(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、成形品およびポリアミド樹脂ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20220809BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220809BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20220809BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220809BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20220809BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C08K3/40
C08K7/14
C08G69/26
C08J5/00 CFG
(21)【出願番号】P 2018557660
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2017043876
(87)【国際公開番号】W WO2018116837
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2016248951
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小黒 葉月
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆介
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017178(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014772(WO,A1)
【文献】特開2014-111757(JP,A)
【文献】特開2011-057932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 69/00-69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、無機充填剤を含み、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、
前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、かつ、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、
さらに、前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含
み、
前記ポリアミド樹脂と前記無機充填剤の質量比率(ポリアミド樹脂:無機充填剤)が、55:45~35:65である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填剤がガラスを主成分とする無機充填剤である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤がガラス繊維である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤を前記ポリアミド樹脂組成物の35~65質量%の割合で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物がペレットである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
摺動部品である、請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
ポリアミド樹脂に、無機充填剤を添加して、溶融混練することを含み、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、
前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、かつ、
前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含
み、
前記ポリアミド樹脂と前記無機充填剤の質量比率(ポリアミド樹脂:無機充填剤)が、55:45~35:65である、
ポリアミド樹脂ペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、成形品およびポリアミド樹脂ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂を摺動部品に用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、テレフタル酸成分と1,10-デカンジアミン成分からなるポリアミド100質量部および摺動性改良材0.5~60質量部を含有するポリアミド樹脂組成物からなる摺動部材(摺動部品)が開示されている。また、特許文献2には、繊維状充填剤を長さ方向に揃えた状態で束ね、前記繊維状充填剤の束にポリアミドを溶融させた状態で含浸させ一体化した後に、5~15mmの長さに切断した樹脂含浸繊維束を含む樹脂組成物であり、前記ポリアミドが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンまたは脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリアミドであり、前記繊維状充填剤が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維から選ばれるものであり、前記樹脂組成物を用いた摩耗性試験において、目視により表皮がめくれないと確認できるものである、耐摩耗性成形体用の樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-64420号公報
【文献】特開2012-131918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、ポリアミド樹脂を用いた摺動部品は、優れた耐摩耗性が求められる。しかしながら、本発明者が検討したところ、上記ポリアミド樹脂組成物を用いた場合、耐摩耗性が不十分であったり、耐摩耗性に優れていても、機械的強度が劣る場合があることが分かった。本発明は、かかる課題を解決することを目的としたものであって、高い機械的強度を維持しつつ、耐摩耗性に優れた成形品を提供可能なポリアミド樹脂組成物、ならびに、前記ポリアミド樹脂組成物を用いた成形品およびポリアミド樹脂ペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
かかる状況のもと、本発明者が検討を行った結果、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸から構成されるポリアミド樹脂を用い、かつ、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比を35:65~0:100とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<8>により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂と、無機充填剤を含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、かつ、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、さらに、前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含む、ポリアミド樹脂組成物。
<2>前記無機充填剤がガラスを主成分とする無機充填剤である、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<3>前記無機充填剤がガラス繊維である、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<4>前記無機充填剤を前記ポリアミド樹脂組成物の35~65質量%の割合で含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
<5>前記ポリアミド樹脂組成物がペレットである、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
<7>摺動部品である、<6>に記載の成形品。
<8>ポリアミド樹脂に、無機充填剤を添加して、溶融混練することを含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、かつ、前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含む、ポリアミド樹脂ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高い機械的強度を維持しつつ、耐摩耗性に優れた成形品を提供可能なポリアミド樹脂組成物、ならびに、前記ポリアミド樹脂組成物を用いた成形品およびポリアミド樹脂ペレットの製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、無機充填剤を含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、かつ、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、さらに、前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、高い機械的強度を維持しつつ、耐摩耗性に優れた成形品を提供可能になる。
【0009】
<ポリアミド樹脂>
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、「1,4-BAC」ということがある)に由来し、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、さらに、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含むポリアミド樹脂(以下、「1,4-BAC10」ということがある)である。
本発明では、原料1,4-BACのトランスのモル比を高くすることによって、機械的強度を高く維持しつつ、耐摩耗性に優れた成形品を提供可能になったものである。このメカニズムは、得られるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の結晶化度を高くすることに成功した点にあると推測される。
【0010】
ここで、原料モノマーである、1,4-BACのトランス体のモル比が高くなると、高融点となり、合成中に次亜リン酸ナトリウムが分解しやすくなってしまう。実験室レベルでは、反応温度や次亜リン酸ナトリウムの量を慎重に制御して合成することができるが、工業生産することを考慮すると、酸化防止剤(リン含有化合物)として、次亜リン酸ナトリウム以外の化合物を用いることができれば有益である。そのため、本発明では、ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の合成の際に用いる酸化防止剤(リン含有化合物)として、次亜リン酸カルシウムを用いることが好ましい。
さらに、次亜リン酸カルシウムのようなカルシウム塩は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に対する溶解性が低く、カルシウム塩の添加量が多くなると白色の異物が発生し、成形品の外観が劣る場合がある。そこで、ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)のリン原子とカルシウム原子の割合を上記のように設定することにより、成形品としたときの外観も向上させることができる。
【0011】
本発明では、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する。ジアミン由来の構成単位は、好ましくは71モル%以上、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは98モル%以上、より特に一層好ましくは99モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する。
1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外のジアミンとしては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が例示される。これらの他のジアミンは、1種のみでも2種以上であってもよい。
ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の原料ジアミンである1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、シス体とトランス体があるが、本発明において、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比は、35:65~0:100であり、好ましくは32:68~0:100であり、より好ましくは30:70~0:100であり、さらに好ましくは25:75~0:100であり、一層好ましくは20:80~0:100である。このような範囲とすることにより、結晶化度が高く、高い融点のポリアミド樹脂(1,4-BAC10)が得られる。
【0012】
本発明では、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。ジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、一層好ましくは98モル%以上、より一層好ましくは99モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。このようなポリアミド樹脂(1,4-BAC10)を用いることにより、ポリアミド樹脂の吸水率がより低くなる傾向にあり好ましい。
【0013】
炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外に用いることができるジカルボン酸としては、炭素数7以下の脂肪族ジカルボン酸、炭素数6~12の脂環式ジカルボン酸等が例示される。これらの具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。但し、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)におけるイソフタル酸の配合割合は、10モル%未満である。
【0014】
さらに、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、ジアミン成分およびジカルボン酸成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。しかしながら、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、通常、全構成単位の90モル%以上がジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、一層好ましくは99モル%以上、より一層好ましくは実質的に100モル%がジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成される。
【0015】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の各種熱物性および結晶化度は、以下の通りであることが好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。また、以下に述べる熱物性の測定方法は、実施例に記載の方法に従って測定される。但し、実施例で用いている測定機器が廃版等の理由により入手困難な場合は、他の同等の性能を有する機器を用いて測定した値とする。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、融点(Tm)が230℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく、256℃以上であることが一層好ましく、260℃以上であることがより一層好ましく、270℃以上であることがさらに一層好ましい。
融点の上限値については、特に定めるものではないが、例えば、300℃以下であってもよい。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、融点が1つであっても、2つ以上有していてもよい。融点を2つ以上有する場合、上記融点の好ましい範囲の下限値は、2つ以上の融点のうち、最も低い融点を意味し、上記融点の好ましい範囲の上限値は、2つ以上の融点のうち、最も高い融点を意味する。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上であることが好ましく、85℃以上がより好ましい。ガラス転移温度の上限値は、特に定めるものではないが、例えば、150℃以下、さらには130℃以下、特には120℃以下、より特には、110℃以下でもよい。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、加熱結晶化温度(Tch)が160℃以下であることが好ましく、150℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。加熱結晶化温度の下限値は、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、122℃以上がさらに好ましい。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、冷却結晶化温度(Tcc)が180℃以上であることが好ましく、220℃以上であってもよい。冷却結晶化温度の上限値は、260℃以下であることが好ましく、255℃以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、下記式で示されるX線回析法により算出した結晶化度が30%を超えることが好ましく、31%以上がより好ましく、33%以上がさらに好ましく、35%以上が一層好ましく、38%以上がより一層好ましく、40%以上がさらに一層好ましい。結晶化度の上限値は、特に定めるものではないが、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下とすることもでき、さらには47%以下とすることもできる。
結晶化度(%)=[結晶性ピークの面積/(結晶性ピークの面積+非晶性ピークの面積)]×100
本発明では、上記Tm、Tg、Tch、Tccおよび結晶化度の好ましい範囲について、いずれか2つ以上を組み合わせて満たすことがより好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0017】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含む。このような範囲とすることにより、得られる成形品の外観が向上する。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)におけるリン原子濃度は、下限値が、25質量ppm以上であることが好ましく、30質量ppm以上であることがより好ましく、35質量ppm以上であることがさらに好ましい。リン原子濃度の上限値は、80質量ppm以下であることが好ましく、60質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以下であることがさらに好ましい。
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)におけるリン原子:カルシウム原子のモル比は1:0.3~0.7となる割合であり、1:0.4~0.6となる割合がより好ましく、1:0.45~0.55となる割合がさらに好ましく、1:0.48~0.52であることが特に好ましい。本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)に含まれるリン原子およびカルシウム原子は、それぞれ、次亜リン酸カルシウムに由来することが好ましい。
リン原子濃度およびカルシウム原子濃度の測定方法は、それぞれ、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0018】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の数平均分子量は、6,000~30,000であることが好ましく、10,000~25,000であることがより好ましい。
ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
より具体的には、カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定することができる。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定することができる。
【0019】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が、好ましくは1.8~3.1である。分子量分布は、より好ましくは1.9~3.0、さらに好ましくは2.0~2.9である。分子量分布をこのような範囲とすることにより、機械特性に優れた複合材料が得られやすい傾向にある。
ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の分子量分布は、例えば、重合時に使用する開始剤や触媒の種類、量および反応温度、圧力、時間等の重合反応条件などを適宜選択することにより調整できる。また、異なる重合条件によって得られた平均分子量の異なる複数種のポリアミド樹脂(1,4-BAC10)を混合したり、重合後のポリアミド樹脂(1,4-BAC10)を分別沈殿させることにより調整することもできる。
【0020】
<ポリアミド樹脂の製造方法>
次に、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の製造方法の一例について述べる。本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)は、以下に述べる方法で製造されたポリアミド樹脂であることが好ましいが、これに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0021】
本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の製造方法は、ジアミンとジカルボン酸を次亜リン酸カルシウムの存在下で重縮合することを含み、前記ジアミンの70モル%以上が1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンであり、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、前記ジカルボン酸の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸であることを含む。
このように次亜リン酸カルシウムの存在下で合成することにより、得られるポリアミド樹脂中のリン原子濃度およびカルシウム原子濃度を所定の範囲とすることができる。尚、次亜リン酸カルシウムの一部または全部は、重縮合時や二次加工時の酸化により、亜リン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ポリリン酸カルシウム等に変化する。また、リン原子濃度とカルシウム原子濃度の比率は、重縮合条件や重縮合時の酸素濃度等によって変化する。従って、上記ポリアミド樹脂の製造方法によって得られたポリアミド樹脂に、次亜リン酸カルシウムが全く存在しない場合もあろう。
重縮合は、通常、溶融重縮合法であり、溶融させた原料ジカルボン酸に原料ジアミンを滴下しつつ加圧下で昇温し、縮合水を除きながら重合させる方法、もしくは、原料ジアミンと原料ジカルボン酸から構成される塩を水の存在下で、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法が好ましい。
本発明では、次亜リン酸カルシウムを、ポリアミド樹脂に含まれるリン原子濃度が20質量ppm以上となるように添加することが好ましく、25質量ppm以上となるように添加してもよく、さらには30質量ppm以上となるように添加してもよい。次亜リン酸カルシウムは、また、リン原子濃度の上限値が、100質量ppm以下となるように添加することが好ましく、80質量ppm以下となるように添加することがより好ましく、60質量ppm以下となるように添加することがさらに好ましい。
【0022】
また、重縮合時には、次亜リン酸カルシウムと併用して他のアルカリ金属化合物を添加してもよい。アルカリ金属化合物を添加することにより、アミド化反応速度を調整することが可能になる。
また、固相重合を行ってポリアミド樹脂の分子量を高めることも好ましい。
その他の重合条件については、特開2015-098669号公報や国際公開WO2012/140785号パンフレットの記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、ジアミン、ジカルボン酸等の詳細は、上述のポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の所で述べたものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物における本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)の含有量は、下限値が35質量%以上であることが好ましく、37質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限値は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましく、53質量%以下、50質量%以下であってもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)を1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
<無機充填剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物には、無機充填剤を配合する。無機充填剤を配合することにより、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品を補強し、剛性、耐熱性および寸法安定性等を向上させることができる。
無機充填剤の形状等については、特に制限はなく、繊維状、板状、粒状、針状のいずれでもよいが、繊維状が好ましい。
無機充填剤の具体例としては、例えば、ガラスを主成分とする無機充填剤(ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドファイバー)、アルミナ繊維および炭素繊維が好ましく、ガラスを主成分とする無機充填剤および炭素繊維がより好ましく、ガラスを主成分とする無機充填剤がさらに好ましく、ガラス繊維が一層好ましい。ここで、ガラスを主成分とするとは、無機充填剤に含まれる成分のうち、ガラスが最も多いことをいい、70質量%以上がガラスであることが好ましく、80質量%以上がガラスであることがより好ましい。
本発明では無機充填剤を用いることにより、摺動特性をより向上させることができる。
【0025】
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取ったガラスロービングやチョップドストランドなどのいずれであってもよく、チョップドストランドが好ましい。
チョップドストランドとしては、例えば、数平均繊維長(カット長)1~10mmのものが例示される。また、チョップドストランドの重量平均繊維径は、1~20μmであることが好ましい。
原料ガラスの組成は、無アルカリのものが好ましく、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス等が挙げられるが、本発明では、Eガラスが好ましく用いられる。
【0026】
ガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂組成物における、無機充填剤の含有量は、下限値が、20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、43質量%以上であることが一層好ましく、さらには、45質量以上、47質量%以上、50質量%以上であってもよい。前記含有量の上限値は、72質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、63質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが一層好ましく、55質量%以下であってもよい。本発明では、無機充填剤の配合量を40質量%以上、特には43質量%以上とすることにより、顕著に摺動特性を向上させることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、無機充填剤を1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物において、ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)と無機充填剤の質量比率(ポリアミド樹脂:無機充填剤)は、70:30~30:70であることが好ましく、58:42~30:70であることがさらに好ましく、58:42~35:65であることが一層好ましく、55:45~35:65であることがさらに一層好ましい。前記質量比率を58:42~35:65とすることにより、摺動特性をより効果的向上させることが可能になる。
【0028】
<他の成分>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)および無機充填剤に加え、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、本発明で用いるポリアミド樹脂(1,4-BAC10)以外の他のポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、その他の添加剤が例示される。
【0029】
他のポリアミド樹脂としては、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/66(ポリアミド6成分およびポリアミド66成分からなる共重合体)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、MXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、MPXD6(ポリメタパラキシリレンアジパミド)、MXD10(ポリメタキシリレンセバサミド)、MPXD10(ポリメタパラキシリレンセバサミド)およびPXD10(ポリパラキシリレンセバサミド)が例示される。これらの他のポリアミド樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂を例示できる。これらのポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
他の添加剤としては、離型剤、潤滑剤、安定剤、難燃剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤等が例示される。これらの添加剤は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。他の添加剤の含有量は、合計で、ポリアミド樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましい。これらの添加剤の詳細は、特開2011-57977号公報や特開2015-129244号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、添加剤として、カルシウム含有化合物を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、ポリアミド樹脂組成物に含まれる添加剤の合計の3質量%以下であることをいい、1質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の他の実施形態として、好ましくは90質量%以上が、より好ましくは95質量%以上が、さらに好ましくは97質量%以上が、前記ポリアミド樹脂(1,4-BAC10)および前記無機充填剤からなるポリアミド樹脂組成物が例示される。
【0030】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、ポリアミド樹脂に、無機充填剤を添加して、溶融混練することを含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来し、前記1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数8~12のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、かつ、さらに、前記ポリアミド樹脂が、リン原子を20~100質量ppmの割合で含み、カルシウム原子をリン原子:カルシウム原子のモル比が1:0.3~0.7となる割合で含む、ポリアミド樹脂組成物の製造方法が例示される。このようなポリアミド樹脂組成物は、通常、ペレット(ポリアミド樹脂ペレット)として製造される。
【0031】
具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによってポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、ポリアミド樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによってポリアミド樹脂組成物を製造することもできる。
【0032】
<成形品>
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品について説明する。本発明のポリアミド樹脂組成物をペレタイズして得られたポリアミド樹脂ペレットは、各種の成形法で成形して成形品とされる。また、ペレット状のポリアミド樹脂組成物を経由せずに、押出機で溶融混練されたポリアミド樹脂組成物を直接、成形して成形品とすることもできる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、中空状、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0033】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高い機械的強度を維持しつつ、高い耐摩耗性を有する樹脂材料であるので、これを成形した成形品は、摺動部品として好ましく用いられる。
摺動部品の具体例としては、電気用品、事務機器および動力機器等の歯車、回転軸、軸受け、各種ギア、カム、メカニカルシールの端面材、バルブなどの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、ライダーリング等のシール部材、圧縮機の回転軸、回転スリーブ、ピストン、インペラー、ローラー等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、JIS K7111-1に従って、ノッチ有りシャルピー衝撃強度を10kJ/m2以上とすることができる。ノッチ有りシャルピー衝撃強度の上限は、特に定めるものではないが、例えば、20kJ/m2以下、さらには15kJ/m2以下であっても、十分に実用レベルである。JIS K7111-1に従った、ノッチ有りシャルピー衝撃強度は、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
<合成例 1,4-BAC10>
撹拌機、分縮器、全縮器、圧力調整器、温度計、滴下槽およびポンプ、アスピレーター、窒素導入管、底排弁、ストランドダイを備えた内容積50Lの耐圧反応容器に、精秤したセバシン酸(伊藤精油社製)10000g(49.44mol)、次亜リン酸カルシウム(関東化学社製)2.5g(0.015mol)、酢酸ナトリウム(関東化学社製)1.6g(0.02mol)を入れ、十分に窒素置換した後、反応容器内を密閉し、容器内を0.4MPaGに保ちながら撹拌下200℃まで昇温した。200℃に到達後、反応容器内の原料へ滴下槽に貯めた1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(シストランスモル比:シス/トランス=15/85)(三菱ガス化学社製)7010g(49.53mol)の滴下を開始し、容器内を0.4MPaに保ちながら、かつ、生成する縮合水を系外へ除きながら反応槽内を300℃まで昇温した。1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの滴下終了後、反応容器内を徐々に常圧に戻し、次いでアスピレーターを用いて反応槽内を80kPaに減圧して縮合水を除いた。減圧中に撹拌機の撹拌トルクを観察し、所望のトルクに達した時点で撹拌を止め、反応槽内を窒素で加圧し、底排弁を開け、ストランドダイからポリマーを抜き出してストランド化したのち、冷却してペレタイザーによりペレット化することにより、数平均分子量(Mn)12000のポリアミド樹脂(ポリアミド樹脂ペレット)を得た。
【0037】
得られたポリアミド樹脂について、以下の評価を行った。
【0038】
<リン原子濃度およびカルシウム原子濃度の測定方法>
ポリアミド樹脂0.2gと35質量%の濃度の硝酸水溶液8mLを混合し、230℃で30分間、マイクロウエーブ分解を行った。得られた分解液を超純水で定容し、ICP分析測定溶液を調整した。ICP分析装置を用いて、ポリアミド樹脂中のリン原子濃度およびカルシウム原子濃度を測定した。
測定に際し、測定試料であるポリアミド樹脂は、上記で得られたペレット状のものを用いた。ポリアミド樹脂と硝酸水溶液は、変性ポリテトラフルオロエチレン製の容器に入れてマイクロウエーブ分解を行った。マイクロウエーブ分解には、マイルストーンゼネラル社製、ETHOS Oneを用いた。ICP分析装置としては、島津製作所社製、ICPE-9000を用いた。
【0039】
<ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、結晶化温度(Tch、Tcc)および融解熱量(Hm)の測定方法>
示差走査熱量の測定はJIS K7121およびK7122に準じて行った。示差走査熱量計を用い、上記で得られたポリアミド樹脂ペレットを砕いて示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、その後10℃/分で30℃まで徐冷し前処理を行った後に測定を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分で加熱し、300℃で5分保持した後、降温速度-5℃/分で100℃まで冷却して測定を行い、ガラス転移温度(Tg)、加熱結晶化温度(Tch)、冷却結晶化温度(Tcc)、融点(Tm)および融解熱量(Hm)を求めた。
示差走査熱量計としては、島津製作所社製「DSC-60」を用いた。
【0040】
<ポリアミド樹脂の結晶化度の測定方法>
<<フィルムの製造>>
上記で得られたポリアミド樹脂ペレットをTダイ付き二軸押し出し機に供給し、Tm+15℃の温度にて溶融混練を行い、Tダイを通じて厚さ200μmのフィルムを得た。
<<結晶化度の測定>>
ポリアミド樹脂をX線回析装置(XRD)にて測定を行い、得られた結晶性ピークの面積と非晶状態でのピーク面積より以下の計算式に基づき結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[結晶性ピークの面積/(結晶性ピークの面積+非晶性ピークの面積)]×100
尚、本実施例では、ポリアミド樹脂として、上記で得られたポリアミド樹脂フィルムを用いた。また、X線回析装置として、リガク社製、SmartLabを用いた。
【0041】
<ポリアミド樹脂組成物の製造>
上記で得られたポリアミド樹脂に対し、無機充填剤として、ガラス繊維(日本電気硝子社製、ECS03T-296GH、チョップドストランド、重量平均繊維径10μm、カット長3mm)をポリアミド樹脂と無機充填剤の質量比率(ポリアミド樹脂/無機充填剤)が表1に示す値となるように、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)に投入し、溶融混練して、ポリアミド樹脂ペレットを作製した。尚、ガラス繊維は、サイドフィードにより二軸押出機に投入した。また、押出機の設定温度は、300℃にて実施した。
【0042】
<試験片の製造>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂ペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製、NEX140IIIを用いて、4mm厚さのISO引張り試験片を射出成形した。シリンダー温度は300℃、金型温度は130℃にて実施した。
【0043】
<成形品外観>
得られた試験片(成形品)の外観を目視により観察した。
A:良好な外観の成形品が得られた。
B:成形品に白い濁りが見られた。
C:成形品に異物の存在が確認された。
【0044】
<比摩耗量>
上述の製造方法で得られたポリアミド樹脂ペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製、NS-40を用いて、接触面積2cm2の中空円筒試験片を射出成形した。このとき、シリンダー温度は300℃、金型温度は130℃にて実施した。
JISK7218(A)法に準拠し、温度23℃、湿度50%環境下で、中空円筒試験片同士での摩擦摩耗試験を、線速度100mm/秒、加圧荷重5kgfの条件下にて20時間実施し、同材料に対する比摩耗量を、装置固定側と可動側それぞれの試験片について測定した。比摩耗量は、摩耗減少した試験片体積を、総走行距離と加圧荷重で除して算出した。
【0045】
<シャルピー衝撃強度>
上記で得られた試験片を用いて、JIS K7111-1に従って、ノッチ有りシャルピー衝撃強度を測定した。
【0046】
実施例2
<合成例 1,4-BAC10>
実施例1において、1,4-BACとして、シス:トランスのモル比が、30:70のものを用い、滴下後反応槽内を275℃まで昇温したこと以外は同様に行ってポリアミド樹脂を得た。
<評価>
得られたポリアミド樹脂について、実施例1と同様に評価を行った。
【0047】
比較例1
<合成例 1,4-BAC10>
実施例1において、次亜リン酸カルシウムを次亜リン酸ナトリウム1.59g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度40質量ppm)に変更し、他は同様に行ってポリアミド樹脂を得た。
<評価>
得られたポリアミド樹脂について、実施例1と同様に評価を行った。
【0048】
比較例2
<合成例 1,4-BAC10>
実施例1において、1,4-BACとして、シス:トランスのモル比が、38:62のものを用い、滴下後反応槽内を260℃まで昇温したこと以外は同様に行ってポリアミド樹脂を得た。
<評価>
得られたポリアミド樹脂について、実施例1と同様に評価を行った。
【0049】
【0050】
上記結果から明らかなとおり、次亜リン酸塩として、カルシウム塩を用い、かつ、1,4-BACのシス:トランスのモル比が、35:65~0:100の範囲内にあるポリアミド樹脂を用いたとき(実施例1~4)、高い機械的強度(シャルピー衝撃強度)を維持しつつ、耐摩耗性に優れた(比摩耗量が少ない)成形品が得られた。これに対し、次亜リン酸塩として、ナトリウム塩を用いた場合(比較例1)、樹脂合成時には十分なリン成分が配合されていたが、次亜リン酸ナトリウムが分解し、リン成分が揮発してしまい、ゲル化が起こり、得られた成形品の外観が劣っていた。1,4-BACのトランス比が本発明の範囲未満の場合(比較例2)、機械的強度は高いにもかかわらず、耐摩耗性が格段に劣っていた。
【0051】
また、実施例1において、ガラス繊維の種類を(日本電気硝子製、T-276GH)に変更し、他は同様に行ったところ、実施例1と同等の性能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物から形成される成形品は、機械的強度が高く、耐摩耗性に優れているので、電気用品、事務機器、動力機器等の歯車、回転軸、軸受け、各種ギア、カム、メカニカルシールの端面材、バルブなどの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、ライダーリング等のシール部材、圧縮機の回転軸、回転スリーブ、ピストン、インペラー、ローラー等に好適に使用できる。