1は、複数のロータ11を回転させて飛行する飛行体である。飛行体1は、中央に配置されたペイロード部(本体)2と、ペイロード部2に対して固定されて外方に延びる六本のフレーム3と、フレーム3の先端部に取り付けられた六枚のロータ11とを備えている。飛行体1の機体には、ペイロード部2、フレーム3及びロータ11が含まれる。また、機体には、ペイロード部2、フレーム3、ロータ11のほか、これらに取り付けられ一体となって飛行する部分も含む。例えば、飛行体1にロータガイドや作業機器が取り付けられた場合、このロータガイド及び作業機器も機体の一部に含まれる。この飛行体1は、複数のロータ11を備えるマルチロータ機(回転翼機)であり、飛行指令に従って無人で飛行する。UAVである飛行体1は、回転および並進方向の運動を合わせた六自由度での運動成分を独立に発生可能になっている。従って、飛行体1は、狭所での飛行や接触作業を伴う飛行に適している。
【0014】
飛行体1のロータ11はペイロード部2を通る鉛直線Nの周囲に六つ配置されており、飛行体1は、ヘキサコプタ型の飛行体となっている。鉛直線Nの周囲に配置された六枚のロータ11は、例えば水平面に沿って延びる六角形の頂点上に配置されている。つまり、六枚のロータ11の回転中心は、同一平面上に配置されており、正六角形の頂点上に配置されている。なお、六枚のロータ11は、正六角形の頂点上に配置される必要性はなく、対向する一対の辺(平行な2辺)のみが長い六角形の頂点上に配置されてもよい。六枚のロータ11は、必ずしも同一平面上に配置されなくてもよく、Z軸方向にオフセットされていてもよい。六枚のロータ11あるいは回転中心11aが所定の水平方向線に関して対称性を有するように配置されると、制御系がシンプルになり、設計および実装が容易となる。
【0015】
ロータ11の回転中心11aは、例えば鉛直方向に向けられている。なお、回転中心11aの方向は、ほぼ鉛直方向であってもよく、鉛直方向に対し斜めの方向とする場合もある。この場合、飛行体1の飛行の安定性が向上する。
【0016】
なお、図1では、ロータ11において外部との接触を防止するガイド部材が図示されていないが、そのようなガイド部材を設置してもよい。また、図1では、六つのロータ11を備えた飛行体1を示しているが、ロータ11の設置数は六つ未満であってもよく、六つ以上であってもよい。
【0017】
図2に、飛行体1の電気的構成の概要図を示す。図2において、実線は電源系統を示し、破線は通信系統(制御系統)を示している。図2に示されるように、ペイロード部2には、飛行体1の各部を制御するための制御部20と、飛行体1の各部を駆動するための電源であるバッテリ21と、各部に電源を供給するための電源基板22とが搭載されている。また、ペイロード部2には、センサ類23及び通信部28が搭載されている。センサ類23は、飛行体1の位置および姿勢などを推定するための機器である。例えば、センサ類23として、ジャイロセンサ24、GPS(Global Positioning System)センサ25および気圧センサ26、加速度センサ27が設けられている。ジャイロセンサ24は、機体の角速度を検出するセンサである。加速度センサ27は、機体の上下方向、左右方向及び前後方向の加速度を検出するセンサである。なお、ジャイロセンサ24と加速度センサ27は、それぞれの機能を備えて一体化されたセンサであってもよい。これらのセンサ類23は、測定結果を示すデータを制御部20に出力する。制御部20は、センサ類23から出力されたセンサデータに基づき、例えば推定アルゴリズム等を用いて、飛行体1の現在の位置および姿勢を推定する。なお、センサ類23には、飛行体1の機体に加わる外力を直接検出するセンサは搭載されていない。つまり、センサ類23には、力覚センサや圧力センサなど機体に加わる外力を直接検出するセンサは備えていない。
【0018】
通信部28は、送信機(図示せず)との通信を行う部位である。通信部28は、例えば地上で操作される送信機と無線通信可能に構成され、少なくとも飛行指令を受信する受信機能を備えている。具体的には、通信部28は、飛行指令の信号を受信し、その飛行指令の信号を制御部20に入力する。
【0019】
上記した機器の他にも、ペイロード部2には、たとえばカメラやロボットアーム等の作業機器が搭載され得る。ペイロード部2に搭載される機器は、飛行体1に求められる飛行や作業に応じて、適宜変更され得る。ペイロード部2に搭載される機器の位置および重量によって、ペイロード部2の重量および重心の位置は変化し得る。飛行体1では、ペイロード部2の重量および重心の位置を考慮して、ロータ11が回転制御される。
【0020】
各フレーム3の先端部には、ロータ11のそれぞれを回転させるモータ31が取り付けられている。ペイロード部2には、これらのモータ31の回転数を制御するための、六つのモータアンプ30が搭載されている。各モータアンプ30には、電源基板22を介してバッテリ21から電源が供給される。各モータアンプ30は、制御部20によって制御されて、モータ31が所定の回転数および回転方向で回転するように、モータ31に電流を供給する。
【0021】
制御部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータである。制御部20は、飛行体1の飛行制御を行う飛行制御部として機能する。すなわち、制御部20は、送信機から受けた飛行指令に基づいて、モータアンプ30を介してモータ31を駆動させ、ロータ11の回転を制御する。このとき、制御部20は、機体に加わる外力を演算し、機体に加わる外力を用いて飛行制御を行う。すなわち、制御部20は、飛行体1の機体に加わる外力を演算する外力演算部として機能する。また、制御部20は、機体に加わる外力を演算するにあたり、ロータ11の回転により機体に作用する力及び機体の運動状態により機体に加わっている力を演算する。すなわち、制御部20は、少なくともロータ11の回転により機体に作用する力を演算する第一演算部として機能する。また、制御部20は、少なくとも機体の運動状態により機体に加わっている力を演算する第二演算部として機能する。このとき、制御部20は、第二演算部として、機体の運動状態により機体に加わっている力と共に機体に加わる重力を演算してもよい。
【0022】
制御部20は、第一演算部として演算した力と第二演算部として演算した力の差に基づいて機体に加わる外力を演算する。例えば、制御部20は、機体の運動状態に基づいて機体に加わっている力及び機体に加わる重力と、ロータ11の回転により機体に作用する力との差に基づいて機体に加わる外力を演算する。ここで、機体に加わる外力には、機体に加わる重力を含まない。機体に加わる外力としては、飛行体1の機体が障害物に接触し障害物から受ける反力、機体に繋がれるケーブルから受ける張力、機体に衝突する物体から受ける力、風などにより機体が受ける力などが該当する。
【0023】
制御部20は、飛行制御を行う際、機体に加わる外力を用いて飛行制御を実行する。例えば、制御部20は、機体に加わる外力が予め設定された外力値以上である場合に外力に抗する飛行指令を受け付けずにロータ11の回転数を制御する。具体的には、飛行体1の進行方向に構造物があり、飛行体1がその構造物に接触し、構造物からの反力として外力を受けており、その外力が設定された外力値以上である場合には、飛行体1は、構造物へ向かう飛行指令を受け付けず飛行する。このとき、機体に加わる外力としては、外力の大きさと外力の時間変化量(外力の微分値)を演算し、これらがそれぞれ予め設定された閾値以上である場合に外力に抗する飛行指令を受け付けないように飛行制御してもよい。この場合、飛行体1が風などにより外力を受ける場合と構造物などに衝突して外力を受ける場合を識別して飛行制御することが可能となる。つまり、飛行体1が風などにより外力を受ける場合にはその外力に抗する飛行は行われ、構造物などに衝突して外力を受ける場合にはその外力に抗する飛行は行われなくなるように、飛行制御が行える。
【0024】
次に、本実施形態に係る飛行体1の飛行制御について説明する。
【0025】
図3は飛行体1における飛行制御系の一例を示したブロック線図である。図3に示す位置姿勢修正器、飛行制御器及び外力演算器は、制御部20内に設けられる制御器である。図3に示すように、地上の送信機から送られた飛行指令は、位置姿勢修正器に入力される。また、機体のセンサから出力される現在の機体の位置信号及び姿勢信号が位置姿勢修正器に入力される。さらに、外力演算器により演算される機体に加わる外力の信号が位置姿勢修正器に入力される。
【0026】
ここで、制御部20の外力演算器による外力演算処理について説明する。図4は、外力演算処理を示すフローチャートである。まず、図4のステップS10(以下、単に「S10」という。以降のステップも同様とする。)において、第一演算処理が行われる。第一演算処理は、ロータ11の回転により機体に作用する力を演算する処理である。ここで、機体に作用する力には、機体に作用する推力及び機体に作用するトルクを含む。例えば、制御部20は、各ロータ11の回転速度指令に基づく各ロータ11の回転により機体に作用する推力及び機体に作用するトルクを演算する。機体に作用する推力は、飛行体1が前後、左右及び上下に移動する際に機体に作用する推進力である。機体に作用するトルクは、飛行体1の機体に作用する回転方向のトルクである。
【0027】
具体的には、各ロータ11の回転により機体に作用する推力fは、次の式(1)により、算出される。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)において、Tは各ロータ11が発生させている推力、nはロータ11の推力方向の単位ベクトルである。推力T及び単位ベクトルnは、例えばロータ11の回転速度、回転方向などの回転状態に基づいて算出すればよい。六つのロータ11を備える飛行体1である場合、nの値は6となる。
【0030】
各ロータ11の回転により機体に作用するトルクτは、次の式(2)により、算出される。なお、トルクτは、各ロータ11の回転により生ずる反トルクである。
【0031】
【数2】
【0032】
式(2)において、rは機体の重心からみた各ロータの位置、τは各ロータ11が発生させているトルクである。位置rは、飛行体1の機械的構造により決定される。トルクτは、例えばロータ11の回転速度、回転方向などの回転状態に基づいて算出すればよい。sはトルクの方向を示す符号であり、1又は-1の値をとる。つまり、sは、ロータ11のトルクの発生方向とnの方向の関係に従って、1又は-1の値となる。
【0033】
このように、制御部20は、ロータ11の回転により機体に作用する力として、各ロータ11の回転により機体に作用する推力f及び機体に作用するトルクτを演算する。なお、ロータ11の回転により機体に作用する力の演算は、上述した算出方式以外の他の算出方式によって行ってもよい。
【0034】
そして、図4のS12に処理が移行し、第二演算処理が行われる。第二演算処理は、飛行体1の機体に加わっている力を演算する処理である。例えば、第二演算処理では、機体に加わっている力として、機体の運動状態により機体に加わっている力及びトルク、並びに重力により機体に加わっている力を演算する。機体の運動状態により機体に加わっている力は、例えば機体の運動状態により推定される機体に加わる力である。つまり、機体の運動状態により機体に加わっている力は、M・aとして算出される。Mは、機体の質量、aは機体の加速度である。aは、大きさと方向をもつベクトルとして表される。機体の運動状態により機体に加わっているトルクは、例えば機体の運動状態により推定される機体に加わるトルクである。つまり、機体の運動状態により機体に加わっているトルクは、I・β+ω×I・ωとして算出される。Iは、機体の慣性モーメント(慣性テンソル)、βは機体の角加速度、ωは機体の角速度である。角加速度β及び角速度ωは、大きさと方向をもつベクトルとして表される。機体に加わる重力は、M・gとして算出される。gは、重力加速度であり、大きさと方向をもつベクトルとして表される。
【0035】
このように、第二演算処理において、機体に加わっている力f及び機体に加わっているトルクτは、次の式(3)及び式(4)によって算出される。
【0036】
=M・a+M・g …(3)
【0037】
τ=I・β+ω×I・ω …(4)
【0038】
式(3)の機体に加わっている力fは、飛行体1の直線運動に基づいて演算される力である。式(4)の機体に加わっているトルクτは、飛行体1の回転運動に基づいて演算されるトルクである。なお、第二演算処理では重力により機体に加わっている力を演算せず、重力により機体に加わっている力を第一演算処理で演算してもよい。
【0039】
そして、図4のS14に処理が移行し、外力演算処理が行われる。外力演算処理は、飛行体1の機体に加わっている外力を演算する処理である。例えば、外力演算処理では、S10の第一演算処理により演算される力とS12の第二演算処理により演算される力の差に基づいて機体に加わる外力が演算される。
【0040】
例えば、機体に加わる外力は、次の式(5)及び式(6)により演算される。
【0041】
f=f-f …(5)
【0042】
τ=τ-τ …(6)
【0043】
式(5)の外力fは、機体の直線運動における機体に加わる外力である。式(6)の外力τは、機体の回転運動における機体に加わる外力(トルク)である。
【0044】
このように、機体に加わる外力f及びτを演算により取得することができる。すなわち、機体に加わる外力f及びτを直接検出するセンサを用いることなく、機体に加わる外力f及びτを演算により取得することができる。
【0045】
図3に戻り、位置姿勢修正器は、飛行体1の機体が外部から受ける外力と現在の機体の位置信号及び姿勢信号とに基づいて、飛行指令を修正し修正指令を出力する。例えば、位置姿勢修正器は、飛行体1の機体が受ける外力が予め設定された外力値以上でない場合には、飛行指令を修正せずに修正指令として出力する。一方、位置姿勢修正器は、飛行体1の機体が受ける外力が予め設定された外力値以上である場合には、外力に抗する飛行指令を受け付けないように飛行指令を修正して修正指令を出力する。具体的には、飛行体1が進行方向にある構造物に接触して外力を受けた場合、飛行体1がその進行方向へ向かう飛行指令を受け付けず、その進行方向へ飛行して行かないように飛行制御が行われる。
【0046】
位置姿勢修正器から出力された修正指令は、飛行制御器に入力される。飛行制御器は、修正指令に応じて回転速度指令を出力する。回転速度指令は、各ロータ11の回転制御信号である。飛行制御器は、飛行体1の目標位置及び目標姿勢を示す修正指令と現在の機体の位置及び姿勢の信号とに基づいて、目標位置及び目標姿勢を実現するための目標推力及び目標トルクを算出する。そして、飛行制御器は、目標推力及び目標トルクを生じさせるように各ロータ11の回転速度指令を生成して、機体のモータアンプ30に回転速度信号を出力する。
【0047】
このような飛行体1の飛行制御によれば、狭所において飛行体1の不適切な飛行を抑制することができる。例えば、図5の(a)に示すように、上方及び側方に構造物が存在する狭所で飛行体1を飛行させる場合、飛行体1が構造物に接触又は衝突するおそれがある。そして、図5の(b)に示すように、飛行体1が側方の壁に接触し、所定値以上の外力を受けた場合、飛行体1は壁の方向へ進む飛行指令を受け付けなくなる。このため、図5の(c)に示すように、飛行体1は、壁の方向へ進む飛行指令を受け付けても壁の方へ進むことなく飛行位置を維持する。従って、飛行体1の機体を安定して飛行させることができる。
【0048】
これに対し、外部からの外力を考慮せずに飛行制御すると、飛行体1が壁に接触した場合であっても、さらに壁の方向へ飛行体1を進行させる飛行指令に従って飛行体1が壁に向かって飛行することとなる。この場合、飛行体1のロータ11が出力限界となるまで駆動するおそれがあり、飛行安定性が損なわれる。本実施形態に係る飛行体1は、このような不安定な飛行制御を抑制できるのである。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る飛行体1によれば、第一演算処理として少なくともロータの回転により機体に作用する力を演算し、第二演算処理として少なくとも機体の運動状態により機体に加わっている力を演算し、第一演算処理により演算される力と第二演算処理により演算される力の差に基づいて機体に加わる外力を演算する。このため、機体に加わる外力をセンサによって検出しなくても、機体に加わる外力を算出することができる。従って、機体に加わる外力を直接検出するセンサを用いることなく機体に加わる外力を取得し、機体に加わる外力を用いて飛行制御が行える。
【0050】
また、本実施形態に係る飛行体1によれば、第二演算処理として、機体の運動状態により機体に加わっている力及び重力により機体に加わっている力を演算する。このため、機体に作用する重力を加味して、機体に加わる外力を演算することができる。
【0051】
また、本実施形態に係る飛行体1によれば、機体が受ける外力に応じて飛行指令を修正して飛行制御が行われる。このため、機体に加わる外力を加味した飛行制御が可能となり、飛行体1が構造物などに接触又は衝突した場合であっても安定した飛行制御が行える。
【0052】
また、本実施形態に係る飛行体1によれば、外力が予め設定された外力値以上である場合にその外力に抗する飛行指令を受け付けずに複数のロータの回転数を制御する。このため、飛行体1が外力に抗して飛行することが抑制される。従って、飛行体が構造物に向かって飛行するなどの無理な飛行を抑制することができる。
【0053】
このような本実施形態に係る飛行体1は、カメラ撮影による構造物の点検などに用いる場合に適している。例えば、飛行体1にカメラを取り付け、飛行体1を構造物に近づけて飛行させ、構造物を撮像して点検を行う場合、飛行体1が構造物に接触してしまったとしても、飛行体1が構造物に接触した状態で飛行することが抑制される。従って、飛行体1の飛行が安定して行え、構造物の点検作業が円滑に行える。
【0054】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る飛行体1aついて説明する。
【0055】
本実施形態に係る飛行体1aは、図1に示す第一実施形態に係る飛行体1とほぼ同様な外観を呈している。本実施形態に係る飛行体1aにおけるロータ11の配置位置は、第一実施形態に係る飛行体1と同様に構成されている。
【0056】
図6は、飛行体1aの飛行制御を示すブロック線図である。図7は、飛行体1aの飛行動作の説明図である。図8は、飛行体1aの変形例を示す図である。
【0057】
図7の(a)、(b)に示すように、飛行体1aには、作業機器40が取り付けられている。作業機器40は、飛行体1aの作業の実行に用いられる機器である。作業機器40は、構造物などの外部物体に接触して作業を行う機器であって、例えば、超音波センサ、X線検査器、ネジ締め用ドライバ、清掃機器などが該当する。超音波センサは、構造物などに検出器を接触させることにより構造物などの内部状態を検出する。X線検査器は、構造物などに検査器を接触させて移動させることにより構造物などの内部状態を非破壊で検査する。ネジ締め用ドライバは、構造物などのネジを締める作業を行う。清掃機器は、構造物などの表面を拭くなどして清掃を行う。作業機器40は、制御部20と電気的に接続され、制御部20により作動制御される。
【0058】
作業機器40は、例えば、アーム部材41を介してペイロード部2に取り付けられる。具体的には、ペイロード部2の下部にアーム部材41が取り付けられ、側方に延びるアーム部材41の先端に作業機器40が取り付けられる。作業機器40が構造物などに当接、接触する場合、飛行体1aの機体には外力が加わることとなる。
【0059】
次に、本実施形態に係る飛行体1aの飛行制御について説明する。
【0060】
図6に示すように、まず、飛行制御器に対し機体の目標位置及び目標姿勢の信号が入力されると共に、現在の機体の位置及び姿勢の信号が入力される。機体の目標位置及び目標姿勢の信号は、送信機から受ける飛行指令である。現在の機体の位置及び姿勢の信号は、飛行体1に搭載されるジャイロセンサ24、GPSセンサ25、気圧センサ26及び加速度センサ27の少なくとも一つの出力信号である。飛行制御器は、機体の目標位置及び目標姿勢の信号と現在の機体の位置及び姿勢の信号に基づいて機体の目標推力及び目標トルクを演算する。
【0061】
また、飛行制御器に対し機体の現在の外力の信号が入力されると共に、目標外力が入力される。現在の外力の信号は、外力演算器により出力される外力の信号である。この外力演算器による外力の演算は、上述した第一実施形態と同様に行われる。目標外力は、予め制御部20に設定される外力の目標値である。例えば、作業機器40に応じた目標外力が制御部20に設定される。すなわち、構造物などに作業機器40を押し付けたい押圧力に応じて目標外力が設定される。目標外力を設定して作業機器40を構造物などに押し付けたとき、構造物などから受ける外力の大きさは、構造物などに対する作業機器40の押圧力と同じとなる。
【0062】
飛行制御器は、機体の現在の外力の信号と目標外力に基づいて外力制御信号を出力する。外力制御信号は、飛行体1aが構造物などから受ける外力、すなわち作業機器40を構造物などへ押圧する力を調整するための信号である。この外力制御信号は、目標推力及び目標トルクの信号に加算される。そして、その加算された信号に基づいて回転速度演算が行われる。この回転速度演算により、各ロータの回転速度指令が算出される。回転速度指令は、各ロータ11の回転制御信号である。飛行制御器は、作業機器40の押圧力が目標外力と同じ力となるように作業機器40を構造物などに押圧させて飛行体1aを飛行させる。
【0063】
このような飛行体1aの飛行制御によれば、飛行体1aを構造物などに積極的に押し付けて飛行させることができる。例えば、図7の(a)に示すように、作業機器40を取り付けた飛行体1aを飛行させ、作業対象となる構造物の前に位置させる。そして、図7の(b)に示すように、飛行体1aを構造物に向けて移動させて作業機器40を構造物に押圧させる。このとき、外力演算器により構造物から受ける外力を演算し、その外力が目標外力となるように飛行体1aを飛行させる。これにより、飛行体1aに取り付けた作業機器40を構造物に対して所望の押圧力で押圧させて飛行体1aを飛行させることができる。なお、このときの飛行体1の操縦は、地上の操縦者による手動操縦で全て行われてもよいが、手動操縦により構造物の前の位置に飛行体1aを飛行させ、そこから自動操縦により飛行体1aを構造物に押圧させて飛行させてもよい。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る飛行体1aによれば、機体に目標外力が加わるように機体を外部物体に積極的に押し付けるような飛行が可能となる。
【0065】
また、本実施形態に係る飛行体1aにおいても、第一実施形態に係る飛行体1と同様に、第一演算処理としてロータの回転により機体に作用する力を演算し、第二演算処理として機体の運動状態により機体に加わっている力を演算し、第一演算処理により演算される力と第二演算処理により演算される力の差に基づいて機体に加わる外力を演算することができる。このため、機体に加わる外力を直接検出するセンサを用いることなく機体に加わる外力を取得し、機体に加わる外力を用いて飛行制御が行える。
【0066】
なお、本発明に係る飛行体は、上述した各実施形態に係る飛行体1、1aに限られるものでなく、特許請求の範囲の記載される要旨を変更しないように、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、実施例の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0067】
例えば、各実施形態に係る飛行体1、1aは、ケーブルを接続して飛行するものであってもよい。具体的には、図8に示すように、飛行体1aのペイロード部2にケーブル5を接続し、ケーブル5の張力を機体が受ける外力して演算し、その外力を考慮して飛行制御を行ってもよい。ケーブル5は、例えば飛行体1aへの電力供給、飛行指令の入力などに用いられる。
【0068】
また、上述した実施形態に係る飛行体1、1aでは、6枚のロータ11を備えたものについて説明したが、6枚以上のロータ11を備えるものであってもよい。また、6枚のロータ11の他に、1枚または複数枚の補助的なロータまたは予備のロータが更に設けられてもよい。本発明は、UAVに適用される場合に限られず、有人航空機に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1、1a 飛行体
2 ペイロード部(本体)
11 ロータ
11a 回転中心
20 制御部(第一演算部、第二演算部、外力演算部、飛行制御部)
40 作業機器
N 鉛直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8