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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】銀多孔質焼結膜および接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20220809BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220809BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20220809BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20220809BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20220809BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
B22F3/11 Z
B22F1/00 K
B22F7/08 E
H01B1/02 Z
H01B5/02 Z
B22F9/24 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019050381
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2019173165
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018061321
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】増山 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224885(JP,A)
【文献】特開2017-111975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,3/11,7/08,9/24
H01B 1/02,1/08,5/02
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子を焼結させてなる銀多孔質焼結膜であって、
充填率が50%以上70%以下の範囲内にあって、結晶子サイズが60nm以上150nm以下の範囲内にあり、飛行時間型二次イオン質量分析法によって、銀多孔質焼結膜をIn箔表面に埋没したものを測定用試料とし、測定範囲は100μm平方の範囲、一次イオンはBi ++ (30kV)、測定時間は5分の条件で測定して得たTOF-SIMSスペクトルから算出されるAgイオンの検出量に対するC イオンの検出量の比が0.10以上0.35以下の範囲内にあって、かつ前記TOF-SIMSスペクトルから算出されるAgイオンの検出量に対するCイオンの検出量の比が0.9以上3.7以下の範囲内にあることを特徴とする銀多孔質焼結膜。
【請求項2】
第1部材と第2部材とが接合された接合体の製造方法であって、
前記第1部材と前記第2部材とを、請求項1に記載の銀多孔質焼結膜を介して積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、
を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀多孔質焼結膜およびこれを用いた接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)素子やパワー半導体チップなどの電子部品の組立てや実装等の工程において、2つ以上の部品を接合した接合体を製造する場合、一般的に接合材が用いられる。このような接合材として、銀粉末を有機溶媒に分散させた銀ペーストが知られている。この銀ペーストは、一方の部品と他方の部品とを銀ペーストを介して積層し、得られた積層体を加熱して、銀ペースト中の銀粒子を焼結させて接合層(銀粒子の焼結体)を形成することによって部品を接合する。例えば、特許文献1には、粒度分布において粒径20~70nmの範囲内の第1ピークと、粒径200~500nmの範囲内の第2ピークとを有する微細な銀粉と、所定のアルキルアミンと、還元性有機溶媒とを含むペースト状の接合材が開示されている。
【0003】
また、接合材として、銀粒子を部分的に焼結させた銀多孔質焼結膜も知られている。この銀多孔質焼結膜を介して、一方の部品と他方の部品とを積層する。得られた積層体を加熱して、銀多孔質焼結膜中の銀粒子をさらに焼結させて接合層(銀粒子の焼結体)を形成することによって部品を接合する。例えば、特許文献2には、銀の多孔質体である多孔質銀で形成され、緻密度が40~72体積%の自立膜であって、前記多孔質銀の銀結晶の平均結晶粒径が1.7~2.6μmであり、25℃における三点曲げ試験から得られる曲げ弾性率が16~24GPa、最大曲げ強度が100MPa以上、破断曲げひずみが1.3%以上である多孔質銀製シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-111975号公報
【文献】特開2016-169411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀多孔質焼結膜は、銀ペーストと比較すると、接合体の製造時の加熱の際に有機溶媒が揮発しないなどの利点がある。しかしながら、特許文献2に記載の多孔質銀製シートは、銀結晶の平均結晶粒径が1.7~2.6μmと比較的大きいため、例えば、200℃の低温度の加熱では、銀粒子が焼結しにくく、緻密で接合強度が高い接合層を形成するのが困難となる場合があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体(接合層)を形成することができる銀多孔質焼結膜およびこの銀多孔質焼結膜を用いた接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る銀多孔質焼結膜は、銀粒子を焼結させてなる銀多孔質焼結膜であって、充填率が50%以上70%以下の範囲内にあって、結晶子サイズが60nm以上150nm以下の範囲内にあり、飛行時間型二次イオン質量分析法によって、銀多孔質焼結膜をIn箔表面に埋没したものを測定用試料とし、測定範囲は100μm平方の範囲、一次イオンはBi ++ (30kV)、測定時間は5分の条件で測定して得たTOF-SIMSスペクトルから算出されるAgイオンの検出量に対するC イオンの検出量の比が0.10以上0.35以下の範囲内にあって、かつ前記TOF-SIMSスペクトルから算出されるAgイオンの検出量に対するCイオンの検出量の比が0.9以上3.7以下の範囲内にあることを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明の一態様に係る銀多孔質焼結膜は、結晶子サイズが上記の範囲内とされているので、強度が高く、自立した接合材として扱うことが可能となる。また焼結性が高く、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体を形成することが可能となる。さらに、C イオン/Agイオン比とCイオン/Agイオン比がそれぞれ上記の範囲内とされているので、銀多孔質焼結膜の表面が硫化しにくくなり、焼結性を長期間にわたって維持することができる。このため、比較的低温度の加熱によって緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体をより確実に形成することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様に係る接合体の製造方法は、第1部材と第2部材とが接合された接合体の製造方法であって、前記第1部材と前記第2部材とを、上述の銀多孔質焼結膜を介して積層して積層体を得る工程と、前記積層体を加熱する工程と、を有することを特徴としている。
【0010】
このような構成とされた本発明の一態様に係る接合体の製造方法によれば、接合材として、上述の銀多孔質焼結膜を用いるので、比較的低温度の加熱によって、接合強度(シェア強度)が高い接合体を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体(接合層)を形成することができる銀多孔質焼結膜およびこの銀多孔質焼結膜を用いた接合体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る銀多孔質焼結膜の製造方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る接合体の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る接合体の製造方法を示すフロー図である。
図4】本発明例1で作製した銀多孔質焼結膜の断面のSEM写真である。
図5】本発明例1で作製した銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体における接合層部分の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態である銀多孔質焼結膜及び接合体の製造方法について、添付した図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
<銀多孔質焼結膜>
本実施形態の銀多孔質焼結膜は、銀粒子を焼結させてなる銀多孔質焼結膜である。すなわち、銀多孔質焼結膜は、銀粒子と、銀粒子の焼結体とからなる銀の多孔質体である。銀多孔質焼結膜を構成する銀の結晶子サイズは60nm以上150nm以下の範囲内とされている。また、C イオン/Agイオン比(飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって測定されるAgイオンの検出量に対するC イオンの検出量の比)が0.10以上0.35以下の範囲内にあって、かつCイオン/Agイオン比(TOF-SIMSによって測定されるAgイオンの検出量に対するCイオンの検出量の比)が0.9以上3.7以下の範囲内とされている。なお、イオンの検出量の単位は、強度のカウント数で表される。
【0015】
銀多孔質焼結膜は、銀粒子が部分的に焼結し、部分的に焼結した銀粒子間に連続気孔が形成された構造を有する多孔質体であることが好ましい。この銀粒子が部分的に焼結した構造を有する銀多孔質焼結膜を加熱することによって、さらに銀粒子の焼結が進み、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体(接合層)を形成することが可能となる。
【0016】
銀多孔質焼結膜は、結晶子サイズが60nm以上とされているので、銀多孔質焼結膜の強度が高く、自立した接合材として扱うことが可能となる。また、結晶子サイズが150nm以下とされているので、焼結性が高く、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体を形成することが可能となる。
なお、結晶子サイズは、X線回折パターンから求めた値である。
【0017】
銀多孔質焼結膜は、C イオン/Agイオン比が0.10以上0.35以下の範囲内にあって、かつCイオン/Agイオン比が0.9以上3.7以下の範囲内とされている。C イオンおよびCイオンは、銀多孔質焼結膜の表面を被覆している有機化合物に由来すると考えられる。C イオン/Agイオン比が0.10以上でCイオン/Agイオン比が0.9以上であると、銀多孔質焼結膜の表面を被覆する有機化合物によって、銀多孔質焼結膜の表面が硫化しにくくなり、銀粒子の焼結性を長期間にわたって維持することができる。また、C イオン/Agイオン比が0.35以下でCイオン/Agイオン比が3.7以下であると、銀多孔質焼結膜の表面を被覆する有機化合物によって、銀多孔質焼結膜の焼結性が低下することが抑えられ、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体を形成することが可能となる。
イオン/Agイオン比は、好ましくは0.20以上3.5以下であり、Cイオン/Agイオン比は、好ましくは2.5以上3.7以下である。
【0018】
銀多孔質焼結膜は、充填率が50%以上70%以下の範囲内にあることが好ましい。充填率が50%以上であると、銀多孔質焼結膜の強度が高くなり、取扱いが容易になる。また、充填率が70%以下であると、銀粒子の焼結性が高くなり、低温度での加熱によって緻密でかつ接合強度が高い銀粒子焼結体を形成することができる。銀多孔質焼結膜の接合強度の観点から、充填率は55%以上であることがより好ましい。また、焼結性の観点から、充填率は65%以下であることが好ましい。
なお、銀多孔質焼結膜の充填率は、銀多孔質焼結膜の断面画像から求めた値である。
【0019】
<銀多孔質焼結膜の製造方法>
次に、本実施形態の銀多孔質焼結膜の製造方法を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る銀多孔質焼結膜の製造方法を示すフロー図である。
本実施形態の銀多孔質焼結膜の製造方法は、図1に示すように、銀ペースト調製工程S01と、銀ペースト膜形成工程S02と、焼結工程S03とを含む。
【0020】
(銀ペースト調製工程S01)
銀ペースト調製工程S01では、原料の銀粉と有機溶媒とを混練して、銀ペーストを調製する。
【0021】
銀粉は、銀粒子の平均粒径が40nm以上100nm以下の範囲内にあることが好ましい。また、銀粉は、C イオン/Agイオン比(TOF-SIMSによって測定されるAgイオンの検出量に対するC イオンの検出量の比)が0.2以上1.0以下の範囲内にあって、C イオン/Agイオン比(TOF-SIMSによって測定されるAgイオンの検出量に対するC イオンの検出量の比)が0.005以上0.02以下の範囲内にあることが好ましい。C イオン/Agイオン比は、より好ましくは0.2以上0.5以下である。C イオン/Agイオン比は、より好ましくは0.005以上0.01以下である。
【0022】
銀粒子の平均粒径が上記の範囲内にある銀粉を、後述の焼結工程S03にて部分的に焼結させることにより、焼結性が高い銀多孔質焼結膜を得ることができる。また、C イオン/Agイオン比とC イオン/Agイオン比がそれぞれ上記の範囲内にある銀粉を用いることにより、後述の焼結工程S03において銀粒子の過剰な焼結を抑制することができ、銀粒子が部分的に焼結した銀多孔質焼結膜を得ることが可能となる。
【0023】
上記の銀粉は、例えば、以下の方法で作製される。銀塩水溶液とカルボン酸類水溶液とを水中に同時に滴下して、カルボン酸銀粒子を生成させてカルボン酸銀スラリーを調製する。次いで、調製したカルボン酸銀スラリーに還元剤水溶液を滴下して混合スラリーを得る。得られた混合スラリーを、92℃以上95℃以下の範囲内の温度で保持することにより、カルボン酸銀粒子を還元して銀粒子を生成させて銀粉スラリーを調製する。そして調製した銀粉スラリーを乾燥して銀粉を得る。この製造方法によれば、生成する銀粒子の表面にカルボン酸に由来する有機物が付着し、TOF-SIMSで検出されるC イオン/Agイオン比とC イオン/Agイオン比がそれぞれ上記の範囲内にある銀粉を得ることができる。
【0024】
銀塩水溶液としては、例えば、硝酸銀、塩素酸銀、リン酸銀などの銀塩の水溶液を用いることができる。これらの銀塩は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
カルボン酸類水溶液は、カルボン酸もしくはカルボン酸塩を含む。カルボン酸としては、例えば、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸を用いることができる。カルボン酸塩としては、これらのカルボン酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩を用いることができる。これらのカルボン酸およびカルボン酸塩は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
水中に同時に滴下する銀塩水溶液とカルボン酸類水溶液の量の割合は、銀とカルボン酸の当量比[=(銀イオンの価数:1価×モル数)/(カルボン酸の価数×モル数)]として、1.1以上2.0以下の範囲内とすることが好ましい。この場合、滴下の進行に伴って、水中にフリーなカルボン酸の量が増加することによって、銀塩水溶液を滴下してからカルボン酸銀粒子が生成するまでの時間が短くなるので、粒子径が小さいカルボン酸銀粒子が生成し易くなる。水としては、イオン交換水、蒸留水などのカルボン酸銀粒子の生成に悪影響を与えるおそれのあるイオンの含有量が少ない水を用いることが好ましい。
【0027】
カルボン酸銀スラリーに添加する還元剤水溶液としては、例えば、ヒドラジン、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸、及びこれらの塩類などの還元剤の水溶液を用いることができる。塩類としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩を用いることができる。これらの還元剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記の銀粉の製造方法では、カルボン酸銀スラリーに還元剤水溶液を滴下して混合スラリーを得る。得られた混合スラリーの保持温度を92℃以上とすることにより、カルボン酸銀が還元されやすくなり、銀粒子を速やかに生成させることができる。また、混合スラリーの保持温度を95℃以下とすることにより、生成した銀粒子の表面に、カルボン酸をC イオンもしくはC イオンとして付着させることができるので、銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。混合スラリーを上記の温度で保持する時間は、0.25時間以上0.5時間以下の範囲内にあることが好ましい。保持時間を0.25時間以上とすることにより、カルボン酸銀を確実に還元させることができ、銀粒子を安定して生成させることができる。また、保持時間を0.5時間以下にすることにより、生成した銀粒子が粗大粒子となるのを防止することができる。保持時間は、好ましくは0.33時間以上0.5時間以下である。
【0029】
調製された銀粉スラリーは、銀粒子が粗大粒子となるのを防止するために、速やかに冷却することが好ましい。銀粉スラリーの冷却は、30℃まで降温する時間が15分以下となる降温速度により行なうことが好ましい。
【0030】
銀粉スラリーの乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥法、減圧乾燥法、加熱乾燥法を用いることができる。銀粉スラリーを乾燥する前に、遠心分離機やデカンテーションにより、銀粉スラリー中の水分を除去することが好ましい。
【0031】
銀ペーストの有機溶媒は、後述の焼結工程S03において、蒸発除去できるものであれば特に制限はない。有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、アセテート系溶媒、炭化水素系溶媒、アミン系溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒の例としては、α-テルピネオール、イソプロピルアルコールが挙げられる。グリコール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールが挙げられる。アセテート系溶媒の例としては、酢酸ブチルトールカルビテートが挙げられる。炭化水素系溶媒の例としては、デカン、ドデカン、テトラデカンが挙げられる。アミン系溶媒の例としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミンが挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
銀ペーストを100質量%としたとき、銀ペーストの銀粒子の含有量は、70質量%以上95質量%以下の範囲内の量であることが好ましい。70質量%未満であると、相対的に溶媒の量が多くなり、粘度が低くなりすぎて、後述の銀ペースト膜形成工程S02において、銀ペースト膜の成形性が著しく低下するおそれがある。一方、銀粒子の含有量が95質量%を超えると、銀ペーストの粘度が高くなりすぎて、銀ペーストの流動性が著しく低下し、銀ペースト層を形成しにくくなるおそれがある。
【0033】
(銀ペースト膜形成工程S02)
銀ペースト膜形成工程S02では、上記銀ペースト調製工程S01で調製した銀ペーストを用いて銀ペースト膜を形成する。具体的には、基板の上に、銀ペーストを塗布して銀ペースト膜を形成する。銀ペースト膜の膜厚は、10μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
基板としては、表面が平坦で、焼結工程S03で生成する銀多孔質焼結膜との剥離が容易なものであることが好ましい。基板としては、樹脂基板、金属基板、セラミック基板を用いることができる。樹脂基板の例としては、フッ素樹脂基板、シリコーン樹脂基板を挙げることができる。金属基板の例としては、銅基板、アルミニウム基板、ステンレス基板を挙げることができる。セラミック基板の例としては、ガラス基板、アルミナ基板、酸化ケイ素基板、窒化ケイ素基板を挙げることができる。
【0035】
銀ペーストの塗布方法は、特に制限はなく、銀ペーストの塗布方法として利用されている各種の方法を用いることができる。塗布方法としては、例えば、印刷法、ディスペンス法、ピン転写法、ロールコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、ブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スライドホッパコート法、エクストル-ジョンコート法、カーテンコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、コンマコート法を用いることができる。
【0036】
(焼結工程S03)
焼結工程S03では、上記銀ペースト膜形成工程S02で形成した銀ペースト膜を加熱して、銀ペースト膜の溶媒を除去すると共に銀粒子を部分的に焼結させて銀多孔質焼結膜を生成させる。銀ペースト膜の加熱温度は、例えば、100℃以上200℃以下の範囲内である。加熱温度が低くなりすぎると、銀ペースト膜の銀粒子が焼結しにくくなり、銀多孔質焼結膜の機械強度が低下し、自立膜として取り扱えなくなるおそれがある。一方、加熱温度が200℃を超えると、銀ペースト層の銀粒子の焼結が過剰に進行して、銀粒子が粒成長し、得られる銀多孔質焼結膜の焼結性が低下するおそれがある。加熱時間は5~30分であることが好ましい。
【0037】
<接合体>
次に、本実施形態の接合体について説明する。
図2は、本発明の一実施形態である接合体の断面図である。
図2に示すように、接合体11は、第1部材12と、第1部材の一方の面(図1において上面)に接合層13を介して接合された第2部材14と、を備えている。
【0038】
第1部材12としては、例えば、DBA(Direct bonded Aluminum)基板やDBC(Direct Bonded Copper)基板などの絶縁回路基板を用いることができる。また、第2部材14としては、例えば、LED素子やパワー半導体チップなどの電子機器を用いることができる。
【0039】
接合層13は、上記の銀多孔質焼結膜を加熱して、銀粒子を焼結させることによって形成した銀粒子焼結体である。
【0040】
<接合体の製造方法>
次に、本実施形態の接合体の製造方法について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る接合体の製造方法を示すフロー図である。
本実施形態の接合体の製造方法は、図3に示すように、積層体作製工程S11と、加熱工程S12とを含む。
【0041】
(積層体作製工程S11)
積層体作製工程S11では、第1部材12と第2部材14とを、銀多孔質焼結膜を介して積層して積層体を作製する。積層体は、第1部材12と、銀多孔質焼結膜と、第2部材14とをこの順で積層することによって作製することができる。
第1部材12および第2部材14は、銀多孔質焼結膜と接する側の面に、銀との親和性が高い被膜が形成されていることが好ましい。被膜は、銀膜、金膜であることが好ましい。被膜を形成する方法としては、めっき法、スパッタ法を用いることができる。被膜を形成することによって、後述の加熱工程S12にて生成する接合層13(銀粒子焼結体)と第1部材12および第2部材14との接合力が高くなり、得られる接合体11の接合強度(シェア強度)が向上する。
【0042】
(加熱工程S12)
加熱工程S12では、上述の積層体作製工程S01で得られた積層体を加熱して、銀多孔質焼結膜の銀粒子をさらに焼結させて、接合層13を形成させる。これにより、第1部材12と第2部材14とが接合層13を介して接合された接合体11が得られる。
【0043】
積層体の加熱温度は、例えば、150℃以上250℃以下の範囲内、好ましくは170℃以上230℃以下の範囲内である。加熱温度が150℃未満であると、銀多孔質焼結膜の銀粒子が焼結しにくくなり、接合層13が形成できなくなるおそれがある。一方、加熱温度が250℃を超えると、第1部材12や第2部材14が熱によって劣化するおそれがある。
【0044】
積層体の加熱は、積層体の積層方向に圧力を付与しながら行なうことが好ましい。積層方向とは、第1部材12および第2部材14が銀多孔質焼結膜と接する面に対して垂直となる方向である。積層体の積層方向に圧力を付与しながら加熱することによって、形成される接合層13と第1部材12および第2部材14との接合力が高くなり、得られる接合体11の接合強度が向上する。積層体の積層方向に圧力を付与する場合、その圧力は、1MPa以上10MPa以下の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態の銀多孔質焼結膜によれば、結晶子サイズが60nm以上150nm以下の範囲内とされているので、強度が高く、自立した接合材として扱うことが可能となる。また銀粒子は焼結性が高く、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体を形成することが可能となる。さらに、C イオン/Agイオン比が0.10以上0.35以下の範囲内にあって、Cイオン/Agイオン比が0.9以上3.7以下の範囲内とされているので、銀多孔質焼結膜の表面が硫化しにくくなり、銀粒子の焼結性を長期間にわたって維持することができる。また、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体を確実に形成することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態の接合体の製造方法によれば、接合材として、上述の銀多孔質焼結膜を用いるので、比較的低温度の加熱によって接合強度(シェア強度)が高い接合体を製造することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態の接合体11の製造方法では、積層体作製工程S11において、第1部材12と、銀多孔質焼結膜と、第2部材14とをこの順で積層することによって積層体を作製しているが、これに限定されるものではない。例えば、第1部材12としてDBA基板やDBC基板などの絶縁回路基板を用いる場合、絶縁回路基板の表面に銀多孔質焼結膜を形成した銀多孔質焼結膜付絶縁回路基板(銀多孔質焼結膜を有する絶縁回路基板)を用意する。この銀多孔質焼結膜付絶縁回路基板の銀多孔質焼結膜の上に第2部材14を配置することによって、積層体を作製してもよい。銀多孔質焼結膜付絶縁回路基板は、以下の方法で作製することができる。絶縁回路基板の表面に、銀ペーストを塗布して銀ペースト膜を形成する。次いで、銀ペースト膜を加熱して、銀ペースト膜の溶媒を除去すると共に銀粒子を部分的に焼結させる。これによって銀多孔質焼結膜付絶縁回路基板(銀多孔質焼結膜を有する絶縁回路基板)を作製することができる。
【実施例
【0048】
次に、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0049】
<銀粉の製造>
(分類I)
銀塩水溶液として硝酸銀水溶液(硝酸銀の濃度:66質量%)、カルボン酸類水溶液としてグリコール酸水溶液(グリコール酸の濃度:56質量%)、還元剤水溶液としてヒドラジン水溶液(ヒドラジンの濃度:58質量%)を用意した。
【0050】
50℃に保持した1200gのイオン交換水の入ったガラス製容器に、50℃に保持した900gの硝酸銀水溶液と、50℃に保持した600gのグリコール酸水溶液とを、チューブポンプを用いて5分かけて同時に滴下し、グリコール酸銀スラリーを調製した。調製したグリコール酸銀スラリーは、空冷して、温度を20℃まで冷却した。
【0051】
次いで、上記グリコール酸銀スラリーを20℃に保持しながら、そのグリコール酸銀スラリーに、20℃に保持した300gのヒドラジン水溶液を、チューブポンプを用いて30分かけて滴下して混合スラリーを調製した。
【0052】
次に、上記混合スラリーを昇温速度15℃/時間で温度92℃まで昇温し、92℃(最高温度)で0.33時間保持する条件にて熱処理して、銀粉スラリーを得た。得られた銀粉スラリーを、15分間かけて30℃まで温度を下げた。次いで、銀粉スラリーを遠心分離機に入れて1000rpmの回転速度で10分間遠心分離処理した。上澄み液(液層)を除去し、残部の固形分(銀粉)を水洗した後、凍結乾燥法により30時間乾燥して、銀粉を回収した。回収した銀粉を、分類Iの銀粉とした。
【0053】
(分類II)
還元剤水溶液としてギ酸水溶液(ギ酸の濃度:58質量%)を用いたこと以外は、分類Iと同様にして分類IIの銀粉を得た。
【0054】
(分類III)
カルボン酸類水溶液としてクエン酸アンモニウム水溶液(クエン酸の濃度:56質量%)を用い、還元剤水溶液としてギ酸アンモニウム水溶液(ギ酸の濃度:58質量%)を用いたこと以外は、分類Iと同様にして分類IIIの銀粉を得た。
【0055】
(分類IV)
カルボン酸類水溶液としてマロン酸水溶液(マロン酸の濃度:56質量%)を用い、還元剤水溶液としてアスコルビン酸ナトリウム水溶液(アスコルビン酸の濃度:58質量%)を用いたこと以外は、分類Iと同様にして分類IVの銀粉を得た。
【0056】
(分類V)
カルボン酸類水溶液としてクエン酸ナトリウム水溶液(クエン酸の濃度:56質量%)を用い、還元剤水溶液としてギ酸アンモニウム水溶液(ギ酸の濃度:58質量%)を用いたこと以外は、分類Iと同様にして分類Vの銀粉を得た。
【0057】
(分類VI)
混合スラリーを昇温速度15℃/時間で温度95℃まで昇温し、95℃(最高温度)で0.5時間保持する条件にて熱処理したこと以外は、分類Iと同様にして分類VIの銀粉を得た。
【0058】
(分類VII)
分類VIIの銀粉として、市販の銀粉(三井金属工業社製、「HP02」)を用意した。
【0059】
<銀粉の評価>
分類I~VIIの銀粉について、銀粒子の平均粒径と、C イオン/Agイオン比と、C イオン/Agイオン比を下記の方法により測定した。その結果を下記の表1に示す。なお、表1には、銀粉の製造に使用した各材料の種類、混合スラリーの熱処理条件(最高温度、保持時間)を併せて記載した。
【0060】
(銀粒子の平均粒径)
銀粉をエポキシ樹脂と混合し、得られた混合物を硬化させて銀粒子径の測定用試料を作製した。この銀粒子径の測定用試料の中央部を切断し、その切断面をアルゴンイオンビームにより研磨加工した。研磨加工した加工面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、無作為に1000個以上の銀粒子を選択した。選択した銀粒子について、アルゴンイオンビームの照射方向に沿った方向の直径を粒子径として計測し、その粒子径の平均値を銀粒子の平均粒径とした。
【0061】
(C イオン/Agイオン比とC イオン/Agイオン比)
AgイオンとC イオンとC イオンの検出量は、飛行時間型二次イオン質量分析法により測定した。銀粉をIn箔表面に埋没したものを測定用試料とした。測定装置はULVAC PHI社製nanoTOFIIを用いた。測定範囲は100μm平方の範囲、一次イオンはBi ++(30kV)、測定時間は5分の条件で測定してTOF-SIMSスペクトルを得た。得られたTOF-SIMSスペクトルから、Ag+イオン、C イオン、C イオンの検出量を求め、C イオンとC イオンの検出量を、それぞれAgイオンの検出量で除して、C イオン/Agイオン比とC イオン/Agイオン比を算出した。
【0062】
【表1】
【0063】
<本発明例1>
[銀多孔質焼結膜の作製]
銀粉として分類Iの銀粉と、有機溶媒としてエチレングリコールとを、それぞれ配合量が質量部で85:15となるように秤量して、容器に入れた。次いで、この容器を、混練機(THINKY社製、「あわとり練太郎」)を用いて、2000rpmの回転速度で5分間回転させる操作を3回行って、銀粉と有機溶媒とを混練して銀ペーストを調製した(銀ペースト調製工程S01)。
【0064】
上記の銀ペーストを、ガラス基板上に、2.5mm×2.5mm×厚さ0.05mmのメタルマスク版を用いて印刷して、厚さ0.05mmの銀ペースト膜を形成した(銀ペースト膜形成工程S02)。次いで、銀ペースト膜を形成したガラス基板を送風乾燥機に投入して、加熱温度150℃で加熱時間15分間の焼結条件にて、銀ペースト膜を乾燥させ、銀粒子を部分的に焼結させて銀多孔質焼結膜を生成させた(焼結工程S03)。加熱後、送風乾燥機からガラス基板を取り出し、室温まで放冷した後、ガラス基板から銀多孔質焼結膜を剥がし取って、銀多孔質焼結膜を得た。得られた銀多孔質焼結膜の膜厚は、0.04mmであった。
【0065】
[接合体の作製]
底面を銀スパッタしたシリコン素子(2.5mm×2.5mm)と、銀めっきを施した銅板(2.5mm×2.5mm)とを用意した。シリコン素子の銀スパッタした底面と、銅板の銀めっきを施した面とを、上記の銀多孔質焼結膜を介して積層して積層体を得た(積層体作製工程S11)。得られた積層体を、加圧ダイボンダを用いて積層方向に10MPaの荷重を付与しながら、大気雰囲気下、室温から30℃/分の速度で200℃まで昇温し、次いで、200℃で15分間加熱した。以上により接合体を得た(加熱工程S12)。得られた接合体は、接合層の膜厚が0.03mmであった。
【0066】
<本発明例2~8、比較例1~5>
銀ペースト調製工程S01において、銀粉として、下記の表2に示す分類の銀粉を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、銀ペーストを得た。次いで、焼結工程S03において、焼結条件を下記の表2に示す加熱温度および加熱時間としたこと以外は、本発明例1と同様にして、銀多孔質焼結膜を作製した。そして、本発明例1と同様にして、得られた銀多孔質焼結膜を用いて接合体を製造した。ただし、比較例4~5では、銀多孔質焼結膜を作製することができなかったため、接合体を製造することができなかった。なお、本発明例2~8および比較例1~3で得られた接合体は、接合層の膜厚が0.03mmであった。
【0067】
<銀多孔質焼結膜と接合体の評価>
本発明例1~8および比較例1~3で得られた銀多孔質焼結膜について、充填率と、結晶子サイズと、C イオン/Agイオン比と、Cイオン/Agイオン比を、それぞれ下記の方法により測定した。接合体について、シェア強度を下記の方法により測定した。その結果を下記の表2に示す。
【0068】
(充填率)
充填率は、銀多孔質焼結膜の断面画像から求めた。先ず、銀多孔質焼結膜の断面をCP(Cross section Polish)加工した。次いで、その銀多孔質焼結膜の断面を、SEMを用いて1000倍の倍率で撮影した。得られた断面画像を、画像処理ソフト(Image J)を用いて2値化処理した。2値化処理した画像において、白色で表示される銀部分の面積を測定し、視野全体に占める銀部分の面積割合を充填率として算出した。
【0069】
(結晶子サイズ)
結晶子サイズは、X線回折パターンから求めた。X線回折パターンは、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製、D8 ADVANCE)を用いて、下記の測定条件にて測定した。
測定条件
ターゲット:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
照射X線サイズ:2mmφ以下
走査範囲:30-140deg.
ステップ幅:0.02deg.
【0070】
得られたX線回折パターンを、解析ソフト(ブルカー・エイエックスエス社製、TOPAS:Version5)を用いてPawley法により解析し、ローレンツ関数成分より銀粒子の結晶子サイズを算出した。なお、X線回折パターンの解析に際して、プロファイル関数は、予め測定した標準試料(NIST SRM640d)のX線回折パターンを用いて求めた値に固定した。
【0071】
(C イオン/Agイオン比とCイオン/Agイオン比)
AgイオンとAgイオンとC イオンとCイオンの検出量は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)より測定した。銀多孔質焼結膜をIn箔表面に埋没したものを測定用試料とした。測定装置および測定条件は、前述のC イオン/Agイオン比とC イオン/Agイオン比の測定方法と同じである。
【0072】
(シェア強度)
シェア強度は、以下の方法で測定した。銅板とシリコン素子の間に形成された接合層を破断するのに要する力を、ボンディングテスタ(RHESCA社製)により測定した。この測定値を接合面積(シリコン素子の底面の面積)で除してシェア強度とした。なお、接合層を7個作製し、同様の手順で測定を行い、測定値の平均値を接合面積で除してシェア強度とした。
【0073】
<参考例1>
本発明例1で調製した銀ペーストを、銀めっきを施した銅板(25mm×25mm)の表面に、2.5mm×2.5mm×厚さ0.05mmのメタルマスク版を用いて塗布して、厚さ0.05mmの銀ペースト層を形成した。次いで、この銀ペースト層の上に、底面を銀スパッタしたシリコン素子(2.5mm×2.5mm)の銀スパッタした底面を重ねた。これにより、シリコン素子と銅板の表面とを、上記の銀ペースト層を介して積層した積層体を得た。得られた積層体を、加圧ダイボンダを用いて積層方向に10MPaの荷重を付与しながら、大気雰囲気下、200℃で15分間加熱することにより接合体を得た。得られた接合体は、接合層の膜厚が0.03mmであった。
得られた接合体のシェア強度を上記の方法と同様にして測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
比較例1の銀多孔質焼結膜では、C イオン/Agイオン比とCイオン/Ag-イオン比が本実施形態の範囲よりも高かった。この比較例1の銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体は、銀ペーストを用いて製造した参考例1の接合体と比較してシェア強度が低くなった。これは、銀多孔質焼結膜を被覆する有機化合物の量が多いため、銀粒子の焼結性が低下したためであると考えられる。
【0076】
比較例2の銀多孔質焼結膜では、C イオン/Agイオン比とCイオン/Agイオン比が本実施形態の範囲よりも低かった。この比較例2の銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体は、銀ペーストを用いて製造した参考例1の接合体と比較してシェア強度が低くなった。これは、銀多孔質焼結膜を被覆する有機化合物の量が少ないため、銀多孔質焼結膜を作製してから接合体を製造するまでの間に、銀多孔質焼結膜の表面が硫化して、銀粒子が焼結しにくくなったためであると考えられる。
【0077】
比較例3の銀多孔質焼結膜では、結晶子サイズが本実施形態の範囲よりも大きく、かつC イオン/Agイオン比とCイオン/Agイオン比が本実施形態の範囲よりも低かった。この比較例3の銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体は、銀ペーストを用いて製造した参考例1の接合体と比較してシェア強度がさらに低くなった。これは、銀多孔質焼結膜の表面が硫化したことに加えて、結晶子サイズが粗大であるため、銀粒子の焼結性が大きく低下したためであると考えられる。
【0078】
比較例4では、銀ペースト膜の加熱温度を80℃としたが、加熱温度が低くなりすぎて、銀粒子が部分的にしか焼結せず、結晶子サイズも小さく、有機化合物の量も多かった。そのため、自立した銀多孔質焼結膜が得られなかった。よって、銀の結晶子サイズと、有機化合物の量以外の測定は行わなかった。
また、比較例5では、銀粒子の平均粒径が200nmの銀粉を用いたが、銀粒子の焼結性が低く、加熱温度が150℃では銀粒子の焼結が進まず、自立した銀多孔質焼結膜が得られなかった。また、銀の結晶子サイズも大きくなった。よって、銀の結晶子サイズと、有機化合物の量以外の測定は行わなかった。
【0079】
これに対して、結晶子サイズが本実施形態の範囲にあり、C イオン/Agイオン比とCイオン/Agイオン比が本実施形態の範囲にある本発明例1~8の銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体は、銀ペーストを用いて製造した参考例1の接合体と比較してシェア強度が高くなることが確認された。これは、本発明例1~8の銀多孔質焼結膜は、接合体製造時の加熱の際に有機溶媒が揮発しないので、内部に気孔が生成しにくく、緻密な接合層を形成するためであると考えられる。
なお、例えばシェア強度の測定値が65MPaであるときには、シェア強度の測定値には-5MPa~+5MPa程度のばらつきが生じる。このため、本発明例1,5,6のシェア強度60MPaと、本発明例4のシェア強度70MPaはほぼ同じ値であるといえる。
本発明例2,3では、有機化合物の量が異なるが、シェア強度が同じであった。これは、本発明例2,3では、焼結性に著しい差異が生じなかったためであると推測される。
【0080】
本発明例1で作製した銀多孔質焼結膜を樹脂埋めした状態で、断面を研磨して、銀多孔質焼結膜の断面を露出させた。その断面を、SEMを用いて観察した。図4に、銀多孔質焼結膜の断面のSEM写真を示す。また、本発明例1で作製した銀多孔質焼結膜を用いて製造した接合体を樹脂埋めした状態で、断面を研磨して、接合層の断面を露出させた。その断面を、SEMを用いて観察した。図5に、接合層の断面のSEM写真を示す。
【0081】
図4の銀多孔質焼結膜のSEM写真から、銀多孔質焼結膜は銀粒子が部分的に焼結し、部分的に焼結した銀粒子間に連続気孔が形成された構造であることが確認された。また、図5の接合層のSEM写真から、銀多孔質焼結膜は加熱によって銀粒子の焼結がさらに進み、緻密な銀粒子焼結体(接合層)を形成することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本実施形態の銀多孔質焼結膜によれば、比較的低温度の加熱によって、緻密で接合強度が高い銀粒子焼結体(接合層)を有する接合体を製造できる。このため、本実施形態の銀多孔質焼結膜は、LED(発光ダイオード)素子やパワー半導体チップなどの電子部品の組立てや実装等の工程のうち、2つ以上の部品を接合して接合体を製造する工程に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
11 接合体
12 第1部材
13 接合層
14 第2部材
図1
図2
図3
図4
図5