(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】線量計ホルダ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/06 20060101AFI20220809BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01T1/06
G01T7/00 A
(21)【出願番号】P 2018149742
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】518284008
【氏名又は名称】盛武 敬
(73)【特許権者】
【識別番号】518284086
【氏名又は名称】孫 略
(73)【特許権者】
【識別番号】518284097
【氏名又は名称】永元 啓介
(73)【特許権者】
【識別番号】501352549
【氏名又は名称】有限会社コスモテック
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】521349705
【氏名又は名称】株式会社Global Embrace Medical
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛武 敬
(72)【発明者】
【氏名】孫 略
(72)【発明者】
【氏名】永元 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋彰
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-230510(JP,A)
【文献】特開2003-075539(JP,A)
【文献】特表2018-517897(JP,A)
【文献】特開平09-230050(JP,A)
【文献】特開2018-119838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0159807(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0046774(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 -1/16
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の頭部に装着する器具に取付可能な線量計ホルダであって、
放射線を検出する棒状の第1検出素子を保持する第1保持部と、
放射線を検出する棒状の第2検出素子を、長軸方向が前記第1検出素子の長軸方向とは異なっている姿勢で保持する第2保持部と、を備える、
ことを特徴とする線量計ホルダ。
【請求項2】
前記器具が、利用者の眼を覆うレンズ部と、前記レンズ部を保持するフレームと、を有する防護眼鏡であり、
前記第1保持部及び前記第2保持部を支持し、前記防護眼鏡に対して着脱可能に装着される取付部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の線量計ホルダ。
【請求項3】
前記第1検出素子及び前記第2検出素子のいずれか一方が前記レンズ部に対して外側に配置され、前記第1検出素子及び前記第2検出素子の他方が前記レンズ部に対して内側に配置され、
前記第1検出素子の長軸方向及び前記第2検出素子の長軸方向に垂直な方向から見て、前記第1検出素子及び前記第2検出素子が重ならない、
ことを特徴とする請求項2に記載の線量計ホルダ。
【請求項4】
前記第1検出素子及び前記第2検出素子は、前記レンズ部に対する外側又は内側の内、同じ側に配置される、
ことを特徴とする請求項2に記載の線量計ホルダ。
【請求項5】
前記取付部は、前記第1保持部及び前記第2保持部を支持し前記レンズ部の内側の表面に当接する第1当接部と、前記レンズ部の外側の表面に当接し前記第1当接部と共に前記レンズ部を挟持する第2当接部と、前記レンズ部の周縁部の外側に位置し把持されることで前記第1当接部及び前記第2当接部を開閉可能な抓み部と、を有する、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の線量計ホルダ。
【請求項6】
前記第1保持部及び前記第2保持部は、前記第1検出素子及び前記第2検出素子を前記レンズ部の表面に沿った姿勢で保持し、前記第1検出素子の長軸方向と前記第2検出素子の長軸方向とが略垂直に交差する、
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の線量計ホルダ。
【請求項7】
前記第1検出素子及び前記第2検出素子が、いずれも、照射された放射線の線量に応じた蛍光を発する棒状の蛍光ガラス素子であり、
前記第1保持部は、前記第1検出素子を収容する円筒状のケースを保持し、
前記第2保持部は、前記第1検出素子を収容する円筒状のケースを保持する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の線量計ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出する検出素子を保持する線量計ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、疫学調査の進展に基づいて眼の水晶体に対する等価線量限度の国際的基準が厳格化され、国内外において新たな基準に対応するための体制作りが議論されている。また、医療現場においては、IVR(インターベンショナルラジオロジー)の発展に伴ってIVRに携わる医療スタッフの白内障リスクが認識される等、医療スタッフの水晶体被ばく対策が注目されている。一般に、職業被ばくを適切に管理するためには、作業従事者の作業内容に応じた適切なモニタリング方法で放射線量を測定することが重要であり、水晶体被ばくについては防護眼鏡の内側で線量測定を行うことが好ましいとされている。
【0003】
個人線量モニタリングに使用される線量計としては、フィルムバッジ、熱蛍光線量計(TLD)、光刺激蛍光線量計(OSLD)、及び蛍光ガラス線量計が知られている。この内、TLD線量計については、防護眼鏡又はヘッドセットに装着することで水晶体の近傍で線量を測定する測定手法が開発されている。例えば、LANDAUER社のVision(登録商標)やフランス放射線防護・原子力安全研究所が開発したDOSIRIS(登録商標)が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】千田浩一、「FBNews No.485」、株式会社千代田テクノル発行、p.12-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光ガラス線量計は、特定の金属イオンを含むガラスに放射線が照射されると紫外線を励起光として蛍光を発するようになる現象(ラジオフォトルミネッセンス)を利用した線量計である。蛍光ガラス線量計は、蛍光量の読み取りを繰り返し行うことができ、フェーディング(時間経過による蛍光量の低下)が非常に小さく、ガラス素子間の感度のばらつきが小さい等の利点を有する。
【0006】
特に、検出素子として棒状のガラス素子を用いることは、水晶体線量を測定する上で大きな利点を有する。これは、線量計を防護眼鏡等の器具に装着する際に、線量計自体にある程度の大きさがないと着脱操作が不便になって実用化の妨げとなり得るところ、棒状の線量計であれば、着脱が容易にできる程度の大きさを持たせつつ、防護眼鏡の外縁付近など着用者の視野を可能な限り塞がない位置及び姿勢での装着が可能となるためである。また、線量を繰り返し読み取ることが可能という蛍光ガラス線量計の性質から、読み損じを避けるために複数の検出素子を同時に装着する必要がないことも、着用者の視野を確保する上で有利である。
【0007】
しかしながら、棒状のガラス素子を使用する場合、ガラス素子の長軸方向に対する放射線の入射方向によって測定結果が変動する方向依存性があることが分かっている。また、この種の方向依存性は、蛍光ガラス線量計以外の線量計であっても棒状の検出素子を用いた場合には生じ得るものである。ここで、医療現場では、作業従事者は放射線を発生させる診断機器や治療機器の配置に依存する不均一な放射線場で作業する場合が多く、かつ作業内容に応じて作業従事者の姿勢が限定されていることも多い。従って、検出素子の方向依存性が測定結果に影響を及ぼすことにより、水晶体線量を適切に評価できないことが懸念されていた。
【0008】
そこで、本発明は、水晶体線量を高い精度で測定するために使用可能な線量計ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、利用者の頭部に装着する器具(10)に取付可能な線量計ホルダ(1R,1L)であって、
放射線を検出する棒状の第1検出素子(31)を保持する第1保持部(11)と、
放射線を検出する棒状の第2検出素子(31)を、長軸方向が前記第1検出素子(31)の長軸方向とは異なっている姿勢で保持する第2保持部(12)と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る線量計ホルダを用いることで、水晶体線量を高い精度で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る線量計ホルダが装着された防護眼鏡の正面図(a)及び斜視図(b)。
【
図3】実施例1に係る線量計ホルダの形状を説明するための斜視図(a、b)及び側面図(c~e)。
【
図4】実施例2に係る線量計の線量計ホルダが装着された防護眼鏡の正面図(a)及び斜視図(b)。
【
図5】実施例2に係る線量計ホルダの形状を説明するための斜視図(a、b)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る線量計ホルダについて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る線量計及び線量計ホルダが装着された状態の防護眼鏡を表す正面図(a)及び斜視図(b)である。
図2は本実施例の線量計の構造を説明するための分解図であり、
図3は本実施例の線量計ホルダの形状を説明するための図である。
【0014】
図1に示すように、本開示に係る線量計ホルダ1L,1Rは、それぞれ蛍光ガラス線量計S1,S2を保持した状態で、防護眼鏡10の左右のレンズ部2L,2Rに装着される。防護眼鏡10は、鉛を含有するレンズ部2L,2Rと、レンズ部2L,2Rを支持するフレーム3と、鼻当て4と、左右のテンプル5R,5Lと、を備える。各レンズ部2L,2Rは、使用者の正面から視て眼を覆う前面部21と、左右方向における前面部21の外側から後方に向かって湾曲した側面部22とを有し、前方及び側方から水晶体に向かって入射する放射線を効果的に遮蔽する形状である。
【0015】
線量計ホルダ1L,1Rは、抓み部17を抓むことで開閉可能なクリップ状の保持部材であり、レンズ部2L,2Rの側面部22を挟持する。装着状態において、線量計S1,S2はレンズ部2L,2Rの内側、つまりレンズ部2L,2Rに対して水晶体と同じ側に位置する。
【0016】
本実施例における線量計S1,S2は蛍光ガラス線量計であり、
図2に示すように、ガラス素子31が円筒状のケース32に収容され、キャップ33によって蓋をされたものが用いられている。棒状の検出素子であるガラス素子31は、銀イオン(Ag
+)を含有させたリン酸塩ガラス(銀活性リン酸塩ガラス)を円柱状に成形したものである。銀活性リン酸塩ガラスは、放射線の電離作用によって生じた正孔及び電子によりAg
+が準安定なAg
0及びAg
++に変化することで蛍光中心が形成され、紫外線の照射により蛍光を発する状態となる。これを利用し、ガラス素子31の蛍光量から、ガラス素子31に照射された放射線の積算量を求めることができる。
【0017】
なお、個人線量モニタリングに用いられる線量計としては、本実施形態に係る蛍光ガラス線量計の他に、フィルムバッジ、熱蛍光線量計、及び光刺激蛍光線量計が知られている。これらの線量計と比較した場合、蛍光ガラス線量計は検出可能な線量域(つまり低線量側の測定限界と高線量側の測定限界との幅)が広く、低線量率(例えば10-6[Gy/s]以下)の放射線を検出するのに十分な感度があり、線量直線性が高く、かつ累積線量の測定が可能である等、積算線量計として優れた特長を有する。この内、「累積線量の測定」とは、同一のガラス素子から線量を繰り返し読み取りできることを利用し、測定期間内の線量の総量だけでなく、測定期間中の線量の累積的変化を観測することを指す。
【0018】
図3の各図は、
図1における右眼側の線量計ホルダ1Rの形状を説明するための斜視図(a、b)及び側面図(c~e、それぞれ、
図3(a)又は(b)の矢印C,D,Eの方向から視た図)である。ただし、左眼側の線量計ホルダ1Lは、線量計ホルダを識別するための標識部19を除いて、以下で説明する線量計ホルダ1Rと同様の形状及び機能を有するため、説明を省略する。
【0019】
線量計ホルダ1Rは、第1の線量計S1を保持する第1腕部11と、第2の線量計S2を保持する第2腕部12と、第1腕部11及び第2腕部12を支持するベース部13と、を備え、第1腕部11及び第2腕部12がベース部13から互いに垂直な方向に延びるY字状の外観を有している(
図3(d)参照)。第1腕部11は第1検出素子(線量計S1のガラス素子31)を保持する第1保持部に相当し、第2腕部12は第2検出素子(線量計S2のガラス素子31)を保持する第2腕部に相当する。
【0020】
第1腕部11及び第2腕部12は、いずれも、線量計S1,S2のケース32を収容する凹部11a,12aと、ケース32が凹部11a,12aから脱落することを防ぐ係止爪11b,12bとを有する。線量計S1,S2は、係止爪11b,12bを弾性変形させることで凹部11a,12aに取付け及び取外し可能である。なお、係止爪11b,12bの付近にスリット11c,12dを設け、着脱の容易さと線量計S1,S2の保持力とのバランスを考慮して係止爪11b,12bの剛性を調節すると好適である。
【0021】
線量計ホルダ1Rを防護眼鏡10に取付けるための取付部に相当するベース部13は、第1腕部11及び第2腕部12に連続する板状の底板部15と、連結部16を介して底板部14に連結され底板部15に対向する押さえ部14と、底板部15及び押さえ部14の両方に設けられた抓み部17とによって構成される。押さえ部14は、連結部16を支点に揺動することで底板部15に接近及び離間するように相対移動可能であり、底板部15との間の挟持部(
図3(c)、(e)に矢印で示したスペース)に防護眼鏡10のレンズ部2Rを挟持する。底板部15はレンズ部の内側の表面に当接する第1当接部に相当し、押さえ部14はレンズ部の外側の表面に当接して第1当接部と共にレンズ部を挟持する第2当接部に相当する。
【0022】
抓み部17は、連結部16に対して底板部15及び押さえ部14による挟持位置の反対側に設けられ、装着状態においてレンズ部2Rの周縁部の外側に突出するように配置されている(
図1(b)参照)。線量計ホルダ1Rを防護眼鏡10に装着するときは、抓み部17を把持して挟持部N1を開いた状態でレンズ部2Rの所定位置まで差し込み、抓み部17から手を離せばよい。また、線量計ホルダ1Rを防護眼鏡10から取り外すときは、抓み部17を把持して挟持部N1を開いた状態で線量計ホルダ1Rをレンズ部2Rの周縁部の外側まで引き抜く。抓み部17には、ひもを通すことが可能な孔17aが設けられている(
図3(b)、(e)参照)。孔17aは、底板部15の
図3(e)における右側の面に向かって貫通している。この孔17aを用いて、例えば防護眼鏡10からの脱落を防止するためのバンドを装着することが可能である。
【0023】
線量計ホルダ1Rは、透明又は半透明の合成樹脂によって構成され、肉抜き等の手法で可能な限り軽量であることが好ましい。図示した形状の線量計ホルダ1Rは、約8gであった。
【0024】
(線量の測定)
線量計S1,S2及び線量計ホルダ1R,1Lを用いた水晶体線量の測定方法について説明する。蛍光ガラス線量計を使用する場合、使用期間の前にガラス素子31を予め加熱し、前回の使用期間中における放射線照射によって形成された蛍光中心を除去する処理(アニール)が行われる。また、使用を開始する前に、アニール処理によって初期化されたガラス素子31の蛍光量(初期値)が測定される。具体的には、多数のガラス素子をセット可能なマガジンにガラス素子31をセットし、マガジンを線量読取装置にセットする。線量読取装置は、マガジン上のガラス素子に順次、紫外レーザ光を照射し、ガラス素子が発する蛍光を測定する。
【0025】
その後、ガラス素子31はケース32に収められ、線量計S1,S2として線量計ホルダ1L,1Rに取付けられ、さらに線量計ホルダ1L,1Rは防護眼鏡10に装着される。測定対象者は、線量計ホルダ1L,1Rにより線量計S1,S2が装着された状態の防護眼鏡10を使用して、個々の作業に従事する。線量計S1,S2は定期的に回収され、ガラス素子31が取り出され、再度、蛍光量の測定が行われる。そして、使用により増加した蛍光量の大きさに基づいて、使用期間を通じた線量の積算値が算出される。
【0026】
ここで、本実施例では、1つの線量計ホルダにつき、長軸方向が異なる姿勢で装着された2つの線量計S1,S2からそれぞれ線量の積算値が取得される。同一の線量計ホルダに装着されていた線量計S1,S2の測定値は必ずしも一致せず、著しく不均一な放射線場の下での作業であったり、作業者の姿勢が長時間に亘って制限されていたりする場合には、線量計S1,S2の方向依存性が顕在化して測定値の差が大きくなる。
【0027】
表1は、34症例を対象にした臨床試験の結果を表している。各々2つの線量計S1,S2が取り付けられた線量計ホルダ1L,1Rが装着された防護眼鏡10を医療スタッフに使用してもらい、同一の線量計ホルダに装着されていた線量計S1,S2の測定値の比率(線量比率)を求め、線量比率についての統計値を算出した。「右」の列は右眼側のレンズ部2Rに装着された線量計S1,S2についての結果を表し、「左」の列は左眼側のレンズ部2Lに装着された線量計S1,S2についての結果を表す。
【0028】
【0029】
線量計S1,S2の測定値が等しければ、この線量計S1,S2のペアに関する線量比率は「1」となる。従って、線量計S1,S2の各ペアにおける測定値の差が小さい程、線量比率の平均値及び中央値は1に近い値となり、線量比率のばらつき(変動係数)は小さくなる。表1に示す結果によれば、平均値及び中央値は1に近い値である一方で、右側の線量計S1,S2についての変動係数は0.42と比較的大きな値を示しており、線量計S1,S2の方向によって線量の測定値が大きく変動する場合があることが分かる。
【0030】
本実施例の線量計ホルダ1L,1Rを用いる場合、線量計S1,S2の両方の測定値に基づいて水晶体の被ばく量を評価する。例えば、左右の水晶体それぞれについて、線量計S1,S2の測定値の内で大きな値を示した方を水晶体線量当量として採用することが考えられる。この方法によれば、検出素子の方向依存性による被ばく量の過小評価を防ぐことが可能となる。
【0031】
以上説明した通り、本実施形態の線量計ホルダ1L,1Rは、棒状の2つの検出素子を、長軸方向が互いに異なった姿勢となるように保持する第1腕部11及び第2腕部12(第1保持部及び第2保持部)を有する。これにより、方向依存性を有する検出素子を用いる場合であっても、より確からしい水晶体線量を取得することが可能となり、水晶体被ばく量のより精確な評価に貢献する。
【0032】
ここで、医療現場においては、不均一な放射線場の下での作業であったり、作業者の姿勢が長時間に亘って制限されたりする場合がある。例えば、IVRの術者は、患者に接近する必要があるために防護眼鏡に頼った水晶体被ばく対策になりがちであるが、モニタ上の透視画像を確認しながら長時間に亘って施術を行う間に、患者からの散乱線が一定程度、水晶体に入射することは避けられない。また、X線診断における介助者は、1回の作業が短時間であったとしても、X線診断装置に対して決まった位置・姿勢での作業を繰り返すことになるため、入射方向によって線量が大きく異なる場合があり得る。本実施例の線量計ホルダ1L,1Rを用いることで、このようなケースでも水晶体線量を正しく評価することが可能となる。
【0033】
特に、防護眼鏡に装着した際の視界の妨げになりにくいという棒状の検出素子の利点を生かしつつ、方向依存性の影響を回避することで、水晶体線量の実用的な測定方法を提供することができる。ここで、個々の検出素子のサイズが小さい線量計としては球状の検出素子(OSLD素子)を用いるものが知られているが、操作性を確保するために1cm四方のプラスチックの板に挟んだ状態でバッジ等の器具に装着される構成となっており、単純に防護眼鏡に装着しようとするとプラスチック板によって着用者の視界が大きく損なわれてしまう。本実施形態のように棒状の線量計を用いることで、このような不都合を回避することが可能となる。なお、以上の説明では棒状の蛍光ガラス素子を用いる実施形態について説明したが、本実施例の線量計ホルダ1R,1Lは、蛍光ガラス素子以外の棒状の検出素子(例えば棒状のTDL素子)に対しても使用可能である。
【0034】
また、線量計ホルダ1L,1Rは、取付部としてのベース部13により、防護眼鏡10に着脱可能に装着される。このため、水晶体被ばくの防護手段として広く用いられている防護眼鏡10に線量計ホルダ1L,1Rを装着するという簡便な方法により、水晶体の付近における線量の測定が可能となる。特に、本実施例では底板部15(第1当接部)及び押さえ部14(第2当接部)によって防護眼鏡10のレンズ部2L,2Rを挟持するクリップ状の構成とすると共に、レンズ部2L,2Rの周縁部の外側に位置する抓み部17によって挟持部を開閉する構成とした。これにより、線量計ホルダ1L,1Rを着脱するための構成がレンズ部2L,2Rの外側に位置するため、線量計ホルダ1L,1Rを装着したことによる利用者の視界の制限を可能な限り少なくすることができる。
【0035】
なお、ここでは線量計S1,S2がレンズ部2L,2Rに対して内側に位置する構成を説明したが、線量計S1,S2がレンズ部2L,2Rに対して外側に位置するように変更してもよい。この場合、線量計S1,S2の測定値に防護眼鏡10の透過率に相当する係数を乗算した値を用いて水晶体線量を評価することで、上記の実施例と同様に、検出素子の方向依存性による被ばく量の過小評価を防ぐができる。つまり、線量計S1,S2を、レンズ部に対する外側又は内側の内、同じ側に配置した構成の線量計ホルダは、検出素子の方向依存性によらずに水晶体線量をより適切に評価することを可能とする。線量計S1,S2を外側配置とするか内側配置とするかは、線量測定の目的に応じて定められる。
【実施例2】
【0036】
次に、実施例2に係る線量計ホルダについて、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は本実施例に係る線量計ホルダが装着された状態の防護眼鏡10を表す正面図(a)及び斜視図(b)である。本実施例に係る線量計ホルダ6L,6Rは、実施例1と同様に2個の線量計S1,S2を異なる姿勢で保持するものであるが、一方の線量計S1が防護眼鏡10のレンズ部2L,2Rの外側に位置し、他方の線量計S2がレンズ部2L,2Rの内側に位置するように設計される点で実施例1と異なっている。以下、実施例1と同様の構造及び作用を有する要素については、実施例1と共通の参照符号を付して説明を省略する。
【0037】
図5(a)は右眼側の線量計ホルダ6Rを示す斜視図であり、
図5(b)は左眼側の線量計ホルダ6Lを示す斜視図である。実施例1と同様に、線量計ホルダ6L,6Rは、第1の線量計S1を保持する第1腕部11Aと、第2の線量計S2を保持する第2腕部12Aとを有し、これらがベース部13から分岐して延びたY字状の外観を有している。線量計ホルダ6L,6Rは、抓み部17を抓む操作により底板部15及び押さえ部14を開かせることで、防護眼鏡10のレンズ部2L,2Rに対して着脱可能である。
【0038】
ここで、本実施例の第1腕部11Aは押さえ部14に連続して形成され、第2腕部12Aは底板部15に連続して形成されている。そのため、線量計ホルダ6L,6Rを防護眼鏡10に取り付けた状態において、各ホルダの第1線量計S1はレンズ部2L,2Rの外側に位置し、第2線量計S2はレンズ部2L,2Rの内側に位置する。第1腕部11A及び第2腕部12Aは、各線量計S1,S2の検出素子の長軸方向が交差する姿勢となるように、特に、各長軸方向に垂直な方向(レンズ部2L,2Rの表面に垂直な方向)から見て長軸方向が互いに垂直に交差するように延びている。
【0039】
その他、レンズ部2L,2Rに対する線量計ホルダ6L,6Rの取付位置、及び第1腕部11A及び第2腕部12Aによる線量計S1,S2の保持構成の詳細等は実施例1と同様である。ただし、本実施例において、第1線量計S1は常にレンズ部2L,2Rの外側にある状態で使用され、第2線量計S2は常にレンズ部2L,2Rの内側にある状態で使用されるべきものである。そのため、各線量計ホルダを識別するための標識部19に加えて、
図5(a)、(b)に示すようにレンズ部2L,2Rに対する外側又は内側の指定を表示する表示部18a,18bを設けている。表示部18a,18bは、線量計ホルダ6L,6Rの少なくとも1箇所にあればよく、また、文字による表示に限らず、例えば図形やカラーコードを用いてもよい。さらに、抓み部17の片側の面(つまり、内側の面又は外側の面)に凹凸加工を施し、手に取った際に触覚的にどちらが外側であるかを識別できるようにしてもよい。凹凸形状は任意であるが、波板状のパターン、ドット状の格子パターン等が考えられる。また、凹凸加工を施すことで滑り止め作用(脱落防止作用)を期待することができる。
【0040】
本実施例に係る線量計ホルダ6L,6Rの利点について説明する。線量計ホルダ6L,6Rは、実施例1の線量計ホルダ1L,1Rと同じく、線量計S1,S2がセットされた状態で防護眼鏡10に装着される。線量計S1,S2は定期的に回収され、ガラス素子の蛍光量の測定により線量の積算値が算出される。このとき、使用状態における各線量計S1,S2のガラス素子の長軸方向が異なっていることから、線量計S1,S2の両方の測定値に基づいて水晶体の被ばく量を評価することで、実施例1と同様に検出素子の方向依存性による被ばく量の過小評価を防ぐことが可能となる。例えば、外側の線量計S1の測定値に防護眼鏡10の透過率に相当する係数を乗算した値と、内側の線量計S2の測定値とを比較し、大きい方の値に基づいて水晶体線量を評価することが考えられる。
【0041】
ところで、蛍光ガラス線量計のガラス素子の改良、あるいはケースを含めた線量計の改良も進められており、棒状の検出素子を用いながらも方向依存性が低減された線量計が将来的に利用可能となることが予想される。本実施例の線量計ホルダ6L,6Rは、そのような線量計を複数組み合わせて、防護眼鏡10の外側における遮蔽前の線量と防護眼鏡10の内側における遮蔽後の線量とを同時にモニタリングする用途にも好適に使用することができる。
【0042】
つまり、線量計を個別に評価した場合の方向依存性が低減されたとしても、単純に防護眼鏡10の外側及び内側に2つの線量計を配置すると、次のような課題が生じ得る。
(1)外側の線量計が内側の線量計に対する遮蔽物となることにより、内側の線量計に見かけ上の方向依存性が生じ得ること。
(2)2つの線量計により測定対象者の視界が制限される可能性があること。
【0043】
本実施例によれば、第1線量計S1及び第2線量計S2が、長軸方向が互いに異なる姿勢で配置されると共に、レンズ部2L,2Rの表面に垂直な方向から見て重ならないように配置される(
図4(b)参照)。従って、上記(1)に対して、外側の第1線量計S1による内側の第2線量計S2の遮蔽を最小限に抑えて、第2線量計S2の測定結果に方向依存性が現れる可能性を低減することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、線量計ホルダ6L,6Rを防護眼鏡10に装着した状態において、実施例1と同様に2つの線量計S1,S2がレンズ部2L,2Rの周縁部に位置した状態となる。例えば
図4(a)、(b)に示す防護眼鏡10の場合、第1線量計S1はレンズ部2L,2Rの側面部22の後端付近において、後端に沿って略上下方向に延びた姿勢で装着され、第2線量計S2はレンズ部2L,2Rの側面部22の上端付近において、上端に沿って略前後方向に延びた姿勢で装着される。従って、上記(2)に対して、2つの線量計S1,S2は、いずれもレンズ部2L,2Rの中で測定対象者の中心視野から遠く離れた領域を利用して装着されており、測定対象者の視界が制限されることを可能な限り防ぐことができる。
【0045】
なお、防護眼鏡の外側における遮蔽前の線量と防護眼鏡の内側における遮蔽後の線量とを同時にモニタリングすることで、防護眼鏡による線量の低減効果を確認することが可能となる。これにより、作業内容が異なる複数の作業者(例えば、散乱X線に直接曝されるIVRの施術者と、施術を一時的に補助する医療スタッフ)がいる環境において、防護眼鏡の着用義務を課す範囲を適切に設定するための基礎データを入手できる。また、実際に作業が行われていた期間の防護眼鏡の遮蔽効果を検証することで、防護眼鏡の設計の最適化や、複数種類の防護眼鏡から適切なものを選ぶ際に有用な情報が得られる。
【0046】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、線量計ホルダ1L,1R,6L,6Rが防護眼鏡10に着脱可能に装着されるものとして説明した。しかしながら、防護眼鏡に代えて、視力矯正用の眼鏡、フェイスマスクのアイピース、又はヘッドセット等、利用者が頭部に装着する任意の器具に線量計ホルダを装着してもよい。また、線量計の使用目的は医療施設における線量管理に限らず、個人線量モニタリング一般に使用可能である。
【0047】
また、装着方法はクリップ状の取付部に限らず、例えば接着剤又は面ファスナ等によって線量計ホルダを器具に貼り付けてもよい。さらに、器具とは独立に用意された線量計ホルダを器具に装着する(後付けで配置する)構成に限らず、器具の一部分として第1保持部及び第2保持部を有する線量計ホルダを設けてもよい。
【0048】
また、図示した構成例において、2つの線量計S1,S2は互いの長軸方向が略垂直に交差する姿勢で保持されるが、線量計S1,S2の姿勢は適宜変更可能である。ただし、検出素子の方向依存性の影響を低減する観点からは、互いの長軸方向がなす角が一定以上の大きさであることが好ましく、例えば60度に設定することが考えられる。また、2つの線量計S1,S2の長軸方向が作る平面に対して交差する方向(例えば、線量計S1,S2の長軸方向をX軸方向、Y軸方向としたときのZ軸方向)に向いた姿勢で3つ目の線量計を保持する構成としてもよい。
【0049】
また、線量計ホルダ1L,1Rが防護眼鏡10の左右のレンズ部2L,2Rにそれぞれ装着される構成に代えて、例えば鼻当て4の両側に線量計S1,S2が位置するように線量計ホルダを1つだけ装着する使用方法も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水晶体の個人線量モニタリングに使用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1R,1L…線量計ホルダ
2R,2L…レンズ部
3…フレーム
10…器具、防護眼鏡
11…第1保持部(第1腕部)
12…第2保持部(第2腕部)
13…取付部(ベース部)
14…第2当接部(押さえ部)
15…第1当接部(底板部)
17…抓み部
31…第1検出素子、第2検出素子(ガラス素子)
32…ケース