(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
H05K 1/14 20060101AFI20220809BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20220809BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H05K1/14 C
H01P3/08 100
H01P3/08 200
H05K1/14 A
H05K1/14 G
H01L23/12 E
H01L23/12 F
(21)【出願番号】P 2020200749
(22)【出願日】2020-12-03
(62)【分割の表示】P 2018568552の分割
【原出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017028805
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴博
(72)【発明者】
【氏名】西野 耕輔
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-179821(JP,A)
【文献】特開2005-011927(JP,A)
【文献】特開2016-213310(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088592(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/074101(WO,A1)
【文献】特開2008-288516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/14
H05K 3/36
H05K 1/02
H05K 1/11
H05K 1/18
H05K 3/46
H01P 3/08
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と前記回路基板に実装される電子部品と、前記回路基板に表面実装される電気素子とを備える電子機器であり、
前記電気素子は、複数の絶縁性基材の積層体と、当該積層体に形成された、伝送線路部と、当該伝送線路部の複数の部位にそれぞれ繋がる複数の接続部と、を有し、
前記積層体は、前記絶縁性基材の積層数の多い部分と少ない部分とを有し、積層数の多い部分が凸部、積層数の少ない部分が凹部として、それぞれ形成され、
前記複数の接続部は前記凸部にそれぞれ設けられ、
前記複数の接続部は導電性接合材により前記回路基板にそれぞれ接続されており、
前記複数の接続部以外の伝送線路部は前記回路基板から離間しており、
前記電気素子は、前記凹部が前記電子部品に対向する位置関係で、前記回路基板に表面実装され、
前記電気素子の前記伝送線路部と前記回路基板との間に、前記電気素子と前記伝送線路部とが重なる部分において前記電気素子とは電気的に接続されていない電子部品が配置されており、
前記伝送線路部は、前記回路基板にそれぞれ平行な下部グランド導体パターンおよび信号線を備え、
前記凹部において、前記信号線と前記電子部品との間に前記下部グランド導体パターンが配置されている、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記伝送線路部は、前記下部グランド導体パターンに対して平行であり、前記信号線を前記下部グランド導体パターンとで挟む位置関係に配置される上部グランド導体パターンを更に備える、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記電気素子は、前記電子部品の上部を跨ぐように配置される、請求項1又は2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記回路基板に実装される電子部品は、高さが揃っていない複数の電子部品であり、
前記電気素子が跨ぐ前記電子部品は、前記複数の
電子部品のうち最も高い電子部品ではない、請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
前記電気素子は長手方向を有し、
前記複数の接続部のうち第1接続部と第2接続部とが前記長手方向の両端に形成されていて、前記複数の接続部のうち第3接続部は前記長手方向での前記第1接続部と前記第2接続部との間に形成されている、
請求項1から4のいずれかに記載の電子機器。
【請求項6】
前記伝送線路部は、前記複数の接続部よりも、前記回路基板の平面視での幅が狭い、
請求項1から5のいずれかに記載の電子機器。
【請求項7】
前記電気素子は、前記電子部品を迂回するように前記回路基板の平面視で湾曲または屈曲した形状を有している、
請求項1から6のいずれかに記載の電子機器。
【請求項8】
前記絶縁性基材は前記回路基板の絶縁体部に比べて誘電率が低い、請求項1から7のいずれかに記載の電子機器。
【請求項9】
前記下部グランド導体パターンは、前記信号線と前記電子部品とが重なる部分の全体に設けられている、
請求項1から8のいずれかに記載の電子機器。
【請求項10】
前記複数の接続部は、第1接続部、第2接続部および第3接続部を含み、
前記信号線の第1端は前記第1接続部にあり、前記信号線の第2端は前記第2接続部にあり、
前記第3接続部は、前記信号線の端ではない、
請求項1から9のいずれかに記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板およびこの回路基板に実装される電気素子を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路や高周波素子を接続するための伝送線路として、可撓性を有する多層基板で構成されたケーブル状の伝送線路が特許文献1に示されている。この伝送線路は、他の電子部品と同様に回路基板に表面実装可能なように構成されている。
【0003】
上記伝送線路は薄板状にすることで、厚み方向の寸法を小さくできるため、小型の電子機器の筺体内における薄い隙間に配置できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記伝送線路を回路基板に表面実装するためには、当然ながらこの伝送線路を配置するための実装スペースを回路基板上に確保する必要がある。そのため、小型の電子機器においては、伝送線路の占有面積が問題となる場合がある。また、回路基板の限られたスペースに多くの電子部品と共に上記伝送線路を実装する場合に、他の電子部品の配置位置を避けて伝送線路を実装できない場合には、上記伝送線路を使用できないことも生じる。
【0006】
また、伝送線路の占有面積を小さくするために幅を細くすると、信号線を上下に挟むグランド導体パターンの面積が小さくなる。そのため、この伝送線路の側方に近接する他の電子部品との間での相互のEMI (Electro Magnetic Interference )の問題が生じやすくなる。
【0007】
それゆえ、本発明は、回路基板への伝送線路の実装上の自由度を高め、伝送線路の実質的な占有面積を縮小化した、または他の電子部品の配置を阻害しない伝送線路の実装構造を備える、電子機器を提供することを目的とする。また、本発明は、回路基板に実装される伝送線路と他の電子部品との相互のEMIの問題を解消した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の電子機器は
回路基板と前記回路基板に実装される電子部品と、前記回路基板に表面実装される電気素子とを備える電子機器であり、
前記電気素子は、複数の絶縁性基材の積層体と、当該積層体に形成された、伝送線路部と、当該伝送線路部の複数の部位にそれぞれ繋がる複数の接続部と、を有し、
前記積層体は、前記絶縁性基材の積層数の多い部分と少ない部分とを有し、積層数の多い部分が凸部、積層数の少ない部分が凹部として、それぞれ形成され、
前記複数の接続部は前記凸部にそれぞれ設けられ、
前記複数の接続部は導電性接合材により前記回路基板にそれぞれ接続されており、
前記複数の接続部以外の伝送線路部は前記回路基板から離間しており、
前記電気素子は、前記凹部が前記電子部品に対向する位置関係で、前記回路基板に表面実装され、
前記電気素子の前記伝送線路部と前記回路基板との間に、前記電気素子と前記伝送線路部とが重なる部分において前記電気素子とは電気的に接続されていない電子部品が配置されており、
前記伝送線路部は、前記回路基板にそれぞれ平行な下部グランド導体パターンおよび信号線を備え、
前記凹部において、前記信号線と前記電子部品との間に前記下部グランド導体パターンが配置されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回路基板への伝送線路の実装上の自由度が高まるので、伝送線路の実質的な占有面積が縮小化され、他の電子部品の配置を阻害しない伝送線路が構成でき、また、回路基板に実装される伝送線路と他の電子部品との相互のEMIの問題を解消され、このことにより小型の電子機器を容易に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る電子機器301の主要部の斜視図である。
【
図2】
図2は電子機器301の主要部の分解斜視図である。
【
図3】
図3は電気素子101の備える各絶縁性基材およびそれらに形成される各種導体パターンを示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、回路基板201へ電気素子101を実装した状態での、その実装部を通る面での断面図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る別の電子機器301Aの主要部の斜視図である。
【
図6】
図6は第2の実施形態に係る電子機器302の主要部の斜視図である。
【
図7】
図7は電子機器302の主要部の分解斜視図である。
【
図8】
図8は電気素子102の備える各絶縁性基材およびそれらに形成される各種導体パターンを示す分解斜視図である。
【
図9】
図9は、回路基板202へ電気素子102を実装した状態での、その実装部を通る面での断面図である。
【
図10】
図10は第3の実施形態に係る電気素子103の斜視図である。
【
図12】
図12は第4の実施形態に係る電気素子の、信号線が形成された絶縁性基材13の平面図である。
【
図13】
図13(A)は第4の実施形態の電子機器305の主要部の平面図であり、
図13(B)は
図13(A)におけるA-A部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。各実施形態の説明において、共通の事柄についての重複する記述は省略し、特に異なる点について説明する。また、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0012】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る電子機器301の主要部の斜視図であり、
図2は電子機器301の主要部の分解斜視図である。本実施形態の電気素子101は、伝送線路を有するフラットケーブルとして作用する。
【0013】
図1、
図2に示すように、本実施形態の電子機器301は、回路基板201、この回路基板201に実装される電気素子101および電子部品111~117を備える。電気素子101は、複数の絶縁性基材の積層体10と、この積層体10に形成された、伝送線路部CAと、この伝送線路部CAの第1部位に繋がる第1接続部CN1と、伝送線路部CAの第2部位に繋がる第2接続部CN2と、を有する。
【0014】
電気素子101は、
図1、
図2におけるX軸方向を長手方向とし、第1接続部CN1と第2接続部CN2とが長手方向の両端に形成されている。
【0015】
図2に表れているように、回路基板201には、電気素子101の第1接続部CN1および第2接続部CN2がそれぞれ接続される回路基板側接続部CN11,CN12が形成されている。
【0016】
図1に表れているように、回路基板201上に電気素子101を実装した状態で、電気素子101の伝送線路部CAと回路基板201との間に電子部品111,112,113が配置されている関係となる。すなわち、電気素子101は、回路基板201上の電子部品111,112,113の上部を跨ぐように配置される。この例では、電気素子101は電子部品111に接し、電子部品112,113には接しない。但し、電気素子101は電子部品111,112,113とは電気的には接続されない。
【0017】
電気素子101の絶縁性基材は回路基板201の絶縁体部に比べて誘電率が低い。例えば、回路基板201の絶縁体部の比誘電率は約4であるのに対し、電気素子の絶縁性基材の比誘電率は約3である。
【0018】
図3は電気素子101の備える各絶縁性基材およびそれらに形成される各種導体パターンを示す分解斜視図である。
図2中の積層体10は、
図3に示す絶縁性基材11~14,15A,15B,16A,16B,17の積層体であり、外力により弾性変形または塑性変形する可撓性の基材である。上記絶縁性基材は例えば液晶ポリマーシートである。各種導体パターンは液晶ポリマーシートに貼付された銅箔がフォトリソグラフィ等によってパターンニングされたものである。
【0019】
図3において、絶縁性基材11,17はそれぞれ保護用の層である。絶縁性基材12の上面には上部グランド導体パターン21が形成されていて、絶縁性基材13の上面には信号線30およびグランド導体パターン23A,23Bが形成されていて、絶縁性基材14の下面には下部グランド導体パターン22および信号線接続導体パターン31A,31Bが形成されている。絶縁性基材15Aの下面には信号線接続導体パターン32Aおよびグランド導体パターン24Aが形成されていて、絶縁性基材15Bの下面には信号線接続導体パターン32Bおよびグランド導体パターン24Bが形成されている。また、絶縁性基材16Aの下面には信号線接続導体パターン33Aおよびグランド導体パターン25Aが形成されていて、絶縁性基材16Bの下面には信号線接続導体パターン33Bおよびグランド導体パターン25Bが形成されている。絶縁性基材17には、信号線接続導体パターン33A,33Bを露出させる開口と、グランド導体パターン25A,25Bを部分的に露出させる開口とが形成されている。
【0020】
上記信号線30、上部グランド導体パターン21、下部グランド導体パターン22および絶縁性基材12,13,14の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の一つの伝送線路が構成されている。なお、上部グランド導体パターン21には複数の開口Hが形成されている。
【0021】
上部グランド導体パターン21、下部グランド導体パターン22、およびグランド導体パターン23A,24A,25Aはそれぞれ複数の層間接続導体で接続されている。同様に上部グランド導体パターン21、下部グランド導体パターン22、およびグランド導体パターン23B,24B,25Bはそれぞれ複数の層間接続導体で接続されている。また、信号線30の第1端と信号線接続導体パターン31A,32A,33Aとは層間接続導体で接続されている。同様に、信号線30の第2端と信号線接続導体パターン31B,32B,33Bとは層間接続導体で接続されている。これら層間接続導体は、絶縁性基材に形成された貫通孔の内部に導電性ペーストが充填され、複数の絶縁性基材の積層加熱プレスによって、導電性ペーストが固化したものである。
図3において、破線で丸く表した箇所は上記層間接続導体を表している。また、縦方向に延びる破線はこれら層間接続導体による接続関係を示している。このように、多数の層間接続導体で信号線30の両端部を囲むことによって、第1接続部CN1と第2接続部CN2の高いシールド性が確保できる。
【0022】
図4は、回路基板201へ電気素子101を実装した状態での、その実装部を通る面での断面図である。電気素子101の第1接続部CN1に形成されている信号線接続導体パターン33Aおよびグランド導体パターン25Aは、回路基板201の回路基板側第1接続部CN11に形成されているパッド電極に、はんだSOを介して接続される。同様に、電気素子101の第2接続部CN2に形成されている信号線接続導体パターン33Bおよびグランド導体パターン25Bは、回路基板201の回路基板側第2接続部CN12に形成されているパッド電極に、はんだSOを介して接続される。
【0023】
電気素子101は、他の電子部品111~117と同様に、真空吸着ヘッドで吸引され、回路基板へマウントされ、その後のリフローはんだ工程で、回路基板201に表面実装される。
【0024】
上記はんだSOは実装前にはプリコートされたはんだ、または、はんだボールである。例えば、
図3に示した絶縁性基材17に形成された各開口に、はんだバンプを付与し、各接続部をBGA(Ball Grid Array)タイプの接続部とする。このようにはんだバンプを用いて接続すれば、はんだボールの大きさと、絶縁性基材17に形成された各開口の大きさによって、例えば150μm程度の高いスタンドオフが確保されるので、接続部の接続強度を保ちやすい。そのため、第1接続部CN1と第2接続部CN2との間の距離が大きくなっても、回路基板201に対する電気素子101の所定の接続強度が得られる。
【0025】
図1、
図4では、単一の電気素子101が回路基板201に実装された例を示したが、この電気素子101の上部を、電気素子101と同様構成の別の電気素子が這っていてもよい。つまり、複数の電気素子が積層配置されていてもよい。また、それら電気素子は平面視で交差していてもよいし、所定寸法に亘って上下に沿っていてもよい。これらのことで、回路基板表面に沿った薄い空間が有効に利用できる。
【0026】
図3、
図4に示した例では、第1接続部CN1と第2接続部CN2において、各絶縁性基材に形成されたグランド導体パターン同士を層間接続導体を介して接続する例を示したが、上部グランド導体パターン21と下部グランド導体パターン22との間も層間接続導体を介して接続してもよい。
【0027】
図5は第1の実施形態に係る別の電子機器301Aの主要部の斜視図である。この電子機器301Aでは、回路基板201に電気素子101Aが実装されている。この電気素子101Aは、
図1~4に示した電気素子101の側面の全面に金属めっき膜MPが形成されたものである。
【0028】
このように、電気素子101の側面の全面に金属めっき膜MPが形成されることにより、電気素子101の信号線30のシールド性が高まる。
【0029】
なお、電気素子101の伝送線路部が回路基板201上で跨ぐ他の部品は、回路基板201上に実装されている複数の部品のうち最も背の高い部品ではないことが好ましい。このことにより、部品を跨ぐ高さが極端に高くなることがないので、スペースの有効利用が図れる。
【0030】
本実施形態の幾つかの主要な効果は次のとおりである。
【0031】
(a)伝送線路部CAと回路基板201との間に電子部品111,112,113が配置されるので、伝送線路部CAの下部領域も有効に利用され、そのことで電気素子101実質的な占有面積が縮小化される。
【0032】
(b)信号線30と電子部品111,112,113との間に下部グランド導体パターン22が介在することになり、伝送線路部CAと電子部品111,112,113との相互のEMIが回避できる。特に、電気素子101の幅を細くする必要がないので、下部グランド導体パターン22の幅は確保され、この下部グランド導体パターン22によるシールド効果は高い。また、上述のように、電気素子が交差する場合でも、各電気素子の幅を細くする必要がないので、各電気素子に設けられているグランド導体パターンによって電気素子相互のEMIは抑制される。
【0033】
特に、例えば短距離高速デジタル無線伝送用規格の一つであるWiGig(Wireless Gigabit)のように、広帯域に亘るEMC(Electro Magnetic Compatibility:電磁両立性)対策が重要になる伝送線路において、グランド導体パターンの幅を確保することは有効である。
【0034】
(c)電気素子101の絶縁性基材は回路基板201の絶縁体部に比べて誘電率が低いので、同じ特性インピーダンスの伝送線路を形成する場合に、回路基板201に導体パターンで形成された伝送線路に比べて、信号線の幅および厚さが大きくなるので、導体損失が低減される。また、誘電体損失も低減される。更に、信号線とグランド導体パターンとの間隙を狭くできるので、全体に薄型化できる。
【0035】
(d)上部グランド導体パターン21に複数の開口Hが形成されているので、この上部グランド導体パターン21と信号線30との間に生じる容量が小さくなり、その分、上部グランド導体パターン21と信号線30との間隔を薄くでき、電気素子101の伝送線路部CAの厚みを薄くできる。また、このことにより、伝送線路部CA下部の空間が確保しやすくなる。
【0036】
(e)上部グランド導体パターン21が形成されているので、電気素子101の上面方向のシールド性も確保され、この電気素子101の上部に他の電気素子や他の電子部品が配置されても、それらとの間でのEMIも抑制される。なお、電気素子を薄くしたい場合には上部グランド導体パターンに開口を形成することが有効であるが、上部に配置される電気素子や他の電子部品に対するシールド性を確保する場合には、上記開口を無くすとよい。
【0037】
(f)電気素子が可撓性基板で構成されていることにより、回路基板から離間している部分(離間部)が他の電気素子との接触により応力を受けた場合でも、離間部の破損や接合部に応力がかかることによる接合不良の誘発が抑制される。また、他の部品や部材に這わせて配置することもできるようになり、省スペース化が図れる。
【0038】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、3つの接続部を有する電気素子を備える電子機器の例を示す。
【0039】
図6は第2の実施形態に係る電子機器302の主要部の斜視図であり、
図7は電子機器302の主要部の分解斜視図である。本実施形態の電気素子102は、伝送線路を有するフラットケーブルとして作用する。
【0040】
図1、
図2に示した電子機器301とは、電気素子102に第3接続部CN3を有する点、回路基板202に回路基板側第3接続部CN13を有する点で異なる。すなわち、電気素子102は、伝送線路部CA1,CA2および接続部CN1,CN2,CN3を有する。第1接続部CN1と第2接続部CN2とは、長手方向(
図6、
図7におけるX軸方向)の両端に形成されていて、第3接続部CN3は長手方向での第1接続部CN1と第2接続部CN2との間に形成されている。
【0041】
図8は電気素子102の備える各絶縁性基材およびそれらに形成される各種導体パターンを示す分解斜視図である。
図3に示した電気素子とは、絶縁性基材15C,16Cを備える点で異なる。絶縁性基材15C,16Cには、グランド導体パターン24C,25Cおよび層間接続導体がそれぞれ形成されている。グランド導体パターン24C,25Cはそれら層間接続導体を介して下部グランド導体パターン22に導通する。この例では、絶縁性基材15Cを絶縁性基材15A,15Bとは分離し、絶縁性基材16Cを絶縁性基材15A,15Bとは分離して表したが、積層加熱プレス後に、不要箇所を除去することで、
図7に示した形状の電気素子102を作成してもよい。
【0042】
図9は、回路基板202へ電気素子102を実装した状態での、その実装部を通る面での断面図である。電気素子102の第1接続部CN1に形成されている信号線接続導体パターン33Aおよびグランド導体パターン25Aは、回路基板202の回路基板側第1接続部CN11に形成されているパッド電極にはんだSOを介して接続される。電気素子102の第2接続部CN2に形成されている信号線接続導体パターン33Bおよびグランド導体パターン25Bは、回路基板202の回路基板側第2接続部CN12に形成されているパッド電極にはんだSOを介して接続される。更に、電気素子102の第3接続部CN3に形成されているグランド導体パターン25Cは、回路基板202の回路基板側第3接続部CN13に形成されているパッド電極にはんだSOを介して接続される。
【0043】
本実施形態の幾つかの主要な効果は次のとおりである。
【0044】
(a)電気素子102の3箇所を回路基板202に接続する構造であり、第1接続部CN1から第2接続部CN2までの距離が長くても、回路基板202上での電気素子102の機械的強度が確保される。特に、電気素子102が可撓性を有していても、回路基板202に対する実装ずれが抑制される。
【0045】
(b)第1接続部CN1と第2接続部CN2との間の第3接続部CN3で、伝送線路のグランド導体が回路基板のグランドに接続されるので、伝送線路のグランド電位が安定化され、伝送線路のEMIがより抑制される。
【0046】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、複数の伝送線路を有する電気素子を備える電子機器の例を示す。
【0047】
図10は第3の実施形態に係る電気素子103の斜視図であり、
図11は電気素子103の分解平面図である。この電気素子103は、複数の絶縁性基材の積層体10と、この積層体10に形成された、伝送線路部CA1,CA2および接続部CN1,CN2,CN3を有する。接続部CN1,CN3は伝送線路部CA1の両端に繋がり、接続部CN3,CN2は伝送線路部CA2の両端に繋がる。
【0048】
図11において、絶縁性基材12の上面の全面には上部グランド導体パターン21が形成されていて、絶縁性基材13の上面には信号線30,40およびグランド導体パターン23が形成されていて、絶縁性基材14の下面には下部グランド導体パターン22が形成されている。
【0049】
絶縁性基材14の下面には信号線接続導体パターン31A,31B,31C,31Dが形成されている。信号線接続導体パターン31Aは層間接続導体を介して信号線30の第1端に接続され、信号線接続導体パターン31Bは層間接続導体を介して信号線30の第2端に接続される。また、信号線接続導体パターン31Cは層間接続導体を介して信号線40の第1端に接続され、信号線接続導体パターン31Dは層間接続導体を介して信号線40の第2端に接続される。
【0050】
絶縁性基材15Aの下面には信号線接続導体パターン32A,32Cおよびグランド導体パターン24Aが形成されていて、絶縁性基材15Bの下面には信号線接続導体パターン32Bおよびグランド導体パターン24Bが形成されている。また、絶縁性基材15Cの下面には信号線接続導体パターン32Dおよびグランド導体パターン24Cが形成されている。
【0051】
上部グランド導体パターン21と、絶縁性基材13に形成されたグランド導体パターン23とは層間接続導体を介して接続されている。また、下部グランド導体パターン22と、絶縁性基材13に形成されたグランド導体パターン23とは層間接続導体を介して接続されている。さらに、下部グランド導体パターン22と、絶縁性基材15A,15B,15Cにそれぞれ形成されたグランド導体パターン24A,24B,24Cとは層間接続導体を介して接続されている。
図11において、破線または実線で表す丸い部分は上記層間接続導体である。また、二点鎖線はこれら層間接続導体による接続関係を示している。
【0052】
上記信号線30、上部グランド導体パターン21、下部グランド導体パターン22、グランド導体パターン23および絶縁性基材12,13,14の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の第1伝送線路が構成されている。また、上記信号線40、上部グランド導体パターン21、下部グランド導体パターン22、グランド導体パターン23および絶縁性基材12,13,14の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の第2伝送線路が構成されている。
【0053】
本実施形態では、第1接続部CN1と第2接続部CN2との間を第1伝送線路として利用でき、第1接続部CN1と第3接続部CN3との間を第2伝送線路として利用できる。特に、信号線30と信号線40との面方向の間にグランド導体パターン23が形成されていて、信号線接続導体パターン31Aと信号線接続導体パターン31Cとの間に下部グランド導体パターン22が形成されているので、さらには、信号線接続導体パターン32Aと信号線接続導体パターン32Cとの間にグランド導体パターン24Aが形成されているので、信号線30と信号線40との間のシールド性は確保される。
【0054】
上記電気素子103は、第1、第2の実施形態で示したと同様に回路基板に実装される。その状態で、第1伝送線路部CA1と回路基板との間、および第2伝送線路部CA2と回路基板との間にそれぞれ空間が形成される。これら空間に電子部品を配置することができる。
【0055】
本実施形態によれば、第1接続部CN1と第2接続部CN2との間に繋がる第1の伝送線路と、第1接続部CN1と第3接続部CN3との間に繋がる第2の伝送線路とを備える単一部品として扱える。
【0056】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、分配器または合分波器として利用される電気素子を備える電子機器について示す。
【0057】
図12は本実施形態の電気素子の、信号線が形成された絶縁性基材13の平面図である。絶縁性基材13の上面には信号線30,40,50およびグランド導体パターン23が形成されている。信号線30、信号線40および信号線50は分岐点BPで接続されている。上記複数の信号線を一続きの信号線として表現すると、この信号線の第1端は第1接続部CN1にあり、信号線の第2端は第2接続部CN2にあり、信号線の第3端は第3接続部CN3にある。
【0058】
図12では信号線が形成された絶縁性基材13のみを示しているが、これまでに示した各実施形態と同様に、この絶縁性基材13の上層に上部グランド導体パターンが形成された絶縁性基材が配置され、絶縁性基材13の下層に下部グランド導体パターンが形成された絶縁性基材が配置される。
【0059】
上記信号線30、上部グランド導体パターン、下部グランド導体パターン、およびそれらの間の絶縁性基材の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の第1伝送線路が構成されている。また、信号線40、上部グランド導体パターン、下部グランド導体パターン、およびそれらの間の絶縁性基材の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の第2送線路が構成されている。同様に、信号線50、上部グランド導体パターン、下部グランド導体パターン、およびそれらの間の絶縁性基材の絶縁体部分によって、ストリップライン構造の第3伝送線路が構成されている。
【0060】
上記第2伝送線路の分岐点BP近傍にはハイパスフィルタHPFが挿入されている。また、第3伝送線路の分岐点BP近傍にはローパスフィルタLPFが挿入されている。
【0061】
本実施形態によれば、第1接続部CN1を共用ポート、第2接続部CN2をハイバンド用ポート、第3接続部CN3をローバンド用ポート、とする合分波器として利用できる。
【0062】
なお、高周波フィルタを設けることなく、分岐点BP近傍にインピーダンス整合回路を設ければ、同様にして分配器を構成することができる。
【0063】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、電子部品を迂回するように屈曲した形状を有する電気素子を備える電子機器の例を示す。
【0064】
図13(A)は本実施形態の電子機器305の主要部の平面図であり、
図13(B)は
図13(A)におけるA-A部分の断面図である。但し、電気素子105内の各導体パターンは図示していない。
【0065】
電子機器305は、回路基板205と、この回路基板205に実装される電気素子105および電子部品112,113,119,120等を備える。電気素子105は、複数の絶縁性基材の積層体10と、この積層体10に形成された、伝送線路部CA1,CA2,CA3および接続部CN1,CN2,CN3,CN4を有する。
【0066】
なお、この例では、積層体10の平面視での曲げ部に接続部CN3,CN4を配置したが、接続部CN3,CN4をY軸方向に延びる部分の全体に配置してもよい。
【0067】
電気素子105は、電子部品118を迂回するように回路基板205の平面視で屈曲した形状を有している。この構造により、相対的に背の高い電子部品118が電気素子105に近接していて、電気素子105の伝送線路部CA2と回路基板205との高さ方向の間隙が充分に確保できない場合でも、背の高い電子部品118を避けて電気素子105を回路基板205上に実装できる。
【0068】
なお、電気素子は、回路基板上の電子部品を迂回するように、回路基板の平面視で曲線状に湾曲した形状を有していてもよい。
【0069】
《他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、ストリップライン型の伝送線路を構成する例を示したが、マイクロストリップライン、コプレーナライン、またはスロットライン等の他の形式の伝送線路を構成する場合にも同様に適用できる。
【0070】
また、以上に示した各実施形態では、上部グランド導体パターンに開口Hが形成された例を示したが、開口Hは必須ではない。また下部グランド導体パターンに開口があってもよい。
【0071】
また、以上に示した各実施形態では、全体が一つの線状の積層体で電気素子を形成したが、積層体はL字状、U字状、クランク状等、任意の形状とすることができる。
【0072】
また、以上に示した各実施形態では、第1接続部CN1、第2接続部CN2をそれぞれ積層体の両端部に設けた例を示したが、複数の接続部のうち2つの接続部が必ずしも両端部に無くてもよい。
【0073】
また、以上に示した各実施形態では、電気素子を単一の回路基板に実装した例を示したが、分離された複数の回路基板に渡って電気素子の各接続部が接続されてもよい。
【0074】
また、以上に示した各実施形態では、平坦な回路基板に電気素子を実装した例を示したが、段差部を有する位置や曲面に電気素子を取り付ける構造においても同様に適用できる。
【0075】
最後に、上述の実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0076】
BP…分岐点
CA…伝送線路部
CA1…第1伝送線路部
CA2…第2伝送線路部
CA3…第3伝送線路部
CN1…第1接続部
CN2…第2接続部
CN3…第3接続部
CN4…第4接続部
CN11…回路基板側第1接続部
CN12…回路基板側第2接続部
CN13…回路基板側第3接続部
H…開口
HPF…ハイパスフィルタ
LPF…ローパスフィルタ
10…積層体
11~14,17…絶縁性基材
15A,15B,15C…絶縁性基材
16A,16B,16C…絶縁性基材
21…上部グランド導体パターン
22…下部グランド導体パターン
23…グランド導体パターン
23A,24A,25A…グランド導体パターン
23B,24B,25B…グランド導体パターン
24C,25C…グランド導体パターン
30,40,50…信号線
31A,31B,31C,31D…信号線接続導体パターン
32A,32B,32C,32D…信号線接続導体パターン
33A,33B…信号線接続導体パターン
40…信号線
50…信号線
101~103,105…電気素子
111~120…電子部品
201,202,205…回路基板
301,302,305…電子機器