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  • 特許-リチウムイオン電池セルの解体方法 図1
  • 特許-リチウムイオン電池セルの解体方法 図2
  • 特許-リチウムイオン電池セルの解体方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池セルの解体方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20220809BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M10/54
B09B5/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019101084
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020194749
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂樹
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-97076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0013181(US,A1)
【文献】特開2011-154833(JP,A)
【文献】国際公開第2009/145015(WO,A1)
【文献】特開2014-127417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板がセパレータを介して積層されて積層電極を形成し、該積層電極がラミネートフィルムの外装で封止されたリチウムイオン電池セルの解体方法において、
ラミネートフィルムを切開する切開工程と、
積層電極を磁着してラミネートフィルムから分離する第一磁力選別工程と、
積層電極を水没させ、該積層電極と水との間に相対動を与えて該積層電極の正極板と負極板とを剥離状態とする電極板剥離工程と、
正極板と負極板とが剥離状態にある積層電極を磁着して、磁着物たる正極板を、非磁着物たる負極板及び残留物から分離して取り出す第二磁力選別工程とを有することを特徴とするリチウムイオン電池セルの解体方法。
【請求項2】
電極板剥離工程は、水流により積層電極と水との間に相対動を与えることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池セルの解体方法。
【請求項3】
電極板剥離工程は、水、積層電極の少なくとも一方に超音波振動を印加して積層電極と水との間に相対動を与えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン電池セルの解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池セルの解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンや電気自動車用の電池として、ラミネート型のリチウムイオン電池が広く利用されている。このラミネート型のリチウムイオン電池は、正極板と負極板がセパレータを介して積層することで形成される積層電極が電解液とともにラミネートフィルムで外装されたリチウムイオン電池セルとして構成されている。リチウムイオン電池セルは、複数接続されてモジュールを形成し、モジュールが複数接続されてパックを形成することがあるが、ここでのリチウムイオン電池セルとは、電池として機能する最小単位の電池を意味する。
【0003】
正極板は、基材たるアルミ箔にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウムを含む正極活物質を固着して成り、アルミ箔は非磁性であるが表層に固着されたニッケル、コバルト成分が磁性を有しているため、正極板として磁着物となる。一方、負極板は基材としての銅箔に黒鉛などの負極活物質を固着して成り、銅箔は非磁性であり、黒鉛は磁性があるものの反磁性であり、負極板としては磁着物ではない。しかし、正極板と負極板とが物理的に一体となっている積層電極は、正極板が磁性を示すため、磁着物となる。
【0004】
このように形成されるラミネート型のリチウムイオン電池セルは、正極板に固着されているニッケル、コバルト成分が有価金属であるため、使用後廃棄される際に、この有価金属を取り出すことが試みられている。また、その他の構造である円筒型や角型のリチウムイオン電池にも有価金属が含まれるため、同様の試みがなされており、例えば、特許文献1にその手法の一つが開示されている。
【0005】
特許文献1にあっては、リチウムイオン電池(セル)を破砕、解砕して解体する解体工程と、電池解体物をアルコール又は水で洗浄し、電解液及び電解質を除去する洗浄工程と、洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程を経ることで、有価金属であるニッケル、コバルトを含む正極活物質を得て、後に、中和工程でニッケル、コバルトを回収することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-122885
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1では、最初の工程で、リチウムイオン電池の構造形式に係わりなく、解体工程でリチウムイオン電池を破砕、解砕してしまう。すなわち、正極板、負極板、セパレータ等を一緒に破砕、解砕している。したがって、電池解体物は、破砕、解砕されることでさまざまな様態をなし、正極板では、基材となるアルミ箔からコバルト、ニッケルの有価金属を含む正極活物質が脱落したり、アルミ箔に残存したり、負極板では、基材となる銅箔に塗布した黒鉛等の炭素粒子が脱落したりする。かくして、電池解体物は、細粒化されて上記正極活物質と炭素粒子とが混合した状態になる。
【0008】
また、正極活物質と炭素粒子が混合されている電池解体物から、正極活物質を取り出すには、解体工程後に、上述のごとく、洗浄工程と正極活物質剥離工程を必要とし、しかも、電池解体物は破砕、解砕により、細粒物として混合している状態にあるため、上記洗浄工程、正極活物質剥離工程が煩瑣となる。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ラミネート型のリチウムイオン電池セルの正極板、負極板を破砕することなく、きわめて容易かつ効率的に正極板を取り出すことが可能なリチウムイオン電池セルの解体方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るリチウムイオン電池セルは、正極板と負極板とがセパレータを介して積層されて積層電極を形成し、該積層電極がラミネートフィルムの外装で封止されている。
【0011】
かかるリチウムイオン電池セルの解体方法において、本発明では、ラミネートフィルムを切開する切開工程と、積層電極を磁着してラミネートフィルムから分離する第一磁力選別工程と、積層電極を水没させ、該積層電極と水との間に相対動を与えて該積層電極の正極板と負極板とを剥離する電極板剥離工程と、正極板と負極板とが剥離状態にある積層電極を磁着して、磁着物たる正極板を、非磁着物たる負極板及び残留物から分離して取り出す第二磁力選別工程とを有することを特徴としている。ここで、リチウムイオン電池セルの電解液の有機溶媒として六フッ化リン酸リチウムを溶解させた溶液を用いるリチウムイオン電池セルを解体する場合、作業環境保全の観点からラミネートフィルムを切開する切開工程と、積層電極を磁着してラミネートフィルムから分離する第一磁力選別工程はリチウムイオン電池セルを水没させた状態で実施することもできる。
【0012】
このような構成の本発明によると、リチウムイオン電池セルは、切開工程、第一磁力選別工程、電極板剥離工程、第二磁力選別工程を経て解体され、どの工程でも、リチウムイオン電池セルの破砕は行われず、外装のラミネートフィルムを切開してから、正極板と負極板の積層電極を第一磁力選別工程でラミネートフィルムから分離し、電極板剥離工程で、積層電極と水との間に相対動を与えるだけで、正極板と負極板及び残留物とに分離する。したがって、正極板と負極板が破砕されることなく、正極板が取り出される。
【0013】
本発明において、電極板剥離工程は、水流により積層電極と水との間での相対動を与える工程とすることができる。このような水流中に積層電極を配することで、積層電極と水との間での相対動により、水が正極板とセパレータの間、負極板とセパレータとの間に侵入し、正極板、負極板がセパレータから剥離状態となる。
【0014】
本発明において、電極板剥離工程は、水、積層電極の少なくとも一方に超音波振動を印加して積層電極と水との間に相対動を与える工程とすることができる。超音波振動は、積層電極が配された静水または水流に印加することができる。このように積層電極と水との間の相対動が超音波振動であると、正極板とセパレータ、そして負極板とセパレータの剥離が容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン電池セルの解体方法によれば、リチウムイオン電池セルの正極板、負極板を破砕することなく、きわめて容易かつ効率的に正極板を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)はリチウムイオン電池セルの構造を簡単にして示す断面図、(B)はラミネートフィルムを切開して得られる積層電極の断面図である。
図2】本発明の一実施形態としてのリチウムイオン電池セルの解体方法における各工程を示す図である。
図3】積層電極における正極板と負極板をセパレータから剥離するための装置の概要構成図で、(A)は水流を用いる装置、(B)は超音波を用いる装置、(C)は水流と超音波振動を用いる装置である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面にもとづき、本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
図1(A)は、本実施形態で解体しようとするリチウムイオン電池セルの概要構造を示す断面図で、図1(B)はラミネートフィルムを切開して得られる積層電極の断面図である。
【0019】
図1(A)において、リチウムイオン電池セル10は、正極板11と負極板12がセパレータ13を介して積層電極14を形成するように積層されており、外装としてのラミネートフィルム15内に電解液あるいは電解質とともに封入されて一つのセルをなしている。図1(A)の例では、負極板12を中央に配置し、セパレータ13を介して対称な位置に正極板11を配置し積層電極14を形成しているが、正極板11、セパレータ13、負極板12、セパレータ13、正極板11のように、セパレータ13を介して正極板11と負極板12を交互に配置し積層電極14を形成してもよい。
【0020】
図1(A)において、二つの正極板11には、正極集電体11Aが接続され、正極集電体11Aはラミネートフィルム15外に引き出されている。また、中央に位置する負極板12には、負極集電体12Aが接続され、負極集電体12Aはラミネートフィルム15外に引き出されている。正極集電体11A、負極集電体12Aは、リチウムイオン電池セル10を負荷に接続する際には、リチウムイオン電池セル10と負荷との接触要素として用いられ、また、複数のリチウムイオン電池セル10を接続して一つのモジュールを形成する際、さらには複数のモジュールを接続して一つのパックを形成する際には、リチウムイオン電池セル10同士間の接続要素として用いられる。
【0021】
正極板11は、基材たるアルミ箔にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウムを含む正極活物質を固着して形成されている。ここでニッケルやコバルトは有価金属である。かかる正極板11において、アルミ箔は非磁性であるが表層に固着されたニッケル、コバルト成分が磁性を有しているため、正極板11としては磁着物である。かかる正極板11は、外装としてのラミネートフィルム15内に、セパレータ13を介して複数積層されており、複数の正極板11は、リードとしての正極集電体11Aに接続され、正極集電体11Aはラミネートフィルム15外に引き出されている。
【0022】
一方、負極板12は基材としての銅箔に黒鉛などの負極活物質を固着している。銅箔は非磁性であり、黒鉛は磁性があるものの反磁性であるので、負極板12としては磁着物とはならない。しかし、正極板11と負極板12とが物理的に一体となっていて分離しにくい積層電極14の状態では、正極板11が磁性を示すため積層電極14全体として磁着物となる。
【0023】
このように形成されるリチウムイオン電池セル10は、正極板11に固着されているニッケル、コバルト成分が有価金属であることから、電池として所定期間使用後に廃棄される際に、図1(B)に示すように、リチウムイオン電池セル10を解体して、この有価金属を取り出して再利用に供する。
【0024】
次に、本発明にしたがい、上記有価金属たるニッケル、コバルト成分を有する正極板11を、リチウムイオン電池セル10から取り出すためのリチウムイオン電池セル10の解体方法を説明する。
【0025】
なお、リチウムイオン電池セル10は、単体で用いられることも、リチウムイオン電池セル10が複数個接続されたモジュールとして用いられることも、さらには、複数のモジュールを接続したパックとして用いられることもあるが、ここでは、モジュールやパックから分解された状態におけるリチウムイオン電池セルの解体方法について述べることにする。図1(A)及び図2に見られるように、切開工程でリチウムイオン電池セル10をラミネートフィルム15の端部で切断し(図1(A)に示した切断線X)、次に第一磁力選別工程でラミネートフィルム15を積層電極14から分離する(図1(B))。既述のように積層電極14は磁着物、ラミネートフィルム15は非磁着物なので、両者は磁力により容易に分離される。ラミネートフィルム15の切断による切開工程では、正極集電体11Aの一部、負極集電体12Aの一部は、ラミネートフィルム15とともに、積層電極14から分離される。
【0026】
次に、電極板剥離工程で、ラミネートフィルム15が分離除去して得られた積層電極14を、電極板剥離装置にもたらす。電極板剥離装置は、本実施形態では、三つの態様の装置が例示されており、図3(A)では電極板剥離装置20A、図3(B)では電極板剥離装置20B、図3(C)では電極板剥離装置20Cとして示されている。
【0027】
図3(A)に示される電極板剥離装置20Aは、水槽21Aと水槽21A内を一方向に向け走行するコンベア22Aと、水槽21Aに接続された管路23Aと、管路23Aに設けられたポンプ24Aとを有している。
【0028】
水槽21Aは、上方に向け開口され、その内部に水Wが収容されている。ポンプ24Aにより管路23Aを圧送される水は、水槽21A内では、図3(A)の場合、水槽21Aの左端から右端へ向けた水流WOを形成する。なお、ここで使用される水は、産業活動のために供給される水(工業用水)をはじめとして、例えば、焼却炉から排出される排ガスを冷却してほぼ純水に近い純度を有する清浄水や高純度に処理された水(純水、高純水)を使用してもよい。
【0029】
コンベア22Aは、水槽21A内に設けられたガイド(図示せず)により案内され、水槽21Aの右端側から水槽21Aの底部に沿って水槽21Aの左端側へ出て行く走行路を有しており、その走行方向は上記の水流WOと対向している。コンベア22A上の任意点が水槽21A内の水Wの中を走行している時間、すなわちコンベア22Aで搬送される積層電極14の水W内での滞在時間は、後述のように水W内で正極板11と負極板12がセパレータ13から剥離される必要十分な時間長に設定される。これは、実験的に定められる。
【0030】
コンベア22Aにより、水槽21Aへは積層電極14が順次搬入されるが、図3(A)のごとく、水W中に進入すると、積層電極14は搬送方向と逆方向の水流WOと対向する。その結果、積層電極14は、搬送速度と水流WOの速度の和を相対速度として水流WOの動圧を受けることになる。積層電極14は、積層界面、すなわち、正極板11とセパレータ13の界面、負極板12とセパレータ13の界面が水流WOの流れ方向と平行となるように、コンベア22Aに設置されている。したがって、水流WOは積層電極14の正極板11とセパレータ13の界面、負極板12とセパレータ13の界面へ、正極板11、負極板12の端縁から進入し、進入した水流WOの動圧により正極板11及び負極板12がそれぞれセパレータ13から分離可能な剥離状態になる。
【0031】
かくして、正極板11、負極板12、セパレータ13が剥離状態になった積層電極14はコンベア22Aにより水槽21A外に搬出されるとともに、次の積層電極14がコンベア22Aにより水槽21A内に搬入され、上述の要領で剥離状態とされる。正極板11、負極板12、セパレータ13が剥離状態となった積層電極14は、コンベア22Aにより水槽21A外に搬出され、次の第二磁力選別工程にもたらされる。
【0032】
第二磁力選別工程で積層電極14に磁力を作用させると、正極板11、負極板12、セパレータ13は、すでに、上記電極板剥離工程で剥離状態にあるので、上記磁力によって磁着物である正極板11が非磁着物である負極板12、セパレータ13から分離して選別される。かくして、正極板11が取り出され、後工程での処理で、有価金属であるニッケル、コバルトが回収される。
【0033】
なお、第二磁力選別工程で取り出されなかった負極板12、セパレータ13のうち、有価金属として回収されるべきは負極板12中の銅である。第二磁力選別工程で取り出されなかった非磁着物を銅精錬工程で処理することで、有価金属である銅が回収される。
【0034】
次に、本実施形態についての変形例を説明する。図3(A)の電極板剥離装置20Aの例では、コンベア22A上の積層電極14に対し、水槽21A内で積層電極14の搬送方向と対向する水流WOを生じさせて、水流WOが積層電極14との相対動を生じていたが、図3(B)に示される変形例としての電極板剥離装置20Bでは、水槽21Bの底部に超音波振動子25Bが分布して配設されており、コンベア22B上の積層電極14には水流ではなく超音波が水Wを経て印加されている。この超音波が水Wと積層電極14との間に相対動をもたらし、積層電極14における正極板11、負極板12、セパレータ13を剥離状態にさせる。しかる後、積層電極14は、水槽21B外に搬出され、次の第二磁力選別工程にもたらされる。これは、既述の図3(A)の場合の例と同じである。
【0035】
また、図3(C)における電極板剥離装置20Cの例では、図3(A)の場合と同様に、電極板剥離装置20Aへポンプ24Cで水槽21C内に水流WOを生じさせているのに加え、図3(B)の場合と同様に水槽21Cの底壁に配設された超音波振動子25Cにより水Wを経て積層電極14に超音波を印加している。したがって、この図3(C)に示される変形例では、図3(A)の場合の作用効果と図3(B)の場合の作用効果を重畳して得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 リチウムイオン電池セル
11 正極板
12 負極板
13 セパレータ
14 積層電極
15 ラミネートフィルム
図1
図2
図3