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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】異方性フィラー含有シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220809BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29C43/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019523422
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018755
(87)【国際公開番号】W WO2018225468
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017114377
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 昌男
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 朋佳
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-154410(JP,A)
【文献】特開2002-080617(JP,A)
【文献】特開2001-172398(JP,A)
【文献】特開2006-335957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01B 3/16- 3/56
B29C 43/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、異方性フィラーと樹脂を含むインクの膜を形成する工程、及び
前記膜が流動可能である間に、前記膜に5kHz以上の周波数を有する振動を与える工程、
を含み、
前記異方性フィラーが、鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子を含み、
前記鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子が、前記インク中において一次粒子として存在する、異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項2】
前記振動の周波数が、10~1000kHzである、請求項1に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項3】
前記異方性フィラーの平均最長径が、0.5μm~200μmである、請求項1又は2に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項4】
前記異方性フィラーのアスペクト比が、2以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項5】
前記膜中の前記異方性フィラーの体積率が、10~90体積%である、請求項1~のいずれか一項に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂が熱硬化性樹脂を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【請求項7】
さらに、前記膜をプレスする工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性フィラー含有シート、すなわち、粒子形状に異方性のある(方向によって径の異なる)異方性フィラーと樹脂を含むシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子形状に異方性のある異方性フィラーは、その物性にも異方性を有することが多く、その性質を利用して、各種用途において異方性フィラーと樹脂を含むシートが利用されている。
代表的な例として、鱗片状六方晶窒化ホウ素のように、ある方向(具体的には、長径方向(面方向))の方が他の方向(具体的には、短径方向(厚み方向))よりも熱伝導率が高い異方性フィラーを用いた熱伝導シートが知られている。このような熱伝導シートにおいては、異方性フィラーが、長径方向が熱伝導性の求められる方向(すなわち、シートの厚み方向)に対して平行となるように配向(以下、「縦配向」ということがある。)していることが好ましい。
しかし、異方性フィラーとバインダとなる樹脂を含む組成物をドクターブレード等で単純にシート状に塗工したのでは、各粒子の長径方向はシートの面方向に平行に配向(以下、「横配向」ということがある。)してしまうため、熱伝導率の高いシートが得られない。
【0003】
この点、特許文献1には、窒化ホウ素粒子を凝集させて、熱伝導性に関し疑似的に等方性な粒子(凝集粒子)とし、これを利用して熱伝導シートを製造することが開示されている。
しかしながら、この方法では、凝集粒子の調製が必要となる。加えて、凝集粒子中には空隙が混入することが避けられないところ、シート中に空隙が存在するとその熱伝導率は低下してしまうため、異方性フィラーの横配列が防げたとしても熱伝導率が十分に高い熱伝導シートは得られない。
【0004】
また、非特許文献1には、六方晶窒化ホウ素粒子と樹脂を含むペーストを吐出ノズルを用いて滴下することにより1点のポッティングを成形し、このポッティングを繰り返し多数形成して集合体にすることで、六方晶窒化ホウ素粒子が縦配向したシートを作成することが開示されている。さらに、特許文献2には、六方晶窒化ホウ素粒子の長径方向が面方向に対して平行に配向した一次シートを積層して積層体を得た後、一次シート面から出る法線に対して0~30度で積層体をスライスすることによって、六方晶窒化ホウ素粒子が縦配向したシートを作成することが開示されている。
しかしながら、これらの方法はシートの製造方法が複雑で、量産性に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-6980号公報
【文献】特開2012-38763号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「2)セラミックス粒子を配向制御したヒートシンク材料の開発」、佐賀県窯業技術センター平成25年度報告書、第9頁~第13頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑み、異方性フィラーがなるべく縦配向している異方性フィラー含有シートを、簡易な方法で効率よく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、異方性フィラーと樹脂を含む膜(層)が流動性を有している間に(すなわち、流動可能である間に)、該膜に高周波数の振動を与えると、異方性フィラー(一次粒子)がランダムに再配列し、その結果、縦配向したものの割合が高まることを見出し、このような知見を利用して本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]支持体上に、異方性フィラーと樹脂を含むインクの膜を形成する工程、及び
前記膜が流動可能である間に、前記膜に5kHz以上の周波数を有する振動を与える工程、
を含む、異方性フィラー含有シートの製造方法。
[2]前記振動の周波数が、10~1000kHzである、[1]に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[3]前記異方性フィラーの平均最長径が、0.5μm~200μmである、[1]又は[2]に記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[4]前記異方性フィラーのアスペクト比が、2以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[5]前記異方性フィラーが、鱗片状の窒化ホウ素粒子を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[6]前記異方性フィラーが、六方晶窒化ホウ素粒子を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[7]前記膜中の前記異方性フィラーの体積率が、10~90体積%である、[1]~[6]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[8]前記樹脂が熱硬化性樹脂を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
[9]さらに、前記膜をプレスする工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の異方性フィラー含有シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異方性フィラーと樹脂を含むインクの塗膜を形成し、これに高周波の振動を付与するだけで、異方性フィラーの横配向を防ぎ、異方性フィラーがランダムに配向、或は、縦配向したシートを簡易な方法で効率よく製造することができる。
したがって、本発明によれば、熱伝導率の高い熱伝導シートを簡易な方法で効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で得られた異方性フィラー含有シート(Cシート)の断面のFE-SEM画像である。
図2】比較例1で得られた異方性フィラー含有シート(Cシート)の断面のFE-SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
本実施形態の方法は、支持体上に、異方性フィラーと樹脂を含むインクの塗膜を形成する工程を含む。
本実施形態において、異方性フィラーとは、異方性形状を有する(方向によって径が異なる)粒子であり、例えば、カーボン、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物等の無機化合物や樹脂等からなり、具体例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物;金属や合金;グラファイト、黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料;高熱伝導性樹脂等からなる、繊維状、針状、鱗片状、ウィスカー状などの粒子が挙げられる。
中でも、熱伝導性の観点から六方晶窒化ホウ素粒子が好ましく、その形状としては、例えば、偏平状、鱗片状、板状、線状、平板状、顆粒状、繊維状、ウィスカー状などが挙げられ、好ましくは、鱗片状、板状又は線状であり、より好ましくは鱗片状又は板状であり、とりわけ好ましくは、鱗片状である。
本実施形態においては、異方性フィラーは1種類のみを用いてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、2種以上の異方性フィラーを含有してもよい。例えば、窒化ホウ素粒子と、それ以外の異方性フィラーとを組み合わせて用いることもできる。
【0014】
異方性フィラーが鱗片状や平板状である場合、そのアスペクト比(厚さに対する最長径の比)に限定はないが、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。アスペクト比に上限はないが、通常、1000以下である。
【0015】
また、異方性フィラー含有シートが熱伝導シートとして使用される場合、特に発熱性電子部品等に組み込まれる場合などには、180℃以上の高温下で使用されることがある。このような180℃以上の高温下での使用でも、周辺部材の寿命を延ばし、高熱伝導性および耐電圧特性などの信頼性を確保するためには、異方性フィラーの平均最長径は、シートの厚みの1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましい。
平均最長径がシートの厚みの1/2を超えると、シートの表面に異方性フィラーが突出して、シートの表面形状が悪化し、他部材との張り合わせシートを作製する際の密着性が低下し、耐電圧特性が低下することがある。
一方で、異方性フィラーの平均最長径が小さ過ぎると、熱伝導パスが熱伝導シートの厚み方向に上から下まで繋がる確率が小さくなり、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が不十分となることがある。
以上のような観点から、異方性フィラーの粒径に限定はないものの、平均最長径は0.1~500μmであることが好ましく、0.5~200μmであることがより好ましく、1~100μmであることが特に好ましい。
なお、上記のような平均最長径を有する場合であっても、平均最長径には影響を与えない程度の個数で非常に大きいものが原料中に存在していることもある。そこで、本実施形態においては、異方性フィラーは、予め、ふるいなどで所定以上の粒径のものを原料から除去してから用いることが好ましい。
【0016】
異方性フィラーは、インク中において一次粒子であってもよいし、一次粒子が凝集した凝集粒子(二次粒子)の状態であってもよい。もっとも、凝集粒子である場合には、高周波振動付与工程における振動付与条件(周波数、付与時間等)によっては、フィラーの再配列が十分に達成されないことや、最終的に得られるシート中に空隙が残存することがある。そのため、異方性フィラーとしては、一次粒子の状態で存在しているものを用いることが好ましい。
【0017】
異方性フィラーの形状、粒径及びアスペクト比は、電子顕微鏡により粒子を観察することによって決定できる。
具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)(例えば、FE-SEM-EDX(SU8220):株式会社日立ハイテクノロジー社製)で撮影された画像から、粒子を200個以上無作為に選択し、その形状から判断する。
最長径は、粒子に外接する面積が最小の長方形の長辺の長さとする。なお、鱗片状又は平板状の異方性フィラーの場合は、面方向が写っている粒子200個以上ずつ無作為に選択し、最長径を求める。
また、アスペクト比は、画像の中から、面方向が写っている粒子及び厚さが写っている粒子を、各々、200個以上ずつ無作為に選択し、最長径と厚さ各々の平均値を算出し、その比を求めることにより決定できる。
【0018】
本実施形態において、膜中(インク)の異方性フィラーの体積率(固形分中の異方性フィラーの含有量)は、用途に応じて適宜設定することができ、たとえば10~90体積%以上とすることができる。
異方性フィラーが10体積%未満であると、異方性フィラーが少なすぎて所望の特性(例えば、熱伝導性)が得られないこともある。
逆に、異方性フィラーの含有量が90体積%を超えると、異方性フィラーが多すぎてシートが脆くなったり、シートの電気絶縁性が低下したりすることがある。加えて、インクの粘度が高くなり、薄く且つ平坦なシートを得にくくなることがある。
ここで、異方性フィラーの体積は、異方性フィラーを構成する材料(化合物)の比重とインクに含まれる異方性フィラーの質量とから求められる値とする。
【0019】
本実施形態において、インクに含まれる樹脂に限定はないが、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等)、硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂等)、合成ゴムなどが挙げられる。中でも硬化性樹脂が好ましく、熱硬化性樹脂が特に好ましい。
また、本実施形態において硬化性樹脂は、硬化剤や硬化触媒と混合した樹脂組成物の形で凹凸膜中に添加してもよいし、さらに、対応する原料(モノマー、ダイマー、オリゴマー等の前駆体)の形で添加してもよい。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド(ポリビスマレイミド)樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリイミド系樹脂;ポリベンゾオキサゾール系樹脂;ポリエーテル樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;シリコーン系樹脂;フェノール系エポキシ樹脂、アルコール系エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂等が挙げられる。
中でも、高熱伝導性で、有機溶剤への溶解性も良好であることから、エポキシ樹脂やポリエーテル樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂が好ましい。
これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
【0021】
本実施形態において、インクには必要に応じて溶剤や分散媒を含有させることができる。特に、樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、溶剤や分散媒を含有させることが好ましい。
溶剤(分散媒)の種類には、特に限定はなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセルソルブ、シクロペンタノンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロペンタンなどのシクロアルカン類;メタノール、エタノール、n―ブチルアルコールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;プロピレングリコールモノメチルエーテル及びそのアセテートなどの有機溶剤が挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
膜形成中及び高周波振動付与中にはインクの粘度を一定に調整し、高周波振動付与後にはインクを迅速に乾燥させる観点から、その蒸発速度が、酢酸ブチルの4.5倍以下である溶剤を用いることが好ましい。蒸発速度が速すぎると膜形成中や高周波振動付与中に溶剤が多く揮発し、インクの粘度が変化してしまう。一方、蒸発速度が遅すぎると溶剤の乾燥が困難になり高温長時間の乾燥が必要となるところ、そのような乾燥を行うと、樹脂として熱硬化性樹脂を使用した場合にその硬化が進んでしまう。このような観点から、酢酸ブチルの蒸発速度の0.05倍~4.5倍の溶剤を用いることがより好ましい。
溶剤(分散媒)の含有量に限定はなく、例えば、インクの粘度等を考慮して適宜決定することができ、通常、インクの10~50質量%程度である。溶剤量が不足すると、均一の厚さを有する膜の形成が難しく、膜表面にムラが生じることもある。逆に溶剤量が過剰になると、高周波振動付与後の膜中の異方性フィラーの配向保持性が劣ることがある。
【0022】
本実施形態において、インクには、異方性フィラー、樹脂及び溶剤/分散媒に加えて、さらに、用途等に応じて従来使用される各種添加剤等を含有させることもできる。
このような添加剤としては、例えば、異方性フィラーと樹脂との間の接着性を改良するためのカップリング剤や、上述の硬化剤及び硬化触媒、樹脂硬化促進剤、粘度調整剤、分散安定剤、界面活性剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。これらは、いずれも1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0023】
前記カップリング剤としては、一般に異方性フィラーの表面処理に使用されているものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。具体的には、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシランなどのアミノシラン系;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系;γ-メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルートリ(β-メトキシエトキシ)シランなどのビニルシラン系;N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系;フェニルシラン系などのシランカップリング剤が挙げられる。
これらのシランカップリング剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記カップリング剤は、異方性フィラーの表面積にもよるが、異方性フィラーに対して、0.01~10質量%添加することが好ましく、1~2質量%添加することがより好ましい。
カップリング剤は、予め異方性フィラーに付加しておくことができ、その方法に限定はないが、例えば、攪拌機によって高速攪拌している異方性フィラーにカップリング剤原液を均一に分散させて処理する乾式法やカップリング剤希薄溶液に異方性フィラーを浸漬し攪拌する湿式法等が挙げられる。
【0024】
インクの粘度に限定はなく、例えば、0.1~100Pa・sとすることができ、5~20Pa・sとしてもよい。
なお、インクの調製方法に特に限定はなく、各成分を混合すればよい。その際、各成分を均一に混合させるため、攪拌、混合、混練処理などの公知の処理を行うことができる。
【0025】
本実施形態において、膜は支持体上に形成される。支持体としては、膜を保持し、高周波振動に耐える強度を有し、後に剥離する場合には離型性のよいものが好ましい。具体例としては、銅やアルミニウム等の金属箔や金属板、プラスチックフィルムやプラスチック板等が挙げられる。
支持体は、シート形成後に剥離してもよい。特に、支持体がシートの用途にふさわしくない特性を有している場合(例えば、シートが、電子回路の絶縁層用の熱伝導シートであるような場合において、支持体として金属箔等の導電性のものを利用した場合)には、支持体をシートから剥離することが好ましい。一方、上述のような事情がない場合には、支持体は必ずしも剥離する必要はなく、最終的に支持体を残したままの積層体をシートとして利用することもできる。
支持体をシートから剥離する場合、その剥離工程のタイミングに限定はないが、膜がある程度硬化して、自立できるようになった後であることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、このような支持体上に、上述のインクの膜を形成する方法に限定はなく、例えば、グラビアコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ダイコーティング、ディッピング、ナイフコーティング等のロールを利用した各種コーティング;スプレーコーティング;ブレードコーティング;スピンコーティング;スクリーン印刷等の各種印刷等の各種アプリケーターによる塗工が挙げられる。また、樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、ホットメルトコーティング等の溶融塗工することもできる。
本実施形態の製造方法においては、後に続く高周波振動付与工程において膜中の異方性フィラーを再配列させるので、膜形成の際に決まる異方性フィラーの配向状態を考慮する必要はなく、自由に塗膜形成方法を選択することができる。
塗膜の厚さは、用途、目的等に応じて適宜決定することができ、例えば、10~5000μmとすることができる。
【0027】
本実施形態の製造方法においては、膜形成工程に続いて、膜に5kHz以上の周波数を有する振動を与える工程を有する。本発明者らの研究によれば、膜に高周波振動を与えると、異方性フィラーが再配列し、仮に横配向していたような場合でも、ランダム配向、さらには、縦配向に近づくことが判明した。このような再配列は、高周波振動付与により発生するキャビテーション現象で生じる泡が弾けるときの衝撃波の作用によると推測されるが、機序はこれによらない。
この際、振動を付与する対象である膜は、異方性フィラーの再配列を許すよう、流動可能、すなわち、液状(液体(ゾル状及びゲル状を含む))、であることが必要である。
インクが溶剤や分散媒を含まず、樹脂が熱可塑性樹脂である場合(インクが熱溶融インクである場合)には、膜の形成方法は溶融塗工となるが、その場合、膜形成後に膜が冷却されて硬化(固化)してしまうことがある。したがって、そのような場合には、膜を加熱し続けて流動可能状態を維持したり、いったん硬化した硬化膜を加熱して再び液状に戻すなどして、高周波振動付与工程において膜が流動可能状態にあるようにする。
【0028】
塗膜に高周波振動を付与する方法に限定はなく、例えば、超音波発生装置を利用して、塗膜を保持する支持体を介して塗膜に振動を付与することができる。
振動の周波数は、5kHz以上であり、上限はないが、例えば、10~1000kHz或いは15~1000kHzとしてもよい。
また、用いる周波数の種類に限定はなく、単一の周波数を有する振動を付与してもよいし、経時的に周波数が変わる振動を用いてもよいし、さらに、異なる周波数を有する複数の振動を組み合わせて用いること(スイープ振動)も効果的である。
適切な周波数は、異方性フィラーの形状、大きさに応じて変わり、一般に、フィラーの粒径が大きいほど低い周波数が、粒径が小さいほど高い周波数が適している。すなわち、高周波振動(超音波)の衝撃力は周波数が低いほど大きいため、周波数を高くすると、大きな異方性フィラーがランダムに配向する傾向がある。一方、定常波間隔は周波数が高いほど狭いため、周波数を低くすると、小さな異方性フィラーをランダムに配向させるのに効果的である。
高周波振動を付与する時間に限定はなく、振動の周波数、膜厚に応じて適宜決定することができ、例えば、1秒~300秒とすることができる。
【0029】
本実施形態においては、さらに、以上のようにして異方性フィラーを再配列させた膜をプレスする工程を含んでもよく、これにより膜中に含まれる空隙を除去することができる。膜中に空隙が存在しているとその熱伝導率が低下することがある。そのため、シートを熱伝導シートとして利用する場合には、このようなプレスは特に有効である。
その際のプレス条件(圧力、温度、時間、雰囲気等)に限定はなく、異方性フィラーや樹脂の種類、膜中のフィラーの含有量等を考慮して膜中の異方性フィラーの配列に影響を与えることなく空隙を除去できるような条件を適宜決定すればよい。プレス圧は、例えば、0.01~20MPaとすることができ、10Mpa以下でもよく、通常は5MPa以下でも十分である。
なお、膜を構成するインクの粘度が低く、そのままではプレスするのが難しい場合などには、プレス工程に先立ち、膜から溶剤の一部又は全てを除去して、膜を半硬化させてもよい。その際の溶剤の除去方法に限定はなく、例えば、真空乾燥、加熱乾燥等の方法を適宜採用することができる。
【0030】
以上のようにして形成した膜は、必要に応じて適宜乾燥及び/又は硬化させることができる。硬化させる場合、硬化方法に限定はなく、樹脂の種類に応じて加熱や光照射を行うなどして硬化させることができる。
【0031】
本実施形態において、異方性フィラー含有シートの厚さは用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、10~1000μmとすることができる。
また、異方性フィラー含有シートが熱伝導シートである場合、シートの厚み方向の熱伝導率は.0W/m・K以上であることが好ましく、7.0W/m・K以上であることがより好ましく、10.0W/m・K以上であることがさらに好ましい。熱伝導率に上限はなく、大きいほど好ましい。本実施形態の製造方法によれば、このような高熱伝導率の熱伝導シートの製造も可能である。
【実施例
【0032】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例及び比較例において作製した異方性フィラー含有シートの特性の測定方法を以下に示す。
<各特性の評価方法>
(1)熱伝導率
実施例及び比較例で得られたシート(後述のCシート)から試験片(10mm×10mm×厚さ1mm)を切り出し、この試験片についてNETZSCH製キセノンフラッシュアナライザーLFA447型熱伝導率計を用いてレーザーフラシュで試験片の熱拡散率を測定した。
以上のようにして得られた熱拡散率;密度測定器(メトラー・トレド株式会社製 MS-DNY-43)を用いて測定したシートの密度;及び;窒化ホウ素と樹脂(硬化物)各々の比熱(窒化ホウ素:0.81J/g・K、樹脂:0.80J/g・K)とのこれらのシート中での質量比ら算出(質量比に応じて按分した平均値)されるシートの比熱の積から熱伝導率(W/m・K)を算出した。
(2)配向強度比
シート中の窒化ホウ素一次粒子の配向性は、X線回折法によるI(002)回析線(2θ=26.5°)の強度とI(100)回析線(2θ=41.5°)の強度との比(I(002)/I(100))により評価した。ただし、X線回折法により評価されるのは、シートの表面付近の範囲に存在する粒子の配向性である。
六方晶である窒化ホウ素一次粒子の厚み方向は結晶学的なI(002)回析線すなわちc軸方向、面内方向はI(100)回析線すなわちa軸方向にそれぞれ一致している。窒化ホウ素粒子凝集体を構成する窒化ホウ素一次粒子が、完全にランダムな配向(無配向)で有る場合、(I(002)/I(100))≒6.7になる(「JCPDS[粉末X線回折データベース]」No.34-0421[BN]の結晶密度値[Dx])。(I(002)/I(100))が小さいほど、六方晶の窒化ホウ素粒子のa軸方向が厚さ方向に配向していることを意味する。
具体的には、実施例及び比較例で得られたシートから試験片(5mm×5mm×厚さ0.2mm)を切り出し、「全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLab」(リガク社製、X線源:CuKα線、管電圧:45kV、管電流:360mA)を用いて、X線を試験片の厚み方向に照射して、I(002)回析線とI(100)回析線の強度を測定した。
【0033】
(実施例1)
本発明の方法を用いて、鱗片状窒化ホウ素粒子と樹脂とを含むシートを作製した。
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(日本化薬製「EPPN-501H」)100質量部、硬化剤(フェノーノボラック系硬化剤、明和化成製「DL-92」)63質量部、及び硬化触媒(2フェニルイミダゾール、四国化成製)0.01質量部を混合し、樹脂組成物を調製した。なお、エポキシ樹脂と硬化剤の配合比率は、エポキシ樹脂/硬化剤の官能基が当量比で1.0となるようにした。
次に、異方性フィラーとして平均粒径45μmの窒化ホウ素一次粒子(モメンティブパフォーマンス製「PT110」)100質量部に、カップリング剤として3-グリコキシドプロピルトリメトキシラン(東京化成工業株式会社製)1.5質量部を滴下し、自転公転ミキサー(シンキー AR-100)で攪拌した。
続いて、溶剤(メチルエチルケトン)50質量部中で、前記樹脂組成物39体積%と、上記カップリング剤を付加した窒化ホウ素一次粒子61体積%の合計50質量部とを混合し、インクを調製した。
このインクをアプリケーター(株式会社井元製作所製)(ギャップ約1.5mm)で支持体(銅箔)上に塗工し、平らな塗膜を形成した。続いて、これをアルミ板に載せ、超音波発生装置(株式会社日本精機製作所製 超音波ホモジナイザーUS-600T)の振動素子を上記アルミ板にあて、アルミ板、銅箔を介して塗膜に3分間超音波振動を付与し、その後静置した。
次いで、上記塗膜を120℃10分で乾燥させ溶剤を除去して、半硬化シート(Bシート)(約1.5mm厚)を作製した。
これを180℃真空下で、2時間、10MPaの条件で真空プレスし、硬化させ、最後に銅箔を剥して異方性フィラー含有シート(Cシート)を作製した。
【0034】
(実施例2)
半硬化シートに対する真空プレス時のプレス圧力を5MPaとした以外は実施例1と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(実施例3)
溶剤(メチルエチルケトン)50質量部中で、前記樹脂組成物30体積%と、前記カップリング剤を付加した窒化ホウ素一次粒子70体積%の合計50質量部とを混合してインクを調製した(インク固形分中の異方性フィラーの割合を変更した)以外は実施例1と同様にして異方性フィラー含有シートを作製した。
(実施例4)
異方性フィラーとして平均粒径12μmの窒化ホウ素一次粒子(トクヤマ製「πBN-S03」)を用いた以外は実施例1と同様にして異方性フィラー含有シートを作製した。
(実施例5)
半硬化シートに対する真空プレス時のプレス圧力を5MPaとした以外は実施例4と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(実施例6)
溶剤(メチルエチルケトン)50質量部中で、前記樹脂組成物30体積%と、前記カップリング剤を付加した窒化ホウ素一次粒子70体積%の合計50質量部とを混合してインクを調製した(インク固形分中の異方性フィラーの割合を変更した)以外は実施例4と同様にして異方性フィラー含有シートを作製した。
【0035】
(比較例1)
超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例1と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(比較例2)
超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例3と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(比較例3)
超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例4と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(比較例4)
超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例6と同様にして異方性フィラー含有シートを得た。
(比較例5)
異方性フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子(デンカ製「SGPS」)を用い、かつ超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例1と同様にして異方性フィラー含有シートを作製した。
(比較例6)
異方性フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子(デンカ製「SGPS」)を用い、かつ超音波振動の付与を行わなかった以外は実施例3と同様にして異方性フィラー含有シートを作製した。
【0036】
実施例1~6、及び、比較例1~6で作製した異方性フィラー含有シートの熱伝導率と窒化ホウ素一次粒子の配向強度比(I(002)/I(100))を表1に示す。
実施例1と2のシートは、同じインクを用い、高周波振動の付与なしで作製した比較例1と比較して、配向強度比I(002)/I(100)が小さく(ランダム配向の場合の理論値6.7に近く)、熱伝導率が約2~3倍高くなった。なお、実施例1及び2、比較例1いずれにおいても、X線回折法で評価されるシート表面付近の粒子の配向強度比が、プレス後(Cシート)においてはプレス前(Bシート)と比べて大きくなったが、これは、シート表面付近に存在する縦配向した粒子の一部が、プレス板に押されて横配向したためと考えられ、シート内部においてはランダム配向性は維持されていると考えられる。実際、実施例2及び比較例1で得られたシート(Cシート)の断面のSEM画像からは、高周波振動を付与せずに得られたシートの内部では粒子が横配向しているのに対し(比較例1、図2)、高周波振動を付与して得られたシートの内部では粒子がランダムに配向していることが確認できた(実施例2、図1)。
同様に、実施例3~6のシートは、いずれも、同じインクを用い、高周波振動の付与なしで作製した対応するもの(比較例2~4)と比較して熱伝導率が約2倍高くなった。
また、実施例4のシートは、異方性フィラーとして凝集窒化ホウ素粒子を用い、高周波振動を付与しなかった以外は同様にして作製した比較例5のシートと比較して、配向強度比は大きいものの、空隙率が低く、その結果熱伝導率は高くなった。
同様に、実施例6のシートは、異方性フィラーとして凝集窒化ホウ素粒子を用い、高周波振動の付与しなかった以外は同様にして作製した比較例6のシートと比較して、配向強度比は大きいものの、空隙率が低く、その結果熱伝導率は高くなった。
【0037】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の製造方法により製造される異方性フィラー含有シートは、各種用途に使用できる。
本発明の製造方法により製造される異方性フィラー含有シートは、異方性フィラーとして熱伝導性物質を用いた場合には、熱伝導シートとして利用でき、特に、高い熱伝導性を有すると共に絶縁性も有しているので、熱伝導性と絶縁性を要求される各種用途(例えば、電力機器用回路基板や半導体パワーデバイス等の発熱性電子部品における放熱性絶縁層や接着剤層の材料など)に好適に使用できる。
【0039】
本願は、2017年6月9日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2017-114377)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。

図1
図2