IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社中京メディカルの特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

特許7120556画像補正方法、画像補正装置及びプログラム
<>
  • 特許-画像補正方法、画像補正装置及びプログラム 図1
  • 特許-画像補正方法、画像補正装置及びプログラム 図2
  • 特許-画像補正方法、画像補正装置及びプログラム 図3
  • 特許-画像補正方法、画像補正装置及びプログラム 図4
  • 特許-画像補正方法、画像補正装置及びプログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】画像補正方法、画像補正装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
H04N1/60
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022064244
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2022-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】小蔵 拓海
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
【審査官】豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-170290(JP,A)
【文献】特開2019-133421(JP,A)
【文献】特開2004-258939(JP,A)
【文献】特開2016-175263(JP,A)
【文献】特開2004-157302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/46-62
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得ステップと、
前記画像の階調値を補正する補正ステップとを備え、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正ステップでは、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する、
画像補正方法。
【請求項2】
前記指数は、0より大きく1より小さい値であって、前記年齢情報が高齢ほど小さい値であり、
前記底は0以上1以下の値に正規化した前記入力値である請求項に記載の画像補正方法。
【請求項3】
前記対象者より若い基準年齢を設定する設定ステップを備え、
前記補正ステップでは、前記対象者の前記年齢情報と前記基準年齢とに応じた値であって、前記基準年齢が低いほど小さい値を前記指数に設定する請求項に記載の画像補正方法。
【請求項4】
前記基準年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値をS、前記年齢情報で示される年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値をSとして、前記指数は以下の式で示されるγ値の逆数であり、
前記S及びSは、0より大きく、1以下の値であって、小さい値ほど瞳孔径の縮小の程度が大きいことを示す請求項に記載の画像補正方法。
γ=(S-S+1)/(S-S+1)
【請求項5】
前記補正ステップでは、前記画像の各画素の色を定める複数の原色の各階調値を補正し、
前記入力値と前記出力値との前記関係が複数の前記原色の間で同一の関係である請求項1~のいずれか1項に記載の画像補正方法。
【請求項6】
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得部と、
前記画像の階調値を補正する補正部とを備え、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正部は、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する、
画像補正装置。
【請求項7】
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得ステップと、
前記画像の階調値を補正する補正ステップとをコンピュータに実行させるプログラムであり、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正ステップでは、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は画像の階調値(輝度)を補正する方法、装置又はプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢になると瞳孔径が縮小し、それに伴い画像が暗く見えるようになる。そこで、画像を見る対象者の年齢に応じて、画像の階調値(輝度)を大きくすることが考えられる。この場合、年齢に応じた瞳孔径の縮小の程度に基づいて定まる1より大きい補正係数を画像の階調値に乗算することで、階調値を比例的に大きくすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5643274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、階調値を比例的に大きくする方法では、階調値によっては、予め定められた最大階調値(例えば階調値の範囲が0~255である256階調の場合における「255」)を超えてしまうことがある。この場合、補正後の画像において白飛びが発生してしまう。
【0005】
そこで、本開示は、年齢に応じて画像の階調値を補正したときに白飛びの発生を抑制できる画像補正方法、装置又はプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の画像補正方法は、
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得ステップと、
前記画像の階調値を補正する補正ステップとを備え、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正ステップでは、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する。
【0007】
本開示の画像補正装置は、
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得部と、
前記画像の階調値を補正する補正部とを備え、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正部は、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する。
【0008】
本開示のプログラムは、
画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得ステップと、
前記画像の階調値を補正する補正ステップとをコンピュータに実行させるプログラムであり、
前記補正をする前の前記階調値を入力値、前記補正をした後の前記階調値を出力値として、
前記入力値が、前記階調値がとり得る範囲における最小の階調値又は最大の階調値の場合には、前記出力値は前記入力値に一致し、
前記範囲における前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線であり、かつ、前記年齢情報に応じた線であり、
前記補正ステップでは、前記補正として、前記年齢情報に応じた値を指数とし、前記入力値を底としたべき乗を演算する。
【0009】
本開示によれば、画像の階調値がとり得る範囲における補正前の階調値(入力値)と補正後の階調値(出力値)との関係を示す線が対象者の年齢情報に応じて変化するので、対象者の年齢に応じて画像の階調値を補正できる。また、前記範囲における最小又は最大の階調値は補正前後で一致し、前記関係を示す線が、一直線(線形線)ではなく、傾きが変化する線であるので、補正後の階調値(出力値)が最大階調値を超えてしまうのを抑制できる。これにより、白飛びの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表示装置の構成図である。
図2】制御部が実行する画像補正及び画像出力処理のフローチャートである。
図3】20歳を基準としたときの年齢ごとの水晶体透過比の例を示す図である。
図4】年齢に対する縮瞳率の変化を示した図である。
図5】画素値の入力値を横軸、出力値を縦軸としたグラフであり、γ値の導出方法及びγ値に基づく縮瞳補正を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は画像出力装置としての表示装置1の構成図である。表示装置1は、例えばコンピュータ(パーソナルコンピュータ)、テレビ受像機、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末などである。表示装置1が表示する画像はどのような画像でもよく、例えば、眼科手術中の患者の眼球の拡大画像でもよい。その拡大画像を表示する場合には、画像を見る対象者は例えば眼科手術を行う医師としてよい。
【0012】
表示装置1は入力部2と表示部3と制御部4とを備えている。入力部2は例えばボタンやテンキー、マウスなど既知の構造を備え、ユーザからの入力を受け付ける部位である。具体的には、入力部2は、画像を見る対象者の年齢、画像の階調値を補正する際の基準となる基準年齢などの入力を受け付ける。入力部2に入力された入力内容は制御部4に送られる。
【0013】
表示部3は画像を表示する部位である。表示部3は例えば液晶ディスプレイであるが、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど他の方式のディスプレイでもよい。また、表示部3はヘッドマウント型のディスプレイでもよい。表示部3はカラー画像を表示可能に構成される。表示部3での色の表示系は例えばRGB表示系である。RGB表示系では、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色の組み合わせにより、色を表現する。表示部3は、RGBの各原色の光の量(階調値、輝度)を調整することで、各画素の色を表現する。RGBの各原色の階調数(輝度の段階数)は例えば256階調としてよい。この場合、原色ごとに、階調値が例えば0~255で示される。階調値が大きいほど、高輝度であることを示す。すなわち、階調値が最小値「0」であることは、輝度が最も低いことを示す。反対に、階調値が最大値「255」であることは、輝度が最も高いことを示す。なお、256階調以外の階調数でもよい。
【0014】
制御部4は表示装置1の全体的制御を司る部位である。制御部4は、通常のコンピュータと同様の構成を有し、すなわちCPU、RAM、ROM等から構成される。制御部4は、表示部3の表示を制御する表示制御部として機能する。また、制御部4は表示部3に表示させる画像の色や輝度を、画像を見る対象者の年齢に応じて補正する画像補正装置又は補正部として機能する。
【0015】
また、制御部4は不揮発性の記憶部5を備えている。記憶部5は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。なお、記憶部5は、制御部4に内蔵された内蔵記憶部として構成されてもよいし、制御部4に外付けされた外付記憶部として構成されてもよい。
【0016】
記憶部5には、制御部4が実行する処理のプログラム6と、該処理で使用する各種データ7とが記憶されている。プログラム6は、図示しない受信部や外部記憶装置により取得された画像データを表示部3に表示させるためのプログラムである。また、プログラム6は、加齢による色覚低下者が表示部3に表示される画像を見た場合に、若年者が知覚する色や輝度と同様に知覚されるように、表示部3に表示させる画像の色や輝度を補正するためのプログラムである。データ7は後述する黄変補正係数(実効成分比)及びγ値を含む。
【0017】
次に、制御部4がプログラム6に基づいて実行する処理の詳細を説明する。図2はその処理の一例を示すフローチャートである。図2の処理を開始すると、制御部4は、画像を見る対象者の年齢を設定する(S1)。具体的には、制御部4は、入力部2から入力される対象者の年齢情報を取得し、取得した年齢情報で示される年齢を対象年齢として設定する。年齢情報は、対象者の正確な年齢でもよいし、大まかな年齢(例えば60歳代)でもよいし、対象者が生まれた年(西暦など)でもよい。また、例えば、20歳以下を若年者、20歳より高齢を高齢者としたとき、対象者は高齢者としてよい。この場合、ステップS1では、20歳よりも高い年齢情報を設定する。なお、ステップS1が本開示の年齢取得ステップに相当する。ステップS1を実行する制御部4が年齢取得部に相当する。
【0018】
次に、制御部4は、ステップS1で設定する対象年齢よりも若い基準年齢を設定する(S2)。具体的には、制御部4は、例えば入力部2から入力される基準年齢を取得すればよい。基準年齢は、対象者が画像を見たときの色の知覚を、どの年齢の知覚と同様にするのかを示す年齢である。例えば、基準年齢が30歳の場合には、対象者が画像を見たときの色の知覚が30歳の知覚と同様になるように、画像の補正が行われる。基準年齢として、若年者の年齢(例えば20歳)を設定してもよいし、20歳よりも高齢の年齢を設定してもよい。なお、ステップS1、S2において、入力部2から、対象年齢及び基準年齢を入力する入力者は、画像を見る対象者自身でもよいし、対象者とは別人でもよい。なお、ステップS2が本開示の設定ステップに相当する。
【0019】
次に、補正及び表示(出力)の対象となる画像データを取得する(S3)。画像データはどのように取得してもよく、例えばカメラで撮影した画像を取得してもよいし、外部記憶装置に記憶された画像を取得してもよい。また、取得する画像データは、眼科手術中の患者の眼球の拡大画像など、どのような画像でもよい。また、取得する画像データはカラー画像としてよい。また、画像データを構成する各画素の色は、表示部3と同じRGB表示系で表現されてよい。この場合、RGBの各原色の階調数は例えば256階調であってよいが、256階調以外の階調数でもよい。
【0020】
次に、ステップS3で取得した画像データの各画素の色の表示系を、RGB表示系からXYZ表示系に変換する(S4)。各画素の値(R、G、B)を、XYZ表示系における三刺激値(X、Y、Z)に変換する。ここで、R(赤)、G(緑)、B(青)からX、Y、Zへの変換は以下の式(E1)から(E3)で表される。
X=a11R+a12G+a13B (E1)
Y=a21R+a22G+a23B (E2)
Z=a31R+a32G+a33B (E3)
【0021】
係数a11、a12、a13、a21、a22、a23、a31、a32、a33はそれぞれRのXへの寄与度、GのXへの寄与度、BのXへの寄与度、RのYへの寄与度、GのYへの寄与度、BのYへの寄与度、RのZへの寄与度、GのZへの寄与度、BのZへの寄与度を示す量であるとみなされる。このa11からa33の9個のパラメータは既知の定数であり、例えば、a11=0.4124、a12=0.3576、a13=0.1805、a21=0.2126、a22=0.7152、a23=0.0722、a31=0.0193、a32=0.1192、a33=0.9505と定められている。
【0022】
ここでX、X、X、Y、Y、Y、Z、Z、Zを次の式(E4)から(E6)により定義する。さらに、これらを用いると式(E7)から(E9)が得られる。
=a11R、X=a12G、X=a13B (E4)
=a21R、Y=a22G、Y=a23B (E5)
=a31R、Z=a32G、Z=a33B (E6)
X=X+X+X (E7)
Y=Y+Y+Y (E8)
Z=Z+Z+Z (E9)
【0023】
次に、黄変補正として、加齢による水晶体の黄変に伴う水晶体の光透過性の変化(低下)の影響を小さくするように、ステップS4の変換により得られた三刺激値X、Y、Zを補正する(S5)。ここでは、ステップS1で取得した対象年齢での水晶体の光透過性と、ステップS2で設定した基準年齢での水晶体の光透過性とに基づいて、対象者が画像を見たときの色覚が、基準年齢の人の色覚に近づくように、三刺激値X、Y、Zを補正する。具体的には、基準年齢での水晶体の光透過性に対する対象年齢での水晶体の光透過性の比である水晶体透過比に基づく色覚変化(色覚低下)を打ち消すように、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるR、G、B成分X、Y、Z(n=R、G、B)を個別に調節(補正)する。より具体的には、以下の式(E10)、(E11)、(E12)により、補正三刺激値X‘、Y‘、Z‘を求める。
X‘=X/K (X)+X/K (X)+X/K (X) (E10)
Y‘=Y/K (Y)+Y/K (Y)+Y/K (Y) (E11)
Z‘=Z/K (Z)+Z/K (Z)+Z/K (Z) (E12)
【0024】
ここで、K (X)、K (X)、K (X)、K (Y)、K (Y)、K (Y)、K (Z)、K (Z)、K (Z)は実効成分比として定義される値であり、以下のように求められる。
【0025】
加齢による色覚低下を考えない場合、上述のX、Y、Z(n=R、G、B)は、表示装置1の分光分布により以下の式(E13)から(E15)で表される。
=kΣS(λ)x(λ)f(λ) (E13)
=kΣS(λ)y(λ)f(λ) (E14)
=kΣS(λ)z(λ)f(λ) (E15)
【0026】
上式(E13)~(E15)においてλは可視光の波長である。S(λ)はD65白色点の波長λに対する分光分布である。x(λ)、y(λ)、z(λ)はそれぞれ波長λでのX、Y、Zの等色関数である。f(λ)(n=R、G、B)、すなわち、f(λ)、f(λ)、f(λ)はそれぞれ表示部3における赤色、緑色、青色の分光分布である。kは適当な定数である。Σにおける和の範囲は可視光波長域全体が含まれるように定められ、具体的には例えばλ=380からλ=780までとしてよい。
【0027】
以上は若者の健常者の場合であるが、これが加齢により以下のように変化する。周知のPokornyらの研究によれば、A歳の水晶体の光透過性に対するA歳(ただし、AはA以上とすればよい)の水晶体の光透過性の比である水晶体透過比Fは次の式(E16)で記述される。なお、^はべき乗、Lは水晶体の光学密度である。
F(λ、A、A)=10^{-L(λ、A)}/10^{-L(λ、A)}=10^{L(λ、A)-L(λ、A)} (E16)
【0028】
水晶体の光学密度Lは、Aを年齢とすると、Aが20より大きく60以下の場合、次の式(E17)で、Aが60より大きい場合は式(E18)であらわされる。なお、TL1、TL2は適当な定数である。20歳を基準(つまりA=20)としたときの年齢Aごとの水晶体透過比Fのプロットの例が図3に示されている。
L(λ、A)=TL1(1+0.02(A-32))+TL2 (E17)
L(λ、A)=TL1(1.56+0.0667(A-60))+TL2 (E18)
【0029】
上記Fを用いると、加齢により式(E13)から(E15)は次の式(E19)から(E21)に変化する。
=kΣS(λ)x(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E19)
=kΣS(λ)y(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E20)
=kΣS(λ)z(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E21)
【0030】
式(E19)から(E21)で示されるX 、Y 、Z は、A歳の人が知覚する色(三刺激値X、Y、Z)と同一の色を、A歳の人が見た場合に知覚する色の三刺激値(つまり、A歳が知覚する色の再現)を示している。ここで、AをステップS2で設定した基準年齢とし、AをステップS1で取得した対象年齢とする。この場合、X 、Y 、Z は、基準年齢Aの人の色覚を基準としたときの対象年齢Aの人の色覚を再現した色を示す。また、上記式(E13)から(E15)で示される色(X、Y、Z)を、ステップS2で設定した基準年齢の人が知覚する色であるとする。
【0031】
そして、基準年齢Aの人が知覚するX、Y、Z(n=R、G、B)に対する、対象者が知覚するX 、Y 、Z (n=R、G、B)の比として、実効成分比を定義する。すなわち、実効成分比は以下の式(E22)から(E24)で定義される。
(X)=X /X (E22)
(Y)=Y /Y (E23)
(Z)=Z /Z (E24)
【0032】
実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)は、加齢(基準年齢と対象年齢の年齢差)に伴う水晶体の黄変による色覚変化(色覚低下)を示す黄変フィルタである。この実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)(n=R、G、B)が、上記式(E10)から(E12)中に用いられる。式(E10)から(E12)の黄変補正では、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)(黄変フィルタ)の影響を打ち消すために、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるR、G、B成分X、Y、Z(n=R、G、B)に、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数を補正係数として乗算している。このように、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数である補正係数は、各刺激値X、Y、ZのR、G、B成分X、Y、Zごとに設定される。
【0033】
黄変補正係数(実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数)は、基準年齢Aと対象年齢Aの組み合わせごとに予め演算されて、図1に示す記憶部5に、各種データ7の一つとして予め記憶されてよい。または、ステップS5の処理時に式(E22)から(E24)に基づいて実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)及びその逆数である黄変補正係数を演算してもよい。
【0034】
なお、式(E4)から(E9)を参照すると、黄変補正を行う前の三刺激値X、Y、ZにおけるR、G、Bの寄与度を示す9個の数値はa11、a12、a13、a21、a22、a23、a31、a32、a33である。これに対して、式(E10)から(E12)で示される黄変補正後の三刺激値X‘、Y’、Z‘におけるR、G、Bの寄与度を示す9個の数値はa11/K (X)、a12/K (X)、a13/K (X)、a21/K (Y)、a22/K (Y)、a23/K (Y)、a31/K (Z)、a32/K (Z)、a33/K (Z)である。すなわち、黄変補正では、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるRGB表示系のR、G、Bの寄与度を示す9個の数値を個別に調節(補正)することと同義である。
【0035】
以上のようにしてステップS5の黄変補正を行う。次に、以下の式(E25)から(E27)により、黄変補正後の各画素の値を三刺激値X‘、Y’、Z‘からRGB表示系の値(R‘、G‘、B‘)に変換する(S6)。
R‘=b11X‘+b12Y‘+b13Z‘ (E25)
G‘=b21X‘+b22Y‘+b23Z‘ (E26)
B‘=b31X‘+b32Y‘+b33Z‘ (E27)
【0036】
係数b11、b12、b13、b21、b22、b23、b31、b32、b33はそれぞれXのRへの寄与度、YのRへの寄与度、ZのRへの寄与度、XのGへの寄与度、YのGへの寄与度、ZのGへの寄与度、XのBへの寄与度、YのBへの寄与度、ZのBへの寄与度を示す量であるとみなされる。このb11からb33の9個のパラメータは既知の定数であり、例えば、b11=3.2406、b12=-1.5372、b13=-0.4986、b21=-0.9689、b22=1.8758、b23=0.0415、b31=0.0557、b32=-0.2040、b33=1.0570と定められている。
【0037】
ここで、加齢に伴う瞳孔径の縮小(以下、縮瞳という場合がある)について述べる。高齢者は若年者に比べて瞳孔径が縮小し、これに伴い、高齢者が知覚する画像の輝度(明るさ)は若年者が知覚する輝度よりも低い。なお、ステップS5の黄変補正では縮瞳の影響は考慮していない。そこで、次に、縮瞳補正として、縮瞳による輝度低下を打ち消すように(つまり輝度を上げるように)黄変補正後の各画素の値(ステップS6で得られた画素値(R‘、G‘、B‘)を補正する(S7)。具体的には、各画素のR‘、G‘、B’の成分ごとに、下記式(E28)から(E30)で示されるγ補正を行う。
R“=255×(R‘/255)^(1/γ) (E28)
G“=255×(G‘/255)^(1/γ) (E29)
B“=255×(B‘/255)^(1/γ) (E30)
【0038】
上記式(E28)から(E30)において、R“、G“、B“は縮瞳補正後のRGB表示系における画素値(階調値)である。R‘、G‘、B‘は、縮瞳補正前のRGB表示系における画素値(階調値)であって、ステップS6で得られる値である。^はべき乗である。γは下記式(E33)で定義される値である。γ値の導出方法は後述する。なお、式(E28)から(E30)では、画素値の階調数が256階調の場合の式である。256以外の階調数の場合には、階調数をNとして、上記式(E28)から(E30)における「255」を「N-1」とすればよい。
γ=(S-S+1)/(S-S+1) (E33)
【0039】
上記式(E33)中のSは、ステップS2で設定した基準年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値であって、以下の式(E34)で定義される値である。上記式(E33)中のSは、ステップS1で設定した対象年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値であって、以下の式(E35)で定義される値である。なお、以下では、S、Sを縮瞳率という。縮瞳率Sは、基準となる年齢Aの瞳孔径l(A)に対するA歳(ただし、AはA以上)の瞳孔径l(A)の比である。縮瞳率Sは0より大きく、1以下の値であって、小さい値ほど縮瞳の程度が大きいことを示す。
=l(A)/l(A) (E34)
=l(A)/l(A) (E35)
【0040】
式(E34)、(E35)において、AはステップS2で設定する基準年齢である。AはステップS1で設定する対象年齢である。Aは予め定められた若年者年齢である。なお、Aは対象年齢Aよりも若い年齢に設定され、基準年齢A以下の年齢に設定され、例えば20歳に設定される。また、式(E34)、(E35)中のl(A)はA歳における、単位光量当たりの輝度に対する瞳孔の直径であり、例えば以下の式(E36)で定義される。なお、式(E36)はWinnらの研究によって導出された周知の式である。図4は、20歳を基準(つまりA=20)としたときの年齢Aに対する縮瞳率S(=l(A)/l(20))の変化を示している。
l(A)=-0.0011A+1.557 (E36)
【0041】
以下、式(E33)の導出方法を説明する。図5は、画素値の入力値xを横軸、出力値yを縦軸としたグラフを示している。なお、図5の横軸及び縦軸は線形軸(目盛が等間隔に配置される軸)である。入力値x及び出力値yがとり得る範囲は互いに同じであり、具体的には0~1の範囲である。なお、入力値x及び出力値yは、0~1に正規化した画素値を示している。画素値x、yが大きいほど高輝度であることを示す。例えば、x、y=1は、256階調における階調値「255」を示す。
【0042】
図5中のライン100は、y=xのラインを示しており、つまり、入力値xの補正を行わない例を示している。ライン101は、y=x^(1/γ)のラインを示しており、つまり、ステップS7で行うγ補正(縮瞳補正)のラインを示している。ライン102は、y=Sxのラインを示している。SはステップS2で設定した基準年齢での縮瞳率であり、上記式(E34)で定義される。換言すれば、ライン102は、基準年齢の人が、ライン100で示される出力値y(縮瞳補正を行わない画像)を見たときに知覚する画素値y(輝度)である基準年齢再現輝度を示している。
【0043】
ライン103は、y=Sxのラインを示している。SはステップS1で設定した対象年齢での縮瞳率であり、上記式(E35)で定義される。換言すれば、ライン103は、対象年齢の人が、ライン100で示される出力値y(縮瞳補正を行わない画像)を見たときに知覚する画素値y(輝度)である対象年齢再現輝度を示している。なお、ライン102、103においては、0~1の各画素値(輝度)の知覚が年齢に応じた縮瞳率S(瞳孔径の縮小の程度)に比例して低下すると仮定している。
【0044】
ここで、ライン102とライン103とで囲まれる面積Lは下記式(E37)であらわされる。また、ライン100とライン101とで囲まれる面積Lは下記式(E38)であらわされる。式(E37)、(E38)の∫における積分範囲は0から1である。
=∫(Sx-Sx)dx (E37)
=∫(x^(1/γ)-x)dx (E38)
【0045】
式(E37)で示される面積Lは、基準年齢の人と対象年齢の人とが同一の画像を見たときに、基準年齢の人が知覚する輝度と対象年齢の人が知覚する輝度との相違の程度を示しており、言い換えれば、基準年齢の人が知覚する輝度に対する対象年齢の人が知覚する輝度の減少量を示している。また、式(E38)で示される面積Lは、縮瞳補正前の画像と縮瞳補正後の画像との輝度との相違の程度を示しており、言い換えれば、縮瞳補正前の画像の輝度に対する縮瞳補正後の画像の輝度の変化量(増加量)を示している。
【0046】
そして、面積Lが面積Lに等しくなるようにγを決定する。つまり、下記式(E39)を満たすγを求めると、上記式(E33)が導出される。
=L (E39)
【0047】
式(E33)で示されるγ値は、基準年齢の人と対象年齢の人とが同一の画像を見たときに、基準年齢の人が知覚する輝度に対する対象年齢の人が知覚する輝度の減少量に相関する値である。具体的には、γ値は、1より大きい値であって、大きい値ほど、基準年齢の人が知覚する輝度に対する対象年齢の人が知覚する輝度の減少量が大きいことを示す。
【0048】
より具体的には、γ値は、基準年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値である縮瞳率Sと、対象年齢での瞳孔径の縮小の程度を示す値である縮瞳率Sとに応じて変化する。なお、縮瞳率S、Sは0より大きく1以下の値であり、小さい値ほど縮瞳の程度が大きいことを示し、反対に大きい値ほど縮瞳の程度が小さいことを示す。また、縮瞳率S、Sは年齢が高いほど小さい値となり、反対に年齢が低いほど大きい値となる。したがって、γ値は、基準年齢が低いほど、又は縮瞳率Sが大きいほど(基準年齢での瞳孔径の縮小の程度が小さいほど)、大きい値となる。また、γ値は、対象年齢が高いほど、又は縮瞳率Sが小さいほど(対象年齢での瞳孔径の縮小の程度が大きいほど)、大きい値となる。
【0049】
そして、ステップS7では、先ず、上記式(E33)から(E36)に基づいて、ステップS1で設定した対象年齢とステップS2で設定した基準年齢とに応じたγ値を決定する(γ値決定ステップ、又はγ補正で使用する指数を決定するステップ)。なお、記憶部5(図1参照)には、各種データ7の一つとして、γ値又はその逆数(指数)と、基準年齢及び対象年齢との対応関係を示すデータが記憶されている。そのデータは、例えば上記式(E33)から(E36)を示すデータであってよい。なお、γ値又はその逆数である指数は、基準年齢と対象年齢の組み合わせごとに予め演算されて、基準年齢及び対象年齢に対応付けて記憶部5に記憶されてもよい。
【0050】
ステップS7では、γ値又はその逆数である指数を決定した後、γ値で示される、同一の画像を見たときに基準年齢の人が知覚する輝度に対する対象年齢の人が知覚する輝度の減少量を打ち消すように、黄変補正後の各画素値(R‘、G‘、B‘)を補正する。具体的には、黄変補正後の各画素のRGB成分(R‘、G‘、B‘)ごとに、各RGB成分を正規化した入力値x(=R‘/255、G‘/255、B‘/255)を底とし、γ値の逆数(1/γ)を指数としたべき乗を縮瞳補正として演算する(図5のライン101及び上記式(E28)から(E30)参照)。指数(1/γ)は、0より大きく1より小さい値であって、対象年齢が高いほど、又は縮瞳率Sが小さいほど(対象年齢での瞳孔径の縮小の程度が大きいほど)、小さい値となる。また、指数(1/γ)は、基準年齢が低いほど、又は縮瞳率Sが大きいほど(基準年齢での瞳孔径の縮小の程度が小さいほど)、小さい値となる。なお、上記式(E28)から(E30)では、縮瞳補正後の画素値が0~255で出力されるように、上記べき乗に「255」を乗算している。
【0051】
ここで、図5のライン101を参照して、縮瞳補正の特徴を説明する。ライン101では、入力値xがとり得る範囲(0~1)と、出力値yがとり得る範囲(0~1)とが互いに同じである。また、入力値xが最小の階調値「0」の場合は、出力値yも最小の階調値「0」となり、入力値xと出力値yとが一致する。また、入力値xが最大の階調値「1」の場合には、出力値yも最大の階調値「1」となり、入力値xと出力値yとが一致する。また、入力値xと出力値yの関係を示すライン101は、傾きが変化する線であり、具体的には曲線であり、より具体的には、指数関数の線である。また、ライン101の傾きは対象年齢及び基準年齢に応じて変化する。また、ライン101で示される入力値xと出力値yとの関係は非線形の関係である。さらに、ライン101上の各出力値yは全て入力値x以上の値である。言い換えれば、ライン101は、x=0、1を除いて、補正無のライン100よりも上側(出力値yが大きい側)に位置する。
【0052】
また、縮瞳補正では、上記式(E28)から(E30)で示されるように、各画素の色を定める複数の原色(R、G、B)ごとに同一のγ補正を行う。すなわちγ補正における指数(1/γ)は複数の原色間で互いに同じ値である。また、入力値xと出力値yの関係は、複数の原色間で互いに同じライン101(図5参照)で示される。なお、ステップS7の縮瞳補正は、年齢に応じた水晶体の黄変(水晶体透過比)の影響は考慮していない補正である。
【0053】
以上がステップS7の縮瞳補正の内容である。なお、ステップS7が本開示の補正ステップに相当する。ステップS7を実行する制御部4が補正部に相当する。その後、黄変補正及び縮瞳補正後の画素値(R“、G“、B“)で示される画像を表示部3(図1参照)に出力(表示)させる(S8)。
【0054】
以下、本実施形態の効果を説明する。本実施形態では、対象年齢に応じた黄変補正及び縮瞳の影響を打ち消すように画像の色を補正するので、対象者が補正画像を見たときの色覚を基準年齢の人が補正無画像を見たときの色覚に近づけることができる。例えば、表示装置1が、眼科手術中の患者の眼球の拡大画像を表示する場合には、眼科手術を行う医師にとって見やすい画像を表示することができ、医師は眼科手術を行いやすい。
【0055】
また、縮瞳補正としてγ補正を行うので、補正後の階調値(出力値y)が最大階調値(256階調における「255」、正規化した値では「1」)を超えてしまうのを抑制できる。これにより、補正後の画像に白飛びが発生するのを抑制できる。
【0056】
これに対して、対象者の縮瞳率Sの影響を打ち消すために、その縮瞳率Sの逆数(1/S)を補正係数として入力階調値に乗算する線形補正では、最大階調値を超えてしまう場合がある。例えば、縮瞳率S=0.6とすると、その逆数は1.67となる。また、補正前の画素の入力階調値が256階調のうちの「200」とすると、200×1.67=334となり、出力階調値が最大階調値「255」を超えてしまう。
【0057】
また、ウェーバー・フェヒナーの法則によれば、人間の感覚の大きさは、受ける刺激の強さの対数に比例する。例えば、輝度でいえば、人間は高輝度の領域での輝度変化よりも、低輝度の領域での輝度変化のほうが敏感である。本実施形態では、入力値と出力値との関係が指数関数となるγ補正を行うので、人間の感覚に合った輝度補正を行うことができる。
【0058】
また、縮瞳補正で使用する指数(1/γ)は、0より大きく1より小さい値であって、対象年齢が高いほど小さい値となるので、対象年齢が高いほど、画像階調値の増幅量を大きくできる。これにより、加齢に伴い縮瞳の程度が大きくなったとしても、色覚に及ぼす縮瞳の影響を小さくできる。
【0059】
また、縮瞳補正では、画素の色を定める各原色(R、G、B)ごとに同一のγ補正を行うので、画像の色みが大きく変わってしまうのを抑制しつつ、画像全体の明るさ(輝度)を対象年齢に応じて変えることができる。
【0060】
また、本実施形態では、基準年齢が設定可能なので、対象者が補正画像を見たときの色覚を基準年齢に応じて変えることができる。縮瞳補正で使用する指数(1/γ)は、基準年齢に応じて変化し、具体的には基準年齢が低いほど、小さい値となるので、基準年齢が低いほど、換言すれば、対象年齢と基準年齢との年齢差が大きいほど、画像階調値の増幅量を大きくできる。これによって、対象年齢と基準年齢との年齢差にかかわらず、対象年齢の人(対象者)が補正画像を見たときの色覚を、基準年齢の人が補正無画像を見たときの色覚に近づけることができる。
【0061】
また、γ値は、基準年齢の人と対象年齢の人とが同一の画像を見たときに、基準年齢の人が知覚する輝度に対する対象年齢の人が知覚する輝度の減少量に相関する値に設定され、γ補正ではγ値の逆数を指数としているので、前記輝度の減少量を打ち消すように、画像の階調値(輝度)を補正できる。これにより、対象者が知覚する輝度を、基準年齢の人が知覚する輝度に近づけることができる。
【0062】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。上記実施形態では、縮瞳補正としてγ補正(べき乗補正)を例示した。しかし、これに限定されず、補正前の階調値である入力値が最小の階調値又は最大の階調値の場合には補正後の階調値である出力値は入力値に一致し、前記入力値と前記出力値との関係を示す線が、傾きが変化する線(言い換えれば、非線形の線)であり、かつ、対象年齢に応じた線であるのであれば、γ補正以外の補正を実施してもよい。これによっても、対象年齢に応じて画像の階調値を補正できるとともに、補正後の画像において白飛びの発生を抑制できる。
【0063】
また、上記実施形態では、RGB表示系における階調値を縮瞳補正した例を示したが、補正対象の画像の表色系がxyY、Luvなどの輝度成分と色味成分とに分離可能な表色系であれば、その輝度成分に縮瞳補正(γ補正)を行ってもよい。この場合、色味成分に対しては縮瞳補正(γ補正)は行わない。
【0064】
また、上記実施形態では、基準年齢を可変とした例を示したが、基準年齢は変更不可能な固定年齢(例えば20歳)としてもよい。この場合、式(E33)中の縮瞳率Sは定数となる。
【0065】
また、上記実施形態では、画像出力装置として、画像を表示部に表示する表示装置に本開示を適用した例を示したが、画像を表示面に投影する画像投影装置(プロジェクタ)に適用してもよいし、画像を紙媒体等に印刷する画像印刷装置に適用してもよい。画像印刷装置に適用する場合には、画像の色の表示系が例えばCMY表示系(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y))となるので、例えば、XYZ表示系又はRGB表示系の画素値(階調値)で黄変補正及び縮瞳補正を行った後、補正後の画素値をCMY表示系の値に変換すればよい。または、CMY表示系での画素値に対して直接に黄変補正又は縮瞳補正を行ってもよい。
【0066】
また、上記式(E34)、(E35)で示す縮瞳率Sは、ステップS2で設定する基準年齢とは異なる予め定められた若年者年齢Aの瞳孔径l(A)に対する、対象年齢での瞳孔径l(A)又は基準年齢での瞳孔径l(A)の比を定義した。しかし、これに限定されず、ステップS2で設定する基準年齢での瞳孔径l(A)に対する対象の瞳孔径の比を縮瞳率として定義してもよい。この場合、式(E34)の縮瞳率Sは、S=l(A)/l(A)=1となる。また、式(E35)の縮瞳率Sは、S=l(A)/l(A)となる。縮瞳率S=1を式(E33)に代入すると、γ=(2-S)/Sとなる。このγ値に基づいて縮瞳補正を行ってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 表示装置
2 入力部
3 表示部
4 制御部
5 記憶部
6 プログラム
【要約】
【課題】年齢に応じて画像の階調値を補正したときに白飛びの発生を抑制できる画像補正方法、装置又はプログラムを提供する。
【解決手段】表示装置1の制御部4は、画像を見る対象者の年齢情報を取得する年齢取得ステップと、画像の階調値を補正する補正ステップとを実行する。補正ステップでは、前記年齢情報に応じた値を指数とし、画像の階調値を底としたべき乗を演算する。指数は0より大きく1より小さい値であって、前記年齢情報が高齢ほど小さい値に設定される。前記底は、0以上1以下の値に正規化した階調値である。また、制御部4は、対象者の年齢より若い基準年齢を設定して、その基準年齢が低いほど小さい値を前記指数に設定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5