(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電磁成形方法および電磁成形装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/06 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B23K20/06
(21)【出願番号】P 2019007794
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】山口 紘次朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克典
(72)【発明者】
【氏名】森脇 幹文
(72)【発明者】
【氏名】中井 正規
(72)【発明者】
【氏名】市原 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨永 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】氏平 直樹
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0311907(US,A1)
【文献】特表2002-518180(JP,A)
【文献】特開平02-307687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00-20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性部材に電磁力を与えて前記導電性部材を被接合部材に衝突させることにより前記導電性部材と前記被接合部材を接合させる電磁成形装置であって、
前記導電性部材は、前記電磁力を発生する磁場によって前記導電性部材に誘導される電流の流れる方向と同じ方向に流れる補助電流を印加する回路に接続されて
おり、
前記回路が、
前記導電性部材を挟む一対のローラであって、少なくとも一方は、少なくとも外周面が導電性材料で形成された一対のローラと、
前記外周面が導電性材料で形成されたローラに接続された直流電源を有することを特徴とする電磁成形装置。
【請求項2】
前記一対のローラの少なくとも一方に駆動連結されたモータを有することを特徴とする
請求項1に記載の電磁成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の電磁成形装置を用いて、
導電性部材と
被接合部材との間に補強部材を配置し、
前記導電性部材に電磁力を与えて、前記補強部材を挟んだ状態で前記導電性部材を前記被接合部材に衝突させることを特徴とする電磁成形方法。
【請求項4】
前記導電性部材に補助電流を流すことを特徴とする
請求項3に記載の電磁成形方法。
【請求項5】
前記導電性部材が、アルミニウム、又は鉄、若しくはそれらのいずれかを含む合金であることを特徴とする
請求項3又は4のいずれかに記載の電磁成形方法。
【請求項6】
前記補強部材がカーボンファイバを含むことを特徴とする
請求項3~5のいずれかに記載の電磁成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁成形方法および電磁成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁成形法は、磁界のエネルギを導電性材料に加えることによって該導電性材料を変形加工する、塑性加工法の一つである。この電磁成形法によれば、例えば、瞬間的に高い電磁力を導電性材料に与えることにより該導電性材料を他の部材に衝突させて、該導電性材料と他の部材を接合することができる。
【0003】
具体的に、特許文献1には、細幅の長い導体板をコの字型に形成した一巻コイルを使用し、この一巻コイルの上板と下板との間に金属薄板を重ねて配設し、この一巻コイルに大電流を瞬間的に流し、電磁誘導の法則を利用して、この重ねて配設した金属薄板に渦電流を生じさせて、この重ねて配設した金属薄板を接合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
ところで、部材の機械的強度を向上させるために、この部材と補強部材を複合材料として組み合わせる(複合化する)ことで補強したいという要請がある。しかし、補強部材によっては、高い機械的強度を有する一方で、熱に対して弱い材料がある。例えば、カーボンファイバは高強度で高弾性率を有するものの、鋼板材料との複合化を行う場合、200~300℃のとき、カーボン拡散が活性化され、機械的強度が劣る炭化物を生成する虞がある。特に、複合化の手法として溶接や鋳造などが行われる場合、カーボンファイバは上記炭化物を容易に生成してしまい、複合化された部材の強度向上に寄与し得ない。これに対し、上述した電磁接合法では、金属と金属を衝突させることによって接合するため、接合される金属が高温になりにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、電磁接合法の上述した利点を利用して、接合された部材の強度を向上できる、新たな接合方法を提案するもので、例えば、補強部材を導電性材料と被接合部材との間に配置した状態で、補強部材、導電性材料、及び被接合部材を接合させる電磁成形方法と電磁成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る、導電性部材に電磁力を与えて前記導電性部材を被接合部材に衝突させることにより前記導電性部材と前記被接合部材を接合させる電磁成形装置は、
前記導電性部材は、前記電磁力を発生する磁場によって前記導電性部材に誘導される電流の流れる方向と同じ方向に流れる補助電流を印加する回路に接続されており、
前記回路が、
前記導電性部材を挟む一対のローラであって、少なくとも一方は、少なくとも外周面が導電性材料で形成された一対のローラと、
前記外周面が導電性材料で形成されたローラに接続された直流電源を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る実施形態の電磁成形装置は、
前記一対のローラの少なくとも一方に駆動連結されたモータを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る、電磁成形方法は、
請求項1又は2のいずれかに記載の電磁成形装置を用いて、
導電性部材と被接合部材との間に補強部材を配置し、
前記導電性部材に電磁力を与えて、前記補強部材を挟んだ状態で前記導電性部材を前記被接合部材に衝突させることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る実施形態の電磁成形方法は、
前記導電性部材に補助電流を流すことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る実施形態の電磁成形方法は、
前記導電性部材が、アルミニウム、又は鉄、若しくはそれらのいずれかを含む合金であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る実施形態の電磁成形方法は、
前記補強部材がカーボンファイバを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願の請求項1に記載の発明によれば、補助電流が導電性部材に流れる、導電性部材と被接合部材を接合する電磁成形装置を提供できる。補助電流が、導電性部材に流れ、導電性部材を発熱させることで、導電性部材は可塑化し、導電性部材と被接合部材の接合が容易になる。また、補助電流が導電性部材に流れることで、導電性部材に与えられる電磁力が増幅され、導電性部材を被接合部材に衝突させる力が増加し、導電性部材と被接合部材の接合が確実に行われる。これにより、接合界面の品質が向上した接合部材を提供できる。
また、導電性部材と被接合部材が接合された後、回転可能なローラを備えることで、導電性部材を移動させることが容易な電磁成形装置を提供できる。
【0014】
本願の請求項2に記載の発明によれば、導電性部材と被接合部材が接合された後、ローラが回転し、導電性部材を移動させることで、次の接合の準備を行う電磁成形装置を提供できる。
【0015】
本願の請求項3に記載の発明によれば、導電性部材と被接合部材との間に補強部材を配置した状態で導電性部材と被接合部材を接合する電磁成形方法を提供できる。これにより、補強部材、導電性材料、及び被接合部材を接合して、強度が向上した接合部材を提供できる。
【0016】
本願の請求項4に記載の発明によれば、補助電流が導電性部材に流れる、導電性部材と被接合部材を接合する電磁成形方法を提供できる。補助電流が、導電性部材に流れ、導電性部材を発熱させることで、導電性部材は可塑化し、導電性部材と被接合部材の接合が容易になる。また、補助電流が導電性部材に流れることで、導電性部材に与えられる電磁力が増幅され、導電性部材を被接合部材に衝突させる力が増加し、導電性部材と被接合部材の接合が確実に行われる。これにより、接合界面の品質が向上した接合部材を提供できる。
【0017】
本願の請求項5に記載の発明によれば、導電性の高いアルミニウム、又は抵抗発熱の大きい鉄を接合する電磁成形方法を提供できる。アルミニウムを導電性部材として接合する場合、補助電流がアルミニウムに流れることで、アルミニウムに与えられる電磁力が増幅され、アルミニウムを被接合部材に衝突させる力が増加し、アルミニウムと被接合部材の接合が確実に行われる。また、鉄を導電性部材として接合する場合、補助電流が鉄に流れ、鉄を発熱させることで、鉄は可塑化し、鉄と被接合部材の接合が容易になる。これにより、接合界面の品質が向上した接合部材を提供できる。
【0018】
本願の請求項6に記載の発明によれば、機械的強度の高いカーボンファイバを補強部材として含んで、導電性部材と被接合部材を接合する電磁成形方法を提供できる。これにより、補強部材、導電性材料、及び被接合部材を接合して、強度が向上した接合部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る、電磁成形装置を示す概略図である。
【
図2】電磁力が導電性部材に与えられていないときの、導電性部材、被接合部材、及び補強部材の状態を示す概略図である。
【
図3】電磁力が導電性部材に与えられたときの、導電性部材、被接合部材、及び補強部材の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電磁成形方法の実施形態を、その成形を行う電磁成形装置と共に説明する。
【0021】
[1.電磁成形装置]
図1は、本発明の実施形態に係る電磁成形装置100の概略構成を示す。電磁成形装置100は導電性部材を被接合部材に接合する成形装置である。
【0022】
[1.1:電磁成形装置の概要]
図1に示すように、電磁成形装置100は、概略、下部構造10と、該下部構造10の上に配置された上部構造12を有する。
【0023】
下部構造10は、
図1の手前側から奥側に向かって伸びる直方体形状の導体14を含む。導体14は、パルス発生回路16に電気的に接続されている。パルス発生回路16は、一般的な充放電回路からなり、直流電源18、コンデンサ20、及びスイッチ22を含み、導体14に大電流を瞬間的に流すことができるように構成されている。
【0024】
下部構造10はまた、導体14の上方に配置される導電性部材24(詳細については後述する。)の両端部26,28に当接する電極30,32を有する。電極30,32は、直流電源34を含む回路36に電気的に接続され、接合時に導電性部材24に電流(補助電流)を流すように構成される。
【0025】
実施形態において、電極30,32はそれぞれ、導電性部材24の上面と下面に接触する一対のローラ38,40を有する。例えば、4つのローラ38,40のいずれか一つがモータ42に駆動連結されてもよい。実施形態では、手前側下側のローラ40がモータ42に連結されている。したがって、この実施形態では、モータ42の駆動に基づいて、
図1の奥側から手前側に向かって導電性部材24を移動させることができる。
【0026】
ローラ38,40は、少なくとも外周面が導電性の材料で形成されており、例えばブラシ44,46を介して導電性部材24に直流電源34から電流が印加されるように構成されている。
【0027】
下部構造10はさらに、導電性部材24の上方に配置される補強部材48(詳細については後述する。)の両端部50,52を保持する保持機構54,56を有する。実施形態において、これらの保持機構54,56はそれぞれ一対のローラを備えている。また、4つのローラの少なくとも一つがモータ58に駆動連結されてもよい。実施形態では、手前側上側のローラがモータ58に連結されている。したがって、この実施形態では、モータ58の駆動に基づいて、
図1の奥側から手前側に向かって補強部材48を移動することができる。
【0028】
電磁成形装置100の上部構造12は、
図1の手前側から奥側に向かって伸びる、直方体形状の剛性の高い固定部60を備える。
【0029】
上部構造12はまた、補強部材48の上方に配置される被接合部材62(詳細については後述する。)の両端部64,66を保持する保持機構68,70を有する。実施形態において、これらの保持機構68,70はそれぞれ一対のローラを備えている。また、4つのローラの少なくとも一つがモータ72に駆動連結されてもよい。実施形態では、手前側上側のローラがモータ72に連結されている。したがって、この実施形態では、モータ72の駆動に基づいて、
図1の奥側から手前側に向かって被接合部材62を移動することができる。
【0030】
[1.2:成形方法]
上述の構成を有する電磁成形装置100を用いた成形方法の一例を説明する。実際の成形にあたって、
図1の手前側から奥側に向かって伸びる板状の導電性部材24は、両端部26,28が電極30,32に保持された状態で、導体14の上方に該導体14との間に隙間をあけて設置される。実施形態において、補強部材48は綱又は紐のような複数のストランドからなり、
図1の手前側から奥側に向かって配置され、両端部50,52が保持機構54,56に保持された状態で、導電性部材24の上面の略中央部に載せられる。被接合部材62は、
図1の手前側から奥側に向かって伸びる板状の部材で、固定部60の下に配置される。実施形態では、被接合部材62の幅は導電性部材24の幅と同一又はほぼ同一である。したがって、被接合部材62は、その全面が補強部材48を挟んで導電性部材24のほぼ全面に対向している。説明のために、
図1において被接合部材62と導電性部材24は、それらの間に十分な隙間をあけて示されているが、実際の成形にあたって、被接合部材62と導電性部材24との距離は両者の接合に最も適した値に設定される。
【0031】
上述のように導電性部材24,補強部材48,及び被接合部材62を配置した状態で電源34が起動し、電極30から電極32に向かって流れる補助電流74を導電性部材24に印加する。補助電流74により2つの効果が得られる。一つは、導電性部材24が、補助電流74によって発熱することで可塑化し、被接合部材62に衝突したときにこれに接合し易くなることである。もう一つは、後述する電磁力76が補助電流74によって増幅されることにより、導電性部材24がより加速されて被接合部材62に対する衝突力及びその結果として接合力が増加することである。
【0032】
上述の状態で、導体14に接続されるパルス発生回路16は、約10kA~約200kA、パルス幅約100μsec以下のシングルパルスからなる、一点鎖線で示されるパルス電流78を導体14に印加する。
【0033】
これにより、一点鎖線で示される瞬間的な磁場80が導体14の周りに発生する。同時に、電磁誘導により、パルス電流78と逆方向(
図1における奥側から手前側に向かう方向)に、二点鎖線で示される誘導電流82が、導電性部材24の内部に流れる。その結果、二点鎖線で示される上方に向かう電磁力76が、磁場80と誘導電流82に直交する方向に発生し、導電性部材24が上方の被接合部材62に向けて瞬間的に付勢されてこの被接合部材62に大きな力で衝突し、導電性部材24と被接合部材62が補強部材48を挟んだ状態で接合する。導電性部材24が被接合部材62に衝突するときの衝撃は固定部60に吸収される。
【0034】
導電性部材24、補強部材48と被接合部材62が接合された後、電極30,32のローラ38,40が回転し、奥側から手前側に向かって導電性部材24を移動させる。同時に又はその後、保持機構54,56のローラも回転し、奥側から手前側に向かって補強部材48を移動させる。さらに、保持機構68,70のローラも回転し、奥側から手前側に向かって被接合部材62を移動させる。これにより、次の接合が上述の方法と同様に行われる。
【0035】
上述した実施形態において、例えば、
図2,3に示すように、導電性部材24はアルミニウムのフィルム又はプレートにより構成され、補強部材48は多数のカーボンファイバ(単繊維)を束ねた長繊維束のフィラメント又は多数のフィラメントからなるトウを複数並列配置して構成され、被接合部材62はアルミニウムのフィルム又はプレートで構成される。
【0036】
この場合、成形された接合部材84において、アルミニウムのフィルム又はプレートからなる導電性部材24とアルミニウムのフィルム又はプレートからなる被接合部材62の接合界面には電磁成形で特徴的な波状模様86が表れる。
【0037】
上述した実施形態において、導電性部材24は、アルミニウム以外の導電性材料、例えば鉄であってもよい。また、補強部材48は、カーボンファイバ以外の繊維材料、例えばガラス繊維であってもよい。さらに、被接合部材62は、アルミニウム以外の金属材料、例えばステンレスであってもよい。いずれにしても、導電性部材、補強部材、被接合部材には、最終成形品に要求される強度を満足するように適当な材料が選択可能である。
【0038】
その他、上述の実施形態において、電極30,32は、それぞれ一対のローラ38,40によって構成したが、導電性部材24の両端部26,28を保持する保持具(例えば、クランプ又はバイス)を電極として利用してもよい。また、補強部材48の両端部50,52を保持する保持機構54,56も、ローラに限るものでなく、その他の保持具(例えば、クランプ又はバイス)であってもよい。同様に、被接合部材62の両端部64,66を保持する機構68,70も、ローラに限るものでなく、その他の保持具(例えば、クランプ又はバイス)であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
100:電磁成形装置
24:導電性部材
34:直流電源
36:回路
38,40:ローラ
42:モータ
48:補強部材
62:被接合部材
74:補助電流
76:電磁力
80:磁場
82:誘導電流