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  • 特許-水素充填用ホース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】水素充填用ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
F16L11/08 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022532158
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2021037223
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2020190980
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】眞榮田 大介
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155491(WO,A1)
【文献】特開2009-236258(JP,A)
【文献】特開2018-66445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層、補強層および外層を含む水素充填用ホースであって、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、前記熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率が前記熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であり、補強層が鋼線を含む層を少なくとも1層含み、外層が熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする水素充填用ホース。
【請求項2】
変性スチレン系エラストマーが、酸変性、アミン変性またはエポキシ変性されたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)またはスチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)であることを特徴とする請求項1に記載の水素充填用ホース。
【請求項3】
ポリアミド樹脂が、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド610、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド1010またはポリアミド1012であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素充填用ホース。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露し、大気圧まで減圧した際の体積(V)と、暴露前の体積(V)の比V/Vが1.08未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露した際の水素溶解量が3000質量ppm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物を温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が、200万回以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物の水素透過係数が12×10-10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【請求項8】
補強層がポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含む層を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【請求項9】
熱可塑性エラストマーが、エステル結合、アミド結合またはウレタン結合を少なくとも1種含むエラストマーであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の水素充填用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填用ホースに関する。より詳しくは、本発明は、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車等の開発が盛んに行なわれている。これに伴って、水素ステーションに設置されたディスペンサから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースの開発も進められている。この水素充填用ホースには、水素ガスバリア性、低温環境下での柔軟性、耐久性等が求められる。
【0003】
国際公開第2018/155491号(特許文献1)には、水素ガスバリア性に優れると共に、低温環境下での柔軟性を向上させることができ、ひいては、低温環境下での耐久性を向上させることができる、水素輸送ホースとして、ポリアミド11と変性オレフィン系エラストマーとを含む樹脂組成物からなる内層と、補強層と、ポリアミド樹脂を含む外層とを有する水素輸送ホースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/155491号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従前は充填用水素の圧力が82MPaであったが、近年はたとえば87.5MPaまで高くなるなど、近年、水素充填用ホースの繰り返し充填における耐久性への要求がますます高まっている。
本発明は、高圧水素の繰り返し充填における耐久性に優れた水素充填用ホースを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内層、補強層および外層を含む水素充填用ホースであって、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、前記熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率が前記熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であり、補強層が鋼線を含む層を少なくとも1層含み、外層が熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]内層、補強層および外層を含む水素充填用ホースであって、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、前記熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率が前記熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であり、補強層が鋼線を含む層を少なくとも1層含み、外層が熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする水素充填用ホース。
[2]変性スチレン系エラストマーが、酸変性、アミン変性またはエポキシ変性されたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)またはスチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)であることを特徴とする[1]に記載の水素充填用ホース。
[3]ポリアミド樹脂が、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド610、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド1010またはポリアミド1012であることを特徴とする[1]または[2]に記載の水素充填用ホース。
[4]熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露し、大気圧まで減圧した際の体積(V)と、暴露前の体積(V)の比V/Vが1.08未満であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
[5]熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露した際の水素溶解量が3000質量ppm以下であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
[6]熱可塑性樹脂組成物を温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数が、200万回以上であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
[7]熱可塑性樹脂組成物の水素透過係数が12×10-10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
[8]補強層がポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含む層を含むことを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
[9]熱可塑性エラストマーが、エステル結合、アミド結合またはウレタン結合を少なくとも1種含むエラストマーであることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の水素充填用ホース。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素充填用ホースは、高圧水素の繰り返し充填における耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の水素充填用ホースの一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、内層、補強層および外層を含む水素充填用ホースであって、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、前記熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率が前記熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であり、補強層が鋼線を含む層を少なくとも1層含み、外層が熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする。
【0011】
図1は、本発明の水素充填用ホースの斜視図であり、層構成を明瞭に示すために、一部切開して示す。ただし、本発明は、図面に示されたものに限定されない。
水素充填用ホース1は、内層2、補強層3および外層4を含む。補強層3は鋼線を含む層5を含む。図1の水素充填用ホースの補強層3は、さらにポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含む層6を3層含む。ただし、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を含む層は必須ではない。
【0012】
水素充填用ホースは、タンクやボンベなどから水素を他のタンクやボンベなどに充填するために用いられるホースであり、好ましくは、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースである。
【0013】
内層は熱可塑性樹脂組成物を含む。内層を構成する熱可塑性樹脂組成物はマトリックスとドメインとを含む。すなわち、熱可塑性樹脂組成物は海島構造を有する。マトリックスはポリアミド樹脂を含み、ドメインは変性スチレン系エラストマーを含む。内層をポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物で構成することにより、水素雰囲気下で高圧に曝された後、減圧された際に、組成物の体積変化を軽減できる。また、他は熱可塑性エラストマーよりも微分散しやすいため改質効果が大きく、低温での耐疲労性に優れる。
【0014】
ポリアミド樹脂としては、限定するものではないが、好ましくは、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド610、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド1010、ポリアミド1012が挙げられる。なかでも、吸湿による寸法変化が小さいという点で、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1010、ポリアミド1012が好ましい。
【0015】
変性スチレン系エラストマーとしては、限定するものではないが、好ましくは、酸変性、アミン変性またはエポキシ変性されたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。なかでも、低温での耐繰り返し疲労性の観点から、酸変性、アミン変性またはエポキシ変性されたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
なかでも、酸変性されたスチレン系エラストマーが好ましく、特に無水マレイン酸で変性したスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が、ポリアミド樹脂への分散性の観点から好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率は、熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であることが好ましく、8~48質量%であることがより好ましく、12~46質量%であることがさらに好ましい。変性スチレン系エラストマーの含有率が少なすぎると、水素充填に伴う繰り返し変形により内層が破壊されやすく、多すぎると、ガスバリア性が悪く、ホース外側への水素漏洩が大きくなる。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露し、大気圧まで減圧した際の体積(V)と、暴露前の体積(V)の比V/Vは、好ましくは1.08未満であり、より好ましくは1.00~1.07であり、さらに好ましくは1.00~1.06である。V/Vがこの範囲にあることにより、水素充填時に減圧された際に内層の寸法変化が小さく、補強層に内層が食い込むことによる破壊起点の発生を抑制できる。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物を30℃、圧力90MPaの水素雰囲気下で24時間暴露した際の水素溶解量は、好ましくは3000質量ppm以下であり、より好ましくは2800質量ppm以下であり、さらに好ましくは2600質量ppm以下である。水素溶解量がこの範囲にあることにより、水素充填時に内層中に留まる水素が少なく、減圧の際に内層内部での水素膨張による破壊を抑制できる。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物を温度-35℃、振幅13.5%、振動数1.7Hzで繰返し歪を与えたときの破断回数は、好ましくは200万回以上であり、より好ましくは300万回以上であり、さらに好ましくは500万回以上である。破断回数がこの範囲にあると、水素充填に伴う繰り返し変形により内層が破壊されにくい。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物の水素透過係数は、好ましくは12×10-10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下であり、より好ましくは10×10-10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下であり、さらに好ましくは8×10-10cc・cm/(cm・s・cmHg)以下である。水素透過係数がこの範囲にあることにより、水素充填時のホース外側への水素の漏洩を抑制できる。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアミド樹脂および変性スチレン系エラストマー以外の成分を含んでもよい。
【0022】
内層の厚さは、好ましくは0.2~2.0mmであり、より好ましくは0.3~1.8mmであり、さらに好ましくは0.4~1.6mmである。内層の厚さが薄すぎると、溶融押出が困難になったり、押出手法が限定される虞があり、厚すぎると、ホースの柔軟性が不足し、取り扱い性が悪くなる虞がある。
【0023】
補強層は内層と外層の間に設けられる層であり、通常、金属線材または化学繊維を編組して形成されたブレード層またはスパイラル層からなる。金属線材としては、鋼線、銅および銅合金の線、アルミニウムおよびアルミニウム合金の線、マグネシウム合金の線、チタンおよびチタン合金の線などが挙げられるが、好ましくは鋼線である。金属線材の線径は、好ましくは0.25~0.40mmである。化学繊維としては、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが挙げられるが、好ましくはPBO繊維である。化学繊維の線径は、好ましくは0.25~0.30mmである。
【0024】
本発明においては、補強層は、鋼線を含む層を少なくとも1層含む。鋼線を含む層を少なくとも1層含むことにより、水素充填時の内圧によるホースの変形を小さくし、内層の変形を抑制できる。補強層は、好ましくは、さらにPBO繊維を含む層を含む。PBO繊維を含む層は複数設けてもよい。補強層が鋼線を含む層とPBO繊維を含む層の両方を含む場合、鋼線を含む層はPBO繊維を含む層よりも外側に設ける。鋼線を含む層をPBO繊維を含む層よりも外側に設けることにより、ホースの柔軟性および耐久性を確保しやすくなる。補強層は、鋼線を含む層を1層含み、その内側にPBO繊維を含む層を3層含む4層構造のもの、または鋼線を含む層を4層含む4層構造のものがより好ましい。
【0025】
外層は熱可塑性エラストマーを含む。外層が熱可塑性エラストマーを含むことにより、水素充填時に内側から透過してきた微量の水素をホース外側へ直ちに透過させ、補強層である鋼線の水素脆化を抑制し易くなる。
熱可塑性エラストマーは、0℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。0℃以下のガラス転移温度を有することにより、ホースの使用温度環境下で柔軟なため、ホースがよりフレキシブルになる。
熱可塑性エラストマーとしては、限定するものではないが、好ましくはエステル結合、アミド結合またはウレタン結合を少なくとも1種含むエラストマーが挙げられる。エステル結合を含むエラストマーとしてはポリエステルエラストマーが挙げられ、アミド結合を含むエラストマーとしてはポリアミドエラストマーが挙げられ、ウレタン結合を含むエラストマーとしてはポリウレタンエラストマーが挙げられる。
【0026】
ポリエステルエラストマー(TPEE)は、ハードセグメントがポリエステル(たとえばポリブチレンテレフタレート)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリテトラメチレングリコール)またはポリエステル(たとえば脂肪族ポリエステル)である熱可塑性エラストマーである。ポリエステルエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリエステルエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
【0027】
ポリアミドエラストマー(TPA)は、ハードセグメントがポリアミド(たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)である熱可塑性エラストマーである。ポリアミドエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPAシリーズ、アルケマ社製「PEBAX」(登録商標)などが挙げられる。
【0028】
ポリウレタンエラストマーは、ウレタン結合を有するハードセグメントと、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどのソフトセグメントからなるブロック共重合体である。ポリウレタンエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリウレタンエラストマーの市販品としては、BASF社製「エラストラン」(登録商標)、日本ミラクトラン製「ミラクトラン」(登録商標)、大日精化工業製「レザミン」(登録商標)などが挙げられる。
【0029】
外層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性エラストマー以外の成分を含んでもよい。
【0030】
外層の厚さは、好ましくは0.2~1.2mmであり、より好ましくは0.3~1.0mmであり、さらに好ましくは0.4~0.8mmである。外層の厚さが薄すぎると、ホースを取り扱う際の擦れ、変形、衝撃などにより破壊されやすくなり、補強層を十分に保護できない虞があり、厚すぎると、ホース重量が大きくなり、取り扱い性が悪くなる。
【0031】
水素充填用ホースの製造方法は、特に限定されないが、次のようにして製造することができる。まず内層(内管)を押出成形によりチューブ状に押出し、次いでそのチューブ上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層(外管)を押出成形により被覆することで製造することができる。
【0032】
本発明の水素充填用ホースは、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、補強層が鋼線を含み、外層が熱可塑性エラストマーを含む。ポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂に比べ、ガスバリア性が悪く、水素を透過し易いため、外層をポリアミド樹脂とした場合、内側から漏れてきた微量の水素が外側へ透過しにくく、鋼線が水素で腐食しやすい(耐久性が低下する)。本発明の水素充填用ホースでは、外層が熱可塑性エラストマーのため、内側から漏れてきた水素を直ちに熱可塑性エラストマー内に溶解し、系外へ透過することで、鋼線の水素脆化が起こりにくい。また、本発明の内層を構成するポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物は、特許文献1で開示されているポリアミド11と変性オレフィン系エラストマーとを含む樹脂組成物に比べ、ガスバリア性がやや悪く、水素を透過し易いため、外層をポリアミド樹脂とした場合に鋼線の水素脆化が起こり易く、外層を熱可塑性エラストマーとすることで鋼線の耐久性低下を抑制できることを見出した。
【実施例
【0033】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
(内層用熱可塑性樹脂)
PA11: ポリアミド11、アルケマ社製「RILSAN」(登録商標)BESNO TL
PA12: ポリアミド12、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)3020U
PA6/66: ポリアミド6/66共重合体、宇部興産株式会社製「UBEナイロン」(登録商標)5023B
PA610: ポリアミド610、東レ株式会社「アミラン」(登録商標)CM2001
PA6/12: ポリアミド6/12共重合体、宇部興産株式会社製「UBEナイロン」(登録商標)7024B
PA1010: ポリアミド1010、ダイセル・エボニック株式会社製「ベスタミド」(登録商標)DS16
EVOH: エチレン-ビニルアルコール共重合体、三菱ケミカル株式会社製「Soarnol」(登録商標) H4815B
【0034】
(内層用変性エラストマー)
酸変性EBR: 無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体、三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MH7010
酸変性SEBS-1: 無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、旭化成株式会社製「タフテック」(登録商標)M1943
酸変性SEBS-2: 無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、旭化成株式会社製「タフテック」(登録商標)M1911
酸変性SBS: 無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、旭化成株式会社製「タフプレン」(登録商標)912
アミン変性SEBS: アミン変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、旭化成株式会社製「タフテック」(登録商標)MP10
エポキシ変性SBS: エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、株式会社ダイセル製「エポフレンド」(登録商標)AT501
【0035】
(補強層用材料)
鋼線: 線径0.35mmの鋼線
PBO繊維: 線径0.28mmのポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維
【0036】
(外層用材料)
TPEE-1: ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)3046(Tg:-69℃)
TPEE-2: ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)4057N(Tg:-26℃)
TPEE-3: ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)SB754(Tg:-10℃)
TPEE-4: ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)4047N(Tg:-42℃)
TPA: ポリアミドエラストマー、ポリアミドエラストマー、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPA 9040X1(Tg:-62℃)
TPU: ポリウレタンエラストマー、日本ミラクトラン株式会社製「ミラクトラン」(登録商標)E180(Tg:-45℃)
PA12: ナイロン12、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)3020U(Tg:37℃)
【0037】
(1)熱可塑性樹脂組成物の調製
シリンダー温度を220℃に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に、表1~表3に示す内層用熱可塑性樹脂および変性エラストマーを、表1~表3に示す配合比率で導入し、滞留時間約5分で溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイスからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(内層材)を調製した。
【0038】
(2)内層材の水素暴露による体積変化の測定
(1)の手順で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を組成物中で融点の最も高い材料の融点+20℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度1m/minの条件で平均厚み1.0mmのシートに成形した。このシートを直径13mmの円盤状に切り出し、耐圧容器に入れ、30℃、90MPaで24時間、水素暴露を行った。大気圧まで減圧した直後に、キーエンス2次元多点寸法測定器TM-3000にて円盤状サンプルの面積を測定し、体積変化を算出した。水素の脱離とともに体積は小さくなっていくが、その過程でもっとも大きい体積(最大値)を、同様に測定した暴露前の体積で割った値を変化率とした。変化率が1.08以上では、ホースとして水素を繰返し輸送すると、体積変化により補強層に内層が食い込み、耐久性が低下する。変化率を表1~表3に示す。
【0039】
(3)内層材の水素暴露による水素溶解量の測定
(2)と同様に、30℃、90MPaで24時間水素暴露し、大気圧まで減圧した直後に、30℃で窒素を充満した管内に円盤を静置し、管の端部から一定時間ごとに管内の気体をガスクロマトグラフィーへ導入し、試料内部から脱離していく水素を検出し、水素が検出されなくなるまで測定を継続し、検出された水素量を積算することで、暴露により試料へ溶解していた水素量を求めた。水素溶解量を表1~表3に示す。
【0040】
(4)内層材の低温での耐疲労性の測定
(2)と同様に押出成形したシートから、幅5mm、長さ200mmの短冊を20本切り出し、上島製作所製の定歪定荷重疲労試験により、温度-35℃、ひずみ13.5%、速度100rpmの条件で繰返し伸張変形を与えた。20本のうち12本(60%)が破断した回数を破断回数と定義し、破断回数が高いほど、低温での繰返し変形に対して有利で好ましく、破断回数が200万回未満のものは不可、200~500万回未満のものは良、500万回以上のものは優と判定した。判定結果を表1~表3に示す。
【0041】
(5)内層材の水素透過係数の測定
(1)の手順で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を組成物中で融点の最も高い材料の融点+20℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.2mmのフィルムに成形した。このフィルムを直径22mmの円が透過面となるように切り出し、GTRテック製ガス透過試験機を用いて、30℃、0%RH、0.5MPaの条件で水素ガスを流通させ、フィルムを透過した水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、検量線法により水素透過係数を求めた。測定結果を表1~表3に示す。
【0042】
(6)鋼線の水素脆化評価
ホースの積層構造を模して、(5)で得た熱可塑性樹脂のフィルムを内層に見立て、その上に補強層に見立てたPBO繊維および鋼線または鋼線を配置し、さらにその上に外層に見立てた厚さ0.5mmの熱可塑性エラストマーのシートを積層し、各層間には接着剤を塗布して乾燥した後、90℃、1MPaでプレスし圧着して、平面の積層体を得た。この際、PBO繊維および鋼線は、長手方向に平行に3mm間隔で並べて1層とし、上下の層で長手方向が直角となるように重ねた。実施例1~16と比較例1~5については、PBO繊維を3層、その上に鋼線を1層配置し、実施例17~18と比較例6については、鋼線を4層配置した。これらの積層体を所定のサイズに切り出し、圧力容器を2つの空間に仕切るように積層体を配置し、外層側を真空にし、内層側から10MPaの圧力で15分間水素を供給し、次いで窒素を供給し、水素と窒素の供給を2000回交互に繰り返した。その後、積層体を容器から取り出し、鋼線のみを剥がして引張試験を行い破断強度を測定した。外層として、PA12を配置した比較例1の鋼線の強度を100とし、103以上は鋼線の脆化を抑制する効果があったものとし、97未満は悪化傾向、97以上103未満は効果が見られないものとした。評価結果を表1~表3に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の水素充填用ホースは、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースとして好適に利用することができる。
【要約】
高圧水素の繰り返し充填における耐久性に優れた水素充填用ホースを提供する。内層、補強層および外層を含む水素充填用ホースであって、内層がポリアミド樹脂を含むマトリックスと変性スチレン系エラストマーを含むドメインとを含む熱可塑性樹脂組成物を含み、前記熱可塑性樹脂組成物中の変性スチレン系エラストマーの含有率が前記熱可塑性樹脂組成物中の全ポリマー成分の5~50質量%であり、補強層が鋼線を含む層を少なくとも1層含み、外層が熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする。
図1