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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】コイル部品およびドラム状コア
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20220809BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/29 123
H01F27/29 G
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019178904
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057444
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇平
(72)【発明者】
【氏名】神戸 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】間曽 寛之
(72)【発明者】
【氏名】福田 匡晃
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-017336(JP,A)
【文献】実開昭58-187116(JP,U)
【文献】特開2019-134040(JP,A)
【文献】特開2010-080517(JP,A)
【文献】特開2005-311074(JP,A)
【文献】特開2019-050318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と、長さ方向における前記巻芯部の一端部に設けられた鍔部と、前記長さ方向に垂直な高さ方向における前記鍔部の一端部である実装面に設けられた端子電極と、を備える、ドラム状コアと、
前記巻芯部に巻回され、かつ前記端子電極に端部が接続された、ワイヤと、
を備え、
前記実装面は、前記長さ方向と平行に延びかつ前記高さ方向の最も外側に位置する平坦面を有する平坦領域と、前記平坦領域よりも前記高さ方向の内側に位置する低位領域と、を有し、前記平坦領域と前記低位領域とが、前記ワイヤの端部に沿った方向に並び、
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面には、前記長さ方向と平行に延びかつ前記長さ方向に沿った最大寸法について前記平坦領域よりも長い平坦面が形成されている、
コイル部品。
【請求項2】
前記平坦領域と前記低位領域との前記高さ方向に沿った最大段差は、40μm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面は、前記低位領域に沿わない形状である、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面には、前記平坦領域および前記低位領域を覆う平坦面が形成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項5】
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面には、前記実装面の周縁を除く全域を覆う平坦面が形成されている、請求項1ないし4のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項6】
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面は、錫含有層によって構成される、請求項1ないし5のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項7】
前記端子電極は、前記錫含有層の下地となる下地層を備える、請求項6に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記下地層は、銀およびガラスを含む厚膜焼付層と、その上のニッケル含有層および銅含有層の少なくとも一方とを含む、請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記下地層は、前記実装面に沿った形状である、請求項7または8に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記錫含有層は、前記平坦領域を覆う部分が最も薄い、請求項6ないし9のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項11】
前記ワイヤの端部は、前記平坦領域の延びる方向に長径方向が向くように潰された断面形状を有しており、その一部が前記錫含有層の外表面に露出しながら、前記錫含有層内に埋め込まれた状態となっている、請求項6ないし10のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項12】
前記平坦領域および前記低位領域は、それぞれ、前記ワイヤの端部の延びる方向に対して交差する方向に延びる帯状をなしている、請求項1ないし11のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項13】
前記平坦領域の前記長さ方向の最大寸法は、0.03mm以下である、請求項12に記載のコイル部品。
【請求項14】
前記低位領域は、前記平坦領域の、前記巻芯部とは反対側に位置している、請求項12または13に記載のコイル部品。
【請求項15】
前記低位領域は、前記平坦領域の、前記巻芯部側に位置している、請求項12または13に記載のコイル部品。
【請求項16】
前記低位領域は、前記平坦領域の、前記巻芯部側および前記巻芯部とは反対側の双方に位置している、請求項12または13に記載のコイル部品。
【請求項17】
前記長さ方向の最大寸法について、前記低位領域の寸法は、前記実装面の寸法の半分未満である、請求項14ないし16のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項18】
前記ワイヤの端部には、切断跡が形成され、前記切断跡は、前記平坦領域の、前記巻芯部とは反対側の端縁と前記ワイヤの端部とが交差する位置にある、請求項14ないし17のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項19】
前記低位領域は、前記平坦領域よりも前記高さ方向の内側に位置する平坦面を含む、請求項1ないし18のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項20】
前記低位領域は、勾配面を含む、請求項1ないし19のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項21】
前記低位領域の、前記平坦領域側の端縁、前記平坦領域とは反対側の端縁には、それぞれ、第1アール面、第2アール面が形成されている、請求項1ないし20のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項22】
前記第1アール面の曲率半径と前記第2アール面の曲率半径とが互いに異なる、請求項21に記載のコイル部品。
【請求項23】
前記第1アール面の曲率半径が前記第2アール面の曲率半径よりも大きい、請求項22に記載のコイル部品。
【請求項24】
前記第1アール面の曲率半径と前記第2アール面の曲率半径とが互いに等しい、請求項21に記載のコイル部品。
【請求項25】
ワイヤが巻回されるべき巻芯部と、長さ方向における前記巻芯部の一端部に設けられた鍔部と、前記ワイヤの端部が接続されるべきものであって、前記長さ方向に垂直な高さ方向における前記鍔部の一端部である実装面に設けられた端子電極と、を備え、
前記実装面は、前記長さ方向と平行に延びかつ前記高さ方向の最も外側に位置する平坦面を有する平坦領域と、前記平坦領域よりも前記高さ方向の内側に位置する低位領域と、を有し、前記平坦領域と前記低位領域とが、前記ワイヤの端部に沿った方向に並び、
前記端子電極の前記実装面を覆う外表面は、錫含有層によって構成され、
前記錫含有層の体積は、溶融した当該錫含有層の材料によって、前記端子電極の前記実装面を覆う外表面に、前記長さ方向と平行に延びかつ前記長さ方向に沿った最大寸法について前記平坦領域よりも長い平坦面が形成され得るようにされていて、
前記実装面における前記平坦領域に直交する方向から見たとき、前記低位領域の面積は前記平坦領域の面積以下であり、前記平坦領域と前記低位領域との前記高さ方向に沿った段差は、前記錫含有層の厚みの2倍以下である、
コイル部品用のドラム状コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドラム状コアにワイヤを巻回した構造の巻線型のコイル部品およびそこに備えるドラム状コアに関するもので、特に、ドラム状コアに備える端子電極の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある技術として、たとえば特開2015-50373号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、ワイヤと端子電極とが熱圧着によって接続された構造を有するコイル部品が記載されている。図13は、特許文献1から引用したもので、特許文献1における図8に相当する。図13は、熱圧着工程を説明するためのもので、そこには、コイル部品71に備えるドラム状コア72の一部が図示されている。
【0003】
ドラム状コア72は、ワイヤ73が螺旋状に巻回された巻芯部74を有する。また、巻芯部74の互いに逆の第1および第2の端部には、それぞれ、第1および第2の鍔部が設けられるが、図13には、一方の鍔部75のみが図示されている。鍔部75には、L字状に延びる金属板からなる端子電極76が取り付けられている。端子電極76には、巻芯部74から引き出されたワイヤ73の端部が接続される。
【0004】
上述のワイヤ73の、端子電極76への接続には、ヒーターチップ77を用いた熱圧着が適用される。図13(a)に示すように、ヒーターチップ77は、ワイヤ73を挟んで端子電極76と対向するように配置される。この状態で、図13(b)に示すように、ヒーターチップ77が端子電極76に向かって圧接され、その結果、ワイヤ73の端部が端子電極76に熱圧着される。次いで、図13(c)に示すように、ワイヤ73は、カッター78により切断され、その長さが整えられる。
【0005】
上述の特許文献1に記載の構造では、コイル部品71を実装基板に実装する際、鍔部75における実装基板側に向けられる実装面79は、段差面を形成しており、この段差面に適合するように、端子電極76には、屈曲部80が設けられている。そのため、端子電極76には、屈曲部80を介して、比較的高い高位領域81と比較的低い低位領域82とが形成される。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、ワイヤ73の材料である銅と端子電極76の表面のめっき膜を構成するニッケルおよび錫とが熱圧着工程で合金化する領域を、端子電極76の高位領域81に限定し、低位領域82では、はんだ濡れ性を低下させる合金化が生じないようにしている。
【0007】
より具体的には、図13(b)に示した熱圧着工程では、端子電極76の低位領域82では、ヒーターチップ77からの十分な圧力がワイヤ73に及ぼされず、そのため、ワイヤ73は、実質的に高位領域81においてのみ熱圧着される。その結果、はんだ濡れ性を低下させる合金化は、低位領域82では生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-50373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、端子電極76の低位領域82は高位領域81と比較して実装基板との距離が大きくなることは避けられず、はんだの濡れ広がりを阻害する原因となることがある。
【0010】
また、特許文献1に記載の構造において、コイル部品71を実装基板上へマウントする際の姿勢の安定性は、主に高位領域81が寄与し、低位領域82の寄与は小さい。したがって、低位領域82によって高位領域81の面積が減る分、コイル部品71の実装基板上へのマウント時の姿勢の安定性が阻害され、実装時のコイル部品71の取り扱いに支障をきたすことがある。
【0011】
そこで、この発明の目的は、実装基板への実装時において良好なはんだ濡れ性を実現し得る端子電極を有するコイル部品およびそこに備えるドラム状コアを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、巻芯部と、長さ方向における巻芯部の一端部に設けられた鍔部と、長さ方向に垂直な高さ方向における鍔部の一端部である実装面に設けられた端子電極と、を備える、ドラム状コアと、巻芯部に巻回され、かつ端子電極に端部が接続された、ワイヤと、を備える、コイル部品にまず向けられる。
【0013】
この発明では、上述した技術的課題を解決するため、実装面は、長さ方向と平行に延びかつ高さ方向の最も外側に位置する平坦面を有する平坦領域と、平坦領域よりも高さ方向の内側に位置する低位領域と、を有し、平坦領域と低位領域とが、ワイヤの端部に沿った方向に並んでいる。
【0014】
また、端子電極の実装面を覆う外表面には、長さ方向と平行に延びかつ長さ方向に沿った最大寸法について平坦領域よりも長い平坦面が形成されていることを特徴としている。
【0015】
この発明は、また、上述したコイル部品に備えるドラム状コアにも向けられる。このドラム状コアは、より特定的には、コイル部品を製造するために用意されるもので、ワイヤを巻芯部に巻回する前の段階において取る形態を有している。
【0016】
この発明に係るドラム状コアは、ワイヤが巻回されるべき巻芯部と、長さ方向における巻芯部の一端部に設けられた鍔部と、ワイヤの端部が接続されるべきものであって、上記長さ方向に垂直な高さ方向における鍔部の一端部である実装面に設けられた端子電極と、を備える。
【0017】
上記実装面は、長さ方向と平行に延びかつ高さ方向の最も外側に位置する平坦面を有する平坦領域と、平坦領域よりも高さ方向の内側に位置する低位領域と、を有し、平坦領域と低位領域とが、ワイヤの端部に沿った方向に並んでいる。
【0018】
また、端子電極の実装面を覆う外表面は、錫含有層によって構成される。
【0019】
そした、錫含有層の体積は、溶融した当該錫含有層の材料によって、端子電極の実装面を覆う外表面に、長さ方向と平行に延びかつ長さ方向に沿った最大寸法について平坦領域よりも長い平坦面が形成され得るようにされていて、実装面における平坦領域に直交する方向から見たとき、低位領域の面積は平坦領域の面積以下であり、平坦領域と低位領域との高さの差は、錫含有層の厚みの2倍以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係るコイル部品によれば、ドラム状コアの鍔部における実装基板側に向けられる実装面には、平坦領域と低位領域とがワイヤの端部に沿った方向に並ぶとともに、端子電極の実装面を覆う外表面には、長さ方向と平行に延びかつ長さ方向に沿った最大寸法について平坦領域よりも長い平坦面が形成されているので、実装基板への実装時において良好なはんだ濡れ性を実現することができる。
【0021】
また、この発明に係るドラム状コアによれば、上述したコイル部品において取るドラム状コアの形態を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の第1の実施形態によるコイル部品1の外観を実装面11側から示す斜視図である。
図2図1に示したコイル部品1におけるドラム状コア5に備える第1鍔部3の一部を拡大して示す、図1の線A-Aに沿う断面図である。
図3図2に示した第1鍔部3およびそこに設けられた第1端子電極7を拡大して示す、図1の線A-Aに沿う断面図であり、ワイヤ18の熱圧着工程前の状態を示す。
図4図3に示した第1鍔部3および第1端子電極7に加えて、熱圧着工程前のワイヤ18を拡大して示す、図1の線B-Bに沿う断面図である。
図5図3に対応する図であって、ワイヤ18の熱圧着工程後の状態を示す。
図6図4に対応する図であって、ワイヤ18の熱圧着工程後の状態を示す。
図7】実験により求めたもので、長さ方向Lに測定した、鍔部における平坦領域の寸法と、ワイヤの切断時のバリの発生率と、の関係を示す図である。
図8】この発明の第2の実施形態を示す、図2に対応する図である。
図9】この発明の第3の実施形態を示す、図2に対応する図である。
図10】この発明の第4の実施形態を示す、図2に対応する図である。
図11】この発明の第5の実施形態を示す、図2に対応する図である。
図12】この発明の第6の実施形態を示す、図2に対応する図である。
図13】特許文献1に記載されたコイル部品71に備えるドラム状コア72の一部である一方の鍔部75およびそこに配置された端子電極76を示す正面図であり、ワイヤ73を端子電極76に熱圧着する工程を説明するためのものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1には、この発明の第1の実施形態によるコイル部品1の外観が示されている。図1に示したコイル部品1は、実装時において実装基板側に向けられる面を上方に向けている。
【0024】
図1を参照して、コイル部品1は、巻芯部2ならびに長さ方向Lにおける巻芯部2の両端部に設けられた1対の鍔部、すなわち、第1鍔部3および第2鍔部4を有する、ドラム状コア5を備えている。ドラム状コア5は、たとえばアルミナまたはフェライト等の非導電性材料から構成される。また、ドラム状コア5は、長さ方向Lに垂直な高さ方向Hにおける第1鍔部3および第2鍔部4の一端部である実装面11にそれぞれ設けられた第1端子電極7および第2端子電極8を備えている。ドラム状コア5は、長さ方向Lにおいて、たとえば0.4~4.5mm程度の寸法を有している。
【0025】
図2に、ドラム状コア5に備える第1鍔部3の一部が図1の線A-Aに沿う断面図で示されている。第1鍔部3および第2鍔部4は、互いに対称な形状を有している。したがって、図2に図示された第1鍔部3について詳細に説明し、第2鍔部4については詳細な説明を省略する。
【0026】
図1を参照して、第1鍔部3は、巻芯部2側に向きかつ巻芯部2の端部を位置させる内側端面9と、内側端面9の反対側の外側に向く外側端面10と、内側端面9と外側端面10とを連結するものであって、実装時において実装基板側に向けられる上記実装面11と、実装面11とは逆方向に向く天面12と、を有している。
【0027】
図2を参照して、第1鍔部3の実装面11に注目すると、実装面11は、巻芯部2の長さ方向Lと平行に延びかつ高さ方向Hの最も外側に位置する平坦面を有する平坦領域13と、平坦領域13よりも高さ方向Hの内側に位置する低位領域14と、を有し、これら平坦領域13と低位領域14とが、ワイヤ18の端部18aに沿った方向に並んでいる。この実施形態では、低位領域14は、平坦領域13の、巻芯部2とは反対側に位置している。また、低位領域14は、平坦領域13よりも高さ方向Hの内側に位置する平坦面を含んでいてもよい。
【0028】
また、低位領域14の、平坦領域13側の端縁には、第1アール面15が形成される。また、低位領域14の、平坦領域13とは反対側の端縁には、第2アール面16が形成され、平坦領域13の、巻芯部2側には、第3アール面17が形成される。
【0029】
なお、上述した第1鍔部3における内側端面、外側端面、実装面および天面をそれぞれ指すために用いた参照符号9、10、11および12は、必要に応じて、第2鍔部4における対応の部分をそれぞれ指すためにも用いることがある。
【0030】
図1に示すように、コイル部品1は、ドラム状コア5の巻芯部2に巻回されたワイヤ18を備える。ワイヤ18は、その第1端部18aが第1端子電極7に接続され、その第1端部18aとは逆の第2端部18bが第2端子電極8に接続される。ワイヤ18は、たとえば、直径15~200μm程度のCuからなる芯線からなり、芯線の周囲がポリウレタンやポリイミドなどの樹脂からなる厚みが数μm程度の絶縁皮膜によって覆われた構造を有する。ワイヤ18の端部18aおよび18bと端子電極7および8との接続には、熱圧着が適用される。なお、熱圧着に代えて、溶接が適用されてもよい。ワイヤ18の端部18aおよび18bにある絶縁皮膜は、たとえば、熱圧着に際して付与される熱で分解されることによって、あるいは、レーザ光の照射によって、除去される。
【0031】
端子電極7および8は、それぞれ、第1鍔部3および第2鍔部4の各々の少なくとも実装面11全体を覆うように設けられた導体膜から構成される。第1端子電極7の詳細が図3ないし図6に示されている。以下には、第1端子電極7および第2端子電極8のうち、図3ないし図6に詳細が図示された第1端子電極7について説明する。第2端子電極8は、第1端子電極7と実質的に同様の構造を有しているので、その説明を省略する。なお、以下の説明では、「第1端子電極」を単に「端子電極」と言うことがある。
【0032】
端子電極7を構成する導体膜は、大きく分けて、下地層19とその上に形成される錫含有層20とを備える。下地層19は、たとえば、銀を導電成分、ガラスフリットを接合成分とし、これらを樹脂バインダに含有させた導電性ペーストをディップ法により実装面11に塗布し、これを焼付けることによって形成された厚膜焼付層21と、その上に、たとえばめっきにより形成されたニッケル含有層22と、その上に形成された銅含有層23と、から構成される。ニッケル含有層22および銅含有層23は、いずれか一方が省略されてもよい。
【0033】
錫含有層20は、端子電極7を構成する導体膜の外表面を構成するもので、好ましくは、錫めっきによって形成される。錫含有層20は、実装時において良好なはんだ濡れ性を実現するためのものである。図2において、錫含有層20の外表面の輪郭が点線で示されている。
【0034】
端子電極7の詳細が図示された図3ないし図6のうち、図3および図5には、ワイヤ18が図示されておらず、図4および図6には、ワイヤ18が図示されている。これは、図3および図5に示した断面を取る位置が図1の線A-Aであり、図4および図6に示した断面を取る位置が図1の線B-Bである、というように断面を取る位置が互いに異なっているからである。
【0035】
また、図3および図4には、ワイヤ18の熱圧着工程前の状態が示され、図5および図6には、ワイヤ18の熱圧着工程後の状態が示されている。言い換えると、この発明に係るコイル部品の一形態が図5および図6に示され、この発明に係るドラム状コアの一形態が図3および図4に示されている。
【0036】
以下、ワイヤ18の熱圧着工程に関連して、端子電極7の形態の変化について説明する。
【0037】
ワイヤ18を熱圧着する前では、端子電極7は、図3および図4に示した形態となっている。下地層19は、ほぼ一様な厚みをもって実装面11に沿って延びている。錫含有層20についても、実装面11に沿って、ほぼ一様な厚みを有している。熱圧着されるワイヤ18は、図4に示すように、その第1端部18aが端子電極7上に置かれる。前述した平坦領域13および低位領域14は、それぞれ、ワイヤ18の端部18aの延びる方向に対して交差する方向に延びる帯状をなしている。また、長さ方向Lの最大寸法について、低位領域14の寸法は、実装面11の寸法の半分未満である。この状態で、たとえば500℃程度の温度に加熱されたヒーターチップ24が、矢印25で示すように、端子電極7に向かって圧接される。
【0038】
その結果、図5および図6に示すように、ヒーターチップ24からの熱および圧力により、端子電極7の錫含有層20における少なくとも平坦領域13を覆う部分が溶融する。この際、実装面11および錫含有層20の形状、ヒーターチップ24の熱圧着条件を適切に設定することにより、錫含有層20の溶融部分を、低位領域14へと流れ込ませ、熱圧着後の錫含有層20について、平坦領域13を覆うだけでなく、平坦領域13を少なくとも長さ方向Lにおいて超える広さをもって覆う平坦な外表面27を形成する状態とする。この実施形態では、錫含有層20について、平坦領域13を覆う部分で最も薄い部分を形成させながら、鍔部3の実装面11の周縁を除く全域にわたって平坦な外表面27を形成させている。ここで、端子電極7の実装面11を覆う外表面27は、低位領域14に沿わない形状となっている。また、端子電極7の実装面11を覆う外表面27には、平坦領域13および低位領域14を覆う平坦面が形成される。
【0039】
このようにして、端子電極7は、実装基板への実装時において良好なはんだ濡れ性を実現することができる。
【0040】
なお、上記平坦な外表面27を形成するための条件としては、たとえば、熱圧着工程前のドラム状コア5において、端子電極7における錫含有層20の体積や、熱圧着工程で溶融する錫含有層20の材料などによって、平坦領域13を覆いかつ平坦領域13を少なくとも長さ方向Lにおいて超える広さを有する平坦な外表面27を形成することができるようにすればよい。
【0041】
また、上述の条件に限定されず、上記平坦な外表面27を形成するために、好ましい構成として、この実施形態では、実装面11における平坦領域13に直交する方向から見たとき、低位領域14の面積は平坦領域13の面積以下であるので、平坦領域13と低位領域14との高さ方向Lに沿った段差は、熱圧着工程前の錫含有層20の厚みの2倍以下とされる。一例として、平坦領域13と低位領域14との高さ方向Hに沿った最大段差は、40μm以下とされる。
【0042】
前述したアール面15~17は、熱圧着工程において溶融する錫含有層20の材料の流動をより円滑にするように作用する。なお、低位領域14の、平坦領域13側の端縁に形成される第1アール面15と、低位領域14の、平坦領域13とは反対側の端縁に形成される第2アール面16とは、各々の曲率半径は互いに異なっていても、互いに同じであってもよい。これら曲率半径が互いに異なる場合には、鍔部3の実装面11の設計の自由度が向上する。この場合、第1アール面15の曲率半径が第2アール面16の曲率半径より大きいと、錫含有層20による平坦な外表面27がより形成されやすく、また、平坦な外表面27が低位領域14の外側端面10側の端縁近傍にまで広がりやすい。他方、アール面15~17の各々の曲率半径が互いに同じ場合には、ドラム状コア5の製造がより容易になる。なお、アール面15~17の形成は必須ではなく、アール面15~17の少なくとも1つが形成されなくてもよい。
【0043】
また、熱圧着工程では、ワイヤ18の端部18aは、その長径方向が平坦領域13の延びる方向に向くように潰されつつ、端子電極7に熱圧着される。このとき、ワイヤ18の端部18aは、少なくとも一部が錫含有層20内に埋め込まれた状態となる。典型的には、ワイヤ18の端部18aは、図1に示すように、その一部が錫含有層20の外表面に露出する。
【0044】
上述のように、ワイヤ18の端部18aが潰されると同時に、端子電極7とヒーターチップ24との間に、ワイヤ18が挟まれながら、その端部18aが引きちぎられる。その結果、形成されるワイヤ18の端部18aの切断跡28が図6に示されている。切断跡28は、平坦領域13の、巻芯部2とは反対側の端縁とワイヤ18の端部18aとが交差する位置にもたらされる。
【0045】
上述した熱圧着工程、より特定的には、ワイヤ18の切断工程において、ヒーターチップ24のヘッド面は、実装面11を超える面積を有している。しかし、錫含有層20は溶融するので、実装面11における低位領域14は、ヒーターチップ24からの圧力を実質的に受ける機能を果たさない。すなわち、ワイヤ18は、端子電極7の下地層19における平坦領域13上に位置する部分とヒーターチップ24との間に挟まれるため、ヒーターチップ24からの圧着作用が及ぼされるのは、端子電極7の一部に限定される。したがって、ワイヤ18に対して、確実に圧着作用による荷重が及ぼされるので、ワイヤ18の端部18aが容易に引きちぎられることができる。
【0046】
上述したワイヤ18の引きちぎりが適切に行なわれたか否かの指標として、ワイヤ18の切断時のバリの発生の有無を採用することができる。バリの発生率は、長さ方向Lに測定した、平坦領域13の寸法と関係することがわかった。図7には、実験により求めたもので、長さ方向Lに測定した鍔部における平坦領域の寸法を変えながら、ワイヤとしての直径20μm以下の銅線に対して、500℃程度の温度に加熱されたヒーターチップで200gfの荷重を加えて、ワイヤを引きちぎった後のバリの発生率を示したものである。
【0047】
図7からわかるように、平坦領域の寸法が短いほど、バリの発生率が低く、当該寸法が0.03mm以下のとき、バリの発生率をほぼ0にすることができる。
【0048】
熱圧着工程を終えると、図5および図6に矢印26で示すように、ヒーターチップ24が端子電極7から離される。
【0049】
なお、錫含有層20による平坦な外表面27は、上述したような熱圧着工程の結果として形成される場合に限らない。他の方法、たとえば、錫または錫合金を、低位領域14を覆うように付加する方法などによって、錫含有層20による平坦な外表面27を形成するようにしてもよい。
【0050】
以下、図8ないし図12を参照して、この発明の他の実施形態について説明する。図8ないし図12は、図2に対応する図である。図8ないし図12において、図2に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。なお、以下の説明においても、第1鍔部3について説明する。第2鍔部4は、第1鍔部3と対称な形状を有しているので、その説明を省略する。
【0051】
図8に示したドラム状コア5aでは、凹状の面によって規定された低位領域14aが、平坦領域13の、内側端面9側に位置している。
【0052】
図9に示したドラム状コア5bでは、凹状の面によって規定された2つの低位領域14b1および14b2が、それぞれ、平坦領域13の、巻芯部2とは反対側および巻芯部2側に位置している。
【0053】
以上の実施形態では、低位領域が平坦領域よりも高さ方向の内側に位置する平坦面を含んでいたが、以下の実施形態では、低位領域が勾配面を含んでいる。
【0054】
図10に示したドラム状コア5cでは、勾配面を含む低位領域14cが、平坦領域13の、巻芯部2とは反対側に位置している。
【0055】
図11に示したドラム状コア5dでは、勾配面を含む低位領域14dが、平坦領域13の、巻芯部2側に位置している。
【0056】
図12に示したドラム状コア5eでは、勾配面を含む2つの低位領域14e1および14e2が、それぞれ、平坦領域13の、巻芯部2とは反対側および巻芯部2側に位置している。
【0057】
以上のような複数の実施形態には、各々、特有の利点がある。
【0058】
低位領域が平坦領域の、巻芯部2とは反対側に位置している、図2に示したドラム状コア5および図10に示したドラム状コア5cによれば、ワイヤを鍔部の比較的内側で圧着できるので、ワイヤの長さを短くでき、したがって、コイル部品の直流抵抗を低減することができる。
【0059】
低位領域が平坦領域の、巻芯部2側に位置している、図8に示したドラム状コア5aおよび図11に示したドラム状コア5dによれば、鍔部の重心が巻芯部2とは反対側に寄るので、鍔部の重心が巻芯部2側に寄る場合または鍔部の重心が鍔部の中央部に位置する場合に比べて、コイル部品のマウント時の姿勢がより安定する。
【0060】
低位領域が平坦領域の、巻芯部2とは反対側および巻芯部2側の双方に位置している、図9に示したドラム状コア5bおよび図12に示したドラム状コア5eによれば、上述した2種類の形態の各々による利点をバランス良く奏することができる。
【0061】
なお、低位領域に含まれる平坦面および勾配面は、これらを必ずしも明確に区別できるものではない。したがって、平坦面および勾配面のいずれにも該当する形態の低位領域もあり得る。
【0062】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の実施形態が可能である。
【0063】
たとえば、上述した実施形態は、1本のワイヤを備えるコイル部品に関するものであったが、たとえばコモンモードチョークコイルを構成するコイル部品またはトランスを構成するコイル部品のように、複数本のワイヤを備えるコイル部品に対しても、この発明を適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、第1鍔部3および第2鍔部4の両方に、平坦領域13および低位領域14といった特徴的構成を備えていたが、第1鍔部3および第2鍔部4のいずれか一方にのみ、平坦領域13および低位領域14といった特徴的構成を備える実施形態も、この発明の範囲に含まれる。
【0065】
また、コイル部品は、ドラム状コアに備える1対の鍔部間を連結する板状コアをさらに備えていてもよい。この構成によれば、磁束が周回する閉磁路を構成することができる。また、1対の鍔部の上面間をつなぐように、樹脂でコーティングされていてもよい。
【0066】
また、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 コイル部品
2 巻芯部
3,4 鍔部
5,5a,5b,5c,5d,5e ドラム状コア
7,8 端子電極
11 実装面
13 平坦領域
14,14a,14b1,14b2,14c,14d,14e1,14e2 低位領域
15,16,17 アール面
18 ワイヤ
19 下地層
20 錫含有層
21 厚膜焼付層
22 ニッケル含有層
23 銅含有層
24 ヒーターチップ
27 平坦な外表面
28 切断跡
L 長さ方向
H 高さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13