IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-微細セルロース繊維を含む組成物 図1
  • 特許-微細セルロース繊維を含む組成物 図2
  • 特許-微細セルロース繊維を含む組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20220809BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020048602
(22)【出願日】2020-03-19
(62)【分割の表示】P 2016554083の分割
【原出願日】2015-10-13
(65)【公開番号】P2020100845
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2014211020
(32)【優先日】2014-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015145662
(32)【優先日】2015-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】本間 郁絵
(72)【発明者】
【氏名】嶋岡 隆行
(72)【発明者】
【氏名】水上 萌
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 拓里
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】角田 充
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126788(JP,A)
【文献】特開2008-050377(JP,A)
【文献】特開2008-106178(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0274149(US,A1)
【文献】特開平11-323018(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】特開2011-017393(JP,A)
【文献】特開2013-181084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00- 13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む、塩水用増粘剤であって、微細セルロース繊維が20質量%以上である濃縮物または乾燥物の形態であり、塩水の塩濃度が1%以上である、塩水用増粘剤。
・置換基としてアニオン基を0.1~3.0mmol/g有する微細セルロース繊維
キサンタンガム
【請求項2】
置換基が、カルボン酸由の基、スルホン酸由来の基およびリン酸由来の基からなる群より選択されるいずれかである、請求項1に記載の増粘剤。
【請求項3】
微細セルロース繊維1質量部に対するキサンタンガムの配合量が0.05~50質量部である、請求項1又は2に記載の増粘剤。
【請求項4】
請求項1に記載の塩水が、無機塩類を含む、請求項1~3のいずれかに記載の増粘剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の増粘剤と塩と水を含む、流体。
【請求項6】
フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)である、請求項5に記載の流体。
【請求項7】
置換基としてアニオン基を0.1~3.0mmol/g有する微細セルロース繊維と、キサンタンガムとを含み、微細セルロース繊維が20質量%以上である濃縮物または乾燥物を用意する工程、
前記濃縮物または乾燥物と、水を混合し、混合物を得る工程、および
得られた混合物に塩を添加する工程
を含む、請求項5または6に記載の流体の製造方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載の流体を用いる、地下層の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維を含む組成物に関する。より詳細には、微細セルロース繊維に対して水溶性高分子を混合することにより、塩を含む液中でも安定分散を可能とした微細セルロース繊維を含む、塩水用増粘剤に関する。該塩水用増粘剤は、地下層処理などにおいて用いることができる。
【背景技術】
【0002】
微細セルロース繊維を水など液中に分散する際に液中に塩が含まれていると微細セルロース繊維の分散性が低下するという問題がある。分散性が低下するとセルロース微細繊維が有する効果(例えば、増粘性などの効果)が充分に発揮されない。従って、塩が含まれている液中でも微細セルロース繊維が均一に分散できるような組成物の開発が望まれている。もし、塩が含まれている液中でも微細セルロース繊維を均一に分散することが可能となれば、海水、塩が含まれる化粧品、食品、飲料などへ微細セルロース繊維を均一に分散させることができる。例えば、掘削では、増粘剤を掘削液に混合し用いられているが、増粘剤を分散させる溶媒として海水を用いる場合がある。従って、微細セルロース繊維が、海水中でも均一(良好)に分散することが望ましい。
【0003】
地下の層または区域に存在しているガス、石油、および水のような天然資源は、通常は掘削孔中に掘削流体を循環させながら地下層まで掘削孔を掘ることで回収される。石油、ガスの回収では、フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packingfluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)等の地下層の処理のための流体が使用される。これらの流体の多くには増粘剤、例えばキサンタンガムなどの天然多糖、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの合成高分子が使用されている。
【0004】
一方、このような用途における増粘剤の成分として、微細なセルロース繊維(特許文献1)、酸加水分解法にて製造したセルロースナノウィスカー(特許文献2)が知られている。またナノ結晶性セルロースを含む地下層処理のための組成物が提案されている(特許文献3)。さらに、近年、セルロースの結晶性を維持したまま、ナノサイズの微細セルロース繊維を製造する画期的な方法が開発された(非特許文献1)。この方法では、セルロース繊維表面にアルデヒド基やカルボキシ基を導入した後、機械処理により微細なセルロース繊維を生成させる。この方法は、静電反発効果により超微細化することができ、また得られた微細繊維が水中で凝集せず、安定分散した状態となりうる。この方法で製造した微細セルロース繊維を化粧品用増粘剤や掘削用増粘剤に使用することが提案されている(特許文献4、5)。
【0005】
また、ナノウィスカーが、塩を含む水中では電気二重層の圧縮により、静電反発効果が弱まり、安定的に分散できないことが報告されている(非特許文献2)。また多価金属の塩を含む凝集剤の使用により、微細繊維状セルロース凝集物を得る技術が開発されている(特許文献6)。微細セルロース繊維を塩を含む液中で均一に分散させる技術については、非常に低濃度の塩水中に分散させる技術しか開示されておらず、高濃度の塩水中で分散可能なことは示されていない。また微細セルロース繊維についても化学変性されたものを用いていない(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US6348436公報
【文献】US2013/0196883公報
【文献】US2013/0274149公報
【文献】特開2010-37348公報(特許第5296445号)
【文献】US2013/0035263公報
【文献】WO2014/024876公報
【文献】特開2006―8857公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Saito T & al. Homogeneous suspentions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91
【文献】Araki. J. Electrostatic or steric? - preparation and characterizations of well-dispersed systems containing rod-like nanowhiskers of crystalline polysaccharides, Soft Matter, 2013, 9, 4125-4141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
海底の地下層を処理する場合等、地下層処理流体には塩水が配合される場合が多い。また、化粧品や食品等の用途においても無機塩などの塩を含む処方が用いられている。そのため、塩を含む液体(以下、「塩水」も「塩を含む液体」に含まれるものと定義する。)に微細セルロースが安定に分散し、微細セルロース繊維が有する機能(例えば、増粘剤としての機能)を十分に発揮できる技術の開発が望まれている。また、通常、低濃度の懸濁液として調製された微細セルロース繊維を、運搬・保管上の観点から懸濁液をいったん濃縮物や乾燥物の形態とし、その濃縮物や乾燥物を塩を含む液中に均一に再分散できることやその濃縮物や乾燥物を塩を含まない液中に再分散した後に塩が添加された際に均一に分散できることが望ましい。例えば、地下層処理用流体を調製する際に濃縮物や乾燥物を塩を含む液中に再分散して用いることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、こうした事情を鑑み、塩水中でも安定的に分散させることのできる技術を検討した。その結果、微細繊維と水溶性高分子とを特定の条件で混合することにより、塩の存在する液中でも安定的に分散できることを見出した。また、水溶性高分子と混合することにより、濃縮工程を経た場合であっても、微細繊維を液中に再分散することができることを見出した。このような知見に基づき、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1] 下記を含む、塩水用増粘剤。
・微細セルロース繊維
・水溶性高分子
[2] 微細セルロース繊維1質量部に対する水溶液高分子の配合量が0.05~50質量部である、1に記載の増粘剤。
[3] 微細セルロース繊維が6質量%以上である濃縮物、または乾燥物の形態である、1または2に記載の増粘剤。
[4] 1に記載の塩水が、無機塩類を含む、1~3のいずれかに記載の増粘剤。
[5] 微細セルロース繊維が置換基を有し、置換基がアニオン基である、1~4のいずれか1項に記載の増粘剤。
[6] 置換基が、カルボン酸由来の基、スルホン酸由来の基およびリン酸由来の基からなる群より選択されるいずれかである、1~5のいずれか1項に記載の増粘剤。
[7] 微細セルロース繊維が、置換基を0.1~3.0mmol/g有する、1~6のいずれか1項に記載の増粘剤。
[8] 1~7のいずれか1項に記載の増粘剤と塩と水を含む、流体。
[9] フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)である、8の流体。
[10] 微細セルロース繊維と水溶性高分子と水を混合し、混合物を得る工程、および
得られた混合物に塩を添加する工程
を含む、8または9に記載の流体の製造方法。
[11] 8または9に記載の流体を用いる、地下層の処理方法。
【0011】
また本発明は、以下を提供する。
[1]下記を含む組成物。
・微細セルロース繊維
・水溶性高分子
[2]塩を含む液中で微細セルロース繊維が安定に分散される1に記載の組成物。
[3]微細セルロース繊維1質量部に対する水溶液高分子の配合量が0.05~50質量部である請求項1または2に記載の組成物。
[4]微細セルロース繊維が6質量%以上である濃縮物、または乾燥物の形態である、1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]微細セルロース繊維が置換基を有し、置換基がアニオン基である、1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]置換基が、カルボキシル基、スルホン基およびリン酸基からなる群より選択されるいずれかである、1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]微細セルロース繊維が、置換基を0.1~3.0mmol/g有する、1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]1~7のいずれか1項に記載の組成物を含む、流体。
[9]フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)である9の流体。
[10]下記を含み、8または9の流体を用いる、対象の処理方法。
・微細セルロース繊維
・水溶性高分子
【0012】
本発明はまた、以下を提供する。
[1] 下記を含む、地下層処理用組成物。
・微細セルロース繊維
・水溶性高分子
[2] 1に記載の組成物であって、微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度を超えた塩濃度の流体に、微細セルロース繊維が0.05~2質量%となるように組成物を用いた際に、微細セルロース繊維が安定に分散される、組成物。
[3] 1に記載の組成物であって、1質量%のNaCl水溶液に微細セルロース繊維が0.4質量%となるように組成物を混合して得た液において、微細セルロース繊維が均一に分散されるか、および/または液の粘度が3000mPa・s以上である、組成物。
[4] 微細セルロース繊維が置換基を有し、置換基がアニオン基である、1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 置換基が、カルボキシル基、スルホン基およびリン酸基からなる群より選択されるいずれかである、4に記載の組成物。
[6] 微細セルロース繊維が、置換基を0.1~3.0mmol/g有する、4または5に記載の組成物。
[7] 水溶性高分子を、微細セルロース繊維の6質量%未満の懸濁液であって塩を含まないかまたは塩が微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度である液に混合する工程を含む製造方法により製造される、1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 微細セルロース繊維が6~80質量%である濃縮物、または乾燥物の形態である、1~7のいずれか1項に記載の組成物。
[9] 1~8のいずれか1項に記載の組成物を含む、掘削用流体。
[10] 水溶性高分子を、微細セルロース繊維の6質量%未満の懸濁液であって、塩を含まないかまたは塩が微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度である液に混合して、微細セルロース繊維および水溶性高分子を含む組成物を得て、
得られた組成物を、塩濃度が0.1質量%以上である流体に混合する
工程を含む、地下層処理用流体の製造方法。
[11] 下記を含み、塩濃度が0.1質量%以上である流体を用いる、地下層の処理方法。
・微細セルロース繊維
・水溶性高分子
[12] 1~8に記載の組成物を含む、フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)で地下層を処理する、地下層の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細繊維を水溶性高分子と混合することにより微細セルロース繊維を、塩(電解質)を含む液中でも安定に分散させることができるため、微細繊維と水溶性高分子を含む組成物は、高い粘度を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、製造例1で得られたセルロース繊維1のマイクロスコープ観察写真(左)および透過型電子顕微鏡観察写真(右)である。
図2図2は、製造例2で得られたセルロース繊維2のマイクロスコープ観察写真(左)および透過型電子顕微鏡観察写真(右)である。
図3図3は、伝導度滴定法による置換基量測定における、3つの領域を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書に記載される材料、方法および数値範囲などの説明は、発明の実施態様を例示したものであり、当該材料、方法および数値範囲などに発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、それ以外の材料、方法および数値範囲などの使用を除外するものでもない。
【0016】
範囲「X~Y」は、両端の値を含む。「%」および「部」は、特に記載した場合を除き、質量に基づく割合を表す。
【0017】
〔塩水用増粘剤〕
本発明は、微細セルロース繊維および水溶性高分子を含む、組成物であって、塩水用の増粘剤として適したもの(塩水用増粘剤)を提供する。本発明の組成物は、地下層の処理などにおいて用いることができる。
【0018】
<微細セルロース繊維>
セルロース原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましいが、特に限定されない。製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)など)、針葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)など)が挙げられる。また、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、より入手しやすいことから、クラフトパルプ、脱墨パルプ、サルファイトパルプが好ましいが、特に限定されない。セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
本発明でセルロース繊維というときは、特に記載した場合を除き、粗大セルロース繊維と微細セルロース繊維とを含む。
【0020】
粗大セルロース繊維(単に、粗大繊維ということもある。)の平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、例えば1μm以上であり、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
【0021】
微細セルロース繊維(単に、微細繊維ということもある。)の平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、好ましくは2~1000nm、より好ましくは2~100nmであり、より好ましくは2~50nmであり、さらに好ましくは2nm~10nmであるが、特に限定されない。微細セルロース繊維の平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細セルロース繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。ここで、微細セルロース繊維がI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14~17°付近と2θ=22~23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0022】
セルロース繊維の電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05~0.1質量%のセルロース繊維の水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0023】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0024】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。セルロース繊維の平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0025】
微細セルロース繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1~1000μmが好ましく、0.1~800μmがさらに好ましく、0.1~600μmが特に好ましい。繊維長が0.1μm未満になると、微細セルロース繊維の結晶領域も破壊されていることになり、本来の物性を発揮できない。1000μmを超えると微細繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0026】
<化学的処理>
本発明においては、微細セルロース繊維としては、セルロース原料を化学的処理および解繊処理することによって得られる、リン酸基またはリン酸基に由来する置換基(以下、リン酸基およびリン酸基に由来する置換基を、リン酸由来の基ともいう。)、スルホン酸基またはスルホン酸基に由来する置換基(以下、スルホン酸基およびスルホン酸基に由来する置換基を、スルホン酸由来の基ともいう。)リン酸由来の基、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(以下、カルボキシ基およびカルボキシ基に由来する置換基を、カルボン酸由来の基ともいう。)等の置換基を有する微細セルロース繊維を使用することができる。置換基を有する微細セルロース繊維は、静電反発効果により超微細化することができる点で好ましい。また置換基を有する微細セルロース繊維は、静電反発効果により水中で凝集せず、安定となりうる一方で、塩を含む水中ではその効果が弱まり、安定的に分散することが困難となる。そのため、本発明を適用して塩を含む水中でも安定化し、増粘効果を発揮させるのに、特に適している。
【0027】
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO酸化処理、酵素処理、またはセルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
酸処理の一例としては、Otto van den Berg; Jeffrey R. Capadona; Christoph Weder;Biomacromolecules 2007, 8, 1353-1357.に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、硫酸や塩酸等によりセルロース繊維を加水分解処理する。高濃度の酸処理により製造されるものは、非結晶領域がほとんど分解され、繊維の短いもの(セルロースナノクリスタルとも呼ばれる)になるが、これらも微細セルロース繊維に含まれる。
【0029】
オゾン処理の一例としては、特開2010-254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0030】
TEMPO酸化の一例としては、Saito T & al. Homogeneous suspentions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をTEMPO酸化処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0031】
酵素処理の一例としては、特願2012-115411号(特願2012-115411号に記載の内容は全て本明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0032】
EG活性は下記のように測定し、定義される。
濃度1% (W/V) のカルボキシルメチルセルロース(CMCNa High viscosity; Cat No.150561, MP Biomedicals, lnc.)の基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製する。測定用酵素を予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入ればよい)した。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた酵素溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させる。
検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5~5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温する。
【0033】
前記反応後の酵素含有溶液、検量線用ブランクおよびグルコース標準液に、それぞれ300 μlのDNS発色液(1. 6質量%のNaOH、1質量%の3,5-ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させる。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合する。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定する。
吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレート(例えば、269620、NUNC社製)に20Oμlを分注し、マイクロプレートリーダー(例えば、infiniteM200、TECAN社製)を用い、540nmの吸光度を測定することができる。
【0034】
ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成する。酵素溶液中のグルコース相当生成量は酵素溶液の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出する(酵素溶液の吸光度が検量線に入らない場合は前記緩衝液で酵素を希釈する際の希釈倍率を変えて再測定を行う) 。1分間にlμmoleのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求めることができる。
EG活性=緩衝液で希釈して得られた酵素溶液1m1のグルコース相当生成量(μmole) /30分×希釈倍率 [福井作蔵, “生物化学実験法(還元糖の定量法)第二版”、学会出版センター、p.23~24(1990年)参照]
【0035】
CBHI活性は下記のように測定し、定義される。
96穴マイクロウェルプレート(例えば、269620、NUNC社製)に1. 25mMの4-Methylumberiferyl-cel1obioside (濃度125mM、pH5. 0の酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液に溶解した) 3 2μlを分注する。100mMのGlucono-l,5-Lactone 4μlを添加し、さらに、前記同様の緩衝液で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の蛍光発光度が下記標準液から得られた検量線に入ればよい)した測定用酵素液4μlを加え、37℃、30分間反応させる。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加し、反応を停止させる。
【0036】
前記同様の96穴マイクロウエルプレートに検量線の標準液として4-Methyl-umberiferon標準溶液40μ1 (濃度0~50μMのすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を分注し、37℃、30分間加温する。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加する。
【0037】
マイクロプレートリーダー(例えば、F1uoroskanAscentFL、ThermoーLabsystems社製)を用い、350nm (励起光460n皿)における蛍光発光度を測定する。標準液のデータから作成した検量線を用い、酵素溶液中の4-Methy1-umberiferon生成量を算出する(酵素溶液の蛍光発光度が検量線に入らない場合は希釈率を変えて再測定を行う) 。1分間に1μmo1の4-Methyl-umberiferonを生成する酵素の量を1単位とし、下記式からCBHI活性を求めることができる。
CBHI活性=希釈後酵素溶液1m1の4-Methyl-umberiferon生成量(μmo1e)/30分×希釈倍率
【0038】
セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、以下の方法を挙げることができるが、特に限定されない。
・特開2011-162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理;
・特開2013-136859号に記載されているカルボン酸系化合物を使用する方法;並びに
・国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくなくとも1種の化合物」を使用する方法。
・特開2013-185122号に記載されているカルボキシメチル化反応を使用する方法。
【0039】
<置換基導入>
本発明の特に好ましい態様においては、微細セルロース繊維はアニオン性基を有し、より好ましい態様では微細セルロース繊維は、リン酸由来の基、スルホン酸由来の基、およびカルボン酸由来の基からなる群より選択されるいずれかを有している。特に好ましい態様の一つでは、微細セルロース繊維は、リン酸由来の基を有している。
【0040】
(置換基の導入量)
置換基の導入量は特に限定されないが、微細セルロース繊維1g(質量)あたり0.1~3.0mmol/gであり、0.14~2.5mmol/gが好ましく、0.2~2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2~1.8mmol/gが特に好ましい。置換基の導入量が0.1mmol/g未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細セルロース繊維の安定性が劣る。置換基の導入量が3.0mmol/gを超えると、十分な粘度が得られない。
【0041】
(リン酸由来の基の導入工程)
以下にリン酸由来の基を導入するためのリン酸エステル化を代表例として説明するが、当業者であれば、その説明を他の基を有する場合にも適宜応用して理解することができる。
本実施態様のリン酸エステル化微細セルロース繊維の製造方法は、リン酸由来の基の導入工程を含む。リン酸由来の基の導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸由来の基を有する化合物または/およびその塩(以下、「化合物A」という。)を、尿素または/およびその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で作用させる工程である。これにより、セルロース繊維のヒドロキシ基に、リン酸由来の基を導入する。
【0042】
リン酸由来の基の導入工程は、セルロースにリン酸由来の基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0043】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましいが、特に限定されない。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加しても良いし、別々に添加しても良い。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0044】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸由来の基を有する化合物または/およびその塩である。
リン酸由来の基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0045】
これらのうち、リン酸由来の基の導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
【0046】
また、反応の均一性が高まり、且つリン酸由来の基の導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸由来の基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7がさらに好ましい。前記のpHは例えば、リン酸由来の基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整しても良い。または、前記のpHは、リン酸由来の基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整しても良い。
【0047】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5~100質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましく、2~30質量%が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が0.5~100質量%の範囲であれば、微細セルロース繊維の収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇するため好ましくない。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量が0.5質量%より低いと充分な収率が得られないため好ましくない。
【0048】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられるが特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0049】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましいが、特に限定されない。
繊維原料に対する化合物Bの添加量は1~300質量%であることが好ましいが、特に限定されない。
【0050】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでも良い。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0051】
リン酸由来の基の導入量は特に限定されないが、微細セルロース繊維1g(質量)あたり0.1~3.0mmol/gであり、0.14~2.5mmol/gが好ましく、0.2~2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2~1.8mmol/gが特に好ましい。置換基の導入量が0.1mmol/g未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細セルロース繊維の安定性が劣る。置換基の導入量が3.0mmol/gを超えると、十分な粘度が得られない。
【0052】
リン酸由来の基の繊維原料への導入量については、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細セルロース繊維含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求める、伝導度滴定法を用いる。
【0053】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸由来の基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸由来の基の導入量(またはリン酸由来の基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0054】
(アルカリ処理)
リン酸化微細繊維を製造する場合、リン酸由来の基の導入工程と後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸由来の基の導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよく、特に限定されない。前記溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましいが、特に限定されない。
【0055】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5~80℃が好ましく、10~60℃がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5~30分間が好ましく、10~20分間がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸導入繊維の絶乾質量に対して100~100000質量%であることが好ましく、1000~10000質量%であることがより好ましい。
【0056】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸由来の基の導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸由来の基の導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましいが、特に限定されない。
【0057】
<解繊処理>
前記で得られた微細繊維を解繊処理工程で解繊処理することができる。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。
【0058】
好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザーが挙げられるが、特に限定されない。
【0059】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0060】
<水溶性高分子>
本発明においては、微細セルロース繊維を塩を含む液中で安定的に分散させるために、水溶性高分子を混合させる。特に塩を含む液中の場合、効果が顕著である。水溶性高分子は、液中では膨潤作用による立体障害により、微細セルロース繊維の凝集を防ぎ分散安定化させていると考えられる。塩としては、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、(NH4)2SO4、Na2CO3等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0061】
水溶性高分子としては、特に限定されないが、キサンタンガム、アルギン酸、グァーガム、プルラン等の天然水溶性高分子誘導体類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースなどの水溶性セルロース類、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン等のデンプン類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、高分子界面活性剤が挙げられる。特に好ましい態様においては、官能基を有する微細セルロース繊維との混合性が良いとの観点から、天然水溶性高分子誘導体類および/または水溶性セルロース類および/または高分子界面活性剤を用いることが好ましい。また、それ自体が耐塩性を有しており、塩水中でも高い膨潤作用を示し、かつ官能基を有しており高い分散性を示すとの観点からは、キサンタンガムまたはカルボキシメチルセルロースまたはポリカルボン酸型界面活性剤を用いることが好ましい。水溶性高分子の分子量は、目的の効果が発揮できる限り特に限定されず、塩水用増粘剤が用いられる用途において許容される各種の分子量のもの、例えば数万~数千万の分子量ものを用いることができる。例えば、キサンタンガムとしては、分子量1万~5000万のものを用いることができる。キサンタンガムの分子量の下限値は、上限値がいずれの場合であっても、例えば20万以上であってもよく、200万以上であってもよい。また、カルボキシメチルセルロースとしては、分子量10,000~1,000,000のものを用いることができる。さらにポリカルボン酸型界面活性剤としては、分子量5,000~500,000のものを用いることができる。
水溶性高分子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
水溶性高分子の塩水用増粘剤における配合量は、微細セルロース繊維の塩を含む液中での分散安定性を高めるために有効な量である限り特に限定されない。塩を含む液中の塩濃度は、通常、0.02質量%以上で実施される。微細セルロース繊維1質量部(乾燥重量に基づく。以下、特に記載した場合を除き、同じ。)に対して水溶性高分子を0.05~50質量部を配合することができる。微細セルロース繊維1質量部に対して水溶性高分子を0.1~10質量部を配合することが好ましく、水溶性高分子を0.5~5質量部を配合することがより好ましい。微細セルロース繊維1質量部に対する水溶性高分子の配合量が0.05質量部未満であると、水溶性高分子の膨潤作用(立体障害)が十分に発揮されず、微細セルロース繊維が安定に分散しにくくなるため好ましくない。一方、微細セルロース繊維1質量部に対する水溶性高分子の配合量が50質量部を超えると微細セルロース繊維による増粘効果が得られにくくなるため好ましくない。
【0063】
本発明では、0.02質量%以上の塩を含む液中に微細セルロース繊維と水溶性高分子を分散させる。本発明の塩水用増粘剤に含まれる塩の含有量は、0.02質量%以上とすることができる。
【0064】
〔塩水用増粘剤の特性、調製方法〕
本発明者らの検討によると、6質量%以上の比較的高濃度の微細セルロース繊維の懸濁液(濃縮液、乾燥物であることもある。)と塩を含む液とを混合した場合、微細セルロース繊維は、高濃度の状態から分散できず、沈殿やゲル塊が発生することがある。本発明に関し、「微細セルロース繊維が安定に分散される」または「微細セルロース繊維が均一分散される」とは、沈殿もしくはゲル塊が発生しないことを意味する。より具体的には、微細セルロース繊維の終濃度が0.05~2質量%となるように、比較的高濃度の微細セルロース繊維の懸濁液と塩を含む液を混合し、微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度を超える塩濃度の流体を得る場合であっても、ゲル塊が発生しないこと、沈殿が見られないこと(目視により、外観において均一分散が認められること)、または一定以上の粘度が維持されていることを意味する。ある塩の「微細セルロース繊維が安定分散上有効である濃度」とは、6~80質量%である濃縮物または乾燥物の形態の微細セルロース繊維を、微細セルロース繊維の終濃度が0.05~2質量%になるように希釈して溶媒中に分散させようとする際に、ゲルを生じることなく微細セルロース繊維が均一に分散する塩の濃度を意味する。例えば、1価の塩については、1質量%未満であり、多価の塩(例えば2価の塩)では、0.1質量%未満である。より好ましくは、1価の塩については、0.75質量%未満であり、多価の塩では、0.075質量%未満である。さらに好ましくは、1価の塩については、0.5質量%未満であり、多価の塩では、0.05質量%未満である。
【0065】
さらに本発明者らの検討によると、6質量%以下の比較的低濃度のセルロース懸濁液として得られた微細セルロース繊維に対して、予め水溶性高分子を混合せずに塩を添加すると、ゲル化して微細セルロース繊維は安定分散しないことが分かった。しかしながら、セルロース懸濁液と水溶性高分子の溶液と予め混合しておくと、塩を添加しても微細セルロース繊維が安定分散することが分かった。また、水溶性高分子を混合せず、微細セルロース懸濁液を濃縮した濃縮物は、塩の存在する水中で分散できずにゲル塊が生じた。また微細セルロース繊維のみの濃縮物を、水溶性高分子を含む塩の存在する水中に再分散させても十分な粘性は発揮されなかった。しかしながら、微細セルロース繊維の懸濁液に水溶性高分子を混合した後に、濃縮した濃縮物は、塩の存在する液中に安定に再分散することができた。
【0066】
したがって、本発明の塩水用増粘剤を調製する際には、微細セルロース繊維と水溶性高分子とを混合する際の微細セルロース繊維の濃度および/または塩の濃度に留意することが好ましい。本発明の好ましい態様においては、微細セルロース繊維は、濃縮されていない比較的低濃度の、具体的には6質量%未満の懸濁液として、塩を含まないかまたは塩が微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度において、水溶性高分子と混合される。より具体的には、混合時の塩濃度は、1価の塩の場合は、1質量%未満であり、多価の塩の場合は0.1質量%未満であることが好ましい。
【0067】
本発明の塩水用増粘剤は、例えば、掘削用流体を調製するために使用されるが、掘削用流体としての塩の濃度は、0.02質量%以上で用いられるが特に限定されない。使用される際の塩濃度の上限は、塩の飽和濃度であってもよく、飽和濃度の10%であってもよく、飽和濃度の1%であってもよい。流体は複数種類の塩を含んでいてもよい。
本発明では、水溶性高分子を、微細セルロース繊維の6質量%未満の懸濁液であって、塩を含まないかまたは塩が微細セルロース繊維の安定分散上有効である濃度である液に混合して、微細セルロース繊維および水溶性高分子を含む塩水用増粘剤を得て、得られた塩水用増粘剤を、塩濃度が0.02質量%以上である流体に混合することができる。
【0068】
本発明の塩水用増粘剤により、塩を含む液中においても、微細セルロース繊維を安定に分散できる。分散が安定であるかどうかは、ゲル化が起こらないこと、沈殿が見られないこと(目視により、外観において均一分散が認められること)、または一定以上の粘度が維持されていることを基準に、評価することができる。
本発明の塩水用増粘剤は、塩濃度が0.02質量%以上である流体に微細セルロース繊維が0.05~2質量%(好ましくは、0.4質量%)となるように用いた際に、微細セルロース繊維が凝集しない。あるいは、1質量%のNaCl水溶液に微細セルロース繊維が0.4質量%となるように塩水用増粘剤を混合して得た液において、目視により微細セルロース繊維が均一に分散されることが認められるか、および/または1質量%のNaCl水溶液に微細セルロース繊維が0.4質量%となるように塩水用増粘剤を混合して得た液の粘度が3000mPa・s以上、好ましくは6000mPa・s以上、より好ましくは9000mPa・s以上である。
【0069】
〔懸濁液の濃縮、乾燥等〕
微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤は、固形物、スラリー、乾燥物、濃縮物等の種々の形態とすることができる。使用される際には水系の分散媒に分散されることから、分散が容易なように、加工されていてもよい。運搬や作業現場でのハンドリング性の観点から、濃縮物、乾燥物の形態で提供されることが望ましい。
【0070】
濃縮物や乾燥物はハンドリング性の観点から、微細セルロース繊維の固形分濃度が6質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。
【0071】
濃縮や乾燥する際、その方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維を含有する液に濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876(前掲特許文献6)、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。
【0072】
濃縮剤としては、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、有機溶剤などが挙げられる。より詳しくは、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、 無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等)、カチオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p-イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-アセチルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、2-アルキル-4-メチル-4-ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素還アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N-アルキルプロピレンジアミン、N-アルキルポリエチレンポリアミン、N-アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等)、カチオン性高分子凝集剤(アクリルアミドとジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドまたはこれらの塩または四級化物等のカチオン性単量体との共重合物あるいはこれらカチオン性単量体の単独重合物または共重合物等)、アルカリ(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等)、アニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等)、アニオン性高分子凝集剤(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミドの加水分解物、アクリロイルアミノ-2-メチルプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸またはそれらの塩等のビニルスルホン酸類と(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、カルボキシメチルセルロ-ス、カルボキシメチルスタ-チ、アルギン酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0073】
また有機溶剤の例としては、特に限定されないが、水と混和性を有するものが好ましく、さらに極性を有するものが好ましい。極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、アルコール類、ジオキサン類(1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類の具体例は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等である。それら以外の極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。有機溶剤を選択する際、溶解パラメータ値(SP値)を考慮してもよい。2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られているため、水との混和性がよいとの観点からは、水に近いSP値を有する有機溶剤を選択することができる。
【0074】
これらの濃縮剤は1種類でも良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乾燥方法としては、例えば、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。
【0075】
再分散工程において、セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、懸濁液をpH7以上14以下に調整することが望ましい。また、セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、懸濁液のpHを2~7の範囲に調整することが望ましい。
【0076】
前記濃縮、乾燥等の方法により濃縮物、乾燥物を得た場合は、濃縮物または乾燥物を水などの溶媒に再分散させることができる。再分散させた微細セルロース繊維を含有する水溶液の粘度は、濃縮や乾燥前の微細セルロース繊維懸濁液と比較しても十分な粘性を有しており、20℃~80℃の範囲における安定性も高い。
【0077】
〔用途〕
<塩水用増粘剤としての用途>
本発明の、微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤(単に、「本発明の塩水用増粘剤」ということもある。)は、流体に添加することにより流体の特性を種々に改変しうるので、そのような特性を活かした種々の目的において、また種々の対象の処理のために、使用することができる。本発明で「増粘剤」というときは、特に記載した場合を除き、流体に添加した際にその流体の粘度を高めるために適した剤をいう。「増粘剤」には、増粘作用に基づく種々の特性、例えば、止水、他の成分の分散、保水等を高めるために適した剤も含まれる。すなわち、本発明でいう増粘剤の範疇には、止水のための剤、分散剤、保水剤、摩擦低減剤、保冷剤等が含まれる。
本発明の塩水用増粘剤は、微細セルロース繊維やセルロース系材料(セルロース誘導体や結晶セルロース、バクテリアセルロース)が用いられる一般的な用途であって塩が含まれる液状の組成物(流体)に、特に制限なく使用することができる。具体的には地下層処理、化粧品、食品、飲料、医薬品、入浴料、塗料、薬品(農薬等)等において用いることができるが、特に限定されない。
【0078】
例えば、地下層処理に関連しては、例えば下記の用途を挙げることができる。
本発明の置換基を有する微細セルロース繊維を含有する組成物は、塩を含む液中でも優れた増粘効果を発揮するため、海底等の地下層処理において、海水を含む地下層処理用流体において、増粘剤として使用できる。
【0079】
本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤はまた、優れた止水性を発揮しうるので、地下層処理用流体において逸泥防止剤、脱水調節剤として使用できる。
【0080】
本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤は、チキソトロピー性を有することから、泥水に使用した際には、優れた坑壁形成能を発揮しうる。またセメンチング流体に使用した際には、セメント圧入を容易にすることができる。したがって、坑壁形成剤またはセメンチング調節剤として使用できる。
【0081】
本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤はまた、地下層処理用流体において微細繊維のネットワーク間にオイルの液滴が捕捉されることで乳化機能を発現しうることから、乳化剤としての使用が期待できる。具体的には、エマルション系の地下層処理用流体への使用や、地下層処理用流体に配合されるエマルション物質の安定化に使用できる。本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤は、高温、例えば300℃までの環境下でも使用できる。微細セルロース繊維の分解温度は300℃であり、また、高い結晶性に起因し、融点やガラス転移点をもたないため、一般的な樹脂のようなヘタリがない。そのため、高深水の坑井でも使用できる。
【0082】
本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤は、適切な分散媒に分散させて用いることができる。分散媒は微細セルロース繊維を分散することができるものであれば特に限定されず、水、有機溶剤、油(例えば、軽油、ミネラルオイル、合成油、食用油、非食用油)等を用いることができる。
【0083】
本発明の塩水用増粘剤に含有される微細セルロース繊維は、ブレーカーを用いて分解させることができる。分解させることで粘度のコントロールや地下層への残存を防ぐことができる。ブレーカーとしては、セルロース繊維を分解できる種々の成分が利用できる。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の酸化剤、塩酸や硫酸等の酸、およびセルラーゼ等の酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の塩水用増粘剤に含有される微細セルロース繊維は、粘性効果等の向上を狙って、架橋させることができる。架橋剤としては、セルロース繊維を架橋できる種々の成分が利用できる。例えば、ホウ酸塩、水酸化カリウム、硝酸塩、ジルコニウム、チタン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
<流体>
本発明で流体というときは、特に記載した場合を除き、水を含む組成物であって、一定形状を有さないものを指す。流体は、液状組成物ということもできる。流体は、例えば、地下層処理のための組成物、化粧料組成物、食品組成物、飲料組成物、医薬組成物であり得る。
【0086】
本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を流体に含有させて用いる場合、含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。典型的には、流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、0.005~10質量%、好ましくは0.01~5質量%で含有しうる。地下層処理のためのに用いる場合には、高温でも止水性を十分に発揮できるとの観点からは、流体中のセルロース繊維の固形分濃度は、0.05~2質量%である。
【0087】
(地下層処理のための流体)
本発明の塩水用増粘剤は、上述のように、増粘、逸泥防止、脱水調節、乳化、坑壁形成、セメンチング調節のために使用でき、また塩に対して耐性があるため、地下層処理、例えば、坑井掘削において使用される各種の流体に添加して使用することができる。このような流体には、フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、砂利パッキング流体(gravel packing fluid)等が含まれる。
【0088】
(流体中の他の成分)
本発明により提供される流体は、本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤のほか、従来の地下層処理のための流体に添加される各種の成分を含有し得る。添加される成分の例として、加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、脱水調節剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、亀裂支持材、塩およびプロパントを挙げることができるが、これらに限定されない。また、添加される成分は、一種のみならず、二種以上であってもよい。
【0089】
加重材は流体の比重を高め、裸坑壁の安定やガス、水等の噴出を防止するために用いられる。加重材としてはバライトやヘマタイト等の鉱物を使用できるが、これらに限定されない。
【0090】
粘度調整剤はゲル化剤、増粘剤、調泥剤とも呼ばれ、流体の粘度を最適化するために用いられる。このための成分として、ベントナイト、アタバルジャイト、セピオライト、合成スクメタイト等の鉱物類の他、水溶性である天然および合成のポリマーが使用される。水溶性ポリマーの好ましい例の一つは、天然多糖由来のものである。粘度調整剤の具体例としては、天然物または天然物由来のものとして、グァーガムおよびグァーガム誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシルエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、アラビアガム、アルギン酸およびそのエステル類、アルギン酸塩、エレミ樹脂、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、カロブビーンガム、増粘多糖類、タマリンドガム、トラガントガム、デンプングリコール酸塩、デンプン酸塩、ファーセレラン、ブドウ糖、ブドウ糖多糖類、ショ糖、キサンタンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。合成高分子としては、加水分解ポリアクリルアミド(PHPAポリマー)、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート系ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
逸泥防止剤は、地下層処理用流体の流出を防止するために用いられる。逸泥防止剤として、おがくず、わら、セロファン、セメント、パルプ繊維、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアリレート等を使用できるが、これらに限定されない。
【0092】
脱水調節剤は脱水の減少をはかり、坑壁の保護を強化するために使用される。脱水調節剤としては、スルホン化アスファルト誘導体、デンプン誘導体、ポリアリレート、ポリアニオニックセルロース系ポリマー等が使用されるが、これらに限定されない。
【0093】
乳化剤は、一方の液中にそれとは通常混合しにくい他方の液体を分散させるために用いられる。乳化剤としては、グリセリンエステル、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、カプリン酸エチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、オクタン酸セチル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸オクチル、イソノナン酸ドデシル、ステアリン酸グリセリン、パルミチン酸グリセリン、トリ(カプリル酸カプリン酸)グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、ステアリン酸プロピレングリコール、オレイン酸プロピレングリコール、ラウリン酸プロピレングリコール、ステアリン酸グリコール、ジオレイン酸グリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ラウリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ジメチルコンコポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
プロパントは、0.5mm程度の固形物であり、フラクチャリング等の際に割れ目に押し込まれ、支持体となって割れ目を閉じないようにするために用いられる。プロパントの例として、砂、ガラスビーズ、セラミック粒子および樹脂被覆した砂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
(泥水)
流体としての好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を含む、坑井掘削の際に使用される泥水である。泥水におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。泥水は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば0.004~40質量%含有し、0.04~4質量%含有することが好ましく、0.08~2質量%含有することがより好ましい。
【0096】
坑井掘削の際に使用される泥水は、一般に、堀屑を坑底から除去し、地上へ運搬するために使用される。また、泥水は、坑井内の圧力を制御して意図しない流体の坑井内への流入や地上への噴出を防止し、また坑壁を保護して地下層の崩壊を防ぎ、さらにドリルストリングと坑壁との摩擦を減らし、坑井内機器を冷却する役割も有する。堀屑やガスを運搬することにより、地下の情報を提供する役割も有する。泥水には、ベントナイト泥水、リグノスルホネート泥水、KClポリマー泥水、油系泥水等があるが、本実施態様により各種の泥水が提供される。
【0097】
一般に、ベントナイト泥水は安価で取扱いが容易であるが、塩分やセメントに弱く、ゲル化しやすい。これらの決定を補うため、従来、カルボキシメチルセルロース等が添加されることがあるが、本発明により、より高い性能のベントナイト泥水が提供されうる。
【0098】
本実施態様により、本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を含む、分散系泥水が提供される。このような泥水は、分散剤として従来のリグノスルホネート(リグニンスルホン酸ということもある。)や、リグナイト(フミン酸誘導体)、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム)、加重材を含有しうる。本実施態様により提供される分散系の泥水は、泥岩の保護機能、粘性や比重のコントロールの容易性、温度(一般のリグノスルホネート泥水の使用温度は約175℃、リグナイト泥水の使用温度は約190℃といわれる。)、塩、セメント等による耐力が、従来のリグノスルホネート泥水に比較して、より高められていることが期待できる。
【0099】
本実施態様により提供される泥水は、KCl泥水としても構成できる。Kイオンは粘土類の膨潤や分散を抑制する作用に非常に優れていることが知られている。その一方で凝集力が強すぎるために、従来はKイオンを大量に含んだ液中でも増粘性や保護コロイド性を発揮しうる、キタンサンガムや部分加水分解ポリアクリルアミド(PHPA)ポリマーと組み合わせて用いられてきた。本実施態様においては、キタンサンガムやPHPAと共にまたはそれらに代えて、本発明により提供される微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を用いることができる。本実施態様により提供されるKCl泥水は、泥岩の保護機能、粘性や比重のコントロールの容易性、塩やセメント等による耐力が、従来のKCl-ポリマー泥水と比較して、より高められていると期待できる。
【0100】
本実施態様により提供される泥水は、油系泥水としても構成できる。油系泥水には、油分95%以上のオイルマッド、さらに15~35%の水および乳化剤を用いて調製した油中水型の乳化物であるインバートエマルジョンオイルマッドが含まれる。油系泥水は、一般に、水系の泥水に比較して、泥岩層の水和・膨潤の抑制、高温安定性、潤滑性、油層への水の浸入による生産性障害の防止、金属腐食を起こしにくい、腐敗による劣化が少ない等の利点がある。本実施態様により、これらの特性を生かしつつ、さらに改良された油系泥水が提供されると期待できる。
【0101】
(フラクチャリング流体)
好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を含む、水圧破砕において使用されるフラクチャリング流体である。フラクチャリング流体におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。フラクチャリング流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば、0.002~20質量%含有し、0.02~2質量%含有することが好ましく、0.04~1質量%含有することがより好ましい。
【0102】
フラクチャリング流体は、一般に、溶剤または分散媒として、水や有機溶剤を90~95質量%程度含有し、プロパント(支持体)を5~9質量%程度含有する。さらに場合により、ゲル化剤、スケール防止剤、岩石等を溶解するための酸、摩擦低減剤等の種々の添加剤を0.5~1質量%程度含有する。これらの成分および添加剤は、本実施態様により提供されるフラクチャリング流体も同様の範囲で含有することができる。
【0103】
微細セルロース繊維は、フラクチャリング流体において、プロパントの安定分散に加え、架橋反応による更なる粘度の向上や、使用後に分解して流体の粘度を低下させたりすることで柔軟な粘度コントロールを行うことができる。また、フラクチャリング流体において分解性の逸泥防止剤としての利用も可能である。逸泥を防止することで、坑内で圧力をかかりやすくできるため、より良い亀裂を形成させることができる。通常の逸泥防止剤をフラクチャリング流体に添加すると、ガスの産出流路を塞いでしまう恐れがあるが、微細セルロース繊維からなる逸泥防止剤は、使用後に分解すれば、産出流路を塞ぐことがない。
【0104】
(セメンチング流体)
好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する塩水用増粘剤を含む、セメンチング流体である。セメンチング流体におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。セメンチング流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば0.001~40質量%含有し、0.01~20質量%含有することが好ましく、0.05~5質量%含有することがより好ましい。
【0105】
セメンチング流体には、ケイ酸三カルシウム等の一般用セメントや高温度の坑井に使用するクラスGセメント等の高温度耐久性セメントを使用することができる。セメンチング時間の最適化のために、セメント速硬剤やセメント遅硬剤等の固結剤を添加剤として使用することができる。また、セメント分散剤、流動性改善剤、低比重、低脱水セメント添加剤等も使用することができる。その他には、脱水調節剤、強度安定剤、加重材、置換効率の改善や坑内洗浄のためのセメントスペーサー添加剤、坑壁洗浄を行うケミカルウォッシュ添加剤、セメントスラリー消泡剤、スケール防止剤、逸泥防止剤、アルミン酸カルシウム、ポリ燐酸ナトリウム、フライアッシュ、発泡剤、泡安定剤、及び泡を形成するに十分な量のガス等が添加されうる。セメンチング流体が硬化したものに弾力性を与えるためには、流体は、必要に応じて不活性で粉砕されたゴムの粒子を含んでいてもよい。
【0106】
微細セルロース繊維は水中で三次元ネットワークを形成し、微細な物質であっても安定分散させることができる。例えば、セメンチング流体では、10μm以下のセメント粒子が存在している。微細セルロース繊維は10μm以下の粒子であっても安定分散させることができる。また、疎水性の粒子も水中に安定分散させることができ、例えば、疎水処理された顔料粒子、鉱物等も安定分散させることができる。また、微細セルロース繊維は親水性が高いため、セメンチング流体の水分離を抑えることができる。耐塩性も高いため、カルシウム分を多く含むセメンチング流体との相性も良好である。
【0107】
また、地熱坑井のような二酸化炭素を含む高温井戸では、塩水を含む二酸化炭素の存在下で劣化しないセメンチング流体が望まれる。また、地熱坑井やそれに類する井戸で用いられるセメント組成物は軽量、例えば約9.5~約14ポンド/ガロン(約1.14~約1.68g/cm3)の範囲の密度であることが好ましい。本実施態様により、提供されるセメンチング流体を、このような密度範囲に構成することもできる。
【0108】
(化粧料組成物)
本発明の塩水用増粘剤は、上述のように、増粘、他の成分の分散安定化、保水のために使用でき、また塩に対して耐性があるため、塩を含む液状の化粧料組成物に添加して使用することができる。すなわち、流体としての好ましい実施態様の一つは、化粧料組成物である。化粧料組成物は、メイクアップ用のものであってもよく、スキンケア用のもの、頭髪または頭皮用のものであってもよい。化粧料組成物の具体的な形態は、特に限定されないが、溶液、乳化物、懸濁物、クリーム、エアゾール等であり得る。化粧料組成物はまた、本発明の塩水用増粘剤のほかに、化粧料として許容される各種の成分を含んでいてもよい。このような成分の例として、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、酸化防止剤、香料、色素、顔料、粉体、乳化剤、保存料、植物エキス、紫外線吸収剤や美白剤等の機能性成分等が挙げられる。より具体的な成分の例として、精製水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、グリセリン、エデト酢酸塩、クエン酸塩、ビタミンCまたはビタミンC誘導体、ビタミンE等が挙げられる。
【0109】
(流体の製造方法)
本発明はまた、下記の工程を含む、流体の製造方法を提供する:
・微細セルロース繊維と水溶性高分子と水を混合し、混合物を得る工程、および
・得られた混合物に塩を添加する工程
ここで、塩は組成物の状態で混合されてもよい。本発明の製造方法でいう。上述したように、本発明者らの検討によると、6質量%以下の比較的低濃度のセルロース懸濁液として得られた微細セルロース繊維に対して、予め水溶性高分子を混合せずに塩を添加すると、ゲル化して微細セルロース繊維は安定分散しない。一方、セルロース懸濁液と水溶性高分子の溶液と予め混合しておくと、塩を添加しても微細セルロース繊維が安定分散する。そのため、本発明の流体の製造方法においては、上記の工程を上記の順で含むことが好ましい。
【0110】
〔地下層の処理方法、石油資源の生産方法〕
本発明はまた、本発明の塩水用増粘剤または上述の流体を用いた、地下層の処理方法を提供する。地下層(地層ということもある。)には、海底の地下層も含まれる。
【0111】
地下層の処理には、種々の目的で使用する坑井の掘削が含まれる。坑井には、試掘井(exploratory well またはwildcat)、評価井(appraisal well)、探鉱井(exploratorywellまたはexploration well)、探掘井(delineation well)、開発井(development well)、生産井、圧入井(injection well)、観測井(observation well)、サービス井(service well)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
また、地下層の処理には、下記のものが含まれる。
・セメンチング:主として坑井を掘った後、ケーシングと坑壁との隙間にセメントを充填してケーシングを固定するために行われる。
・坑井調査、検層作業(well logging): これには、泥水検層が含まれる。泥水検層は、循環している掘削泥水中の、ガスや掘り屑を観察、分析するものであり、それにより油ガス層を早期に察知し、また掘削中の岩相を知ることができる。
・石油資源の回収:これには、水攻法(water flooding)、ケミカル攻法(chemical flooding)が含まれる。
・坑井刺激:坑壁や坑井周辺の貯留層の性状を改善し、生産性の向上を図ること等を目的に行われる。これには、塩酸等を用いて洗浄する、酸処理(acidizing)、貯留層に亀裂を生じさせて流体の流路を確保する水圧破砕(hydraulic fracturing、hydrofracturing、fracking)が含まれる。さらに、砂層からの生産の場合の、砂の坑井への流入や砂を含む流体がチュービングや設備に被害を与えることを防止するための、砂対策(sand control)、樹脂を含む流体を地下層に圧入して砂岩を固める樹脂強化(plastic consolidation)等が含まれる。
・水系泥水、油系泥水、ケミカル・フルイド(chemical fluid)またはブライン(brine))を用いた坑井仕上げ。
・浸透率の低いタイトな地下層に通り道(割れ目、フラクチャ)を作るための、高圧のフラクチャリング流体を使用したフラクチャリング。
・坑井改修(well workover)。
・廃坑処理。
【0113】
本発明はまた、本発明により得られる塩水用増粘剤または流体を用いた、石油資源(petroleum)の生産方法を提供する。石油資源とは、地下に存在する、固体、液体、気体のすべての鉱物性炭化水素を指す。石油資源の典型的な例は、一般的な区分である液体の石油(oil)と気体の天然ガスである。また石油資源には、在来型の石油(oil)、天然ガスのほか、タイトサンドガス、シェールオイル、タイトオイル、重質油、超重質油、シェールガス、炭層ガス、ビチュメン、ヘビーオイル、オイルサンド、オイルシェール、メタンハイドレートが含まれる。
【実施例
【0114】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明の範囲は実施例により限定されない。
【0115】
(製造例1)
微細セルロース繊維の調製1:
尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製した。
乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミルおよびピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を絶乾質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。
得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12~13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT-IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1230~1290cm-1にリン酸由来の基に基づく吸収が観察され、リン酸由来の基の付加が確認された。従って、得られた脱水シート(リン酸オキソ酸導入セルロース)は、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(1)の官能基で置換されたものであった。式中、a,b,m,nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。α1,α2,・・・,αnおよびα’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR,ORのいずれかである。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0116】
【化1】
【0117】
得られたリン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、1.75質量%スラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理し、セルロース懸濁液を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。このセルロース懸濁液をさらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて10回パスさせセルロース繊維1を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。マイクロスコープ観察写真および透過型電子顕微鏡写真を示す。繊維幅10μm以上の粗大な繊維と1000nm以下の微細な繊維が存在していた(図1)。
【0118】
(製造例2)
湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて1回パスさせた以外は製造例1と同様の方法で行いセルロース繊維2を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。マイクロスコープ観察写真および透過型電子顕微鏡写真を示す。繊維幅10μm以上の粗大な繊維は観察されず、繊維幅1000nm以下の微細な繊維が存在していた(図2)。
【0119】
(製造例3)
リン酸水素二ナトリウム二水和物5.5g、リン酸水素二ナトリウム4.1gに変更した以外は製造例1と同様の方法で行い、セルロース繊維3を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0120】
リン酸由来の基の導入量(置換基量)は、下記の方法で測定した。
[リン酸由来の基の導入量の測定]
リン酸由来の基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差分は、リン酸由来の基の縮合の尺度となる。この値が小さいほどリン酸由来の基の縮合が少なく、透明性の高い微細セルロース繊維含有スラリーを与える。リン酸由来の基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量は、解繊処理後の微細セルロース繊維含有スラリーをそのままイオン交換水で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%微細セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細セルロース繊維含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。
すなわち、図3に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、強酸性基の導入量(mmol/g)とした。また、図1に示した曲線の第2領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、弱酸性基の導入量(mmol/g)とした。
【0121】
微細セルロース繊維の調製2:
乾燥質量200g相当分の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO2.5gと、臭化ナトリウム25gとを水1500mlに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10~11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応を終了した。
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。次に、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT-IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1730cm-1にカルボン酸由来の基に基づく吸収が観察され、カルボン酸由来の基の付加が確認された。この脱水シート(TEMPO酸化セルロース)を用いて、微細セルロース繊維を調製した。
【0122】
(製造例4)
上記で得られたカルボン酸由来の基が付加したTEMPO酸化セルロースにイオン交換水を添加し、1.75質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理し、セルロース懸濁液を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。このセルロース懸濁液をさらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて10回パスさせセルロース繊維4を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0123】
セルロース繊維1~4の粘度を下記の方法で測定した。
セルロース繊維1~4に水を添加し、各々のセルロース繊維の濃度を0.4質量%に調製した。微細セルロース1~4の懸濁液を24時間放置後、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて25℃にて回転数3rpm(3分)で粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1から、下記記が観察された。
・リン酸由来の基の量が0.71mmol/gである微細セルロース1、2の懸濁液は十分な粘度を有していた。
・解繊度の低い微細セルロース繊維2の方が高粘度であった。
・製造例3はリン酸化反応が十分ではなく、解繊後も繊維幅10μm以上の粗大な繊維のみが観察され、繊維幅1000nm以下の微細な繊維はほとんど見られず、十分な粘性を発揮しなかった。
【0126】
<極性有機溶剤添加で調製した濃縮物の塩水中再分散>
セルロース繊維は特に記載の無い限り製造例1で製造したセルロース繊維1を使用した。以下、セルロース繊維を溶媒(水など)に懸濁した液を「セルロース繊維懸濁液」という。
【0127】
(参考例1)
セルロース繊維1に水を添加し、セルロース繊維の濃度を0.4質量%に調製した。この0.4質量%セルロース繊維懸濁液80gにイソプロピルアルコール(IPA)160gを加えて1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.6gまで濃縮した。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とした。この粉状の粉砕物に、再分散溶液(水)80gを添加し、8000rpmで3分攪拌後、粘度を測定した。
【0128】
(参考例2)
セルロース繊維1の代わりにセルロース繊維2を用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0129】
(参考例3)
セルロース繊維1の代わりにセルロース繊維4を用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0130】
(参考例4)
セルロース繊維懸濁液の代わりに0.4質量%キサンタンガム(東京化成工業株式会社製)水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。なお、キサンタンガムを略して「XG」と定義する。
【0131】
(参考例5)
セルロース繊維懸濁液の代わりに0.4質量%カルボキシメチルセルロース(株式会社テルナイト製、テルポリマーH)水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。なお、カルボキシメチルセルロースを略して「CMC」とする。
【0132】
(参考例6)
セルロース繊維懸濁液の代わりに1.2質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤(サンノプコ株式会社、SNディスパーサント5040、分子量50,000)80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。なお、ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を略して「PC」と定義する。
【0133】
(参考例7)
セルロース繊維1に水を添加し、セルロース繊維の濃度を0.8質量%濃度に調製した。0.8質量%セルロース繊維懸濁液40gと0.8質量%キサンタンガム水溶液40gを混合して2000rpmで攪拌した。さらにIPA160gを添加し、1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.6gまで濃縮した。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とした。この粉末状の破砕物に、再分散溶液(水)80gを添加し、8000rpmで3分攪拌後、粘度を測定した。
【0134】
(参考例8)
製造例2で製造したセルロース繊維2を用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0135】
(参考例9)
製造例4で製造したセルロース繊維4を用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0136】
(参考例10)
キサンタンガム水溶液の代わりにカルボキシメチルセルロース水溶液を用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0137】
(参考例11)
0.8質量%キサンタンガム水溶液の代わりに2.4質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0138】
(実施例1)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した1質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0139】
(実施例2)
製造例2で製造したセルロース繊維2を用いる以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0140】
(実施例3)
製造例4で製造したセルロース繊維4を用いる以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0141】
(実施例4)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した25質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0142】
(実施例5)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した2質量%塩化カリウム水溶液80gを用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0143】
(実施例6)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH9に調整した0.1質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0144】
(実施例7)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH9に調整した2質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例7と同様の方法で実施した。
【0145】
(実施例8)
キサンタンガムの代わりにカルボキシメチルセルロースを用いる以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0146】
(実施例9)
キサンタンガムの代わりにカルボキシメチルセルロースを用いる以外は実施例4と同様の方法で実施した。
【0147】
(実施例10)
0.8質量%キサンタンガム水溶液の代わりに2.4質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を用いる以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0148】
(実施例11)
0.8質量%キサンタンガム水溶液の代わりに2.4質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を用いる以外は実施例4と同様の方法で実施した。
【0149】
(比較例1)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した1質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0150】
(比較例2)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した25質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0151】
(比較例3)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した2質量%塩化カリウム水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0152】
(比較例4)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した0.1質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0153】
(比較例5)
再分散溶液として、NaOHを添加してpH10に調整した2質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例1と同様の方法で実施した。
【0154】
(比較例6)
製造例3で製造したセルロース繊維3を使用する以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0155】
(比較例7)
参考例1で製造したセルロース濃縮物に、再分散溶液(NaOHを添加してpH10にした1質量%塩化ナトリウム水溶液に0.4質量%となるようにキサンタンガムを溶解)80gを添加し、8000rpmで3分攪拌した。
【0156】
結果を、表2に示す。
【0157】
【表2】
【0158】
表2から、下記が考察された。
・セルロース繊維と水溶性高分子を混合した後に濃縮した濃縮物は、塩水中で均一に分散できる(実施例1~11)。
・水溶性高分子を混合せず、セルロース繊維のみで濃縮した濃縮物は、塩水中で分散せず、沈殿する(比較例1~5)。
・リン酸化反応が十分ではなく、セルロース繊維のナノ化が十分でない場合、十分な粘性を発揮しない(比較例6)。
・セルロース繊維のみの濃縮物を、水溶性高分子を含む塩水中に再分散させてもセルロース繊維は粒のままで均一に分散しない(比較例7)。濃縮前にセルロース繊維と水溶性高分子を混合させておくとよい。
【0159】
<多価金属の塩添加で調製した濃縮物の塩水中再分散>
セルロース繊維は特に記載の無い限り製造例1で製造したセルロース繊維1を使用した。
【0160】
(参考例12)
セルロース繊維1に水を添加し、セルロース繊維の濃度を0.4質量%に調製した。この0.4質量%セルロース懸濁液80gに塩化アルミニウム六水和物0.8gを添加して1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.6gまで濃縮した。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とした。この粉状の粉砕物に、再分散溶液(水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した水)80gを添加し、8000rpmで3分攪拌後、粘度を測定した。
【0161】
(参考例13)
水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した水80gにキサンタンガム0.32gを添加し、8000rpmで3分攪拌後、粘度を測定した(キサンタンガム単独では塩化アルミニウム六水和物で濃縮できないため、pH12.5に調整した水に粉末状のキサンタンガムを添加した時の粘度を測定した。)。
【0162】
(参考例14)
セルロース繊維1に水を添加し、セルロース繊維の濃度を0.8質量%に調製した。この0.8質量%セルロース懸濁液40gに0.8質量%キサンタンガム40gを添加し、2000rpmで攪拌した。この溶液に塩化アルミニウム六水和物0.8gを添加し、1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.6gまで濃縮した。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とた。この粉状の粉砕物に、再分散溶液(水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した水)80gを用いて、8000rpmで3分攪拌後、粘度を測定した。
【0163】
(実施例12)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した1質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例15と同様の方法で実施した。
【0164】
(実施例13)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した25質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例15と同様の方法で実施した。
【0165】
(実施例14)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した2質量%塩化カリウム水溶液80gを用いる以外は参考例15と同様の方法で実施した。
【0166】
(実施例15)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した0.1質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例15と同様の方法で実施した。
【0167】
(比較例8)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した1質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例10と同様の方法で実施した。
【0168】
(比較例9)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した25質量%塩化ナトリウム水溶液80gを用いる以外は参考例10と同様の方法で実施した。
【0169】
(比較例10)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した2質量%塩化カリウム水溶液80gを用いる以外は参考例10と同様の方法で実施した。
【0170】
(比較例11)
再分散溶液として、水酸化ナトリウムを添加してpH12.5に調整した0.1質量%塩化カルシウム水溶液80gを用いる以外は参考例10と同様の方法で実施した。
【0171】
結果を表3に示す。
【0172】
【表3】
【0173】
表3から、下記が考察された。
・セルロース繊維と水溶性高分子を混合した後に濃縮した濃縮物は、塩水中で安定に再分散させることができる(実施例12~15)。
・水溶性高分子を混合せず、セルロース繊維のみで濃縮した濃縮物は、塩水中で分散せず沈殿する(比較例8~11)。
【0174】
<低濃度セルロース繊維懸濁液への塩水添加>
セルロース繊維は特に記載の無い限り製造例1で製造したセルロース繊維1を使用した。
【0175】
(参考例15)
0.4質量%セルロース繊維懸濁液100gの粘度を測定した。
【0176】
(参考例16)
0.4質量%キサンタンガム水溶液100gの粘度を測定した。
【0177】
(参考例17)
0.4質量%カルボキシメチルセルロース水溶液100gの粘度を測定した。
【0178】
(参考例18)
1.2質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤100gの粘度を測定した。
【0179】
(参考例19)
0.8質量%セルロース繊維懸濁液50gに0.8質量%キサンタンガム水溶液50gを添加し、2000rpmで1.5分攪拌後、粘度を測定した。
【0180】
(参考例20)
キサンタンガムの代わりにカルボキシメチルセルロースを用いる以外は参考例19と同様の方法で実施した。
【0181】
(参考例21)
0.8質量%キサンタンガム水溶液の代わりに2.4質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を用いる以外は参考例19と同様の方法で実施した。
【0182】
(実施例16)
1.0質量%セルロース繊維懸濁液50gに1.0質量%キサンタンガム50gを添加し、2000rpmで1.5分攪拌した。このスラリーに5質量%塩化ナトリウム水溶液25gを添加し、2000rpmで1.5分攪拌後、粘度を測定した。
【0183】
(実施例17)
塩として0.5質量%塩化カルシウム水溶液25gを添加した以外は実施例16と同様の方法で実施した。
【0184】
(実施例18)
塩として17.5質量%人口海水25gを添加した以外は実施例16と同様の方法で実施した。
【0185】
(実施例19)
キサンタンガムの代わりにカルボキシメチルセルロースを用いる以外は実施例16と同様の方法で実施した。
【0186】
(実施例20)
塩として0.5質量%塩化カルシウム水溶液25gを添加した以外は実施例19と同様の方法で実施した。
【0187】
(実施例21)
塩として17.5質量%人口海水25gを添加した以外は実施例19と同様の方法で実施した。
【0188】
(実施例22)
1.0質量%キサンタンガムの代わりに3.0質量%ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤を用いる以外は実施例14と同様の方法で実施した。
【0189】
(実施例23)
塩として0.5質量%塩化カルシウム水溶液25gを添加した以外は実施例22と同様の方法で実施した。
【0190】
(実施例24)
塩として17.5質量%人口海水25gを添加した以外は実施例22と同様の方法で実施した。
【0191】
(比較例12)
0.5質量%セルロース繊維懸濁液100gに塩として5質量%塩化ナトリウム水溶液25gを添加し、2000rpmで1.5分攪拌した。
(比較例13)
塩として0.5質量%塩化カルシウム水溶液25gを添加した以外は比較例12と同様の方法で実施した。
【0192】
(比較例14)
塩として17.5質量%人口海水25gを添加した以外は比較例12と同様の方法で実施した。
【0193】
(比較例15)
1.0質量%セルロース繊維懸濁液50gに5質量%塩化ナトリウム水溶液25gと1.0質量%キサンタンガム水溶液50gの混合液を添加し、2000rpmで1.5分攪拌後、粘度を測定した。
【0194】
結果を表4に示す。
【0195】
【表4】
【0196】
表4から、下記が考察された。
・低濃度セルロース繊維懸濁液と水溶性高分子の溶液を混合しておくと、塩水を添加しても均一に分散させることができる(実施例16~24)。
・水溶性高分子を混合していない低濃度セルロース懸濁液に塩水を添加すると、ゲル化して均一分散しない(比較例12~14)。
・セルロース繊維のみの低濃度懸濁液に、水溶性高分子を含む塩水を添加してもゲル化して均一に分散しない(比較例15)。低濃度セルロース繊維懸濁液と水溶性高分子を塩水添加前に混合させておくとよい。
【0197】
<止水性試験>
セルロース繊維は特に記載の無い限り製造例1で製造したセルロース繊維1を使用した。
【0198】
(参考例22)
参考例1の方法で、微細セルロース繊維の濃縮物を水中で分散させた分散液を160g作製し、10%ベントナイト水溶液(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を160g添加して3000rpmで60分間撹拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。泥水200gを25℃にてAPI規格による濾過試験器を使用して、室温下30分間、3kg/cm2Gの加圧を行ったときの濾水量を測定した。すなわち濾水量が少ないほど、止水性能が良好であるといえる。
【0199】
(実施例25)
実施例1で得られた分散液を用いる以外は参考例22と同様の方法で実施した。
【0200】
(実施例26)
実施例5で得られた分散液を用いる以外は参考例22と同様の方法で実施した。
【0201】
(比較例16)
比較例1で得られた分散液(微細セルロース繊維は沈殿)を用いる以外は参考例22と同様の方法で実施した。
【0202】
(比較例17)
比較例7で得られた分散液(微細セルロース繊維は粒のまま不均一分散)を用いる以外は参考例22と同様の方法で実施した。
【0203】
結果を表5に示す。
【0204】
【表5】
【0205】
表5から、下記が考察された。
・セルロース繊維と水溶性高分子を濃縮し塩水中で安定分散させた溶液は、高い止水効果を有する(実施例25~26)。
・水溶性高分子を混合していない、セルロース繊維のみの濃縮物を塩水中で分散させ沈殿してしまった溶液は、止水効果が低い(比較例16)
・セルロース繊維のみの濃縮物を、水溶性高分子を含む塩水中で分散させ、セルロース繊維濃縮物が粒のまま不均一分散してしまった溶液は、止水効果が低い(比較例17)。
図1
図2
図3