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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/00 20190101AFI20220809BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20220809BHJP
【FI】
A41D31/00 502D
A41D31/00 502K
A41D31/00 502R
A41D31/00 504B
A41D31/02 A
A41D31/00 503E
A41D31/00 503G
A41D31/00 503K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018525494
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009630
(87)【国際公開番号】W WO2018198555
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017087967
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 渡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章浩
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特許第5453863(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/192648(WO,A1)
【文献】特許第2882676(JP,B2)
【文献】実開昭58-180208(JP,U)
【文献】特許第4475011(JP,B2)
【文献】特許第4074333(JP,B2)
【文献】特開2013-209789(JP,A)
【文献】特開2010-281013(JP,A)
【文献】特許第6719757(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D31/00-31/32
A41B17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスコースレーヨン系繊維を15質量%超えて40質量%未満、単繊維繊度が0.6デシテックス以上であるカチオン可染ポリエステル長繊維を10質量%超えて45質量%未満、ポリアクリル系合成繊維を25質量%超えて60質量%未満、およびポリウレタン系弾性繊維を3質量%超えて15質量%未満の割合で含んでなる繊維構造物であって、該繊維構造物は2層構造の編地であり、かつ、カチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている表面または裏面に立毛を有し、他方の面にビスコースレーヨン系繊維およびポリアクリル系合成繊維が紡績糸として存在する繊維構造物。
【請求項2】
保温率が、20%以上である請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
吸湿発熱が、2.2℃以上である請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
立毛を有する面の毛羽付着性が、4.0級以上である請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項5】
伸長回復率が80%以上である請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物を用いてなる衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた保温性と着用快適性を兼ね備えた繊維構造物およびそれを用いてなる衣料に関し、特に人間が直接肌に触れる肌着およびTシャツ等に好ましく用いられる繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料等の保温性を向上させる手段としては、裏地、中綿等の保温材および表地の3層構造からなる衣料等が多く知られるが(特許文献1参照。)、これら衣料等の表地は、防風性や保温性を高める目的で使用されているため、着用時の蒸れ感があり、かつ3層構造であるため、地厚でインナー等の用途には不向きであるという課題があった。
【0003】
また、インナー用途に好適な保温性繊維製品としては、ビスコースレーヨン系繊維と、カチオン可染ポリエステル繊維と、ポリアクリル系合成繊維と、ポリウレタン系弾性繊維とを含む繊維構造物が知られている(特許文献2および特許文献3参照。)。しかしながら、これらの繊維構造物では、なお保温率が低いという課題があり、更に保温性を高めた繊維製品の要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平7-59762号公報
【文献】国際公開2014/192648号パンフレット
【文献】特許第5453863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ビスコースレーヨンを混紡した糸、すなわち、ビスコースレーヨン系繊維と、カチオン可染ポリエステル繊維と、ポリアクリル系合成繊維と、ポリウレタン系弾性繊維とを使用し、かつ起毛加工を施すことにより、優れた保温性と着用快適性に優れた繊維構造物を得ることが可能であることを見いだした。
【0006】
本発明の目的は、優れた保温性と着用快適性を有する繊維構造物、およびそれを用いた衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決せんとするものであり、本発明の繊維構造物は、ビスコースレーヨン系繊維を15質量%超えて40質量%未満、カチオン可染ポリエステル長繊維を10質量%超えて45質量%未満、ポリアクリル系合成繊維を25質量%超えて60質量%未満、およびポリウレタン系弾性繊維を3質量%超えて15質量%未満の割合で含んでなる繊維構造物であって、かつ、その表面または裏面に立毛を有する繊維構造物である。
【0008】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記の繊維構造物は、2層構造の編地からなることである。
【0009】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記のカチオン可染ポリエステル長繊維の単繊維繊度は、0.6デシテックス以上である。
【0010】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記の繊維構造物の保温率は、25%以上である。
【0011】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記の繊維構造物の吸湿発熱は、2.2℃以上である。
【0012】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記の繊維構造物の立毛を有する面の毛羽付着性は、4.0級以上である。
【0013】
本発明の繊維構造物の好ましい態様によれば、前記の繊維構造物の伸長回復率は、80%以上である。
【0014】
本発明においては、前記の繊維構造物を用いて衣料とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来製品より更に保温性に優れ、かつ肌着やTシャツ等インナーとして着用快適性に優れた繊維構造物が得られる。また、本発明によれば、前記の繊維構造物を用いてなる保温性と着用快適性に優れた衣料が得られる。
【0016】
本発明においては、人間の体から発せられる水蒸気をビスコースレーヨン系繊維が吸着して、水分子のもつ運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、発せられた熱をポリアクリル系合成繊維および起毛面の繊維と繊維の間に形成されたエアポケットの断熱効果によって、暖かさを保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の繊維構造物の実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
本発明の繊維構造物は、ビスコースレーヨン系繊維を15質量%超えて40質量%未満、カチオン可染ポリエステル長繊維を10質量%超えて45質量%未満、ポリアクリル系合成繊維を25質量%超えて60質量%未満、およびポリウレタン系弾性繊維を3質量%超えて15質量%未満の割合で含んでなる繊維構造物であって、かつ、その表面または裏面に立毛を有する繊維構造物である。
【0019】
本発明の繊維構造物は、ビスコースレーヨン系繊維を15質量%超えて40質量%未満の割合で含有する。ビスコースレーヨン系繊維をこの割合で含有することにより、耐久性に優れた吸湿発熱性を有する繊維構造物を得ることができる。繊維構造物が吸湿発熱性を有することで、着用時に人体から発せられる水蒸気によって、繊維構造物が発熱し、衣服温度を上昇させることができる。ビスコースレーヨン系繊維の割合が40質量%以上になると、ビスコースレーヨン系繊維の特性上、洗濯後にシワになりやすいという課題がある。また、ビスコースレーヨン系繊維が15質量%以下の場合、繊維構造物としての吸湿発熱特性が十分に発現されない。
【0020】
ビスコースレーヨン系繊維の割合は、好ましくは15~30質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。ビスコースレーヨン系繊維を15質量%を超えて含有させることにより、より優れた吸湿発熱特性を有する繊維構造物を得ることができる。
【0021】
本発明で用いられるビスコースレーヨン系繊維としては、保温性を向上させるという観点から、紡績糸として用いることが好ましい態様である。また、この場合、紡績糸の番手は、人間が直接肌に触れる肌着やTシャツ等に好ましく用いられることから、好ましくは綿番手で30S~100Sである。より好ましくは綿番手で30S~60Sの紡績糸が、繊維構造物の厚みと保温性の観点から用いられる。
【0022】
また、紡績糸を構成する単繊維繊度は、その使用用途から、0.5デシテックス~2.5デシテックスであることが好ましい。
【0023】
本発明でいうビスコースレーヨン系繊維とはビスコース法で紡糸した再生繊維であり、ビスコースレーヨン、鹸化アセテートを指す短繊維である。
【0024】
本発明の繊維構造物は、カチオン可染ポリエステル長繊維を10質量%超えて45質量%未満の割合で含有する。カチオン可染ポリエステル長繊維を用いることにより、通常のポリエステル繊維に比べて低温で染めることが可能であることから、ポリアクリル系合成繊維と同一の染料で染めることが可能となる。また、カチオン可染ポリエステル長繊維は、105℃~115℃の温度で優れた発色性と堅牢度が得られるため、ポリウレタン系弾性繊維の熱による劣化を防止することができる。
【0025】
また、カチオン可染ポリエステル繊維を10質量%超えて含有することにより、繊維構造体の洗濯後のシワの発生が抑制される。カチオン可染ポリエステル長繊維の割合が45質量%以上となると、カチオン可染ポリエステル繊維の特性上、繊維構造物の吸湿発熱性が低下する。また、カチオン可染ポリエステル長繊維が10質量%以下の場合、繊維構造物を洗濯した際にシワが残りやすい傾向がある。
【0026】
カチオン可染ポリエステル長繊維の割合は、好ましくは20~40質量%であり、より好ましくは20~35質量%である。
【0027】
本発明におけるカチオン可染ポリエステル長繊維の製造には、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。また、通常のポリエステルをカチオン可染化するには、例えば、一般的に知られるように通常ポリエステルに、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分を1.0~3.0モル%を共重合することにより達成される。
【0028】
本発明で用いられるカチオン可染ポリエステル長繊維からなる長繊維糸条の総繊度は、人間が直接肌に触れる肌着やTシャツ等に用いられることから、好ましくは50デシテックス~200デシテックスである。より好ましくは60~180デシテックスであり、特に好ましい総繊度は70~160デシテックスの範囲である。本発明に用いられるカチオン可染ポリエステル長繊維は、ポリエステルのマルチフィラメントで、フィラメント本数が36~192本の長繊維が好ましく用いられる。
【0029】
本発明の繊維構造物は、ポリアクリル系合成繊維を25質量%超えて60質量%未満の割合で含有する。ポリアクリル系合成繊維を25質量%超えて含有することにより、繊維構造物に保温性を付与することができる。ポリアクリル系合成繊維の割合が60質量%以上となると、ポリアクリル系合成繊維の特性上、繊維構造物の保湿性が下がることから、吸湿発熱性が低下する。また、ポリアクリル系合成繊維が25質量%以下の場合、断熱効果を発現させているマイクロアクリルの繊維構造物中の混率が下がることから保温性が十分に発現されない。
【0030】
ポリアクリル系合成繊維の好ましい割合は30~55質量%であり、より好ましくは35~50質量%の範囲である。
【0031】
本発明で用いられるポリアクリル系合成繊維の単繊維繊度は、0.6~2.2デシテックスであることが好ましい。よりソフトな風合いと保温性向上のためには、細繊度の方が好ましいが、単繊維繊度が0.6デシテックス未満では、紡績性が困難となる場合があり、また紡績糸の強力低下をまねく可能性がある。また、単繊維繊度が2.2デシテックスを超えると、特に肌に直接着用するインナーウエア等としては風合いが堅くなる傾向がある。これらのことから、ポリアクリル系合成繊維の単繊維繊度は、さらに好ましくは0.6デシテックス以上1.5デシテックス以下である。
【0032】
本発明で用いられるポリアクリル系合成繊維としては、保温性を向上させるという観点から、紡績糸として用いられることが好ましい。また、この場合紡績糸の番手は、人間が直接肌に触れる肌着やTシャツ等に用いられることから、好ましくは綿番手で30S~100Sである。より好ましくは綿番手で30S~60Sの紡績糸が、繊維構造物の厚みおよび保温性の観点から用いられる。繊維長は、一般的な38~52mmの範囲で用いられる。
【0033】
また、本発明においては、このポリアクリル系合成繊維に、前記のビスコースレーヨン系繊維または/およびポリアクリル系合成繊維を混紡した紡績糸も好ましく用いられる。本発明でいうポリアクリル系繊維とは、ポリアクリルニトリルから作られるレギュラータイプのポリアクリル系繊維以外に、アクリル組成をベースに他の化合物を共重合したり、また、添加したものをいい、抗ピリングタイプや吸水性タイプなどに改質したポリアクリル繊維を含む。
【0034】
本発明の繊維構造物は、ポリウレタン系弾性繊維を3質量%超えて15質量%未満の割合で含有する。これにより、適度な伸度と編み地ループ間の空隙を増すことができ、これにより身体の動きにスムースに追従し、より着用快適性を向上させるという効果を奏する。ポリウレタン系弾性繊維の好ましい割合は4~13質量%であり、より好ましくは4~12質量%の範囲である。
【0035】
本発明で用いられるポリウレタン系弾性糸としては、200%伸長時の弾性回復率が90%以上であるものが好ましい。200%伸長時の弾性回復率が90%未満になると、繰り返し着用に対して、編地がのびきってしまうおそれがある。また、編組織と編密度は目的とする用途によって、任意に設定することができる。
【0036】
本発明で用いられるポリウレタン系弾性繊維としては、人間が直接肌に触れる肌着やTシャツ等に用いられることから、繊維糸条としての総繊度は15デシテックス~50デシテックスであることが好ましく、より好ましくは20~45デシテックスの範囲である。また、ポリウレタン系弾性繊維は、通常長繊維(フィラメント)で用いられ、フィラメント数として1~3フィラメントのポリウレタン系弾性繊維が好ましく用いられる。
【0037】
さらに、本発明の繊維構造物においては、繊維構造物の表面または裏面に立毛を有することが重要である。起毛加工を行い、繊維構造物表層を毛羽立たせ立毛を形成させて、生地厚みを稼ぐことにより、優れた保温性を実現させることができる。起毛加工を行う面としては、主にカチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている方が好ましい。短繊維が繊維構造物の表層に出ている面を起毛した場合、起毛加工によって、短繊維が切断され細かい毛羽が発生してくることがある。
【0038】
また、カチオン可染ポリエステル長繊維の単繊維繊度は0.6デシテックス以上であることが、毛羽発生抑制の観点から好ましい態様である。単繊維繊度が0.6デシテックス未満の場合、前記の短繊維と同様に起毛加工での毛羽が発生してくることがある。また、カチオン可染ポリエステル長繊維の単繊維繊度は、人間が直接肌に触れる肌着やTシャツ等に用いられることから6.0デシテックス以下であることが好ましく、より好ましくは0.8~5.5デシテックスの範囲である。
【0039】
本発明における繊維構造物は、編物が好適に挙げられる。また、ビスコースレーヨン系繊維とポリアクリル系合成繊維は、長繊維と短繊維のいずれも使用できるが、好ましい繊維構造物の形態としては、直接肌に触れる肌着やTシャツ等に用いられ、各種性能を達成するために、ビスコースレーヨン系繊維とポリアクリル系合成繊維を混紡した紡績糸とカチオン可染ポリエステル長繊維、ポリウレタン系弾性繊維を含め編成した編物である。
【0040】
本発明の繊維構造物は、好ましくは2層構造の編地から構成される。繊維構造物が単層構造の場合、生地が薄く保温性に欠ける傾向があり、また、起毛面に短繊維が混在するため、毛羽が発生することがある。また、繊維構造物が3層構造以上の場合は、地厚であり、Tシャツや肌着などのインナー用途には不向きとなることがある。したがって、保温性と毛羽発生抑制を両立させるために、特に2層構造の編地が好ましい態様である。本発明における2層構造の編地とは、ダブルシリンダを備えた丸編み機によって編成された編物であり、例えば、スムース、ダブルジャガード、ダブルピッケおよびポンチローマなどの組織が好適に用いられる。
【0041】
本発明の繊維構造物の好ましい厚さは、1.30~1.80mmの範囲である。
【0042】
本発明の繊維構造物は、保温率が20%以上の性能を有することが好ましい。保温率は、高ければ高いほど好ましく、保温率が20%以上あれば、着用時に暖かさを感じることができる。保温率とは、生地が熱を拡散させやすいか、させにくいかの指標である。繊維の特性上、熱伝導率の低いカチオン可染ポリエステル長繊維やポリアクリル系合成繊維の割合が増えると保温率は向上するが、吸湿発熱性は低下してくる。より好ましい保温率は、25%以上である。
【0043】
本発明においては、さらに、本発明の繊維構造物の吸湿発熱性能は、2.2℃以上であることが好ましい態様である。吸湿発熱性能は、高ければ高いほど好ましく、吸湿発熱性能が2.2℃以上あれば、着用時に暖かさを感じることができる。吸湿発熱性能とは、シリカゲル容器を通過させた乾燥空気(湿度10%RH以下)を送入して試料を30分間以上乾燥させ、試料温度が安定したときの表面温度Aに対して、その後イオン交換水を通した湿度約90%RHの空気を約30分間送入している間の試料表面温度最高到達温度Bを読み取り、その差B-Aの温度(℃)である。従って、吸湿性能の高いビスコースレーヨン系繊維の割合が増えると吸湿発熱性能は高くなるが、ビスコースレーヨン系繊維の割合が増えると、ビスコースレーヨン系繊維の特性上、洗濯後にシワになりやすく、また保温性が低くなる。
【0044】
本発明の繊維構造物においては、繊維構造物の表面または裏面を起毛加工を施し立毛を形成するが、起毛加工した立毛面の毛羽付着性は4.0級以上であることが好ましい。毛羽付着性能は、起毛加工で発生する細かい繊維構造物上の毛羽が、着用の際、他衣類に付着しやすいか、しにくいかの指標である。主に短繊維や単繊維繊度の細いフィラメントを起毛した場合に、糸が切断されて毛羽が発生しやすい傾向がある。本発明においては、毛羽発生抑制の観点から、単繊維繊度は0.6デシテックス以上のカチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている面を起毛加工することが好ましい態様である。
【0045】
また、本発明の繊維構造物においては、伸長回復率が80%以上であることが好ましい。伸長回復率とは、生地を一定荷重で伸長させた後に、放置し、元のサイズに戻ろうとする特性を数値化したものである。伸長回復率が80%未満であると、着用後に衣類がたるみ、再度、着用する際に衣服サイズが合わない場合がある。
【0046】
さらに、本発明の繊維構造物においては、上記のビスコースレーヨン系繊維、カチオン可染ポリエステル長繊維、ポリアクリル系合成繊維、およびポリウレタン系弾性繊維の他に、カチオン可染ではない通常のポリエステル系繊維や、ポリエステルに第3成分を共重合したポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アセテート繊維、綿、麻、パルプなどの天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン以外の再生セルロース繊維、およびウールなどのタンパク質繊維等も用いることができる。繊維構造物を構成する上記の繊維は、混繊、混紡、混織および交編等した形態で用いられる。
【実施例
【0047】
次に、実施例に基づき、本発明の繊維構造物について具体的に説明する。ここで、実施例等における各性能の評価方法は、次のとおりである。
【0048】
(1)吸湿発熱性:
吸湿発熱性は、密閉した容器の中に約10cm×10cm大きさの試料を取り付け、試料の温度が測定できるように表面温度計センサーを取り付け、記録計で読み取る。試料の温度測定開始後に、測定室内温度が20℃以下の室内雰囲気中から、シリカゲル容器を通過させた乾燥空気(湿度10%RH以下)を送入して、試料を乾燥させる。試料を30分以上乾燥させ、試料温度が安定したときの表面温度Aに対して、その後イオン交換水を通した湿度が約90%RHの空気を約30分間送入している間の試料表面温度最高到達温度Bを読み取り、その差B-Aを吸湿発熱性能(℃)とした。
【0049】
(2)毛羽付着性:
毛羽付着性試験は、セロハンテープ法に準じて測定する。セロハンテープの接着面が試料の立毛面の横方向に接触するように乗せ、圧力が3.9kpaとなるように荷重を加えて、5秒間放置する。セロハンテープをゆるやかにはがし、他の箇所で同じ操作を繰り返し5回行う。使用するセロハンテープは、幅18mmのニチバン(株)品番CT-18/LP-18を使用する。判定は、セロハンテープに付着した毛羽の量を標準スケールと比較して級判定する。
【0050】
(3)伸長回復率:
伸長回復率は、JIS L1096 (2010) 8.16.2 B-1法に準じて測定する。本測定の伸長回復率は、30秒後および1時間後の回復率を測定するが、本発明における伸長回復率は、1時間後の伸長回復率を示す。
【0051】
(4)保温率:
保温率は、JIS L1096 (2010) 8.27 保温性 8.27.1 A法(恒温法)に準じて測定する。
【0052】
(実施例1)
ビスコースレーヨンステープル(1.4デシテックス、38mm)を30質量%と、ポリアクリル繊維ステープル(1.0デシテックス、45mm)70質量%とを、カードミックスで混綿して30s紡績糸を得た。
【0053】
このようにして得られた紡績糸と、カチオン可染ポリエステル長繊維(84デシテックス-72フィラメント)と、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス-2フィラメント)とを、釜径が76.2cmで、ゲージ数が18本/2.54cmのダブルニット編機で交編して生機を得た。
【0054】
このようにして得られた生機を、熱セット(185℃、30秒)-起毛加工-精練(70℃)-染色(115℃)-乾燥(130℃)-熱セット(130℃)の工程により、加工した。起毛加工は、カチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている面のみ実施し生地(繊維構造物)を得た。その結果、生地質量比で、ポリアクリル繊維45質量%、ビスコースレーヨン23質量%、カチオン可染ポリエステル長繊維27質量%、ポリウレタン系弾性繊維5質量%、生地質量330g/mの生地(繊維構造物)を得た。
【0055】
上記の実施例1で得られた生地の保温率を評価した。その結果を表1に示す。吸湿発熱、毛羽付着、伸長回復性、および保温率とも良好であり、インナーウエアとして高い機能を有する繊維構造物が得られた。
【0056】
(実施例2)
ビスコースレーヨンステープル(1.4デシテックス、38mm)を30質量%と、ポリアクリル繊維ステープル(1.0デシテックス、45mm)70質量%とを、カードミックスで混綿して40s紡績糸を得た。
【0057】
このようにして得られた紡績糸と、カチオン可染ポリエステル長繊維(84デシテックス-96フィラメント)と、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス)とを、釜径が76.2cmで、ゲージ数が18本/2.54cmのダブルニット編機で交編して生機を得た。
【0058】
このようにして得られた生機を、熱セット(185℃、30秒)-起毛加工-精練(70℃)-染色(115℃)-乾燥(130℃)-熱セット(130℃)の工程により加工した。起毛加工は、カチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている面のみ実施し生地(繊維構造物)を得た。その結果、生地質量比で、ポリアクリル繊維42質量%、ビスコースレーヨン18質量%、カチオン可染ポリエステル31質量%、ポリウレタン系弾性繊維9質量%、生地質量280g/mの生地(繊維構造物)を得た。
【0059】
上記の実施例2で得られた生地の保温率を評価した。その結果を表1に示す。実施例1同様に、高い機能の繊維構造物が得られた。生地質量が実施例1と比較して、50g/m軽いが、カチオン可染ポリエステル長繊維の単繊維繊度を細くすることにより、起毛面がより毛羽立ち、生地質量が軽くても同等の保温性を有する繊維構造物が得られた。
【0060】
(実施例3)
ビスコースレーヨンステープル(1.4デシテックス、38mm)を30質量%と、ポリアクリル繊維ステープル(1.0デシテックス、45mm)70質量%とを、カードミックスで混綿して40s紡績糸を得た。
【0061】
このようにして得られた紡績糸と、カチオン可染ポリエステル長繊維(84デシテックス-72フィラメント)と、ポリウレタン系弾性繊維(44デシテックス)とを、釜径が76.2cmで、ゲージ数が18本/2.54cmのダブルニット編機で交編して生機を得た。
【0062】
このようにして得られた生機を、熱セット(185℃、30秒)-起毛加工-精練(70℃)-染色(115℃)-乾燥(130℃)-熱セット(130℃)の工程により加工した。起毛加工は、カチオン可染ポリエステル長繊維が表層に出ている面のみ実施し生地(繊維構造物)を得た。その結果、生地質量比で、ポリアクリル繊維42質量%、ビスコースレーヨン18質量%、カチオン可染ポリエステル長繊維31質量%、ポリウレタン系弾性繊維9質量%、生地質量300g/mの生地(繊維構造物)を得た。
【0063】
上記の実施例3で得られた生地の保温率を評価した。その結果を表1に示す。実施例1および2同様に、高い保温性のものが得られた。実施例1から紡績糸の繊度を細くし、生地質量が軽くなっているが、保温率が31%とインナーウエアとして高い保温性を有する繊維構造物が得られた。
【0064】
(比較例1)
実施例1において、紡績糸としてビスコースレーヨンステープルを用いずに、アクリルステープルのみを用いて紡績糸を得たこと以外は、実施例1と同様にして生地(繊維構造物)を得た。得られた生地(繊維構造物)を用いて同様に評価した結果、表2に示すように保温性はあるものの、吸湿発熱に劣ることを確認することができた。
【0065】
(比較例2)
実施例1において、カチオン可染ポリエステル長繊維を用いずに、紡績糸とポリウレタン系弾性繊維のみで交編した。また、起毛加工は、紡績糸が表層に出ている面に対して実施した。それ以外は、実施例1と同様にして生地(繊維構造物)を得た。得られた生地を用いて同様に評価した結果、表2に示すように保温性はあるものの、毛羽付着性に劣ることを確認することができた。
【0066】
(比較例3)
実施例1において、紡績糸としてアクリルステープルを用いずに、ビスコースレーヨンステープルのみを用いて紡績糸を得たこと以外は、実施例1と同様にして生地(繊維構造物)を得た。得られた生地を用いて同様に評価した結果、表2に示すように吸湿発熱性はあるものの、保温性に劣ることを確認することができた。
【0067】
(比較例4)
実施例1において、ポリウレタン系弾性繊維を用いずに、紡績糸とカチオン可染ポリエステル長繊維のみで交編した以外は、実施例1と同様にして生地(繊維構造物)を得た。得られた生地を用いて同様に評価した結果、表2に示すように保温性はあるものの、伸長回復性に劣ることを確認することができた。
【0068】
(比較例5)
実施例3において、起毛加工を実施しないこと以外は、実施例3と同様にして生地(繊維構造物)を得た。得られた生地を用いて同様に評価した結果、表2に示すように保温性に劣ることを確認することができた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の繊維構造物は、Tシャツ、ブルゾン、スラックス、スカート等の上着、タイツ、スパッツ、キャミソール、およびパンツ等の下着等の衣料の他、身体に装着する衣料であれば特に限定されず、種々の衣料に好ましく用いられる。