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  • 特許-熱転写リボン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】熱転写リボン
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/382 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B41M5/382 420
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018163607
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020032700
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】本橋 晃
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-145946(JP,A)
【文献】特開2014-065265(JP,A)
【文献】特開2016-124228(JP,A)
【文献】特開2017-165073(JP,A)
【文献】特開2012-071538(JP,A)
【文献】特開2003-320758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/382
B32B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、染料層および転写性保護層が繰り返し形成された熱転写リボンであって、
前記転写性保護層は、基材上に形成された第一層と、前記第一層上に形成された第二層とを有し、
前記第一層は、電荷制御剤を含有し、
前記第二層は、帯電防止剤および滑剤を含有し、
前記電荷制御剤が、アジン系化合物、スチレンアクリル系ポリマー、アゾ含金属化合物、サリチル酸系化合物、の少なくとも一つを含む、
熱転写リボン。
【請求項2】
前記帯電防止剤が、カチオン性の界面活性剤、アニオン性の界面活性剤、金属系導電性ポリマー、金属酸化物、及び水酸基を有する化合物のいずれかを含む、
請求項1に記載の熱転写リボン。
【請求項3】
前記第一層における前記電荷制御剤の含有量が、0.1~5.0質量%である、
請求項1に記載の熱転写リボン。
【請求項4】
前記第二層における前記帯電防止剤の含有量が、0.1~10.0質量%である、
請求項1に記載の熱転写リボン。
【請求項5】
前記滑剤は、シロキサン変性物を有するシリコーンオイルである、
請求項1に記載の熱転写リボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写リボンに関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写リボンとは、熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンであり、サーマルリボンとも呼ばれる。一般的な熱転写リボンは、基材の一方の面に熱転写性インク層を、基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)をそれぞれ設けた構成を有する。熱転写性インク層のインクは、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)され、熱転写受像シート側に転写される。
【0003】
昇華転写方式のプリンタに使用される熱転写リボンは、基材の一方の面に耐熱性樹脂層(バックコート層)を、他方の面に昇華性染料層をそれぞれ有する。昇華性染料層は、インクの層であり、プリンタのサーマルヘッドに印加した熱によって、その昇華性染料層の染料を昇華させ、受像シートの受像層に転写する。
現在、昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便に形成できるため、身分証明書等のカード類を始め、アミューズメント用出力物等に広く利用されている。用途の多様化と共に、得られる印画物への印画物の保護性能を求める声も大きくなり、最近では転写された画像等の上に熱転写性保護層を転写し、印画物の保護性能をより向上させる方法が普及してきている。
【0004】
一方、プリンタの高速化が進み、短時間で連続して印画、排出されてくる印画物が、上下に隣接する印画物同士で貼り付いたりはみ出したりせず、整然と重ねて配置されること、いわゆる「捌き性」が良いことも求められている。
【0005】
この点に関し、特許文献1では、四級アンモニウム塩からなる界面活性剤やアンチモン酸亜鉛等の導電性金属酸化物を含有させることにより、熱転写性保護層に帯電防止機能を付与することが提案されている。
特許文献2では、針状結晶の導電性無機物質を含む導電性保護層により帯電防止機能を付与することが提案されている。
特許文献3では、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンを含有させることにより、熱転写性保護層に帯電防止機能を付与することが提案されている。
特許文献4では、電化制御剤を含有させることにより、熱転写性保護層に帯電防止機能を付与することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-105437号公報
【文献】特開2003-145946号公報
【文献】特開2011-194707号公報
【文献】特開2017-189911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1から4に記載の方法で、十分な帯電防止機能を持たせるためには、所定の材料を比較的多量に保護層に含有させる必要がある。その結果、熱転写性保護層のコスト上昇と透明性の低下が避けがたい。
さらに、詳細は後述するが、所定の材料を比較的多量に保護層に含有させた場合、印画シワの発生率が上昇することが分かった。
【0008】
上記事情を踏まえ、本発明は、印画物の高い捌き性と印画シワの抑制との両方を実現する熱転写リボンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材の一方の面に、染料層および転写性保護層が繰り返し形成された熱転写リボンである。
転写性保護層は、基材上に形成された第一層と、第一層上に形成された第二層とを有する。第一層は、電荷制御剤を含有し、第二層は、帯電防止剤および滑剤を含有する。
電荷制御剤は、アジン系化合物、スチレンアクリル系ポリマー、アゾ含金属化合物、サリチル酸系化合物、の少なくとも一つを含む

【発明の効果】
【0010】
本発明の熱転写リボンは、印画物の高い捌き性と印画シワの抑制との両方を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る熱転写リボンの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態の熱転写リボン1を示す模式断面図である。図1に示すように、熱転写リボン1は、基材10と、染料層20と、転写性保護層30と、耐熱滑性層40とを備えている。染料層20および転写性保護層30は、基材10の第一面10a上に設けられている。耐熱滑性層30は、基材10において、第一面10aと反対側の第二面10b上に設けられている。染料層20および転写性保護層30の組は、熱転写リボン1の長手方向に繰り返し複数形成されている。
【0013】
基材10としては、各種のプラスチックフィルムを使用できる。プラスチックフィルムの材質に特に制限はないが、機械強度が高く、表面が平滑となる点で、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が好適である。これらの中で、ポリエチレンテレフタレート(PET)は比較的安価であり、強度が高く薄いフイルムを形成できるため、好ましい。
基材10の厚さに特に制限はないが、一例を挙げると、1~50μm程度である。
【0014】
本実施形態の染料層20は、イエロー染料層21、マゼンタ染料層22、シアン染料層23の3つの着色層を有する。着色層の数や配置の順番は本実施形態の態様に限られず、適宜設定できる。
【0015】
染料層20に用いるベース樹脂は、耐熱性、堅牢性、染料の染着性能等のバランが良いポリビニルブチラール樹脂が好適である。
ポリビニルブチラール樹脂は、架橋構造を含んでもよい。例えばポリビニルブチラール樹脂にポリオール成分(水酸基)を含有させ、イソシアネート架橋剤を添加し反応させることでウレタン架橋構造を形成できる。
イソシアネート架橋剤は、イソシアネート基を分子内に少なくとも1以上有する化合物で構成されればよい。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)系、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系、メチレンジフエニルジイソシアネート(MDI)系、キシリレンジイソシアネート(XDI)系等を例示できる。
【0016】
染料層20に用いる染料として、熱転写リボンに使われる一般的な昇華染料を使用できる。例えば、ジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メチン系、アゾメタン系、キサンテン系、アキサジン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、アゾ系、スピロジピラン系、イソドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンダクタム系、アントラキノン系等が挙げられる。
【0017】
より具体的には、イエロー染料層21に用いられるイエロー染料として、C.I.ソルベントイエロー14、16、29、30、33、56、93等、C.1.デイスパースイエロー7、33、60、141、201、231等を例示できる。マゼンタ染料層22に用いられるマゼンタ染料として、C.I.ソルベントレッド18、19、27、143、182等、C.I.デイスパースレッド60、73、135、167等、C.I.デイスパースバイオレット13、26、31、56等を例示できる。シアン染料層23に用いられるシアン染料として、C.I.ソルベントブルー11、36、63、105等、C.1.デイスパースブルー24、72、154、354等を例示できる。
【0018】
染料層20の各層は、シリコーン系離型剤を含有してもよい。シリコーン系離型剤としては、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル等を例示できる。
染料層20の形成方法は特に制限されない。一例を挙げると、まず、溶剤に上述した各成分を添加して染料層形成用インクを作製する。染料層形成用インクを基材10上にグラビアコート等により塗布した後乾燥すると。基材10上に染料層20を形成できる。
溶剤としては、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、プチルセロソルブ等を例示できる。
染料層20の各層の厚みに特に制限はない。一例を挙げると、0.5~2.0μm程度であり、印画物の外観等を考慮して適宜設定してよい。
【0019】
転写性保護層30は、概ね透明な樹脂の層であり、基材10上に設けられた第一層31と、第一層31上に形成された第二層32とを有する。
第一層31は、電荷制御剤を含有する。電荷制御剤としては、正帯電用の電荷制御剤、負帯電用の電荷制御剤のいずれも用いることができる。正帯電用電荷制御剤としては、アジン系化合物、スチレンアクリル系ポリマー、アゾ含金属化合物、などを例示できる。負帯電用電荷制御剤としては、アゾ含金属化合物、サリチル酸系化合物、スチレンアクリル系ポリマーなどを例示できる。中でも、スチレンアクリル系ポリマーは、正帯電および負帯電のいずれにも効果があり、好ましい。電荷制御剤は、複数種類が混合されて使用されてもよい。
電荷制御剤の含有率は、0.1%~5.0%が好ましく、0.5%~1%がさらに好ましい。0.1%以下では、効果が十分に得られない。また、詳細は後述するが、5%以上の添加では、却って捌き性を損なう場合がある。
【0020】
第一層31のベース樹脂としては、アクリル樹脂が用いられる。アクリル樹脂としては、三菱ケミカル社製のダイヤナール(登録商標)シリーズBR-88、BR-85、BR-84、BR-82、BR-50、BR-52、BR-90、BR-113、BR-116等を例示できる。
第一層31は、その機能を損なわない範囲で各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、フィラー等を例示できる。
第一層31の厚みは適宜設定でき、例えば0.3~3μm程度でもよい。
【0021】
第二層32は、受像シート、および受像シート上に形成された印画物層と接触、接合する層である。第二層32は、帯電防止剤および滑剤を含有する。
帯電防止剤としては、カチオン性またはアニオン性の界面活性剤、金属系導電性ポリマー、金属酸化物、水酸基を有する化合物等を例示できる。中でも、四級アンモニウム塩が好ましく、第一工業製薬製 カチオーゲンES-L9などを例示できる。
帯電防止剤の含有率は0.1%から10%が好ましく、0.5%~2.0%がさらに好ましい。0.1%以下では、効果が十分に得られない。一方で、10%以上の添加では、印画シワの発現リスクがあがる。
滑剤としては、天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、合成ケトン性ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、リン酸エステル、シリコーン系樹脂などを例示できる。中でも、シロキサン変生物が好ましく、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンのいずれかを含むことが好ましい。アミノ変性シリコーンとしては、例えば、信越化学社製 ジアミノ変性シリコーンKF393、BASF社EFKA3031SL等のアミノ変性シリコーンオイルを例示できる。
滑剤の含有率は、0.1%~2.0%が好ましく、0.5%~2.0%がさらに好ましい。0.1%以上の添加では、効果が十分に得られない。一方で、2.0%以上の添加の場合には、変性シリコーンオイルと、樹脂、溶剤との相溶性の観点から、泡立ちなどの発生が起こる場合があり、外観が悪化することがある。
【0022】
第二層32のベース材料としては、熱で溶融する樹脂を使用できる。例えば、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、石油樹脂、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、エステルガム、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム、ポリ塩素化オレフィン等の天然樹脂や合成ゴムの誘導体、カルナバワックス、パラフィンワックス等のワックス類が挙げられる。
第二層32には、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒促進剤、着色剤、艶調整剤、蛍光増白剤等の各種機能性添加剤が添加されてもよい。
第二層32の厚みは適宜設定でき、例えば0.5~3.0μm程度でもよい。
【0023】
耐熱滑性層40は、プリンタのサーマルヘッドと熱転写リボン1との間の熱による固着を防ぐ機能を発揮する。耐熱滑性層40は、バインダー、滑剤、研磨剤等を含む。
【0024】
バインダーとしては、例えば水酸基を含む熱可塑性樹脂とイソシアネート類との反応生成物を使用できる。水酸基を含む熱可塑性樹脂としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ウレタンポリオール等を例示できる。このうち、アクリルポリオールは好適であり、その中でも高分子量のものが特によい。イソシアネート類としては、多価イソシアネートを使用できる。
【0025】
滑剤としては、例えばリン酸エステルを使用できる。リン酸エステルは、例えばリン酸1分子当たり3か所のリン酸基のうち、エステル化が1か所又は2か所なされている構造を有していてもよい。リン酸エステルとしては、飽和アルコール(例えば、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール等)又は不飽和アルコール(例えば、オレイルアルコール等)のアルキレンオキサイド付加物とリン酸とのモノエステル又はジエステルが好ましい。アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイドが好ましく、付加数は1~20が好ましく、1~8がより好ましい。
【0026】
研磨剤は、プリンタのサーマルヘッドと接する耐熱滑性層40、又は熱転写リボン1の他の層から発生する印画カスを除去する役割を有する。研磨剤としては、例えば酸化マグネシウムを使用できる。酸化マグネシウムは公知の方法により製造されたものを用いることができる。公知の製造方法として、マグネシウムの炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を焼成して加水分解する方法や、マグネシウムを気相酸化する方法などを例示できる。
酸化マグネシウムのほかに、シリカ等の酸化物、タルク、カオリン等の粘土鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、硫酸カルシウム等の硫酸塩、グラファイト、硝石、窒化ホウ素等の無機微粒子、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、アセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂等の有機樹脂微粒子、これらを架橋剤と反応させた架橋樹脂微粒子なども、研磨剤として使用できる。
【0027】
耐熱滑性層40を形成する方法は、特に制限されない。一例として、上述した各成分を含む混合物を作製し、基材10の一方の面に塗布した後、乾燥する方法を例示できる。
耐熱滑性層4の厚さに特に制限はなく、例えば1.0~1.5μmである。
【0028】
上記のように構成された熱転写リボン1の使用時の動作について、説明する。
熱転写リボン1は、所定の熱転写プリンタに取り付けられる。熱転写リボン1は、熱転写プリンタ内において、染料層20側が受像シートに対向するように配置される。この状態で、耐熱滑性層40側からサーマルヘッドが熱転写リボン1を加熱すると、染料層20の各染料層が受像シートに昇華転写される。本実施形態においては、受像シート上の同一領域に対して、イエロー染料層21,マゼンタ染料層22及びシアン染料層23が、印画物の色彩に応じたパターンで順次昇華転写され、最終的に多色の印画物層が受像シート上に形成される。
【0029】
続いて、転写性保護層30が加熱され、印画物層を覆うように受像シートに転写される。すべての転写が終わった後、印画された受像シート(印画物)がプリンタのトレーに排出される。
【0030】
印画物の捌き性は、トレーに排出された印画物が良好に積み重ねられていくか否かに大きく影響する。
捌き性を決める要因の一つに、熱転写後の受像シート表面の電位がある。本実施形態の熱転写リボンは、転写性保護層の第一層31に電荷制御剤を含有するため、熱転写後の受像シート表面の電位を安定させて帯電させることができる。
【0031】
しかし、電荷制御剤は、熱転写時の印画物表面の帯電をコントロールすることができ、捌き性の良化は期待できるが、電荷制御剤単独では、効果は必ずしも十分ではない場合があった。電荷制御剤による捌き性改善のメカニズムは、電荷制御剤のチャージにより印画物表面に所定の帯電を生じさせ、印画物裏面に正負が同じ帯電をさせることにより、隣接する印画物に静電気的な反発力を生じさせることにある。しかしながら、プリンタ搬送時の受像シート裏面には、搬送時の接触面積の変動等により裏面のチャージがマイナスになったり、プラスになったりする。その結果、電荷制御剤の効果が顕著である場合とあまりない場合とが混在する。
さらに、発明者の検討では、電荷制御剤により印画物の表裏に同符号の帯電が生じる場合でも、熱転写リボンの巻き出しによる剥離帯電の蓄積でチャージが増大するにつれ、同符号でも電位差が大きくなりすぎることにより捌き性が悪化する場合があることが分かった。
【0032】
熱転写リボンは、プリンタ内で搬送される際に生じる摩擦によって帯電する。この帯電は、印画物の捌き性に影響する。熱転写リボンの転写性保護層に帯電防止剤を含有させると、リボン搬送時の摩擦による帯電と、印画動作により印画物表面に生じる帯電の両方を抑制できる。また、上述した剥離帯電の蓄積による過剰なチャージも防止できる。
優れた帯電防止剤である四級アンモニウム塩は、水を吸着して放電することにより帯電を防ぐ物質であるため、最表面に多量に配置することでその効果を最大限に発揮する。しかし、水と結合した四級アンモニウム塩は摩擦が大きくなるため、転写性保護層に多量に含まれていると、隣接して排出される印刷物との間に生じる摩擦を増大させ、捌き性の改善効果を低減することがある。
【0033】
発明者は、この現象を防ぐため、転写性保護層を第一層および第二層の二層構成にし、帯電防止剤を印画物における転写性保護層表面から遠い側の第二層のみに含有させることにより、吸湿した帯電防止剤により生じる摩擦増大の影響を小さくすることを考えた。しかし、発明者が検討したところ、帯電防止剤が第二層に遍在することにより、捌き性の悪化を防ぐことはできたものの、印画物において、転写性保護層がよれて転写される印画シワや、ジャミングなどの不具合が増えることが分かった。これは、熱転写リボンにおいて第二層上面の摩擦が大きくなり、その結果、転写性保護層の転写時に受像シート表面と転写性保護層との間に大きな摩擦が生じることが原因と考えられた。
【0034】
発明者は、新たに得られた上記知見を踏まえ、第二層に滑剤を添加することにより、これらの不具合を解決した。本実施形態の熱転写リボンは、第二層32に帯電防止剤および滑剤を含有する。転写性保護層30が受像シートに転写される前の熱転写リボン1において、転写線保護層30の上面は第二層32であるため、帯電防止剤によって熱転写リボン搬送時の摩擦による帯電が十分に抑制され、第一層31が含有する電荷制御剤による過度なチャージも好適に防止される。さらに、滑剤により転写性保護層が受像シートに転写される際の摩擦が低減され、印画シワ、ジャミング等の不具合の発生が低減される。さらに、転写後の印画物における転写性保護層の上面は第一層31となるため、吸湿した帯電防止剤による摩擦増大の影響が、印画物における転写性保護層表面に及びにくく、捌き性の改善効果が好適に発揮される。
以上により、本実施形態の熱転写リボン1は、良好な捌き性の確保と印画シワ等の抑制との両立を実現できる。
【0035】
本発明の熱転写リボンについて実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明は、実施例および比較例の内容によって何ら制限されない。
文中における「部」は、とくにことわらない限り質量部を意味する。
【0036】
まず、下記に示す組成の各種インクを調製した。
第一層形成用インクは、メチルエチルケトン、トルエン以外の材料を計量して先に混ぜ合わせ、これにメチルエチルケトン、トルエンを添加し、50℃に加温しながらプロペラ攪拌を行い、溶剤に他の材料を溶解させて調整した。
【0037】
<耐熱滑性層形成用インク>
ポリビニルアセタール樹脂 25.2部
イソシアネート硬化剤 1.1部
タルク 1.0部
メチルエチルケトン 36.4部
トルエン 36.3部
【0038】
<イエロー染料層形成用インク>
C.I.ソルベントイエロー93 7.5部
C.I.ソルベントイエロー16 2.5部
ポリビニルアセタール樹脂 8.5部
シリコーン変性樹脂 0.2部
2,6-トリレンジイソシアネート 1.5部
メチルエチルケトン 53.2部
トルエン 26.6部
【0039】
<マゼンタ染料層形成用インク>
C.I.デイスパースレッド60 5.0部
C.I.デイスパースバイオレット26 5.0部
ポリビニルアセタール樹脂 8.5部
シリコーン変性樹脂 0.2部
2,6-トリレンジイソシアネート 1.5部
メチルエチルケトン 53.2部
トルエン 26.6部
【0040】
<シアン染料層形成用インク>
C.I.ソルベントブルー63 5.0部
C.I.ソルベントブルー36 5.0部
ポリビニルアセタール樹脂 8.5部
シリコーン変性樹脂 0.2部
2,6-トリレンジイソシアネート 1.5部
メチルエチルケトン 53.2部
トルエン 26.6部
【0041】
<第一層形成用インクA>
ダイヤナール BR-85 10.0部
ポリマー型電荷制御剤 FCA-1001-NS(藤倉化成社製) 0.1部
バイロン 220 0.1部
メチルエチルケトン 44.8部
トルエン 45.0部
<第一層形成用インクB>
BR-85 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.5部
バイロン 220 0.1部
メチルエチルケトン 44.4部
トルエン 45.0部
<第一層形成用インクC>
BR-85 10.0部
バイロン 220 0.1部
メチルエチルケトン 44.9部
トルエン 45.0部
【0042】
<第二層形成用インク1>
BR-113 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.2部
滑剤 EFKA SL3031 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.1部
<第二層形成用インク2>
BR-113 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.2部
滑剤 KF393 信越化学社製 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.1部
<第二層形成用インク3>
BR-113 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.2部
滑剤 KF-96 (ジメチルシリコーンオイル 信越化学社製) 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.1部
<第二層形成用インク4>
BR-113 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.2部
滑剤 X-22-2046 (側鎖型/脂環式エポキシ変性シリコーンオイル
信越化学社製) 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.1部
<第二層形成用インク5>
BR-113 10.0部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.5部
<第二層形成用インク6>
BR-113 10.0部
滑剤 EFKA SL3031 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.3部
<第二層形成用インク7>
BR-113 10.0部
帯電防止剤 カチオーゲンES-L9 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.3部
<第二層形成用インク8>
BR-113 10.0部
ポリマー型電荷制御剤 FCA-1001-NS 0.2部
2-(ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-
2H-ベンゾトリアゾール 0.5部
メチルエチルケトン 89.3部
【0043】
<インク受容層形成用インク>
塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
メチルエチルケトン 40.0部
トルエン 40.0部
【0044】
各例の熱転写リボンに共通する耐熱滑性層付き基材を以下の手順で作製した。
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材(ポリエチレンテレフタレートフイルム:厚さ4.5μm)の一方の面に、上述した耐熱滑性層形成用インクをグラビアコート法により塗布、乾燥し、乾燥後の厚みが0.9μmの耐熱滑性層を形成した。その後、50℃ 6日間のエージングを施して、耐熱滑性層付き基材を得た。
【0045】
各例の性能を評価するための受像シートを以下の手順で作製した。
<受像シートの作製>
基材シート(発泡ポリエステルフイルム:厚さ42μm)の一方の面に、上述したインク受容層形成用インクをグラビアコート法により塗布、乾燥し、乾燥後の厚みが5.0μmのインク受容層を形成して受像シートを得た。
【0046】
(実施例1)
上述した耐熱滑性層付き基材において、耐熱滑性層が設けられていない面にコロナ処理を施した。次に、上述したイエロー染料層形成用インク、マゼンタ染料層形成用インク、シアン染料層形成用インク、および第一層形成用インクAを用いて、グラビアコート法により、基材上にイエロー染料層、マゼンタ染料層、シアン染料層、および第一層を順次形成した。各染料層の乾燥後膜厚は0.7μm、第一層の乾燥後膜厚は0.5μmとした。
最後に、第一層の上に、第二層形成用インク1を用いて、グラビアコート法により第二層を形成した。第二層の乾燥後膜厚は0.5μmとした。
以上により、実施例1の熱転写リボンを作製した。
【0047】
(実施例2)
第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク2を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2の熱転写リボンを作製した。
(実施例3)
第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク3を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3の熱転写リボンを作製した。
(実施例4)
第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク4を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4の熱転写リボンを作製した。
【0048】
(比較例1)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクCを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク5を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の熱転写リボンを作製した。
【0049】
(比較例2)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクCを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク6を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例2の熱転写リボンを作製した。
【0050】
(比較例3)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクCを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク7を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3の熱転写リボンを作製した。
【0051】
(比較例4)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクCを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク8を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例4の熱転写リボンを作製した。
【0052】
(比較例5)
第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク2を使用した点を除き実施例1と同様の手順で比較例5の熱転写リボンを作製した。
【0053】
(比較例6)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクBを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク6を使用した点を除き実施例1と同様の手順で比較例6の熱転写リボンを作製した。
【0054】
(比較例7)
第二層形成用インク8を用い、グラビアコート法により単層の転写性保護層を形成した。転写性保護層の乾燥後膜厚は1.2μmとした。それ以外は実施例1と同様の手順で比較例7の熱転写リボンを作製した。
(比較例8)
第二層形成用インク8に代えて第二層形成用インク7を使用した点を除き、比較例7と同様の手順で比較例8の熱転写リボンを作製した。
【0055】
(比較例9)
第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク7を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例5の熱転写リボンを作製した。
(比較例10)
第一層形成用インクAに替えて第一層形成用インクBを使用し、第二層形成用インク1に替えて第二層形成用インク8を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例10の熱転写リボンを作製した。
【0056】
<評価用印画物の作製>
各実施例および各比較例に係る熱転写リボンをサーマルフォトプリンタD-70(三菱電機社製)にセットし、受像シートのインク受容層上に所定の画像(後述)を印画し、各例に係る評価用印画物を得た。
【0057】
各例の評価用印画物および印画物作製時の動作に基づき、以下の評価を行った。
<捌き性>
評価用印画物としてグレー(ベタ)の印画物を20枚印画し、専用トレーに排出させた。20枚の印画物を束ねて机上で約2cmの高さから落下させて印画物を揃える動作を行った。動作5回以内で揃った場合を〇(good)、動作6回以上10回以下の間で揃った場合は、△(fair)、10回の動作で揃わない場合には、×(bad)の3段階で評価した。
【0058】
<印画シワ>
評価用印画物として白黒半画像を印画した。印画物表面の目視でシワを認めない場合は〇(good)、印画物表面の目視でシワを認めた場合は×(bad)、の2段階で評価した。
【0059】
<リボン帯電評価>
各例の熱転写リボンを専用トレーに置き、搬送させたときの帯電量を帯電電位計で計測した。帯電電位が-5KV以上~+5KV以下の場合を〇(good)、帯電電位が〇の範囲外であってかつ-15KV以上~+15KV以下の場合を△(fair)、帯電電位が△の範囲外であってかつ-15KV未満あるいは+15KV超の場合を×(bad)の3段階で評価した。
結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、いずれの実施例も、良好な捌き性と印画シワの抑制が両立されていた。
比較例2の結果より、捌き性は滑剤のみで改善しないことがわかる。
比較例3および4の結果より、捌き性は電荷制御剤および帯電防止剤の一方のみでは転写性保護層内の位置に関わらず改善しないことがわかる。
比較例3、8、および9の結果より、転写性保護層の第二層が帯電防止剤を含有し、滑剤を含有しない場合、印画シワを十分抑制できないことがわかる。
【0062】
本発明の熱転写リボンは、昇華転写方式のプリンタに使用することができる。本発明の熱転写リボンを用いると、画像形成後に熱転写性保護層を熱転写した後に良好な捌き性を示し、得られた印画物の保護層にシワを認めない。したがって、身分証明書などのカード類をはじめとして、各種カラー出力を必要とする幅広い分野での応用が期待できる。
【符号の説明】
【0063】
1 熱転写リボン
10 基材
20 染料層
30 転写性保護層
31 第一層
32 第二層
図1