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  • 特許-円すいころ軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/34 20060101AFI20220809BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
F16C33/34
F16C19/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021509352
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012520
(87)【国際公開番号】W WO2020196342
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019056970
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千島 将来
(72)【発明者】
【氏名】山中 啓陽
(72)【発明者】
【氏名】大島 裕之
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-82977(JP,A)
【文献】特開2015-94402(JP,A)
【文献】特開2008-57478(JP,A)
【文献】特開2003-269468(JP,A)
【文献】特開2002-187049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/34
F16C 19/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪及び外輪と、
該内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の円すいころと、を備える円すいころ軸受であって、
前記各円すいころの、少なくとも転動面及び大径側端面の表面粗さは、突出山部高さRpkが0.02~0.17μm、コア部のレベル差Rkが0.12~0.21μm、突出谷部高さRvkが0.07~0.43μmであり、該円すいころの表面に存在する微細な凹凸における、凹部の平均面積が5μm以下である、円すいころ軸受。
【請求項2】
前記各円すいころの表面はバレル加工によって仕上げ加工されており、
前記表面における、極表面の硬さは、前記バレル加工前の表面に対して、105%~135%の硬さを有する、請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記各円すいころの表面性状のアスペクト比Strが0.2以上である、請求項1又は2に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関し、特に、車両の変速機やデファレンシャルに使用される円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出規制に伴うエンジンの燃費向上、また、電気自動車の場合には電費向上の観点から、変速機などに使用される転がり軸受にも、攪拌抵抗の低い希薄潤滑下での使用や、潤滑油の低粘度化において、回転効率を高めることが求められている。
【0003】
また、従来、このような希薄潤滑下で使用される転がり軸受に対して、転動体の表面性状を特定することが種々考案されている。例えば、特許文献1に記載の転がり軸受では、転動体の表面または軌道輪の軌道面の少なくとも一方に、独立した微小凹部形状のくぼみを無数にランダムに形成し、くぼみ以外は滑らかな平滑面に形成し、等価円直径φ3μm以下を除いて整理したとき、くぼみの面積率は14%以上21%以下、平均面積は10μm2以上30μm2以下、最大面積が300μm2以上500μm2以下、くぼみの体積は0.007mm3/cm2以上0.010mm3/cm2以下であることを規定している。
【0004】
また、特許文献2に記載の円すいころ軸受では、ころピッチ径を小さくすることによってころ係数γを0.94越とするとともに、円すいころの表面に、微小凹形状のくぼみをランダムに無数に設け、くぼみを設けた表面の面粗さパラメータRyniを0.4μm≦Ryni≦1.0μm、Sk値を-1.6以下とし、更には保持器を特定形状にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第4754234号公報
【文献】日本国特許第4994638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の表面性状を有する転動体を円すいころ軸受に応用した場合、円すいころの転動面と軌道輪の軌道面との転がり接触部分においては、希薄潤滑下や潤滑油低粘度化でも転がり接触部の油膜形成性を向上させることでピーリング等の表面損傷を抑えることができると考えられる。しかしながら、円すいころの大径側端面と大鍔部との間の滑り接触部分に対しては、円すいころの大径側端面の凹凸が大きく、潤滑油保持性向上による油膜形成性向上効果よりも、面粗度悪化による油膜形成性悪化の効果が上回ることで、摩擦の増加による軸受回転トルクの悪化や焼付き等が生じる可能性がある。
また、特許文献2に記載の円すいころ軸受においても、円すいころの大径側端面と大鍔部との間の滑り接触部分について考慮されていない。
【0007】
そこで本発明は、円すいころの表面性状をより的確に示すパラメータを用いて規定することで、希薄潤滑下や潤滑油低粘度化において油膜形成性を悪化させることなく、転がり接触部分での表面損傷の抑制及び滑り接触部分の軸受回転トルク悪化や焼付き性悪化の抑制を両立させることができる円すいころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の上記目的は、下記構成によって達成される。
(1) 内輪及び外輪と、
該内輪及び外輪間に転動自在に配置される複数の円すいころと、を備える円すいころ軸受であって、
前記各円すいころの、少なくとも転動面及び大径側端面の表面粗さは、突出山部高さRpkが0.02~0.17μm、コア部のレベル差Rkが0.12~0.21μm、突出谷部高さRvkが0.07~0.43μmであり、該円すいころの表面に存在する微細な凹凸における、凹部の平均面積が5μm以下である、円すいころ軸受。
(2) 前記各円すいころの表面はバレル加工によって仕上げ加工されており、
前記表面における、極表面の硬さは、前記バレル加工前の表面に対して、105%~135%の硬さを有する、(1)に記載の円すいころ軸受。
(3) 前記各円すいころの表面性状のアスペクト比Strが0.2以上である、(1)又は(2)に記載の円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の円すいころ軸受では、少なくとも転動面及び大径側端面の表面性状として、凹部の平均面積が5μm以下と小さく、さらにRpk、Rk、Rvkを上記特定の範囲に規定したより微細な凹凸とすることで、希薄潤滑下や潤滑油低粘度化において油膜形成性を向上させ、転がり接触部分での表面損傷の抑制及び滑り接触部分の軸受回転トルク悪化や焼付き性悪化の抑制を両立させることができる。これにより、軸受回転トルク悪化や焼付き性悪化等の問題が発生することなく、長寿命な円すいころ軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】円すいころ軸受の一例を示す断面図である。
図2】(a)は、研削仕上げ加工後における円すいころの転動面の表面の三次元表面粗さを示し、(b)は、三次元表面粗さを角スペクトルで表した極座標グラフである。
図3】(a)は、バレル加工後における円すいころの転動面の表面の三次元表面粗さを示し、(b)は、三次元表面粗さを角スペクトルで表した極座標グラフである。
図4】試験1の結果を示すグラフである。
図5】試験2の結果を示すグラフである。
図6】試験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受について、詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の円すいころ軸受10は、希薄潤滑、潤滑油低粘度化など、油膜形成性が乏しい潤滑環境下で使用される車両の変速機やデファレンシャルに適用される。該円すいころ軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に配置される複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を周方向に等間隔に保持する保持器14と、を備える。
【0013】
内輪12は、内輪軌道面12aの小径側端部に設けられる小鍔部15と、内輪軌道面12aの大径側端部に設けられる大鍔部16と、を有する。小鍔部15は、円すいころ13の小径側端面13aと接触し、大鍔部16は、円すいころ13の大径側端面13bと接触する。
【0014】
このような円すいころ軸受10の円すいころ13を製造する際には、軸受鋼等の円柱状の素材に、鍛造加工等の塑性加工を施して、円すい台状の中間素材を形成し、その後、少なくとも転動面13c及び大径側端面13bに研削加工、研削仕上げ加工を施す。そして、研削仕上げ加工直後の円すいころ13の表面は、それぞれ方向性を持った表面(異方性表面)となり、微細な筋状の凹凸が多数形成されている。図2(a)は、研削仕上げ加工直後の円すいころ13の転動面13cの表面を三次元表面粗さ測定器により測定した三次元表面粗さであり、(b)は、三次元表面粗さを角スペクトルで表した極座標グラフであるが、ある方向(図2では90°付近)に一つの強いピーク(角スペクトル)が現れている。尚、極座標グラフ及び角スペクトルは、ISO 25178に規定されている。このような筋状の加工痕では、谷部が一方向に揃っており、潤滑油の保持能力が低い。
【0015】
そこで、本実施形態では、研削仕上げ加工後、各円すいころ13の転動面13c、小径側端面13a及び大径側端面13bを含む全表面にバレル加工を施して、全表面に方向性を持たない、以下に規定される微細な凹凸を多数形成する。特に、円すいころ13の転動面13c及び大径側端面13bは、
(a)突出山部高さRpkを0.02~0.17μm、好ましくは0.03~0.10μm
(b)コア部のレベル差Rkを0.12~0.21μm、好ましくは0.12~0.19μm
(c)突出谷部高さRvkを0.07~0.43μm、好ましくは0.17~0.41μm
(d)凹部の平均面積を5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.8μm以下
とする。なお、Rpk、Rk、Rvkは、ISO 13565-1(JIS B 0671-2)に規定されている。また、凹部の平均面積は、円すいころ13の最表面位置での面積である。
【0016】
(a)~(d)の要件を満たす微細な凹凸とすることで、希薄潤滑下や潤滑油低粘度化においても、円すいころ13の転動面13cと外輪11又は内輪12の軌道面11a,12aとの転がり接触部分での油膜切れによる表面損傷を抑制できるとともに、円すいころ13の大径側端面13bと大鍔部16との間の滑り接触部分の軸受回転トルク悪化や焼付き性悪化を抑制することができ、各接触部分での良好な潤滑状態を維持し、長寿命な円すいころ軸受10を得ることができる。
【0017】
また、バレル加工により、円すいころ13の極表面の硬さも高めることができる。バレル加工後の極表面の硬さは、鋼種や熱処理により異なるが、本実施形態においては、バレル加工前に比べて105%~135%、好ましくは、110~120%高くなる。極表面の硬さが高くなることにより、寿命を向上することができる。なお、極表面とは、表面から5μmまでの深さの部分を言い、極表面の硬さとは、マイクロビッカース硬度測定機において、試験力100gにて測定したときの硬さである。
【0018】
また、バレル加工後の円すいころ13の転動面13cの表面を同様に三次元表面粗さ測定器を用いて測定すると、図3(a)に示すような三次元表面粗さ、及び図3(b)に示すような極座標グラフが得られる。この場合、バレル加工後の円すいころ13の転動面13c、小径側端面13a及び大径側端面13bを含む全表面は、いずれも方向性を持たない表面(等方性表面)となり、ほぼ全ての方向に角スペクトルが分散している。また、角スペクトルのピーク高さも、特定の角度のみ特に高くなることもなく、ほぼ全方向に一様に凹凸が分布していると言える。
【0019】
異方性表面と等方性表面を表す指標として、ISO 25178で規定される表面性状アスペクト比Strが知られている。このStrは0~1の範囲であり、1に近いほど「等方性」が高いことを示している。本実施形態では、円すいころ13の各表面13a、13b、13cの表面性状のアスペクト比Strが0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることが特に好ましい。Strが0.2未満では凹凸の等方性が不十分であり、凹凸による潤滑油の保持能力が十分ではなく、耐久性の向上効果が十分に得られないおそれがある。
【実施例
【0020】
以下、従来例、実施例及び参考例を用いて、試験1~3によって、本発明の効果について確認を行った。
なお、従来例では、鋼材(SUJ2)に、塑性加工、研削加工、研削仕上げ加工を施して、円すいころ軸受の円すいころを作製した。また、実施例では、従来例の円すいころに、更にバレル加工を施して、表1に示す表面性状とした。さらに、参考例では、従来例の円すいころに、実施例と異なる条件で、バレル加工を施して、表1に示す表面性状とした。なお、表1の参考例及び実施例では、円すいころの個数nを30とし、Rpk、Rk、Rvkは、n個の円すいころの最小値と最大値を表している。
【0021】
【表1】
【0022】
(試験1)
従来例、実施例の各円すいころを用いた円すいころ軸受に対して、潤滑油として低粘度油(ISO VG10~VG15想定)を同じ供給量で供給し、希薄潤滑下条件を想定した耐久試験を行った。耐久試験では、動等価荷重20000N程度を負荷し、回転速度4000min-1にて軸受を回転させ、異常が発生するまでの回転時間を測定した。
【0023】
この結果、図4に示すように、従来例では円すいころの転動面に油膜形成性が悪い状況で発生し易いピーリングなどの異常が早期に発生したが、実施例では、従来例の約8倍の回転時間後でも異常を発生せず、微細な凹凸による油膜形成性向上効果により、耐久性が向上したのがわかった。
【0024】
(試験2)
つぎに、従来例、実施例及び参考例の各円すいころを用いた円すいころ軸受に対して、試験開始前に軸受に潤滑油としてISO VG32相当の汎用油を塗布し、試験中は潤滑油を供給することなく、アキシアル荷重4000Nを負荷し、回転速度4000min-1にて軸受を回転させ、滑り摩擦が主である大径側端面と大鍔部との間が焼付きに至るまでの回転時間(焼付き寿命)を測定した、
【0025】
この結果、図5に示すように、焼付き寿命は従来例及び実施例ともにほぼ同等であるが、参考例では、これらの約1/4にまで低下していた。これは、微細な凹凸が実施例よりも参考例のほうが大きいため、大径側端面と大鍔部との間での摩擦が増加したことで発熱が大きくなったためと考えられる。
【0026】
(試験3)
さらに、従来例、実施例及び参考例の各円すいころを用いた円すいころ軸受に対して、試験2と同様の潤滑油を供給しながら、軸受の回転数を変化させ、アキシアル荷重3000Nを負荷し、回転速度毎の軸受回転トルクを測定した。
【0027】
この結果を図6に示すが、実施例及び従来例はほぼ同等の挙動を示しているが、微細な凹凸が実施例よりも大きい参考例は低速時の軸受回転トルクが大きくなっていることがわかる。
【0028】
上記の結果から、それぞれの表面性状が、突出山部高さRpkが0.02~0.17μm、コア部のレベル差Rkが0.12~0.21μm、突出谷部高さRvkが0.07~0.43μmであり、該円すいころの表面に存在する微細な凹凸における、凹部の平均面積が0.8μm以下である、複数の円すいころを備えた円すいころ軸受とすることで、良好な耐久性、耐焼付き性、トルク性能が得られることが確認できた。
【0029】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0030】
なお、本出願は、2019年3月25日出願の日本特許出願(特願2019-56970)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0031】
10 円すいころ軸受
11 外輪
12 内輪
13 円すいころ
13b 大径側端面
13c 転動面
図1
図2
図3
図4
図5
図6