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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】コーティング用組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20220809BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220809BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220809BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
C09D183/04
C09D133/04
C09D7/65
B32B27/40
B32B27/00 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018186635
(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公開番号】P2020055938
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138242(JP,A)
【文献】特開平05-209149(JP,A)
【文献】特開2013-067787(JP,A)
【文献】特開平09-188847(JP,A)
【文献】特開2008-260883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0152288(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106833212(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョン:固形分比で60~99質量%、
(B)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとアクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位とが質量比30:70~99:1の割合である、平均粒子径が180nm以下のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョン:固形分比で1~40質量%
を含有してなり(但し、艶消し剤の配合を除く)、透明性を有することを特徴とするコーティング用組成物。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R1及びXの各々の1価炭化水素基が、炭素数1~20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である請求項1記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの平均粒径が50~180nmである請求項1又は2記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンが、
(b1)上記一般式(1)で示される平均粒子径が180nm以下のポリオルガノシロキサンと、
(b2)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体と、
(b3)これと共重合可能な官能基含有単量体と
の乳化グラフト共重合物である請求項1~3のいずれか1項記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
上記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンの平均粒子径が50~180nmである請求項4記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
ヘーズ値0.70%のスライドガラスの上に塗布した際の下記式で表されるヘーズ増加率(%)が、1000%以下である請求項1~5のいずれか1項記載のコーティング用組成物。
ヘーズ値の増加率(%) = 〔( Y - 0.70 ) / 0.70〕 × 100
Y:コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値
【請求項7】
基材表面のコーティング用である請求項1~6のいずれか1項記載のコーティング用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のコーティング用組成物による皮膜が基材の片面又は両面に形成されるものであり、その基材が、プラスチック、硝子、木材及び繊維の群から選ばれることを特徴とする積層体。
【請求項9】
基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン及びエポキシ樹脂から選ばれるプラスチックである請求項8記載の積層体。
【請求項10】
基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスから選ばれるガラスである請求項8記載の積層体。
【請求項11】
基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科から選ばれる木材である請求項8記載の積層体。
【請求項12】
基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素から選ばれる繊維である請求項8記載の積層体。
【請求項13】
コーティング用組成物による皮膜の厚さが0.5~50μmである請求項8~12のいずれか1項記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物に関するものであり、より詳しくは基材表面にコーティングすることで、透明性を維持し、摺動性を付与することができるエマルジョン型コーティング用組成物に関する。また、本発明は、このコーティング用組成物による皮膜が形成された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング剤の分野においては、環境問題の点で有機溶剤系から水系へと分散媒の移行が進んでいる。ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系などのエマルジョンは優れた皮膜形成能があり、コーティング剤として広く用いられてきた。
【0003】
また、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系の樹脂をコーティング剤として使用する場合には、塗膜が白化するなどの不具合があった。
【0004】
そこで、皮膜形成能を有するウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合してコーティング剤として使用する方法が試みられている。しかし、混合することによって、シリコーン系樹脂の摺動性を発揮できなかったり、元のウレタン系、アクリル系や塩化ビニル系の性能を劣化させるなどして満足な性能を発揮していないのが現実である。
【0005】
本発明者は、特開2013-67787号(特許文献1)の公報の中で、ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合したコーティング剤が基材に撥水性を付与できることを開示している。しかし、摺動性と塗膜の透明性については改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-67787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ウレタン系エマルジョンと混合した際に、透明性を維持しながら、シリコーンの摺動性を効果的に付与したエマルジョン型コーティング用組成物及びその皮膜が形成された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、皮膜形成能を有するウレタン系エマルジョンと特定のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンとを所定の割合で配合したコーティング用組成物を開発するに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記のコーティング用組成物及び積層体を提供する。
1.(A)皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョン:固形分比で60~99質量%、
(B)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとアクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位とが質量比30:70~99:1の割合である、平均粒子径が180nm以下のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョン:固形分比で1~40質量%
を含有してなり(但し、艶消し剤の配合を除く)、透明性を有することを特徴とするコーティング用組成物。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
2.上記一般式(1)において、R1及びXの各々の1価炭化水素基が、炭素数1~20の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である上記1記載のコーティング用組成物。
3.(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの平均粒径が50~180nmである上記1又は2記載のコーティング用組成物。
4.(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンが、
(b1)上記一般式(1)で示される平均粒子径が180nm以下のポリオルガノシロキサンと、
(b2)アクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体と、
(b3)これと共重合可能な官能基含有単量体と
の乳化グラフト共重合物である上記1~3のいずれかに記載のコーティング用組成物。
5.上記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサンの平均粒子径が50~180nmである上記4記載のコーティング用組成物。
6.ヘーズ値0.70%のスライドガラスの上に塗布した際の下記式で表されるヘーズ増加率(%)が、1000%以下である1~5のいずれかに記載のコーティング用組成物。
ヘーズ値の増加率(%) = 〔( Y - 0.70 ) / 0.70〕 × 100
Y:コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値
7.基材表面のコーティング用である上記1~6のいずれかに記載のコーティング用組成物。
8.上記1~7のいずれかに記載のコーティング用組成物による皮膜が基材の片面又は両面に形成されるものであり、その基材が、プラスチック、硝子、木材及び繊維の群から選ばれることを特徴とする積層体。
9.基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン及びエポキシ樹脂から選ばれるプラスチックである上記8記載の積層体。
10.基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスから選ばれるガラスである上記8記載の積層体。
11.基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科から選ばれる木材である上記8記載の積層体。
12.基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素から選ばれる繊維である上記8記載の積層体。
13.コーティング用組成物による皮膜の厚さが0.5~50μmである上記8~12のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング用組成物は、優れた透明性、摺動性を有し、該コーティング用組成物による皮膜が形成された積層体の外観を損なわずに高い耐摩耗性を維持することができる。また水系であるため、作業面・環境面で利点が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、(A)成分として、皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョンと、(B)成分として、下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとアクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位とが質量比30:70~99:1の割合である、平均粒子径が50~180nmのシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンとを含有し、(A)成分を固形分比で60~99質量%、(B)成分を1~40質量%の範囲でそれぞれ配合するコーティング用組成物であり、基材に塗布した際のヘーズヘ増加率が、塗布前の基材のヘーズ値に対して1000%以下であることを特徴とするコーティング用組成物である。
【0012】
(A)皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョンは、公知の方法、例えばアニオン又はノニオン系乳化剤等を用いた乳化重合法で合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。皮膜形成能とは、一定温度以上で、乾燥後の塗膜表面の粒子性がなくなり、かつ、乾燥時に細かいひび割れなどを起こさない性能である。皮膜形成のための乾燥温度範囲は特に限定されないが、好ましくは30~150℃、より好ましくは100~150℃である。
【0013】
(A)成分のウレタン系樹脂エマルジョンとしては、具体的には、ポリイソシアネートとポリオールとの反応物で、該ポリオールとしてポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系等を用いた各種水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。このウレタン系樹脂エマルジョンが皮膜形成能を有するためには、粒子径が10~500nmであることが好ましい。粘度(25℃)は10~500mPa・sであるものを用いるとよい。また、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)は、120℃以下であり、60℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0014】
市販のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-350、DIC社製WLS-201,WLS-202、第一工業製薬社製スーパーフレックスE-4000,E-4800などが挙げられる。ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、例えば、DIC社製ハイドランWLS-210,WLS-213、宇部興産社製UW-1005E,UW-5502、三洋化成社製パーマリンUA-368、第一工業製薬社製スーパーフレックス460,スーパーフレックス470などが挙げられる。ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-380,HUX-540、第一工業製薬社製スーパーフレックス420,スーパーフレックス860などが挙げられる。
【0015】
(A)成分の皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョンの配合量は、コーティング組成物中、固形分で60~99質量%であり、好ましくは65~95質量%である。この樹脂エマルジョンが60質量%未満であると、耐摩耗性など被膜特性が非常に悪くなるという不具合があり、99質量%を超えると表面が滑らかでないために触感が悪いという不具合がある。
【0016】
(B)成分のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンは、好ましくは、(b1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと(b2)(メタ)アクリル酸エステル単量体と(b3)これと共重合可能な官能基含有単量体との混合物とを、乳化グラフト重合させて得られるものである。
【0017】
(B)成分のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンは、(b1)成分100質量部に対して、(b2)成分が10~100質量部、(b3)成分が0.01~20質量部を用いて得ることが好ましく、更に(b2)成分は40~100質量部、(b3)成分は0.01~5質量部がより好ましい。
【0018】
ここで、(b1)ポリオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で示される。
【化2】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【0019】
ここで、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1としては、好ましくはメチル基である。
【0020】
2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。具体的には、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、ビニル基等が好ましい。
【0021】
Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同様のものが例示でき、炭素数1~20のアルコキシ基として、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基である。
【0022】
YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基である。
【0023】
Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0024】
aは1,000より大きくなると得られる被膜の強度が不十分となるので、0~1,000の数、好ましくは0~200の数とされ、bは100未満では被膜の柔軟性が乏しいものとなり、10,000より大きいとその引き裂き強度が低下するので、100~10,000の正数、好ましくは1,000~5,000の正数とされる。cは1~10の正数であり、10を超えると、コーティングした際に耐摩耗性が良化しないという不具合がある。
dは1~1,000、好ましくは1~200の正数とされる。また、架橋性の面から1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~4個のヒドロキシル基を有し、両末端に形成させたものを用いることがよい。
【0025】
このような(b1)ポリオルガノシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で実施でき、例えばフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3は重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。R4は炭素数1~4のアルキル基、R5は炭素数1~4のアルキル基で、eは2~3、fは0~1の整数を示し、e+f=2~3である。)
【0026】
上記環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0027】
シランカップリング剤としては、具体的にはビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサン100質量部に対し0.01~10質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部の使用が更に好ましい。0.01質量部未満であると、コーティング剤とした際に透明性が低下し、10質量部を超えると、摺動性が発揮できない可能性がある。
【0028】
シランカップリング剤を共重合することにより、下記式中のcを有するポリオルガノシロキサンとなり、(b2)又は(b3)成分の単量体をグラフトさせる効果が得られる。
【化3】
【0029】
重合に用いる重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
酸触媒の使用量としては、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0030】
また、重合する際の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
なお、アニオン系界面活性剤の使用量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0031】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0032】
このようにして得られた(b1)オルガノポリシロキサンは平均粒子径が180nm以下、好ましくは50~180nm、更に好ましくは70~170nmとなるように、スターバースト、高圧ホモジナイザー、連続式乳化機、コロイダルミル、二―ダーなど公知の微粒化方法で、粒子径を調整しておくことが好ましい。例えば、微粒子化条件としては、スターバーストなどで、50~300MPaの圧力で湿式微粒子化する方法、超音波分散機、好ましくは超音波ホモジナイザーを用いて分散処理することもできる。超音波ホモジナイザーの条件については、周波数20~2000kHz×出力20~1000W×1~10時間の範囲とすることができる。
【0033】
本発明に用いる(b2)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(以下、アクリル成分ということがある)は、ヒドロキシル基、アミド基、カルボキシル基等の官能基を持たないアクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体を指し、炭素数1~10のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましく、更にはアクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上になる単量体が好ましく、かかる単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0034】
(b2)成分と共重合可能な官能基含有単量体(b3)としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、ビニル基、アリル基等を含む不飽和結合を有する単量体であり、具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられ、これらを共重合することで相容性を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明の(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンは、上記のようにして得られた(b1)ポリオルガノシロキサンに(b2)(メタ)アクリル酸エステル単量体と(b3)これと共重合可能な官能基含有単量体との混合物を、乳化グラフト重合させる。
【0036】
グラフト重合させる際の式(1)のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステル単量体との質量比(式(1)のポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル単位との質量比)は30:70~99:1であり、好ましくは60:40~99:1である。シリコーン成分が30より少ないとコーティングした際に耐摩耗性が良化しないという不具合がある。
【0037】
ここで使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0038】
既にポリオルガノシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能だが、安定性向上のためアニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。
【0039】
(b1)成分に対する(b2)及び(b3)成分のグラフト重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0040】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0041】
こうして得られたシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョン(B)は、(b2)及び(b3)成分がランダムにグラフトされているポリマーである。
【0042】
また、(B)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの固形分は35~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、50~500mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。平均粒子径は、180nm以下、好ましくは50nm~180nm、さらに好ましくは80~170nmである。平均粒径が大きすぎる場合には、透明なコーティング剤が得られず、小さすぎる場合には、分散性が低下する問題がある。なお、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0043】
(B)成分であるシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの配合量は、コーティング組成物中、固形分で1~40質量%であり、好ましくは5~30質量%である。シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンが1質量%未満であると耐摩耗性において全く改善が見られないという不具合があり、50質量%を超えると白化する上に耐摩耗性も低下していくという不具合がある。
【0044】
本発明のコーティング用組成物は、(A)皮膜形成能を有するウレタン系樹脂エマルジョン、(B)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを水系下でプロペラ式撹拌機やホモジナイザーなどの公知の混合調製方法によって混合することによって得られる。
【0045】
また、本発明のコーティング用組成物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を添加してもよい。
【0046】
本発明のコーティング用組成物については、所望の高い透明性を確保する点から、基材に塗布した際のヘーズ増加率が、塗布前の基材のヘーズ値に対して1000%以下であることが好適であり、基材の種類によるが、より好ましくは500%以下とするものである。本発明で言う「ヘーズ」は、JIS K7136(2000年)の規格に従い、全光線透過率及び拡散透過率から下記式により算出されるHAZE(曇価)である。
HAZE(曇価) = (拡散透過率Td/全光線透過率Tt)×100 (%)
基材に塗布したヘーズの値は、例えば、日本電色工業社製のヘーズメーターによって測定することができる。また、コーティング用組成物の塗布前の基材のヘーズの値も上記と同様の規格にしたがって測定することができる。また、本発明でいう「ヘーズ増加率」は、基材のヘーズ値をX,コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値をYとすると、
[ヘーズ値の増加率(%)] = 〔( Y - X ) / X〕 × 100
で表すことができる。
【0047】
このようにして得られた本発明のコーティング用組成物を基材、例えば、プラスチック(PET、PI、合成皮革等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、樹脂の長所を維持しながら、シリコーン樹脂の撥水性、耐候性、耐熱性、耐寒性、ガス透過性、摺動性などの利点を、長期に亘って付与することができる。これは、皮膜形成能を有する樹脂と硬化性シリコーン樹脂が丈夫な海島構造を作っているためと考えられる。
【0048】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0049】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1~10日程度放置したり、20~150℃、特に60~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。
【0050】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20~150℃、特に50~150℃で0.5~5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0051】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0052】
本発明のコーティング用組成物を基材へコーティングする方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。
【0053】
本発明のコーティング用組成物の基材への塗布量は、特に限定しないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲または厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmで形成し、自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【実施例
【0054】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0055】
[製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.6g、ラウリル硫酸ナトリウム12gをイオン交換水108gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水450gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。さらにスターバーストによる処理(スギノマシン)を100MPaで2回行った後、このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和した。このシリコーンエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。ここにメタクリル酸メチル(MMA)238gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへのアクリルグラフト共重合し、不揮発分44.8%のシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0056】
[製造例2~5、比較製造例1~3]
表1で示す配合比率の通り、製造例1と同様にシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを作成した。
【0057】
[比較製造例4]
表1で示す配合比率の通り、製造例1と同様にシリコーンエマルジョンを作成した。アクリルのグラフト反応は行なわなかった。
【0058】
上記の各製造例及び比較製造例で得られたエマルジョンの特性を表1に示す。なお、各測定は下記のように行った。
【0059】
〔蒸発残分(固形分濃度)測定〕
試料約1gをアルミ箔製の皿に量り取り、105~110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R : 蒸発残分(%)
W : 乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L : アルミ箔皿の質量(g)
T : 乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0060】
〔平均粒子径測定〕
試料を0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA-950V2)を使用して、循環流量2、撹拌速度2の条件での平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した。
[測定条件]
測定温度:25±1℃
溶媒:イオン交換水
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例1]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンとして、三洋化成工業社製の製品名「パーマリンUA-368」(粘度200mPa・s(25℃)、平均粒径300nm、固形分約5wt%)を用い、この樹脂エマルジョンを撹拌しているところに、製造例1で得られたシリコ-ンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンを投入し、10分以上撹拌の後、80メッシュでろ過して、実施例1のコーティング用組成物を得た。
【0063】
[実施例2~7、比較例1~6]
表2(実施例2~7)及び表3(比較例1~6)で示した各成分の配合比率の通り、実施例1と同様の方法で各例のコーティング用組成物を作成した。なお、表2及び表3中で示す原料比率は固形分での質量比率である。
【0064】
得られた各実施例及び各比較例のコーティング用組成物の「ヘーズ値・ヘーズ増加率」及び「静・動摩擦係数」を測定した。その数値を表2及び表3に示す。なお、各測定は下記のように行った。
【0065】
<成膜方法>
スライドガラス、PETフィルム、アクリル板
各例のコーティング組成物をバーコーターにて塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約23μmになるように、スライドガラス、PETフィルム及びアクリル板の各基材の上に塗膜を形成した。
【0066】
<ヘーズ値の測定>
製品名「ヘーズメーター NDH7000」(日本電色工業社製)にて上記各例のコーティング組成物の塗膜を有する基材のヘーズ値を測定した。
スライドガラス(ヘーズ値0.70%)でのヘーズ値の好ましい範囲は、0.7~6.0%である
PETフィルム(ヘーズ値11%)でのヘーズ値の好ましい範囲は、11.0~14.0%である。
アクリル板(ヘーズ値0.20%)でのヘーズ値の好ましいヘーズ値は、0.2~3.0%である。
【0067】
<ヘーズ増加率>
ヘーズ増加率は、下記式により求められる。ヘーズ値の増加率が1000%以下であれば、透明性が高いと判断できる。一方、ヘーズ値の増加率が1000%を超えると、積層体の透明性が悪くなり、白っぽく感じるようになる。
「ヘーズ値の増加率(%)」 = 〔( Y - X ) / X〕 × 100
X:基材のヘーズ値
Y:コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値
【0068】
<静・動摩擦係数測定>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記各例の塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。
スライドガラスでの静・動摩擦係数の好ましい範囲については、静摩擦係数が0.01~0.05であり、動摩擦係数が0.01~0.03である。
PETフィルムでの静・動摩擦係数の好ましい範囲については、静摩擦係数が0.01~0.10であり、動摩擦係数が0.01~0.05である。
アクリル板での静・動摩擦係数の好ましい範囲については、静摩擦係数が0.01~0.10であり、動摩擦係数が0.01~0.05である。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】