(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220809BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220809BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20220809BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/102
B22F7/08 C
H01B1/22 D
(21)【出願番号】P 2020541198
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034347
(87)【国際公開番号】W WO2020050194
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018164872
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】森 崇充
(72)【発明者】
【氏名】三並 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 成人
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真利
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066501(JP,A)
【文献】特開2009-299086(JP,A)
【文献】特開2011-236453(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が200~600nmの銀ナノ粒子であって、
熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、
熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下である、銀ナノ粒子。
【請求項2】
表面にアミン化合物が付着している、請求項1に記載の銀ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銀ナノ粒子と溶媒を含む、導電性接着剤。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性接着剤の焼結体。
【請求項5】
請求項4に記載の焼結体によって部材間が接合されてなる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子、導電性接着剤、当該導電性接着剤の焼結体、及び当該焼結体を部材間に備えている装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイボンド剤等を始めとする導電性接着剤は、半導体、LED、パワ-半導体等に使われる接合材料である。接合方式として、加圧と加熱による接合、もしくは無加圧で加熱等による焼結によって基材と接合させることが一般に知られている。近年、製造プロセスの簡便さや効率の観点から、無加圧方式の接合材料の開発が進んでいる。
【0003】
無加圧方式の接合材料として、一つはエポキシ樹脂を含む導電性接着剤が挙げられる。この接合材料は、低温処理でエポキシ樹脂を硬化させて使用するものであり、ボイド発生の抑制や基材との接合強度を向上させることができる(特許文献1)。しかしながら、エポキシ樹脂自体が抵抗体となるために、得られる導電性や熱伝導性が低くなる。
【0004】
一方、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含まない接合材料として、近年、銀ナノ粒子の開発が進んでいる。銀ナノ粒子は、低温で短時間の熱処理で容易に焼結する特徴がある。例えば、特許文献2には、銀粒子からなる固形分と溶剤とを混練してなる金属ペ-ストにおいて、前記固形分が、粒径100~200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、更に、固形分を構成する銀粒子は、保護剤として炭素数の総和が4~8のアミン化合物が結合した金属ペ-ストが開示されている。当該金属ペ-ストによれば、低温域で銀粒子を焼結させることができ、その上で抵抗の低い焼結体や熱伝導性に優れた焼結体を形成可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2010/18712号
【文献】特開2015-159096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、特許文献2には、粒径100~200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、更に、固形分を構成する銀粒子は、保護剤として炭素数の総和が4~8のアミン化合物が結合した金属ペ-ストによれば、低温域で銀粒子を焼結させることができ、その上で抵抗の低い焼結体や熱伝導性に優れた焼結体を形成可能とされている。
【0007】
しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、特許文献2に開示されたような従来の銀ナノ粒子を含む金属ペ-ストでは、銀ナノ粒子の平均粒子径が200nm以上になると、例えば200℃以下の低温で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が低く、また、比抵抗値も大きくなるという問題点を見出した。
【0008】
このような状況下、本発明は、銀ナノ粒子の平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、低温(例えば200℃以下)で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい、銀ナノ粒子を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該銀ナノ粒子を含む導電性接着剤、当該導電性接着剤の焼結体、及び当該焼結体を部材間に備えている装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、平均粒子径が200~600nmの銀ナノ粒子であって、熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが所定温度未満で発現し、かつ、熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下である銀ナノ粒子は、平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、低温(例えば200℃以下)で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さいことを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 平均粒子径が200~600nmの銀ナノ粒子であって、
熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、
熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下である、銀ナノ粒子。
項2. 表面にアミン化合物が付着している、項1に記載の銀ナノ粒子。
項3. 項1又は2に記載の銀ナノ粒子と溶媒を含む、導電性接着剤。
項4. 項3に記載の導電性接着剤の焼結体。
項5. 項4に記載の焼結体によって部材間が接合されてなる装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銀ナノ粒子の平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、低温(例えば200℃以下)で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい、銀ナノ粒子を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該銀ナノ粒子を含む導電性接着剤、当該導電性接着剤の焼結体、及び当該焼結体を部材間に備えている装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で合成した銀ナノ粒子のSEM写真を示す。
【
図2】実施例2で合成した銀ナノ粒子のSEM写真を示す。
【
図3】比較例1で用いた銀ナノ粒子のSEM写真を示す。
【
図4】比較例2で用いた銀ナノ粒子のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の銀ナノ粒子は、平均粒子径が200~600nmであり、熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、さらに、熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下であることを特徴とする。本発明の銀ナノ粒子は、このような特徴を備えていることにより、銀ナノ粒子の平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、低温(例えば200℃以下)で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さいという特性を発揮することができる。
【0014】
以下、本発明の銀ナノ粒子、導電性接着剤、当該導電性接着剤の焼結体、及び当該焼結体を部材間に備えている装置について詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0015】
1.銀ナノ粒子
本発明の銀ナノ粒子は、銀を含む粒子であって、平均粒子径が200~600nmである。銀ナノ粒子の平均粒子径は、下限については、200nm超、好ましくは230nm以上、より好ましくは250nm以上が挙げられ、上限については、好ましくは550nm以下、より好ましくは500nm以下が挙げられる。
【0016】
<平均粒子径>
本発明において、銀ナノ粒子の平均粒子径は、銀ナノ粒子を走査型電子顕微鏡で観察(倍率20,000倍)し、視野内に存在する粒子を無作為に30個以上選択し、粒子径を測定して平均値を算出してそれぞれの平均粒子径としたものである。
【0017】
また、本発明の銀ナノ粒子において、粒径100~200nmの粒子の数の割合は、30%未満であることが好ましく、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の銀ナノ粒子においては、平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、低温(例えば200℃以下)で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい、銀ナノ粒子とする観点から、平均粒子径が200~600nmと大きく、かつ、粒径100~200nmの粒子の数は少ないことが好ましい。粒径100~200nmの粒子の数の割合は、前記の平均粒子径の測定において、視野内に存在する粒子を無作為に30個以上選択して粒子径を測定することで求めた値である。
【0018】
また、本発明の銀ナノ粒子は、熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、かつ、熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下であることを特徴としている。銀ナノ粒子の平均粒子径を前記の範囲に設定した上で、さらに、銀ナノ粒子にこのような特性を付与するためには、後述する銀ナノ粒子の製造方法を採用することが好ましい。
【0019】
本発明の銀ナノ粒子に含まれる銀の含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0020】
低温で焼結させた場合の焼結体の剪断強度をさらに高めつつ、比抵抗値を低下させる観点から、前記の発熱ピ-クは、下限については、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上が挙げられ、上限については、好ましくは175℃未満、より好ましくは170℃以下が挙げられる。
【0021】
また、同様の観点から、前記の重量減少率は、下限については、好ましくは0.01%重量%以上、より好ましくは0.05%重量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下が挙げられる。
【0022】
<熱重量示差熱分析(TG-DTA)>
まず、風乾した銀ナノ粒子を用意する。例えば、導電性接着剤から銀ナノ粒子を取得して分析する場合には、各導電性接着剤1gに対し、メタノ-ル2gを加えてよく分散させたのち、銀ナノ粒子をろ取、風乾して銀ナノ粒子乾燥粉末を得て、分析対象とする。銀ナノ粒子の乾燥粉末のTG-DTAを熱重量示差熱分析装置(例えば、HITACHI G300 AST-2)で測定する。測定条件は、雰囲気:空気、測定温度:30~500℃、昇温速度:10℃/minとする。得られたTG-DTAチャ-トから、TG-DTA分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クと、熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率を得る。
【0023】
また、本発明の銀ナノ粒子の結晶子径については、特に制限されないが、下限については、好ましくは35nm以上、より好ましくは40nm以上が挙げられ、上限については、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下が挙げられる。本発明の銀ナノ粒子の結晶子径の測定方法は、以下の通りである。
【0024】
<結晶子径の測定>
X線結晶構造解析装置(例えば、RIGAKU Ultima IV)を用い、線源をCu Kα線として、X線結晶構造解析を行う。得られたチャ-トの(111)ピ-ク(2θ=38°)の半値幅から、Scherrerの式により結晶子径を算出する。
【0025】
銀ナノ粒子の平均粒子径を前記の範囲に設定した上で、さらに、銀ナノ粒子の前記発熱ピ-クと前記重量減少率(さらには、前記結晶子径)を前記の値に好適に設定するためには、銀ナノ粒子を表面処理することが好ましい。すなわち、前記の物性を備える本発明の銀ナノ粒子は、表面処理銀ナノ粒子であることが好ましい。
【0026】
より具体的には、本発明の銀ナノ粒子は、少なくとも、表面にアミン化合物が付着していることが好ましい。アミン化合物は、銀ナノ粒子の表面に付着し、保護層を形成することができる。本発明の銀ナノ粒子においては、平均粒子径を前記特定範囲に設定しつつ、前記物性を備えるように、アミン化合物を付着させることが好ましい。
【0027】
アミン化合物としては、特に制限されないが、銀ナノ粒子の平均粒子径を前記の範囲に設定した上で、さらに、銀ナノ粒子の前記発熱ピ-クと前記重量減少率を前記の値に好適に設定する観点から、アルキルアミンが好ましい。アルキルアミンとしては、特に制限されないが、好ましくはアルキル基の炭素数が3以上18以下のアルキルアミン、より好ましくはアルキル基の炭素数が4以上12以下のアルキルアミンが挙げられる。
【0028】
アルキルアミンの好ましい具体例としては、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、1,2-ジメチルプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソアミルアミン、tert-アミルアミン、3-ペンチルアミン、n-アミルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、2-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-アミノデカン、n-アミノウンデカン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、2-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-オレイルアミン、N-エチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアミノプロパン、N,N-ジブチルアミノプロパン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジイソブチル-1,3-ジアミノプロパン、N-ラウリルジアミノプロパン等を例示することができる。さらに、2級アミンであるジブチルアミンや環状アルキルアミンであるシクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン等も例示することができる。これらの中でも、導電性接着剤の焼結体の機械的強度を効果的に高める観点から、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、シクロプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、シクロブチルアミン、n-アミルアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ドデシルアミン、n-オレイルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパンが好ましく、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパンがより好ましい。アミン化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の銀ナノ粒子において、アミン化合物の付着量としては、熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、かつ、熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下となるように調整する。具体的なアミン化合物の付着量は、銀ナノ粒子の重量に対して、0.4重量%以下であればよく、0.2重量%以下が好ましい。銀ナノ粒子に付着しているアミン化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィ-または熱重量示差熱分析により測定することができる。
【0030】
また、銀ナノ粒子の表面には、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸などが付着していてもよい。脂肪酸としては、特に制限されないが、好ましくはアルキル基の炭素数が3以上18以下の脂肪酸、より好ましくはアルキル基の炭素数が4以上18以下の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸の好ましい具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ-ル酸、α-リノレン酸等が挙げられる。また、脂肪酸の具体例としては、シクロヘキサンカルボン酸のような環状アルキルカルボン酸等も挙げられる。また、ヒドロキシ脂肪酸としては、炭素数3~24で、かつ水酸基を1個以上(例えば、1個)有する化合物を使用できる。また、ヒドロキシ脂肪酸として、例えば、2-ヒドロキシデカン酸、2-ヒドロキシドデカン酸、2-ヒドロキシテトラデカン酸、2-ヒドロキシヘキサデカン酸、2-ヒドロキシオクタデカン酸、2-ヒドロキシエイコサン酸、2-ヒドロキシドコサン酸、2-ヒドロキシトリコサン酸、2-ヒドロキシテトラコサン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシウンデカン酸、3-ヒドロキシドデカン酸、3-ヒドロキシトリデカン酸、3-ヒドロキシテトラデカン酸、3-ヒドロキシヘキサデカン酸、3-ヒドロキシヘプタデカン酸、3-ヒドロキシオクタデカン酸、ω-ヒドロキシ-2-デセン酸、ω-ヒドロキシペンタデカン酸、ω-ヒドロキシヘプタデカン酸、ω-ヒドロキシエイコサン酸、ω-ヒドロキシドコサン酸、6-ヒドロキシオクタデカン酸、リシノ-ル酸、12-ヒドロキシステアリン酸、[R-(E)]-12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸等が挙げられる。中でも、炭素数4~18で、かつω位以外(特に、12位)に1個の水酸基を有するヒドロキシ脂肪酸が好ましく、リシノ-ル酸、12-ヒドロキシステアリン酸がより好ましい。脂肪酸及びヒドロキシ脂肪酸は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明の銀ナノ粒子において、脂肪酸やヒドロキシ脂肪酸の付着量についても、アミン化合物と同様、熱重量示差熱分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クが175℃未満で発現し、かつ、熱重量示差熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が0.4重量%以下となるように調整する。具体的な脂肪酸やヒドロキシ脂肪酸の付着量は、銀ナノ粒子の重量に対して、0.3重量%以下であればよく、0.1重量%以下が好ましい。銀ナノ粒子に付着している脂肪酸やヒドロキシ脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィ-または熱重量示差熱分析により測定することができる。
【0032】
なお、本発明の銀ナノ粒子が前記の平均粒子径と物性を満たすことを限度として、アミン化合物、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸は、併用してもよいし、また、これらとは異なる他の化合物が銀ナノ粒子の表面に付着していてもよい。本発明の銀ナノ粒子の平均粒子径を前記の範囲に設定した上で、さらに、銀ナノ粒子に前記物性を付与する観点から、本発明の銀ナノ粒子の表面には、アミン化合物が付着していることが特に好ましい。
【0033】
2.銀ナノ粒子の製造方法
本発明の銀ナノ粒子の製造方法の一例を以下に示す。
【0034】
まず、銀ナノ粒子を製造するための組成物(銀ナノ粒子調製用組成物)を用意する。具体的には、銀ナノ粒子の原料となる銀化合物と、必要に応じて、銀ナノ粒子の表面に付着させるアミン化合物などや、溶媒を準備する。本発明の銀ナノ粒子の平均粒子径を前記の範囲に設定した上で、さらに、銀ナノ粒子に前記物性を付与するためには、好ましい銀化合物としては、硝酸銀、シュウ酸銀等が挙げられ、特にシュウ酸銀が好ましい。なお、溶媒としては、後述の導電性接着剤に配合される溶媒として例示したものと同じものが例示される。次に、これらの各成分を混合して銀ナノ粒子調製用組成物を得る。当該組成物における各成分の割合は、適宜調整する。例えば、組成物中のシュウ酸銀の含有量は、組成物の全量に対して、20~70質量%程度とすることが好ましい。また、銀ナノ粒子の表面にアミン化合物を付着させる場合であれば、アミン化合物の含有量としては、組成物の全量に対して、5質量%~55質量%程度とすることが好ましい。また、銀ナノ粒子の表面に脂肪酸を付着させる場合であれば、脂肪酸の含有量としては、組成物の全量に対して、0.1質量%~20質量%程度とすることが好ましい。銀ナノ粒子の表面にヒドロキシ脂肪酸を付着させる場合であれば、ヒドロキシ脂肪酸の含有量としては、組成物の全量に対して、0.1質量%~15質量%程度とすることが好ましい。
【0035】
なお、アミン化合物などの含有量が前記範囲外となるように調整した銀ナノ粒子調製用組成物を用いて、一旦、銀ナノ粒子を合成し、後述する方法によって、アミン化合物などの種類や付着量を前記物性となるように調整(アミン化合物を置換)することも可能である。
【0036】
また、各成分の混合手段も特に制限されず、例えば、メカニカルスタ-ラ-、マグネティックスタ-ラ-、ボルテックスミキサ-、遊星ミル、ボ-ルミル、三本ロ-ル、ラインミキサ-、プラネタリ-ミキサ-、ディゾルバ-等の汎用の装置で混合できる。混合時の溶解熱、摩擦熱等の影響で組成物の温度が上昇し、銀ナノ粒子の熱分解反応が開始することを回避するために、組成物の温度を、例えば60℃以下、特に40℃以下に抑えながら混合することが好ましい。
【0037】
次に、銀ナノ粒子調製用組成物を、反応容器内で反応、通常は加熱による反応に供することにより、銀化合物の熱分解反応が起こり、銀ナノ粒子が生成する。反応に当たっては、予め加熱しておいた反応容器内に組成物を導入してもよく、組成物を反応容器内に導入した後に加熱してもよい。
【0038】
反応温度は、熱分解反応が進行し、銀ナノ粒子が生成する温度であればよく、例えば50~250℃程度が挙げられる。また、反応時間は、所望する平均粒子径の大きさや、それに応じた組成物の組成に合せて、適宜選択すればよい。反応時間としては、例えば1分間~100時間が挙げられる。
【0039】
熱分解反応により生成した銀ナノ粒子は、未反応原料を含む混合物として得られるため、銀ナノ粒子を精製することが好ましい。精製方法としては、固液分離方法、銀ナノ粒子と有機溶媒等の未反応原料との比重差を利用した沈殿方法等が挙げられる。固液分離方法としては、フィルタ-濾過、遠心分離、サイクロン式、又はデカンタ等の方法が挙げられる。精製時の取り扱いを容易にするために、アセトン、メタノ-ル等の低沸点溶媒で銀ナノ粒子を含有する混合物を希釈して、その粘度を調整してもよい。
【0040】
銀ナノ粒子製造用組成物の組成や反応条件を調整することにより、得られる銀ナノ粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0041】
銀ナノ粒子表面のアミン化合物を置換・調整する方法
前記の方法で、一旦合成された銀ナノ粒子(表面にアミン化合物が付着)を用意し、これを溶媒中に分散させる。溶媒としては、後述の導電性接着剤に配合される溶媒として例示したものと同じものが例示される。次に、他のアミン化合物を銀ナノ粒子の質量に対して、0.1~5倍量の範囲で添加し、室温~80℃で、1分~24時間撹拌を行う工程に付することで、銀ナノ粒子の表面に付着しているアミン化合物の種類を置換したり、付着量を調整することができる。アミン化合物を置換した銀ナノ粒子は、前記の固液分離法などによって回収することができる。
【0042】
3.導電性接着剤
本発明の導電性接着剤は、本発明の銀ナノ粒子と溶媒とを含むことを特徴としている。溶媒を含むことにより、流動性が高まり、本発明の導電性接着剤を所望の場所に配置しやすくなる。本発明の銀ナノ粒子の詳細については、前述の通りである。
【0043】
溶媒としては、銀ナノ粒子を分散できるものであれば、特に制限されないが、極性有機溶媒を含むことが好ましい。極性有機溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエ-テル、ジプロピルエ-テル、ジブチルエ-テル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエ-テル類;1,2-プロパンジオ-ル、1,2-ブタンジオ-ル、1,3-ブタンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、2,3-ブタンジオ-ル、1,2-ヘキサンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、1,2-ペンタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、2-メチル-2,4-ペンタンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、1,2-オクタンジオ-ル、1,8-オクタンジオ-ル、2-エチル-1,3-ヘキサンジオ-ル等のジオ-ル類;グリセロ-ル;炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖のアルコ-ル、シクロヘキサノ-ル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノ-ル、3-メトキシ-1-ブタノ-ル等のアルコ-ル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、蟻酸エチル等の脂肪酸エステル類;ポリエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、テトラエチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、エチレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルジメチルエ-テル、トリエチレングリコ-ルジメチルエ-テル、テトラエチレングリコ-ルジメチルエ-テル、3-メトキシブチルアセテ-ト、エチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、エチレングリコ-ルモノブチルエ-テルアセテ-ト、エチレングリコ-ルモノヘキシルエ-テル、エチレングリコ-ルモノオクチルエ-テル、エチレングリコ-ルモノ-2-エチルヘキシルエ-テル、エチレングリコ-ルモノベンジルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノメチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノメチルエ-テルアセテ-ト、ジエチレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノエチルエ-テルアセテ-ト、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テルアセテ-ト、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコ-ル、プロピレングリコ-ルモノプロピルエ-テル、プロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノエチルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノプロピルエ-テル、ジプロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル、トリプロピレングリコ-ルモノメチルエ-テル、トリプロピレングリコ-ルモノエチルエ-テル、トリプロピレングリコ-ルモノプロピルエ-テル、トリプロピレングリコ-ルモノブチルエ-テル等のグリコ-ル又はグリコ-ルエ-テル類;N,N-ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;テルピネオ-ル等のテルペン類;アセトニトリル;γ-ブチロラクトン;2-ピロリドン;N-メチルピロリドン;N-(2-アミノエチル)ピペラジン等が挙げられる。これらの中でも、導電性接着剤の焼結体の機械的強度をより一層効果的に高める観点から、炭素数3~5の直鎖又は分岐鎖のアルコ-ル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノ-ル、3-メトキシ-1-ブタノ-ル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエ-テルアセテ-ト、テルピネオ-ルが好ましい。
【0044】
溶媒は、極性有機溶媒に加えて、さらに非極性又は疎水性溶媒を含んでいてもよい。非極性有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、2-エチルヘキサン、シクロヘキサン等の直鎖、分枝、又は環状の飽和炭化水素;炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルコ-ル等のアルコ-ル類;ベンゼン、トルエン、ベンゾニトリル等の芳香族化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;メチル-n-アミルケトン;メチルエチルケトンオキシム;トリアセチン等が挙げられる。これらの中でも、飽和炭化水素及び炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルコ-ル類が好ましく、ヘキサン、オクタン、デカン、オクタノ-ル、デカノ-ル、ドデカノ-ルがより好ましい。溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0045】
極性有機溶媒と非極性有機溶媒との双方を含む場合、極性有機溶媒の比率は、溶媒の全量に対して、5容量%以上が好ましく、10容量%以上がより好ましく、15容量%以上がさらにより好ましい。また、60容量%以下とすることができ、55容量%以下とすることもでき、50容量%以下とすることもできる。溶媒は極性有機溶媒のみからなるものとすることもできる。本発明の導電性接着剤は、このように極性有機溶媒を多く含む場合にも、銀ナノ粒子の分散性が良い。
【0046】
本発明の導電性接着剤において、溶媒の割合としては、特に制限されないが、20質量%以下が好ましく、5質量%~15質量%程度がより好ましい。
【0047】
本発明の導電性接着剤に含まれる銀ナノ粒子の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。
【0048】
本発明の導電性接着剤は、本発明の銀ナノ粒子と溶媒を混合する工程を備える方法により製造することができる。
【0049】
また、本発明の導電性接着剤の製造方法においては、前述の本発明の銀ナノ粒子の製造方法において、溶媒中に生成された本発明の銀ナノ粒子を、溶媒と共に本発明の導電性接着剤としてもよい。
【0050】
4.導電性接着剤の焼結体
本発明の導電性接着剤の焼結体は、前述の「2.導電性接着剤」で詳述した本発明の導電性接着剤を焼結することにより得られる。本発明の導電性接着剤の焼結体においては、銀ナノ粒子の表面に付着している成分(アミン化合物など)や溶媒は、焼結の際の高熱により、ほとんどが離脱しており、焼結体は、実質的に銀により構成されている。
【0051】
焼結温度としては、特に制限されないが、得られる焼結体が高い導電性と高い接着力を発揮しつつ、機械的強度を効果的に高める観点から、好ましくは150℃~200℃程度、より好ましくは150℃~185℃程度が挙げられる。同様の観点から、焼結時間としては、好ましくは0.4時間~2.0時間程度、より好ましくは0.5時間~1.2時間程度が挙げられる。従来の粒子径の大きい銀ナノ粒子(例えば、平均粒子径が200nm以上)は、200℃以下の低温で焼結させた場合には、焼結が不十分となり、剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい焼結体を得ることは困難であるが、本発明の銀ナノ粒子を含む導電性接着剤を用いることにより、銀ナノ粒子の平均粒子径が200nm以上と大きいにも拘わらず、200℃以下の低温で焼結させた場合の焼結体の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい焼結体が得られる。焼結は、大気、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス)等の雰囲気下で行うことができる。焼結手段としては、特に制限されず、オ-ブン、熱風式乾燥炉、赤外線乾燥炉、レ-ザ-照射、フラッシュランプ照射、マイクロウェ-ブ等が挙げられる。
【0052】
また、本発明の焼結体の結晶子径については、特に制限されないが、下限については、好ましくは75nm以上、より好ましくは80nm以上が挙げられ、上限については、好ましくは95nm以下、より好ましくは90nm以下が挙げられる。本発明の焼結体の結晶子径の測定方法は、前記の銀ナノ粒子の結晶子径の測定方法と同じである。
【0053】
5.装置
本発明の装置は、本発明の焼結体により部材間が接着された部分を備えている。すなわち、本発明の装置は、前述の「2.導電性接着剤」で詳述した本発明の導電性接着剤を、装置の部材間(例えば、回路に含まれる部材間)に配置し、導電性接着剤を焼結させて、部材間を接着したものである。
【0054】
前述の通り、本発明の焼結体は、剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さいことから、これを備える装置や回路においても、部材間の剪断強度が高く、かつ、比抵抗値が小さい。
【実施例】
【0055】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
実施例及び比較例において使用した各成分の詳細は、以下の通りである。
・シュウ酸銀((COOAg)2)は、特許第5574761号公報に記載の方法で合成した。
・N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(和光純薬工業株式会社製)
・2-(2-アミノエトキシ)エタノ-ル(和光純薬工業株式会社製)
・n-ヘキシルアミン(炭素数6、和光純薬工業株式会社製)
・ブタノ-ル(和光純薬工業株式会社製)
・メタノ-ル(和光純薬工業株式会社製)
・比較例1の銀ナノ粒子は、DOWAエレクトロニクス株式会社製の製品名AG 2-1Cを用いた。
・比較例2の銀ナノ粒子は、株式会社徳力本店製の製品名AGS-050を用いた。
【0057】
<実施例1>
磁気撹拌子を入れた50mLガラス製遠沈管に、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(1.72g)、2-(2-アミノエトキシ)エタノ-ル(1.39g)、及びブタノ-ル(6.0g)を投入し、1分間程度攪拌したのち、シュウ酸銀(4.0g)を投入し、約10分間攪拌することで、銀ナノ粒子調製用組成物を得た。その後、アルミブロックを備えたホットスタ-ラ-(小池精密機器製作所製HHE-19G-U)上に、これらのガラス製遠沈管を立てて設置し、40℃で30分間攪拌し、さらに、90℃で30分間攪拌した。放冷後、磁気撹拌子を取り出し、各組成物にメタノ-ル15gを添加してボルテックスミキサ-で攪拌した後、遠心分離機(日立工機製CF7D2)にて3000rpm(約1600×G)で1分間の遠沈操作を実施し、遠沈管を傾けることにより上澄みを除去した。メタノ-ル15gの添加、撹拌、遠心分離、及び上澄み除去の工程を2回繰り返し、製造された銀ナノ粒子Aを回収した。
【0058】
(アミン化合物の置換)
上記で得られた銀ナノ粒子Aの分散液(メタノ-ル溶液)を用いて、n-ヘキシルアミンを銀ナノ粒子の質量の等量を添加し、室温で4時間撹拌した。撹拌後、磁気撹拌子を取り出し、各組成物にメタノ-ル15gを添加してボルテックスミキサ-で攪拌した後、遠心分離機(日立工機製CF7D2)にて3000rpm(約1600×G)で1分間の遠沈操作を実施し、遠沈管を傾けることにより上澄みを除去した。メタノ-ル15gの添加、撹拌、遠心分離、及び上澄み除去の工程を2回繰り返し、保護層におけるアミンの比率を調整(置換)した実施例1の銀ナノ粒子1を回収した。
【0059】
<実施例2>
磁気撹拌子を入れた50mLガラス製遠沈管に、2-(2-アミノエトキシ)エタノ-ル(2.91g)、及びブタノ-ル(6.0g)を投入し、1分間程度攪拌したのち、シュウ酸銀(4.0g)を投入し、約10分間攪拌することで、銀ナノ粒子調製用組成物を得た。その後、アルミブロックを備えたホットスタ-ラ-(小池精密機器製作所製HHE-19G-U)上に、これらのガラス製遠沈管を立てて設置し、40℃で30分間攪拌し、さらに、90℃で30分間攪拌した。放冷後、磁気撹拌子を取り出し、各組成物にメタノ-ル15gを添加してボルテックスミキサ-で攪拌した後、遠心分離機(日立工機製CF7D2)にて3000rpm(約1600×G)で1分間の遠沈操作を実施し、遠沈管を傾けることにより上澄みを除去した。メタノ-ル15gの添加、撹拌、遠心分離、及び上澄み除去の工程を2回繰り返し、製造された銀ナノ粒子Bを回収した。
【0060】
(アミン化合物の置換)
銀ナノ粒子Aの代わりに銀ナノ粒子Aについて、前記の銀ナノ粒子Aと同様にして、実施例2の銀ナノ粒子2を回収した。
【0061】
<平均粒子径の測定>
実施例1,2及び比較例1,2の各銀ナノ粒子を走査型電子顕微鏡(KEYENCE製 VE-7800、日立ハイテク製S-4500)で観察(倍率20,000倍)し、視野内に存在する粒子を無作為に30個選択し、粒子径を測定して平均値を算出してそれぞれの平均粒子径とした。結果を表1に示す。
【0062】
<導電性接着剤の製造>
実施例1,2及び比較例1,2の各銀ナノ粒子を用い、銀含有量が85質量%となるようにテキサノ-ルを添加し、各銀ナノ粒子分散液を得た。これらの液をそれぞれクラボウ社製のマゼルスタ-を用い、2回撹拌優先モ-ドにて混合し、各導電性接着剤を調製した。
【0063】
<熱重量示差熱分析(TG-DTA)>
各導電性接着剤1gに対し、メタノ-ル2gを加えてよく分散させたのち、銀ナノ粒子をろ取、風乾して銀ナノ粒子乾燥粉末を得た。その乾燥粉末のTG-DTAをHITACHI G300 AST-2で測定した。測定条件は、雰囲気:空気、測定温度:30~500℃、昇温速度:10℃/minとした。得られたTG-DTAチャ-トから、TG-DTA分析における銀ナノ粒子の結合に起因する発熱ピ-クと、熱分析によって30℃から500℃まで加熱したときの重量減少率を得た。結果を表1に示す。
【0064】
<結晶子径の測定>
各銀ナノ粒子と、各導電性接着剤の焼結体(200℃で60分間の焼結条件で得られた塗膜)の平均結晶子径をRIGAKU Ultima IV(線源:Cu Kα線)を用いて、X線結晶構造解析を行った。得られたチャ-トの(111)ピ-ク(2θ=38°)の半値幅から、Scherrerの式により結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
<塗膜(焼結体)の剪断強度の測定>
銅板上に無電解銀めっきを0.5μm施した基材を準備し、その上に各導電性接着剤を塗膜厚みが50μmとなるように、メタルマスクを用いて均一に塗膜を形成した。塗膜の上に、裏面(導電性接着剤と接する面)に金めっきもしくは金スパッタ処理が施されたシリコンウエハ(サイズ2mm×2mm)を上に乗せた。次に、乾燥器(循環式)を用いて、所定の焼結条件(175℃で30分間又は200℃で60分間)で加熱し、各導電性接着剤が焼結した塗膜(焼結体)を得た。得られた各塗膜(焼結体)の剪断強度は、ボンドテスタ-(西進商事製SS30-WD)を用いてダイシェアテストを実施して測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
<塗膜の比抵抗値の測定>
各導電性接着剤を、それぞれ、ポリイミドフィルム上に2mm×60mm×50μmとなるように、メタルマスクを用いて塗膜を形成した。次に、所定の焼結条件(175℃で30分間又は200℃で60分間)で加熱し、各導電性接着剤が焼結した塗膜(焼結体)を得た。焼結体の抵抗値を抵抗計(HIOKI RM3548)で測定し、比抵抗値を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すように、TG-DTA発熱ピ-クが175℃未満であり、TG-DTA重量減少量が0.4重量%以下である各銀ナノ粒子(実施例1と実施例2)を用いた導電性接着剤から得られた塗膜は、TG-DTA発熱ピ-クが175℃より高く、TG-DTA重量減少量が0.4重量%を超える粒子を用いた導電性接着剤と比べて、高いせん断強度と低い比抵抗値を示した。