(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】インダクタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20220809BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220809BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220809BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20220809BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F41/04 B
H01F41/02 D
H01F27/255
H01F1/147
(21)【出願番号】P 2019191103
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐一
(72)【発明者】
【氏名】新井 工
(72)【発明者】
【氏名】遠山 元気
(72)【発明者】
【氏名】植松 龍太
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/075110(WO,A1)
【文献】特開2019-117898(JP,A)
【文献】特開2015-207617(JP,A)
【文献】特開2018-182210(JP,A)
【文献】特開2019-153644(JP,A)
【文献】特開2016-014162(JP,A)
【文献】特開2016-162821(JP,A)
【文献】特開2016-035972(JP,A)
【文献】特開2018-107198(JP,A)
【文献】特開2019-011496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 17/00
H01F 21/00
H01F 27/00
H01F 30/00
H01F 38/42
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉
と樹脂を含有する磁性部および前記磁性部内に埋設されたコイルを含む素体と、外部端子とを備え、
前記素体は、対向する2つの主面と、前記主面に隣接して対向する端面と、前記主面および端面に隣接して対向する側面とを有し、一方の主面が実装面であり、
前記コイルは、直線状の金属板であり、その両端が前記素体の対向する端面から突出する様に前記素体に埋設されて形成され、
前記磁性粉は、
鉄とケイ素とクロムとを含有し、ケイ素の含有率が1質量%以上7質量%以下で、クロムの含有率が1質量%以上7質量%以下で、鉄の含有率が80質量%以上である結晶質の軟磁性材料のみで形成され、体積基準による累積粒度分布における、累積50%粒径D50が
2.9μm以上3.53μm以下で、累積90%粒径D90が5.05μm以上6.45μm以下で、累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10が
2.46以上3.81以下であり、ヴィッカース硬度が
350kgf/mm
2
以上450kgf/mm
2
以下であり、
前記磁性部は、
前記樹脂の含有量が5質量%以下で、前記磁性粉の体積基準の充填率が60%以上
に形成され、
10MHzにおける品質係数Qが80以上であるインダクタ。
【請求項2】
前記磁性粉は、表面に絶縁層を有する請求項
1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記磁性粉は、前記絶縁層の厚みが200nm以下である請求項
2に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属導体からなるコイル導体を、金属磁性粉および結合材を混合したものを加圧成型して得られる磁性部に内包させ、金属導体を折り曲げて端子を形成したインダクタが各種電子機器に用いられている(例えば、特許文献1参照)。このようなインダクタが用いられるDC-DCコンバータ回路等では動作周波数の高周波化、大電流化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のインダクタでは、高周波化、大電流化に充分に対応できない場合があり、DC-DCコンバータ回路等に適用すると回路特性が低下する場合があった。本発明の一態様は、高周波特性に優れるインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様に係るインダクタは、磁性粉を含有する磁性部および磁性部内に埋設されたコイルを含む素体と、外部端子とを備える。磁性粉は、体積基準による累積粒度分布における、累積50%粒径D50が5μm以下で、累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10が19以下であり、ヴィッカース硬度が1000(kgf/mm2)以下である。磁性部は磁性粉の体積基準の充填率が60%以上である。
【0006】
第2態様に係るインダクタの製造方法は、体積基準による累積粒度分布における、累積50%粒径D50が5μm以下で、累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10が19以下であり、ヴィッカース硬度が1000(kgf/mm2)以下である磁性粉と、5質量%以下の含有率で樹脂を含有する磁性材料に、コイルを埋設することと、コイルが埋設された磁性材料を、5ton/cm2以上の圧力で加圧して成型し、磁性粉の充填率が60%以上である素体を得ることと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、高周波特性に優れるインダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】インダクタにおける周波数とインダクタンスとの関係を示すグラフである。
【
図4】インダクタにおける周波数とQ値との関係を示すグラフである。
【
図5】インダクタにおける周波数と抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
インダクタは、磁性粉を含有する磁性部および磁性部内に埋設されたコイルを含む素体と、外部端子とを備える。磁性粉は、体積基準による累積粒度分布における、累積50%粒径D50が5μm以下で、累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10が19以下であり、ヴィッカース硬度が1000(kgf/mm2)以下である。磁性部は磁性粉の体積基準の充填率が60%以上である。
【0010】
平均粒径が小さく、粒度分布が狭く、硬度が所定値以下の磁性粉を含む磁性部を備えるインダクタは、高周波領域において、インダクタンス値の低下が抑制され、優れたQ値を示すことができる。また、高周波領域における抵抗値の上昇を抑制することができ、大電流化に充分に対応できる。
【0011】
インダクタを構成する素体は、対向する2つの主面と、主面に隣接して対向する端面と、主面および端面に隣接して対向する側面とを有していてよい。2つの主面のうち、一方が実装面であって他方が上面であってよい。素体は、略直方体形状を有していてよく、実装面と上面との距離である高さTと、端面間の距離である長さLと、側面間の距離である幅Wで規定されてよい。素体の大きさは、長さLが例えば0.5mm以上3.4mm以下、好ましくは1mm以上3mm以下であり、幅Wが例えば0.5mm以上2.7mm以下、好ましくは0.5mm以上2.5mm以下であり、高さTが例えば0.5mm以上2mm以下、好ましくは0.5mm以上1.5mm以下である。素体の大きさとして具体的には、L×W×Tが例えば、1mm×0.5mm×0.5mm、1.6mm×0.8mm×0.65mm、2mm×1.2mm×0.8mm、2.5mm×2mm×1.0mmであってよい。
【0012】
コイルは、直線状の金属板であってよい。コイルが直線状の金属板であると、分布容量の発生が抑制され、大電流化に充分に対応できる。コイルを形成する金属板は、銅等の導電性金属材料であってよい。コイルを形成する金属板は、厚みが例えば0.05mm以上0.2mm以下、好ましくは0.1mm以上0.15mm以下であり、長さ方向および厚み方向に直行する幅が例えば0.3mm以上1.0mm以下、好ましくは0.45mm以上0.75mm以下であってよい。
【0013】
磁性粉は、体積基準による累積粒度分布における、小粒径側からの体積累積50%に対応する累積50%粒径D50が例えば5μm以下であってよく、好ましくは4μm以下、3.6μm以下または3μm以下であってよい。累積50%粒径D50は、例えば1μm以上または2μm以上であってよい。累積50%粒径D50が前記範囲であると所望のインダクタンスを容易に達成することができる。また、絶縁抵抗がより向上し、耐電圧がより向上する傾向がある。磁性粉の累積粒度分布は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができ、累積50%粒径D50、累積10%粒径D10および累積90%粒径D90も同装置によって測定される。
【0014】
磁性粉の体積累積10%に対応する累積10%粒径D10は、例えば3μm以下であってよく、好ましくは2.5μm以下または2μ以下であってよい。累積10%粒径D10は、例えば0.5μm以上または0.1μm以上であってよい。また、磁性粉の体積累積90%に対応する累積90%粒径D90は、例えば10μm以下であってよく、好ましくは8μm以下または7μ以下であってよい。累積90%粒径D90は、例えば2μm以上であってよい。さらに、磁性粉の累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10は、例えば19以下であってよく、好ましくは10以下または7以下であってよい。比D90/D10は、例えば1以上または2以上であってよい。比D90/D10が前記範囲であると所望のインダクタンスを容易に達成することができる。
【0015】
磁性粉の累積50%粒径D50に対する累積10%粒径D10の比D10/D50は、例えば0.1以上であってよく、好ましくは0.3以上、0.4以上または0.5以上であってよい。比D10/D50は、例えば0.9以下であってよい。比D10/D50が前記範囲であると所望のインダクタンスを容易に達成することができる。
【0016】
磁性粉の累積50%粒径D50に対する累積90%粒径D90の比D90/D50は、例えば3以下であってよく、好ましくは2.5以下または2以下であってよい。比D90/D50は、例えば1以上であってよい。比D90/D50が前記範囲であると所望のインダクタンスを容易に達成することができる。
【0017】
磁性粉のヴィッカース硬度は、例えば1000(kgf/mm2)以下であってよく、好ましくは600(kgf/mm2)以下または500(kgf/mm2)以下であってよい。ヴィッカース硬度は、例えば100(kgf/mm2)以上であってよい。ヴィッカース硬度が前記範囲であると所望のインダクタンスを容易に達成することができる。なお、磁性粉のヴィッカース硬度は、市販の測定装置、例えば、ナノインデンターENT-2100(エリオニクス社製)を用いて、その取り扱い説明書の記載に準じて測定することができる。
【0018】
素体を構成する磁性部は、磁性粉の体積基準の充填率が例えば60%以上であってよく、好ましくは65%以上または70%以上であってよい。磁性粉の体積基準の充填率は、例えば95%以下であってよい。なお、磁性部における磁性粉の充填率は、磁性部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、観察視野(例えば1000倍率の矩形状であってよい)の面積に対する磁性粉の面積の比率として算出できる。観察視野における磁性粉が占める面積は、画像処理ソフトウエアを用いてSEM画像のコントラストに基づいて算出することができる。磁性粉の充填率を算出する位置は、磁性部であればよく、例えば、実装面に対向する上面から実装面に向かって素体の高さの30%の位置で測定されてよい。また、SEM観察する断面は、例えば、実装面に略平行にすることができる。
【0019】
素体を構成する磁性部は、磁性粉と樹脂等の結着剤を含有する複合材料から形成される。磁性粉としては、Fe、Fe-Si、Fe-Ni、Fe-Si-Cr、Fe-Si-Al、Fe-Ni-Al、Fe-Ni-Mo、Fe-Cr-Al等の鉄系の金属磁性粉、他の組成系の金属磁性粉、アモルファス等の金属磁性粉、表面がガラス等の絶縁体で被覆された金属磁性粉、表面を改質した金属磁性粉、ナノレベルの微小な金属磁性粉が用いられる。
【0020】
磁性粉は、鉄(Fe)とケイ素(Si)とを含有する軟磁性材料を含んでいてよく、Fe-Si-Cr系の軟磁性材料を含んでいてよい。磁性粉が鉄とケイ素とクロム(Cr)を含む軟磁性材料を含む場合、軟磁性材料におけるケイ素の含有率は例えば1質量%以上、好ましくは3質量%以上であってよい。また、軟磁性材料におけるケイ素の含有率は例えば7質量%以下であってよい。さらに、軟磁性材料におけるクロムの含有率は例えば1質量%以上、好ましくは3質量%以上であってよい。また、軟磁性材料におけるクロムの含有率は例えば7質量%以下であってもよい。さらに、軟磁性材料における鉄の含有率は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上98質量%以下である。磁性粉が鉄とケイ素を含む軟磁性材料であると結晶磁気異方性定数が下がり、磁区内の均一性、等方性が保てれば、保持力を低く、透磁率を高くすることができるという効果が得られる。また、鉄とケイ素を含む軟磁性材料にクロム(Cr)をさらに含有することにより、不動態膜が形成されて、錆びにくくなる。さらに、磁性粉が所定の構成を有することで所望の特性をより容易に達成することができる。
【0021】
磁性粉は、結晶質の軟磁性材料を含んでいてよく、非晶質の軟磁性材料を含んでいてもよい。さらに、磁性粉は、結晶質の金属磁性粉を含んでいてもよく、非晶質の金属磁性粉を含んでいてもよい。また、磁性粉はその表面に絶縁層を有していてもよい。絶縁層は、磁性粉の成分に由来する材料で形成されていてよく、磁性粉を構成する材料とは異なる成分を含んで形成されてもよい。磁性粉が絶縁層を有する場合、絶縁層の材料としては例えば無機材料等を挙げることができる。絶縁層の厚みは例えば200nm以下であってよく、好ましくは100nm以下または50nm以下であってよい。また、絶縁層の厚みは例えば10nm以上であってよい。絶縁層の厚みが所定の範囲であると、絶縁抵抗値および耐電圧がより向上する傾向がある。
【0022】
磁性部を構成する結着剤の一例である樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂が用いられる。磁性部における樹脂の含有率は例えば0.5質量%以上であってよく、好ましくは1質量%以上または2質量%以上であってよい。また、磁性部における樹脂の含有率は例えば5質量%以下であってよく、好ましくは4質量%以下または3質量%以下であってよい。
【0023】
素体は、10MHzにおける透磁率(μ’)が10以上であってよく、好ましくは20以上または25以上であってよい。素体の透磁率が所定値以上であると高インダクタンス値が得られるという効果が得られる。なお、素体の透磁率は、EDAソフトウエアを用いて算出することができる。
【0024】
第1態様に係るインダクタは、高周波特性に優れ、大電流化に充分に対応可能であることから、DC-DCコンバータに好適に適用することができる。使用される周波数は例えば3MHz以上であってよく、好ましくは6MHz以上または10MHz以上である。また、第1態様に係るインダクタは、素体の絶縁抵抗が高く、耐電圧に優れる。インダクタの絶縁抵抗は例えば1kΩ/mm以上であってよい。また耐電圧は例えば20V/mm以上であってよい。なお、絶縁抵抗は、市販の測定装置、例えば、SM-8213(TOA DKK社製)を用いて、その取扱い説明書の記載に準じて測定することができる。また、耐電圧は、市販の測定装置、例えば、TOS9201(KIKUSUI社製)を用いて、その取扱い説明書の記載に準じて測定することができる。
【0025】
インダクタは、例えば以下のような製造方法で製造することができる。インダクタの製造方法は、体積基準による累積粒度分布における、累積50%粒径D50が5μm以下で、累積10%粒径D10に対する累積90%粒径D90の比D90/D10が19以下であり、ヴィッカース硬度が1000(kgf/mm2)以下である磁性粉と、5質量%以下の含有率で樹脂を含有する磁性材料に、コイルを埋設する第1工程と、コイルが埋設された磁性材料を、5ton/cm2以上の圧力で加圧して成型し、磁性粉の充填率が60%以上である素体を得る第2工程と、を含んでいてよい。
【0026】
所定の特性を有する磁性粉を含む磁性材料を、所定値以上の圧力で成型することで、高周波特性に優れるインダクタを効率的に製造することができる。第2工程における圧力は、好ましくは5ton/cm2以上または10ton/cm2以上であってよい。
【0027】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのインダクタおよびその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すインダクタおよびその製造方法に限定されない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に限定するものでは決してない。特に、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに、以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。またさらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例において説明された内容は、他の実施例に利用可能なものもある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例等において、各測定値は以下のようにして測定した。
【0029】
(粒度分布およびヴィッカース硬度)
磁性粉の累積10%粒径D10、累積50%粒径D50および累積90%粒径D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置マイクロトラックMT3000-II(MicrotracBEL社製)を用いて測定した。また、磁性粉のヴィッカース硬度はナノインデンターENT-2100(エリオニクス社製)を用いて測定した。
【0030】
(磁性粉充填率)
素体における磁性粉の充填率は、インダクタの上面から実装面に向かって高さTの30%の位置において断面サンプルを作成し、走査型電子顕微鏡(SEM;1000倍)を用いてSEM画像を得て、得られたSEM画像を画像処理ソフトウエアによって処理して算出した。
【0031】
(電気・磁気特性)
インダクタのインダクタンス、Q値、抵抗値はネットワークアナライザE5071C(Agilent社製)を用いて測定した。インダクタの透磁率はマテリアルアナライザE4991(Agilent社製)を用いて測定した。
【0032】
(実施例1)
実施例1のインダクタ100を
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、実施例1のインダクタ100の概略斜視図である。
図2は、
図1のAA線を通り実装面に直交する面における概略断面図である。
【0033】
図1および
図2に示すように、実施例1のインダクタ100は、磁性粉を含有する磁性部16と磁性部16に埋設されるコイル14とを含む素体10と、素体10内に埋設されるコイル14から延伸して形成され、素体の表面に配置される外部端子12とを備える。素体10は、互いに対抗する2つの主面22、24と、主面に隣接して互いに対向する端面26と、主面および端面に隣接して互いに対向する側面28とを有する。主面のうち一方が実装面22であり、他方が上面24である。素体10は実装面22と上面24との距離である高さTと、端面26間の距離である長さLと、側面28間の距離である幅Wで規定される。
【0034】
コイル14は、直線状の金属板から形成され、磁性部16を側面が対向する方向に貫通して配置される。コイル14の両端部には金属板が延伸されて外部端子12が形成される。外部端子12は素体10の側面28からそれぞれ引き出され、片側につき2箇所の屈曲部を有して素体10の側面28に沿って配置され、素体10の実装面22まで延在している。コイル14および外部端子12は、銅等の導電性金属で形成される。外部端子12は素体10の側面28および実装面22に接して配置される。素体10の実装面22には凹部が設けられ、外部端子12の一部が収容される。
【0035】
素体10を構成する磁性部16は、磁性粉と樹脂等の結着剤を含有する複合材料から形成される。磁性粉としては、ケイ素の含有率が3質量%、クロムの含有率が5質量%、残部が鉄である結晶質のFe-Si-Cr系の軟磁性材料を含むものを用いた。また、磁性粉の累積10%粒径D10は1.43μm、累積50%粒径D50は2.90μm、累積90%粒径D90は5.45μmであり、ヴィッカース硬度は400±50であった。磁性粉に加えて、樹脂としてエポキシ樹脂を2.5質量%含む複合材料に、直線状の金属板であるコイルを埋設し、10ton/cm2の圧力をかけて素体を形成して、実施例1のインダクタ100を得た。
【0036】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは9.53nHであり、Q値は87.25であった。
【0037】
(実施例2)
磁性粉として、累積10%粒径D10が2.05μm、累積50%粒径D50が3.21μm、累積90%粒径D90が5.05μmである軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のインダクタを得た。
【0038】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは9.85nHであり、Q値は81.80であった。
【0039】
(実施例3)
磁性粉として、累積10%粒径D10が1.77μm、累積50%粒径D50は3.32μm、累積90%粒径D90は6.13μmである軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のインダクタを得た。
【0040】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは10.55nHであり、Q値は85.71であった。
【0041】
(実施例4)
磁性粉として、累積10%粒径D10が1.97μm、累積50%粒径D50が3.53μm、累積90%粒径D90が6.45μmである軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のインダクタを得た。
【0042】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは10.82nHであり、Q値は87.79であった。
【0043】
(比較例1)
磁性粉として、累積10%粒径D10が3.06μm、累積50%粒径D50が6.28μm、累積90%粒径D90が11.83μmである軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のインダクタを得た。
【0044】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは12.11nHであり、Q値は73.80であった。
【0045】
(比較例2)
磁性粉として、累積10%粒径D10が3.87μm、累積50%粒径D50が9.71μm、累積90%粒径D90が23.33μmである軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のインダクタを得た。
【0046】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは13.28nHであり、Q値は39.60であった。
【0047】
(比較例3)
磁性粉として、ケイ素の含有率が6.7質量%、クロムの含有率が2.5質量%、ホウ素が2.5質量%、残部が鉄である非晶質のFe-Si-Cr系の軟磁性材料を含み、累積10%粒径D10が2.67m、累積50%粒径D50が4.28μm、累積90%粒径D90が5.95μmであり、ヴィッカース硬度が1000±100である軟磁性材料を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のインダクタを得た。
【0048】
得られたインダクタについての動作周波数とインダクタンスの関係を
図3に、動作周波数とQ値の関係を
図4に、動作周波数と抵抗値の関係を
図5に示す。インダクタの10MHzにおけるインダクタンスは4.10nHであり、Q値は50.00であった。
【0049】
【0050】
実施例1から4のインダクタはいずれも、10MHzにおけるインダクタンスが10nH程度で、80以上の優れた品質係数Qを示した。また、実施例1、3および4のインダクタは、品質係数Qの最高値の周波数を比較例1および2よりも高く、3から10MHz程度まで高周波化できた。さらに、磁性粉の平均粒径が5μm以下であってもL値を10nH程度に保持することができ、抵抗値を低減することができた。従って、実施例のインダクタは、動作周波数が高周波化し、扱う電流も大電流化しているDC-DCコンバータ回路等で回路の特性改善に貢献することができる。
【符号の説明】
【0051】
100 インダクタ、10 素体、12 外部端子