(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220809BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2021569145
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038193
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多和田 義大
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-27826(JP,A)
【文献】特開昭62-53122(JP,A)
【文献】特開2016-220497(JP,A)
【文献】特開2011-193633(JP,A)
【文献】特開2015-146712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電力をPWM信号に基づいて交流電力に変換する電力変換回路と、
前記電力変換回路の直流側に現れる直流電圧により充電される直流キャパシタと、
前記電力変換回路の交流側の系統から供給される電力により、前記直流キャパシタ及び前記電力変換回路に対して、前記直流電源からの直流電力の供給及び遮断を行うように開閉するコンタクタと、
前記PWM信号の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御しつつ、出力した最後の指令値を保持する第1直流電圧制御部と、
前記直流電源の直流電圧と、前記電力変換回路の直流側に現れる直流電圧との差を小さくするように、前記PWM信号の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御する第2直流電圧制御部と、
前記第1直流電圧制御部が出力又は保持した指令値と、前記第2直流電圧制御部が出力した指令値のいずれかを選択して出力するように切り替えるスイッチと、
前記コンタクタの開放、及び前記電力変換回路の交流側の系統における電圧の擾乱からの復帰を検出する検出部と、
前記検出部が前記コンタクタの開放を検出した場合には、前記第2直流電圧制御部が出力した指令値を選択して出力し、前記検出部が電圧の擾乱からの復帰を検出した場合には、前記第1直流電圧制御部が保持した指令値を選択して出力するように、前記スイッチの切り替えを制御する切替制御部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池やバッテリなどの直流電源から供給される直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)信号に基づいて交流電力に変換するインバータを備えた電力変換装置が知られている。また、太陽電池モジュールと電力変換装置との間の直流電路が開閉器を介して接地されている電源システムは公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力系統に連係するインバータを備えた電力変換装置においては、インバータの直流側に配置されるコンタクタの電源を交流側の系統からとる場合、交流側の系統に擾乱が発生すると、コンタクタを閉じた状態に保つための電圧を維持することができず、コンタクタが開放してしまうことがある。
【0005】
交流側の系統に擾乱が発生したためにコンタクタが開放した場合、インバータの直流電圧を維持するために、インバータの直流側に現れる直流電圧により充電される直流キャパシタを系統側から充電する必要がある。
【0006】
また、交流側の系統が擾乱から復帰した後には、急速にインバータの出力を充電モードから放電モードに切り替える必要がある。
【0007】
しかしながら、従来のMMPT(Maximum power point tracking)制御などを用いた復帰処理方法では、系統連系規定に規定された復帰時間内に出力を正常状態へ復帰させることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、交流側の系統に擾乱が発生したために直流入力電圧とインバータ側の直流電圧とに差が生じても、交流側の系統の擾乱解消後に正常運転へ復帰させる応答性を高めることができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様にかかる電力変換装置は、直流電源から供給される直流電力をPWM信号に基づいて交流電力に変換する電力変換回路と、前記電力変換回路の直流側に現れる直流電圧により充電される直流キャパシタと、前記電力変換回路の交流側の系統から供給される電力により、前記直流キャパシタ及び前記電力変換回路に対して、前記直流電源からの直流電力の供給及び遮断を行うように開閉するコンタクタと、前記PWM信号の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御しつつ、出力した最後の指令値を保持する第1直流電圧制御部と、前記直流電源の直流電圧と、前記電力変換回路の直流側に現れる直流電圧との差を小さくするように、前記PWM信号の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御する第2直流電圧制御部と、前記第1直流電圧制御部が出力又は保持した指令値と、前記第2直流電圧制御部が出力した指令値のいずれかを選択して出力するように切り替えるスイッチと、前記コンタクタの開放、及び前記電力変換回路の交流側の系統における電圧の擾乱からの復帰を検出する検出部と、前記検出部が前記コンタクタの開放を検出した場合には、前記第2直流電圧制御部が出力した指令値を選択して出力し、前記検出部が電圧の擾乱からの復帰を検出した場合には、前記第1直流電圧制御部が保持した指令値を選択して出力するように、前記スイッチの切り替えを制御する切替制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、交流側の系統に擾乱が発生したために直流入力電圧とインバータ側の直流電圧とに差が生じても、交流側の系統の擾乱解消後に正常運転へ復帰させる応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態にかかる電力変換装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を用いて電力変換装置の一実施形態を説明する。
図1は、一実施形態にかかる電力変換装置10の構成例を示す図である。
【0013】
例えば、電力変換装置10は、直流電源11と電力グリッド12との間に設けられ、直流電力を三相の交流電力に変換する。直流電源11は、例えば太陽電池モジュールなどである。電力グリッド12は、一般に電力系統とも呼ばれる。電力系統は、電力を需要家の受電設備に供給するためのシステムであり、例えば不特定の負荷が接続されているものとする。例えば、電力系統は、発電・変電・送電・配電を統合したシステムである。
【0014】
電力変換装置10は、直流側のコンタクタ13と、直流キャパシタ14と、電力変換回路15と、交流リアクトル16aと、交流キャパシタ16bと、交流側のコンタクタ17とを有する。また、電力変換装置10は、計器用変流器(CT)51と、計器用変圧器(VT)52と、計器用変流器(CT)53と、計器用変圧器(VT)54と、計器用変流器(CT)55とを備える。
【0015】
さらに、電力変換装置10は、MPPT制御部18と、第一減算器19と、第二減算器20と、第1制御部(第1直流電圧制御部)21と、第2制御部(第2直流電圧制御部)22と、スイッチ23と、第一加算器24と、第一座標変換部25と、第三減算器26と、電流制御部27と、PWM駆動回路28と、検出部29と、切替制御部30とを有する。
【0016】
さらに、電力変換装置10は、位相同期回路(PLL回路)40と、判定部41と、第二座標変換部42と、第三座標変換部43と、電力制御部44とを有する。
【0017】
コンタクタ13は、電力変換回路15の交流側の系統から供給される電力により、直流キャパシタ14及び電力変換回路15に対して、直流電源11からの直流電力の供給及び遮断を行うように開閉する。
【0018】
直流キャパシタ14は、電力変換回路15の直流側に現れる直流電圧により充電されるように配置されている。
【0019】
電力変換回路15は、直流電源11と電力グリッド12との間に介在し、これらとともに直列回路を形成している。そして、電力変換回路15は、直流電源11から供給される直流電力をPWM信号(後述)に基づいて交流電力に変換する。電力変換回路15の直流端は、コンタクタ13に接続されている。なお、電力変換回路15は、例えば複数の半導体スイッチング素子を含む三相電圧型インバータ回路であってもよい。
【0020】
つまり、電力変換回路15は、直流電源11からの直流入力電力を変換することにより、第一交流出力電流及び第一交流出力電圧を出力する。説明の便宜上、この第一交流出力電流を「インバータ出力電流iAC」とも称し、この第一交流出力電圧を「インバータ出力電圧VAC」とも称する。
【0021】
交流リアクトル16a及び交流キャパシタ16bは、L型に接続されたLCフィルタ回路であり、電力変換回路15とコンタクタ17との間に設けられている。なお、
図1においては、交流リアクトル16a及び交流キャパシタ16bは簡略化して記載されているが、実際には、電力変換回路15の出力側には三相分の出力配線が伸びている。つまり、実際には、三相分の出力配線それぞれに、交流リアクトル16aと交流キャパシタ16bの組が設けられている。
【0022】
交流リアクトル16aは、電力変換回路15の交流端に直列接続されている。そして、コンタクタ17の第一端が、交流リアクトル16aに接続されている。コンタクタ17の第二端は、電力グリッド12に接続されている。交流キャパシタ16bの第一端は、交流リアクトル16aとコンタクタ17とを結ぶ配線(例えばブスバー)に接続されている。
【0023】
そして、交流リアクトル16a及び交流キャパシタ16bは、第一交流出力電流(つまりインバータ出力電流iAC)と第一交流出力電圧(つまりインバータ出力電圧VAC)とを濾過する。この濾過により、交流リアクトル16a及び交流キャパシタ16bは、第二交流出力電流及び第二交流出力電圧を生成する。説明の便宜上、この第二交流出力電流を「交流出力電流iout」とも称し、この第二交流出力電圧を「交流出力電圧Vout」とも称する。交流出力電流ioutは、交流リアクトル16aと交流キャパシタ16bとの接続点を流れる電流である。交流出力電圧Voutは、交流キャパシタ16bに印加される電圧である。
【0024】
計器用変流器(CT)51は、直流電流iDCを計器用の値に変換する。直流電流iDCは、直流電源11と電力変換回路15との間を流れる電流である。
【0025】
計器用変圧器(VT)52は、直流電圧VDCを計器用の値に変換する。直流電圧VDCは、直流電源11と電力変換回路15との間の電圧であって、直流キャパシタ14の電圧である。
【0026】
計器用変流器(CT)53は、インバータ出力電流iACを計器用の値に変換する。インバータ出力電流iACは、電力変換回路15と交流リアクトル16aとの間を流れる三相交流出力電流である。
【0027】
計器用変圧器(VT)54は、交流出力電圧Voutを計器用の値に変換する。計器用変流器(CT)55は、交流出力電流ioutを計器用の値に変換する。
【0028】
MPPT制御部18には、直流電流iDCと直流電圧VDCとが入力される。MPPT制御部18は、MPPT制御によって直流電源11からの直流電力を最大限に取り出す。第一減算器19は、MPPT制御部18が出力する指令値V*
DCと直流電圧VDCとの差を演算する。
【0029】
第二減算器20は、直流電流iDCと直流電圧VDCとに基づいて、直流電源11の直流電圧と、電力変換回路15の直流側に現れる直流電圧との差を演算する。
【0030】
第1制御部21は、第一減算器19の減算結果に基づいて直流電圧制御を実施する。例えば、第1制御部21は、PWM駆動回路28が出力するPWM信号(後述)の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御しつつ、出力した最後の指令値を保持する第1直流電圧制御部である。
【0031】
第2制御部22は、第二減算器20の減算結果に基づいて直流電圧制御を実施する。例えば、第2制御部22は、直流電源11の直流電圧と、電力変換回路15の直流側に現れる直流電圧との差を小さくするように、PWM信号(後述)の基準に用いる直流電圧を、指令値を出力することにより制御する第2直流電圧制御部である。
【0032】
スイッチ23は、後述する切替制御部30の制御に応じて、第1制御部21が出力又は保持した指令値と、第2制御部22が出力した指令値のいずれかを選択して出力するように切り替える。
【0033】
第一加算器24は、スイッチ23の出力値とd軸電流指令値i*
dとを加算する。d軸電流指令値i*
dは、後述する電力制御部44の出力する指令値である。
【0034】
第一座標変換部25は、dq軸/abc軸の変換つまり二相から三相への座標変換を行う。第一座標変換部25は、第一加算器24の加算結果とq軸電流指令値i*
qとに基づいて、インバータ電流指令値i*
ACを算出する。q軸電流指令値i*
qは、後述する電力制御部44の出力する指令値である。
【0035】
第三減算器26は、インバータ電流指令値i*
ACとインバータ出力電流iACとの差を演算する。
【0036】
電流制御部27は、第三減算器26の出力に基づいて電流指令値を計算する。
【0037】
PWM駆動回路28は、電流制御部27の電流指令値に従ってパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する。PWM駆動回路28は、このPWM信号を半導体スイッチング素子の駆動信号として電力変換回路15に伝達する。
【0038】
検出部29は、コンタクタ13の開放、及び電力変換回路15の交流側の系統における電圧の擾乱からの復帰を検出し、検出結果を切替制御部30に対して出力する。
【0039】
なお、検出部29は、電力変換回路15の交流側の系統における電圧の擾乱からの復帰が完了したか否かを、例えばコンタクタ13の動作に応じて検出してもよいし、他の情報に基づいて検出してもよい。例えば、検出部29は、コンタクタ13が閉じられたことを検出したときに、電力変換回路15の交流側の系統における電圧が擾乱から復帰したと検出してもよい。また、検出部29は、電力変換回路15の交流側の系統における電圧変化に基づく情報を直接検出して、電圧が擾乱から復帰したと検出してもよい。
【0040】
切替制御部30は、検出部29がコンタクタ13の開放を検出した場合には、第2制御部22が出力した指令値を選択して出力し、検出部29が電圧の擾乱からの復帰を検出した場合には、第1制御部21が保持した指令値を選択して出力するように、スイッチ23の切り替えを制御する。
【0041】
位相同期回路40は、交流出力電圧Voutの位相に基づいて位相指令値θ*を出力する。
【0042】
判定部41は、交流出力電圧Voutが所定の閾値以上となったか否かを判定する。つまり、判定部41は、電力変換回路15の交流側の系統における電圧が擾乱から復帰したか否かを判定してもよい。
【0043】
第二座標変換部42は、abc軸/dq軸変換つまり三相から二相への変換を行う。これにより、第二座標変換部42は、交流出力電圧Voutからd軸出力電圧Vd及びq軸出力電圧Vqを算出する。
【0044】
第三座標変換部43は、abc軸/dq軸変換つまり三相から二相への変換を行う。これにより、第三座標変換部43は、交流出力電流ioutからd軸出力電流id及びq軸出力電流iqを算出する。
【0045】
電力制御部44は、判定部41の判定結果と、第二座標変換部42の上記算出値Vd、Vqと、第三座標変換部43の上記算出値id、iqとに基づいて、d軸電流指令値i*
dとq軸電流指令値i*
qとを算出する。
【0046】
このように、電力変換装置10は、検出部29がコンタクタ13の開放を検出した場合には、第2制御部22が出力した指令値を選択して出力し、検出部29が電圧の擾乱からの復帰を検出した場合には、第1制御部21が保持した指令値を選択して出力するように、スイッチ23の切り替えを制御するので、交流側の系統に擾乱が発生したために直流入力電圧とインバータ側の直流電圧とに差が生じても、交流側の系統の擾乱解消後に正常運転へ復帰させる応答性を高めることができる。
【0047】
また、電力変換装置10は、検出部29がコンタクタ13の開閉を検出し、切替制御部30が検出部29の検出結果に応じてスイッチ23を制御することにより、コンタクタ13の投入を維持するための停電補償回路等を不要にすることができる。
【0048】
なお、直流電源11は、例えば太陽電池パネルと蓄電池とのいずれか一方の電源であってもよく、これらの両方の電源を備えてもよい。蓄電池は、各種公知の二次電池又は燃料電池を含んでもよい。また、風力発電機と交流直流コンバータ装置とが、この直流電源11とされてもよい。また、直流電源11は、各種の再生可能エネルギー発電装置であってもよい。
【0049】
なお、電力変換装置10が行う制御の各機能は、それぞれ一部又は全部がPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0050】
また、本発明にかかる電力変換装置10が行う制御は、コンピュータとプログラムを用いて実現することができ、プログラムを記憶媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0051】
10・・・電力変換装置、11・・・直流電源、12・・・電力グリッド、13・・・コンタクタ、14・・・直流キャパシタ、15・・・電力変換回路、16a・・・交流リアクトル、16b・・・交流キャパシタ、17・・・コンタクタ、18・・・MPPT制御部、19・・・第一減算器、20・・・第二減算器、21・・・第1制御部、22・・・第2制御部、23・・・スイッチ、24・・・第一加算器、25・・・第一座標変換部、26・・・第三減算器、27・・・電流制御部、28・・・PWM駆動回路、29・・・検出部、30・・・切替制御部、41・・・判定部、42・・・第二座標変換部、43・・・第三座標変換部、44・・・電力制御部
【要約】
第1直流電圧制御部が出力又は保持した指令値と、第2直流電圧制御部が出力した指令値のいずれかを選択して出力するように切り替えるスイッチと、コンタクタの開放、及び電力変換回路の交流側の系統における電圧の擾乱からの復帰を検出する検出部と、検出部がコンタクタの開放を検出した場合には、第2直流電圧制御部が出力した指令値を選択して出力し、検出部が電圧の擾乱からの復帰を検出した場合には、第1直流電圧制御部が保持した指令値を選択して出力するように、スイッチの切り替えを制御する切替制御部とを有する。