IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハブユニット軸受 図1
  • 特許-ハブユニット軸受 図2
  • 特許-ハブユニット軸受 図3
  • 特許-ハブユニット軸受 図4
  • 特許-ハブユニット軸受 図5
  • 特許-ハブユニット軸受 図6
  • 特許-ハブユニット軸受 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20220809BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20220809BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220809BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20220809BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/447
B60B35/02 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018208295
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2020076420
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-84798(JP,A)
【文献】特開2012-255455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
F16C 33/00
F16J 15/00
B60B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複列の転動体と、
前記外輪の軸方向内側の開口部を塞ぐカバーと、
前記外輪または前記カバーと、前記ハブまたは使用時に該ハブと一体に回転する部分とを軸方向に近接対向させてなる径方向のラビリンス部、および、前記外輪または前記カバーと、前記ハブまたは使用時に該ハブと一体に回転する部分とを径方向に近接対向させてなる軸方向のラビリンス部、並びに、前記径方向のラビリンス部と前記軸方向のラビリンス部とを接続する接続部を有するラビリンスシールと、
を備え、
前記径方向のラビリンス部の径方向に関する長さ寸法と、前記軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法とが略同じであり、
前記ハブの中心軸上で、軸方向に関して前記複列の転動体同士の中央位置に位置する点を通り、かつ、前記ハブの中心軸に対する傾斜角度が45度である仮想直線上を含む部分に前記ラビリンスシールが存在する、ハブユニット軸受。
【請求項2】
軸方向内側面に、前記ハブの中心軸に直交する円輪面を有し、前記ハブの軸方向内側部分に外嵌固定された対向部材をさらに備え、
前記カバーが、前記外輪の内周面に内嵌固定された嵌合筒部と、該嵌合筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に折れ曲がった円輪板部と、該円輪板部の径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった小径筒部と、該小径筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった底板部とを含み、
前記径方向のラビリンス部が、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面とを近接対向させることにより、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面との間に存在しており、
前記軸方向のラビリンス部が、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面との間に存在しており、
前記接続部を前記仮想直線が通過している、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
軸方向内側面に、前記ハブの中心軸に直交する円輪面を有する円輪部と、該円輪部の径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった円筒部とを含み、前記ハブの軸方向内側部分に外嵌固定された対向部材をさらに備え、
前記カバーが、前記外輪の内周面に内嵌固定された嵌合筒部と、該嵌合筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に折れ曲がった円輪板部と、該円輪板部の径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった小径筒部と、該小径筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった底板部とを含み、
前記径方向のラビリンス部が、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面とを近接対向させることにより、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面との間に存在しており、
前記軸方向のラビリンス部が、前記円筒部の外周面と前記外輪の軸方向内側の端部内周面または前記嵌合筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記円筒部の外周面と前記外輪の軸方向内側の端部内周面または前記嵌合筒部の内周面との間に存在する第1の軸方向のラビリンス部と、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面との間に存在する第2の軸方向のラビリンス部とからなり、
前記径方向のラビリンス部の径方向に関する長さ寸法と、前記第1の軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法と前記第2の軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法との和とが略同じであり、
前記径方向のラビリンス部の径方向中間部を前記仮想直線が通過している、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記対向部材がエンコーダである、請求項2または3に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。図5および図6は、特開2015-172401号公報に記載された、ハブユニット軸受1を示している。ハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4とを備える。
【0003】
外輪2は、複列の外輪軌道5a、5bと、静止フランジ6とを備える。複列の外輪軌道5a、5bは、外輪2の内周面の軸方向中間部にそれぞれ形成されている。静止フランジ6は、外輪2の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出するように形成されており、円周方向複数箇所に支持孔7を有する。外輪2は、支持孔7に螺合または挿通されたボルトなどの結合部材により、懸架装置のナックルに支持固定される。
【0004】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に該外輪2と同軸に配置されており、複列の内輪軌道8a、8bと、回転フランジ9とを備える。複列の内輪軌道8a、8bは、ハブ3の外周面のうち、複列の外輪軌道5a、5bに対向する部分に形成されている。回転フランジ9は、ハブ3のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に存在する部分に、径方向外側に向けて突出するように形成されており、円周方向複数箇所に取付孔10を有する。車輪および制動用回転体は、取付孔10に圧入されたスタッド11により、回転フランジ9に対し支持される。
【0005】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、ハブユニット軸受を懸架装置に組み付けた状態での車両の幅方向外側となる、各図の左側をいい、反対に、ハブユニット軸受を懸架装置に組み付けた状態での車両の幅方向中央側となる、各図の右側を、軸方向内側という。
【0006】
転動体4は、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道8a、8bとの間に、列ごとに複数個ずつ、それぞれ保持器12a、12bのポケット27a、27bに保持された状態で、転動自在に配置されている。
【0007】
ハブユニット軸受1は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する円筒状の転動体設置空間13の軸方向外側の開口を塞ぐシールリング14、および、外輪2の軸方向内側の開口を塞ぐカバー15をさらに備える。これにより、外部空間から外輪2の径方向内側に存在する空間内に水などの異物が侵入したり、転動体設置空間13に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりするのを防止している。
【0008】
カバー15は、非磁性の鋼板製で、略円板状の底板部16と、該底板部16の径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった筒状部17とを備える。筒状部17は、軸方向外側に配置された嵌合筒部18と、軸方向内側に配置され、かつ、嵌合筒部18の外径寸法よりも小さい外径寸法を有する小径筒部19とを有する。カバー15は、嵌合筒部18を、外輪2の内周面に締り嵌めで内嵌固定(圧入)することにより、外輪2の軸方向内側の開口を塞ぐようにして、外輪2の軸方向内側の端部に装着されている。
【0009】
ハブユニット軸受1は、車輪の回転速度を検出するためのエンコーダ20をさらに備える。エンコーダ20は、鋼板製の芯金21と、ゴム磁石製のエンコーダ本体22とからなる。芯金21は、ハブ3の軸方向内側の端部外周面に外嵌固定された円筒部23と、該円筒部23の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった円輪部24とを有する。エンコーダ本体22は、円輪部24の軸方向内側面に加硫接着により支持固定されている。
【0010】
図示の例では、被検出面であるエンコーダ本体22の軸方向内側面に、センサ25の検出部を、カバー15の底板部16のうち、径方向外側部分に配置された円輪板部26を介して対向させることにより、車輪の回転速度を測定可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-172401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開2015-172401号公報に記載の構造は、次の面から改良の余地がある。
ハブユニット軸受1を備える車両の走行時に、転動体設置空間13に封入されたグリースは、車輪の回転に伴い回転するハブ3、並びに、外輪2とハブ3との間で公転する(ハブユニット軸受1の中心軸を中心に回転する)転動体4および保持器12a、12bの回転に伴う遠心力により径方向外側に向けて移動し、外輪2の内周面に押し付けられる傾向となる。
【0013】
また、保持器12a、12bのポケット27a、27bの内面と、転動体4の外周面(転動面)とのポケット隙間は、保持器12a、12bの振れ回りを抑えるために、小さく抑えられている。このため、転動体4の外周面に付着したグリースの大部分は、転動体4の自転に伴って、保持器12a、12bの周面のうちでポケット27a、27bの周囲に存在する部分により掻き取られる。掻き取られたグリースは、転動体4の外周面と、外輪軌道5a、5bおよび内輪軌道8a、8bとの転がり接触部の潤滑に供されることなく、保持器12a、12bの周囲に残留する。この結果、保持器12a、12bの回転に伴う遠心力によるグリースの径方向外側への移動が、さらに助長される。このようにして外輪2の内周面へのグリースの堆積が進むと、グリースの一部が、転動体設置空間13から軸方向に押し出されやすくなる。この結果、転動体4の転動面と、複列の外輪軌道5a、5bおよび複列の内輪軌道8a、8bとの転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することが難しくなる可能性がある。
【0014】
特に、特開2015-172401号公報に記載の構造では、ハブ3の軸方向内側の端部にエンコーダ20を設置している。車輪の回転速度の測定機能を有するハブユニット軸受1では、センサ25の検出精度を十分に確保すべく、被検出面であるエンコーダ本体22の軸方向内側面とセンサ25の検出部との間のエアギャップをできる限り小さく抑えるために、エンコーダ20の軸方向内側面と、底板部16の円輪板部26の軸方向外側面とを近接対向させている。ここで、車両の走行時に、回転フランジ9に路面反力に基づくモーメント荷重が加わり、外輪2の中心軸に対してハブ3の中心軸が傾斜すると、エンコーダ20の軸方向内側面と円輪板部26の外側面との間部分でポンピング作用が生じて、転動体設置空間13から軸方向に押し出されたグリースが、エンコーダ20よりも軸方向内側かつ径方向内側に存在する空間に押し出される可能性がある。
【0015】
すなわち、車両の走行時に、回転フランジ9に路面反力に基づくモーメント荷重が加わり、外輪2の中心軸に対してハブ3の中心軸が傾斜すると、エンコーダ20の軸方向内側面と円輪板部26の外側面との間の軸方向に関する間隔Tが変化する。この間隔Tが広くなるか狭くなるかは、周方向に関して変化する。具体的には、例えば、図5に示すように、回転フランジ9の上側部分にモーメント荷重Fが加わり、ハブ3が、図5の時計方向に揺動すると、ハブユニット軸受1の上側部分においては、エンコーダ20が円輪板部26に対し、軸方向に近づいて間隔Tが狭くなるのに対し、ハブユニット軸受1の下側部分においては、エンコーダ20が円輪板部26から、軸方向に離れて間隔Tが広くなる。
【0016】
このように、間隔Tが周方向に関して変化している状態で、ハブ3が回転すると、間隔Tが広い部分では、エンコーダ20の軸方向内側面と円輪板部26の外側面との間部分にグリースが取り込まれるのに対し、間隔Tが狭い部分では、エンコーダ20の軸方向内側面と円輪板部26の外側面との間部分からグリースが吐き出される。このようにして生じるポンピング作用により、転動体設置空間13から軸方向に押し出されたグリースが、エンコーダ20よりも軸方向内側かつ径方向内側に存在する空間に押し出される可能性がある。
【0017】
なお、外輪2の中心軸に対するハブ3の中心軸の傾斜の中心は、回転フランジ9に加わるモーメント荷重の大きさや方向などに応じて多少変わるが、おおよそ、ハブ3の中心軸O上で、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置に位置する点Pとなる。図7の鎖線αは、外輪2の中心軸とハブ3の中心軸とを同軸に配置した状態において、点Pと、エンコーダ20の軸方向内側面の径方向中央位置とを結ぶ仮想直線を示している。
【0018】
ここで、回転フランジ9の上側部分にモーメント荷重Fが加わることで、ハブ3の中心軸が外輪2の中心軸に対してΔθだけ傾斜したとする。この場合、ハブユニット軸受1の上側部分においては、エンコーダ20は円輪板部26に対し、軸方向にΔTだけ近づくのに対し、ハブユニット軸受1の下側部分においては、エンコーダ20が円輪板部26から、軸方向にΔTだけ離れる。図7から明らかなように、ハブユニット軸受1の上側部分におけるエンコーダ20の円輪板部26に対する軸方向の相対変位量ΔTは、ハブユニット軸受1の下側部分におけるエンコーダ20の円輪板部26に対する軸方向の相対変位量ΔTよりも小さい(ΔT<ΔT)。したがって、図7から明らかなように、エンコーダ20全体としては、軸方向に関して、ΔT(=(ΔT-ΔT)/2)だけ、円輪板部26から離れる方向に変位する。この結果、エンコーダ20の軸方向内側面の表面積×ΔT分だけ、エンコーダ20の軸方向内側面と円輪板部26の外側面との間部分の容積が増大するため、上述したポンピング作用が助長されやすい。
【0019】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、転動体の転動面と、外輪軌道および内輪軌道との転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することができる、ハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複列の転動体と、カバーと、ラビリンスシールとを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有する。
前記複列の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記カバーは、前記外輪の軸方向内側の開口部を塞ぐ。
前記ラビリンスシールは、径方向のラビリンス部および軸方向のラビリンス部、並びに、接続部を有する。
前記径方向のラビリンス部は、前記外輪または前記カバーと、前記ハブまたは使用時に該ハブと一体に回転する部分とを軸方向に近接対向させてなる。
前記軸方向のラビリンス部は、前記外輪または前記カバーと、前記ハブまたは使用時に該ハブと一体に回転する部分とを径方向に近接対向させてなる。
前記接続部は、前記径方向のラビリンス部と前記軸方向のラビリンス部とを接続する。
本発明のハブユニット軸受は、前記径方向のラビリンス部の径方向に関する長さ寸法と、前記軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法とが略同じ(寸法誤差や組立誤差などの不可避的な製造誤差など、実用上問題を生じない程度の誤差を除いて同じ)である。
さらに、前記ハブの中心軸上で、軸方向に関して前記複列の転動体同士の中央位置に位置する点を通り、かつ、前記ハブの中心軸に対する傾斜角度が45度である仮想直線上を含む部分に前記ラビリンスシールが存在する。
【0021】
本発明のハブユニット軸受の具体的な一態様では、軸方向内側面に、前記ハブの中心軸に直交する円輪面を有し、前記ハブの軸方向内側部分に外嵌固定された対向部材をさらに備える。
前記カバーを、前記外輪の内周面に内嵌固定された嵌合筒部と、該嵌合筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に折れ曲がった円輪板部と、該円輪板部の径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった小径筒部と、該小径筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった底板部とを含むものとする。
前記径方向のラビリンス部を、前記円輪面の軸方向内側面と前記円輪板部の軸方向外側面とを近接対向させることにより、前記円輪面の軸方向内側面と前記円輪板部の軸方向外側面との間に存在するものとする。
前記軸方向のラビリンス部を、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面との間に存在するものとする。
前記仮想直線を、前記接続部を通過するものとする。
【0022】
本発明のハブユニット軸受の別の態様では、軸方向内側面に、前記ハブの中心軸に直交する円輪面を有する円輪部と、該円輪部の径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった円筒部とを含み、前記ハブの軸方向内側部分に外嵌固定された対向部材をさらに備える。
前記カバーを、前記外輪の内周面に内嵌固定された嵌合筒部と、該嵌合筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に折れ曲がった円輪板部と、該円輪板部の径方向内側の端部から軸方向内側に折れ曲がった小径筒部と、該小径筒部の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった底板部とを含むものとする。
前記径方向のラビリンス部を、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面とを近接対向させることにより、前記円輪面と前記円輪板部の軸方向外側面との間に存在するものとする。
前記軸方向のラビリンス部を、第1の軸方向のラビリンス部と第2の軸方向のラビリンス部とからなるものとする。前記第1の軸方向のラビリンス部は、前記円筒部の外周面と前記外輪の軸方向内側の端部内周面または前記嵌合筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記円筒部の外周面と前記外輪の軸方向内側の端部内周面または前記嵌合筒部の内周面との間に存在する。前記第2の軸方向のラビリンス部は、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面とを近接対向させることにより、前記ハブの軸方向内側の端部外周面と前記小径筒部の内周面との間に存在する。
前記径方向のラビリンス部の径方向に関する長さ寸法と、前記第1の軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法と前記第2の軸方向のラビリンス部の軸方向に関する長さ寸法との和とを略同じとする。
前記仮想直線を、前記径方向のラビリンス部の径方向中間部を通過するものとする。
【0023】
本発明のいずれの態様においても、前記対向部材を、エンコーダまたはスリンガとすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のハブユニット軸受によれば、転動体の転動面と、外輪軌道および内輪軌道との転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例に係るハブユニット軸受を示す断面図である。
図2図2は、図1の右半部拡大図である。
図3図3は、本発明による効果を説明するための模式図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第2例に係るハブユニット軸受を示す、図2に相当する図である。
図5図5は、ハブユニット軸受の従来構造の1例を示す断面図である。
図6図6は、図5の要部拡大図である。
図7図7は、従来のハブユニット軸受の問題点を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態の第1例]
図1図3は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のハブユニット軸受1aは、外輪2と、ハブ3aと、複数個の転動体4と、対向部材であるエンコーダ20とを備える。
【0027】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属からなり、複列の外輪軌道5a、5bと、外輪2を懸架装置に固定するための静止フランジ6とを備える。複列の外輪軌道5a、5bは、外輪2の内周面の軸方向中間部にそれぞれ形成されている。静止フランジ6は、外輪2の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出するように形成されており、円周方向複数箇所に支持孔7を有する。外輪2は、支持孔7に螺合または挿通されたボルトなどの結合部材により、懸架装置のナックルに支持固定される。
【0028】
ハブ3aは、外輪2の径方向内側に該外輪2と同軸に配置されており、複列の内輪軌道8a、8bと、車輪および制動用回転体を支持固定するための回転フランジ9とを備える。複列の内輪軌道8a、8bは、ハブ3aの外周面のうち、複列の外輪軌道5a、5bに対向する部分に形成されている。回転フランジ9は、ハブ3aのうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に存在する部分に、径方向外側に向けて突出するように形成されており、円周方向複数箇所に取付孔10を有する。車輪および制動用回転体は、取付孔10に圧入されたスタッド11、または、取付孔10に螺合されるハブボルトにより、回転フランジ9に対し支持される。
【0029】
本例では、ハブ3aは、ハブ本体28と内輪29とを結合固定してなる。
【0030】
ハブ本体28は、軸方向中間部外周面に、複列の内輪軌道8a、8bのうち、軸方向外側の内輪軌道8aを有し、かつ、軸方向外側の内輪軌道8aよりも軸方向外側に存在する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ9を有する。さらに、ハブ本体28は、軸方向内側部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径寸法が小さい小径筒部30を有し、かつ、小径筒部30の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差部31を有する。
【0031】
内輪29は、軸方向中間部外周面に、複列の内輪軌道8a、8bのうち、軸方向内側の内輪軌道8bを備えるとともに、軸方向内側の端部に、軸方向外側に隣接する溝肩部32の外径寸法よりも小さい外径寸法を有する小径段部33を備える。
【0032】
本例では、内輪29を小径筒部30に外嵌し、かつ、小径筒部30のうちで内輪29の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に突出した部分を径方向外側に向けて塑性変形させることにより形成したかしめ部34により、内輪29の軸方向内側の端面を抑え付けている。これにより、内輪29を、かしめ部34と段差部31との間で軸方向に挟持して、ハブ本体28と内輪29とを結合固定することにより、ハブ3aを構成している。
【0033】
ハブ3aは、ハブ本体と内輪とを、前記ハブ本体の小径筒部に前記内輪を外嵌した状態で、前記ハブ本体のうち、前記内輪の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に突出した部分の外周面に形成された雄ねじ部にナットを螺合して結合固定することにより構成することもできる。
【0034】
本例では、内輪29の軸方向内側の端面を、外輪2の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に位置させている。換言すれば、ハブ3aの軸方向内側の端部、すなわち内輪29の小径段部33およびかしめ部34を、外輪2の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に突出させている。
【0035】
転動体4は、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道8a、8bとの間に、列ごとに複数個ずつ、それぞれ保持器12a、12bのポケット27a、27bに保持された状態で、転動自在に配置されている。なお、本例では、転動体4として、玉を使用しているが、円すいころを使用することもできる。
【0036】
エンコーダ20は、芯金21と、エンコーダ本体22とからなる。芯金21は、軟鋼板などの磁性金属板製で、内輪29の溝肩部32の外周面に外嵌固定された円筒部23と、該円筒部23の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった円輪部24とを有する。エンコーダ本体22は、ゴム磁石やプラスチック磁石などの永久磁石製で、円輪部24の軸方向内側面に支持固定されている。
【0037】
本例のハブユニット軸受1aは、外輪2の内周面とハブ3aの外周面との間に存在する転動体設置空間13の軸方向外側の開口を塞ぐシールリング14a、および、外輪2の径方向内側に存在する内部空間の軸方向内側の開口を塞ぐカバー15aをさらに備える。
【0038】
シールリング14aは、外輪2の軸方向外側の端部に嵌合固定された、金属板製で円環状の芯金35と、該芯金35により補強された、ゴムの如きエラストマー製のシール材36とからなる。シール材36は、ハブ3aの外周面に全周にわたって摺接する複数本(図示の例では3本)のシールリップ37と、回転フランジ9の軸方向内側面に近接対向するラビリンスリップ38とを備える。
【0039】
カバー15aは、非磁性金属板製であり、底板部16aと、該底板部16aの径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった筒状部17aとを備える。底板部16aは、円板状の平板部39を有する。筒状部17aは、平板部39の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて折れ曲がった小径筒部40と、該小径筒部40の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった円輪板部41と、該円輪板部41の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて折れ曲がった嵌合筒部42とを有する。すなわち、小径筒部40は、嵌合筒部42の内径寸法よりも小さい内径寸法を有する。なお、本例のハブユニット軸受1aは、従動輪用であるため、平板部39は、小径筒部40の軸方向内側の開口全体を塞いでいる。
【0040】
カバー15aは、嵌合筒部42を、外輪2の軸方向内側の端部内周面に締り嵌めで内嵌固定(圧入)することにより、外輪2の軸方向内側の端部の内周面に装着され、該外輪2の径方向内側に存在する空間の軸方向内側の開口を塞いでいる。本例では、カバー15aを外輪2の軸方向内側の端部に装着した状態で、カバー15aの円輪板部41の軸方向内側面の軸方向位置を、外輪2の軸方向内側の端面の軸方向位置と一致させている。換言すれば、円輪板部41の軸方向内側面と、外輪2の軸方向内側の端面とが、ハブユニット軸受1aの中心軸に直交する同一の仮想平面上に存在するようにしている。
【0041】
本例では、カバー15aを外輪2の軸方向内側の端部に装着した状態で、カバー15aの円輪板部41の軸方向外側面を、エンコーダ本体22の軸方向内側面に軸方向に近接対向させ、かつ、小径筒部40の内周面を、内輪29の小径段部33の外周面に径方向に近接対向させている。これにより、円輪板部41の軸方向外側面とエンコーダ本体22の軸方向内側面との間に、径方向のラビリンス部43を構成するとともに、小径筒部40の内周面と小径段部33の外周面との間に、軸方向のラビリンス部44を構成している。
【0042】
なお、円輪板部41の軸方向外側面は、径方向両側の端部に存在する折れ曲がり部を除いて、外輪2の中心軸に直交する平坦面であり、エンコーダ本体22の軸方向内側面は、軸方向両側の端部を除いて、ハブ3aの中心軸に直交する平坦面である。したがって、径方向のラビリンス部43は、径方向に関して軸方向に関する幅寸法が変化しない円輪状に構成されている。また、小径筒部40の内周面は、軸方向両側の端部に存在する折れ曲がり部を除いて、軸方向に関して内径寸法が変化しない円筒面であり、小径段部33の外周面は、軸方向内側の端部を除いて、軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面である。したがって、軸方向のラビリンス部44は、軸方向に関して径方向に関する幅寸法が変化しない円筒状に構成されている。
【0043】
本例では、径方向のラビリンス部43および軸方向のラビリンス部44、並びに、これら径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との接続部50により、断面L字形のラビリンスシール45を構成している。なお、径方向のラビリンス部43は、軸方向のラビリンス部44の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がっている。換言すれば、径方向のラビリンス部43の径方向内側の端部と、軸方向のラビリンス部44の軸方向外側の端部とを接続部50により接続している。
【0044】
また、本例では、径方向のラビリンス部43の径方向に関する長さ寸法L43と、軸方向のラビリンス部44の軸方向に関する長さ寸法L44とを略同じとしている。すなわち、径方向のラビリンス部43の径方向に関する長さ寸法L43と、軸方向のラビリンス部44の軸方向に関する長さ寸法L44とを、ハブユニット軸受1aを構成する各部材の寸法誤差や組立誤差などの不可避的な製造誤差など、実用上問題を生じない程度の誤差を除いて同じとしている。
【0045】
なお、本例では、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43と、軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44とを略同じとしている。したがって、本例では、径方向のラビリンス部43の容積(円輪板部41の軸方向外側面とエンコーダ本体22の軸方向内側面との間に存在する隙間の容積)と、軸方向のラビリンス部44の容積(小径筒部40の内周面と小径段部33の外周面との間に存在する隙間の容積)とが略同じとなっている。
【0046】
ラビリンスシール45は、回転フランジ9にモーメント荷重が加わっていない状態において、ハブユニット軸受1aの中心軸(外輪2の中心軸)と同軸であるハブ3aの中心軸O上で、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置に位置する点Pを通り、前記中心軸Oに対する傾斜角度θが45度である仮想直線β上を含む部分に存在している。具体的には、仮想直線βは、径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との接続部50と交差している(接続部50を横切っている)。このように、仮想直線β上を含む部分にラビリンスシール45を存在させるために、ハブユニット軸受1aの各部の寸法を規制している。なお、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置は、複列の外輪軌道5a、5bの互いに近い側の端部同士の軸方向に関する中央位置、および、複列の内輪軌道8a、8bの互いに近い側の端部同士の軸方向に関する中央位置と一致する。
【0047】
なお、被検出面であるエンコーダ本体22の軸方向内側面に、センサ25(図5参照)の検出部を、カバー15aの底板部16aのうちの円輪板部41を介して対向させることにより、車輪の回転速度を測定可能とする。
【0048】
本例のハブユニット軸受1aによれば、転動体4の転動面と、外輪軌道5a、5bおよび内輪軌道8a、8bとの転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することができる。この理由について、以下で説明する。
【0049】
車両の走行時に、車輪の回転に伴って、転動体設置空間13に封入されたグリースの外輪2の内周面への堆積が進むと、グリースの一部が、転動体設置空間13から軸方向に押し出されて、径方向のラビリンス部43の径方向外側の端部からラビリンスシール45内に入り込む。
【0050】
本例のハブユニット軸受1aでは、ラビリンスシール45を、ハブ3aの中心軸O上で、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置に位置する点Pを通り、前記中心軸Oに対する傾斜角度θが45度である仮想直線β上を含む部分に配置している。このため、ラビリンスシール45内に入り込んだグリースを、このラビリンスシール45内に保持しやすくすることができる。この理由について、次に説明する。
【0051】
車両の走行時に、回転フランジ9に路面反力に基づくモーメント荷重が加わると、ハブ3aの中心軸が外輪2の中心軸に対し傾斜する。外輪2の中心軸に対するハブ3aの中心軸の傾斜の中心は、回転フランジ9に加わるモーメント荷重の大きさや方向などに応じて多少変わるが、おおよそ、ハブ3aの中心軸O上で、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置に位置する点Pとなる。
【0052】
ここで、例えば、図1に示すように、回転フランジ9の上側部分にモーメント荷重Fが加わり、ハブ3aが、図1の時計方向に揺動すると、ハブユニット軸受1aの上側部分においては、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43図2参照)が狭くなるのに対し、軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44が広くなる。一方、ハブユニット軸受1aの下側部分(図1では省略)においては、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43が広くなるのに対し、軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44が狭くなる。また、回転フランジ9のうち、モーメント荷重Fが加わった部分から周方向に関する位相が90度ずれた位置においては、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43および軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44は、モーメント荷重Fが加わる以前と変わらない。
【0053】
車両の走行時に車輪が回転すると、ラビリンスシール45内に入り込んだグリースが、ハブ3aに連れ回されるようにして周方向に移動する。このようにして、周方向に移動するグリースは、ラビリンスシール45のうち、厚さ寸法T(径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43および軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44)が大きい側に向けて軸方向に移動する。すなわち、ラビリンスシール45内に入り込んだグリースは、周方向に移動しながら、ラビリンスシール45の厚さ寸法Tの変化に基づいて、径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との間を往復移動する。この結果、ラビリンスシール45に入り込んだグリースを、該ラビリンスシール45内に止める(保持する)ことができて、グリースが、ラビリンスシール45よりも軸方向内側に押し出されることを防止できる。これにより、転動体設置空間13に、長期間にわたり十分量のグリースを保持することができて、転動体4の転動面と、外輪軌道5a、5bおよび内輪軌道8a、8bとの転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することができる。
【0054】
特に本例では、ハブ3aの中心軸Oに対する傾斜角度θが45度である仮想直線βを、径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との接続部50と交差させるとともに、径方向のラビリンス部43の容積と、軸方向のラビリンス部44の容積とを略同じとしている。このため、ハブ3aの中心軸Oが外輪2の中心軸に対し傾斜した場合でも、ラビリンスシール45の容積が変動するのを抑えることができる。この理由について、図3を参照しつつ説明する。
【0055】
例えば、回転フランジ9の上側部分にモーメント荷重Fが加わることで、ハブ3aの中心軸が外輪2の中心軸に対してΔθだけ傾斜したとする。この場合、ハブユニット軸受1aの上側部分においては、エンコーダ本体22の軸方向内側面が円輪板部41の軸方向外側面に対して軸方向にΔTx1だけ近づくのに対し、小径段部33の外周面が小径筒部40の内周面から径方向にΔTy1だけ離れる。一方、ハブユニット軸受1aの下側部分においては、エンコーダ本体22の軸方向内側面が円輪板部41の軸方向外側面から軸方向にΔTx2だけ離れるのに対し、小径段部33の外周面が小径筒部40の内周面に対して径方向にΔTy2だけ近づく。
【0056】
本例では、ハブ3aの中心軸Oの外輪2の中心軸に対する傾斜角度θが45度である仮想直線βを、径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との接続部50と交差させている。このため、ハブユニット軸受1aの上側部分におけるエンコーダ本体22の円輪板部41に対する軸方向の相対変位量ΔTx1と、ハブユニット軸受1aの下側部分における小径段部33の小径筒部40に対する径方向の相対変位量ΔTy2とが略同じとなる。同様に、ハブユニット軸受1aの下側部分におけるエンコーダ本体22の円輪板部41に対する軸方向の相対変位量ΔTx2と、ハブユニット軸受1aの上側部分における小径段部33の小径筒部40に対する径方向の相対変位量ΔTy1とが略同じとなる。本例では、径方向のラビリンス部43の径方向に関する長さ寸法L43と、軸方向のラビリンス部44の軸方向に関する長さ寸法L44とを略同じとしているため、ハブ3aの中心軸が外輪2の中心軸に対しΔθだけ傾斜したことに基づいて径方向のラビリンス部43の容積が増大する分、軸方向のラビリンス部44の容積を減少させることができる。この結果、ラビリンスシール45全体としての容積の増大を抑えることができるため、ラビリンスシール45の厚さ寸法Tが、周方向に関して変化することに伴って生じるポンピング作用が助長されるのを防止することができる。
【0057】
なお、本例では、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43と、軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44とを略同じとすることにより、径方向のラビリンス部43の容積と、軸方向のラビリンス部44の容積とを略同じとしている。このため、径方向のラビリンス部43と軸方向のラビリンス部44との間でのグリースの移動を円滑にできる。ただし、径方向のラビリンス部43の軸方向に関する厚さ寸法T43と、軸方向のラビリンス部44の径方向に関する厚さ寸法T44とを互いに異ならせることもできる。
【0058】
また、ラビリンスシール45が仮想直線β上を含む部分に存在する限り、該仮想直線βが横切る部分をずらすこともできる。すなわち、径方向のラビリンス部43を、仮想直線β上を含む部分に配置することもできるし、軸方向のラビリンス部44を、仮想直線β上を含む部分に配置することもできる。
【0059】
[実施の形態の第2例]
図4は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のハブユニット軸受1bは、対向部材であるスリンガ46を備える。スリンガ46は、鋼板などの金属板を断面略コ字形(略U字形)に曲げ成形してなる。スリンガ46は、内輪29の溝肩部32の外周面に外嵌固定された内径側円筒部47と、該内径側円筒部47の軸方向内側の端部から径方向外側に折れ曲がった円輪部48と、該円輪部48の径方向外側の端部から軸方向外側に折れ曲がった外径側円筒部49とを備える。なお、円輪部48の軸方向内側面に、ゴム磁石やプラスチック磁石などの永久磁石製のエンコーダ本体を支持固定することもできる。
【0060】
本例では、カバー15aを外輪2の軸方向内側の端部内周面に装着した状態で、カバー15aの小径筒部40の内周面を内輪29の小径段部33に径方向に近接対向させるとともに、円輪板部41の軸方向外側面を、円輪部48の軸方向内側面に軸方向に近接対向させ、さらに、嵌合筒部42の内周面を、外径側円筒部49の外周面に径方向に近接対向させている。これにより、小径筒部40の内周面と内輪29の小径段部33の外周面との間に、第1の軸方向のラビリンス部44aを構成するとともに、円輪板部41の軸方向外側面と円輪部48の軸方向内側面との間に、径方向のラビリンス部43aを構成し、さらに、嵌合筒部42の内周面と外径側円筒部49の外周面との間に、第2の軸方向のラビリンス部44bを構成している。
【0061】
このような径方向のラビリンス部43a、並びに、第1の軸方向のラビリンス部44aおよび第2の軸方向のラビリンス部44bと、第1の接続部50aおよび第2の接続部50bとにより、断面クランク形のラビリンスシール45aを構成している。径方向のラビリンス部43aは、径方向内側部分が、第1の軸方向のラビリンス部44aの軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がっており、径方向外側部分が、第2の軸方向のラビリンス部44bの軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がっている。換言すれば、径方向のラビリンス部43aの径方向内側の端部と、第1の軸方向のラビリンス部44aの軸方向外側の端部とを第1の接続部50aにより接続するとともに、径方向のラビリンス部43aの径方向外側の端部と、第2の軸方向のラビリンス部44bの軸方向内側の端部とを第2の接続部50bにより接続している。
【0062】
また、径方向のラビリンス部43aは、ハブ3aの中心軸O上にあり、軸方向に関して複列の転動体4同士の中央位置に位置する点Pを通り、中心軸Oに対する傾斜角度θが45度である仮想直線β上を含む部分に存在している。具体的には、仮想直線βは、径方向のラビリンス部43aの径方向中間部を横切っている。
【0063】
さらに、本例では、径方向のラビリンス部43aの径方向に関する長さ寸法L43a(=L43a1+L43a2)を、第1の軸方向のラビリンス部44aの軸方向に関する長さ寸法L44aと第2の軸方向のラビリンス部44bの軸方向に関する長さ寸法 44bとの和と、略同じとしている。具体的には、径方向のラビリンス部43aのうち、仮想直線βが横切る部分よりも径方向内側部分の径方向に関する長さ寸法L43a1と、第1の軸方向のラビリンス部44aの軸方向に関する長さ寸法L44aとを略同じとするとともに、径方向のラビリンス部43aのうち、仮想直線βが横切る部分よりも径方向外側部分の径方向に関する長さ寸法L43a2と、第2の軸方向のラビリンス部44bの軸方向に関する長さ寸法L44bとを略同じとしている。なお、仮想直線βは、径方向のラビリンス部43aの径方向中央部を横切る(L43a1=L43a2)ように構成するのが好ましい。
【0064】
このような本例の場合にも、ラビリンスシール45a内に入り込んだグリースを、このラビリンスシール45a内に保持しやすくできて、転動体4の転動面と、外輪軌道5a、5bおよび内輪軌道8a、8bとの転がり接触部の潤滑状態を、長期にわたり良好に維持することができる。また、本例のハブユニット軸受1bは、実施の形態の第1例のハブユニット軸受1aに比べて、軸方向寸法を短くすることができ、軽量化を図りやすい。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【符号の説明】
【0065】
1、1a、1b ハブユニット軸受
2 外輪
3、3a ハブ
4 転動体
5a、5b 外輪軌道
6 静止フランジ
7 支持孔
8a、8b 内輪軌道
9 回転フランジ
10 取付孔
11 スタッド
12a、12b 保持器
13 転動体設置空間
14、14a シールリング
15、15a カバー
16、16a 底板部
17、17a 筒状部
18 嵌合筒部
19 小径筒部
20 エンコーダ
21 芯金
22 エンコーダ本体
23 円筒部
24 円輪部
25 センサ
26 円輪板部
27a、27b ポケット
28 ハブ本体
29 内輪
30 小径筒部
31 段差部
32 溝肩部
33 小径段部
34 かしめ部
35 芯金
36 シール材
37 シールリップ
38 ラビリンスリップ
39 平板部
40 小径筒部
41 円輪板部
42 嵌合筒部
43、43a 径方向のラビリンス部
44 軸方向のラビリンス部
44a 第1の軸方向のラビリンス部
44b 第2の軸方向のラビリンス部
45、45a ラビリンスシール
46 スリンガ
47 内径側円筒部
48 円輪部
49 外径側円筒部
50 接続部
50a 第1の接続部
50b 第2の接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7