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特許7120063マイクロチップ電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】マイクロチップ電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
G01N27/447 301C
G01N27/447 331E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019021174
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128904
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荒井 昭博
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-161233(JP,A)
【文献】特開2012-242128(JP,A)
【文献】特開2016-024021(JP,A)
【文献】特開2001-124736(JP,A)
【文献】特開2002-125694(JP,A)
【文献】特開2011-013045(JP,A)
【文献】特開2013-134254(JP,A)
【文献】特開2009-002816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0317639(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路が設けられているとともに前記流路の一端と他端のそれぞれに上方が開口した第1リザーバ及び第2リザーバが設けられているマイクロチップと、
前記第1リザーバに対して液密を保って接続される分注プローブを有し、前記分注プローブの先端からバッファ溶液を吐出する分注部と、
先端の高さが互いに略同一である第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルを有するとともに前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを同時に移動させる移動機構を有し、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの前記先端からそれぞれ前記第1リザーバ内の液及び前記第2リザーバ内の液の吸引を行なう吸引部と、
前記分注部及び前記吸引部の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記流路内に前記バッファ溶液を充填するとともに前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の液面高さを所定高さ以上にするバッファ溶液充填工程、及び前記バッファ溶液充填工程の後で、前記第1リザーバ内及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液が表層側から順に吸引されるように、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端を前記第1リザーバ及び前記第2リザーバの上方から前記所定高さまで前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルに吸引動作を行わせながら同時に降下させ、前記第1リザーバ内の液面高さと前記第2リザーバ内の液面高さを同時に前記所定高さにする液面均一化工程を実行するように構成されている、マイクロチップ電気泳動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記バッファ溶液充填工程において、前記流路内に液が存在しない状態で、前記第1リザーバに対して前記分注プローブを液密に接続して前記分注プローブの先端からバッファ溶液を吐出するように構成されている、請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記液面均一化工程において、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの降下を一時的に停止させるように構成されている、請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記液面均一化工程において、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを一時的に上昇させるように構成されている、請求項3に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項5】
内部に流路が設けられているとともに前記流路の一端と他端のそれぞれに上方が開口した第1リザーバ及び第2リザーバが設けられているマイクロチップを用いたマイクロチップ電気泳動方法であって、
記流路内にバッファ溶液を充填するとともに前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の液面高さを所定高さ以上にするバッファ溶液充填ステップと、
前記バッファ溶液充填ステップが完了した後で、前記第1リザーバ内及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液が表層側から順に吸引されるように、前記第1リザーバ及び前記第2リザーバのバッファ溶液をそれぞれ吸引するための先端の高さが互いに略同一である第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルの前記先端を前記第1リザーバ及び前記第2リザーバの上方から前記所定高さまで前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルに吸引動作を行わせながら同時に降下させ、前記第1リザーバ内の液面高さと前記第2リザーバ内の液面高さを同時に前記所定高さにする液面均一化ステップと、を備えているマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項6】
前記バッファ溶液充填ステップにおいて、前記マイクロチップの前記流路内に液が存在しない状態で、バッファ溶液を吐出する分注プローブを前記第1リザーバに対して液密に接続して前記流路内に前記バッファ溶液を充填する、請求項5に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項7】
前記液面均一化ステップにおいて、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの降下を一時的に停止させる、請求項5又は6に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項8】
前記液面均一化ステップにおいて、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを一時的に上昇させる、請求項7に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動法では、マイクロチップ内に設けられた分離流路の長さとサンプルプラグ長さを必要最小限にダウンサイズすることと、比較的低粘度の溶液を用いて電気泳動を行なうことにより、高速で分離検出が可能という特徴を有している。
【0003】
マイクロチップの流路端部に対応する位置には、上方が開口したリザーバが設けられている。電気泳動分析の際には、分離流路内に電気泳動用のバッファ溶液を充填し、さらに流路端部のリザーバに所定量のバッファ溶液を分注する。しかし、流路長さが短いため流路抵抗が小さく、バッファ溶液は粘度が低いため、各リザーバ内のバッファ溶液の液面高さが異なっていると、サイフォン現象により流路内に水力学的な流れが発生し、電気泳動分析中であれば試料成分の移動度や分離性能に影響を与える。そのため、電気泳動分析に先立ち、各リザーバ内のバッファ溶液の液面高さを揃えておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-161233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでのマイクロチップ電気泳動では、マイクロチップの特定のリザーバから流路内にバッファ溶液を加圧注入して流路へのバッファ溶液の充填を行ない、その後、各リザーバ内に残ったバッファ溶液を吸引ノズルで吸引吸引して各リザーバを空にし、各リザーバに規定量のバッファ溶液を分注することによって、各リザーバ内のバッファ溶液の液面高さを揃えることが一般的である(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
しかしながら、流路にバッファ溶液を充填した後で各リザーバのバッファ溶液を吸引する際に、リザーバ内のバッファ溶液を吸い残す懸念がある。リザーバ内のバッファ溶液の吸い残しはリザーバ内の液面高さの誤差の原因となる。リザーバ内のバッファ溶液の吸い残しの原因としては、吸引用のノズルとリザーバとの位置関係(ノズル先端がリザーバ底面と接触する相対位置及びノズル端面と接触面の角度)やノズルに接続されている吸引ポンプの不具合などが挙げられる。さらに、各リザーバからバッファ溶液を吸引した後のリザーバへのバッファ溶液の分注量の精度も各リザーバの液面高さに影響を与える。
【0007】
そこで、本発明は、マイクロチップ内の流路にバッファ溶液を充填した後の各リザーバ内の液面高さ制御の精度を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置は、マイクロチップ、分注部、吸引部、及び制御部を備えている。前記マイクロチップは、内部に流路が設けられているとともに前記流路の一端と他端のそれぞれに上方が開口した第1リザーバ及び第2リザーバが設けられている。前記分注部は、前記第1リザーバに対して液密を保って接続される分注プローブを有し、前記分注プローブの先端からバッファ溶液を吐出するものである。前記吸引部は、第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルを有するとともに前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを移動させる移動機構を有し、前記第1吸引ノズル及び前記第2引吸引ノズルの先端からそれぞれ前記第1リザーバ内の液及び前記第2リザーバ内の液の吸引を行なうものである。前記制御部は、前記分注部及び前記吸引部の動作制御を行なうものであって、当該制御部は、バッファ溶液前記流路内に前記バッファ溶液を充填するとともに前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の液面高さを所定高さ以上にするバッファ溶液充填工程、及び前記バッファ溶液充填工程の後で、前記第1リザーバ内及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液が表層側から順に吸引されるように、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端を前記第1リザーバ及び前記第2リザーバの上方から前記所定高さまで前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルに吸引動作を行わせながら降下させ、前記第1リザーバ内の液面高さと前記第2リザーバ内の液面高さを揃える液面均一化工程を実行するように構成されている。
【0009】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動方法は、以下のステップを備えている。
前記流路内に前記バッファ溶液を充填するとともに前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の液面高さを所定高さ以上にするバッファ溶液充填ステップ、及び
前記バッファ溶液充填ステップが完了した後で、前記第1リザーバ内及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液が表層側から順に吸引されるように、前記第1リザーバ及び前記第2リザーバのバッファ溶液をそれぞれ吸引するための第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルの先端を前記第1リザーバ及び前記第2リザーバの上方から前記所定高さまで前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルに吸引動作を行わせながら降下させ、前記第1リザーバ内の液面高さと前記第2リザーバ内の液面高さを揃える液面均一化ステップ。
【0010】
すなわち、本発明では、マイクロチップの流路内にバッファ溶液を充填する際に、第1リザーバ内及び第2リザーバ内のバッファ溶液の液面高さが所定高さ以上となるようにし、その後、第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルによって第1リザーバ内及び第2リザーバ内のバッファ溶液を表層側から順に吸引してそれぞれの液面高さを所定高さに揃える。これにより、各リザーバ内のバッファ溶液の液面高さの精度は、第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルの先端を降下させる高さの精度にのみ依存するため、各リザーバ内のバッファ溶液の吸い残しや分注精度を考慮する必要がない。
【0011】
本発明において、「バッファ溶液を表層側から順に吸引する」とは、吸引ノズルに吸引動作を行わせながら降下させ、所定の高さで空気を吸引することを意味する。これは、液面が表面張力でノズル断面に接触している間に吸引させるか、または吸引ノズルを所定高さまで降下させてバッファ溶液内にノズル先端を挿入してから吸引させると、バッファ溶液が必要以上に吸引されてしまい、吸引後のバッファ溶液の液面が所定高さよりも低くなる虞があるからである。本発明では、各リザーバ内の液面高さを吸引ノズルの降下高さにのみ依存させることを目的とするため、バッファの粘度とノズルの表面張力の影響を受けずに吸引ノズルの先端が接する表層部のバッファ溶液のみが吸引されることが重要であり、空気の吸引を補助するような吸引ノズルの動作を併用することが望ましい。
【0012】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置では、前記制御部は、前記バッファ溶液充填工程において、前記流路内に液が存在しない状態で、前記第1リザーバに対して前記分注プローブを液密に接続して前記分注プローブの先端からバッファ溶液を吐出するように構成されていてもよい。
【0013】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動方法では、前記バッファ溶液充填ステップにおいて、前記マイクロチップの前記流路内に液が存在しない状態で、バッファ溶液を吐出する分注プローブを前記第1リザーバに対して液密に接続して前記流路内に前記バッファ溶液を充填してもよい。
【0014】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置の一実施形態では、前記制御部が、前記液面均一化工程において、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの降下を一時的に停止させるように構成されている。これにより、各リザーバ内のバッファ溶液の表層部が吸引ノズルによって吸引される前に吸引ノズルが降下することが防止され、吸引ノズルの先端が接する表層部のバッファ溶液のみを吸引ノズルによって吸引することができる。
【0015】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動方法の一実施形態では、前記液面均一化ステップにおいて、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの降下を一時的に停止させる。これにより、各リザーバ内のバッファ溶液の表層部が吸引ノズルによって吸引される前に吸引ノズルが降下することが防止され、吸引ノズルの先端が接する表層部のバッファ溶液のみを吸引ノズルによって吸引することができる。
【0016】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置の上記実施形態において、前記制御部は、前記液面均一化工程において、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを一時的に上昇させるように構成されていてもよい。これにより、各リザーバ内のバッファ溶液の表層部が吸引ノズルによって吸引された後で、必要以上のバッファ溶液が吸引ノズルによって吸引されることを確実に防止できる。
【0017】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動方法の上記実施形態において、前記液面均一化ステップにおいて、前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルの先端が前記第1リザーバ及び前記第2リザーバ内の前記バッファ溶液の表層部を吸引した直後に前記第1吸引ノズル及び前記第2吸引ノズルを一時的に上昇させるようにしてもよい。これにより、各リザーバ内のバッファ溶液の表層部が吸引ノズルによって吸引された後で、必要以上のバッファ溶液が吸引ノズルによって吸引されることを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るマイクロチップ電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動方法は、マイクロチップの流路内にバッファ溶液を充填する際に、第1リザーバ内及び第2リザーバ内のバッファ溶液の液面高さが所定高さ以上となるようにし、その後、第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルによって第1リザーバ内及び第2リザーバ内のバッファ溶液を表層側から順に吸引してそれぞれの液面高さを所定高さに揃えるので、各リザーバ内のバッファ溶液の液面高さの精度が第1吸引ノズル及び第2吸引ノズルの先端の降下精度にのみ依存し、各リザーバ内の液面高さ制御の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】マイクロチップ電気泳動装置の一実施形態を概略的に示す斜視図である。
図2】同実施例の制御系統を概略的に示すブロック図である。
図3】マイクロチップの一例を示す平面図である。
図4】拡張リザーバブロックが装着されたマイクロチップの断面構造を示す図である。
図5】同実施例の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】同実施例の液面均一化工程における動作の一例を示すフローチャートである。
図7】同実施例におけるバッファ溶液充填工程の際の状態を示す断面図である。
図8】同実施例におけるバッファ溶液充填工程の後の状態を示す断面図である。
図9】同実施例の液面均一化工程における吸引ノズル降下時の状態を示す断面図である。
図10】同実施例の液面均一化工程におけるバッファ溶液の表層部の吸引時の状態を示す断面図である。
図11】同実施例の液面均一化工程におけるバッファ溶液の表層部の吸引直後の状態を示す断面図である。
図12】同実施例の液面均一化工程後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いてマイクロチップ電気泳動装置及びマイクロチップ電気泳動方法の一実施形態について説明する。
【0021】
図1及び図2に示されているように、マイクロチップ電気泳動装置1は、主として、マイクロチップ5、分注部6、チップ保持部7、吸引部19、電圧印加部24、検出部31及び制御部38を備えている。マイクロチップ5はチップ保持部7上に配置されている。この実施例では4つのマイクロチップ5がチップ保持部7上に配置されているが、マイクロチップ5の個数はいくらでもよい。図1では、マイクロチップ5上に拡張リザーバブロック26が配置されているが、拡張リザーバブロック26は必須の構成要素ではない。
【0022】
分注部6は、計量ポンプ4及び分注プローブ8のほか、分注プローブ8を水平方向(XY方向)と鉛直方向(Z方向)に三次元移動させる移動機構(図示は省略)を備えている。分注プローブ8は開閉バルブ9aを介して計量ポンプ4に接続されている。計量ポンプ4は開閉バルブ9bを介して洗浄液容器10と接続されている。
【0023】
吸引部19は、マイクロチップ5の各リザーバに対応して設けられた吸引吸引ノズル22-1~22-4、吸引ノズル22-1~22-4を保持するノズル保持部17、各吸引ノズル22-1~22-4とそれぞれチューブを介して接続された吸引ポンプを有する吸引ポンプ部18のほか、ノズル保持部17を水平面内方向と鉛直方向で移動させる移動機構を備えている。吸引ノズル22-2~22-4は互いの先端の高さが略同一の高さとなるように保持されており、吸引ノズル22-1はその先端の高さが吸引ノズル22-2~22-4の先端よりも低くなるように保持されている。(両者の差がリザーバ53-1の高さ以上あるように設計されている。)
【0024】
電圧印加部24は、マイクロチップ5ごとに、マイクロチップ5の流路端のそれぞれに独立した泳動用電圧を印加する。
【0025】
検出部31は、マイクロチップ5内の分離流路で分離された試料成分を例えば蛍光検出する。検出部31は、例えば、マイクロチップ5ごとに、分離流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30と、分離流路を移動する試料成分がLED30からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32を備えている。検出部31は、光ファイバ32からの蛍光から励起光成分を除去して蛍光成分のみを透過させるフィルタ34を介して蛍光を受光する光電子増倍管36を備えている。
【0026】
このほか、マイクロチップ電気泳動装置1は、分注プローブ8を洗浄するためのプローブ洗浄部14、吸引ノズル22-1~22-4を洗浄するためのノズル洗浄部28を備えている。12は試料や試薬、分離ポリマーなどを収容する複数のウェルを有するウェルプレートであり、分注プローブ8の移動範囲内に配置される。なお、試薬や分離ポリマーはウェルプレート12とは別の容器に収容されて分注プローブ8の移動範囲内に配置されてもよい。
【0027】
制御部38は、分注部6、吸引部19、電圧印加部24及び検出部31の動作を制御するものである。制御部38は、例えば、CPU(中央演算処理装置)や記憶装置などを搭載した電子回路によって実現される。制御部38はマイクロチップ電気泳動装置1の外部に設けられたコンピュータ40に接続されている。
【0028】
コンピュータ40は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)や専用のコンピュータによって実現される。コンピュータ40は、マイクロチップ電気泳動装置1の動作を指示したり、検出部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。
【0029】
図3に示されているように、マイクロチップ5は内部に流路54及び55を備えている。流路54の一端及び他端には上方が開口したリザーバ53-1及び53-2がそれぞれ設けられており、流路55の一端及び他端には上方が開口したリザーバ53-3及び53-4がそれぞれ設けられている。マイクロチップ5には、各リザーバ53-1~53-4内の溶液への電気的アクセスを容易にするための電極端子56-1~56-4が設けられている。電極端子56-1~56-4は電圧印加部24(図1を参照。)に電気的に接続される。
【0030】
図4に、チップ保持部7上において拡張リザーバブロック26が取り付けられたマイクロチップの断面構造を示す。図4では、流路55に沿った断面構造を示しているためにリザーバ53-3及び53-4の位置における断面構造しか示されていないが、リザーバ53-1及び53-2の位置における断面構造はリザーバ53-3の位置における断面構造と同じである。
【0031】
マイクロチップ5上に配置される拡張リザーバブロック26は、マイクロチップ5のリザーバ53-1~53-4に対応する位置に貫通孔64-1~64-4を備えている。各貫通孔64-1~64-4はそれぞれOリング等のシール部材67によってリザーバ53-1~53-4と液密に連通している。これにより、各リザーバ53-1~53-4の容量が貫通孔64-1~64-4によって拡張され、大容量のリザーバが実現される。
【0032】
拡張リザーバブロック26の貫通孔64-4の内面に、下方へいくほど内径が小さくなるテーパ部分が設けられており、リザーバ53-4に対して分注ノズル8を液密に接続することができる(図7を参照。)。すなわち、リザーバ53-4は、マイクロチップ5の内部の流路55の一端に設けられて分注ノズル8が液密に接続される第1リザーバをなし、リザーバ53-3は流路55の他端に設けられた第2リザーバをなしている。
【0033】
拡張リザーバブロック26の下面に、マイクロチップ5の電極端子56-1~56-4と電気的に接続される電極コンタクト66-1~66-4が設けられている。電極コンタクト66-1~66-4は電気配線を介して電圧印加部24(図1を参照。)に接続される。
【0034】
マイクロチップ電気泳動装置1の動作の一例を、図5図6のフローチャートとともに図7図10を用いて説明する。
【0035】
マイクロチップ電気泳動装置1において、マイクロチップ5は移動されずにチップ保持部7に固定された状態で繰り返し使用されるものであり、電気泳動分析に至るまでの動作の流れは図5に示されているとおりである。
【0036】
まず、電気泳動分析に先立って、マイクロチップ5の各リザーバ53-1~53-4や流路54,55内の洗浄を行う(ステップS1)。洗浄についての詳細な説明は割愛する。その後、マイクロチップ5の流路54及び55へのバッファ溶液の充填工程を実施する(ステップS2)。バッファ溶液充填工程では、図7に示されているように、リザーバ53-4に対して分注プローブ8を液密に接続し、分注プローブ8からバッファ溶液を吐出させて流路54及び55内にバッファ溶液を充填される。このとき、分注プローブ8から流路54及び55の内部容量を超える過剰な量のバッファ溶液を供給させ、図8に示されているように、各リザーバ53-1~53-4内のバッファ溶液の液面の高さを所定の高さよりも高くする。
【0037】
上記のバッファ溶液充填工程が終了した後、リザーバ53-2~53-4内の液面高さを略同一の高さに揃える液面均一化工程を実施する(ステップS3)。液面均一化工程では、吸引ノズル22-1~22-4に吸引動作を行なわせながら吸引ノズル22-2~22-4の先端を各リザーバ53-1~53-4の上方から所定の高さまで下降させていき、吸引ノズル22-2~22-4内のバッファ溶液を表層部から順に吸引する。吸引ノズル22-2~22-4の先端の高さは略同一であるため、吸引ノズル22-2~22-4に吸引動作を行なわせながら吸引ノズル22-2~22-4の先端を所定の高さまで降下させることによって、リザーバ53-2~53-4の液面高さが所定の高さに揃えられる。
【0038】
また、吸引ノズル22-1の先端は、吸引ノズル22-2~22-4の先端が所定の高さに到達するまでにリザーバ53-1の底面に到達するように設計されており、上記の液面均一化工程によってリザーバ53-1内のバッファ溶液の全てが吸引ノズル22-1によって吸引される。バッファ溶液の粘度によっては吸引ノズル22-1がリザーバ53-2~53-4からも吸引するリスクを回避させるために、まず吸引ノズル22-2~22-4を吸引しながら降下させリザーバ53-2~53-4の液面均一化を行い、次いで吸引ノズル22-1が試料分注の直前にリザーバ53-1内のバッファ溶液のみ吸引するよう操作してもよい。
【0039】
上記の液面均一化工程の後で、空になったリザーバ53-1に所定量の試料が分注され(ステップS4)、電気泳動分析が実施される(ステップS5)。
【0040】
また、図6に示されているように、上記の液面均一化工程では、吸引ノズル22-2~22-4に吸引動作を行なわせながら吸引ノズル22-2~22-4の先端を下降させていき(ステップS11、図9を参照。)、リザーバ53-2~53-4内のバッファ溶液の表層部のみを吸引ノズル22-2~22-4によって吸引し(ステップS12、図10を参照。)、その直後にノズル22-2~22-4を一定距離だけ上昇させる(ステップS13、図11を参照。)という動作を、各リザーバ53-2~53-4内のバッファ溶液の液面高さが所定高さになるまで繰り返し実行する(ステップS14、図12を参照。)。このような動作により、各リザーバ53-2~53-4内のバッファ溶液が吸引ノズル22-2~22-4によって必要以上に吸引されることが防止され、各リザーバ53-2~53-4内のバッファ溶液の液面高さを精度よく所定の高さに揃えることができる。
【0041】
以上のように、この実施例のマイクロチップ電気泳動装置1では、マイクロチップ5の流路55の両端に設けられているリザーバ53-3,53-4(第1リザーバ及び第2リザーバ)内のバッファ溶液の液面高さが、ノズル22-3,22-4の先端の高さ位置の精度によってのみ決まるので、リザーバ53-3,53-4内のバッファ溶液の吸い残しやバッファ溶液の分注精度を考慮する必要がない。このため、少なくとも電気泳動用流路である流路55のアノード端及びカソード端のリザーバ53-3,53-4の液面高さの均一化精度を従来よりも向上させることができ、電気泳動分析の再現性が向上する。
【符号の説明】
【0042】
1 マイクロチップ電気泳動装置
5 マイクロチップ
6 分注部
7 チップ保持部
8 分注プローブ
19 吸引部
22-1~22-4 吸引ノズル
26 拡張リザーバブロック
38 制御部
54,55 流路
53-1~53-4 リザーバ
64-1~64-4 貫通孔
67 弾性部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12