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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】積層体ならびにその製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20220809BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220809BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1053 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1072 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20220809BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20220809BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220809BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/30 D
H01M8/10 101
H01M8/1053
H01M8/1032
H01M8/1072
H01M8/1069
H01M8/1004
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018163549
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020032697
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】中川 紳好
(72)【発明者】
【氏名】石飛 宏和
(72)【発明者】
【氏名】目黒 涼太
(72)【発明者】
【氏名】大塚 喜弘
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529936(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110846(WO,A1)
【文献】特開2015-140312(JP,A)
【文献】特開2018-106957(JP,A)
【文献】特開2017-022095(JP,A)
【文献】特開2011-098843(JP,A)
【文献】特開2016-210628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01B 1/06
13/00
H01M 8/00-8/0297
8/08-8/2495
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル基を有するスルホン酸類で変性された変性酸化グラフェンを含み、かつ前記変性酸化グラフェン中の元素分析での硫黄含有量が1.5~5Atom%である基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に積層され、かつスルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む被覆層とを含む、積層体。
【請求項2】
基材層の両面に、それぞれ第1の被覆層および第2の被覆層が積層されている請求項1記載の積層体。
【請求項3】
ビニル基を有するスルホン酸類がビニルスルホン酸またはその金属塩である請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
基材層の平均厚みと、被覆層総厚みの平均厚みとの比が、前者/後者=10/1~100/1である請求項1~のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜である請求項1~のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
重合開始剤および溶媒の存在下で酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類とを反応させて得られた変性酸化グラフェンを含む液状基材層前駆体を製膜する基材層形成工程と、得られた基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む液状被覆層前駆体をコーティングする被覆層形成工程とを含む、請求項1~のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
基材層形成工程における酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類との反応温度が100℃以下である請求項記載の製造方法。
【請求項8】
ビニル基を有するスルホン酸類が、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩である請求項または記載の製造方法。
【請求項9】
溶媒が水を含む請求項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項記載のプロトン伝導電解質膜と電極とが一体化した固体燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜などに利用できる積層体ならびにその製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、正極である空気極と、負極である燃料極(触媒極)と、両極の間に介在する電解質とを有する電池セルを備えている。この燃料電池では、燃料極に供給された水素ガスが水素イオンと電子とに分かれ、水素イオン(プロトン)が電解質中を移動し、電子が外部回路を通って空気極に移動して酸素と反応して水が生成され、このときに外部回路に移動する電子がエネルギーとして取り出される。燃料電池の出力および安定性向上のために様々な電解質が検討されている。例えば、高プロトン性を得るために、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを電解質として用いる技術が知られているが、室温でのプロトン伝導性には問題があり、高出力を得ることが難しい。
【0003】
特開2011-98843号公報(特許文献1)には、スルホ基を導入するために、スルホン化試剤として硫酸を用いてスルホン化した酸化グラフェン(GO)が記載されている。しかし、このような材料をプロトン伝導電解質として燃料電池デバイスに使用した場合、電極に含まれる白金触媒層などの金属または金属含有触媒層と電解質との界面密着性が低下して燃料電池出力も低下する。
【0004】
また“A poly(ethylene oxide)/graphene oxide electrolyte membrane for low temperature polymer fuel cells”(非特許文献1)では、高プロトン伝導性および機械的性質向上のために、酸化グラフェンとポリエチレンオキサイドとの混合物を電解質として用いる。しかし、この電解質で燃料電池の駆動を続けると、燃料電池反応から生じた水によりポリエチレンオキサイドが溶解し、電解質の機械的強度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-98843号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0006】
【文献】“A poly(ethylene oxide)/graphene oxide electrolyte membrane for low temperature polymer fuel cells”, Journal of Power Sources, 196 (2011), 8377-8382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜として用いると、室温で固体燃料電池を駆動でき、かつ出力安定性を向上できる積層体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜に利用でき、容易かつ安価に製造できる積層体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ビニル基を有するスルホン酸類で変性された変性酸化グラフェンを含む基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む被覆層が積層された積層体を固体燃料電池のプロトン伝導電解質膜として用いると、室温での電池の駆動が可能となり、プロトン伝導性および出力安定性も向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の積層体は、ビニル基を有するスルホン酸類で変性された変性酸化グラフェンを含む基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に積層され、かつスルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む被覆層とを含む。前記基材層の両面に、それぞれ第1の被覆層および第2の被覆層が積層されていてもよい。前記変性酸化グラフェン中の元素分析での硫黄含有量は0.5~10Atom%であってもよい。前記ビニル基を有するスルホン酸類はビニルスルホン酸またはその金属塩であってもよい。前記基材層の平均厚みと、前記被覆層総厚みの平均厚みとの比は、前者/後者=10/1~100/1程度である。前記積層体は、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜であってもよい。
【0011】
本発明には、重合開始剤および溶媒の存在下で酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類とを反応させて得られた変性酸化グラフェンを含む液状基材層前駆体を製膜する基材層形成工程と、得られた基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む液状被覆層前駆体をコーティングする被覆層形成工程とを含む、前記積層体の製造方法も含まれる。基材層形成工程における酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類との反応温度は100℃以下であってもよい。前記ビニル基を有するスルホン酸類は、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩であってもよい。前記溶媒は水を含んでいてもよい。
【0012】
本発明には、前記プロトン伝導電解質膜と電極とが一体化した固体燃料電池セルも含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ビニル基を有するスルホン酸類で変性された変性酸化グラフェンを含む基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む被覆層が積層されており、酸点が高く、プロトン伝導性に優れるため、この積層体を固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜として用いると、室温で固体燃料電池を駆動でき、取扱性を向上できるとともに、前記基材層と前記被覆層との層間密着性が高く、界面状態が良好であるため、固体燃料電池の最大出力密度を高め、安定な出力密度を確保できる。さらに、慣用の方法を用いて、温和な条件で製造できるため、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜に利用できる積層体を容易かつ安易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、固体燃料電池セルの一例を模式的に示す図である。
図2図2は、固体燃料電池セルを構成する膜電極接合体の構成材料を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[基材層]
本発明の積層体は、変性酸化グラフェンを含む基材層を含む。本明細書および特許請求の範囲において、変性酸化グラフェンを構成する酸化グラフェンは、カルボニル基、ホルミル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基などの酸素含有官能基で修飾されたグラフェンを意味する。酸化グラフェンは、天然または人工グラファイトを酸化し、単層または多層に剥離させることにより、ナノメータサイズの厚みのシート形状に調製された酸化グラフェンである。
【0016】
グラファイトの酸化方法としては、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。慣用の製造方法としては、例えば、ハマーズ(Hummers)法、ブローディー(Brodie)法、スタウデンマイヤー(Staudenmaier)法などが挙げられる。
【0017】
ハマーズ法は、W. S Hummers, Jr. et al., J. Am. Chem. Soc., 1958, 80, 1339.に記載の方法であってもよく、例えば、酸化剤として、硫酸、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウムなど)および硝酸塩(硝酸ナトリウムなど)を使用して酸化する方法であってもよい。
【0018】
ブローディー法は、B. C. Brodie, Philos. Trans. R. Soc., London, 1859, 149, 249.やB. C. Brodie, Ann. Chim. Phys., 1860, 59, 46に記載の方法であってもよく、例えば、酸化剤として、発煙硝酸および塩素酸(塩素酸カリウムなど)を使用して酸化する方法であってもよい。
【0019】
スタウデンマイヤー法は、L. Staudenmaier, Ber. Dtsch. Chem. Ges., 1898, 31, 1481.に記載の方法であってもよく、酸化剤として、硫酸、硝酸および塩素酸(塩素酸カリウムなど)を使用して酸化する方法であってもよい。
【0020】
これらのうち、プロトン伝導電解質としての特性を向上できる点から、ハマーズ法が好ましい。
【0021】
得られた酸化グラファイトは、酸素含有官能基が付加されているため、親水性であり、かつ層間が拡大し易い性質に改質されている。そのため、酸化グラファイトは、水などの水性溶媒中で超音波を照射する方法や、遠心分離と再分散とを繰り返す方法などにより、層間を剥離して、単層または多層酸化グラフェンに分解できる。得られた酸化グラフェンは、酸素含有官能基として、前述の酸素含有官能基を有している。
【0022】
酸化グラフェンの厚みは、原子1層の厚み(例えば、0.4nm程度)または複数層(例えば2~10層、特に2~5層程度)の厚みを有していてもよい。酸化グラフェンは、炭素原子1個の厚みを有する単層構造であってもよく、複数の単層硫黄含有(酸化)グラフェンが所定の間隔で重なり合った多層(例えば2~10層、好ましくは2~5層、さらに好ましくは2~3層)構造であってもよい。
【0023】
酸化グラフェンの面方向の平均径は、0.1~1000μm程度の範囲から選択してもよく、例えば1~500μm(例えば5~300μm)、好ましくは5~100μm(例えば10~100μm)程度であり、さらに好ましくは5~50μm(特に10~30μm)程度であってもよい。
【0024】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、酸化グラフェンの面方向の平均径の測定には、電子顕微鏡、光学顕微鏡などが利用できる。なお、異形の酸化グラフェンにおいて、平均径は、各酸化グラフェンについて長軸径と短軸径との平均値を算出し、100個程度の酸化グラフェンの平均値について加算平均することにより算出できる。
【0025】
このような酸化グラフェンとしては、(株)仁科マテリアル製:品名「Rap GO (TQ-11)」、「GO-TQ2」、「Exfoliated GO」など、Graphenea社製:品名「Graphene Oxide Water Dispersion(0.4重量%濃度)」、「Highly Concentrated Graphene Oxide(2.5重量%濃度)」などの市販品で入手することができる。
【0026】
酸化グラフェンは還元物であってもよい。酸化グラフェンの還元物は、還元処理により部分的に還元されたグラフェン(部分酸化グラフェン)であってもよい。
【0027】
酸化グラフェンの酸素含有官能基量を調整する方法としては、酸化グラフェンを酸素またはヒドラジンなどの雰囲気下において、キセノンランプにより光照射することで光還元する方法やヒドラジン蒸気により還元する方法、熱還元する方法などが挙げられる。
【0028】
変性酸化グラフェンは、重合開始剤および溶媒の存在下で酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類とを反応させて得られた変性酸化グラフェンであればよく、酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類とは、共有結合を介して結合(グラフト結合)していてもよい。
【0029】
ビニル基を有するスルホン酸類としては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸などのアルケンスルホン酸;スチレンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸;またはこれらの金属塩などが挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらのビニル基を有するスルホン酸類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ビニルスルホン酸またはその金属塩が好ましく、ビニルスルホン酸ナトリウムなどのビニルスルホン酸アルカリ金属塩が特に好ましい。
【0030】
変性酸化グラフェンにおいて、ビニル基を有するスルホン酸類と酸化グラフェンとの組成比率は特に限定されないが、変性酸化グラフェン中の元素分析での硫黄含有量は0.5~10Atom%程度の範囲から選択でき、例えば1~8Atom%、好ましくは1.5~5Atom%、さらに好ましくは2~3Atom%程度である。硫黄含有量が多すぎると、水との親和性が高まり、膜としての形状保持が困難となる虞がある。一方、硫黄含有量が少なすぎると、プロトン伝導性が低下し燃料電池デバイスとしての機能が発現しなくなる虞がある。
【0031】
変性酸化グラフェン中の金属含有量は10Atom%以下であってもよく、例えば5Atom%以下、好ましくは3Atom%以下、さらに好ましくは1Atom%以下であり、検出限界以下であってもよい。特に、ビニル基を有するスルホン酸類として、金属塩を使用した場合であっても、金属塩を用いて酸化グラフェンを変性して得られた変性酸化グラフェンの金属含有量は、前記範囲であってもよい。
【0032】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、変性酸化グラフェン中の硫黄含有量や金属含有量は、慣用の元素分析、例えば、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析によって測定できる。
【0033】
本発明では、変性酸化グラフェン中のスルホ基と酸素含有官能基(エポキシ基など)とがプロトン伝導部位機能として働くことで、高プロトン伝導性を発現できる。そのため、基材層は、変性酸化グラフェンを含んでいればよいが、プロトン伝導性を向上できる点から、変性酸化グラフェンを主成分として含むのが好ましい。変性酸化グラフェンの割合は、基材層中50質量%以上であってもよく、例えば70質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上(特に90質量%以上)であり、100質量%(変性酸化グラフェンのみ)であってもよい。
【0034】
基材層は、変性酸化グラフェンに加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分は、燃料電池などの電解質成分として慣用的に利用されるプロトン伝導体であってもよい。具体的に、他の成分としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタンなど)、オキソ酸またはその塩[例えば、リン酸、二リン酸、チオリン酸、硝酸、硫酸、またはこれらのオキソ酸の希土類金属塩など]、芳香族化合物(例えば、ビフェニル、ターフェニル、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランなどの低分子芳香族化合物;ポリイミド、ポリスチレンなどの高分子芳香族化合物など)などが挙げられる。変性酸化グラフェンに他の成分を組み合わせると、積層し易くなり、連続的なプロトン伝導のパスを形成し易くなって好ましい場合がある。これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の割合は、基材層中50質量%以下であってもよく、例えば0.5~30質量%、好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは2~20質量%程度であり、金属酸化物の場合、基材層中0.5~25質量%(特に1~20質量%)程度である。他の成分を適切な割合で含むことにより、燃料電池の発電性能が向上し、成膜性も維持できる。
【0035】
基材層中において、変性酸化グラフェンは、薄膜(フレーク)が積層し、密な構造を形成していてもよい。
【0036】
基材層の平均厚みは10μm以上であってもよく、例えば10~100μm、好ましくは20~80μm、さらに好ましくは30~70μm(特に40~60μm)程度である。基材層の厚みが薄すぎると、プロトン伝導性が低下する虞がある。
【0037】
[被覆層]
本発明では、前記基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む被覆層を積層することにより、電極などとの層間密着性を向上できる。被覆層は、前記基材層の少なくとも一方の面に積層されていればよいが、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜として用いると、燃料電池の正極および負極との層間密着性を向上でき、電池の出力安定性を向上できる点から、前記基材層の両面に積層されているのが好ましい。
【0038】
スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを構成するフッ素系ポリマーは、少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロ炭化水素樹脂であってもよい。フッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂や、(2-テトラフルオロエトキシヘキサフルオロプロポキシ)トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、ポリスチレン-グラフト-ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン-グラフト-ポリテトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。これらのフッ素系ポリマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、電気陰性度の高いフッ素原子の導入による化学的な安定性が高い点から、パーフルオロ脂肪族炭化水素樹脂が好ましい。
【0039】
スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーの市販品としては、例えば、デュポン社製「登録商標:ナフィオン(Nafion)」、旭硝子(株)製「Flemion」、旭化成(株)製「Aciplex」、ゴア(Gore)社製「Gore Select」などが挙げられる。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーは、[2-(2-スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体(ブロック共重合体など)であってもよい。
【0040】
スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーの割合は、被覆層中50質量%以上であってもよく、例えば70質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上(特に90質量%以上)であり、100質量%(スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーのみ)であってもよい。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーの割合が少なすぎると、電極などとの層間密着性が低下する虞がある。
【0041】
被覆層は、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーに加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、基材層の項で例示された他の成分などが挙げられる。他の成分の割合は、基材層中50質量%以下であってもよく、例えば0.5~30質量%、好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは2~20質量%程度であり、金属酸化物の場合、基材層中0.5~25質量%(特に1~20質量%)程度である。他の成分を適切な割合で含むことにより、燃料電池の発電性能が向上し、成膜性も維持できる。
【0042】
被覆層総厚み(基材層の両面に被覆層が積層されている場合、両層の合計厚み)の平均厚みは、例えば0.1~10μm、好ましくは0.3~5μm、さらに好ましくは0.5~3μm(特に0.8~2μm)程度である。被覆層の厚みが薄すぎると、電極などとの層間密着性が低下する虞があり、逆に厚すぎると、プロトン伝導性が低下する虞がある。
【0043】
基材層の平均厚みと、被覆層総厚みの平均厚みとの比は、前者/後者=5/1~200/1程度の範囲から選択でき、例えば10/1~100/1、20/1~80/1、さらに好ましくは30/1~70/1(特に40/1~60/1)程度である。被覆層総厚みの比率が小さすぎると、電極などとの層間密着性が低下する虞があり、逆に厚すぎると、プロトン伝導性が低下する虞がある。
【0044】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、重合開始剤および溶媒の存在下で酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類とを反応させて得られた変性酸化グラフェンを含む液状基材層前駆体を製膜する基材層形成工程、得られた基材層の少なくとも一方の面に、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーを含む液状被覆層前駆体をコーティングする被覆層形成工程とを経て製造される。
【0045】
基材層形成工程において、変性酸化グラフェンを調製するための重合開始剤としては、特に限定されず、ラジカルを発生させる慣用のラジカル重合開始剤を利用でき、例えば、2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩などのアゾ化合物;過酸化ベンゾイル(BPO)、ペルオキソ二硫酸カリウム、リチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸塩、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンなどの過酸化物などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、水溶性でラジカルを発生する開始剤、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩などのアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウムなどの過酸化物が好ましい。重合開始剤の割合は、ビニル基を有するスルホン酸類100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは10~80質量部、さらに好ましくは30~60質量部程度である。
【0046】
変性酸化グラフェンを調製するための溶媒としては、酸化グラフェンおよびビニル基を有するスルホン酸類を溶解または分散させ易い点から、水性溶媒(極性溶媒)を好ましく利用できる。水性溶媒としては、例えば、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノールなどのC1-4アルカノールなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類、カルビトールアセテート類、ニトリル類(アセトニトリルなど)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなど)などが挙げられる。これらの水性溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、水、エタノールなどのC1-4アルカノールが好ましく、水を含むのが特に好ましい。水の割合は、溶媒中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%(水のみ)であってもよい。
【0047】
溶媒の割合は、酸化グラフェン1質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは30~500質量部、さらに好ましくは50~300質量部(特に80~200質量部)程度である。
【0048】
酸化グラフェンとビニル基を有するスルホン酸類との反応温度は、150℃未満が好ましく、ビニル基を有するスルホン酸類による酸化グラフェンの変性効率を向上できる点から、100℃以下(例えば50~100℃、特に60~80℃程度)が特に好ましい。反応温度が高すぎると、前記変性効率が低下する虞があり、例えば100℃を超え、特に150℃以上になると酸化グラフェンの一部還元などにより溶媒への溶解性に変化が起こり、凝集や析出などが発生して、ビニル基を有するスルホン酸類の変性導入に影響を及ぼす虞がある。
【0049】
得られた変性酸化グラフェンは、必要に応じて他の成分や溶媒を加えて、液状基材層前駆体に調製される。酸化グラフェンと他の成分との混合方法としては、特に限定されず、酸化グラフェンと他の成分をコンパウンドする方法、酸化グラフェンと他の成分を同時に溶液に溶解または分散させる方法、酸化グラフェン分散液に他の成分を添加し、必要に応じて再分散処理を行う方法、酸化グラフェン分散液と他の成分分散液を混合する方法など利用できる。
【0050】
溶媒としては、変性酸化グラフェンを調製するための溶媒として例示された溶媒を利用できる。前記溶媒のうち、水を含む溶媒が好ましく、水と低級アルコール(特にメタノールなどのC1-4アルカノール)との組み合わせが特に好ましい。水と低級アルコールとの質量比は、水/低級アルコール=100/0~10/90程度の範囲から選択でき、例えば、99/1~30/70、好ましくは90/10~50/50、さらに好ましくは80/20~70/30程度である。
【0051】
液状基材層前駆体において、溶媒の割合は、変性酸化グラフェン1質量部に対して、例えば10~2000質量部、好ましくは100~1000質量部、さらに好ましくは200~800質量部(特に300~500質量部)程度である。
【0052】
液状基材層前駆体の製膜方法としては、慣用の製膜方法、例えば、ろ過成膜法、スピンコート法、ドロップキャスト法、電解泳動法等、バーコート法などを利用できる。
【0053】
前記製膜方法によって膜状に形成された液状基材層前駆体は、乾燥することによって基材層を形成できる。乾燥は、自然乾燥であってもよく、40℃以上(例えば50~90℃、特に60~80℃程度)の温度で加熱して乾燥してもよい。加熱時間は1分以上(例えば5~20分程度)であってもよい。
【0054】
被覆層形成工程において、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーは、必要に応じて他の成分や溶媒を加えて、液状被覆層前駆体に調製される。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーと他の成分との混合方法は、酸化グラフェンと他の成分との混合方法と同様の方法を利用できる。
【0055】
液状被覆層前駆体の溶媒としては、例えば、低級アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノールなどのC1-4アルカノールなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エタノール、イソプロパノールなどのC1-3アルカノール、ジエチルエーテルなどのジC1-3アルキルエーテルが好ましい。
【0056】
液状被覆層前駆体において、溶媒の割合は、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマー1質量部に対して、例えば1~500質量部、好ましくは3~100質量部、さらに好ましくは5~50質量部(特に10~30質量部)程度である。
【0057】
液状被覆層前駆体の製膜方法としては、慣用の製膜方法、例えば、スピンコート法、ドロップキャスト法、バーコート法などを利用できる。
【0058】
前記製膜方法によって膜状に形成された液状被覆層前駆体は、乾燥することによって被覆層を形成できる。乾燥は、自然乾燥であってもよく、40℃以上(例えば40~80℃、特に50~70℃程度)の温度で加熱して乾燥してもよい。加熱時間は1分以上(例えば5~20分程度)であってもよい。
【0059】
[固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜]
本発明の積層体は、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜として利用できる。本発明の固体燃料電池セルは、プロトン伝導電解質膜として積層体を含んでいればよく、このプロトン伝導電解質膜は電極と一体化することにより、電極との層間密着性を向上させている。本発明の固体燃料電池セルは、必要に応じて、触媒、セパレーター、電流の取り出し線などをさらに備えていてもよい。
【0060】
固体燃料電池セルの一例を模式的に図1に示し、具体的に説明する。図1に示すように、固体燃料電池セルは、セル中心部に位置する電解質膜1と、この電解質膜1の両面に隣接して積層された燃料極(負極)2および空気極(正極)3と、さらに燃料極2および空気極3の各々の外側に積層された負極側セパレーター4および正極側セパレーター5とで形成されている。両セパレーターには、燃料ガスや酸化剤を送り込むための流路が形成されていてもよい。図1では、燃料電池の反応の一例を示しており、燃料極では、水素ガスが供給されて、水素イオンと電子(プロトン)に分解され、空気極では、酸素ガスが供給され、反応生成物として水が生成している。
【0061】
燃料極および空気極は、図2に示すように、それぞれ電解質膜11と接触する側の触媒層12bおよび13bと、その外側に積層された拡散層12aおよび13aとで形成されていてもよい。この例では、電解質膜11と、電解質膜11の一方の面に配置された燃料極側の触媒層12bと、電解質膜11の他方の面に配置された空気極側の触媒層13bとで膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;通称MEA)と呼ばれる接合体を構成している。本発明では、基材層の両面に被覆層が積層された積層体を電解質膜として用いると、燃料極側および空気極側の両方の触媒層との層間密着性を向上でき、燃料電池の出力特性を安定化できる。この例では、触媒層は、電解質膜の両面に形成されているが、電解質膜の少なくとも一方の面に形成されていればよく、片面のみに形成されていてもよい。また、燃料極および空気極は、触媒層単体で形成されていてもよい。拡散層は、多孔質炭素材料などで形成されていてもよい。
【0062】
燃料極を構成する触媒層の材質としては、固体燃料電池の燃料極の触媒層として利用される慣用の触媒を利用できる。触媒は、金属触媒単体、金属触媒とカーボン材料の混合物、金属触媒と酸化物イオン導電体からなるセラミックス粉末材料との混合物であってもよい。
【0063】
前記金属触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの貴金属の他、ニッケル、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属、またはこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物などが挙げられる。これらのうち、還元性雰囲気において安定で水素酸化活性を有する材料、例えば、白金、ルテニウム、パラジウムなどの貴金属;ニッケル、鉄、コバルトなどが好ましい。
【0064】
このような金属触媒はカーボン材料としてカーボンブラック、グラファイト、またはグラファイト化カーボンブラックと混合して使用してもよい。
【0065】
前記酸化物イオン導電体は、蛍石型構造またはペロブスカイト型構造を有する材料が好ましい。前記蛍石型構造を有する材料としては、例えば、サマリウムやガドリニウムなどをドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などが挙げられる。前記ペロブスカイト型構造を有する材料としては、例えば、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物などが挙げられる。これらのうち、酸化物イオン導電体とニッケルとの混合物で、燃料極の触媒層を形成するのが好ましい。
【0066】
なお、触媒層が金属触媒(特にニッケル)とセラミックス粉末材料との混合物である場合、混合形態は、物理的な混合形態であってもよく、金属触媒を粉末セラミックス材料で修飾した形態であってもよい。また、セラミックス材料は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0067】
空気極を構成する触媒層の材質としては、固体燃料電池の空気極の触媒層として利用される慣用の触媒を利用できる。触媒としては、燃料極で例示された金属触媒単体、金属酸化物であってもよい。これらのうち、金属酸化物が好ましい。
【0068】
金属酸化物としては、例えば、ペロブスカイト型構造等を有するコバルト、鉄、ニッケル、クロムまたはマンガンなどからなる金属酸化物を用いることができる。そのような金属酸化物としては、例えば、(Sm,Sr)CoO,(La,Sr)MnO,(La,Sr)CoO,(La,Sr)(Fe,Co)O,(La,Sr)(Fe,Co,Ni)Oなどの酸化物が挙げられ、好ましくは、(La,Sr)MnOである。これらの金属酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
空気極および燃料極は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、スピンコ-ト法、ディップコート法、泳動電着法、ロールコート法、グラビアロールコート法、ディスペンサーコート法、CVD,EVD,スパッタリング法、転写法などの一般的な印刷法を用いて作製できる。
【実施例
【0070】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例で得られた積層体(プロトン伝導性電解質膜)を調製するために使用した各材料の詳細および調製方法は、以下の通りである。
【0071】
[酸化グラフェン]
(酸化グラフェン水溶液A)
(株)仁科マテリアル製「Exfoliated GO」、1質量%水溶液を用いた。
【0072】
(酸化グラフェン水溶液B)
酸化グラフェン水溶液Aを乾燥した粉末酸化グラフェン1gに硫酸26mlを加えて4℃に冷却して、硝酸ナトリウム(NaNO)1.1gを少しずつ加えた。さらに過マンガン酸カリウム(KMnO)3.3gを加えて、10分間撹拌し、液温度35℃で2時間撹拌した。次に、水冷した状態で水51mLを滴下しつつ、30分間撹拌した。さらに、水28mlを添加した後、過酸化水素(H)5.6mlを滴下した。最後に、90℃で30分間撹拌した後、100mLの水を加えて希釈して遠心分離に供した。上澄みが中性になるまで遠心分離を繰り返し行い、上澄みが中性になったところで完了とした。なお、得られた酸化グラフェンを水溶液として濃度調整し1質量%水溶液を調製した。
【0073】
[変性酸化グラフェンの調製]
製造例1
ビニルスルホン酸ナトリウム25質量%水溶液(東京化成工業製)4質量部を酸化グラフェン水溶液A100質量部に添加し攪拌を行ない70℃に加温した状態でペルオキソ二硫酸カリウム(開始剤)0.5質量部を添加し窒素気流中で8時間反応した。その後、室温にした状態で硫酸を添加しpH0.5に調整した後、遠心分離して上澄みを除去した。さらに、イオン交換水で洗浄して変性酸化グラフェンAを得た。得られた変性酸化グラフェンAをエネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析した結果、硫黄成分含有率は1.0Atom%、ナトリウム成分は検出されなかった。イオン交換水で変性酸化グラフェン水溶液A(固形分濃度0.5質量%)を調製した。
【0074】
製造例2
酸化グラフェン水溶液Aを酸化グラフェン水溶液Bに変更する以外は製造例1と同様にして変性酸化グラフェンBを得た。得られた変性酸化グラフェンBをエネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析した結果、硫黄成分含有率は2.3Atom%、ナトリウム成分は検出されなかった。イオン交換水で変性酸化グラフェン水溶液B(固形分濃度0.5質量%)を調製した。
【0075】
[プロトン伝導電解質膜の調製]
比較例1
酸化グラフェン水溶液A15質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法でプロトン伝導電解質膜を得た。
【0076】
参考例1
酸化グラフェン水溶液A15質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で酸化グラフェン膜を作製し、得られた酸化グラフェン膜(5cm×5cm)の片面に5質量%ナフィオン分散液(エレクトロケム社製)300μLをコーティングし、60℃で15分乾燥し、さらにもう片面も同様にコート処理したプロトン伝導電解質膜を得た(計算上、片面の各厚み0.5μmのナフィオン膜形成)。
【0077】
実施例1
変性酸化グラフェン水溶液A30質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で変性酸化グラフェン膜を作製し、得られた変性酸化グラフェン膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0078】
参考例2
酸化グラフェン水溶液A100質量部にビニルスルホン酸ナトリウム1質量部を添加し、攪拌した後、硫酸を添加しpH0.5に調整し、遠心分離して上澄みを除去した。さらに、イオン交換水を添加し、酸化グラフェンとビニルスルホン酸とからなる水溶液を調製した(固形分濃度0.5質量%)。得られた水溶液を乾燥し、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析した結果、硫黄成分含有率は0.3Atom%、ナトリウム成分は検出されなかった。前記水溶液30質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で酸化グラフェン系膜を作製し、得られした酸化グラフェン系膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0079】
参考例3
ビニルスルホン酸ナトリウム25質量%水溶液(東京化成工業製)100質量部にペルオキソ二硫酸カリウム(開始剤)5質量部を添加し窒素気流中で70℃、8時間反応させ、ポリビニルスルホン酸ナトリウム水溶液を作製した。得られたポリビニルスルホン酸ナトリウム水溶液4質量部に酸化グラフェン水溶液A100質量部を添加して攪拌した。その後、硫酸を添加しpH0.5に調整し、遠心分離して上澄みを除去した。さらに、イオン交換水を添加し、酸化グラフェンとポリビニルスルホン酸からなる水溶液を調製した(固形分濃度0.5質量%)。得られた水溶液を乾燥し、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析した結果、硫黄成分含有率は0.2Atom%、ナトリウム成分は検出されなかった。前記水溶液30質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で酸化グラフェン系膜を作製し、得られた酸化グラフェン系膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0080】
実施例2
変性酸化グラフェン水溶液B30質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で変性酸化グラフェン膜を作製し、得られた変性酸化グラフェン膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0081】
参考例4
酸化グラフェン水溶液B15質量部にメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で酸化グラフェン膜を作製し、得られた酸化グラフェン膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0082】
比較例2
酸化グラフェン水溶液A100質量部にp-トルエンスルホン酸0.15質量部を配合した。さらにメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法でプロトン伝導電解質膜を得た。
【0083】
参考例5
酸化グラフェン水溶液A 100質量部にp-トルエンスルホン酸0.15質量部を配合した。さらにメタノール/水(質量比1/1)混合溶媒30質量部を添加し、ろ過成膜法で酸化グラフェン系膜を作製した。得られた酸化グラフェン系膜(5cm×5cm)の両面に参考例1と同様の方法でナフィオン分散液を両面コート処理したプロトン伝導電解質膜を得た。
【0084】
比較例3
プロトン電解質膜としてナフィオンシート(エレクトロケム社製「ナフィオン212」、厚み50μm)を用いた。
【0085】
[燃料電池試験]
得られたプロトン伝導電解質膜を用いて燃料電池の発電特性を評価した。発電特性評価では、(株)東陽テクニカ製シングルセルハードウェア FC-05-02で単セルを構築し、電流電圧(I-V)測定を行った。プロトン伝導性電解質膜の両面を電極膜材料(アノード用、カソード用)[(株)東陽テクニカ製「EC-E20-10-07」、触媒層:触媒粒子(Pt/C)(1.0mg/cm)、拡散層:カーボンペーパー]で触媒層と電解質膜とを接触させて挟み、MEAを作製した。室温下でアノードに加湿(RH100%)水素100mL/min、カソードに加湿(RH100%)酸素100mL/minを供給した。電池電圧およびオーム抵抗を常時測定した。プロトン伝導率は、膜厚/(セルオーム抵抗×電極面積)の式にて算出した。実施例2および参考例3については、5~10回のサイクル試験を実施した。得られた評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1の結果から明らかなように、実施例1および2は参考例4よりも優れる固体燃料電池としての出力密度が確保された。
【0088】
また、比較例1と参考例1との比較、参考例2と参考例3との比較から、プロトン伝導電解質膜としての酸化グラフェン系膜の両面にナフィオンコートすると、固体燃料電池としての出力密度が高まった。
【0089】
ビニルスルホン酸を酸化グラフェンに反応させ変性した実施例1は、比較例2および3のように、反応していない単なる組成物とは異なり、固体燃料電池としての高い出力密度が確保できた。
【0090】
実施例2で得られた固体燃料電池を用いてI-V試験を繰り返し測定したが出力密度が安定していた。一方、参考例3に示すp-トルエンスルホン酸と酸化グラフェンの組成物では初期の出力密度は高くても繰り返し測定により出力密度が著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の積層体は、各種の電気・電子機器(例えば、電池やキャパシタなどの蓄電素子など)に利用されるプロトン伝導電解質膜として利用でき、特に、固体燃料電池セルのプロトン伝導電解質膜(固体電解質)として好適である。
【符号の説明】
【0092】
1,11…電解質膜
2…燃料極
3…空気極
4…負極側セパレーター
5…正極側セパレーター
12a,13a…拡散層
12b,13b…触媒層
図1
図2