(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20220809BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220809BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20220809BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20220809BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220809BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/74 A
H01M4/74 C
H01M4/80 A
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2020550010
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032429
(87)【国際公開番号】W WO2020070990
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018188986
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰佑
(72)【発明者】
【氏名】近川 修
(72)【発明者】
【氏名】高野 良平
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-029075(JP,A)
【文献】特開2008-084851(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065575(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/13
H01M 4/74
H01M 4/80
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備え、
前記正極層および前記負極層の少なくとも1つには、少なくとも1つの貫通開口を有する集電層が設けられて
おり、
前記集電層が焼結層から成る、固体電池。
【請求項2】
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備え、
前記正極層および前記負極層の少なくとも1つには、少なくとも1つの貫通開口を有する集電層が設けられて
おり、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層が、一体焼結体から成る、固体電池。
【請求項3】
前記集電層において、前記貫通開口が複数設けられ、該複数の貫通開口が略同一形状を有する、請求項1
または2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記集電層の平面視において、該集電層が幾何学的形状を成すように前記貫通開口が配置されている、請求項1
~3のいずれかに記載の固体電池。
【請求項5】
前記集電層の平面視において、該集電層の長手方向に沿った前記貫通開口の寸法が、該集電層の短手方向に沿った該貫通開口の寸法よりも大きい、請求項1~
4のいずれかに記載の固体電池。
【請求項6】
前記集電層の平面視において、前記貫通開口を形成している中実部分の幅寸法が、対を成す外部端子の対向方向にわたって略同一である、請求項1~
5のいずれかに記載の固体電池。
【請求項7】
前記集電層の平面視において、前記貫通開口に起因する該集電層の開口率が、10%以上45%以下である、請求項1~
6のいずれかに記載の固体電池。
【請求項8】
前記正極層または前記負極層に対する前記集電層の厚み比が、0.02以上2.5以下である、請求項1~
7のいずれかに記載の固体電池。
【請求項9】
前記貫通開口の少なくとも一部には、前記正極層または前記負極層の電極材が埋められている、請求項1~
8のいずれかに記載の固体電池。
【請求項10】
前記集電層が、メッシュ構造を有する、請求項1~
9のいずれかに記載の固体電池。
【請求項11】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~
10のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より充放電が繰り返し可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等の電子機器の電源として用いられている。
【0003】
二次電池においては、充放電に寄与するイオン移動のための媒体として液体の電解質が一般に使用されている。つまり、いわゆる電解液が二次電池に用いられている。しかしながら、そのような二次電池においては、電解液の漏出防止点で安全性が一般に求められる。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質ゆえ、その点でも安全性が求められる。
【0004】
そこで、電解液に代えて、固体電解質を用いた固体電池について研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-176467号公報
【文献】特開平10-247516号公報
【文献】WO2012/063874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電池は、固体の電池構成材(例えば、正負極層、電解質層および集電層など)で電極体が形成されているため、電池構成材間の密着性が担保され得る構造が重要となる。固体電池において各電池構成材間が十分に密着していない場合、内部抵抗が増大し、充放電が困難となるといった虞があるからである。
【0007】
本願発明者は、従前提案されている固体電池では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0008】
固体電池の構造として、正極層および負極層の片面に、金属により形成される集電層が設けられたものが提案されている(特許文献1および2参照)。特許文献1では、電池構成材を圧着させることで密着性を高めた固体電池が提案されている。特許文献2では、集電層と電極端子との接点を可動とすることで、充放電時に生じる電極層の体積変化に集電層が追随でき、電池構成材間の積層方向の接触不良を防止し得る固体電池が提案されている。しかしながら、そのような固体電池は、電池構成材間が物理的に接触しているのみであり、十分な密着性が得られる固体電池であるとは言い難い。また、充放電時に生じる電池構成材間の応力による影響については考慮されていない。
【0009】
電池構成材間の密着性を高める方法として、電池構成材同士を一体焼結させることで電池構成材間を強固に密着させた固体電池がある(特許文献3参照)。そのような固体電池においては、充放電時に生じる膨脹/収縮により体積変化し得る電極層と、体積変化し得ない、または電極層に対して体積変化量が少なくなり得る集電層との間で生じる応力に起因して、電極層の割れや剥離などが生じる場合がある。
【0010】
具体的には、
図1に示すような正極集電層10A、正極層20、固体電解質層30、負極層40および負極集電層10Bがこの順に積層される固体電池100において、充放電時に正極層20と負極層40との間にて固体電解質層30中をイオンが移動することに伴い、正負極層における活物質が膨張/収縮し得る。一方で、正極層20および負極層40にそれぞれ接する正極集電層10Aおよび負極集電層10Bは膨張/収縮し得ない、または電極層に対して膨張/収縮量が少なくなり得る。このため、固体電池100を充放電する場合、一体焼結されている正極層20と正極集電層10Aとの間、および負極層40と負極集電層10Bとの間において応力が生じ得る。
【0011】
図2に示す例示態様でいえば、固体電池100は、放電時に膨張し得る活物質を含んで成る正極層20および放電時に収縮し得る活物質を含んで成る負極層40を有している。ここで、正極層20および負極層40は、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bとそれぞれ一体焼結されている。そのような固体電池100を放電させる場合、正極層20は膨張、また負極層40は収縮しようとするが、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bによってそれぞれ変形ができないように拘束されているため、正極層20および負極層40の内部に応力が生じ得る。
【0012】
上述のように、充放電時に応力の影響を受ける正負極層において、割れや剥離などが生じることが懸念される。つまり、そのような割れや剥離が生じた場合では、固体電池の充放電を好適に実施できない虞がある。
【0013】
本発明は、かかる課題を鑑み、一体焼結により電池構成材間が強固に密着された構造を有しつつも、充放電時における正負極層の割れや剥離などを低減した固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された固体電池の発明に至った。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、
固体電池であって、
正極層、負極層、および正極層と負極層との間に介在する固体電解質層を備え、
正極層および負極層の少なくとも1つには、少なくとも1つの貫通開口を有する集電層が設けられている、固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固体電池は、一体焼結により電池構成材間が強固に密着された構造を有しつつも、充放電時における正負極層の割れや剥離などを低減することができる。
【0017】
具体的には、集電層が貫通開口を有することにより、集電層の剛性を下げ、充放電時の正負極層の体積変化による変形に集電層が容易に追随することができる。すなわち、正負極層の体積変化に起因して電池構成材間で生じる応力を低減することができる。よって、正負極層の割れや剥離などが生じることを好適に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一体焼結された固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図2】
図2は、放電時において電極層に応力が生じている、
図1に示す固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、本発明の一実施形態に係る固体電池の模式図である(
図3A:固体電池の断面図および集電層の斜視図、
図3B:貫通開口が中空である固体電池の断面図、
図3C:貫通開口に電極材が埋められている固体電池の断面図)。
【
図4】
図4A~
図4Fは、本発明の一実施形態に係る貫通開口を有する集電層の模式的な平面図である。
【
図5】
図5A~
図5Cは、本発明の一実施形態に係る固体電池の模式図である(
図5A:固体電池の断面図、
図5B:貫通開口が中空である集電層の平面図、
図5C:貫通開口に電極材が埋められている集電層の平面図)。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0020】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。また、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0021】
本明細書でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に好ましくは全ての構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指す。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様では「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」なども包含し得る。
【0022】
[固体電池の基本的構成]
固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質層から成る電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える固体電池積層体を有して成る。
【0023】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質層などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ電池構成単位が一体焼結体を成している。ここで「一体焼成」とは、各層を積層させた焼成前の積層体を同時に焼成させることを指し、かかる焼成前の積層体における各層は、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法などいずれの方法で形成されていてもよい。また、「一体焼結された」とは、「一体焼成」により形成されたことを指し、「一体焼結体」とは、「一体焼成」により形成されたものを指す。
【0024】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質および/または正極集電層を含んで成っていてよい。ある好適な態様では、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子と正極集電層とを少なくとも含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質および/または負極集電層を含んで成っていてよい。ある好適な態様では、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子と負極集電層とを少なくとも含む焼結体から構成されている。
【0025】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電解質を介してリチウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0026】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3Fe2(PO4)3、LiMnPO4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
【0027】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、およびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3Fe2(PO4)3等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li4Ti5O12等が挙げられる。
【0028】
なお、正極層および/または負極層は、電子伝導性材料を含んでいてもよい。正極層および/または負極層に含まれる電子伝導性材料としては、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。特に限定されるわけではないが、銅は、正極活物質、負極活物質および固体電解質材などと反応し難く、固体電池の内部抵抗の低減に効果を奏するのでその点で好ましい。
【0029】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0030】
正極層および負極層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、2μm以上50μm以下、特に5μm以上30μm以下であってもよい。
【0031】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲においても存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0032】
固体電解質層は、焼結助剤を含んでいてもよい。固体電解質層に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてもよい。
【0033】
固体電解質層の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上15μm以下、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0034】
(正極集電層/負極集電層)
正極集電層を構成する正極集電層および負極集電層を構成する負極集電層としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケルなどを用いることが好ましい。特に、銅は正極活物質、負極活物質および固体電解質材と反応し難く、固体電池の内部抵抗の低減に効果があるため好ましい。正極集電層および負極集電層はそれぞれ、外部と電気的に接続するための電気的接続部を有し、端子と電気的に接続可能に構成されていてもよい。正極集電層および負極集電層はそれぞれ箔の形態を有していてもよい。一体焼結による電子伝導性向上および製造コスト低減の観点から、正極集電層および負極集電層はそれぞれ一体焼結の形態を有することが好ましい。なお、正極集電層および負極集電層が焼結体の形態を有する場合、例えば、電子伝導性材料および焼結助剤を含む焼結体より構成されてもよい。正極集電層および負極集電層に含まれる電子伝導性材料は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る電子伝導性材料と同様の材料から選択されてもよい。正極集電層および負極集電層に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてもよい。
【0035】
正極集電層および負極集電層の厚みは特に限定されず、例えば、それぞれ独立して、1μm以上5μm以下、特に1μm以上3μm以下であってもよい。
【0036】
(絶縁層)
絶縁層は、例えば積層方向に沿って相互に隣接する一方の電池構成単位と他方の電池構成単位との間に形成される。それによって、かかる隣接する電池構成単位間のイオンの移動を回避し、過度のイオンの吸蔵放出を防止することができる。絶縁層は、固体電池の平面視において、正極層および/もしくは負極層と隣接するように形成されてもよい。絶縁層は、広義には電気を通さない材質、すなわち非導電性材から構成される層を指し、狭義には絶縁性物質材料から構成されるものを指す。特に限定されるものではないが、当該絶縁層は、例えば、ガラス材、セラミック材等から構成され得る。当該絶縁層として、例えばガラス材が選択されてよい。特に限定されるものではないが、ガラス材は、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜塩系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラス、および、リン酸亜塩系ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0037】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、熱硬化性樹脂および/または光硬化性樹脂等を用いることが好ましい。
【0038】
(端子)
固体電池には、一般に端子(例えば外部端子)が設けられている。特に、固体電池の側面に端子が設けられている。より具体的には、正極層と接続された正極側の端子と、負極層と接続された負極側の端子とが設けられている。そのような端子は、導電率が大きい材料を用いることが好ましい。端子の材質としては、特に制限するわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0039】
[本発明の固体電池の特徴]
本発明の固体電池は、集電層を有する少なくとも1つの電極層が一体焼結され、電池構成材間が強固に密着された構造を有する電池であるところ、かかる集電層の形状の点で特徴を有する。
【0040】
本発明における少なくとも1つの電極層は、一体焼結されている。一体焼結では、複数の電池構成材を焼成することで、電池構成材間に緻密な構造を形成することができる。すなわち、一体焼結された電極層は、電池構成材間が強固に密着された構造を有する。よって、固体電池において、強固に密着された電池構成材間では電子および/またはイオンの移動が容易となり、高い電子伝導性およびイオン伝導性を有することができる。
【0041】
本発明における集電層は、少なくとも1つの貫通開口を有する。貫通開口は複数設けられていてもよく、かかる複数の貫通開口が互いに略同一形状を有していてもよい。また、複数の貫通開口が略均一に分布していてもよい。
図4に示す例示態様でいえば、複数の貫通開口が互いに略同一形状であってもよく(
図4A~
図4F参照)、複数の貫通開口が略均一に分布していてもよい(
図4C~
図4F参照)。上述した構造により、集電層の剛性を均一に低くすることができ、集電層に良好な可撓性をもたせることができる。そのような集電層を用いることで、充放電時に生じる正負極層の体積変化に起因する変形に集電層が追随することで、電池構成材間で生じる応力を低減することができる。よって、正負極層の割れや剥離などが生じることを好適に抑制することが可能となる。
【0042】
本明細書でいう「貫通開口」とは、平面視において、集電層の表裏にわたって集電層を成す材料が存在しない点で中空となっている部分を指す。また、「貫通開口」には、焼成によってもたらされ得る孔や、あるいは偶発的または非所望にもたらされ得る微小孔は含まれない。その点でいえば、多孔質焼結金属などの多孔質材料における微小孔は含まれない。
【0043】
本発明における少なくとも1つの貫通開口を有する集電層は、電極層の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。あるいは電極層内に設けられていてもよい。上述した構造は、応力低減および電子伝導性向上の観点から好ましい。すなわち、電極層と剛性の低い集電層との一体焼結により、高い電子伝導性有する固体電池において、充放電時に正負極層に発生する割れや剥離などが好適に抑制されることになる。
【0044】
本明細書でいう「略同一」および「略均一」とは、対象の形状および/または寸法が完全に一致している場合のみならず、製造上の誤差程度に形状および/または寸法が異なる場合も包含する概念である。
【0045】
本発明の固体電池は、平面視においてあらゆる形状を有していてもよい。基板実装の際の取り違え防止の観点から、固体電池は平面視において矩形状となっていてもよい。
【0046】
図3Aに示す例示態様でいえば、電池構成単位100’において、正極層20、固体電解質層30、負極層40がこの順に設けられ、正極層20および負極層40の各々の片面に、貫通開口を有する正極集電層10Aおよび負極集電層10Bが設けられている。これらの層は一体焼結により層間に緻密な構造を形成している。すなわち、一体焼結された正極層20および正極集電層10A、ならびに/または負極層40および負極集電層10Bは、それらの層間が強固に密着された構造を有する。
【0047】
電池構成単位を複数備える固体電池の場合、かかる固体電池における正極層または負極層の少なくとも1つの片面に貫通開口を有する集電層が設けられていればよい。その他の正極層および負極層は、貫通開口を有する集電層が設けられていてもよく、貫通開口を有さない集電層が設けられていてもよく、集電層が設けられていなくてもよく、またはそれらの組合せでもよい。応力低減および電子伝導性向上の観点から、全ての正極層および負極層に貫通開口を有する集電層が設けられていることが好ましい。
【0048】
このように、集電層が貫通開口を有することにより、その剛性を下げ、充放電時における正負極層の膨張/収縮に伴う体積変化により生じる正負極層と集電層との間で生じる応力を低減することが可能となる。換言すれば、一体焼結により高い電子伝導性およびイオン伝導性を有する固体電池において、充放電時に正負極層に発生する割れや剥離などが好適に抑制されることになる。つまり、固体電池の充放電容量の低下を抑制し、長期信頼性が向上した固体電池がもたらされ得る。
【0049】
ある好適な態様では、集電層の平面視において、集電層が幾何学的形状を成すように貫通開口が配置されている。ここで「幾何学的形状」とは、規則的な形状を指し、例えば集電層の平面視において格子状、ハニカム状等となるように貫通開口が配置されている形状を指す。集電層をそのような幾何学的形状にすることによって、電極層のあらゆる点において集電層との距離が近くなり、抵抗を低くすることができる。また、いずれの方向からの力に対しても応力が略均一に生じる構造となることで、等方的に強度をもたせることができる。
【0050】
本明細書でいう「格子状」とは、複数の縦の線と横の線とが交差した形状を指し、狭義には、複数の縦の線と横の線とが略直交に交差し、それらの線で仕切られた中空領域が矩形状または正方形状となっているものを指す。また、「ハニカム状」とは、広義には、あらゆる形状の中空領域を成す構造をしきつめて並べたものを指し、狭義には、六角形状の中空領域を成す構造をしきつめて並べたものを指す。「中空領域」とは、集電層の表裏にわたって集電層を成す材料が存在しない点で中空となっている領域を指し、後述する通り、かかる領域に電極材が埋められていてもよい。
【0051】
さらに好適な態様では、集電層の平面視において、貫通開口が、対称的な形状を有している。つまり、集電層の平面視において、貫通開口が、線対称形状および/または点対称形状を有している。ここで「線対称」とは、平面視において対称軸を軸に図形を反転させると互いに重なり合う形状のものを指し、「点対称」とは、平面視において180度回転させても略同一の形状であるものを指す。例えば、貫通開口における対称的な形状とは、三角形状、矩形状、正方形状、菱形状、六角形状、八角形状、円状、楕円状などであってもよい。そのような貫通開口の形状とすることで、特定の箇所への応力集中を防止できる。
【0052】
さらにより好適な態様では、集電層の平面視形状が、対称的な形状を有している。つまり、集電層の平面視形状が、線対称形状および/または点対称形状を有している。より具体的には、貫通開口によってもたらされる集電層全体における平面視形状が、線対称形状および/または点対称形状となっている。より好ましくは、かかる集電層全体における平面視形状が、線対称形状および点対称形状となっている。図示する例示態様でいえば、集電層の平面視形状は、
図4C~
図4Fに示すような形状であることが好ましい。そのような集電層の平面視形状とすることで、特定の箇所への応力集中を防止でき、また正負極間の充放電反応をより均一とすることができる。
【0053】
ある好適な態様では、集電層の平面視において、集電層の長手方向に沿った貫通開口の寸法が、集電層の短手方向に沿った貫通開口の寸法よりも大きくなっている。そのような貫通開口の形状とすることによって、充放電時に生じる正負極層の体積変化により歪みがかかりやすい長手方向に対する集電層の剛性を下げ、より好適に応力を低減することができる。
【0054】
本明細書でいう固体電池の「長手方向」とは、集電層の平面視における長手寸法に沿った方向を指し、「短手方向」とは、集電層の平面視における短手寸法に沿った方向を指す。
図3Aに示す例示態様でいえば、集電層の斜視図において、長手方向は図面横方向を指し、短手方向は図面奥行方向を指す。また、
図3Aにおける態様では、長手方向と短手方向とは互いに略直交している。集電層の長手方向に沿った貫通開口の寸法とは
図3A中の「L」を指し、集電層の短手方向に沿った貫通開口の寸法とは
図3A中の「W」を指す。
【0055】
ある好適な態様では、集電層の平面視において貫通開口を形成する中実部分の幅寸法が、対を成す外部端子の対向方向にわたって略同一である。そのような幅寸法を有することで、正負極間の充放電反応をより均一とすることができる。また、特定の箇所への応力集中を防止できる。
【0056】
本明細書でいう「対を成す外部端子の対向方向」とは、電池構成材に対を成す外部端子を設ける場合、電池構成材が外部端子と接する方向を指す。
図5Aに示す例示態様でいえば、電池構成単位100’の各々が、対向して対を成す外部端子(すなわち、正極端子50Aおよび負極端子50B)と接している方向を指す。つまり、
図5Aにおいて、「対を成す外部端子の対向方向」は図面横方向を指し、本態様において、かかる方向は固体電池の「長手方向」と一致している。また、「貫通開口を形成している中実部分の幅寸法」とは、「対を成す外部端子の対向方向」に略直交する方向における貫通開口間の中実部分の寸法を指す。図示する例示態様でいえば、貫通開口を形成している中実部分の幅寸法は、
図5Bにおける「W
10」を指す。
【0057】
ある好適な態様では、集電層はメッシュ構造である。ここで「メッシュ構造」とは、広義には、複数の網目状構造を有し、複数の網目状構造で仕切られた中空領域が矩形、三角形、その他多角形や、円、楕円等の曲線を持つあらゆる形状を含む構造であることを指し、狭義には、その複数の網目状構造で仕切られた中空領域の形状が全て略同一の形状であり、かつそれらの領域が略均一に分布している構造を指す。集電層をメッシュ構造とすることによって、かかる集電層の剛性をより下げることができる。よって、充放電時における正負極層の膨張/収縮に伴う体積変化により生じる正負極層と集電層との間で生じる応力をより効果的に低減することができる。また、特定の箇所への応力集中を防止でき、正負極間の充放電反応をより均一とすることができる。
【0058】
かかるメッシュ構造における網目状構造で仕切られた中空領域は、矩形状、円状、または六角形状などであってもよい。かかる中空領域は略同一の形状であり、かつ略均一に分布していてもよい。また、より効果的に応力集中を防止し、正負極間の充放電反応をより均一にするために、中空領域はより細かい網目状構造で仕切られていることが好ましい。図示する例示態様でいえば、集電層におけるメッシュ構造は、
図4Fに示される格子状のメッシュ構造である。
【0059】
上述したような貫通開口を有する集電層は、例えば、未焼成積層体の集電層前駆体について、スクリーン印刷などを利用してパターン印刷して形成されたものでもよく、グリーンシート法により形成されたものでもよい。
【0060】
ある好適な態様では、集電層の貫通開口には、正極層または負極層の電極材が埋められている。正極層または負極層の電極材は、貫通開口の少なくとも一部に埋められていてもよい。例えば、集電層の貫通開口に少なくとも中空部分があってもよい。換言すれば、集電層の貫通開口に隙間があってもよい。より好適な態様では、貫通開口の全部に電極材が埋められている。より好適な態様では、正極集電層における貫通開口の全部に正極電極材が埋められ、また負極集電層における貫通開口の全部に負極電極材が埋められている。
図3Cに示す例示態様でいえば、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bの貫通開口の全部に、正極層20および負極層40の電極材がそれぞれ埋められている。ここで「貫通開口の全部」とは、貫通開口の中空領域の90%以上を指していてよく、例えば95%以上である。
【0061】
集電層は充放電反応しない層であるため、集電層を設けることで固体電池のエネルギー密度が低下するが、上述したような集電層の貫通開口に電極材が設けられることで正負極層の体積比率を上げることができる。それによって、集電層を設けつつもエネルギー密度の低下を抑えることができる。また、充放電時に正負極層と集電層との間で生じる応力に対して、集電層に存在する電極材の膨張/収縮により生じる力が反力として作用し、かかる応力をより効果的に低減することができる。
【0062】
ある好適な態様では、集電層の平面視において、貫通開口に起因する集電層の開口率が、10%以上45%以下である。開口率が10%以上であると、正負極層と集電層との間で生じる応力をより効果的に低減することができ、また所望のエネルギー密度をより効果的に得ることが可能となる。開口率が45%以下であると、成形時や充放電時に断線することを特に防止でき、また所望の電子伝導性をより効果的に得ることが可能となる。好ましくは、開口率は10%以上35%以下であり、さらに好ましくは10%以上25%以下である。
【0063】
本明細書でいう「開口率」とは、平面視における正極集電層の貫通開口のみの面積(S10A’)を、貫通開口を含めた正極集電層の全面積(S10A)で除算した値(S10A’/S10A)、または平面視における負極集電層の貫通開口のみの面積(S10B’)を、貫通開口を含めた負極集電層の全面積(S10B)で除算した値(S10B’/S
10B)を意味する。
【0064】
ある好適な態様では、正極層または負極層に対する集電層の厚み比が、0.02以上2.5以下である。厚み比が0.02以上であると、成形時や充放電時に断線することを特に防止でき、また所望の電子伝導性をより効果的に得ることが可能となる。2.5以下であると、正負極層と集電層との間で生じる応力をより効果的に低減することができ、また所望のエネルギー密度をより効果的に得ることが可能となる。好ましくは、厚み比は0.03以上1.0以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.6以下である。
【0065】
本明細書でいう「厚み比」とは、正極集電層の厚み(T10A)を正極層の厚み(T20)で除算した値(T10A/T20)、または負極集電層の厚み(T10B)を負極層の厚み(T40)で除算した値(T10B/T40)を意味する。ここで各層の厚みは、電池構成単位を断面視した場合に、正極層および負極層においては各層のみが存在する部分の厚みを指し、集電層においてはそれが有する貫通開口に正極層または負極層の電極材が埋められているか否かに関わらず、集電層が存在する部分の厚みを指す。
【0066】
ある好適な態様では、集電層の平面視において貫通開口を形成している中実部分の幅寸法が、50μm以上200μm以下である。貫通開口を形成している中実部分の幅寸法が50μm以上であると、成形時や充放電時に断線することを特に防止でき、200μm以下であると、正負極層と集電層との間で生じる応力をより効果的に低減することができる。好ましくは、貫通開口を形成している中実部分の幅寸法は50μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは50μm以上100μm以下である。
【0067】
上記する集電層および電極層の形状に関連するパラメータは、イオンミリング装置(日立ハイテク社製 型番IM4000PLUS)によって断面視方向断面および平面視方向断面をそれぞれ切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク社製 型番SU-8040)を用いて観察した画像から測定した寸法、またはその寸法から算出した値を指す。
【0068】
ある好適な態様では、集電層のヤング率が、70GPa以上100GPa以下である。かかるヤング率が70GPa以上であると、成形時や充放電時に断線することを特に防止でき、100GPa以下であると、正負極層と集電層との間で生じる応力をより効果的に低減することができる。好ましくは、ヤング率は70GPa以上90GPa以下であり、さらに好ましくは70GPa以上80GPa以下である。
【0069】
上記する集電層のヤング率は、JIS規格(JIS R 1602)に則った手法により測定した値を指す。ヤング率の測定には卓上形精密万能試験機(島津製作所製 型番AGS-5kNX)を使用した。
【0070】
本発明に係る固体電池は、電池構成単位を構成する各層が積層して成る積層型固体電池であり、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。それゆえ、電池構成単位を構成する各層は焼結層から成っており、正極層、負極層、固体電解質、ならびに正極層および/または負極層に設けられた集電層のそれぞれが互いに一体焼結されている。つまり、電池構成単位は、一体焼結体を成しているといえる。そのような一体焼結体において、集電層が貫通開口を有している。
【0071】
例えば、
図3Aに示す態様を例にとると、電池構成単位100’において、正極層20、固体電解質層30、負極層40がこの順に設けられ、正極層20および負極層40の片面に貫通開口を有する正極集電層10Aおよび負極集電層10Bがそれぞれ設けられ、これらの層は一体焼結により強固に密着している。本態様では、電子伝導性向上の観点から、正極層20および負極層40の両方の片面に、貫通開口を有する正極集電層10Aおよび負極集電層10Bが設けられている。また、特定の箇所への応力集中の防止、および正負極間の充放電反応の均一化の観点から、集電層が格子状のメッシュ構造となっている態様である。
図3Bに示すように、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bの貫通開口はそれぞれ中空となっていてもよい、エネルギー密度向上および応力低減の観点から、
図3Cに示すように、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bの貫通開口に、正極層20および負極層40の電極材がそれぞれ埋められていてもよい。
【0072】
固体電池のより現実的な態様を説明しておく。あくまでも1つの例示であるが、
図5Aに示す態様を例にとると、並列積層型全固体電池100は、正極層20、固体電解質層30、負極層40がこの順に設けられた複数の電池構成単位100’を備えていてよく、積層方向に沿って相互に隣接する一方の電池構成単位100’と他方の電池構成単位100’とが固体電解質層30を介して連続して一体焼結された構成としてもよい。本態様では、電子伝導性向上の観点から、全ての正極層20および負極層40の片面に、貫通開口を有する正極集電層10Aおよび負極集電層10Bが設けられている。また、
図6に示すように、積層方向に沿って相互に隣接する一方の電池構成単位100’と他方の電池構成単位100’とが絶縁層70により分断されて一体焼結された構成としてもよい。隣接する電池構成単位間の過度のイオンの吸蔵放出を防止し、充放電時における正負極層の体積変化を低減できるという観点から、積層方向に沿って相互に隣接する一方の電池構成単位100’と他方の電池構成単位100’とが絶縁層70により分断されて一体焼結された構成となっていてもよい。
【0073】
固体電池は端子(外部端子)を更に備えるものであってもよい。つまり、並列積層型全固体電池100は、電池構成単位100’の一方の端部にて正極集電層10Aと電気的接続された正極端子50Aと、電池構成単位の他方の端部に負極集電層10Bと電気的接続された負極端子50Bとを備えていてよい。より具体的には、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bは、その一方の端部にそれぞれ外部と電気的に接続するための電気的接続部を有し、かかる電気的接続部は、正極端子50Aおよび負極端子50Bとそれぞれ電気的に接続されている。
【0074】
図5Bに示すように、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bの貫通開口はそれぞれ中空となっていてもよい。エネルギー密度向上および応力低減の観点から、
図5Cに示すように、正極集電層10Aおよび負極集電層10Bの貫通開口に、正極層20および負極層40の電極材がそれぞれ埋められていてもよい。
【0075】
固体電池は保護層を更に備えるものであってもよい。つまり、固体電池積層体、正極端子50Aおよび負極端子50Bの外側には、固体電池積層体と一体積層化するように保護層60などが設けられていてもよい。
【0076】
[固体電池の製造方法]
本発明の固体電池は、上述したように、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。以下、本発明の理解のために印刷法を採用する場合について詳述するが、本発明は当該方法に限定されない。
【0077】
本発明の固体電池の製造方法は、未焼成積層体を印刷法により形成する工程、および未焼成積層体を焼成する工程を少なくとも含む。
【0078】
(未焼成積層体の形成工程)
本工程では、正極層用ペースト、負極層用ペースト、固体電解質用ペースト、集電層用ペーストおよび保護層用ペースト等の数種類のペーストをインクとして用いる。つまり、ペーストを印刷法で塗布することを通じて支持基材上に所定構造の未焼成積層体を形成する。
【0079】
ペーストは、正極活物質、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、集電層材料、絶縁性物質材料、および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極層用ペーストは、例えば、正極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。負極層用ペーストは、例えば、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。正極集電層用ペーストおよび負極集電層用ペーストは電子伝導性材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。絶縁層用ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。
【0080】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0081】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0082】
支持基材は、未焼成積層体を支持可能な限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料から成る基材を用いることができる。未焼成積層体を基材上に保持したまま焼成工程に供する場合には、基材は焼成温度に対して耐熱性を呈するものを使用してよい。
【0083】
印刷に際しては、所定の厚みおよびパターン形状で印刷層を順次、積層することによって、所定の固体電池の構造に対応する未焼成積層体を基材上に形成することができる。各印刷層の形成に際しては、乾燥処理が行われる。乾燥処理では、未焼成積層体から溶剤が蒸発することになる。未焼成積層体を形成した後、未焼成積層体を基材から剥離して、焼成工程に供してもよいし、あるいは、未焼成積層体を支持基材上に保持したまま焼成工程に供してもよい。
【0084】
(焼成工程)
焼成工程では、未焼成積層体を焼成に付す。あくまでも例示にすぎないが、焼成は、酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中または大気中で、例えば500℃にて有機材料を除去した後、窒素ガス雰囲気中または大気中で例えば550℃以上1000℃以下で加熱することで実施する。焼成は、積層方向(場合によっては積層方向および当該積層方向に対する垂直方向)で未焼成積層体を加圧しながら行ってよい。
【0085】
そのような焼成を経ることによって、未焼成積層体から電池構成単位が形成され、最終的には所望の固体電池が得られることになる。
【0086】
(本発明における特徴部分の作製について)
貫通開口を有する集電層は、例えば、スクリーン印刷などを利用して未焼成積層体の集電層前駆体を、少なくとも1つの貫通開口が設けられるようにパターン印刷しておけばよい。そのような集電層前駆体を焼成すると、貫通開口を有する集電層を有して成る所望の電池構成単位を有する固体電池を得ることができる。なお、貫通開口を有する集電層は、スクリーン印刷を通じて得ることができるが、少なくとも1つの貫通開口を形成するように焼成後に消失するような樹脂原料ペーストを用いても得ることができる。例えば、有機ビヒクルから成るペーストを貫通開口の形成に用いてよい。かかる場合、そのようなペーストが塗布された部分が焼成時に消失し得るので、集電層に貫通開口を有する所望の電池構成単位を得ることができる。同様にして、少なくとも1つの貫通開口を形成するように焼成時に消失し得る樹脂フィラーを含有する原料ペーストを用いることによって、貫通開口を有する集電層を得ることができる。上記方法によって、複数の貫通開口を有する集電層、複数の貫通開口が互いに略同一形状を有する集電層、または平面視において集電層が幾何学的形状を成すように貫通開口が配置されている集電層などを得ることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0088】
例えば、上記説明においては、例えば
図3Aなどで例示される電池構成単位を中心にして説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。本発明では正極層、負極層、固体電解質層を有し、正極層および負極層の少なくとも1つに対して、少なくとも1つの貫通開口を有する集電層が設けられている電池構成単位であれば、どのようなものであっても同様に適用することができる。また、集電層が複数の貫通開口を有する場合、集電層の平面視において、かかる複数の貫通開口の形状は必ずしも互いに略同一でなくてもよく、異なる形状が含まれていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 集電層
10A 正極集電層
10B 負極集電層
20 正極層
30 固体電解質層
40 負極層
50 端子
50A 正極端子
50B 負極端子
60 保護層
70 絶縁層
100’ 電池構成単位
100 固体電池