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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220809BHJP
   C08J 11/08 20060101ALI20220809BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220809BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J11/08 CEY
C08J5/18
C08L33/06
C08L101/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019068677
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020166194
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【弁理士】
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】森田 亮
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242017(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0080497(KR,A)
【文献】特表2003-517930(JP,A)
【文献】特開2004-352776(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040252(WO,A1)
【文献】特開2002-173536(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08J 5/18
C08J11/08
C08L33/06
C08L101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂と弾性体粒子とを含む光学フィルム、または極性基を有するシクロオレフィン系樹脂を含む光学フィルムの製造方法であって、
前記光学フィルムの製造工程で生じる返材を破砕して、嵩密度が0.02~0.4g/cmのフィルム片を得る工程と、
前記フィルム片を含む原料を溶媒に溶解させて、ドープを調製する工程と、
前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程とを含む、
光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルム片の嵩密度は、0.02~0.34g/cmである、
請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルム片のふるい分け試験により測定される平均粒子径は、2~7.3mmである、
請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルム片を平均目開き1mmのメッシュにて2分間ふるいにかけたときに分取される比率は、ふるいにかける前の前記フィルム片の総量に対して10質量%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記返材の破砕は、固定刃と回転刃との間に前記返材を挟み込んで破砕することにより行う、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記返材の破砕は、冷却用ガスを供給しながら行う、
請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記冷却用ガスの供給は、前記返材の供給方向と対向する方向に行う、
請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記回転刃の回転数は、300~800rpmである、
請求項5~7のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記返材の含有量は、前記原料に対して10質量%以上である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置には、偏光板保護フィルムなどの光学フィルムが用いられている。そのような光学フィルムとしては、優れた透明性や寸法安定性、低吸湿性を有することから、シクロオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含むフィルムが用いられることがある。
【0003】
これらのフィルムは、溶融製膜法(メルト法)や溶液製膜法(キャスト法)などで製造されうる。中でも、キャスト法は、メルト法のような高温下で溶融する必要がない(高温加熱工程がない)ことから、熱分解などの材料劣化の懸念が少なく、使用される材料の制約が少ない点で有利である。
【0004】
特に、製造コストを低減する観点などから、規格外製品や製造途中に発生するフィルム端材(以下、これらを「返材」という)を再利用できることが望まれる。キャスト法では、そのような返材についても熱分解などの材料劣化の懸念が少なく、返材を再利用できる点でも有利である。
【0005】
返材を利用したキャスト法による光学フィルムの製造方法として、例えば、1)(メタ)アクリル系樹脂とセルロースエステル系樹脂とを含むドープを調製する工程と、2)ドープを流延して光学フィルムを製膜する工程と、3)返材を破砕してチップとする工程と、4)当該チップを、ドープ調製工程に供給する工程とを有する光学フィルムの製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。そして、4)の工程においてチップを除電することで、返材の凝集を抑制でき、それにより溶媒へチップを溶解させる際に、返材の未溶解物を低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-242017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来、多く用いられてきたセルロースエステル樹脂とは異なり、(メタ)アクリル系樹脂やシクロオレフィン系樹脂は、ガラス転移温度が低い。特に、(メタ)アクリル系樹脂は、脆性を改善するために、ゴム粒子などの弾性体粒子がさらに添加されることがある。そのようなガラス転移温度が低い成分を多く含む返材を再利用する場合、得られる光学フィルムに異物故障が生じやすいことが新たに見出された。
【0008】
この理由は明らかではないが、以下のように考えられる。通常、返材を再利用する場合、溶媒に溶解させやすくするために、返材を一定以下の大きさになるまで破砕する。このとき、返材の破砕時の負荷による発熱が大きいと、破砕後の返材(以下、「フィルム片」という)同士、特にガラス転移温度が比較的低い成分を含むフィルム片同士は融着しやすい。フィルム片同士が融着すると、融着したフィルム片間に空隙がなくなるため、溶媒に溶解させる際に溶媒が浸透しにくく、溶解不良を生じやすい。それにより、未溶解物に起因する異物故障が生じやすい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、返材を利用した、比較的ガラス転移温度が低い樹脂を含む光学フィルムの製造方法であって、返材の未溶解物を低減し、それに起因するフィルムの異物故障を抑制しうる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の光学フィルムの製造方法に関する。
【0011】
本発明の光学フィルムの製造方法は、(メタ)アクリル系樹脂と弾性体粒子とを含む光学フィルム、または極性基を有するシクロオレフィン系樹脂を含む光学フィルムの製造方法であって、前記光学フィルムの製造工程で生じる返材を破砕して、嵩密度が0.02~0.4g/cmのフィルム片を得る工程と、前記フィルム片を含む原料を溶媒に溶解させて、ドープを調製する工程と、前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、返材を利用した、比較的ガラス転移温度が低い樹脂を含む光学フィルムの製造方法であって、返材の未溶解物を低減し、それに起因するフィルムの異物故障を抑制しうる光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施の形態に係る破砕機を示す断面図である。
図2図2は、変形例に係る破砕機を示す断面図である。
図3図3は、変形例に係る破砕機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムの製造方法は、1)光学フィルムの製造工程で生じる返材を破砕して、嵩密度が適度に低く調整されたフィルム片を得る工程(返材破砕工程)と、2)フィルム片を含む原料を、溶媒に溶解させて、ドープを調製する工程(ドープ調製工程)と、3)ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程(製膜工程)とを含む。
【0015】
1)返材破砕工程
本工程では、光学フィルムの製造工程で発生した返材を破砕して、嵩密度が適度に低く調整されたフィルム片を得る。
【0016】
返材は、光学フィルムの製造工程で切り落とされた端材や規格外製品などでありうる。すなわち、光学フィルムの製造工程では、切り落とされた端部分や、巻き乱れなどによる不良品が発生することがある。これらは、製品とはならないものの、材質には問題はないため、再利用することができる。
【0017】
返材の厚みは、光学フィルムの厚みと同じであり、例えば5~100μm、好ましくは5~40μmとしうる。光学フィルムおよび返材を構成する各材料については、後で詳細に説明する。
【0018】
そのような返材を、溶媒に溶解させうる程度の大きさに破砕(または粉砕)する。本発明で用いられる返材は、(メタ)アクリル系樹脂や極性基を有するシクロオレフィン系樹脂などの比較的融点が低い樹脂を主成分として含む。そのため、破砕時の負荷により発生する熱が大きいと、その熱により破砕後のフィルム片同士が融着しやすくなる。破砕後のフィルム片同士が融着すると、フィルム同士の間に隙間がなくなるため、(ドープを調製するために)溶媒にフィルム片を溶解させる際に、溶媒がフィルム片の融着物の中まで浸透しにくく、溶媒に十分に溶解させることができない。それにより、得られる光学フィルムに異物故障を生じることがある。また、破砕時の発熱が大きいと、その熱によりフィルム片が熱劣化し、得られる光学フィルムに着色を生じることがある。
【0019】
特に、(メタ)アクリル系樹脂を含む光学フィルムは、脆性を改善するために、低融点の弾性体粒子をさらに含むことがある。低融点の弾性体粒子を含む返材やフィルム片は、破砕時の発熱により、融着や熱劣化を生じやすいことから、破砕時の発熱を少なくすることが一層望まれている。
【0020】
そこで、本発明では、破砕時の発熱(破砕時に返材やフィルム片が受ける熱)が少なくなるような条件で、返材を破砕する。すなわち、得られるフィルム片の嵩密度が適度に低くなるような条件で、返材を破砕する。
【0021】
具体的には、得られるフィルム片の嵩密度が0.02~0.4g/cmとなるような条件で破砕する。得られるフィルム片の嵩密度が0.4g/cm以下であると(すなわち、フィルム片が大きめであると)、破砕時の負荷を小さくすることができるため、破砕時の発熱を少なくすることができる。それにより、フィルム片同士の熱による融着を抑制することができ、溶媒への溶解不良を抑制できる。また、破砕時の熱によるフィルム片の劣化も抑制できるため、得られる光学フィルムの着色も抑制できる。一方、得られるフィルム片の嵩密度が0.02g/cm以上であると、得られるフィルム片が大きすぎないため、溶媒への溶解不良を抑制できる。得られるフィルム片の嵩密度は、上記観点から、0.02~0.34g/cmであることが好ましい。
【0022】
フィルム片の嵩密度は、JIS Z 8807の6(比重瓶による密度及び比重の測定方法)に準拠して測定することができる。
【0023】
なお、光学フィルムの原料の嵩密度を調整すること自体は、例えば特開2002-128903号公報に示されるように知られているが、当該文献は、実質的に嵩密度を0.45g/cm以上とすること、すなわち、フィルム片の平均粒子径(サイズ)を小さくして溶媒に溶解させやすくするものである。したがって、本願のように、ガラス転移温度が比較的低い成分を含む返材を利用する場合に生じる「破砕時の発熱に伴うフィルム片同士の融着や熱劣化を抑制する」という思想や、そのために「破砕後に得られるフィルム片の嵩密度を0.4g/cm以下に調整する」ことは示されていないと考えられる。
【0024】
フィルム片の平均粒子径は、特に制限されないが、2~7.3mmであることが好ましい。フィルム片の平均粒子径が2mm以上であると、フィルム片の嵩密度を低くしやすいため、嵩密度を上記範囲に調整しやすい。フィルム片の平均粒子径が7.3mm以下であると、フィルム片が大きすぎないため、それによる溶媒への溶解不良を抑制しやすい。フィルム片の平均粒子径は、上記観点から、4~7mmであることがより好ましい。
【0025】
フィルム片の平均粒子径は、ふるい分け試験により得られる粒度分布から求めることができる。具体的には、JISZ 8815(1994)に準拠してふるい分け試験を行い、質量基準の粒度分布を得る。そして、得られた質量基準の粒度分布の50%粒子径を「平均粒子径」(ふるい径)として求めることができる。
【0026】
フィルム片は、破砕されすぎていないこと、すなわち、細かく破砕されすぎて小さくなったフィルム片の割合が少ないことが好ましい。具体的には、フィルム片を平均目開き1mmのメッシュにて2分間ふるいにかけたときに分取される比率(%)(以下、「分取率」という)は、ふるいにかける前のフィルム片の総量に対して10質量%以下であることが好ましい。そのようなフィルム片は、緩やかな条件で破砕されており、破砕時の負荷が適度に小さいため、破砕時の発熱によるフィルム片同士の融着や熱劣化をより抑制しやすい。上記フィルム片の分取率(%)は、上記観点から、ふるいにかける前のフィルム片の総量に対して5質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
フィルム片の嵩密度や平均粒子径、分取率は、破砕条件によって調整することができる。フィルム片の嵩密度や平均粒子径、分取率を上記範囲内とするためには、破砕時の発熱を少なくすること(破砕時に返材やフィルム片が受ける熱を少なくすること)、具体的には、破砕時の負荷を小さくしたり、除熱したりして、破砕時の発熱を少なくすることが好ましい。
【0028】
返材の破砕は、任意の方法で行うことができ、例えば固定刃と回転刃との間に返材を挟み込んで破砕することにより行うことができる。そして、破砕時に返材やフィルム片が受ける熱を少なくする観点では、返材の破砕は、1)回転刃の回転数を低くして、破砕時の負荷を小さくし、かつ2)冷却用ガスを供給して(送風して)、系内の冷却しながら行うことが好ましい。なお、冷却用ガスの供給は、返材を破砕機構に供給するための送風とは異なるものである。
【0029】
冷却用ガスの供給方向C(送風方向)は、特に限定されず、返材の供給方向Fと順方向(並流となる方向)であってもよいし、逆方向(向流となる方向または対向する方向)であってもよい(図1参照)。中でも、冷却用ガスの滞留時間を長くするとともに、熱交換効率を高める観点では、冷却用ガスの供給方向Cは、返材の供給方向Fとは逆方向(向流となる方向または対向する方向)であることが好ましい。
【0030】
冷却用ガスの温度は、特に制限されず、室温であってもよいし、室温よりも低くてもよい。冷却用ガスの温度は、例えば10~30℃としうる。また、冷却用ガスの流量は、特に制限されず、例えば2~40Nm/時としうる。冷却用ガスの種類は、特に制限されず、エアまたは窒素ガスなどの不活性ガスでありうる。
【0031】
そのような返材の破砕は、固定刃と回転刃とを用いた公知の破砕機にて行うことができる。
【0032】
図1は、本実施の形態に係る破砕機100を示す断面図である。
【0033】
図1に示されるように、破砕機100は、破砕室110と、その内部に返材を供給するための供給口120と、破砕室110内に配置された破砕機構130と、破砕された返材を排出するための排出口140と、破砕室110の排出口140付近に配置されたスクリーン150とを有する。
【0034】
供給口120は、ホッパー210と任意の供給管220を介して連結されている。排出口140は、排出管230と連結されている。それにより、ホッパー210から供給された返材を供給口120から破砕室110内に供給するとともに、破砕して得られるフィルム片を排出口140から排出管230を通して排出できるようになっている。
【0035】
破砕機構130は、破砕室110内に配置されており、当該破砕室110の内壁面に固定された固定刃130Aと、回転軸に取り付けられた回転刃130Bとを有する。そして、供給口120から供給された返材を、固定刃130Aと回転刃130Bとの間で挟みながら、剪断力により破砕する。
【0036】
スクリーン150は、破砕室110の破砕機構130と排出口140との間、または排出口140付近に配置されうる。本実施の形態では、スクリーン150は、排出口140に配置されている。スクリーン150には、複数のメッシュ(孔)が形成されている。それにより、固定刃130Aと回転刃130Bとで破砕されて得られるフィルム片のうち、予め設定された大きさ以下のフィルム片のみを通過させるようになっている。
【0037】
また、破砕機100は、破砕室110内に、冷却用ガスを送り込むための送風口160をさらに有する。送風口160の位置は、冷却用ガスの供給方向Cに応じて設定されていればよく、特に制限されない。例えば、送風口160は、破砕室110の、返材の供給方向Fの下流側(例えば回転軸よりも下流側)に配置されてもよいし(図1参照)、側方側に配置されてもよい(後述する図2参照)。本実施の形態では、送風口160は、破砕室110の、返材の供給方向Fの下流側(具体的には、回転刃130Bの回転軸よりも下流側)に配置されている。
【0038】
送風口160は、送風機構(不図示)と接続されている。それにより、破砕室110内に冷却用ガスを供給できるようになっている。冷却用ガスは、さらに温度調整手段(不図示)によって温度が調整されるようになっている。冷却用ガスの温度は、特に制限されず、10~30℃でありうる。
【0039】
図1に示されるような破砕機100では、ホッパー210から供給された返材を空送し、供給口120から破砕室110内に供給する。次いで、供給した返材を、破砕室110内の破砕機構130(固定刃130Aと回転刃130B)との間で挟みながら所定の大きさ以下となるまで破砕する。予め規定された大きさ以下に破砕された返材(フィルム片)を、スクリーン150に形成された複数のメッシュを通して排出口140から排出する。
【0040】
本発明では、返材の破砕条件は、得られるフィルム片の嵩密度が上記範囲内となるように設定される。返材の破砕条件としては、破砕室110内への冷却用ガスの供給(送風)、回転刃130Bの回転数、固定刃130Aの温度、スクリーン150のメッシュ径、破砕時間(破砕室110の段数)などがある。中でも、得られるフィルム片の嵩密度を上記範囲内に調整する観点では、返材の破砕は、1)冷却用ガスの供給を行い、かつ2)回転刃130Bの回転数を低くすること(300~800rpmに調整すること)が好ましく;スクリーン150のメッシュ径、固定刃130Aの温度、および破砕時間(破砕室110の段数)の少なくとも一以上をさらに調整することがより好ましい。
【0041】
(冷却用ガスの供給について)
破砕室110内に冷却用ガスを供給(送風)することで、破砕室110内を冷却または除熱することができる。すなわち、破砕室110内に冷却用ガスを供給することで、破砕室110内や、固定刃130Aや回転刃130Bなどを適度に冷却することができる。それにより、返材を所定の大きさに破砕しつつも、破砕時の負荷により発生する熱を除去できるため、フィルム片の融着や熱劣化を抑制しやすい。
【0042】
冷却用ガスの供給方向C(送風方向)は、前述の通り、返材の供給方向Fに対して並流となる方向であってもよいし、向流となる方向であってもよい。中でも、破砕室110内での冷却用ガスの滞留時間を長くするとともに、熱交換効率を高める観点では、冷却用ガスの供給方向Cは、返材の供給方向Fに対して向流となる方向であることが好ましい。
【0043】
例えば、図1では、返材の供給方向Fにおいて、送風口160は、破砕室110の側方側または下流側(例えば、返材の供給方向Fにおいて、回転刃130Bの回転軸よりも下流側)の範囲に配置されていることが好ましく、下流側に配置されていることがより好ましい。具体的には、回転刃130Bの回転軸の軸方向と直交する断面(図1参照)における、冷却用ガスの供給方向Cと返材の供給方向Fとの交差角は、例えば0~40°であることが好ましく、0~30°であることがより好ましく、0~10°であることがより好ましい。交差角とは、2つの方向のなす角度のうち小さいほうの角度をいう。
【0044】
(回転数について)
回転刃130Bの回転数は、低めにすることが好ましい。具体的には、回転刃130Bの回転数は、300~800rpmであることが好ましい。回転数が300rpm以上であると、十分な破砕性能が得られやすいため、予め設定された大きさまでフィルム片を破砕しやすい。回転数が800rpm以下であると、破砕時の負荷が大きくなりすぎないため、それによる発熱を十分に抑制できる。回転刃130Bの回転数は、上記観点から、400~600rpmであることがより好ましい。
【0045】
(固定刃130Aの温度について)
固定刃130Aの温度は、返材に含まれる樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、10~(Tg-50)℃であることが好ましい。固定刃130Aの温度が10℃以上であると、返材が低温になりすぎないため、脆くなるのを抑制しやすい。それにより、予め設定された大きさによりも細かく破砕されすぎるのを抑制できる。固定刃130Aの温度が(Tg-50)℃以下であると、破砕時の発熱と合わさって返材やフィルム片の融着や熱劣化が進むのを抑制しやすい。固定刃130Aの温度は、上記観点から、20~(Tg-70)℃であることがより好ましい。固定刃130Aの温度は、固定刃130Aの実際の表面の温度として測定される。
【0046】
(スクリーン150のメッシュ径について)
スクリーン150のメッシュ径は、2mm以上10mm未満であることが好ましい。スクリーン150のメッシュ径が2mm以上であると、スクリーン150のメッシュを通って破砕室110外へ排出されるフィルム片の割合を多くしうるため、破砕時の負荷を小さくしやすく、それにより、破砕時の発熱を小さくしやすい。スクリーン150のメッシュ径が10mm以下であると、スクリーン150のメッシュを通るフィルム片の大きさを、溶媒に十分に溶解させうる程度に適度に小さくすることができる。スクリーン150のメッシュ径は、上記観点から、4~8mmであることがより好ましい。
【0047】
(破砕室110の段数について)
破砕室110は、1つだけであってもよいし、複数あってもよい。すなわち、複数の破砕室110が連結されてもよい。ただし、破砕時の負荷を少なくする観点では、破砕室110の段数は、少ないほうが好ましい。すなわち、破砕室110の段数は、1段であることが好ましい。
【0048】
このようにして、破砕室110内で破砕されて得られるフィルム片のうち、スクリーン150を通過したものを、排出口140から排出させる。排出されたフィルム片は、排出管230内を空送される。
【0049】
なお、本実施の形態では、破砕機として図1に示されるものを用いる例を示したが、これに限定されない。
【0050】
図2および3は、変形例に係る破砕機100を示す断面図である。図2に示されるように、送風口160は、返材の供給方向Fに対して側方方向から、冷却用ガスを供給(送風)できるように配置されてもよい。また、図3に示されるように、複数の破砕室110が、返材の供給方向Fに直列的に接続されてもよい。
【0051】
この他にも、破砕機100としては、ホーライ社製のBOシリーズオープンフラットカッター(回転刃と固定刃でフィルムを細かくした後、刃の下に設置されたふるいを通して破砕物の形状が揃えられる装置)や、ホーライ社製のシートペレタイザー(ロールカッターの縦切刃によりシートを引き取りつつ縦切りし、次いで回転刃と固定刃で横切りにする装置)を用いることができる。
【0052】
2)ドープ調製工程
本工程では、上記1)の工程で得られたフィルム片を含む原料を、溶媒(溶剤)に溶解させて、ドープを得る。
【0053】
フィルム片を含む原料は、光学フィルムの原料である。光学フィルムの原料は、フィルム片だけでなく、純材料をさらに含むことが好ましい。純材料とは、フィルム片などの再利用品ではない新たな材料をいう。フィルム片の含有量は、原料に対して10~80質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましい。
【0054】
光学フィルムの原料は、マトリクス樹脂として(メタ)アクリル系樹脂または極性基を有するシクロオレフィン系樹脂を含む。
【0055】
((メタ)アクリル系樹脂)
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、または(メタ)アクリル酸エステルとそれと共重合可能な共重合モノマーとの共重合体である。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0056】
すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含み、それと共重合可能なメタクリル酸メチル以外の共重合モノマー(以下、単に「共重合モノマー」という)に由来する構造単位をさらに含みうる。
【0057】
共重合モノマーは、特に制限されないが、溶液製膜時の乾燥性を高めやすくする観点では、環構造を有する共重合モノマーを含むことが好ましい。環構造の例には、脂環、芳香環およびイミド環が含まれる。そのような環構造を有する共重合モノマーは、分子の自由体積が大きいことから、溶液製膜工程において、膜状物の樹脂マトリクス中で、溶媒分子を移動させるための隙間(空間)を形成しやすい。それにより、溶媒の除去性、すなわち、乾燥性を高めることができる。
【0058】
環構造を有する共重合モノマーの例には、
(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、六員環ラクトン(メタ)アクリル酸エステルなどの脂環を有する(メタ)アクリル酸エステル;
ビニルシクロヘキサンなどの脂環を有するビニル類;
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香環を有するビニル類;および
N-フェニルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド類(イミド環を有する化合物)が含まれる。
【0059】
中でも、環構造を有する共重合モノマーは、芳香環を有する共重合モノマー(例えば芳香環を有するビニル類)、またはイミド環を有する共重合モノマー(例えばマレイミド類)であることが好ましい。これらのモノマーは、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度を高めやすい。
【0060】
共重合モノマーに由来する構造単位は、環構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位以外の他の共重合モノマーに由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0061】
他の共重合モノマーの例には、環構造を有しない共重合モノマー、すなわち、
(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチルなどの炭素原子数2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸類;
酢酸ビニル、エチレンやプロピレンなどのオレフィン類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;
(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
(メタ)アクリル系樹脂が、環構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位を含む場合、その含有量は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。環構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量が10質量%以上であると、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度を高めやすいため、溶液製膜時の乾燥温度を高めやすいだけでなく、膜状物中に環構造に由来して、溶媒が移動できる空間を形成しやすいため、乾燥性も高めやすい。また、環構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量が40質量%以下であると、(メタ)アクリル系樹脂を含む膜状物が脆くなりすぎない。
【0063】
(メタ)アクリル系樹脂のモノマーの種類や組成は、H-NMRにより特定することができる。
【0064】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90℃以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のTgが90℃以上であると、光学フィルムの耐熱性を高めうるだけでなく、溶液製膜時の乾燥温度を高めることができるため、乾燥性を高めやすい。溶液製膜時の乾燥温度をより高めやすくし、かつ光学フィルムの靱性を損ないにくくする観点では、(メタ)アクリル系樹脂のTgは、100~150℃であることがより好ましい。
【0065】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012またはASTM D 3418-82に準拠して測定することができる。
【0066】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、モノマー組成によって調整することができる。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めるためには、例えば環構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量を多くすることが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、40万~300万であることが好ましい。メタクリル系樹脂の重量平均分子量が上記範囲であると、フィルムに十分な機械的強度(靱性)を付与しつつ、製膜性や乾燥性も損なわれにくい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、上記観点から、50万~200万であることがより好ましい。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。具体的には、東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定することができる。測定条件は、後述する実施例と同様としうる。
【0069】
(極性基を有するシクロオレフィン系樹脂)
極性基を有するシクロオレフィン系樹脂は、特に制限されないが、極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーに由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
【0070】
極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーは、式(A-1)または(A-2)で表されるモノマーであることが好ましく、樹脂が有する極性基をフィルム表面に局在化させやすくする観点では、式(A-2)で表されるモノマーであることがより好ましい。
【0071】
【化1】
【0072】
式(A-1)中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、または極性基を表す。ただし、R~Rの少なくとも一つは極性基である。また、RおよびRが水素原子であり、かつRおよびRが水素原子以外の基である場合を除く。
【0073】
極性基は、酸素原子、硫黄原子および窒素原子などの電気陰性度の高い原子によって分極が生じている官能基をいう。そのような極性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、およびこれらの基がアルキレン基などの連結基を介して結合した基などが含まれる。中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基が好ましく、溶液製膜時の溶解性を確保する観点では、アルコキシカルボニル基およびアリールオキシカルボニル基がより好ましい。
【0074】
pは、0~2の整数を表す。
【0075】
【化2】
【0076】
式(A-2)中、Rは、水素原子、炭素原子数1~5の炭化水素基、または炭素原子数1~5のアルキル基を有するアルキルシリル基を表す。中でも、炭素原子数1~3の炭化水素基が好ましい。
【0077】
は、極性基を示す。極性基の例には、前述と同様のものが含まれる。中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、またはシアノ基が好ましく、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基およびアリールオキシカルボニル基がより好ましく、溶液製膜時の溶解性を確保する観点では、アルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基がさらに好ましい。
【0078】
pは、0~2の整数を表す。
【0079】
式(A-1)または(A-2)で表されるモノマーの例には、以下のものが含まれる。
【化3】
【0080】
極性基を有するシクロオレフィン系樹脂は、必要に応じて上記極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーと共重合可能な共重合モノマー(以下、「共重合モノマー」という)に由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0081】
共重合モノマーの例には、極性基を有しないノルボルネン骨格含有モノマー;開環共重合可能な共重合モノマー;および付加共重合可能な共重合モノマーが含まれる。
【0082】
開環共重合可能な共重合モノマーの例には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどの、ノルボルネン骨格を有しないシクロオレフィンが含まれる。
【0083】
付加共重合可能な共重合モノマーの例には、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体、(メタ)アクリル酸エステルが含まれる。不飽和二重結合含有化合物の例には、炭素原子数2~12(好ましくは2~8)のオレフィン系化合物であり、その例には、エチレン、プロピレン、ブテンが含まれる。ビニル系環状炭化水素単量体の例には、4-ビニルシクロペンテン、2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの炭素原子数1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0084】
中でも、極性基を有するシクロオレフィン系樹脂は、式(A-1)または(A-2)で表されるモノマーの単独重合体または共重合体であることが好ましく、例えば以下のものが挙げられる。
(1)極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーの開環重合体
(2)極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーと共重合性単量体との開環共重合体
(3)上記(1)または(2)の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体
(4)上記(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデル・クラフツ反応により環化した後、水素添加した(共)重合体
(5)極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーと不飽和二重結合含有化合物との飽和重合体
(6)極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーの付加型(共)重合体及びその水素添加(共)重合体
(7)極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーとメタクリレート、又はアクリレートとの交互共重合体
【0085】
中でも、(1)~(3)が好ましく、(3)がより好ましい。すなわち、シクロオレフィン系樹脂は、式(B-1)で表される構造単位または式(B-2)で表される構造単位を含む重合体であることが好ましい。式(B-1)で表される構造単位は、前述の式(A-1)で表されるモノマーに由来し;式(B-2)で表される構造単位は、前述の式(A-2)で表されるモノマーに由来する。このようなシクロオレフィン系樹脂は、式(B-2)で表される構造単位を含む重合体、または式(B-1)で表される構造単位と式(B-2)で表される構造単位の両方を含む重合体であることが好ましい。シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度が高く、かつ透明性の高い優れたものとなるからである。
【0086】
【化4】
【0087】
式(B-1)中のXは、-CH=CH-または-CHCH-を表す。式(B-1)中のR~Rおよびpは、式(A-1)中のR~Rおよびpとそれぞれ同義である。
【0088】
【化5】
【0089】
式(B-2)中のXは、-CH=CH-または-CHCH-を表す。式(B-2)中のR、Rおよびpは、式(A-2)中のR、Rおよびpとそれぞれ同義である。
【0090】
極性基を有するノルボルネン骨格含有モノマーに由来する構造単位の含有量(好ましくは式(B-1)で表される構造単位と式(B-2)で表される構造単位の総量)は、シクロオレフィン系樹脂を構成する全構造単位に対して50~100質量%としうる。
【0091】
極性基を有するシクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、2万~30万であることが好ましい。極性基を有するシクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であると、フィルムに十分な機械的強度を付与しつつ、製膜性が損なわれにくい。極性基を有するシクロオレフィン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、上記観点から、4万~20万であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0092】
極性基を有するシクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常110℃以上であり、110~350℃であることが好ましく、120~250℃であることがより好ましく、120~220℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であると、高温条件下での使用や、コーティング、印刷などの二次加工による変形が抑制されるため好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であると、成形加工や成形加工時の熱による樹脂劣化が抑制されるため好ましい。
【0093】
中でも、吸湿性が低いことなどから、(メタ)アクリル系樹脂または極性基を有するシクロオレフィン系樹脂が好ましい。
【0094】
(他の成分)
光学フィルムの原料は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、弾性体粒子、マット剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが含まれる。特に、マトリクス樹脂が(メタ)アクリル樹脂である場合、得られるフィルムに可撓性を付与するために、光学フィルムの原料は、弾性体粒子をさらに含むことが好ましい。弾性体粒子の例には、ゴム粒子および熱可塑性エラストマー粒子が含まれる。
【0095】
《ゴム粒子》
ゴム粒子は、ゴム状重合体(架橋重合体)を含むグラフト共重合体である。
【0096】
ゴム状重合体の例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、メタクリル系樹脂との屈折率差が小さく、光学フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0097】
すなわち、ゴム粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むアクリル系グラフト共重合体であることが好ましい。アクリル系ゴム状重合体(a)を含むアクリル系グラフト共重合体は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型の粒子であってもよい。コアシェル型の粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)の存在下で、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマー混合物(b)を少なくとも1段以上重合して得られる多段重合体である。重合は、乳化重合法で行うことができる。
【0098】
アクリル系ゴム状重合体(a)について:
アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする架橋重合体である。
【0099】
アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルと、それと共重合可能な任意のモノマーとを含むモノマー混合物(a’)、および、1分子あたり2以上の非共役な反応性二重結合(ラジカル重合性基)を有する多官能性モノマーを重合させて得られる架橋重合体である。アクリル系ゴム状重合体(a)は、これらのモノマーを全部混合して重合させて得てもよいし、モノマー組成を変化させて2回以上で重合させて得てもよい。
【0100】
アクリル酸エステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどのアルキル基の炭素数1~12のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。ゴム粒子のガラス転移温度を-15℃以下にする観点では、アクリル酸エステルは、少なくとも、炭素数4~10のアクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
【0101】
アクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(a’)100質量%に対して50~100質量%であることが好ましく、60~99質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステルの含有量が50重量%以上であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。
【0102】
共重合可能なモノマーの例には、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類などが含まれる。
【0103】
多官能性モノマーの例には、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトロメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0104】
多官能性モノマーの含有量は、モノマー混合物(a’)の合計100質量%に対して0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。多官能性モノマーの含有量が0.05質量%以上であると、得られるアクリル系ゴム状重合体(a)の架橋度を高めやすいため、得られるフィルムの硬度、剛性が損なわれすぎず、10質量%以下であると、フィルムの靱性が損なわれにくい。
【0105】
モノマー混合物(b)について:
モノマー混合物(b)の重合体は、アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分である。モノマー混合物(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分として含む。
【0106】
メタクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルなどのアルキル基の炭素数1~12のメタクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。メタクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0107】
メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して50質量%以上であることが好ましい。メタクリル酸エステルの含有量が50質量%以上であると、得られるフィルムの硬度、剛性を低下させにくくしうる。また、メチレンクロライドなどの溶媒との親和性を高める観点では、メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0108】
モノマー混合物(b)は、必要に応じて他のモノマーをさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのアクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系モノマー類(環構造含有(メタ)アクリル系モノマー)が含まれる。
【0109】
アクリル系グラフト共重合体について:
アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト率(アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分の質量比)は、10~250%であることが好ましく、25~200%であることがより好ましく、40~200%であることがより好ましく、60~150%であることがさらに好ましい。グラフト率が10%以上であると、シェル部の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの硬度や剛性が損なわれにくい。アクリル系グラフト共重合体のグラフト率が250%以下であると、アクリル系ゴム状重合体(a)の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの靱性や脆性改善効果が損なわれにくい。
【0110】
アクリル系グラフト共重合体のグラフト率は、以下の方法で測定される。
1)アクリル系グラフト共重合体2gを、メチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。
2)得られた不溶分の重量を下記式に当てはめて、グラフト率を算出する。
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)-(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)}/(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)]×100
【0111】
《熱可塑性エラストマー粒子》
熱可塑性エラストマー粒子を構成する熱可塑性エラストマーの例には、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーン系エラストマーが含まれる。
【0112】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーは、スチレンと、ブタジエンもしくはイソプレンなどの共役および/またはその水素添加物ジエンとの共重合体でありうる。スチレン系エラストマーは、スチレンをハードセグメント、共役ジエンをソフトセグメントとするブロック共重合体であり、加硫工程が不用であり、好ましく用いられる。また、水素添加をしたものは熱安定性が高く、より好ましく用いられる。
【0113】
スチレン系エラストマーの例には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を挙げることができる。中でも、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体またはスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体であることが好ましい。
【0114】
スチレン系エラストマーを構成する成分としては、スチレンのほかに、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレンなどのスチレン誘導体をさらに用いることができる。
【0115】
スチレン系エラストマーの市販品の例には、タフプレン、ソルプレンT、アサプレンT、タフテック(以上、旭化成ケミカル株式会社製)、エラストマーAR(アロン化成株式会社製)、クレイトンD、クレイトンG、カリフレックス(以上、クレイトンポリマージャパン株式会社製)、JSR-TR、TSR-SIS、DYNARON(以上、JSR株式会社製)、デンカSTR(デンカ株式会社製)、クインタック(日本ゼオン株式会社製)、TPE-SBシリーズ(住友化学株式会社製)、ラバロン(三菱化学株式会社製)、セプトン、ハイブラ-(以上、株式会社クラレ製)、レオストマー、アクティマ-(以上、リケンテクノス株式会社製)等が挙げられる。
【0116】
スチレン系エラストマーの屈折率は、(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差の絶対値が0.020~0.036となることが好ましい。水素添加されたスチレン系エラストマーを用いる場合、エラストマーのスチレン成分量(スチレン化率)が1質量%以上40質量%未満であると、(メタ)アクリル系樹脂に対して、屈折率差を上記範囲以内に調整しやすい。
【0117】
(オレフィン系エラストマー)
オレフィン系エラストマーは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテンなどの炭素数2~20のα-オレフィンの共重合体である。オレフィン系エラストマーの例には、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)が挙げられ、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエン、イソプレン等の炭素数2~20の非共役ジエンとα-オレフィン共重合体などが挙げられる。また、ブタジエン-アクニロニトリル共重合体にメタクリル酸を共重合したカルボキシ変性NBRが挙げられる。具体的には、エチレン・α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム、プロピレン・α-オレフィン共重合体ゴム、ブテン・α-オレフィン共重合体ゴムが挙げられる。
【0118】
(ウレタン系エラストマー)
ウレタン系エラストマーは、低分子のエチレングリコールとジイソシアネートからなるハードセグメントと、高分子(長鎖)ジオールとジイソシアネートからなるソフトセグメントとを含む。高分子(長鎖)ジオールとして、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリ(1-,4-ブチレンアジペート)、ポリ(エチレン・1,4-ブチレンアジペート)、ポリカプロラクトン、ポリ(1,6-ヘキシレンカーボネート)、ポリ(1,6-ヘキシレン・ネオペンチレンアジペート)等が挙げられる。高分子(長鎖)ジオールの数平均分子量は、500~10,000が好ましい。エチレングリコールの他に、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ビスフェノールA等の短鎖ジオールを用いることができ、短鎖ジオールの数平均分子量は、48~500が好ましい。
【0119】
(ポリエステル系エラストマー)
ポリエステル系エラストマーは、ジカルボン酸またはその誘導体とジオール化合物またはその誘導体とを重縮合して得られる。ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が挙げられる。ジオール化合物の例には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂肪族ジオールおよび脂環式ジオール、ビスフェノールA、ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-メタン、ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-プロパンなどの芳香族環式ジオールが挙げられる。
【0120】
また、芳香族ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート)のハードセグメントと、脂肪族ポリエステル(例えば、ポリテトラメチレングリコール)のソフトセグメントとを有するマルチブロック共重合体を用いることもできる。
【0121】
(ポリアミド系エラストマー)
ポリアミド系エラストマーは、ポリアミドのハードセグメントと、ポリエーテルのソフトセグメントとを有するポリエーテルブロックアミド型と、ポリアミドのハードセグメントと、ポリエステルのソフトセグメントとを有するポリエーテルエステルブロックアミド型の2種類に大別される。ポリアミドとしては、ポリアミド-6、11、12などが用いられ、ポリエーテルとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリテトラメチレングリコールなどが用いられる。
【0122】
(シリコーン系エラストマー)
シリコーン系エラストマーは、オルガノポリシロキサンを主成分とするものであり、その例には、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系が含まれる。
【0123】
これらの熱可塑性エラストマーの中でも、芳香族ビニル系化合物を共重合成分として含むものが好ましく、均一な粒子径を有する観点では、スチレン系エラストマー粒子が特に好ましい。
【0124】
物性について:
弾性体粒子の平均粒子径は、100~400nmであることが好ましく、150~300nmであることがより好ましい。平均粒子径が100nm以上であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすく、400nm以下であると、フィルムの透明性が低下しにくい。
【0125】
弾性体粒子のガラス転移温度(Tg)は、-10℃以下であることが好ましい。弾性体粒子のガラス転移温度(Tg)が-10℃以下であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。弾性体粒子のガラス転移温度(Tg)は、-15℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることがさらに好ましい。弾性体粒子のガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定される。
【0126】
弾性体粒子がゴム粒子である場合、ゴム粒子のガラス転移温度(Tg)は、例えばコア部やシェル部を構成するモノマー組成、コア部とシェル部の質量比(グラフト率)などによって調整することができる。ゴム粒子のガラス転移温度(Tg)を低くするためには、後述するように、例えばコア部のアクリル系ゴム状重合体(a)を構成するモノマー混合物(a’)における、アルキル基の炭素原子数が4以上のアクリル酸エステル/共重合可能なモノマーの合計の質量比を多くする(例えば3以上、好ましくは4以上10以下とする)ことが好ましい。
【0127】
弾性体粒子の含有量は、マトリクス樹脂に対して0~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。弾性体粒子の含有量が2質量%以上であると、得られるフィルムに十分な靱性を付与しやすく、30質量%以下であると、内部ヘイズの増大を抑制しやすい。
【0128】
《マット剤》
光学フィルムの原料は、得られるフィルムに滑り性を付与する観点などから、マット剤として、無機微粒子または弾性体粒子以外の有機微粒子をさらに含んでもよい。
【0129】
無機微粒子を構成する無機材料の例には、二酸化珪素(SiO)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、およびリン酸カルシウムが含まれ、ヘイズの増大を少なくする観点では、好ましくは二酸化ケイ素である。有機微粒子は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは80℃以上の樹脂粒子である。中でも、フィルムの靱性を高めやすい観点から、有機微粒子が好ましい。
【0130】
(溶媒)
光学フィルムの原料の溶解または分散に用いられる溶媒は有機溶媒であり、少なくともマトリクス樹脂を溶解させうる良溶媒を含む。良溶媒の例には、メチレンクロライドなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、メチレンクロライドが好ましい。
【0131】
溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1~4の直鎖または分岐状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1~4の直鎖または分岐状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいことなどからエタノールが好ましい。
【0132】
なお、本発明では、1)返材破砕工程と2)ドープ調製工程との間に、フィルム片をさらに破砕または粉砕する工程を含まないことが好ましい。フィルム片をさらに破砕または粉砕する際の発熱による、フィルム片同士の融着や熱劣化を抑制するためである。
【0133】
3)製膜工程
次いで、得られたドープを、支持体上に流延する。ドープの流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。
【0134】
次いで、支持体上に流延されたドープ中の溶媒を適度に蒸発させた後(乾燥させた後)、支持体から剥離して、膜状物を得る。
【0135】
支持体から剥離する際のドープの残留溶媒量(剥離時の膜状物の残留溶媒量)は、例えば25質量%以上であることが好ましく、30~37質量%であることがより好ましく、30~35質量%であることがさらに好ましい。剥離時の残留溶媒量が25質量%以上であると、剥離後の膜状物から溶媒を一気に揮発させやすい。また、剥離時の残留溶媒量が37質量%以下であると、剥離による膜状物が伸びすぎるのを抑制できる。
【0136】
剥離時のドープの残留溶媒量は、下記式で定義される。以下においても同様である。
ドープの残留溶媒量(質量%)=(ドープの加熱処理前質量-ドープの加熱処理後質量)/ドープの加熱処理後質量×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃15分の加熱処理をいう。
【0137】
剥離時の残留溶媒量は、支持体上でのドープの乾燥温度や乾燥時間、支持体の温度などによって調整することができる。
【0138】
4)他の工程
本発明の光学フィルムの製造方法は、必要に応じて上記1)~3)の工程以外の他の工程をさらに含んでもよい。他の工程の例には、4-1)破砕後により得られるフィルム片を貯蔵および保管する工程(貯蔵・保管工程)や、4-2)得られた膜状物を、必要に応じて延伸しながら乾燥させて、光学フィルムとする工程(乾燥・延伸工程)、4-3)得られた光学フィルムを巻き取る工程(巻き取り工程)が含まれる。
【0139】
4-1)貯蔵・保管工程は、1)返材破砕工程と2)ドープ調製工程との間に行うことが好ましい。4-2)乾燥・延伸工程は、3)製膜工程の後に行うことが好ましい。4-3)巻き取り工程は、4-1)乾燥・延伸工程の後に行うことが好ましい。
【0140】
4-1)貯蔵・保管工程
上記1)返材破砕工程で得られたフィルム片を、一旦、貯蔵タンクなどで貯蔵および保管してもよい。
【0141】
4-2)乾燥・延伸工程
乾燥は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。また、乾燥は、必要に応じて延伸しながら行ってもよい。
【0142】
延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(TD方向)と、それと直交する搬送方向(MD方向)の二軸延伸)してもよい。
【0143】
延伸倍率は、光学フィルムを、例えばIPS用の位相差フィルムとして用いる観点では、1.01~2倍とすることができる。延伸倍率は、(延伸後のフィルムの延伸方向大きさ)/(延伸前のフィルムの延伸方向大きさ)として定義される。なお、二軸延伸を行う場合は、TD方向とMD方向のそれぞれについて、上記延伸倍率とすることが好ましい。
【0144】
なお、光学フィルムの面内遅相軸方向(面内において屈折率が最大となる方向)は、通常、延伸倍率が最大となる方向である。
【0145】
延伸時の乾燥温度(延伸温度)は、マトリクス樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-65)~(Tg+60)℃であることが好ましく、(Tg-50)℃~(Tg+50)℃であることがより好ましく、(Tg-30)~(Tg+50)℃であることがさらに好ましい。延伸温度が(Tg-65)℃以上であると、溶媒を適度に揮発させやすいため、延伸張力を適切な範囲に調整しやすく、(Tg+60)℃以下であると、溶媒が揮発しすぎないため、延伸性が損なわれにくい。マトリクス樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である場合、延伸温度は、例えば90℃以上としうる。
【0146】
延伸温度は、(a)テンター延伸機などのように非接触加熱型で乾燥させる場合は、延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度、(b)熱ローラーなどの接触加熱型で乾燥させる場合は、接触加熱部の温度、あるいは(c)膜状物(被乾燥面)の表面温度のいずれかの温度として測定することができる。中でも、(a)延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0147】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量は、剥離時の膜状物中の残留溶媒量と同程度であることが好ましく、例えば20~30質量%であることが好ましく、25~30質量%であることがより好ましい。
【0148】
膜状物のTD方向(幅方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0149】
残留溶媒量をより低減させる観点から、延伸後に得られた膜状物をさらに乾燥(後乾燥)させることが好ましい。例えば、延伸後に得られた膜状物を、ロールなどで(一定の張力を付与した状態で)搬送しながらさらに乾燥させることが好ましい。
【0150】
このときの乾燥温度(延伸しない場合の乾燥温度または延伸後の乾燥温度)は、マトリクス樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-30)~(Tg+30)℃であることが好ましく、(Tg-20)~Tg℃であることがより好ましい。乾燥温度が(Tg-30)℃以上、好ましくは(Tg-20)℃以上であると、延伸後の膜状物から溶媒の揮発速度を高めやすいため、乾燥効率を高めやすい。乾燥温度が(Tg+30)℃以下、好ましくはTg℃以下であると、膜状物が伸びることによるトタン状の変形などを高度に抑制しうる。乾燥温度は、前述と同様に、(a)延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度を測定することが好ましい。
【0151】
4-3)巻き取り工程
そして、得られた光学フィルムを、巻き取り機を用いて、フィルムの長さ方向(幅方向に対して垂直な方向)に巻き取る。それにより、巻き芯の周りにロール状に巻き取られた光学フィルム、すなわち、光学フィルムのロール体を得ることができる。
【0152】
巻き取り方法は、特に制限されず、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法などでありうる。
【0153】
光学フィルムを巻き取る際の、巻き取り張力は、50~170N程度としうる。巻き取り長さは、特に制限されず、3000m以上、好ましくは3500~8000mでありうる。
【0154】
上記1)~4)の工程のうち、例えば4-2)乾燥・延伸工程と4-3)巻き取り工程との間で、得られた光学フィルムは、所定の幅に調整する観点などから、必要に応じて幅方向の両端部を切り落とされることがある。また、4-3)巻き取り工程では、巻き不良などを生じると、製品としての基準を満たさない不良品を生じることがある。このように、光学フィルムの製造途中で切り落とされた光学フィルムの端材や、製品にはならない不良品などは、前述の返材として再利用することができる。
【0155】
このようにして得られる光学フィルムは、液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置における光学部材として用いられる。光学部材の例には、偏光板保護フィルム(位相差フィルムや輝度向上フィルムなどを含む)、透明基板、光拡散フィルムが含まれる。中でも、本発明の光学フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いられることが好ましい。
【0156】
2.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、上記光学フィルムの製造方法によって得られるものである。すなわち、光学フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂と弾性体粒子とを含むか、または極性基を有するシクロレフィン系樹脂を含む。これらの光学フィルムは、必要に応じて前述したような他の成分をさらに含んでもよい。
【0157】
(残留溶媒)
光学フィルムは、後述するように溶液製膜法により製造されることから、溶液製膜法で用いられるドープの溶媒に由来する残留溶媒を含んでいてもよい。
【0158】
残留溶媒量は、光学フィルムに対して700ppm以下であることが好ましく、30~700ppmであることがより好ましい。残留溶媒の含有量は、後述する光学フィルムの製造工程における、支持体上に流延させたドープの乾燥条件によって調整されうる。
【0159】
光学フィルムの残留溶媒量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定することができる。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法では、試料を容器に封入し、加熱し、容器中に揮発成分が充満した状態で速やかに容器中のガスをガスクロマトグラフに注入し、質量分析を行って化合物の同定を行いながら揮発成分を定量するものである。ヘッドスペース法では、ガスクロマトグラフにより、揮発成分の全ピークを観測することを可能にするとともに、電磁気的相互作用を利用した分析法を用いることによって、高精度で揮発性物質やモノマーなどの定量も併せて行うことができる。
【0160】
(YI)
光学フィルムのイエローインデックス(YI)は、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。光学フィルムのYIが上記範囲内であると、フィルムの製造工程でのフィルム片の熱劣化に起因する着色が少なく、光学フィルムとして好適である。
【0161】
イエローインデックス(YI)は、JIS K-7105-6.3に記載の方法で測定することができる。具体的には、(株)日立ハイテクノロジー製の分光光度計U-3200と附属の彩度計算プログラムを用いて、色の三刺激値X、Y、Zを測定する。得られた測定値を、下記式に当てはめて、イエローインデックス値を算出する。
イエローインデックス(YI)=100(1.28X-1.06Z)/Y
【0162】
光学フィルムのYIは、光学フィルムの製造工程における破砕条件によって調整することができる。光学フィルムのYIを低くするためには、破砕時の負荷を少なくしたり、除熱(冷却)したりして発熱を少なくすること、例えば嵩密度が上記範囲内となるような条件で破砕することが好ましい。
【0163】
(内部ヘイズ)
光学フィルムは、透明性が高いことが好ましい。光学フィルムのヘイズは、0.05%以下であることが好ましく、0.03%以下であることがより好ましい。内部ヘイズは、試料40mm×80mmを25℃、60%RHでヘイズメーター(HGM-2DP、スガ試験機)で、JISK-6714に従って測定することができる。
【0164】
(位相差RoおよびRt)
光学フィルムは、例えばIPSモード用の位相差フィルムとして用いる観点では、測定波長550nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。光学フィルムの厚み方向の位相差Rtは、-20~20nmであることが好ましく、-10~10nmであることがより好ましい。
【0165】
RoおよびRtは、それぞれ下記式で定義される。
式(2a):Ro=(nx-ny)×d
式(2b):Rt=((nx+ny)/2-nz)×d
(式中、
nxは、フィルムの面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、フィルムの面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表し、
dは、フィルムの厚み(nm)を表す。)
【0166】
光学フィルムの面内遅相軸とは、フィルム面において屈折率が最大となる軸をいう。光学フィルムの面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。
【0167】
RoおよびRtは、以下の方法で測定することができる。
1)光学フィルムを23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。このフィルムの平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルムの、測定波長550nmにおけるリターデーションRoおよびRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0168】
光学フィルムの位相差RoおよびRtは、例えばマトリクス樹脂の種類や延伸条件によって調整することができる。光学フィルムの位相差RoおよびRtを低くするためには、例えば延伸によって位相差が出にくいマトリクス樹脂を選択する(例えば負の複屈折を有するモノマー由来の構造単位と、正の複屈折を有するモノマー由来の構造単位とで位相差を相殺できるようなモノマー比率を有する樹脂を選択する)ことが好ましい。
【0169】
(厚み)
光学フィルムの厚みは、例えば5~100μm、好ましくは5~40μmとしうる。
【0170】
3.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明の光学フィルムと、それらの間に配置された接着層とを有する。
【0171】
3-1.偏光子
偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0172】
ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよいし;ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の吸収軸は、通常、最大延伸方向と平行である。
【0173】
例えば、特開2003-248123号公報、特開2003-342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1~4モル%、重合度2000~4000、けん化度99.0~99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールが用いられる。
【0174】
偏光子の厚みは、5~30μmであることが好ましく、偏光板を薄型化するため等から、5~20μmであることがより好ましい。
【0175】
3-2.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、偏光子の少なくとも一方の面(少なくとも液晶セルと対向する面)に配置されている。光学フィルムは、偏光板保護フィルムとして機能しうる。
【0176】
本発明の光学フィルムが偏光子の一方の面のみに配置されている場合、偏光子の他方の面には、他の光学フィルムが配置されうる。他の光学フィルムの例には、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY-HA、KC2UA、KC4UA、KC6UA、KC8UA、KC2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタ(株)製、フジタックT40UZ、フジタックT60UZ、フジタックT80UZ、フジタックTD80UL、フジタックTD60UL、フジタックTD40UL、フジタックR02、フジタックR06、以上富士フィルム(株)製)などが含まれる。
【0177】
他の光学フィルムの厚みは、例えば5~100μm、好ましくは40~80μmでありうる。
【0178】
3-3.接着層
接着層は、光学フィルム(または他の光学フィルム)と偏光子との間に配置されている。接着層の厚みは、例えば0.01~10μm、好ましくは0.03~5μm程度でありうる。
【0179】
3-4.偏光板の製造方法
本発明の偏光板は、偏光子と本発明の光学フィルムを、接着剤を介して貼り合わせて得ることができる。接着剤は、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)、または活性エネルギー線硬化性接着剤でありうる。活性エネルギー線硬化性接着剤は、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、またはそれらの併用物のいずれであってもよい。
【0180】
4.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルの一方の面に配置された第1偏光板と、液晶セルの他方の面に配置された第2偏光板とを含む。
【0181】
液晶セルの表示モードは、例えばSTN(Super-Twisted Nematic)、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensated Bend)、HAN(Hybridaligned Nematic)、VA(Vertical Alignment、MVA(Multi-domain Vertical Alignment)、PVA(Patterned Vertical Alignment))、IPS(In-Plane-Switching)などでありうる。中でも、VA(MVA,PVA)モードおよびIPSモードが好ましい。
【0182】
第1および第2偏光板のうち一方または両方が、本発明の偏光板である。本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムが液晶セル側となるように配置されることが好ましい。
【実施例
【0183】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0184】
1.光学フィルムおよび返材の材料
(1)マトリクス樹脂
樹脂A:メタクリル酸メチル(MMA)/N-フェニルマレイミド(PMI)共重合体(MMA/PMI=85/15(質量比)、ガラス転移温度(Tg):125℃、重量平均分子量Mw:150万)
樹脂B:JSR社製G7810(式(B-2)で表される構造単位を含むシクロオレフィン樹脂、屈折率1.51、重量平均分子量14万、ガラス転移温度170℃)
【0185】
樹脂AおよびBのガラス転移温度(Tg)および重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定した。
【0186】
(ガラス転移温度(Tg))
樹脂のガラス転移温度は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定した。
【0187】
(重量平均分子量(Mw))
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定した。試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0.45mmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム(温度40℃)に100ml注入し、検出器RI温度40℃で測定し、スチレン換算した値を用いた。
【0188】
(2)弾性体粒子
ゴム粒子R1:下記方法で調製したゴム粒子を用いた。
(調製例)
下記成分を、ガラス製反応器に仕込んだ。
イオン交換水:125質量部
ホウ酸:0.47質量部
炭酸ナトリウム:0.05質量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸:0.0042質量部
【0189】
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、メタクリル酸メチル(MMA)97質量部、アクリル酸ブチル(BA)3質量部、メタクリル酸アリル(ALMA)0.17質量部、およびターシャリドデシルメルカプタン(tDM)0.065質量部からなるモノマー混合物(c1)の25質量%を重合機に一括で追加した。これに、5%ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ-ト0.00645質量部、エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム0.0056質量部、硫酸第一鉄0.0014質量部を追加し、その15分後にt-ブチルハイドロパーオキサイド0.022質量部を追加し、さらに15分間重合を継続させた。その後、2%の水酸化ナトリウム水溶液を0.013質量部追加した。
次いで、上記モノマー混合物(c1)の残り75質量%を30分かけて連続的に添加した。添加終了30分後に、69%のt-ブチルハイドロパーオキサイド0.0069質量部を追加し、同温度で30分保持し、重合を完結させた。重合転化率は、98%であった。
【0190】
得られた重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、水酸化ナトリウム0.0346質量部、過硫酸カリウム0.0519質量部を添加した。その後、モノマー混合物(a1)32.5質量部(BA:82質量%、MMA:18質量%)およびAIMA0.97質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.3質量部からなる混合物を、74分にわたって連続添加した。その後、重合を完結させるために45分保持した。得られたゴム状重合体の平均粒子径は260nmであり、重合転化率は99%であった。
【0191】
得られたゴム状重合体を80℃に保ち、過硫酸カリウム0.0097質量部、水酸化ナトリウム0.05質量部添加した後、モノマー混合物(b1)50質量部(MMA:90質量%、BA:10質量%)を150分にわたって連続添加した。添加終了後、1時間保持した。
【0192】
得られたゴム状重合体を含むグラフト共重合体を、硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のゴム状重合体を含むグラフト共重合体(ゴム粒子R1)を得た。得られたゴム粒子R1のガラス転移温度(Tg)は-30℃であり、平均粒子径は380nmであり、グラフト率は、約149%であり、重合転化率は99%であった。
【0193】
熱可塑性エラストマー粒子E1:JSR(株)製TR2827(スチレン/ブタジエン=24/76質量比)
【0194】
(平均粒子径)
得られた分散液中のゴム粒子R1または熱可塑性エラストマー粒子E1の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定した。なお、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)用いて測定されるこれらの粒子の平均粒子径は、光学フィルムをTEM観察して測定されるこれらの粒子の平均粒子径とほぼ一致するものである。
【0195】
2.返材を利用した光学フィルムの作製および評価
[実施例1]
2-1.返材の準備
(ゴム粒子分散液の調製)
11.3質量部のゴム粒子R1と、200質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、ゴム粒子分散液を得た。
【0196】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライド、およびエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、(メタ)アクリル系樹脂Aを撹拌しながら投入した。次いで、上記調製したゴム粒子分散液を投入して、これを撹拌しながら、完全に溶解させた。得られた溶液の粘度は、16000mmPa・sであり、含水率は0.50%であった。これを、(株)ロキテクノ製のSHP150を使用して、濾過流量300L/m・h、濾圧1.0×10Paにて濾過し、ドープを得た。
(メタ)アクリル樹脂A:100質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:35質量部
ゴム粒子分散液:200質量部
【0197】
(製膜および返材化)
無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1900mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。ステンレスベルトの搬送速度は20m/minとした。
【0198】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶媒量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た(剥離時の膜状物の残留溶媒量は30質量%)。剥離したフィルムを多数のローラーで搬送させながら、得られた膜状物を、テンターにて、(Tg+15)℃(本例では140℃)の条件で幅方向に30%延伸した。延伸開始時の膜状物の残留溶媒量は10質量%であった。その後、ロールで搬送しながら、(Tg-20)℃でさらに乾燥させて、膜厚20μmの返材用フィルムを得た。得られた返材用フィルムをレーザーカッターでスリットして、返材を得た。
【0199】
2-2.返材の破砕
得られた返材を、図2に示されるような破砕機を用いて破砕し、嵩密度0.3g/cmのフィルム片を得た。破砕機による破砕は、表1に示される条件で行った。なお、側方側からの送風は、図2に示されるように、回転刃130Bの回転軸の軸方向と直交する断面において、冷却用ガスの供給方向Cの、返材の供給方向Fに対する交差角が90°となるように行った。また、送風口160の位置は、返材の供給方向Fにおいて、回転刃130Bの回転軸と同じ高さとした。冷却用ガス(エア)の温度は20℃、流量は15Nm/時とした。また、得られたフィルム片の嵩密度は、JISZ 8807に準拠して測定した。
【0200】
2-3.返材を含むドープの調製
得られたフィルム片を、ドープを調製するための加圧溶解タンクに添加した。フィルム片の添加は、溶媒に添加される原料(フィルム片と純材料の合計)に対して50質量%となるように行った。そして、以下の成分を混合および撹拌して、返材含有ドープを調製した。
(メタ)アクリル樹脂A:50質量部
フィルム片:55質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:35質量部
ゴム粒子分散液:100質量部
【0201】
2-4.製膜
得られたドープを用いた以外は上記2-1の(製膜)と同様にして、幅方向の長さ2.3m、長さ7000m、膜厚20μmの光学フィルムを得た。
【0202】
[実施例2~6および10、比較例1~4]
上記2-2における返材の破砕条件を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして、膜厚20μmの光学フィルムを得た。なお、下流側からの送風(冷却用ガスの供給)は、図1に示されるように、冷却用ガスの供給方向Cが返材の供給方向Fに対して向流(対向する方向)となり、かつ交差角が30°となるように行った。
【0203】
[実施例7~9]
原材料を表1に示されるように変更した以外は実施例2と同様にして、膜厚20μmの光学フィルムを得た。
【0204】
2-5.評価
実施例1~10および比較例1~4で得られた光学フィルムの異物故障およびイエローインデックス(YI)を、以下の方法で評価した。
【0205】
(異物故障)
得られたフィルムの表面を、光学顕微鏡(50倍)で観察して、100cm当たりに、直径0.02mm以上のゲル状の異物がどれくらいあるかをカウントした。ゲル状の異物の数が少ないほど、返材の未溶解物が少ないことを意味している。
◎:ゲル状の異物の数が0~3個
○:ゲル状の異物の数が4~10個
△:ゲル状の異物の数が11~25個
×:ゲル状の異物の数が26個以上
△以上であれば、良好と判断した。
【0206】
また、上記ゲル状の異物は、アルミパンに、細かく粉砕した光学フィルムを10mg入れて、TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いてN2フロー下、260℃で60分間加熱した。光学フィルムが入った加熱後のアルミパンごと、10mlのメスフラスコに入れ、これをTHF(テトラヒドロフラン)で10mlとなるまでメスアップした。そして、23℃で24時間保存後に、アルミパン内の光学フィルムの溶解状態を目視観察した結果、溶け残り(ゲル)として観察されるものであった。
【0207】
(イエローインデックス(YI))
イエローインデックス(YI)は、JIS K-7105-6.3に記載の方法で測定した。具体的には、(株)日立ハイテクノロジー製の分光光度計U-3200と附属の彩度計算プログラムを用いて、色の三刺激値X、Y、Zを測定した。得られた測定値を、下記式に当てはめて、イエローインデックス値を算出した。
イエローインデックス(YI)=100(1.28X-1.06Z)/Y
◎:YIが1.2以下
○:YIが1.2超1.5以下
△:YIが1.5超2.0以下
×:YIが2.0超
△以上であれば、着色が少なく、良好と判断した。
【0208】
実施例1~10および比較例1~4で得られた光学フィルムの製造条件および評価結果を、表1に示す。
【0209】
【表1】
【0210】
表1に示されるように、嵩密度が所定の範囲内となるような条件で破砕したフィルム片を用いて得られた実施例1~10の光学フィルムは、いずれも異物が少なく、着色も少ないことがわかった。
【0211】
特に、嵩密度が0.34g/m以下となるような条件で破砕したフィルム片を用いることで、得られる光学フィルムの異物や着色をより少なくしうることがわかる(実施例1~3と4~5との対比)。これは、破砕処理の負荷がより小さくなったことで、破砕時の発熱によるフィルム片の融着や熱劣化を抑制できたためと考えられる。
【0212】
また、送風(冷却用ガスの供給)を破砕室の下流側から行うことで、側方側から行うよりも、得られるフィルム片の嵩密度がより低くなることがわかる。そして、得られる光学フィルムの異物もより少なくなることがわかる(実施例1と2の対比)。これは、送風を破砕室の下流側から行うことで、冷却用ガスの滞留時間を長くできるだけでなく、熱交換効率も高くなるため、破砕室内を効率的に冷却することができ、フィルム片の融着をより抑制できるためと考えられる。
【0213】
これに対して、嵩密度が0.4g/mを超えるような条件で破砕したフィルム片を用いた比較例1の光学フィルムは、いずれも異物が多いことがわかる。これは、フィルム片の大きさ(平均粒子径)が小さくなりすぎるほど、破砕時の負荷が大きくなりすぎたため、フィルム片が破砕時の発熱で融着し、ドープ調製時に、溶媒に溶けない未溶解物が増えたためと考えられる。また、比較例1の光学フィルムは、着色も生じることがわかる。これは、破砕時の発熱により、フィルム片が熱劣化したためと考えられる。
【0214】
一方、嵩密度が0.02g/m未満となるような条件で破砕したフィルム片を用いた比較例2および3の光学フィルムも、異物が多いことがわかる。これは、フィルム片の大きさ(平均粒子径)が大きすぎて、溶媒に溶けにくくなっただけでなく、大きいフィルム片同士が凝集して溶解不良が生じたためと考えられる。
【0215】
なお、比較例2で得られたフィルム片の嵩密度が実施例10で得られるフィルム片の嵩密度よりも低い理由は、回転数が低いと、融着を生じるほどの発熱は生じにくいことから、(送風がないことに起因して)フィルム片の滞留時間が短くなり、フィルム片のサイズが大きくなったことによる影響が大きいためと考えられる。一方、比較例4で得られるフィルム片の嵩密度が実施例2で得られるフィルム片の嵩密度よりも高い理由は、回転数が高いと、融着を生じるほどの発熱が生じやすいことから、(送風がないことに起因して)滞留時間が短くなる影響よりも、発熱による融着の影響のほうが大きくなったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0216】
本発明によれば、返材を利用した光学フィルムの製造方法において、返材の未溶解物を低減し、それに起因するフィルムの異物故障が抑制された光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0217】
100 破砕機
110 破砕室
120 供給口
130 破砕機構
130A 固定刃
130B 回転刃
140 排出口
150 スクリーン
160 送風口
210 ホッパー
220 供給管
230 排出管
F 返材の供給方向
C 冷却用ガスの供給方向(送風方向)
図1
図2
図3