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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】試料導入装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/26 20060101AFI20220809BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01N30/26 Z
G01N30/86 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021562559
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043036
(87)【国際公開番号】W WO2021111881
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/047647
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】青野 晃
(72)【発明者】
【氏名】畑 翔太
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114456(JP,A)
【文献】特開2010-112761(JP,A)
【文献】特表2011-503549(JP,A)
【文献】国際公開第18/69959(WO,A1)
【文献】米国特許第4180389(US,A)
【文献】特開2014-59204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器のヘッドスペースに挿入される挿入管と、
前記挿入管に連通可能であり、前記挿入管を介して前記試料容器内にガスを供給させることにより前記ヘッドスペースを所定圧力に加圧するガス供給管と、
前記挿入管に連通可能であり、前記ヘッドスペースから導出されるガス中の成分を捕集する捕集部と、
前記捕集部を介して前記挿入管に連通可能な排出管と、
前記ガス供給管から前記挿入管にガスが供給される加圧状態、又は、加圧された前記ヘッドスペース内のガスが前記挿入管から前記捕集部を介して前記排出管に導出される導出状態のいずれかに切替可能な切替機構とを備え、
前記切替機構には、前記加圧状態において前記挿入管及び前記排出管を非連通状態とし、前記導出状態において前記挿入管及び前記排出管を連通状態とする排出バルブが含まれ、
前記導出状態において、前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路にガスを供給する付加流路を備え
前記付加流路は、前記所定圧力よりも低く、かつ、前記排出管内よりも高い圧力で、前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路にガスを供給する、試料導入装置。
【請求項2】
前記付加流路は、前記ガス供給管から分岐した抵抗管を含む、請求項1に記載の試料導入装置。
【請求項3】
前記切替機構には、前記抵抗管を開閉可能な付加バルブが含まれる、請求項に記載の試料導入装置。
【請求項4】
前記切替機構の動作を制御する切替制御部をさらに備え、
前記切替制御部は、前記加圧状態の後に、前記ガス供給管から前記挿入管へのガスの供給を停止させた状態で、前記付加バルブで前記抵抗管を閉状態とすることにより加圧維持状態とする、請求項に記載の試料導入装置。
【請求項5】
前記加圧維持状態において、加圧されている流路内からのガス漏れを検出するガス漏れ検出部をさらに備える、請求項に記載の試料導入装置。
【請求項6】
前記ガス漏れ検出部によりガス漏れが検出された場合に、その旨を報知する報知処理部をさらに備える、請求項に記載の試料導入装置。
【請求項7】
前記捕集部は、加熱領域に配置されており、
前記排出バルブは、加熱領域の外側に配置されている、請求項1に記載の試料導入装置。
【請求項8】
前記付加流路は、前記加熱領域において前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路に連通している、請求項に記載の試料導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に例示されるようなヘッドスペース方式の試料導入装置では、試料を収容する試料容器が加熱されることにより、試料中の成分が気化し、気化した成分が試料容器内における上部の空間(ヘッドスペース)に蓄えられる。そして、ヘッドスペースに挿入管が挿入され、挿入管を介して試料容器内にガスが供給されることにより、ヘッドスペースが加圧される。
【0003】
このようにしてヘッドスペースが加圧された後、試料容器内へのガスの供給が停止されると、ヘッドスペース内の圧力により、気化した成分がヘッドスペースから試料容器の外部に導出される。ヘッドスペースから導出されたガス中の成分は、捕集部において捕集される。その後、捕集部に捕集された成分が、ガスクロマトグラフへと送られて検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-112761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッドスペースから導出されるガスは、捕集部を介して排出管へと排出される。このとき、捕集部において捕集されなかったガス中の成分は、排出管を介して排出される。通常、排出管に至る流路の一部は加熱されていないため、捕集部を通過したガス中の成分の一部が、流路の壁面又は流路に設けられた排出バルブなどに吸着して残留しやすい。
【0006】
上記のようにガス中の成分が流路の途中に残留した場合であっても、ヘッドスペースから導出されるガスの圧力が高ければ、残留した成分は捕集部側に拡散しにくい。しかしながら、ヘッドスペースから導出されるガスの圧力は、時間の経過とともに徐々に低下する。そのため、ヘッドスペースからのガスの導出を終了する直前には、当該ガスの圧力が低下することにより、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散する可能性がある。
【0007】
この場合、前回の分析時に流路の途中に残留していた成分が、捕集部側に拡散することによりキャリーオーバーされ、分析精度の低下を招くおそれがある。特に、高濃度の試料を用いて分析を行った後に、低濃度の試料の分析又はブランク分析を行う場合には、高濃度の試料の成分が流路に残留しやすく、かつ、残留した成分のキャリーオーバーによる悪影響が生じやすい。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる試料導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、挿入管と、ガス供給管と、捕集部と、排出管と、切替機構と、付加流路とを備える試料導入装置である。前記挿入管は、試料容器のヘッドスペースに挿入される。前記ガス供給管は、前記挿入管に連通可能であり、前記挿入管を介して前記試料容器内にガスを供給させることにより前記ヘッドスペースを所定圧力に加圧する。前記捕集部は、前記挿入管に連通可能であり、前記ヘッドスペースから導出されるガス中の成分を捕集する。前記排出管は、前記捕集部を介して前記挿入管に連通可能である。前記切替機構は、前記ガス供給管から前記挿入管にガスが供給される加圧状態、又は、加圧された前記ヘッドスペース内のガスが前記挿入管から前記捕集部を介して前記排出管に導出される導出状態のいずれかに切替可能である。前記切替機構には、前記加圧状態において前記挿入管及び前記排出管を非連通状態とし、前記導出状態において前記挿入管及び前記排出管を連通状態とする排出バルブが含まれる。前記付加流路は、前記導出状態において、前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路にガスを供給する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、加圧されたヘッドスペース内のガスが挿入管から捕集部を介して排出管に導出される導出状態において、付加流路から供給されるガスによって、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の試料導入装置を示す流路図である。
図2A】第1実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図2B】第1実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図2C】第1実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図2D】第1実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図3A】第1実施形態の配管における試料成分の残留について説明するための概略断面図である。
図3B】第1実施形態の配管における試料成分の残留について説明するための概略断面図である。
図3C】第1実施形態の配管における試料成分の残留について説明するための概略断面図である。
図4A】第1実施形態における配管の周辺のガスの流れについて説明するための概略断面図である。
図4B】第1実施形態における配管の周辺のガスの流れについて説明するための概略断面図である。
図4C】第1実施形態における配管の周辺のガスの流れについて説明するための概略断面図である。
図5】第2実施形態の試料導入装置を示す流路図である。
図6】第2実施形態の試料導入装置の電気的構成を示すブロック図である。
図7A】第2実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図7B】第2実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図7C】第2実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図7D】第2実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図7E】第2実施形態の試料導入装置の動作について説明するための流路図である。
図8】第2実施形態の試料導入装置のRAMのメモリマップの一例を示す図である。
図9】第2実施形態の試料導入装置の具体的な電気的構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.試料導入装置の構成
図1は、試料導入装置100の一実施形態を示した流路図である。試料導入装置100は、挿入管101、導入バルブ102、排出バルブ103、捕集部104及び流路切替バルブ105などを備えている。試料導入装置100には、試料が封入された試料容器2がセットされ、この試料容器2内で気化された試料(試料ガス)がガスクロマトグラフ1に導入される。なお、ガスクロマトグラフ1は、ガスクロマトグラフ質量分析装置を含む概念である。
【0013】
試料容器2は、上端部に開口が形成されたバイアル瓶21と、バイアル瓶21の開口を閉塞する樹脂製のセプタム22とを備えている。試料は、バイアル瓶21内に封入される。試料は、例えば固体試料又は液体試料である。挿入管101は、例えば先端が尖ったニードルにより構成されており、その先端部がセプタム22を貫通してバイアル瓶21の内部に挿入される。挿入管101は、配管201を介して流路切替バルブ105に連通している。
【0014】
試料容器2は、図示しない加熱部により外部から加熱され、試料容器2内の試料が気化される。気化された試料は、試料容器2内の上部の空間(ヘッドスペース23)に蓄えられる。挿入管101は、その先端部がヘッドスペース23に位置するように試料容器2内に挿入される。試料容器2内で試料が気化することにより発生した試料ガスは、ヘッドスペース23に挿入された挿入管101から導出されて、流路切替バルブ105へと送られる。
【0015】
捕集部104は、流路切替バルブ105の動作により、挿入管101に連通可能である。捕集部104は、例えばサンプルループにより構成されており、試料容器2のヘッドスペース23から導出される試料ガス中の成分を捕集して濃縮する。試料成分が濃縮された捕集部104が加熱されることにより、捕集部104内の試料成分が揮発して脱離し、その試料成分がキャリアガスによりガスクロマトグラフ1に供給される。
【0016】
流路切替バルブ105は、例えば6つのポートa~fを有する六方バルブにより構成されている。挿入管101は、配管201を介して流路切替バルブ105のポートaに連通している。捕集部104の両端部は、流路切替バルブ105のポートb及びポートeに連通している。流路切替バルブ105のポートcは、配管202を介してガスクロマトグラフ1に連通している。流路切替バルブ105のポートdには、キャリアガスが供給される。このキャリアガスは、窒素ガス又はヘリウムガスなどの不活性ガスである。
【0017】
流路切替バルブ105のポートfには、配管(ガス供給管)203を介してキャリアガスを供給可能である。このキャリアガスは、窒素ガス又はヘリウムガスなどの不活性ガスであり、ポートdに供給されるキャリアガスとは異なる圧力で供給される。ポートd,fにそれぞれ供給されるキャリアガスの圧力は、調圧器(図示せず)により加圧されている。また、配管203は、分岐部205において配管204に分岐している。配管203及び配管204は、流路切替バルブ105の動作により、挿入管101に連通可能である。
【0018】
導入バルブ102は、配管203における分岐部205よりも上流側に設けられている。導入バルブ102は、例えば電磁バルブにより構成されている。導入バルブ102が開状態のときには、配管203を介して、流路切替バルブ105のポートfにキャリアガスが供給される。配管203における導入バルブ102の上流側と下流側とは、抵抗管(付加流路)206を介して連通している。
【0019】
すなわち、抵抗管206は、導入バルブ102の上流側で配管203から分岐し、導入バルブ102の下流側で配管203に再び合流している。配管203に対する抵抗管206の合流部は、分岐部205よりも下流側である。これにより、導入バルブ102が閉状態のときであっても、抵抗管206を介して導入バルブ102の下流側にキャリアガスを供給することが可能である。抵抗管206は、ガス供給管を構成する配管203よりも内径が小さい配管である。
【0020】
配管204は、排出バルブ103を介して配管(排出管)207に連通可能である。排出バルブ103は、例えば電磁バルブにより構成されている。排出バルブ103が開状態のときには、配管203,204,207を介して、流路切替バルブ105のポートfから排気口にガスを排出可能である。一方、排出バルブ103が閉状態のときには、配管204と配管207との間のガスの流通が遮断される。
【0021】
ガスクロマトグラフ1は、試料導入部11及びカラム12などを備えている。捕集部104に捕集された試料成分は、配管202を介してガスクロマトグラフ1に供給される。キャリアガスとともにガスクロマトグラフ1へと供給される各試料成分は、試料導入部11からカラム12に導入され、カラム12を通過する過程で試料成分ごとに分離される。このようにして分離された各試料成分は、検出器(図示せず)により検出され、分析結果としてクロマトグラムが得られる。
【0022】
なお、本実施形態では、捕集部104から試料導入部11に供給される試料の一部が、キャリアガスとともに外部に排出されることにより、いわゆるスプリット導入法を用いてカラム12に試料が導入されるようになっている。ただし、このような構成に限らず、捕集部104から試料導入部11に供給される試料の全てがカラム12に導入されるような構成であってもよい。
【0023】
挿入管101、捕集部104、流路切替バルブ105及び試料導入部11などの各部は、所定温度に加熱される加熱領域3に配置されている。加熱領域3には、各部を加熱するための加熱機構(図示せず)が設けられている。加熱機構は、例えばアルミブロックなどの伝熱体と、ヒータとを備えた構成であってもよい。この場合、上記各部を伝熱体で挟み、当該伝熱体を介してヒータからの熱を各部に伝達するような構成であってもよい。ただし、加熱機構としては、上記のような構成に限らず、他の任意の構成を採用することができる。
【0024】
配管201,202は、加熱領域3に配置されている。配管203における導入バルブ102よりも下流側の一部、及び、配管204における分岐部205側の一部も、加熱領域3に配置されている。一方、導入バルブ102及び排出バルブ103は、加熱領域3の外側に配置されており、加熱されない状態で使用される。導入バルブ102の上流側で配管203から分岐した抵抗管206は、加熱領域3において配管203に連通している。
【0025】
2.試料導入装置の動作
図2A図2Dは、試料導入装置100の動作について説明するための流路図である。図2A図2Dにおいて、ガスが流れている流路は破線で示されている。
【0026】
試料導入装置100は、導入バルブ102、排出バルブ103及び流路切替バルブ105を切り替えることにより、試料容器2内で気化された試料をガスクロマトグラフ1に導入する。導入バルブ102、排出バルブ103及び流路切替バルブ105は、流路を切り替えるための切替機構110を構成している。
【0027】
図2Aの状態では、流路切替バルブ105のポートaとポートbが連通し、ポートeとポートfが連通している。また、導入バルブ102は開状態とされ、排出バルブ103は閉状態とされている。したがって、配管203に供給されるキャリアガスは、流路切替バルブ105のポートf,eを介して捕集部104に流入する。そして、捕集部104を通過したキャリアガスは、流路切替バルブ105のポートb,a及び配管201を介して挿入管101へと送られる。
【0028】
なお、図2Aの状態では、流路切替バルブ105のポートcとポートdが連通している。これにより、ガスクロマトグラフ1のカラム12には、流路切替バルブ105のポートd,c及び配管202を介してキャリアガスが供給されている。
【0029】
図2Aのように、挿入管101の先端部が試料容器2内に挿入された状態であれば、配管203から供給されるキャリアガスが、挿入管101を介して試料容器2内に供給される。これにより、ヘッドスペース23が所定圧力に加圧される。すなわち、図2Aの状態は、配管203から挿入管101にキャリアガスが供給される加圧状態である。この加圧状態において、排出バルブ103は、挿入管101及び配管207を非連通状態とする。
【0030】
図2Aの状態から、導入バルブ102が閉状態に切り替えられるとともに、排出バルブ103が開状態に切り替えられると、図2Bの状態となる。これにより、排出管を構成する配管207が、捕集部104を介して挿入管101に連通した状態となる。この図2Bの状態では、試料容器2内で気化された試料が、試料容器2内の圧力によって、ヘッドスペース23から挿入管101に試料ガスとして導出される。
【0031】
挿入管101に導出された試料ガスは、配管201及び流路切替バルブ105のポートa,bを介して捕集部104に流入する。そして、捕集部104を通過した試料ガスは、流路切替バルブ105のポートe,f及び配管203,204,207を介して排気口に排出される。このように、図2Bの状態は、加圧されたヘッドスペース23内の試料ガスが挿入管101から捕集部104を介して配管207に導出される導出状態である。この導出状態において、排出バルブ103は、挿入管101及び配管207を連通状態とする。導出状態では、捕集部104を通過する試料ガス中の成分の一部が、捕集部104において捕集される。
【0032】
図2Bに示す導出状態となった直後は、ヘッドスペース23内の圧力が高く、ヘッドスペース23から導出される試料ガスの流量も多い。しかしながら、ヘッドスペース23内の圧力は時間の経過とともに低下し、配管201,203,204,207を通過する試料ガスの流量も徐々に減少する。
【0033】
配管203内の試料ガスの圧力が、抵抗管206内のキャリアガスの圧力よりも小さくなると、図2Cに示すように、抵抗管206内のキャリアガスが配管203内に流入し、配管204,207を介して試料ガスとともに排気口に排出される。すなわち、導出状態において、捕集部104と排出バルブ103との間の配管203に抵抗管206からガスが供給される。これにより、配管204,207及び排出バルブ103におけるガスの圧力の低下が抑制される。
【0034】
その後、図2Dに示すように、導入バルブ102が開状態にされるとともに、流路切替バルブ105が切り替えられる。図2Dの状態では、流路切替バルブ105のポートbとポートcが連通し、ポートdとポートeが連通している。なお、排出バルブ103は開状態のまま維持される。
【0035】
これにより、流路切替バルブ105のポートdとポートeを介して捕集部104にキャリアガスが流入する。そして、捕集部104を通過したキャリアガスが、流路切替バルブ105のポートb,c及び配管202を介してガスクロマトグラフ1に供給される。このとき、捕集部104内に捕集されていた成分がキャリアガスとともにガスクロマトグラフ1に供給され、各成分がカラム12を通過する過程で分離される。
【0036】
なお、図2Dに示す供給状態では、流路切替バルブ105のポートaとポートfが連通している。これにより、配管203に供給されるキャリアガスは、流路切替バルブ105のポートf,a及び配管201を介して挿入管101に供給されている。
【0037】
上記のような図2A図2Dの動作は、試料容器2内に試料が収容された状態と、試料容器2内に試料が収容されていない状態とで行われてもよい。この場合、試料容器2内に試料が収容された状態ではサンプル分析が行われ、試料容器2内に試料が収容されていない状態ではブランク分析が行われる。サンプル分析でガスクロマトグラフ1により得られた分析結果と、ブランク分析でガスクロマトグラフ1により得られた分析結果とに基づいて、試料中の各成分の濃度を算出することができる。
【0038】
3.試料成分の残留
図3A図3Cは、配管204における試料成分の残留について説明するための概略断面図である。配管204の内壁面には、図3Aに示すように、捕集部104を通過した試料ガス中の成分(分子)4の一部が吸着して残留する場合がある。
【0039】
ヘッドスペース23内の圧力が高く、ヘッドスペース23から導出される試料ガスの流量が多いときには、図3Aに矢印F11で示すように、配管204内を高い流速で試料ガスが通過する。そのため、配管204の内壁面に成分4が吸着している場合であっても、試料ガスに対して成分4が上流側に拡散しにくい。
【0040】
しかしながら、ヘッドスペース23内の圧力が時間の経過とともに低下し、配管204を通過する試料ガスの流量が減少すると、図3Bに矢印F12で示すように、配管204内を通過する試料ガスの流速が低下する。このとき、配管204の内壁面に吸着している成分4が、図3Bに示すように、試料ガスに対して上流側に拡散する場合がある。
【0041】
そして、ヘッドスペース23からの試料ガスの導出を終了する直前には、試料ガスの流速が非常に低くなるため、図3Cに示すように、多くの成分4が試料ガスに対して上流側に拡散する場合がある。この場合、配管204内に残留した成分が捕集部104にまで拡散する可能性がある。
【0042】
図4A図4Cは、本実施形態における配管204の周辺のガスの流れについて説明するための概略断面図である。配管204の内壁面には、図4Aに示すように、捕集部104を通過した試料ガス中の成分(分子)4の一部が吸着して残留する場合がある。特に、配管204における加熱領域3の外側に配置された部分では、試料ガス中の成分4が吸着しやすい。
【0043】
本実施形態では、図4Aに示すように、配管204よりも捕集部104側における配管203の途中に、抵抗管206が連通している。この抵抗管206内のキャリアガスの圧力は、PV1である。一方、配管204内の圧力は、調圧器(図示せず)により、PV1よりも若干低い圧力PV2に加圧されている。ただし、圧力PV2は大気圧であってもよい。これらの圧力PV1,PV2は、加圧されたときのヘッドスペース23内の圧力(所定圧力)よりも低い。すなわち、抵抗管206は、上記所定圧力よりも低く、かつ、配管204内よりも高い圧力で、捕集部104と排出バルブ103との間の流路(配管203)にガスを供給する。
【0044】
配管203内の圧力Pは、ヘッドスペース23からの試料ガスの導出が開始された直後は上記所定圧力である。このように、ヘッドスペース23内の圧力が高く、ヘッドスペース23から導出される試料ガスの流量が多いときには、図4Aに矢印F21で示すように、配管204内を高い流速で試料ガスが通過する。そのため、配管204の内壁面に成分4が吸着している場合であっても、試料ガスに対して成分4が上流側に拡散しにくい。なお、図4Aの状態では、配管203内の圧力Pが抵抗管206内の圧力PV1よりも高いため、抵抗管206から配管203内にキャリアガスは流入していない。
【0045】
その後、ヘッドスペース23内の圧力が時間の経過とともに低下し、配管203内の圧力Pが抵抗管206内の圧力PV1よりも低くなると、配管204へと流入する試料ガスの流量が減少し、図4Bに矢印F22で示すように、配管204内へと流入する試料ガスの流速が低下する。このとき、図4Bに矢印F23で示すように、抵抗管206から配管203内にキャリアガスが流入する。これにより、配管204の内壁面に吸着している成分4が試料ガスに対して上流側に拡散するのを防止することができる。
【0046】
そして、ヘッドスペース23からの試料ガスの導出を終了する直前には、試料ガスの流速が非常に低くなるが、図4Cに矢印F24で示すように、抵抗管206から配管203内に継続してキャリアガスが流入する。したがって、配管204内の成分4が捕集部104まで拡散するのを防止することができる。
【0047】
図3A図3C及び図4A図4Cでは、配管204の内壁面に、試料ガス中の成分4が吸着した場合について説明した。しかしながら、配管204以外の配管の内壁面に、試料ガス中の成分4が吸着する場合もある。また、排出バルブ103などの内壁面にも同様に、試料ガス中の成分4が吸着する場合がある。排出バルブ103も加熱領域3の外側に配置されているため、試料ガス中の成分4が吸着しやすい。
【0048】
4.第2実施形態
第2実施形態では、ガス漏れの有無を検出可能とするために、試料導入装置100の構成の一部を変更したこと以外は第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態と重複する説明は省略する。
【0049】
図5は、試料導入装置100の第2実施形態を示す流路図である。図5に示す試料導入装置100では、付加バルブ226及び圧力センサ228が新たに設けられる。
【0050】
付加バルブ226は、抵抗管206の開閉を可能にするためのバルブである。また、第2実施形態では、切替機構110は、付加バルブ226を含む。
【0051】
第2実施形態では、加圧状態の後に開状態のバルブが閉状態に切り替えられ、導入バルブ102、付加バルブ226及び排出バルブ103を介するガスの流通が遮断される。つまり、第2実施形態では、加圧状態の後に、加圧されている流路内の圧力が維持される。
【0052】
また、第2実施形態では、配管203へのキャリアガスの供給に伴って加圧される流路の任意の位置に圧力センサ228が設けられる。圧力センサ228は、配管203へのキャリアガスの供給に伴って加圧される流路内の圧力を測定するためのセンサである。図5に示す例では、圧力センサ228が配管204に設けられる。なお、圧力センサ228の設けられる位置は、加熱領域3の外が好ましい。
【0053】
図6は、第2実施形態に係る試料導入装置100の電気的構成の一例を示すブロック図である。図6に示されるように、試料導入装置100は、制御装置220、切替制御回路225、信号処理回路227及び報知部229をさらに備える。
【0054】
制御装置220は、バス等の回路224を介して、切替制御回路225、信号処理回路227及び報知部229の各々と電気的に接続される。
【0055】
また、切替制御回路225は、導入バルブ102、排出バルブ103、流路切替バルブ105及び付加バルブ226に電気的に接続される。信号処理回路227には、圧力センサ228が電気的に接続される。
【0056】
制御装置220は、試料導入装置100の全体的な制御を担う。制御装置220は、CPU(Central Processing Unit)221を備える。また、制御装置220は、CPU221が直接的にアクセス可能なRAM(Random Access Memory)222および記憶部223を備える。
【0057】
CPU221は、試料導入装置100の各コンポーネントを制御する。RAM222は、CPU221のワーク領域およびバッファ領域として用いられる。記憶部223は、不揮発性メモリであり、たとえば、記憶部223としてHDD(Hard Disc Drive)またはSSD(Solid State Drive)等が用いられる。
【0058】
記憶部223には、試料導入装置100の各コンポーネントを制御するための制御プログラム及び制御プログラムの実行に必要とされるデータ(実行用データ)等が記憶される。なお、記憶部223がRAM222を含むように構成されてもよい。
【0059】
切替制御回路225は、各バルブ102、103、105、226を駆動させるための電圧(駆動電圧)を生成し、駆動電圧を適宜に導入バルブ102等に印加する。なお、第2実施形態では、各バルブ102、103、105、226は、ソレノイドバルブ(電磁弁)である。第2実施形態では、制御装置220によって、切替機構110の動作、具体的には、各バルブ102、103、105、226の動作が制御される。
【0060】
信号処理回路227は、圧力センサ228から出力される信号を処理するための回路であって、信号処理回路227は、たとえば、圧力センサ228から出力される信号を増幅するための増幅回路を含む。
【0061】
報知部229は、ガスが漏れている旨を報知するための構成を含む。第2実施形態では、報知部229は、表示部及びその表示部に種々の画面を表示するための制御回路を含む。ここでの表示部は、汎用のディスプレイを指す。
【0062】
なお、視覚的、聴覚的又は触覚的にガス漏れを報知することができるのであれば、報知の方法は特に限定されない。たとえば、報知部229が、D/A変換回路、そのD/A変換回路による変換後のアナログ音声信号を増幅する増幅回路及び汎用のスピーカ等を含むように構成されてもよい。あるいは、報知部229が発光部及びその発光部の点灯を制御するための回路を含むように構成されてもよい。また、報知部229が振動部及びその振動部を制御するための回路を含むように構成されてもよい。
【0063】
第2実施形態では、ガス漏れの有無の検出は、図2A図2Dを参照して説明した試料を試料導入部11からカラム12に導入させるための一連の動作(導入動作)の途中で行われる。
【0064】
第2実施形態の導入動作は、加圧状態の試料導入装置100を加圧されている流路内の圧力を維持するための状態(加圧維持状態)に切り替えるための動作を含む。以下、図7A図7Eを参照して、第2実施形態の導入動作について説明する。図7A図7Eの各々は、第2実施形態の試料導入装置100の動作について説明するための流路図である。
【0065】
第2実施形態において、導入動作は、適宜に開始される。たとえば、試料導入装置100がユーザからの操作を受け付ける操作受付部を備えるのであれば、ユーザからの操作に応じて、導入動作が開始される。また、試料導入装置100が他の装置と通信するための通信部を備える場合、他の装置が備える操作部が操作されたことに応じて、導入動作が開始されてもよい。一例として、ガスクロマトグラフ1が操作部を備え、ガスクロマトグラフ1及び試料導入装置100が通信可能な場合、ガスクロマトグラフ1が備える操作部が操作されたことに応じて、導入動作が開始される。
【0066】
第2実施形態では、導入動作が開始されると、デフォルト状態の試料導入装置100が図7Aに示す加圧状態に切り替わる。なお、第2実施形態の加圧状態の試料導入装置100において、導入バルブ102及び付加バルブ226のうち、少なくとも導入バルブ102が開状態とされる。
【0067】
第2実施形態では、加圧状態の試料導入装置100を加圧維持状態に切り替えるための切替条件が定められる。つまり、切替条件が満たされると、図7Aに示す加圧状態の試料導入装置100が図7Bに示す加圧維持状態に切り替わる。
【0068】
切替条件は、加圧される流路内の圧力値に基づいて満たされる。具体的に、加圧される流路内の圧力値が所定の閾値以上になると切替条件が満たされる。また、切替条件は、加圧される流路内の圧力値が推定可能な要素(推定要素)に基づいて定められてもよい。
【0069】
配管203へのキャリアガスの供給が開始されてからの経過時間から、キャリアガスの供給量が推定でき、そのキャリアガスの供給量から加圧される流路内の圧力値が推定可能である。したがって、加圧状態の試料導入装置100を加圧維持状態に切り替えるとき、推定要素には、配管203へのキャリアガスの供給が開始されてからの経過時間が含まれる。たとえば、配管203へのキャリアガスの供給が開始されてからの経過時間が閾値以上になると切替条件が満たされる。
【0070】
また、所定時間内における、加圧される流路内の圧力値の変化量に基づいて、切替条件が満たされてもよい。たとえば、所定時間内における加圧される流路内の圧力値の変化量が閾値を以上になると切替条件が満たされる。
【0071】
加圧状態の試料導入装置100が加圧維持状態に切り替わるとき、加圧状態において開状態のバルブが閉状態に切り替わる。なお、加圧維持状態における流路切替バルブ105の状態は、加圧状態における状態と同一である。これらのことから、加圧状態の試料導入装置100が加圧維持状態に切り替わるとき、ガス供給管203から挿入管101へのガスの供給を停止させた状態で、付加バルブ226で抵抗管206が閉状態とされる。
【0072】
第2実施形態では、加圧状態の試料導入装置100が加圧維持状態に切り替わると、ガス漏れの有無の検出が行われる。
【0073】
第2実施形態では、ガス漏れを検出するためのガス漏れ条件が定められる。つまり、ガス漏れ条件が満たされると、ガス漏れが検出される。一方で、ガス漏れ条件が満たされないのであれば、ガス漏れが検出されない。
【0074】
ガス漏れ条件は、切替条件と同様に、加圧される流路内の圧力値に基づいて満たされる。第2実施形態では、加圧される流路内の圧力値が所定の閾値未満になるとガス漏れ条件が満たされる。
【0075】
さらに、所定時間内における、加圧される流路内の圧力値に基づいて、ガス漏れ条件が満たされてもよい。たとえば、所定時間内における加圧される流路内の圧力値の変化量が閾値を以上になるとガス漏れ条件が満たされる。
【0076】
ガス漏れ条件が満たされたことで、加圧される流路内からのガス漏れが検出されると、報知部229でガスが漏れている旨が報知される。第2実施形態では、報知部229が表示部等を含むため、ガスが漏れている旨をメッセージとしてその表示部に表示する。
【0077】
なお、たとえば、上述したように報知部229がスピーカを含むのであれば、ガスが漏れている旨を音声メッセージとしてスピーカから発してもよい。あるいは、報知部229が振動部を含むのであれば、その振動部が振動するように制御されてもよい。また、報知部229が発光部を含むのであれば、その発光部が発光するように制御されてもよい。
【0078】
さらに、ガス漏れが報知されると、加圧維持状態の試料導入装置100がデフォルトの状態に切り替えられても良い。さらにまた、試料導入装置100がデフォルトの状態に切り替えられるとき、試料の導入が中止される旨を報知してもよい。
【0079】
ガス漏れが検出されない場合は、試料導入装置100が図7Cに示す導出状態、図7Dに示す導出状態、図7Eに示す供給状態に順次切り替わる。また、図7Cに示す導出状態において、付加バルブ226は、閉状態である。さらに、図7Dに示す導出状態において、付加バルブ226は、開状態である。さらにまた、図7Eに示す供給状態において、付加バルブ226は、閉状態である。
【0080】
図8は、第2実施形態の試料導入装置100のRAM222のメモリマップの一例を示す図である。図8に示すようにRAM222は、プログラム領域241およびデータ領域242を含み、プログラム領域241は、記憶部223から予め読み出された制御プログラムが記憶される。
【0081】
制御プログラムは、切替プログラム241a、圧力測定プログラム241f、ガス漏れ検出プログラム241g及び報知プログラム241h等を含む。
【0082】
また、切替プログラム241aは、加圧プログラム241b、加圧維持プログラム241c、導出プログラム241d及び導入供給プログラム241e等を含む。
【0083】
データ領域242には、予め記憶部223から読み出された実行用データが記憶されたり、圧力センサ228から出力される信号に対応するデータが一時的に記憶されたりする。さらに、データ領域242には、制御プログラムの実行に必要なタイマ(カウンタ)およびレジスタが設けられる。
【0084】
図8に示す例では、データ領域242にバルブデータ242a、判断データ242f及び報知データ242gが記憶される。
【0085】
また、バルブデータ242aは、加圧用バルブデータ242b、加圧維持用バルブデータ242c、導出用バルブデータ242d及び供給用バルブデータ242eを含む。
【0086】
バルブデータ242aは、各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータである。加圧用バルブデータ242bは、図7Aに示す加圧状態の試料導入装置100おける各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータである。加圧用バルブデータ242bは、たとえば、導入バルブ102の開状態、排出バルブ103の閉状態、付加バルブ226の閉状態示す。
【0087】
また、加圧用バルブデータ242bは、流路切替バルブ105におけるポートaとポートbが連通し、ポートcとポートdが連通し、ポートeとポートfが連通することを示す。このことは、加圧維持用バルブデータ242c及び導出用バルブデータ242dについても同様である。
【0088】
加圧維持用バルブデータ242cは、図7Bに示す加圧維持状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータである。加圧維持用バルブデータ242cは、流路切替バルブ105の状態に加え、導入バルブ102、排出バルブ103及び付加バルブ226の閉状態示す。
【0089】
導出用バルブデータ242dは、導出状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータである。導出用バルブデータ242dは、第1導出用バルブデータ及び第2導出用バルブデータを含む。
【0090】
第1導出用バルブデータは、図7Cに示す導出状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータであって、第1導出用バルブデータは、流路切替バルブ105の状態に加え、導入バルブ102の閉状態、排出バルブ103の開状態及び付加バルブ226の閉状態示す。
【0091】
第2導出用バルブデータは、図7Dに示す導出状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータであって、第2導出用バルブデータは、流路切替バルブ105の状態に加え、導入バルブ102の閉状態、排出バルブ103の開状態及び付加バルブ226の開状態示す。
【0092】
供給用バルブデータ242eは、図7Eに示す供給状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータである。供給用バルブデータ242eは、たとえば、導入バルブ102の開状態、排出バルブ103の開状態、付加バルブ226の閉状態示す。
【0093】
また、導入用バルブデータ242eは、流路切替バルブ105におけるポートaとポートfが連通し、ポートbとポートcが連通し、ポートdとポートeが連通することを示す。
【0094】
判断データ242fは、各種条件を満たすかどうかを判断するためのデータである。判断データ242fは、圧力値データ及び閾値データを含む。
【0095】
圧力値データは、圧力センサ228等を利用して算出される圧力値を示すデータである。閾値データは、切替条件を満たすかどうかを判断するための閾値を示すデータ及びガス漏れ条件を満たすかどうかを判断するための閾値を示すデータを含む。
【0096】
報知データ242gは、ガス漏れを報知する際のメッセージに対応するデータである。報知データ242gは、報知方法によってデータの形式が異なる。第2実施形態では、ガス漏れを報知する際のメッセージを表示部に表示するため、報知データは、テキストデータ又は画像データ等である。
【0097】
また、図示は省略するが、データ領域242には、他の実行用データが記憶される。たとえば、データ領域242には、デフォルト状態の試料導入装置100における各バルブ102、103、105、226の状態を示すデータが含まれる。
【0098】
切替プログラム241aは、バルブデータ242aに従って、各バルブ102、103、105、226を制御するためのプログラムである。
【0099】
加圧プログラム241bは、デフォルト状態の切替機構110を図7Aに示す加圧状態に切り替えるためのプログラムである。加圧プログラム241bが実行される際には、加圧用バルブデータ242bが使用される。
【0100】
加圧維持プログラム241cは、加圧プログラム241bによってデフォルト状態の切替機構110が加圧状態に切り替えられ、かつ、切替条件が満たされるとき、図7Aに示す加圧状態の切替機構110を図7Bに示す加圧維持状態に切り替えるためのプログラムである。加圧維持プログラム241cが実行される際には、加圧維持用バルブデータ242c及び判断データ242fが使用される。
【0101】
導出プログラム241dは、ガス漏れ検出プログラム241gでガス漏れが検出されないとき、図7Bに示す加圧維持状態の切替機構110を図7Cに示す導出状態に切り替えるためのプログラムである。
【0102】
また、導出プログラム241dは、図7Cに示す導出状態の切替機構110を図7Dに示す導出状態に切り替えるためのプログラムが含まれる。導出プログラム241dが実行される際には、導出用バルブデータ242dが使用される。
【0103】
供給プログラム241eは、図7Dに示す導出状態の切替機構110を図7Eに示す供給状態に切り替えるためのプログラムである。供給プログラム241eが実行される際には、供給用バルブデータ242eが使用される。
【0104】
圧力測定プログラム241fは、加圧維持プログラム241cで加圧状態の切替機構110が加圧維持状態に切り替えられるとき及びガス漏れ検出プログラム241gでガス漏れの有無が検出されるとき、圧力センサ228で加圧される流路内の圧力値を測定するためのプログラムである。なお、圧力測定プログラム241fの実行に伴って、加圧される流路内の圧力値が測定されると、その圧力値を示す圧力値データがデータ領域242に記憶される。また、圧力測定プログラム241fは、圧力センサ228で常に圧力を測定するプログラムであってもよい。
【0105】
ガス漏れ検出プログラム241gは、ガス漏れ条件が満たされるとき、ガス漏れを検出するためのプログラムである。ガス漏れ検出プログラム241gが実行される際には、判断データ242fが使用される。
【0106】
報知プログラム241hは、ガス漏れ検出プログラム241gでガス漏れが検出されると、報知部229でガス漏れを報知するためのプログラムである。報知プログラム241hが実行される際には、報知データ242gが使用される。
【0107】
なお、図示は省略するが、プログラム領域241には、切替プログラム241a等以外の制御プログラムも含まれる。たとえば、プログラム領域241には、試料導入装置100をデフォルト状態に切り替えるためのプログラムが含まれる。
【0108】
図9は、第2実施形態の試料導入装置100の具体的な電気的構成の一例を示すブロック図である。第2実施形態では、CPU221が切替プログラム241aを実行するとき、制御部260は、切替機構110の動作を制御する切替制御部261として機能する。
【0109】
また、CPU221がガス漏れ検出プログラム241gを実行するとき、制御部260は、加圧されている流路内からのガス漏れを検出するガス漏れ検出部262として機能する。
【0110】
さらに、CPU221が報知プログラム241hを実行するとき、制御部260は、ガス漏れている旨を報知する報知処理部263として機能する。
【0111】
図9に示す例では、制御部260は、切替制御部261、ガス漏れ検出部262及び報知処理部263として機能し、たとえば、加圧状態の切替機構110の状態が加圧維持状態に切り替わるとき、バルブデータ242a、具体的には、加圧維持用バルブデータ242cを用いて、付加バルブ226等が制御される。
【0112】
さらに、切替機構110が加圧維持状態のとき、判断データ242fを用いて、ガス漏れの有無が検出される。また、ガス漏れ検出部262でガス漏れが検出されると、報知データ242gを用いて、ガスが漏れている旨が報知される。
【0113】
なお、第2実施形態では、ガス漏れの有無を検出するために圧力センサ228を用いるが、ガス漏れの有無を検出できるのであれば、他のリークセンサであってもよい。
【0114】
また、付加バルブ226は、抵抗管206と配管203との接続部に設けられてもよいし、付加バルブ226は、導入バルブ102と一体的に設けられる構成であってもよい。
【0115】
さらに、試料導入装置100におけるガス漏れの有無の検出は、導入動作の途中以外のタイミングで行われてもよい。この場合、導入動作とは別に、試料導入装置100の加圧状態から加圧維持状態への切り替え、ガス漏れの有無の検出が行われる。たとえば、ガス漏れの有無の検出は、自動で定期的に行われても良いし、試料導入装置100が上述した操作部を備えるのであれば、ユーザからの操作に応じてガス漏れの有無の検出が行われても良い。ただし、導入動作とは別に、ガス漏れの有無の検出が行われるのであれば、必要に応じて、挿入管101の先端部を密閉する必要がある。
【0116】
また、試料導入装置100と通信可能に接続される他の装置が存在する場合、上述したような制御は、他の装置が備える制御部で行われても良い。例えば、試料導入装置100とガスクロマトグラフ1が通信可能であれば、そのガスクロマトグラフ1が備える制御部で、切替機構110の状態の切替、ガス漏れの検出及びガス漏れの報知等が行われても良い。
【0117】
さらに、試料導入装置100と通信可能に接続される他の装置が存在する場合、ガス漏れの報知は、他の装置が備える報知部を用いても良い。たとえば、ガス漏れの報知には、ガスクロマトグラフ1が備える表示部が用いられてもよい。これらのことは、他の装置が試料導入装置100を含む場合も同様である。
【0118】
第2実施形態によれば、加圧維持状態において抵抗管206のガスの流通が遮断されるため、ガス漏れの有無の検出の精度の向上させることができる。なお、第1実施形態において、第2実施形態における制御部220及び切替制御回路225を設け、第2実施形態と同様に各バルブ102、103及び105を制御してもよい。
【0119】
5.変形例
以上の実施形態では、抵抗管206を含む付加流路から、配管203内にガスが供給されるような構成について説明した。しかしながら、抵抗管206以外の付加流路から、配管203内にガスが供給されるような構成であってもよい。すなわち、付加流路は、導入バルブ102の上流側で配管203から分岐し、導入バルブ102の下流側で配管203に再び合流するようなバイパス流路により構成されるものに限らない。例えば、キャリアガスを供給するガス源とは別のガス源を設けて、当該ガス源から配管203内にガスが供給されるような構成であってもよい。
【0120】
また、付加流路は、配管203内にガスを供給するような構成に限らず、捕集部104と排出バルブ103との間の流路に対して、任意の位置からガスを供給するものであってもよい。例えば、付加流路は、配管204内にガスを供給するような構成であってもよい。
【0121】
流路を切り替えるための切替機構110は、導入バルブ102、排出バルブ103及び流路切替バルブ105により構成されるものに限らない。すなわち、試料導入装置100に用いられるバルブの構成及び数、並びに配管の構成などは、上記実施形態のような構成に限られるものではなく、他の任意の構成であってもよい。捕集部104は、ガス中の成分を捕集することができるものであれば、サンプルループのようなループ状に形成された構成に限られるものではない。
【0122】
5.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0123】
(第1項)一態様に係る試料導入装置は、
試料容器のヘッドスペースに挿入される挿入管と、
前記挿入管に連通可能であり、前記挿入管を介して前記試料容器内にガスを供給させることにより前記ヘッドスペースを所定圧力に加圧するガス供給管と、
前記挿入管に連通可能であり、前記ヘッドスペースから導出されるガス中の成分を捕集する捕集部と、
前記捕集部を介して前記挿入管に連通可能な排出管と、
前記ガス供給管から前記挿入管にガスが供給される加圧状態、又は、加圧された前記ヘッドスペース内のガスが前記挿入管から前記捕集部を介して前記排出管に導出される導出状態のいずれかに切替可能な切替機構とを備え、
前記切替機構には、前記加圧状態において前記挿入管及び前記排出管を非連通状態とし、前記導出状態において前記挿入管及び前記排出管を連通状態とする排出バルブが含まれ、
前記導出状態において、前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路にガスを供給する付加流路を備えていてもよい。
【0124】
第1項に記載の試料導入装置によれば、加圧されたヘッドスペース内のガスが挿入管から捕集部を介して排出管に導出される導出状態において、付加流路から供給されるガスによって、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる。
【0125】
(第2項)第1項に記載の試料導入装置において、
前記付加流路は、前記所定圧力よりも低く、かつ、前記排出管内よりも高い圧力で、前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路にガスを供給してもよい。
【0126】
第2項に記載の試料導入装置によれば、最適な圧力で付加流路からガスが供給されるため、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを効果的に防止することができる。
【0127】
(第3項)第1項に記載の試料導入装置において、
前記付加流路は、前記ガス供給管から分岐した抵抗管を含んでいてもよい。
【0128】
第3項に記載の試料導入装置によれば、ガス供給管から分岐した抵抗管を用いて付加流路を構成することができるため、ガス源を別途設ける必要がない。したがって、低コストで、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる。
【0129】
(第4項)第3項に記載の試料導入装置において、
前記切替機構には、前記抵抗管を開閉可能な付加バルブが含まれていてもよい。
【0130】
第4項に記載の試料導入装置によれば、抵抗管におけるガスの流通を遮断することができる。
【0131】
(第5項)第4項に記載の試料導入装置において、
前記切替機構の動作を制御する切替制御部をさらに備え、
前記切替制御部は、前記加圧状態の後に、前記ガス供給管から前記挿入管へのガスの供給を停止させた状態で、前記付加バルブで前記抵抗管を閉状態とすることにより加圧維持状態としてもよい。
【0132】
第5項に記載の試料導入装置によれば、加圧されている流路内の圧力を維持することができる。
【0133】
(第6項)第5項に記載の試料導入装置において、
前記加圧維持状態において、加圧されている流路内からのガス漏れを検出するガス漏れ検出部をさらに備えていてもよい。
【0134】
第6項に記載の試料導入装置によれば、ガス漏れの有無を検出することができる。
【0135】
(第7項)第6項に記載の試料導入装置において、
前記ガス漏れ検出部によりガス漏れが検出された場合に、その旨を報知する報知処理部をさらに備えていてもよい。
【0136】
第7項に記載の試料導入装置によれば、ガスが漏れている旨を報知することができる。
【0137】
(第8項)第1項に記載の試料導入装置において、
前記捕集部は、加熱領域に配置されており、
前記排出バルブは、加熱領域の外側に配置されていてもよい。
【0138】
第8項に記載の試料導入装置によれば、加熱領域の外側に配置された排出バルブ、及び、当該排出バルブの直前の流路に、ガス中の成分が吸着して残留しやすい。このような場合であっても、捕集部と排出バルブとの間の流路に付加流路からガスを供給することにより、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる。
【0139】
(第9項)第8項に記載の試料導入装置において、
前記付加流路は、前記加熱領域において前記捕集部と前記排出バルブとの間の流路に連通していてもよい。
【0140】
第9項に記載の試料導入装置によれば、加熱領域よりも下流側の流路に付加流路からガスを供給することができるため、流路の途中に残留した成分が捕集部側に拡散するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0141】
1 ガスクロマトグラフ
2 試料容器
3 加熱領域
4 成分
23 ヘッドスペース
100 試料導入装置
101 挿入管
102 導入バルブ
103 排出バルブ
104 捕集部
105 流路切替バルブ
110 切替機構
201~204,207 配管
205 分岐部
206 抵抗管
226 付加バルブ
262 ガス漏れ検出部
263 報知処理部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9