(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20220809BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/32 F
G01N30/32 C
G01N30/86 V
(21)【出願番号】P 2021504739
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010420
(87)【国際公開番号】W WO2020183684
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】五味 朋寛
(72)【発明者】
【氏名】北林 大介
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-507639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0327514(US,A1)
【文献】特開2000-130353(JP,A)
【文献】特開平1-182579(JP,A)
【文献】特開昭63-106382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/32
G01N 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を送液するための送液ポンプと、
前記送液ポンプからの移動相が流れる分析流路中に試料を注入する試料注入部と、
前記分析流路上に設けられ、前記試料注入部により前記分析流路中に注入された試料を成分ごとに分離するための分離カラムと、
前記分離カラムよりも上流における前記分析流路中の送液圧力を検出するための圧力センサと、
前記送液ポンプからの移動相が流れる系の内部容量をダンパ容量として保持するダンパ容量保持部と、
前記ダンパ容量保持部に保持された前記ダンパ容量を少なくとも用いて、前記送液ポンプの送液不良が発生したときの前記送液圧力の変動幅の基準値を決定するように構成された基準値決定部と、
前記圧力センサにより検出される送液圧力を周期的に取り込み、前記送液ポンプの一定駆動周期内の前記送液圧力の変動幅を求め、求めた前記変動幅と前記基準値決定部により決定された前記基準値とを用いて送液不良を検知するように構成された送液不良検知部と、を備えた液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記送液ポンプからの移動相が流れる系を構成し得る複数の要素のそれぞれの内部容量に関する情報を保持する容量情報保持部と、
前記送液ポンプからの移動相が流れる系の構成要素を特定するように構成された構成要素特定部と、
前記構成要素特定部により特定された構成要素について前記容量情報保持部に保持されている内部容量を用い、前記ダンパ容量を決定するように構成されたダンパ容量決定部と、を備え、
前記ダンパ容量保持部は前記ダンパ容量決定部により決定されたダンパ容量を保持するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記試料注入部は、試料を一時的に保持するサンプルループを有し、前記サンプルループを前記分析流路に介挿する第1状態と介挿しない第2状態に切り替えられるように構成されたものであり、
前記容量情報保持部は前記サンプルループの内部容量を保持しており、
前記構成要素特定部は、前記試料注入部が前記第1状態であるときは前記サンプルループを前記構成要素に含み、前記試料注入部が前記第2状態であるときは前記サンプルループを前記構成要素から除外するように構成されている、請求項2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記送液不良検知部は、前記変動幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えている周期の連続数が所定の基準回数を超えたことを条件として脈動を検出する脈動検出ステップと、
前記脈動検出ステップで前記脈動を検出したときに、前記送液ポンプの送液不良を検知する送液不良検知ステップと、をその順に実行するように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記送液ポンプは、互いに相補的に駆動される2台のプランジャポンプを備えたダブルプランジャポンプであり、
前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップにおいて、前記2台のプランジャポンプのうちの一方の吐出動作の開始点と終了点の前記送液圧力の差分を第1変動値として求め、前記2台のプランジャポンプのうちの他方の吐出動作の開始点と終了点の前記送液圧力の差分を第2変動値として求め、前記第1変動値と前記第2変動値を用いて前記変動幅を求めるように構成されている、請求項4に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップにおいて、前記第1変動値と前記第2変動値のどちらか一方のみが正の値である周期のみを前記変動幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えている周期としてカウントするように構成されている、請求項5に記載の
液体クロマトグラフ。
【請求項7】
前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップの前に、
前記送液ポンプの前記駆動周期に基づいて設定された時間当たりの送液圧力の降下幅を算出する圧力降下算出ステップと、
前記圧力降下算出ステップで算出した降下幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えたときに脈動発生のトリガーとして検出するトリガー検出ステップと、を実行し、
前記トリガー検出ステップで前記トリガーを検出した後で、脈動判定ステップを実行するように構成されている、請求項4に記載の液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ用の送液システムには、設定された流量で移動相となる溶媒を安定して送液する性能が求められている。送液システムに用いられる送液ポンプとして、単一のプランジャポンプを備えたシングルプランジャ方式、2つのプランジャポンプを備えたダブルプランジャ方式のものが採用されている。
【0003】
プランジャポンプが溶媒を吐出する際、溶媒の圧縮、逆止弁からの液漏れ、流路への微細な気泡の混入、溶媒の枯渇などによって送液圧力が低下することで、所謂、脈動と呼ばれる送液圧力の周期的な大きな変動が発生することがある。脈動が発生すると、移動相の流量が乱れて分析結果に悪影響を与え、ユーザの損失となる。そのため、プランジャポンプの動作を制御することによって脈動を抑制したり(特許文献1参照)、脱気ユニットを使用することによって気泡を除去したり、分析を開始する前に溶媒を高流量で送液することによって流路内の気泡を外部へ排出したりするなどの対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような対策を施したとしても、例えば、溶媒の中に残存した気体成分がプランジャポンプ内で気泡となったり、溶媒中の溶存酸素が温度変化によって飽和して気泡が発生したりするなどの理由により、送液中のプランジャポンプ内に気泡が混入し、そのまま分析が継続されてしまう場合があった。そのような場合、ユーザは無駄な分析データを取り続けることになる。
【0006】
ここで、送液ポンプによる送液不良が発生すると送液圧力が不安定になるため、送液圧力の変動を読み取ることによって送液不良が発生しているか否かを検知することができる。しかし、液体クロマトグラフの分析システムを構成する試料注入部、分離カラム、検出器及びそれらの間を接続する配管はそれぞれ内部容量をもっている。液体クロマトグラフの分析システムに送液ポンプを組み込んだ場合、それらの内部容量がダンパとして作用し、送液ポンプで送液不良が発生したときの送液圧力の変動の大きさに影響を与える。ダンパとして作用する内部容量の大きさは、分析システムを構成する要素の数や種類によって異なるため、送液圧力の変動の大きさを単一の基準で評価すると送液不良を正確に検知することができない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、送液ポンプの送液不良を正確に検知できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液体クロマトグラフは、移動相を送液するための送液ポンプと、前記送液ポンプからの移動相が流れる分析流路中に試料を注入する試料注入部と、前記分析流路上に設けられ、前記試料注入部により前記分析流路中に注入された試料を成分ごとに分離するための分離カラムと、前記分離カラムよりも上流における前記分析流路中の送液圧力を検出するための圧力センサと、前記送液ポンプからの移動相が流れる系の内部容量をダンパ容量として保持するダンパ容量保持部と、前記ダンパ容量保持部に保持された前記ダンパ容量を少なくとも用いて、前記送液ポンプの送液不良が発生したときの前記送液圧力の変動幅の基準値を決定するように構成された基準値決定部と、前記圧力センサにより検出される送液圧力を周期的に取り込み、前記送液ポンプの一定駆動周期内の前記送液圧力の変動幅を求め、求めた前記変動幅と前記基準値決定部により決定された前記基準値とを用いて送液不良を検知するように構成された送液不良検知部と、を備えている。
【0009】
ここで、本発明において、「前記送液ポンプの一定駆動周期内の前記送液圧力の変動幅」とは、前記送液ポンプの1駆動周期内の前記送液圧力の変動幅であってもよいが、前記送液ポンプの複数駆動周期内の前記送液圧力の変動幅、又は前記送液ポンプの複数駆動周期内の前記送液圧力の変動幅の平均値であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る液体クロマトグラフでは、送液ポンプからの移動相が流れる系の内部容量をダンパ容量として保持し、そのダンパ容量を少なくとも用いて、送液ポンプの送液不良が発生したときの送液圧力の変動幅の基準値を決定し、決定した基準値と送液ポンプの一定駆動周期内の送液圧力の変動幅とを用いて送液不良を検知するように構成されているので、分析システムごとに異なるダンパ容量が加味された基準値を用いて送液不良の検知がなされ、送液ポンプの送液不良を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例における脈動検出のアルゴリズムを説明するためのフローチャートである。
【
図3】同実施例におけるトリガー検出のアルゴリズムを説明するためのフローチャートである。
【
図4】送液ポンプで気泡の混入が発生したときの送液圧力の波形の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1に示されているように、液体クロマトグラフ1は、送液システム2、試料注入部4、分離カラム6、検出器8及び制御装置10を備えている。
【0014】
送液システム2は、分析流路12中で移動相を送液する送液ポンプ14と送液ポンプ14による送液圧力を検出するための圧力センサ16を備えている。なお、ここでは、1台の送液ポンプ14のみが図示されているが、2台以上の送液ポンプが設けられていてもよい。圧力センサ16の後段にミキサ18が設けられており、送液ポンプ14によって送液される移動相はミキサ18において混合される。
【0015】
図示は省略されているが、送液ポンプ14は、例えば、互いに相補的に駆動される2台のプランジャポンプを有して連続的な送液を行なうものである。このような送液ポンプ14は、プランジャポンプのポンプ室内に気泡が混入することによって送液流量の不安定化を招く送液不良が発生する。
【0016】
送液システム2には、送液ポンプ14による送液不良の発生を検知するための機能として、ダンパ容量決定部20、ダンパ容量保持部22、基準値決定部24及び送液不良検知部26が設けられている。ダンパ容量決定部20、基準値決定部24及び送液不良検知部26は、送液システム2の一部を構成しているコンピュータ回路において所定のプログラムが実行されることによって得られる機能であり、ダンパ容量保持部22は送液システム2に設けられた記憶装置の一部の記憶領域によって実現される機能である。ダンパ容量決定部20、ダンパ容量保持部22、基準値決定部24及び送液不良検知部26の詳細については後述する。
【0017】
試料注入部4は、分析流路12上におけるミキサ18の下流に設けられている。試料注入部4は分析流路12中に試料を注入するためのものである。試料注入部4は、試料を一時的に保持するサンプルループ(図示は省略)、分析流路12中にサンプルループを介挿した第1の状態と介挿しない第2の状態とに切り替えるための切替バルブ28を備えており、サンプルループに試料を保持させた状態で第1状態に切り替えられることで、分析流路12中に試料を注入するものである。また、切替バルブ28は、送液システム2からの移動相をドレインへ排出するための第3の状態に切り替えられるように構成されている。なお、切替バルブ28は、必ずしも送液システム2からの移動相をドレインへ排出するための第3の状態に切り替える機能を備えていなくてもよい。送液システム2からの移動相を分離カラム6側へ流すかドレインへ排出するかを切り替えるための切替バルブを、試料注入部4とは別に設けてもよい。また、そのような機能をもった切替バルブが必ずしも設けられていなくてもよい。
【0018】
分離カラム6は分析流路12上における試料注入部4の下流に設けられ、検出器8は分離カラム6のさらに下流に設けられている。分離カラム6は、試料注入部4によって分析流路12中に注入された試料を成分ごとに分離するためのものであり、分離カラム6で分離された試料成分が検出器8により検出される。
【0019】
制御装置10は、少なくとも送液システム2及び試料注入部4の動作管理を行なうためのものであり、例えばこの液体クロマトグラフ専用のシステムコントローラ及び/又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるものである。送液システム2の送液不良検知部26が送液ポンプ14の送液不良を検知したときは、送液不良を検知したことを示す信号が制御装置10へ送信される。その場合、制御装置10は、送液不良を解消するためのパージ動作を実行するように予め設定されているときには、試料注入部4に対して切替バルブ28を第3の状態に切り替えるように指令を送信し、送液システム2に対して送液流量を所定の高流量まで上昇させるように指令を送信する。これにより、送液ポンプ14に混入した気泡がドレインへ排出される。
【0020】
また、制御装置10は、容量情報保持部30及び構成要素特定部32を備えている。容量情報保持部30は、制御装置10に設けられた記憶装置の一部の記憶領域によって実現される機能であり、構成要素特定部32は、制御装置10において所定のプログラムが実行されることによって得られる機能である。
【0021】
容量情報保持部30には、この液体クロマトグラフのシステム構成に関する情報のほか、送液ポンプ14からの移動相が流れる系、すなわち、分析流路12を構成し得る各要素の内部容量に関する情報が保持されている。分析流路12を構成し得る要素には、例えば、送液ポンプ14、送液ポンプ14の出口からミキサ18の入口までの間の配管(圧力センサ16を含む)、ミキサ18、ミキサ18の出口から試料注入部4の入口までの間の配管、試料注入部4内の入口及び出口の配管、試料注入部4内で試料を一時的に保持するためのサンプルループ、試料注入部4の出口から分離カラム6の入口までの間の配管、分離カラム6などが含まれる。
【0022】
構成要素特定部32は、容量情報保持部30からシステム構成に関する情報を取得するとともに、試料注入部4などの要素から分析流路12の構成状態に関する情報を取得し、分析流路12の現在の構成要素を特定するように構成されている。例えば、構成要素特定部32は、試料注入部4が第1の状態になっているときはサンプルループを分析流路12の構成要素に含め、試料注入部4が第2の状態になっているときはサンプルループを分析流路12の構成要素から除外する。
【0023】
送液システム2のダンパ容量決定部20は、構成要素特定部32により特定された分析流路12の構成要素に関する内部容量の情報を容量情報保持部30から取得し、それらの内部容量を合計することによって、送液ポンプ14からの移動相が流れる系の内部容量をダンパ容量として決定するように構成されている。なお、ダンパ容量を決定するために、分析流路12の構成要素の内部容量を単純に足し合わせてもよいが、各構成要素が設けられている場所による移動相の圧縮への寄与度を考慮して、所定の係数を各構成要素の内部容量に乗じた上でそれらを足し合わせてもよい。ダンパ容量決定部20により決定されたダンパ容量がダンパ容量保持部22に保持される。ダンパ容量保持部22に保持されたダンパ容量は、基準値決定部24による基準値の決定に用いられる。また、ダンパ容量決定部20の機能は制御装置10に設けることができる。その場合、制御装置10において決定されたダンパ容量が送液システム2に通知され、ダンパ容量保持部22に保持される。
【0024】
ここで、送液ポンプにおいて気泡の混入が発生したときの送液圧力の変動について、
図4の圧力波形を用いて説明する。
【0025】
送液ポンプ14が移動相を安定的に送液できている状態では、
図4の圧力波形の左側のように、送液圧力は送液ポンプの動作等に起因した僅かな圧力変動はみられるものの安定している。送液ポンプ14の一方のプランジャポンプ内に気泡が混入すると、そのプランジャポンプの吐出動作中は発生した気泡の圧縮により液が正常に吐出されず、送液圧力が急激に降下し、他方のプランジャポンプの吐出動作中は液が正常に吐出されるために送液圧力が上昇する。したがって、
図4の圧力波形の右側のように、送液圧力の周期的な変動(脈動)が発生する。したがって、送液不良検知部26は、送液ポンプ14の駆動周期と同期する脈動を検出することによって送液不良を検知するように構成されている。
【0026】
上記のように、送液ポンプ14における気泡の混入に起因する送液圧力の脈動の周期は、気泡の混入した送液ポンプ14の駆動周期と同期する。そのため、脈動を検出するためには、送液ポンプ14の1駆動周期内における送液圧力の変動を読み取ることができるような頻度で圧力センサ16の信号を取り込む必要がある。そのため、送液不良検知部26を構成するコンピュータ回路が圧力センサ16から信号を取り込む頻度は、送液ポンプ14の駆動速度に応じて調整されるようになっていてもよい。その場合、圧力センサ16から信号を読み込む周期は、送液流量が決定されたときに計算によって決定することができる。
【0027】
送液不良検知部26は、送液ポンプ14の一定駆動周期内の送液圧力の変動幅を求め、その変動幅を基準値決定部24により決定された基準値と比較することにより、脈動を検出するように構成されている。
【0028】
基準値決定部24は、ダンパ容量保持部22に保持されているダンパ容量を少なくとも用いて、脈動の検出のために用いられる送液圧力の変動幅の基準値を決定するように構成されている。
【0029】
ここで、送液ポンプ14に混入した気泡に起因する送液圧力の変動幅ΔPは、液体クロマトグラフの時定数τによって決まり、時定数τは全体の送液圧力P[MPa]、ダンパC[uL/MPa]、送液流量Q[mL/min]に依存する値である。ダンパC[uL/MPa]は、ダンパ容量保持部22に保持されたダンパ容量V[uL]に移動相の圧縮率β[GPa
-1]を乗じることによって求めることができる。例えば、送液ポンプ14において気泡の混入が発生した後の経過時間をt秒とすると、送液圧力の変動幅ΔPは、
によって決定されると考えられる。したがって、送液ポンプ14における気泡の混入に起因した脈動か否かを判定するための基準値は、上記式によって求められるΔPを考慮して決定することができる。ただし、上記式の引数P、C、Q、t(又は、P、V、β、Q、t)のうちのいくつかを省略してより簡略的に基準値を決定してもよい。例えば、P、Cのみを引数として他の要素を固定値として求められるΔPを基準としてもよい。なお、複数台の送液ポンプによって共通の分析流路12中で移動相を送液している場合には、基準値の決定には、送液流量(送液圧力)に対する各送液ポンプの寄与率が考慮される。
【0030】
脈動検出のアルゴリズムの一例について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0031】
図2の例は、送液ポンプ14の1駆動周期内の送液圧力の変動を数十分割で読み取ることができる場合に有利である。この場合、送液ポンプ14の各プランジャポンプの吐出動作の開始点と終了点における送液圧力を正確に読み取ることができる。ここで、送液ポンプ14の1駆動周期とは、送液ポンプ14を構成しているプランジャポンプのうち一方のプランジャポンプの吐出動作が開始する時点から、他方のプランジャポンプの吐出動作が終了する時点までをいう。
【0032】
基準値決定部24及び送液不良検知部26を構成するコンピュータ回路は、圧力センサ16の信号を所定の頻度で取り込んで送液圧力(移動平均値)を読み取る。基準値決定部24及び送液不良検知部26は、以下のステップ101~108を実行する。
【0033】
基準値決定部24は、読み取った送液圧力とダンパ容量保持部22に保持されているダンパ容量を用いて基準値を決定する(ステップ101)。その後、送液不良検知部26は、送液ポンプ14を構成するプランジャポンプのうちの一方のプランジャポンプの吐出動作の開始点と終了点における送液圧力を読み取ったときに、それらの差分(開始点の送液圧力-終了点の送液圧力)を第1変動値として求め(ステップ102)、他方のプランジャポンプの吐出動作の開始点と終了点における送液圧力を読み取ったときに、それらの差分(開始点の送液圧力-終了点の送液圧力)を第2変動値として求める(ステップ103)。送液ポンプ14を構成するプランジャポンプのうちのいずれかに気泡が混入している場合、気泡が混入している一方のプランジャポンプの吐出動作中に送液圧力が降下し、気泡が混入していない他方のプランジャポンプの吐出動作中に送液圧力が上昇するため、送液ポンプ14において気泡の混入に起因した送液不良が発生しているのであれば、第1変動値と第2変動値のいずれか一方のみが正の値(他方は負の値)となる。したがって、送液不良検知部26は、第1変動値と第2変動値の値の符号が同じである場合には、気泡の混入に起因した脈動ではないと判定する(ステップ104)。
【0034】
第1変動値と第2変動値のいずれか一方のみが正の値である場合、送液不良検知部26は、第1変動値と第2変動値を用いて送液ポンプ14の1駆動周期内における送液圧力の変動幅を求める(ステップ105)。送液圧力の変動幅は、例えば次式により求めることができる。
変動幅=|第1変動値-第2変動値|/2
なお、上記式は一例であり、
変動幅=|第1変動値-第2変動値|
又は
変動幅=(第1変動値-第2変動値)2
などの式を用いて変動幅を求めてもよい。
【0035】
送液不良検知部26は、上記の変動値を基準値決定部24により決定された基準値と比較し(ステップ106)、変動値が基準値を超えている場合には、変動値が基準値を超えている駆動周期(変動周期)の連続数をカウントする(ステップ107)。そして、変動周期の連続数が所定の基準回数に達したときに、脈動を検出する(ステップ108)。
【0036】
ここで、脈動と判定するための圧力変動の連続数の基準となる基準回数は、可変に調整できるように構成されていてもよい。そうすれば、脈動検知の感度をどの程度にするかによって基準回数を調整することができる。
【0037】
なお、脈動を検出するためのアルゴリズムは上記のものに限定されない。例えば、送液ポンプ14の1駆動周期ごとの送液圧力を監視し、1駆動周期内における送液圧力の変動幅を求め、その変動幅を基準値決定部24により決定された基準値と比較することによって、脈動の検出を行なうことができる。
【0038】
上記のアルゴリズムは、送液ポンプ14を構成する各プランジャポンプの吐出動作の開始点及び
終了点における送液圧力を正確に読み取ることができないような場合に有効である。ただし、このアルゴリズムでは、送液ポンプ14の1駆動周期内に送液圧力の降下と上昇があったか否かを判別できないため、気泡の混入による圧力変動であるか否かを断定できない。そこで、脈動の検出のアルゴリズムを実行する前に、
図3のフローチャートに示すようなトリガーの検出のアルゴリズムを導入してもよい。
【0039】
以下に、
図3のフローチャートに示されたアルゴリズムについて説明する。
【0040】
基準値決定部24及び送液不良検知部26を構成するコンピュータ回路は、圧力センサ16の信号を所定の周期で読み込み(ステップ201)、送液圧力(移動平均値)を算出する(ステップ202)。基準値決定部24は、読み取った送液圧力とダンパ容量保持部22に保持されているダンパ容量を用いてトリガー検出のための基準値を決定する(ステップ203)。トリガー検出のための基準値は、脈動検出のための基準値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。送液不良検知部26は、送液ポンプ14の駆動周期に基づいて設定された時間当たり(例えば信号読込み10回分)の送液圧力の降下幅を算出する(ステップ204)。そして、算出した降下幅を基準値決定部24により決定された基準値と比較し(ステップ205)、降下幅が基準値を超えたときに脈動発生のトリガーとして検出する(ステップ206)。
【0041】
送液不良検知部26は、トリガーを検知した後、上述の脈動検出のアルゴリズムを用いて脈動の検出を行なう(ステップ207)。脈動が検出された場合は、送液不良を検知し(ステップ208、209)、警告信号を制御装置10へ送信する(ステップ210)。脈動が検出されなかった場合は、上記ステップ201へ戻る(ステップ208)。
【0042】
なお、圧力センサ16からの信号の読込み周期、トリガー検出のための基準値、脈動検出のための基準値を計算により決定するための係数は、ユーザによる変更指示の入力によって、又は、実際の送液不良の検知の結果に対するユーザの評価に基づいて、可変に調整されるように構成されていてもよい。また、液体クロマトグラフの分析システムがインターネット回線などのネットワーク回線を通じて他の液体クロマトグラフの分析システムと共通のデータベースに接続されている場合、データベースに蓄積されたユーザによる送液不良の検知結果に対する評価に基づいて上記各係数が自動的に調整されるように構成されていてもよい。
【0043】
ここで、試料注入部4が移動相中へ試料を注入する際には、切替バルブによって流路構成が変更されることによる送液圧力の急激な降下が発生することがある。しかし、そのような場合は、送液圧力の急激な降下が発生した後に、送液圧力の周期的な変動は発生することはないため、送液不良検知部26が脈動を検出することはなく、気泡の混入に起因した送液不良として誤検知されることはない。また、グラジエント送液の場合は、移動相の組成の変化により送液圧力が降下することがあるが、この場合も、送液圧力の周期的な変動は発生しないため、送液不良検知部26が脈動を検出することはなく、気泡の混入に起因した送液不良として誤検知されることはない。
【0044】
以上において説明した実施例では、送液システム2にダンパ容量決定部20、ダンパ容量保持部22、基準値決定部24及び送液不良検知部26の各機能が設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの機能の一部又は全部が制御装置10に設けられていてもよい。
【0045】
上記実施例は本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態の一例を示したに過ぎない。本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態は以下のとおりである。
【0046】
本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態は、移動相を送液するための送液ポンプと、前記送液ポンプからの移動相が流れる分析流路中に試料を注入する試料注入部と、前記分析流路上に設けられ、前記試料注入部により前記分析流路中に注入された試料を成分ごとに分離するための分離カラムと、前記分離カラムよりも上流における前記分析流路中の送液圧力を検出するための圧力センサと、前記送液ポンプからの移動相が流れる系の内部容量をダンパ容量として保持するダンパ容量保持部と、前記ダンパ容量保持部に保持された前記ダンパ容量を少なくとも用いて、前記送液ポンプの送液不良が発生したときの前記送液圧力の変動幅の基準値を決定するように構成された基準値決定部と、前記圧力センサにより検出される送液圧力を周期的に取り込み、前記送液ポンプの一定駆動周期内の前記送液圧力の変動幅を求め、求めた前記変動幅と前記基準値決定部により決定された前記基準値とを用いて送液不良を検知するように構成された送液不良検知部と、を備えている。
【0047】
本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態の第1態様では、前記送液ポンプからの移動相が流れる系を構成し得る複数の要素のそれぞれの内部容量に関する情報を保持する容量情報保持部と、前記送液ポンプからの移動相が流れる系の構成要素を特定するように構成された構成要素特定部と、前記構成要素特定部により特定された構成要素について前記容量情報保持部に保持されている内部容量を用い、前記ダンパ容量を決定するように構成されたダンパ容量決定部と、を備え、前記ダンパ容量保持部は前記ダンパ容量決定部により決定されたダンパ容量を保持するように構成されている。このような態様により、前記液体クロマトグラフの分析流路の構成要素に基づいた正確なダンパ容量を基準値の決定に用いることができ、送液不良の検知精度を向上させることができる。
【0048】
上記第1態様において、前記試料注入部は、試料を一時的に保持するサンプルループを有し、前記サンプルループを前記分析流路に介挿する第1状態と介挿しない第2状態に切り替えられるように構成されたものであり、前記容量情報保持部は前記サンプルループの内部容量を保持しており、前記構成要素特定部は、前記試料注入部が前記第1状態であるときは前記サンプルループを前記構成要素に含み、前記試料注入部が前記第2状態であるときは前記サンプルループを前記構成要素から除外するように構成されていてもよい。これにより、前記試料注入部の状態による変化するダンパ容量を基準値の決定に正確に反映することができ、送液不良の検知精度がさらに向上する。
【0049】
本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態の第2態様では、前記送液不良検知部は、前記変動幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えている周期の連続数が所定の基準回数を超えたことを条件として脈動を検出する脈動検出ステップと、前記脈動検出ステップで前記脈動を検出したときに、前記送液ポンプの送液不良を検知する送液不良検知ステップと、をその順に実行するように構成されている。このような態様により、前記送液ポンプへの気泡の混入に起因した脈動を検出することができる。
【0050】
上記第2態様の具体例として、前記送液ポンプは、互いに相補的に駆動される2台のプランジャポンプを備えたダブルプランジャポンプであり、前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップにおいて、前記2台のプランジャポンプのうちの一方の吐出動作の開始点と終了点の前記送液圧力の差分を第1変動値として求め、前記2台のプランジャポンプのうちの他方の吐出動作の開始点と終了点の前記送液圧力の差分を第2変動値として求め、前記第1変動値と前記第2変動値を用いて前記変動幅を求めるように構成されている例が挙げられる。このような具体例によれば、前記送液ポンプの一方のプランジャポンプの吐出動作中の送液圧力の変動と、他方のプランジャポンプの吐出動作中の送液圧力の変動を考慮して脈動の検出を行なうことができるので、より正確に気泡の混入に起因した脈動の検出を行なうことができる。
【0051】
上記具体例のさらなる具体的態様例として、前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップにおいて、前記第1変動値と前記第2変動値のどちらか一方のみが正の値である周期のみを前記変動幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えている周期としてカウントするように構成されている例が挙げられる。ダブルプランジャポンプのうち一方のプランジャポンプに気泡が混入した場合、一方のプランジャポンプの吐出動作中は送液圧力が降下し、他方のプランジャポンプの吐出動作中は送液圧力が上昇するため、前記第1変動値と前記第2変動値は互いに異なる符号の値となる。したがって、前記第1変動値と前記第2変動値のどちらか一方のみが正の値である周期のみを脈動の1周期としてカウントすることで、より正確に脈動の検出を行なうことができる。
【0052】
また、上記第2態様において、前記送液不良検知部は、前記脈動検出ステップの前に、前記送液ポンプの前記駆動周期に基づいて設定された時間当たりの送液圧力の降下幅を算出する圧力降下算出ステップと、前記圧力降下算出ステップで算出した降下幅が前記基準値決定部により決定された基準値を超えたときに脈動発生のトリガーとして検出するトリガー検出ステップと、を実行し、前記トリガー検出ステップで前記トリガーを検出した後で、脈動判定ステップを実行するように構成されていてもよい。これにより、前記送液ポンプの1駆動周期内における送液圧力の詳細な変動を読み取ることができないような場合でも、前記送液ポンプへの気泡の混入に起因した脈動を正確に検出することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 液体クロマトグラフ
2 送液システム
4 試料注入部
6 分離カラム
8 検出器
10 制御装置
12 分析流路
14 送液ポンプ
16 圧力センサ
18 ミキサ
20 ダンパ容量決定部
22 ダンパ容量保持部
24 基準値決定部
26 送液不良検知部
28 切替バルブ
30 容量情報保持部
32 構成要素特定部