(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】義歯床、義歯床の製造方法、有床義歯及び有床義歯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/01 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
A61C13/01
(21)【出願番号】P 2016255785
(22)【出願日】2016-12-28
【審査請求日】2019-10-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小礒 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】奥村 真帆
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 在
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第102015100080(DE,B3)
【文献】特表2016-513480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0111177(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部と、
前記床部に、隣接して形成され人工歯が配置される複数のソケットと、
複数の前記ソケットの間の隔壁に設けられ前記隔壁を部分的に低背として隣接する前記ソケットを繋げる第一切欠部と、
を有し、
前記床部が前記ソケットの並び方向に対し湾曲し、
前記第一切欠部が、前記隔壁において前記床部の湾曲の内側寄りの部分
から前記ソケットにおける前記湾曲の内側に位置する内壁まで一連で続くとともに、前記内壁を前記隔壁における前記湾曲の外側よりも低背とする義歯床。
【請求項2】
前記内壁に設けられ前記内壁を前記隔壁よりも低背とする第二切欠部を有する請求項1に記載の義歯床。
【請求項3】
前記第一切欠部と前記第二切欠部とが連続している請求項2に記載の義歯床。
【請求項4】
床部に、人工歯が配置される複数のソケットを隣接して形成し、
複数の前記ソケットの間に位置する隔壁において、前記ソケットの並び方向に対し湾曲する前記床部の湾曲の内側寄りの部分を部分的に低背と
するとともに、該部分から前記ソケットにおける前記湾曲の内側に位置する内壁まで一連で続いて前記内壁を前記隔壁における前記湾曲の外側よりも低背とし、隣接する前記ソケットを繋げる第一切欠部を形成する、
義歯床の製造方法。
【請求項5】
義歯床材料を切削する切削工程を含む請求項4に記載の義歯床の製造方法。
【請求項6】
前記切削工程において前記第一切欠部を形成する請求項5に記載の義歯床の製造方法。
【請求項7】
CADにより得られた形状データに基づいてCAMにより義歯床材料を切削するCAD/CAM工程を含む請求項5又は請求項6に記載の義歯床の製造方法。
【請求項8】
前記CAD/CAM工程において前記隔壁に前記第一切欠部を形成する請求項7に記載の義歯床の製造方法。
【請求項9】
3Dプリンタにより前記義歯床を成形する成形工程を含む請求項4に記載の義歯床の製造方法。
【請求項10】
前記3Dプリンタにより前記床部に前記ソケットを形成する工程で前記隔壁に前記第一切欠部を形成する請求項9に記載の義歯床の製造方法。
【請求項11】
前記第一切欠部の形状データに基づいて前記第一切欠部を形成する請求項4~請求項10のいずれか1項に記載の義歯床の製造方法。
【請求項12】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の義歯床と、
前記義歯床の前記ソケットに固定された人工歯と、
を有する有床義歯。
【請求項13】
床部と、
前記床部に、隣接して形成され人工歯が配置される複数のソケットと、
複数の前記ソケットの間の隔壁に設けられ前記隔壁を部分的に低背とする第一切欠部と、
を有する義歯床と、
前記義歯床の前記ソケットに固定された人工歯と、
を有する有床義歯の製造方法であって、
前記床部に、前記人工歯が配置される複数のソケットを隣接して形成し、
複数の前記ソケットの間に位置する隔壁において、前記ソケットの並び方向に対し湾曲する前記床部の湾曲の内側寄りの部分を部分的に低背と
するとともに、該部分から前記ソケットにおける前記湾曲の内側に位置する内壁まで一連で続いて前記内壁を前記隔壁における前記湾曲の外側よりも低背とし、隣接する前記ソケットを繋げる第一切欠部を形成し、
前記ソケットが形成された前記義歯床に前記人工歯を固定する固定工程と、
を含む義歯床の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の技術は、義歯床、義歯床の製造方法、有床義歯及び有床義歯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有床義歯を製造するにあたり、義歯床のソケットに接着剤としてレジンを滴下し、人工歯をソケットにはめ込んだ後にレジンを重合させて、人工歯を義歯床に接着し固定することが行われる。この場合に用いられるレジンとしては、たとえば、ポリマー粉とモノマー液とを混合させたものであり、混合直後は低粘度であるが、室温にて時間経過とともに粘度が高くなり固まるものがある。
【0003】
義歯床に人工歯を接着する技術としては、種々の方法がある。
【0004】
たとえば、レジン床の表面に形成された人工歯配列用の凹部が表面改質され、表面改質された凹部に接着剤を介してレジン歯を接着すること、及び、接着剤(レジン)として自己接着タイプのスーパーボンドを使用することが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、人工歯の基底面にプライマー処理を施した後、プライマー処理された面に即時重合レジンを塗布して接着層を形成し、人工歯と床とを接着することが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-155878号公報
【文献】特開2008-289839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
義歯床のソケットに接着剤を用いて人工歯を接着する場合、接着剤の量が多いと、ソケットと人工歯の間から過分の接着剤がはみ出してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、ソケットと人工歯の間からの接着剤のはみ出しを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の義歯床では、床部と、前記床部に、隣接して形成され人工歯が配置される複数のソケットと、複数の前記ソケットの間の隔壁に設けられ前記隔壁を部分的に低背とする第一切欠部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本願では、人工歯をソケットにはめ込むときの接着剤のはみ出しを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は第一実施形態の義歯床を示す斜視図である。
【
図2】
図2は第一実施形態の義歯床を部分的に拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3は第一実施形態の義歯床を示す
図1の3-3線断面図である。
【
図4】
図4は第一実施形態の義歯床を示す
図1の4-4線断面図である。
【
図5】
図5は第一実施形態の有床義歯を示す斜視図である。
【
図6】
図6は第一実施形態の有床義歯の製造工程を示す斜視図である。
【
図7】
図7は第一実施形態の有床義歯の製造工程を示す斜視図である。
【
図8】
図8は第一実施形態の有床義歯の製造工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(義歯床及び有床義歯の構成)
以下、本発明の一実施形態に係る義歯床及び有床義歯について、
図1~
図5を用いて説明する。
【0013】
図5に示すように、有床義歯102は、義歯床104と、この義歯床104に固定された複数の人工歯108を含む。なお、
図5では、上顎用の有床義歯102を示しているが、下顎用の有床義歯及び義歯床であってもよい。
【0014】
図1及び
図2に示すように、義歯床104は、人工歯108が固定される部位である床部106を有する。床部106には、人工歯108(
図5参照)がはめ込まれて固定される複数のソケット110が形成されている。
【0015】
複数のソケット110のうち少なくとも2つは、隣接している。
図1に示す例では、全てのソケット110が列状に湾曲して配置されるように、床部106が全体として湾曲している。そして、複数のソケット110は、列の並び方向に沿って隣接している。床部106の湾曲の内側寄りが、口腔内に装着された際の舌側であり、湾曲の外側が唇側である。
【0016】
隣接するソケット110の間には隔壁112が形成されている。それぞれのソケット110の舌側には内壁114が形成され、ソケット110の口唇側には外壁116が形成されている。すなわち、ソケット110は、隔壁112、内壁114及び外壁116によって囲まれた領域である。
【0017】
図3にも示すように、隔壁112には第一切欠部118が形成されている。第一切欠部118では、隔壁112の高さが部分的に低くなっている。本実施形態では、第一切欠部118は、隔壁112のそれぞれで舌側寄り(複数のソケット110の配列における湾曲の内側寄り)の部分に形成されている。
【0018】
図4にも示すように、内壁114には第二切欠部120が形成されている。第二切欠部120では、内壁114の高さが隔壁112よりも低くなっている。第二切欠部120は、それぞれのソケット110の内壁114において部分的に形成されていてもよいが、
図1及び
図2に示す例では、それぞれのソケット110において、内壁114の全体に第二切欠部120が形成されている。したがって、内壁114の全体の高さが、隔壁112よりも低い。
【0019】
本実施形態では、第一切欠部118と第二切欠部120とは連続している。換言すれば、第一切欠部118が、隔壁112において舌側寄りに形成され、内壁114まで一連で続いていることで、第一切欠部118と第二切欠部120とが一体に形成された構造である。
【0020】
有床義歯102は、ソケット110のそれぞれに、人工歯108がはめ込まれ、後述する固定工程において接着剤により固定されている。
【0021】
固定工程は、本実施形態では、人工歯を義歯床に接着する工程、すなわち接着工程でもある。人工歯を義歯床に接着するための接着剤(レジン)としては、たとえば、アクリル系レジンを用いることができる。アクリル系レジンとしては、義歯床と人工歯との本接着が可能なものであれば特に限定されず、市販品を用いてもよい。すなわち、接着工程は、アクリル系レジンを用いて人工歯を義歯床に本接着する工程(以下、「本接着工程」とも称する)であることが好ましい。なお、本明細書において、義歯床と人工歯との本接着とは、有床義歯としての使用が可能な程度に人工歯が義歯床に固定されていることをいう。
【0022】
本接着工程で用いるアクリル系レジンとしては、例えば、常温(0℃~35℃)で重合するレジン、熱を加えて重合するレジン、光で重合するレジンが挙げられる。常温(0℃~35℃)で重合するレジン又は熱を加えることで重合するレジンとしては、例えば、比較的低い温度(好ましくは0℃~70℃)で重合が進行するアクリル系レジン、70℃以上で重合が進行するアクリル系レジンが挙げられる。なお、以下において比較的低い温度(好ましくは0℃~70℃)で重合が進行するアクリル系レジンを「特定アクリル系レジン」と称する。
【0023】
アクリル系レジンとしては、ポリマー粉とモノマー液とを混合させたものを用いてもよい。ソケット110と人工歯108との隙間にアクリル系レジンを注入する場合、混合直後の低粘度の状態であれば、注入が容易である。ポリマー粉としては、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂が挙げられ、モノマー液としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステルが挙げられる。また、アクリル系レジンは、他の成分として、4-META(4-メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物)などの拡散促進モノマー、TBB(トリ-n-ブチルボラン)などの常温重合開始剤(あるいは、熱重合開始剤)、重合禁止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0024】
また、市販のアクリル系レジンとしては、例えば、アクロン(株式会社ジーシー製)、パラエクスプレスウルトラ(ヘレウスクルツァー社製)、山八歯科工業株式会社製リファインブライトなどが挙げられる。
【0025】
固定工程は、人工歯を義歯床に予備接着する工程(以下、「予備接着工程」とも称する)を含んでもよい。なお、本明細書において、予備接着とは、予備接着後に、人工歯と義歯床との位置関係が維持される程度に人工歯が義歯床に固定されていることをいう。
【0026】
人工歯を義歯床に予備接着する方法としては、例えば、歯科用複合レジン又はアクリル系レジンを用いて、義歯床の凹部の少なくとも一部に上記レジン(歯科用複合レジン又はアクリル系レジン)を注入し、注入された上記レジンを常温(0℃~35℃)で重合させる、加熱して重合させる、又は光(例えば可視光)で重合させる方法が挙げられる。
【0027】
予備接着工程で用いるレジンとしては、歯科用複合レジン又はアクリル系レジンが挙げられる。
予備接着工程で用いるアクリル系レジンとしては、本接着工程で用いるアクリル系レジンと同様のものが挙げられるが、中でも、特定アクリル系レジン(比較的低い温度(好ましくは0℃~70℃)で重合が進行するアクリル系レジン)が好ましい。歯科用複合レジンについては後述する。
【0028】
接着工程が予備接着工程を有することにより、予備接着に用いるレジンの重合が進行するまで(例えば光重合性レジンの場合には光硬化後まで)歯の配列の修正や、形状調整が必要な歯がある場合には、その対象の歯の取り外し等を行うことができる。
また、予備接着工程は、本接着に用いるレジンの量をより適切に調整する観点から、人工歯を、義歯床の凹部(ソケット部)の少なくとも一部に予備接着する工程であることが好ましい。
【0029】
(歯科用複合レジン)
歯科用複合レジンとしては、人工歯と義歯床との予備接着が可能なものであれば特に限定されず、例えば、成形修復材料、歯冠補綴用材料、歯科用充填剤などのコンポジットレジン(修復材料)、自己接着性セメントなどを用いることができる。
【0030】
コンポジットレジンは、例えば、マトリックスレジンとしてジメタクリレートを含み、その他に無機フィラー、シランカップリング剤などを含んでいてもよい。ジメタクリレートとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)が挙げられる。
【0031】
自己接着性セメントとしては、例えば、マトリックスレジンとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)や前述のジメタクリレートを含み、その他に接着性物質、フィラーなどを含んでいてもよい。
【0032】
また、コンポジットレジンとしては、低粘度及び低弾性であるフロアブルタイプ、高粘度及び高弾性であるペーストタイプなどが挙げられるが、義歯床の凹部(ソケット部)への注入のしやすさの観点から、低粘度及び低弾性であるフロアブルタイプが好ましい。
【0033】
また、人工歯の位置調整をより好適に可能とする点から、光重合性のコンポジットレジンを用いることが好ましい。光重合性のコンポジットレジンを用いることにより、義歯床のソケット部に注入されたコンポジットレジンが光照射前にて硬化しないため、取り扱い性に優れ、人工歯の位置調整を精度良く行いやすい。また、光重合性のコンポジットレジンを用いることにより、硬化後の接着(予備接着)は、接着力が比較的弱いため、容易に義歯床からの人工歯の取り外しが可能であり、また、人工歯を取り外した後、義歯床のソケット部にコンポジットレジンを注入して義歯床と人工歯との再度の接着(予備接着)を行いやすい。そのため、人工歯のシェード(色調)を間違えた場合や硬化操作時に人工歯の位置にズレが生じた場合などに、硬化後であっても容易に義歯床からの人工歯の取り外しが可能となるため、再度接着(予備接着)することによる位置調整を行いやすい。
光重合性のコンポジットレジンとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルなどの重合性化合物、無機充填剤、光重合開始剤などを含むものであってもよく、さらに、重合促進剤を含むものであってもよい。
【0034】
また、市販のコンポジットレジンとしては、例えば、ビューティフィルII(株式会社松風製)、レボテック(株式会社ジーシー製)などが挙げられる。
【0035】
なお、固定工程(接着工程)において接着剤により人工歯108を義歯床104に固定する前に、仮固定材を用いて、人工歯108が義歯床104に仮固定されていてもよい。仮固定によっても、人工歯108と義歯床104との位置関係が維持される程度に、人工歯108が義歯床104に一時的に固定される。仮固定の後に、固定工程として、予備接着を行わずに本接着を行ってもよい。
【0036】
人工歯108としては、例えば、アクリル系樹脂製のレジン歯、硬質レジン歯などが挙げられる。また、人工歯は、充填剤等を含有していてもよい。
【0037】
義歯床104の材質としては、特に限定されない。ただし、後述するように、CAD/CAMシステムを用いた製造に適している点及び市販のアクリル系樹脂製のレジン歯との接着性に優れる点から、アクリル系樹脂が好ましい。
【0038】
ここで、アクリル系樹脂とは、アクリル酸に由来する構造単位、メタクリル酸に由来する構造単位、アクリル酸エステルに由来する構造単位、及びメタクリル酸エステルに由来する構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含む重合体を指す。
【0039】
即ち、本明細書中におけるアクリル系樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種(以下、「アクリル系単量体」とも称する)を含む単量体成分を重合して得られた重合体である。
【0040】
アクリル系樹脂の原料の少なくとも一部であるアクリル系単量体は、単官能アクリル系単量体であってもよいし、多官能アクリル系単量体であってもよい。
【0041】
単官能アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、一分子中にアクリロイル基を1つ含むアクリル酸エステル、一分子中にメタクリロイル基を1つ含むメタクリル酸エステル、等が挙げられる。
【0042】
多官能アクリル系単量体としては、一分子中にアクリロイル基を2つ以上含むアクリル酸エステル、一分子中にメタクリロイル基を2つ以上含むメタクリル酸エステル、等が挙げられる。
【0043】
上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましい。中でも、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1~4であるアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが更に好ましく、アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0044】
上記メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましい。中でも、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1~4であるメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0045】
また、アクリル系樹脂は、反応性や生産性の観点から、単官能アクリル系単量体を含む単量体成分を重合して得られた重合体であることが好ましい。
【0046】
アクリル系樹脂は、単官能アクリル系単量体を50質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)含む単量体成分を重合して得られた重合体であることがより好ましい。
【0047】
上記アクリル系樹脂として、特に好ましくは、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体であり、最も好ましくはメタクリル酸メチルの単独重合体(ポリメタクリル酸メチル、即ち、ポリメチルメタクリレート(PMMA))である。
【0048】
上記アクリル系樹脂は、耐衝撃性の観点から、ゴムを含んでいてもよい。
【0049】
ゴムの種類としては、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、ブタジエン-アクリル系ゴム、ブタジエン-スチレン系ゴム、シリコーン系ゴム、等が挙げられる。
【0050】
上記アクリル系樹脂がゴムを含む場合、ゴムの種類は、適宜物性を考慮して選択すればよいが、硬度、耐衝撃性等の諸物性のバランスを考慮すると、ブタジエン系ゴム又はブタジエン-アクリル系ゴムが好ましい。
【0051】
義歯床104は、審美性の観点から、歯肉に近い色調に着色されていてもよい。義歯床の着色には、例えば、顔料、染料、色素などを使用すればよい。
【0052】
義歯床104は、全部床義歯(いわゆる総入れ歯)用の義歯床であってもよいし、局部床義歯(いわゆる部分入れ歯)用の義歯床であってもよい。
【0053】
また、義歯床104は、上顎用義歯の義歯床であってもよいし、下顎用義歯の義歯床であってもよいし、上顎用義歯床と下顎用義歯床とのセットであってもよい。
【0054】
仮固定材を用いる場合、仮固定材としては、たとえば、25℃(常温)で変形する粘着性材料を用いることができる。粘着性材料としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルアルキルエーテル系樹脂、アクリルアミド系樹脂等の樹脂;天然ゴム、シリコーン系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合エラストマー等のゴム;が挙げられる。さらに、粘着性材料としては、例えば、パテ(例えば模型製作用パテ、歯科用パテ)、タックラベル、小麦粉粘土、粘着性金属箔テープを用いてもよい。
【0055】
パテとは、窪み、割れ、穴等を充填するために用いられる材料のことをいう。パテは、一般に顔料、樹脂(不揮発性展色剤)、揮発性物質を含む。
【0056】
パテとしては、エポキシパテ、ポリエステルパテ、シリコーンパテ又はこれらの変性パテ等の1成分型(1液性)若しくは多成分型(2液性等)のパテ;ラッカーパテ;瞬間接着パテ;石膏パテ;炭酸カルシウムパテ;光硬化型パテ;等が挙げられる。
【0057】
タックラベルとは、基材の裏面に粘着性材料が設けられたラベルをいい、その粘着性材料の側が仮固定される部位(例えば歯冠及び歯根の境界付近)に配置されて用いられる。
【0058】
基材の材質は特に制限されない。基材の裏面に設けられる粘着性材料としては、例えば上記樹脂、上記ゴムが挙げられる。
【0059】
また、金属箔テープとしては、公知の粘着性金属箔テープを用いることができる。
【0060】
粘着性材料の中でも、仮固定材除去後の有床義歯への残付着が少ない観点から、パテが好ましく、歯科用パテがより好ましく、歯科用シリコーンパテがさらに好ましい。特に、歯科用パテ(好ましくは歯科用シリコーンパテ)を用いると、変形時の戻りが少ないので、人工歯の位置調整が容易に行える。また、仮固定時における人工歯と義歯床との位置関係が保持されやすい。
【0061】
上記粘着性材料は、1種単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
【0062】
仮固定材の形状としては、人工歯を義歯床に仮固定できる形状であれば特に制限されず、種々の形状が採用され得る。
【0063】
(義歯床及び有床義歯の製造方法)
次に、義歯床104及び有床義歯102の製造方法について、義歯床104及び有床義歯102の作用と共に説明する。
【0064】
義歯床104の製造にあたっては、一例として、CAD(Computer Aided Design system)ユニットと、CAM(Computer Aided Manufacturing system)ユニットとを備えた製造システムを用いることができる。この製造システムは、「CAD/CAMシステム」と称されることがある。
【0065】
CADユニットは、口腔内の3D表面形状情報と、人工歯108の3D形状情報に基づき、コンピュータを用いて義歯床104の形状情報をデジタルデータとして設計し、かつ、製作する。本実施形態では、このデジタルデータに、第一切欠部118及び第二切欠部120の形状情報も含まれる。
【0066】
CAMユニットは、たとえばミリングマシンを有している。そして、CAMユニットは、CADユニットにより形成された形状情報を取得し、ミリングマシンにより、義歯床104を形成する。ミリングマシンは、入力された義歯床104の形状データに基づいて、義歯床104の材料であるレジンブロックを切削加工する。
【0067】
このように、本実施形態の義歯床の製造方法では、義歯床104を形成する工程の一部に、切削工程(たとえば、上記したミリングマシンによる切削)を含む。これにより、手作業等によって第一切欠部118や第二切欠部120を成形する工程を無くす、もしくは形状の修正を最小限にできる。
【0068】
特に、切削により、第一切欠部118を形成することで、第一切欠部118を高精度で形成できる
【0069】
なお、義歯床を製造する際には、たとえば、第二切欠部120がない義歯床を製造する場合等もあり、この場合は、少なくとも第一切欠部118をミリングマシンによって切削すればよい。第二切欠部120を有する義歯床104を製造する場合には、切削により、第二切欠部120を形成することで、第二切欠部120を高精度で形成できる。
【0070】
義歯床の製造システムでは、CADユニットによって得られた、義歯床104の形状情報が含まれている。そして、この形状データに基づいて、CAMユニットにより、義歯床材料を成形し、義歯床104を製造する。このため、所望の形状の義歯床104を、効率的に、高精度で形成できる。
【0071】
特に、本実施形態では、義歯床104の形状情報には、第一切欠部118及び第二切欠部120の形状情報も含まれている。したがって、第一切欠部118及び第二切欠部120を有する義歯床104や、第一切欠部118を有し第二切欠部を有さない義歯床を、ミリングマシンを用いたCAD/CAM工程のみにより形成してもよい。
【0072】
切削工程の一部に、作業者による手作業が含まれていてもよい。
【0073】
また、義歯床104の製造にあたっては、上記した製造システムのミリングマシンに代えて、3Dプリンタを有する製造システムでもよい。そして、CAMユニットは、CADユニットにより形成された形状情報を取得し、3Dプリンタにより、義歯床104を形成する。3Dプリンタは、入力された義歯床104の形状データに基づいて、一層ずつ材料を積層することにより義歯床104を成形する。3Dプリンタは、光造形方式、粉末焼結積層方式、熱溶解積層方式およびインクジェット方式のいずれの方式を採用するものであってもよい。
特に、本実施形態では、義歯床104の形状情報には、第一切欠部118及び第二切欠部120の形状情報も含まれている。したがって、たとえば、第一切欠部118及び第二切欠部120を有する義歯床104を、3Dプリンタを用いたCAD/CAM工程のみにより形成してもよい。
【0074】
このように、3Dプリンタにより義歯床104を形成する工程において、第一切欠部118及び第二切欠部120を、3Dプリンタのみで義歯床104を製造することができる。これにより、手作業等によって第一切欠部118や第二切欠部120を成形する工程を無くす、もしくは形状の修正を最小限にできる。
【0075】
第一切欠部118の形成を、3Dプリンタによって義歯床104を形成する工程(形成工程)において行ってもよい。これにより、第一切欠部118を切削等によって形成する必要がなくなるので、第一切欠部118を有する義歯床104の製造が容易である。
【0076】
3Dプリンタによって第一切欠部118を形成する場合には、CADユニットによって得られた第一切欠部118の形状情報のデータを用いることで、第一切欠部118を有する義歯床104を効率的に成形できる。
【0077】
同様に、第二切欠部120の形成を、3Dプリンタによって義歯床104を形成する工程(形成工程)において行ってもよい。これにより、第二切欠部120を切削等によって形成する必要がなくなるので、第二切欠部120を有する義歯床104の製造が容易である。
【0078】
3Dプリンタによって第二切欠部120を形成する場合には、CADユニットによって得られた第二切欠部120の形状情報のデータを用いることで、第二切欠部120を有する義歯床104を効率的に成形できる。
【0079】
ただし、ミリングマシンを有する製造システムを用いた場合と同様に、第二切欠部120がない義歯床を製造する場合等もあり、この場合は、第一切欠部118を有し、第二切欠部120がない形状の義歯床を3Dプリンタにより成形すればよい。
【0080】
なお、義歯床の製造システムとしては、CAMユニットは、ミリングマシンと3Dプリンタの少なくともいずれか一方を有していればよく、両方を有していてもよい。
【0081】
このようにして形成された義歯床104において、
図6に示すように、ソケット110に人工歯108をはめ込む。このとき、仮固定材を用いて人工歯108を義歯床104に仮固定してもよい。仮固定により、人工歯108と義歯床104との位置関係が維持される程度に、人工歯108が義歯床104に一時的に固定される。
【0082】
人工歯108を義歯床104に仮固定する方法としては特に制限されない。たとえば、仮固定材を、人工歯及び義歯床の少なくとも一方を含む部分(例えば歯冠及び歯根の境界部分)を覆うようにして、歯肉の外側(唇側、頬側)又は歯肉の内側(舌側)に配置する方法が挙げられる。また、仮固定材をヒモ状にして、歯の唇側から舌側にかけてまたぐように配置する方法を採ることも可能である。なお、仮固定材を歯肉の外側に配置した場合、接着剤を歯肉の内側から注入できるので、審美性に優れた有床義歯が得られやすい。
【0083】
次に、
図7に示すように、ソケット110にはめ込まれた人工歯108を、接着剤により義歯床104に接着し固定する(固定工程)。接着剤の注入には、たとえば、注入器22を用いることができる。固定工程は接着工程でもある。接着工程は、仮接着工程と本接着工程とを含むが、不要であれば仮接着工程を行わなくてもよい。
【0084】
上記したように、予備接着工程で用いるレジンとしては、歯科用複合レジン又はアクリル系レジンを用いることができ、本接着工程で用いるレジンとしては、アクリル系レジンを用いることができる。ポリマー粉とモノマー液とを混合させたアクリル系レジンでは、混合直後の低粘度の状態であれば、接着剤の注入が容易である。
【0085】
義歯床104には、内壁114、すなわちソケット110の舌側に位置する壁に第二切欠部120が形成されている。接着剤が充填された注入器22等を用いて、第二切欠部120から、ソケット110と人工歯108の間に接着剤を注入する。
【0086】
接着剤の注入量は、たとえば、接着剤が表面張力で、人工歯108の間あるいはソケット110と人工歯108の間から僅かに見える程度とする。
【0087】
ここで、
図9~
図11には、比較例の義歯床74が示されている。比較例の義歯床74では、隔壁82に切欠部は形成されていない。また、内壁84に第二切欠部は形成されていない。したがって、比較例の義歯床74において、ソケット80と人工歯の間に接着剤を注入する作業は難しい場合がある。
【0088】
これに対し、本実施形態の義歯床104では、内壁114に第二切欠部120が形成されているので、比較例の義歯床74の内壁84と比較して、内壁114に、実質的な高さが低い部分が存在する。このため、ソケット110と人工歯108の間に接着剤を注入する作業が容易である。特に、本実施形態の義歯床104では、
図1及び
図2に示す例のように、内壁114の全体において高さが低い構造であるので、接着剤を注入する作業が容易である。
【0089】
また、比較例の義歯床74では、切欠部が形成されていない。したがって、比較例の義歯床74において、注入された接着剤の量が多い場合は、過分の接着剤が、ソケットからはみ出してしまう。そして、はみ出した接着剤を除去する必要が生じ、除去できない接着剤が審美性を損ねるおそれもある。
【0090】
これに対し、本実施形態の義歯床104では、隔壁112に第一切欠部118が形成されている。ソケット110と人工歯108の間に注入された接着剤の量が多い場合には、過分の接着剤が、第一切欠部118から、隣接するソケット110へ流動する。このため、接着剤がソケット110からはみ出ることを抑制できる。
【0091】
接着剤がソケット110からはみ出さない(若しくははみ出した量が少ない)ので、はみ出した接着剤を除去する作業は不要であり、有床義歯102の製造が容易である。また、接着剤がソケット110からはみ出さないので、審美性に優れた有床義歯102が得られる。
【0092】
第一切欠部118は、舌側、すなわちソケット110の湾曲の内側よりに位置している。したがって、第一切欠部118を接着剤が流れる場合に、舌側を流れるので、唇側への接着剤のはみ出しを抑制し、審美性に優れた有床義歯102が得られる。
【0093】
第一切欠部118と第二切欠部120とは、それぞれ分離して独立していてもよいが、上記の例では連続している。したがって、第一切欠部118と第二切欠部120とが分離している構造と比較して、第一切欠部118と第二切欠部120とを一体的に形成でき、形成が容易である。
【0094】
接着剤として、常温で重合するレジン、熱を加えて重合するレジン、光で重合するレジン等を用いた場合は、レジンを重合させて、人工歯108を義歯床104に接着固定する。
【0095】
さらに、義歯床104における舌側部分、特に、第二切欠部120が形成されている部分に、接着剤を注入し、
図8に示すように、築盛部122を形成して、義歯床104の形状を整えてもよい。また、仮固定剤を用いた場合には、人工歯108を義歯床104に固定した後、仮固定材を除去する。
【0096】
なお、義歯床104を製造する方法は、上記の製造方法に限定されない。たとえば、所望の形状の義歯床104を形成する工程の一部に、歯科用ハンドピース等の工具を用いた手作業による加工(切削等)を含んでいてもよい。手作業による加工は、第一切欠部118や第二切欠部120の形成に対し行ってもよいし、第一切欠部118や第二切欠部120以外の部位の形成に対し行ってもよい。
【0097】
なお、
図6~
図8では、複数のソケット110のうち、1つのソケット110に人工歯108をはめ込んだ状態を示しているが、実際には、全てのソケット110に対し、対応する形状の人工歯108がはめ込まれ固定される。
【実施例】
【0098】
以下、本実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
〔実施例1〕
実施例1では、まず、ミリングマシンを有する製造システム(CAD/CAMシステム)を用いて、ミリングマシンにより第一切欠部118及び第二切欠部120が形成されていない形状の義歯床を切削により成形した。この義歯床に対し、歯科用ハンドピースを用いて、内壁を切削し、第二切欠部120を形成した。続いて、同じく歯科用ハンドピースを用いて、隔壁112における舌側寄りの位置に第一切欠部118を形成し、この第一切欠部118を、舌側まで広げて、第二切欠部120と連続させた。
【0100】
次いで、仮接着剤として、歯科用複合レジンの一例である株式会社松風製のビューティフィルIIを各ソケット110に少量(約0.1g)築盛した後、人工歯108としてアクリル系樹脂製のレジン歯を、仮接着剤が築盛されたソケット110の所定の位置に配置した。
【0101】
その後、可視光照射器(株式会社モリタ東京製作所製、商品名 αライトV)で可視光を30秒照射し仮接着剤を硬化させ、義歯床104に人工歯108を仮接着させた。
【0102】
その後、接着剤として、アクリル系レジンの一例であるヘレウスクルツァー社製パラエクスプレスウルトラを、第二切欠部120から義歯床104と人工歯108の隙間に流し込んだ。
【0103】
その後、接着剤を重合させて人工歯108と義歯床104とを接着させ、さらに義歯形状を整えるように舌側にレジンで築盛部122を形成し、有床義歯102を作製した。
【0104】
以上の手順で有床義歯102を作製した場合、内壁114に第二切欠部120が形成されており、実質的に内壁114が低背であるため、アクリル系レジンを流し込みやすかった。また、隔壁112に第一切欠部118が形成されているため、接着剤を流し込んだ際に、接着剤の一部が第一切欠部118を通って隣接するソケット110に流れ込み、接着剤があふれ出ることはなかった。すなわち、唇側および歯間に接着剤がはみ出すことがなく、審美性を維持でき、かつ、歯科用ハンドピース等を用いた仕上げ作業も容易であった。
【0105】
〔実施例2〕
第一切欠部118及び第二切欠部120が形成された総義歯床のデジタルデザインを用いて、ミリングマシンにより切削工程を行い、アクリル系樹脂製の義歯床104を作製した。
【0106】
次いで、仮接着剤として、歯科用複合レジンの一例である株式会社松風製のビューティフィルIIを各ソケット110に少量(約0.1g)築盛した後、人工歯108としてアクリル系樹脂製のレジン歯を、仮接着剤が築盛されたソケット110の所定の位置に配置した。
【0107】
その後、可視光照射器(株式会社モリタ東京製作所製、商品名 αライトV)で可視光を30秒照射し仮接着剤を硬化させ、義歯床104に人工歯108を仮接着させた。
【0108】
その後、接着剤として、アクリル系レジンの一例であるヘレウスクルツァー社製パラエクスプレスウルトラを、第二切欠部120から義歯床104と人工歯108の隙間に流し込んだ。
【0109】
その後、接着剤を重合させて人工歯108と義歯床104とを接着させ、さらに義歯形状を整えるように舌側にレジンで築盛部122を形成し、有床義歯102を作製した。
【0110】
以上の手順で有床義歯102を作製した場合、内壁114に第二切欠部120が形成されており、実質的に内壁114が低背であるため、アクリル系レジンを流し込みやすかった。また、隔壁112に第一切欠部118が形成されているため、接着剤を流し込んだ際に、接着剤の一部が第一切欠部118を通って隣接するソケット110に流れ込み、接着剤があふれ出ることはなかった。すなわち、唇側および歯間に接着剤がはみ出すことがなく、審美性を維持でき、かつ、歯科用ハンドピース等を用いた仕上げ作業も容易であった。
【0111】
〔実施例3〕
3Dプリンタ(Formlabs社製Form 1+)により、NexDent社製レジンNexDent Baseを使用してアクリル系樹脂製の総義歯床を作製した。この義歯床に対し、歯科用ハンドピースを用いて内壁114を切削し、第二切欠部120を形成した。続いて、同じく歯科用ハンドピースを用いて、隔壁112における舌側寄りの位置に第一切欠部118を形成し、この第一切欠部118を舌側まで広げて、第二切欠部120と連続させた。
【0112】
次いで、仮接着剤として、歯科用複合レジンの一例であるヘレウスクルツァー社製のヴィーナスパールを各ソケット110に少量(約0.1g)築盛した後、人工歯108としてアクリル系樹脂製のレジン歯を、仮接着剤が築盛されたソケット110の所定の位置に配置した。
【0113】
その後、可視光照射器(株式会社モリタ東京製作所製、商品名 αライトV)で可視光を30秒照射し仮接着剤を硬化させ、義歯床104に人工歯108を仮接着させた。
【0114】
その後、接着剤として、アクリル系レジンの一例であるヘレウスクルツァー社製パラエクスプレスウルトラを、第二切欠部120から義歯床104と人工歯108の隙間に流し込んだ。
【0115】
その後、接着剤を重合させて人工歯108と義歯床104とを接着させ、さらに義歯形状を整えるように舌側にレジンで築盛部122を形成し、有床義歯を作製した。
【0116】
以上の手順で有床義歯102を作製した場合、内壁114に第二切欠部120が形成されており、実質的に内壁114が低背であるため、アクリル系レジンを流し込みやすかった。また、隔壁112に第一切欠部118が形成されているため、接着剤を流し込んだ際に、接着剤の一部が第一切欠部118を通って隣接するソケット110に流れ込み、接着剤があふれ出ることはなかった。すなわち、唇側および歯間に接着剤がはみ出すことがなく、審美性を維持でき、かつ、歯科用ハンドピース等を用いた仕上げ作業も容易であった。
【0117】
〔比較例〕
製造システム(CAD/CAMシステム)を用いて、第一切欠部118及び第二切欠部120が形成されていない形状の義歯床を成形した。
【0118】
そして、この義歯床のソケットに、接着剤として、アクリル系レジンの一例であるヘレウスクルツァー社製パラエクスプレスウルトラを滴下した後、人工歯としてアクリル系樹脂製のレジン歯を、接着剤が滴下されたソケットの所定の場所に配置した。人工歯が浮き上がるのを防ぐため、接着剤が硬化するまで指で押さえ続け、有床義歯を作製した。
【0119】
以上の手順で有床義歯を作製した場合、ソケットからの接着剤のはみ出しが発生し、審美性が損なわれた。また、歯科用ハンドピースによる修正および仕上げ作業が煩雑であった。
【符号の説明】
【0120】
102 有床義歯
104 義歯床
106 床部
108 人工歯
110 ソケット
112 隔壁
114 内壁
118 第一切欠部
120 第二切欠部
122 築盛部