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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0258 20160101AFI20220809BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/026 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/0206
H01M8/026
H01M8/0228
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019016134
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123546
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河邉 聡
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-129464(JP,A)
【文献】特開2016-30845(JP,A)
【文献】特開2013-229294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0258
H01M 8/0206
H01M 8/026
H01M 8/0228
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の厚み方向における両側に電極層が接合されてなる膜電極接合体を備える燃料電池に用いられて、同方向における前記膜電極接合体の外側に配置され、かつ導電性を有する金属製のセパレータ基材を備え、
前記セパレータ基材には、前記膜電極接合体に向けて突出する複数の凸状部と、同凸状部の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部とが形成され、
複数の前記凸状部及び複数の前記凹状部は、前記膜電極接合体の面に沿う方向に互い違いに配置されて平行に延びており、
各凹状部及び前記電極層により囲まれた領域が、同電極層に対しガスとして酸化ガス又は燃料ガスを供給する流路を構成する燃料電池用セパレータにおいて、
前記凸状部及び前記凹状部の前記電極層側の面には、導電性を有し、かつ前記セパレータ基材よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜が全面にわたって積層され、
前記第1薄膜のうち、少なくとも前記凸状部の頂面に積層された部分には、導電性を有する第2薄膜が積層され、
さらに、前記第2薄膜のうち、前記頂面に積層された部分には、前記凸状部の延びる方向に対し交差する方向へ直線状に延びる溝が形成され、同溝の少なくとも一方の端部が前記流路に繋がれている燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第2薄膜に前記溝が形成された前記凸状部の両側には前記流路が位置しており、
前記溝の一方の端部は一方の前記流路に繋がれ、同溝の他方の端部は他方の前記流路に繋がれている請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記溝が形成された箇所では前記第1薄膜が露出している請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池における複数層の膜電極接合体間に配置される燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示される燃料電池では、図4に概略的に示すように、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)71が厚み方向(図4の上下方向)における両側からセパレータ75によって挟まれている。膜電極接合体71は、電解質膜72と、上記厚み方向における電解質膜72の両側に配置された電極層とを備えている。一方の電極層はカソード電極層73を構成し、他方の電極層はアノード電極層74を構成している。なお、燃料電池70においては、複数層の膜電極接合体71が上記セパレータ75によって隔てられることで、膜電極接合体71がそれぞれ上述したように厚み方向における両側からセパレータ75によって挟まれている。
【0003】
各セパレータ75は、導電性を有する金属製のセパレータ基材76を備えている。各セパレータ基材76には、膜電極接合体71に向けて突出する複数の凸状部77と、同凸状部77の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部78とが形成されている。複数の凸状部77及び複数の凹状部78は、膜電極接合体71の面に沿う方向(図4の左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。
【0004】
各凹状部78及びカソード電極層73により囲まれた領域は、同カソード電極層73に酸化ガスを供給する流路81を構成している。各凹状部78及びアノード電極層74により囲まれた領域は、同アノード電極層74に燃料ガスを供給する流路82を構成している。
【0005】
各凸状部77の頂面には、導電性を有する薄膜85が積層されている。各薄膜85は、膜電極接合体71とセパレータ75毎のセパレータ基材76との接触抵抗の増大を抑制して、同接触抵抗が、燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体71での反応に及ぼす影響を小さくするために設けられている。接触抵抗は、二つの物体を接触させて電流を流すとき、その界面近傍に存在する電気抵抗である。
【0006】
上記燃料電池70では、アノード電極層74に燃料ガスが供給され、カソード電極層73に酸化ガスが供給されると、それら燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体71での反応に基づき発電が行われる。この際、上記反応に伴ってカソード電極層73で水が生成される。生成された水の一部は、カソード電極層73と各薄膜85との間に位置する。この水のうち、流路81に近いものは、同流路81内を高い流速で流れる酸化ガスに乗って燃料電池70の外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-66531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記水のうち、流路81から遠ざかった箇所に位置するものは、同流路81内の酸化ガスの流れによって燃料電池70の外部へ排出されきれず、カソード電極層73と各薄膜85との間で滞留する。この滞留する水が原因で、酸化ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0009】
なお、カソード電極層73及びアノード電極層74にある程度の水分を含ませることにより、発電効率を向上させることができる。そのため、膜電極接合体71を薄くすることが考えられる。こうすると、カソード電極層73側で生成された水が電解質膜72を伝わってアノード電極層74側に移動しやすくなる。ただし、各薄膜85とアノード電極層74との間に必要以上の水が保持されて、同アノード電極層74側に余剰の水が溜まると、燃料ガスがアノード電極層74に接触しにくくなって、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、発電に伴い生成した水の排水性能を高めることのできる燃料電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する燃料電池用セパレータは、電解質膜の厚み方向における両側に電極層が接合されてなる膜電極接合体を備える燃料電池に用いられて、同方向における前記膜電極接合体の外側に配置され、かつ導電性を有する金属製のセパレータ基材を備え、前記セパレータ基材には、前記膜電極接合体に向けて突出する複数の凸状部と、同凸状部の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部とが形成され、複数の前記凸状部及び複数の前記凹状部は、前記膜電極接合体の面に沿う方向に互い違いに配置されて平行に延びており、各凹状部及び前記電極層により囲まれた領域が、同電極層に対しガスとして酸化ガス又は燃料ガスを供給する流路を構成する燃料電池用セパレータにおいて、前記凸状部及び前記凹状部の前記電極層側の面には、導電性を有し、かつ前記セパレータ基材よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜が全面にわたって積層され、前記第1薄膜のうち、少なくとも前記凸状部の頂面に積層された部分には、導電性を有する第2薄膜が積層され、さらに、前記頂面における前記第2薄膜には溝が形成され、同溝の少なくとも一方の端部が前記流路に繋がれている。
【0012】
上記の構成によれば、発電に伴い生成した水の一部は、電極層と、第2薄膜のうち凸状部の頂面に積層された部分との間に位置する。この水のうち、流路に近いものは、同流路内を流れるガス(酸化ガス又は燃料ガス)によって同流路に引っ張られる。また、上記電極層と第2薄膜との間の水のうち、同第2薄膜に形成された溝に近いものも上記ガスによって、溝を介して流路へ引っ張られる。流路へ出た水は、同流路を流れるガスに乗って燃料電池の外部へ排出される。溝がない場合に比べ、排出される水の量が多くなり、排水性能が高まる。
【0013】
ところで、電解質膜での反応の副産物として酸性の物質が生ずると、金属製のセパレータ基材が、この酸性物質との電気化学的な反応によって浸食、すなわち、腐食するおそれがある。この際、セパレータ基材からイオンが溶出し、膜電極接合体の構成部材、例えば電解質膜等の性能を低下させ、燃料電池の出力低下を招く懸念がある。しかし、上記の構成によれば、イオンの溶出が、凸状部及び凹状部の電極層側の面の全面に形成された第1薄膜によって抑制される。溶出したイオンが原因で、膜電極接合体の構成部材の性能が低下する現象が第1薄膜によって抑制される。
【発明の効果】
【0014】
上記燃料電池用セパレータによれば、発電に伴い生成した水の排水性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態における燃料電池の部分断面図。
図2】一実施形態における第1セパレータの部分斜視図。
図3】第2薄膜に図2とは異なる溝が形成された第1セパレータの変形例を示す部分斜視図。
図4】従来の燃料電池において、膜電極接合体が厚み方向における両側からセパレータによって挟まれた状態を概略的に示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、燃料電池用セパレータの一実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
図1に示すように、燃料電池10は複数層の膜電極接合体11を備えている。各膜電極接合体11は、厚み方向(図1の上下方向)における両側から燃料電池用セパレータによって挟み込まれている。ここで、両燃料電池用セパレータを区別するために、図1において、各膜電極接合体11の上側(厚み方向における一方の外側)に位置するものを第1セパレータ21といい、下側(厚み方向における他方の外側)に位置するものを第2セパレータ31というものとする。
【0017】
複数層の膜電極接合体11は、それらの間に設けられた第1セパレータ21及び第2セパレータ31によって互いに隔てられている。各膜電極接合体11は、電解質膜12と、上記厚み方向における同電解質膜12の両側に配置された電極層とを備えている。一方(図1の上方)の電極層はカソード電極層13を構成し、他方(図1の下方)の電極層はアノード電極層14を構成している。
【0018】
カソード電極層13を挟んで電解質膜12とは反対側(図1の上側)には、炭素繊維等からなり、後述する酸化ガスの拡散を促進するガス拡散層15が配置されている。アノード電極層14を挟んで電解質膜12とは反対側(図1の下側)には、炭素繊維等からなり、後述する燃料ガスの拡散を促進するガス拡散層16が配置されている。
【0019】
上記膜電極接合体11及び両ガス拡散層15,16と、それらを上記厚み方向における両側(外側)から挟み込む第1セパレータ21及び第2セパレータ31とによってセルユニット20が構成されている。さらに、複数のセルユニット20が上記厚み方向に重ねられることによって、燃料電池10におけるセルスタックが構成されている。
【0020】
図1及び図2に示すように、各第1セパレータ21の骨格部分は、導電性を有する金属製のセパレータ基材22によって構成されている。本実施形態では、各セパレータ基材22は、100μm程度の厚みを有するステンレス鋼板によって形成されている。
【0021】
各セパレータ基材22には、膜電極接合体11に向けて突出する複数の凸状部23と、同凸状部23の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部24とが形成されている。図1及び図2では、各凸状部23は下方へ突出し、各凹状部24は上方へ凹んでいる。複数の凸状部23及び複数の凹状部24は、膜電極接合体11の面に沿う方向(図1の左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。各凹状部24及びカソード電極層13により囲まれた領域は、同カソード電極層13に対し酸化ガス(例えば空気)を供給するための流路25を構成している。
【0022】
図1に示すように、各第2セパレータ31の骨格部分は、導電性を有する金属製のセパレータ基材32によって構成されている。本実施形態では、各セパレータ基材32は、上記セパレータ基材22と同様、100μm程度の厚みを有するステンレス鋼板によって形成されている。
【0023】
各セパレータ基材32には、膜電極接合体11に向けて突出する複数の凸状部33と、同凸状部33の突出方向とは反対側へ凹む複数の凹状部34とが形成されている。図1では、各凸状部33は上方へ突出し、各凹状部34は下方へ凹んでいる。複数の凸状部33及び複数の凹状部34は、膜電極接合体11の面に沿う方向(図1の左右方向)に互い違いに配置されて平行に延びている。各凹状部34及びアノード電極層14により囲まれた領域は、同アノード電極層14に対し燃料ガス(例えば水素)を供給するための流路35を構成している。
【0024】
燃料電池10におけるセルスタックでは、複数のセルユニット20が上記厚み方向に重ねられていることについては上述した通りである。従って、図1の上下方向における中央部分に示されるセルユニット20の第1セパレータ21の上側には、二点鎖線で示すように、上隣のセルユニット20における第2セパレータ31が配置されている。そして、第1セパレータ21の各凹状部24の底部と、その上隣の第2セパレータ31の各凹状部34の底部との間に薄膜26が介在されている。各薄膜26は、両凹状部24,34間の接触抵抗の増大を抑制するためのものであり、セパレータ基材22,32よりも導電性の高い(電気抵抗値の低い)材料、例えばカーボン、金、白金等によって形成されている。さらに、第1セパレータ21の各凸状部23と、上隣の第2セパレータ31の各凸状部33との間には、冷却液(例えば冷却水)の流路27が形成されている。
【0025】
同様に、図1の上下方向における中央部分に示されるセルユニット20の第2セパレータ31の下側には、二点鎖線で示すように、下隣のセルユニット20における第1セパレータ21が配置されている。そして、第2セパレータ31の各凹状部34の底部と、その下隣の第1セパレータ21の各凹状部24の底部との間に薄膜26が介在されている。さらに、第2セパレータ31の各凸状部33と、下隣の第1セパレータ21の各凸状部23との間には、冷却液の流路27が形成されている。
【0026】
図1及び図2に示すように、セルユニット20毎の第1セパレータ21のセパレータ基材22において、凸状部23及び凹状部24のカソード電極層13側の面には、導電性を有し、かつ同セパレータ基材22よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜41が全面にわたって積層されている。本実施形態では、窒化チタン(TiN)等の導電性粒子を樹脂材料に混合させることによって形成したものが、第1薄膜41とされている。
【0027】
同様に、図1に示すように、セルユニット20毎の第2セパレータ31のセパレータ基材32において、凸状部33及び凹状部34のアノード電極層14側の面には、導電性を有し、かつ同セパレータ基材32よりも高い耐腐食性を有する第1薄膜51が全面にわたって積層されている。
【0028】
図1及び図2に示すように、各第1セパレータ21における第1薄膜41のうち、凸状部23の頂面に積層された部分には、第2薄膜42が積層されている。各第2薄膜42は、膜電極接合体11とセパレータ基材22との間の接触抵抗の増大を抑制して、同接触抵抗が、燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体11での反応に及ぼす影響を小さくするために設けられている。各第2薄膜42は、上記薄膜26と同様の材料を用い、インクジェット印刷法により、厚さが例えば数100nm~数100μmとなるように形成されている。各第2薄膜42は、各セパレータ基材22よりも高い親水性を有している。各第1セパレータ21は、各第2薄膜42においてガス拡散層15に接している。表現を変えると、第1セパレータ21毎の各第2薄膜42は、ガス拡散層15を介してカソード電極層13に間接的に接している。
【0029】
各第2薄膜42には、凸状部23の延びる方向に対し交差する方向、本実施形態では直交する方向(図1の左右方向)へ延びる溝43が形成されている。各溝43は、凸状部23の延びる方向に互いに離間した複数箇所に形成されている。各溝43の深さは、第2薄膜42の厚みと同一に設定されており、同溝43が形成された箇所では第1薄膜41が露出している。
【0030】
第2薄膜42に溝43が形成された凸状部23の両側には流路25が位置している。各溝43は、一方の端部において一方の流路25に繋がり、他方の端部において他方の流路25に繋がっている。各凸状部23の両側の流路25は、溝43によって連通されている。
【0031】
図1に示すように、各第2セパレータ31における第1薄膜51のうち、各凸状部33の頂面に積層された部分には、第2薄膜52が積層されている。各第2薄膜52は、第1セパレータ21における第2薄膜42と同様の目的で、同様の材料を用い、同様の方法によって、同様の厚み及び親水性を有するように形成されている。第2セパレータ31は、凸状部33毎の第2薄膜52においてガス拡散層16に接している。各第2薄膜52には、第1セパレータ21における溝43と同様の方向に延びて、両端が異なる流路35に繋がる溝53が形成されている。各凸状部33の両側の流路35は、溝53によって連通されている。
【0032】
なお、上記第1セパレータ21は、次のようにして製造される。まず、平坦なステンレス鋼板が準備され、その片側の面の全面に対し、窒化チタン(TiN)等の導電性粒子を樹脂材料に混合させたものが塗布されることにより、第1薄膜41が形成される。次に、上記のように第1薄膜41が形成されたステンレス鋼板をプレス成形することにより、複数の凸状部23及び複数の凹状部24を有するセパレータ基材22が形成される。さらに、第1薄膜41のうち、各凸状部23の頂面に積層された部分に対し、インクジェット印刷法によって、セパレータ基材22よりも導電性の高い材料が塗布されることで、溝43を有する第2薄膜42が形成される。第2セパレータ31も、上記第1セパレータ21と同様の工程を経ることにより製造される。
【0033】
次に、上記のようにして構成された本実施形態の作用及び効果について説明する。
燃料電池10においては、酸化ガス(空気)が各流路25を流れ、燃料ガス(水素)が各流路35を流れる。各流路25を流れる酸化ガスは、ガス拡散層15を介してカソード電極層13に供給される。各流路35を流れる燃料ガスは、ガス拡散層16を介してアノード電極層14に供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの膜電極接合体11での反応に基づき発電が行われる。この反応に伴い、酸化ガスが供給されたカソード電極層13では水が生成される。
【0034】
詳しくは、燃料ガス(水素)がアノード電極層14に供給されると、そこで水素原子から電子がとられて同アノード電極層14に送り出され、その電子が同アノード電極層14から外部回路(図示略)の導線を通ってカソード電極層13に流れる。そして、アノード電極層14で電子がとられることによってプラスの電荷を帯びた水素イオン(プロトン)は、電解質膜12を伝わってカソード電極層13に移動する。一方、酸化ガス(空気)が供給されているカソード電極層13では、上述したように流された電子を酸素分子が受け取って酸素イオンとなる。さらに、アノード電極層14から電解質膜12を伝わってカソード電極層13に移動した水素イオンが上記酸素イオンと結合し、カソード電極層13で水が生成される。
【0035】
生成した水の一部は、カソード電極層13と各第2薄膜42との間のガス拡散層15に位置する。この水のうち、流路25に近いものは、図2において矢印で示すように、同流路25を流れる酸化ガスによって同流路25に引っ張られる。流路25へ出た水は、同流路25を流れる酸化ガスに乗って同流路25を流れる。また、上記ガス拡散層15の水のうち、溝43に近いものも上記酸化ガスによって、図1において矢印で示すように、溝43を介して流路25へ引っ張られる。この水もまた流路25へ出て、酸化ガスに乗って同流路25を流れる。上記のように、酸化ガスに乗って流路25を流れる水は、最終的には燃料電池10の外部へ排出される。
【0036】
従って、溝43がない場合に比べ、燃料電池10の外部へ排出される水の量が多くなり、排水性能が高まる。また、溝43がない場合とは異なり、生成された水がガス拡散層15に滞留することが抑制される。滞留が原因で、酸化ガスの拡散が十分に行われず、燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下する現象が起こりにくくなる。
【0037】
特に、本実施形態では、各溝43の一方の端部が、各凸状部23を挟む両側の流路25のうちの一方の流路25に繋がるとともに、他方の端部が他方の流路25に繋がっている。そのため、ガス拡散層15のうち溝43の近くにある水が、凸状部23を挟む両側の流路25を流れる酸化ガスによって、溝43の長さ方向における両側から引っ張られ、溝43を介して流路25に出やすく、各流路25を流れる酸化ガスに乗って燃料電池10の外部へ排出されやすい。
【0038】
ここで、カソード電極層13及びアノード電極層14にある程度の水分を含ませることにより、発電効率を向上させることができる。そのため、膜電極接合体11を薄くすることが考えられる。こうすると、カソード電極層13側で生成された水が電解質膜12を伝わってアノード電極層14側に移動しやすくなる。ただし、ガス拡散層16に必要以上の水が保持されてアノード電極層14側に余剰の水が溜まると、燃料ガス(水素)がアノード電極層14に接触しにくくなって、膜電極接合体11での燃料ガス及び酸化ガスの反応が低下するおそれがある。
【0039】
しかし、ガス拡散層16における水のうち、流路35に近いものは、同流路35を流れる燃料ガスによって同流路35に引っ張られる。流路35へ出た水は、燃料ガスに乗って同流路35を流れる。
【0040】
また、本実施形態では、第2セパレータ31における第2薄膜52にも溝53が形成されていて、ガス拡散層16に必要以上の水が保持される現象が、溝53によって抑制される。すなわち、ガス拡散層16における水のうち溝53に近いものは、図1において矢印で示すように、同溝53を介して流路35に引っ張られ、さらに同流路35の燃料ガスに乗って流れる。
【0041】
上記のように、燃料ガスに乗って流路35を流れる水は、最終的には燃料電池10の外部へ排出される。従って、アノード電極層14側に余剰な水が溜まるのを抑制することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、溝53についても上記溝43と同様に、一方の端部と他方の端部とが互いに異なる流路35に繋がっている。そのため、上記溝43と同様の理由により、第2薄膜52とアノード電極層14との間のガス拡散層16であって、溝53の近くの水を燃料ガスによって、溝53の長さ方向における両側から引っ張って、溝53を介して流路35に出やすくする。そして、この水を、各流路35を流れる燃料ガスに乗せて燃料電池10の外部へ排出することができる。
【0043】
ところで、電解質膜12での反応の副産物として酸性の物質が生ずると、ステンレス鋼板製のセパレータ基材22,32がこの酸性物質との電気化学的な反応によって浸食、すなわち、腐食するおそれがある。この際、セパレータ基材22,32から鉄イオンが溶出し、膜電極接合体11の構成部材、例えば電解質膜12、触媒(図示略)等の性能低下を招く懸念がある。
【0044】
しかし、本実施形態によれば、鉄イオンの溶出が第1薄膜41,51によって抑制される。従って、溶出した鉄イオンが原因で、膜電極接合体11の構成部材の性能が低下する現象を、第1薄膜41,51によって抑制することができる。
【0045】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・各第1セパレータ21における各第2薄膜42の親水性が低いと、各溝43内の水が同溝43の内側面に対し弾かれやすくなって、同溝43内で移動しにくくなる。各溝43内の水が、流路25側へ移動しにくくなる。
【0046】
しかし、各第2薄膜42がセパレータ基材22よりも高い親水性を有している本実施形態では、各溝43内の水が同溝43の内側面に対し広がりやすい。これに伴い、各溝43内の水が流路25側へ移動しやすくなる。
【0047】
また、各第2セパレータ31における各第2薄膜52がセパレータ基材32よりも高い親水性を有しているため、上記第1セパレータ21と同様に、各溝53内の水が流路35側へ移動しやすくなる。
【0048】
・溝43,53を有する第2薄膜42,52をインクジェット印刷法によって形成している。そのため、第2薄膜42,52における溝43,53の形状を、インクジェット印刷法のパターン調整を通じて簡単に変更することができる。
【0049】
・各第2薄膜42,52において溝43,53が形成された箇所では、第1薄膜41,51を露出させている。表現を変えると、該当する箇所では、第1薄膜41,51上に第2薄膜42,52を形成していない。従って、溝43,53を形成する予定の箇所には、インクジェット印刷法によって第1薄膜41,51上に材料を塗布しなくてすみ、溝43,53を形成しやすい。
【0050】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<セパレータ基材22,32について>
・セパレータ基材22,32は、導電性を有するものであることを条件に、ステンレス鋼とは異なる金属材料、例えば、チタンによって形成されてもよい。
【0051】
<第1薄膜41,51及び第2薄膜42,52について>
・第2薄膜42,52が第1薄膜41,51と同一の材料によって形成されてもよい。
・第2薄膜42,52は、凸状部23,33の頂面に加え、同凸状部23,33の他の箇所や凹状部24,34に形成されてもよい。ただし、第2薄膜42,52を形成する工程の煩雑さ、コスト等を考えると、凸状部23,33の頂面にのみ形成されることが好ましい。
【0052】
また、第2薄膜42,52が凸状部23,33の頂面とは異なる箇所に形成されると、その分、流路25,35の流路断面積が小さくなる。そのため、第2薄膜42,52は、必要な箇所である凸状部23,33の頂面にのみ設けられることが好ましい。
【0053】
・上記実施形態では、第2薄膜42,52の親水性をセパレータ基材22,32の親水性よりも高くしたが、こうしたことは必須ではない。
・第1セパレータ21における第1薄膜41と、第2セパレータ31における第1薄膜51との一方が省略されてもよい。
【0054】
・第1セパレータ21における第2薄膜42と、第2セパレータ31における第2薄膜52との一方が省略されてもよい。
<溝43,53について>
・溝43,53は、凸状部23,33の延びる方向に対し、斜めに交差する方向へ延びてもよい。
【0055】
図3に示すように、第1セパレータ21における各溝43の一方の端部が流路25に繋がれ、他方の端部が流路25に繋がれなくてもよい。この場合には、ガス拡散層15に位置する水が溝43を介して流路25に排出されやすくなる。これは、各溝43の他方の端部が閉塞されているため、流路25内を流れる酸化ガスによって、溝43内に出た水が引っ張られやすくなり、排水が促進されるためと考えられる。
【0056】
第2セパレータ31における溝53についても、上記と同様の理由により同様の変更が行われてもよい。
・上記のように、第1セパレータ21において、一方の端部のみが流路25に繋がれた溝43が、凸状部23の延びる方向の複数箇所に設けられる場合、隣り合う溝43は、凸状部23を挟む両側の流路25のうち、互いに異なる流路25に繋がれることが望ましい。これは、ガス拡散層15において溝43の近くの水を、両流路25に略均等に引っ張って流れさせることができるからである。
【0057】
第2セパレータ31における溝53についても、上記と同様の理由により同様の変更が行われてもよい。
・凸状部23の延びる方向において隣り合う溝43が、凸状部23を挟む両側の流路25のうち同じ側の流路25に繋がれてもよい。溝53についても同様の変更が行われてもよい。
【0058】
・第1セパレータ21における溝43と、第2セパレータ31における溝53とのいずれか一方が省略されてもよい。
・溝43,53の深さが、第2薄膜42,52において同溝43,53の設けられていない箇所の厚みよりも小さく設定されてもよい。この場合には、第2薄膜42,52において溝43,53の形成された箇所にも、同第2薄膜42,52の一部が形成される。上記実施形態とは異なり、第2薄膜42,52において溝43,53の形成された箇所では、第1薄膜41,51が露出しない。インクジェット印刷法であれば、このように、他よりも厚みの小さな箇所を有する第2薄膜42,52を形成することが可能である。
【0059】
<その他>
・第1セパレータ21及び第2セパレータ31は、ガス拡散層15,16が形成されない燃料電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10…燃料電池、11…膜電極接合体、12…電解質膜、13…カソード電極層(電極層)、14…アノード電極層(電極層)、21…第1セパレータ(燃料電池用セパレータ)、22,32…セパレータ基材、23,33…凸状部、24,34…凹状部、25,35…流路、31…第2セパレータ(燃料電池用セパレータ)、41,51…第1薄膜、42,52…第2薄膜、43,53…溝。
図1
図2
図3
図4