(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂および成形品
(51)【国際特許分類】
C08G 69/26 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2018546239
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036119
(87)【国際公開番号】W WO2018074234
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2016204126
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山中 政貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
(72)【発明者】
【氏名】小黒 葉月
(72)【発明者】
【氏名】津中 伸幸
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/132456(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0127440(US,A1)
【文献】国際公開第2012/014772(WO,A1)
【文献】特開2002-138198(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156701(WO,A1)
【文献】特開2014-111758(JP,A)
【文献】特開2015-017178(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033746(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208272(WO,A1)
【文献】特許第6066028(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00-69/50
C08J 5/00-5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位であり、
前記ジアミン由来の構成単位を構成する1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、90/10~
30/70であり、
前記ジカルボン酸由来の構成単位が、イソフタル酸に由来する構成単位と、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位とを含み、かつ、テレフタル酸に由来する構成単位を実質的に含まず、非晶性である、ポリアミド樹脂であって、
該ポリアミド樹脂
は、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位の合計で全構成単位の98重量%以上
を占める、ポリアミド樹脂。
【請求項2】
前記ジカルボン酸由来の構成単位の、10~90モル%がイソフタル酸に由来し、90~10モル%が炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
前記炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸が、セバシン酸である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂のガラス転移温度が100~190℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項5】
JIS K7111-1に従ったノッチなしシャルピー衝撃強度が150kJ/m
2以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂の数平均分子量が8000~25000である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項7】
前記ジアミン由来の構成単位を構成する1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、70/30~30/70である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂を含む組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアミド樹脂および成形品に関する。特に、シャルピー衝撃強度および耐熱老化性に優れたポリアミド樹脂およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとジカルボン酸を重縮合させてなるポリアミド樹脂が検討されている。
例えば、特許文献1には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを40モル%以上含むジアミン成分とイソフタル酸および/またはテレフタル酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分からなる耐熱性ポリアミド樹脂が開示されている。しかしながら、特許文献1には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとして、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いた重合体について、実施例等を含め具体的な開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、結晶性樹脂は成形品としたときにバリが出やすいが、非晶性樹脂だと成形品にしてもバリが出にくいというメリットがある。そのため、非晶性樹脂は、これまで、フィルムやサングラスなどに用いられていた。しかしながら、非晶性樹脂は、シャルピー衝撃強度や耐熱老化性といった、エンジニアリングプラスチック用途に求められる性能が劣るため、このような用途には使われてこなかった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、非晶性樹脂であって、シャルピー衝撃強度および耐熱老化性に優れるポリアミド樹脂、ならびに、前記ポリアミド樹脂を含む成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、ジアミン由来の構成単位として、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位を用い、ジカルボン酸由来の構成単位として、イソフタル酸に由来する構成単位と、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来に由来する構成単位とを用いて非晶性樹脂とし、かつ、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス体とトランス体のモル比率を所定の比率とすることにより、シャルピー衝撃強度が高く、かつ、耐熱老化性に優れた樹脂を提供可能であることを見出した。
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<8>により、上記課題を解決しうることを見出した。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位であり、前記ジアミン由来の構成単位を構成する1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、90/10~20/80であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位が、イソフタル酸に由来する構成単位と、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位とを含み、かつ、テレフタル酸に由来する構成単位を実質的に含まず、非晶性である、ポリアミド樹脂。
<2>前記ジカルボン酸由来の構成単位の、10~90モル%がイソフタル酸に由来し、90~10モル%が炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、<1>に記載のポリアミド樹脂。
<3>炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸が、セバシン酸である、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂。
<4>前記ポリアミド樹脂のガラス転移温度が100~190℃である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<5>JIS K7111-1に従ったノッチなしシャルピー衝撃強度が150kJ/m2以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<6>前記ポリアミド樹脂の数平均分子量が8000~25000である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<7>前記ジアミン由来の構成単位を構成する1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、70/30~30/70、<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂を含む組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、シャルピー衝撃強度および耐熱老化性に優れる非晶性ポリアミド樹脂、ならびに、前記ポリアミド樹脂を含む成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明のポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する構成単位であり、前記ジアミン由来の構成単位を構成する1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、90/10~20/80であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位が、イソフタル酸に由来する構成単位と、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位とを含み、かつ、テレフタル酸に由来する構成単位を実質的に含まず、非晶性であることを特徴とする。
本発明では、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと重合させるジカルボン酸成分として、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸を用いることにより、炭素数7以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸)を用いた時よりも、耐熱老化性を向上させている。また、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸を用いることにより、耐熱老化性を低下させずに、非晶性樹脂とすることに成功している。特に、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸を用いると耐熱老化性が格段に低下してしまうが、イソフタル酸を用いることにより、耐熱老化性を維持しつつ、非晶性樹脂とすることに成功したものである。
【0009】
本発明では、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する。本発明では、ジアミン由来の構成単位は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、一層好ましくは98モル%以上、より一層好ましくは99モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する。
1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとしては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が例示される。これらの他のジアミンは、1種類のみでも2種類以上であってもよい。
本発明では、ポリアミド樹脂の原料ジアミンである1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)が、90/10~20/80である。このような構成とすることにより、シャルピー衝撃強度に優れた非晶性ポリアミド樹脂が得られる。前記シス体とトランス体のモル比率(シス/トランス)は、より好ましくは90/10~30/70であり、さらに好ましくは70/30~30/70であり、一層好ましくは65/35~35/65であり、より一層好ましくは65/35~40/60であり、さらに一層好ましくは65/35~51/49であり、特に一層好ましくは60/40~55/45である。
【0010】
本発明では、ジカルボン酸由来の構成単位の、10~90モル%がイソフタル酸に由来し、90~10モル%が炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、かつ、テレフタル酸に由来する構成単位を実質的に含まないことが好ましい。
ここでテレフタル酸を実質的に含まないとは、例えば、ジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、テレフタル酸が5モル%以下であることをいい、4モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましい。下限値としては、0モル%であってもよい。
前記ジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、イソフタル酸の割合の下限値は、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が一層好ましく、40モル%以上がより一層好ましく、45モル%以上であってもよい。イソフタル酸の割合の下限値を調整することにより、本発明のポリアミド樹脂を非晶性とすることができる。前記イソフタル酸の割合の上限値は、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下がさらに好ましく、65モル%以下が一層好ましく、60モル%以下がより一層好ましく、55モル%以下であってもよい。イソフタル酸の割合の上限値を調整することにより、ガラス転移温度(Tg)を高くすることができる。
【0011】
前記ジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸の割合の下限値は、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましく、35モル%以上が一層好ましく、40モル%以上がより一層好ましく、45モル%以上であってもよい。前記炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸の割合の上限値は、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下がさらに好ましく、65モル%以下が一層好ましく、60モル%以下がより一層好ましく、さらには、60モル%未満、58モル%以下、55モル%以下、53モル%以下であってもよい。このような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂の耐熱老化性がより向上する傾向にあり好ましい。
炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸であることがより好ましく、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸がさらに好ましく、セバシン酸が特に好ましい。炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0012】
ジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、イソフタル酸と炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸の合計の割合は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0013】
イソフタル酸と炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、炭素数7以下の脂肪族ジカルボン酸、炭素数6~12の脂環式ジカルボン酸等が例示される。これらの具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。
【0014】
本発明における、ジカルボン酸由来の構成単位の好ましい実施形態として、30~70モル%がイソフタル酸に由来し、70~30モル%が炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する態様が例示される。本実施形態では、他のジカルボン酸由来の構成単位は、0~3モル%であることが好ましい。本実施形態のより好ましい範囲は、上述の好ましい範囲と同様である。
【0015】
尚、本発明のポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位を含むが、ジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位以外の構成単位や、末端基等の他の部位を含みうる。他の構成単位としては、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できるが、これらに限定されるものではない。さらに、本発明のポリアミド樹脂は、合成に用いた添加剤等の微量成分が含まれる場合もあるであろう。本発明で用いるポリアミド樹脂は、通常95重量%以上、好ましくは98重量%以上が、より好ましくは99重量%以上がジカルボン酸由来の構成単位またはジアミン由来の構成単位である。
【0016】
本発明のポリアミド樹脂は、リン原子含有化合物を添加して溶融重縮合(溶融重合)法により製造される。溶融重縮合法としては、溶融させた原料ジカルボン酸に原料ジアミンを滴下しつつ加圧下で昇温し、縮合水を除きながら重合させる方法、もしくは、原料ジアミンと原料ジカルボン酸から構成される塩を水の存在下で、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法が好ましい。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂の重縮合系内に添加されるリン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられ、これらの中でも特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸金属塩がアミド化反応を促進する効果が高く、かつ着色防止効果にも優れるため好ましく用いられ、特に次亜リン酸カルシウムが好ましい。本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
【0018】
溶融重縮合で得られた本発明のポリアミド樹脂は一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用されることが好ましい。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂は、せん断速度122sec-1、280℃における溶融粘度が、500Pa・s以上であることが好ましく、1000Pa・s以上であることがより好ましく、1200Pa・s以上であることがさらに好ましい。また、上記溶融粘度は、5000Pa・s以下であることが好ましく、3500Pa・s以下であることがより好ましく、3000Pa・s以下であることがさらに好ましく、さらには、2800Pa・s以下であってもよく、2500Pa・s以下、2000Pa・s以下、1800Pa・s以下、1600Pa・sであってもよい。
溶融粘度の測定方法は、後述する実施例で記載する方法に従う。実施例で採用する機器が、廃版等により入手困難な場合は、他の同等の性能を有する機器を用いることができる。以下、他の測定方法についても、同様である。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂は、数平均分子量の下限値が8000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、11000以上であることがさらに好ましい。前記数平均分子量の上限値は25000以下であることが好ましく、20000以下であることがより好ましく、17000以下であってもよい。数平均分子量の測定方法は、後述する実施例で記載する方法に従う。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましく、128℃以上であることが一層好ましく、130℃以上であることがより一層好ましく、135℃以上であることがさらに一層好ましい。本発明ではこのような高いTgとすることができるため、高温条件下でも物性低下しにくいというメリットがある。ガラス転移温度の上限値は特に定めるものではないが、例えば、190℃以下であることが好ましく、170℃以下、160℃以下、150℃以下でも十分実用レベルである。
ガラス転移温度の測定方法は、後述する実施例で記載する方法に従う。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂は、非晶性のポリアミド樹脂とすることができる。ここで、非晶性のポリアミド樹脂とは、明確な融点を持たない樹脂であり、具体的には、結晶融解エンタルピーΔHmが5J/g未満であることをいい、3J/g以下が好ましく、1J/g以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂は、2mm厚さの成形品のヘイズが5.0%以下であることが好ましく、4.8%以下であることがより好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4.3%以下であることが一層好ましく、さらには、4.0%以下、3.4%以下、3.0%以下、2.5%以下であってもよい。ヘイズの下限値としては、0%が好ましいが、0.001%以上でも、実用上問題のないレベルである。本発明におけるヘイズは、後述する実施例に記載の方法で測定した値とする。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂は、機械的強度に優れたポリアミド樹脂である。
本発明のポリアミド樹脂は、JIS K7111-1に従ったノッチなしシャルピー衝撃強度が150kJ/m2以上であることが好ましく、180kJ/m2以上であることがより好ましく、200kJ/m2以上であることがさらに好ましく、230kJ/m2以上、250kJ/m2以上であってもよい。上限値は、NB(非破壊)が望ましく、さらには、400kJ/m2以下、300kJ/m2以下であっても十分実用レベルである。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂は、本発明のポリアミド樹脂を含む組成物を成形してなる成形品として用いることができる。前記組成物は、本発明のポリアミド樹脂1種類または2種類以上のみからなってもよいし、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、本発明のポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、充填剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、耐衝撃改良剤、滑剤、着色剤、導電性添加剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。これらの添加剤は、それぞれ、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
他のポリアミド樹脂としては、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/66(ポリアミド6成分およびポリアミド66成分からなる共重合体)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、MXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、MPXD6(ポリメタパラキシリレンアジパミド)、MXD10(ポリメタキシリレンセバサミド)、MPXD10(ポリメタパラキシリレンセバサミド)およびPXD10(ポリパラキシリレンセバサミド)が例示される。これらの他のポリアミド樹脂は、それぞれ、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂を例示できる。これらのポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂は、それぞれ、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂を含む組成物は、強化繊維を配合して繊維強化樹脂組成物とすることができる。強化繊維としては、炭素繊維およびガラス繊維が例示される。繊維強化樹脂組成物としては、本発明のポリアミド樹脂と強化繊維を含む組成物を溶融混練してなるペレット、本発明のポリアミド樹脂を強化繊維に含浸させたプリプレグ、繊維成分として、本発明のポリアミド樹脂を含む連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維を含む混繊糸、組み紐または撚り紐、本発明のポリアミド樹脂を含む連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維を用いた織物または編み物、ならびに、本発明のポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂繊維と強化繊維から構成される不織布などが例示される。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂を含む組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、延伸、真空成形などの公知の成形方法によって、成形することができる。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂を含む組成物を成形してなる成形品としては、フィルム、シート、薄肉成形品、中空成形品、繊維、ホース、チューブ等を含む各種成形品に用いることができる。本発明の成形品の実施形態の一例として、本発明のポリアミド樹脂を含む組成物から形成される層を含む単層または多層容器が挙げられる。前記多層容器としては、ポリオレフィン樹脂を含む組成物から形成される層、本発明のポリアミド樹脂を含む組成物から形成される層、およびポリオレフィン樹脂を含む組成物から形成される層を、前記順に有する多層容器が例示される。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)およびシクロオレフィンコポリマー(COC)が例示される。さらに、前記ポリオレフィン樹脂を含む組成物から形成される層と本発明のポリアミド樹脂を含む組成物から形成される層の間に接着層を有していてもよい。このような多層容器は、食品や医薬品の容器として好ましく用いることができる。医薬品の容器としては、例えば、アンプル、バイアル、真空採血管、プレフィルドシリンジが例示される。
また、本発明のポリアミド樹脂を含む組成物は、エンジニアリングプラスチック用途に好ましく用いられる。かかる成形品の利用分野としては、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1
<樹脂Aの合成>
撹拌機、分縮器、全縮器、圧力調整器、温度計、滴下槽およびポンプ、アスピレーター、窒素導入管、底排弁、ストランドダイを備えた内容積50Lの耐圧反応容器に、精怦したセバシン酸(伊藤精油社製)7000g(34.61mol)、イソフタル酸(エイ・ジイ・インタナショナル・ケミカル社製)5750g(34.61mol)、次亜リン酸カルシウム(関東化学社製)3.3g(0.019mol)、酢酸ナトリウム(関東化学社製)1.4g(0.018mol)を入れ、十分に窒素置換した後、反応容器内を密閉し、容器内を0.4MPaに保ちながら撹拌下200℃まで昇温した。200℃に到達後、反応容器内の原料へ滴下槽に貯めた1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(シス体/トランス体(モル比):60/40)(三菱ガス化学社製)9847g(69.22mol)の滴下を開始し、容器内を0.4MPaに保ちながら生成する縮合水を系外へ除きながら反応槽内を295℃まで昇温した。1,4-BACの滴下終了後、反応容器内を徐々に常圧に戻し、次いでアスピレーターを用いて反応槽内を80kPaに減圧して縮合水を除いた。減圧中に撹拌機の撹拌トルクを観察し、所定のトルクに達した時点で撹拌を止め、反応槽内を窒素で加圧し、底排弁を開け、ストランドダイからポリマーを抜き出してストランド化したのち、冷却してペレタイザーによりペレット化することにより、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
<溶融粘度の測定>
ポリアミド樹脂の溶融粘度は、キャピログラフを用い、ダイとして直径1mm×10mm長さのものを用い、見かけのせん断速度122sec-1、測定温度280℃、保持時間6分、サンプル水分量1000重量ppm以下の条件で測定した。本実施例では、キャピログラフとして、(株)東洋精機(株)製のキャピログラフD-1を用いた。
【0032】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素気流中、室温から250℃まで昇温速度10℃/分で加熱したのち、ただちに室温以下まで冷却し、再び室温から250℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際のガラス転移温度を測定した。本実施例では、示差走査熱量計として、(株)島津製作所製DSC-60を用いた。
また、JIS K7121及びK7122に準じて、昇温過程におけるポリアミド樹脂の結晶融解エンタルピーΔHmを測定した。
【0033】
<数平均分子量(Mn)の測定>
ポリアミド樹脂0.3gを、フェノール/エタノール=4/1(体積比)の混合溶剤に投入して、20~30℃で撹拌し、完全に溶解させた後、撹拌しつつ、メタノール5mLで容器内壁を洗い流し、0.01m ol/L塩酸水溶液で中和滴定して末端アミノ基濃度[NH2]を求めた。また、ポリアミド樹脂0.3gを、ベンジルアルコールに窒素気流下160~180℃で撹拌し、完全に溶解させた後、窒素気流下80℃以下まで冷却し、撹拌しつつメタノール10mLで容器内壁を洗い流し、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して末端カルボキシル基濃度[COOH]を求めた。測定した末端アミノ基濃度[NH2](単位:μ当量/g)および末端カルボキシル基濃度[COOH](単位:μ当量/g)から、次式によって数平均分子量を求めた。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0034】
<ヘイズ(Haze)の測定>
得られたポリアミド樹脂ペレットを120℃(露点-40℃)で24時間真空乾燥させ、乾燥したペレットを射出成形機(住友重機械工業(株)、SE130DU-HP)にて、金型温度100℃、シリンダー温度を280℃の条件で、厚さ2mm厚のプレートを作製した。曇価測定装置を使用して透過法によりヘイズ値を測定した。本実施例では、曇価測定装置として、日本電色工業(株)製、型式:COH-300Aを用いた。
【0035】
<耐熱老化性の評価(120℃)>
得られたポリアミド樹脂ペレットを、120℃(露点-40℃)で24時間真空乾燥したのち、射出成形機(住友重機械工業(株)、SE130DU-HP)にて、金型温度100℃、シリンダー温度を280℃の条件で、4mm×10mm×80mmの試験片を作製した。この試験片を熱風乾燥機(ヤマト科学(株)製、DF611)にて、内部温度120℃の条件で、試験片を加熱した。60日経過後に取出し、ISO178に準じて、オートグラフ(東洋精機(株)製、ベントグラフ)にて、23℃50%RH環境下で曲げ強度(MPa)を測定し、初期値からの強度保持率(%)を求め、以下の通り評価した。
A:曲げ強度保持率80%以上
B:曲げ強度保持率50%以上80%未満
C:曲げ強度保持率50%未満
【0036】
<シャルピー衝撃強度>
得られたポリアミド樹脂ペレットを、120℃(露点-40℃)で24時間真空乾燥したのち、射出成形機(住友重機械工業(株)、SE130DU-HP)にて、金型温度100℃、シリンダー温度を280℃の条件で、4mm×10mm×80mmの試験片を作製した。
JIS K7111-1に従って、ノッチなしシャルピー衝撃強度を測定した。
【0037】
実施例2
<樹脂Bの合成>
実施例1において、1,4-BACのシス体/トランス体のモル比を40/60とし、他は同様に行って、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、樹脂Bという。
<各種性能評価>
実施例1において、ポリアミド樹脂を樹脂Bに変更し、他は同様に行った。
【0038】
比較例1
<樹脂Cの合成>
実施例1において、1,4-BACのシス体/トランス体のモル比を15/85とし、他は同様に行って、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、樹脂Cという。
<各種性能評価>
実施例1において、ポリアミド樹脂を樹脂Cに変更し、他は同様に行った。
【0039】
比較例2
<樹脂Dの合成>
実施例1において、セバシン酸の代わりに等モル数のアジピン酸を使用し、他は同様に行って、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、樹脂Dという。
<各種性能評価>
実施例1において、ポリアミド樹脂を樹脂Dに変更し、他は同様に行った。
【0040】
比較例3
<樹脂Eの合成>
実施例1において、セバシン酸とイソフタル酸とテレフタル酸のモル比を50:44:6とし、他は同様に行って、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、樹脂Eという。
<各種性能評価>
実施例1において、ポリアミド樹脂を樹脂Eに変更し、他は同様に行った。
【0041】
比較例4
<樹脂Fの合成>
実施例1において、イソフタル酸の代わりに等モル数のテレフタル酸を使用し、他は同様に行ったが、合成できなかった。
【0042】
実施例3
<樹脂Gの合成>
実施例1において、1,4-BACのシス体/トランス体のモル比を60/40とし、セバシン酸とイソフタル酸のモル比を40:60とし、他は同様に行って、ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、樹脂Gという。
<各種性能評価>
実施例1において、ポリアミド樹脂を樹脂Gに変更し、他は同様に行った。
【0043】
結果を下記表1に示す。
【表1】
上記表において、1,4-BACは1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを、SAはセバシン酸を、AdAはアジピン酸を、PIAはイソフタル酸を、PTAはテレフタル酸をそれぞれ示している。
【0044】
上記結果から明らかなとおり、本発明のポリアミド樹脂は、耐熱老化性に優れ、かつ、シャルピー衝撃強度が高いことが分かった(実施例1~3)。さらに、透明性に優れる(Hazeが低い)ことが分かった。
これに対し、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとして、トランスモル比率が80モル%を超えるものを用いて得られるポリアミド樹脂(比較例1)は、シャルピー衝撃強度が劣っていた。また、ジカルボン酸由来の構成単位が、炭素数7以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸に由来するポリアミド樹脂(比較例2)および炭素数8~12の直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸に由来する構成単位に加え、テレフタル酸に由来する構成単位を含むポリアミド樹脂(比較例3)は、耐熱老化性が劣ることが分かった。
ジカルボン酸由来の構成単位が、炭素数8~12以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸とテレフタル酸に由来するポリアミド樹脂(比較例4)は本製法では合成ができないことがわかった。
また、実施例1~3および比較例1~3の樹脂は、昇温過程における結晶融解エンタルピーΔHmがほぼ0J/gであり、非晶性であることが分かった。