IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山東省食品薬品検験研究院の特許一覧 ▶ 山東大学の特許一覧

特許7120586中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用
<>
  • 特許-中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用 図1
  • 特許-中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用 図2
  • 特許-中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用 図3
  • 特許-中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用 図4
  • 特許-中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-08
(45)【発行日】2022-08-17
(54)【発明の名称】中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20220809BHJP
   C07K 14/745 20060101ALI20220809BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20220809BHJP
   C12Q 1/56 20060101ALI20220809BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220809BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220809BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220809BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220809BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20220809BHJP
   C12N 9/74 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07K14/745
C12Q1/37
C12Q1/56
G01N27/62 X
G01N27/62 D
G01N30/88 J
G01N30/72 C
G01N30/06 E
G01N27/62 V
C12N15/12
C12N15/57
C12N9/74
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021122762
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2022027576
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】202010752988.2
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521331364
【氏名又は名称】山東省食品薬品検験研究院
【氏名又は名称原語表記】Shandong Institute for Food and Drug Control
【住所又は居所原語表記】No. 2749, Xinluo Street, Jinan City, Shandong Province, China
(73)【特許権者】
【識別番号】594196624
【氏名又は名称】山東大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石 峰
(72)【発明者】
【氏名】咸 瑞卿
(72)【発明者】
【氏名】鞏 麗萍
(72)【発明者】
【氏名】王 維剣
(72)【発明者】
【氏名】遅 連利
(72)【発明者】
【氏名】王 聡聡
(72)【発明者】
【氏名】杭 宝建
(72)【発明者】
【氏名】張 迅杰
(72)【発明者】
【氏名】王 鳳山
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1884507(CN,A)
【文献】Zhongguo yaoshi,2008年,Vol.22, No.11,pp.1008-1013
【文献】Toxicon,2006年,Vol.48,pp.313-322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
C12Q 1/37
C12N 15/12
C12N 15/57
C12N 9/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列がTLCAGVMEGGIDTCNRであることを特徴とする、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドを用い、測定されるサンプル中の蛇毒トロンビン様酵素の種属由来源及び/又は含有量を測定する方法であって、
前記方法は、以下のステップ(1)から(5)を含み、
ステップ(1)において、測定されるサンプルを取り、トリプシンで酵素分解する前処理を行い、酵素分解液の上清をテストサンプル溶液として収集し、
ステップ(2)において、前記中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド対照サンプル取り、トリプシンで酵素分解する前処理を行い、系列濃度の対照サンプル溶液を調製し、
ステップ(3)において、ステップ(1)の前記テストサンプル溶液及びステップ(2)の前記対照サンプル溶液をそれぞれ液体クロマトグラフィー-質量分析計に注入し、陽イオンエレクトロスプレーモードで多重反応モニタリングを行い、質量電荷比m/z二重荷電877.4→550.2を定性イオン対とし、二重荷電877.4→892.4を定量イオン対とし、前記液体クロマトグラフィーの条件は、Waters ACQUITY UPLC BEH C18;カラム:50mm×2.1mm、1.7μm;カラム温度:40℃;注入量:2μL;流速:0.2mL/min;移動相A:0.1%ギ酸溶液、移動相B:0.1%ギ酸アセトニトリル;グラジエント溶出;溶出プロセス:0→1min,移動相A 80%、1→5min,移動相A 80%→10%、5→7min,移動相A 10%→10%であり、
ステップ(4)において、ステップ(3)の前記定性イオン対及び定量イオン対を用いて作成したテストサンプル溶液のクロマトグラムにおいて、対照の前記特徴的なポリペプチドクロマトグラムの滞留時間と一致するピークが現れた場合、測定されるサンプルに前記アミノ酸配列TLCAGVMEGGIDTCNRが含まれることが示され、測定されるサンプルは中国長白山マムシに由来することが証明される一方、そうではない場合、中国長白山マムシに由来しないことが証明され、
ステップ(5)において、イオン対二重荷電877.4→892.4クロマトグラムを作成し、対照サンプルの系列標準溶液中の前記特徴的なポリペプチドの濃度を横座標とし、対応するピーク面積を縦座標とし、線形回帰方程式(r>0.99)を計算し、回帰方程式からテストサンプル溶液の濃度を算出し、さらに測定されるサンプル中の中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の含有量を算出することを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドの検出限界は2ng/mLであり、定量限界は6ng/mLであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、トリプシンで酵素分解する前処理の具体的な操作は、以下の通りであり、
測定されるサンプル20mgを取り、10mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して定容し、200μL秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で60min反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30min反応させ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液10μLを加え、37℃で90min酵素分解し、90℃で10min不活性化させ、室温まで放冷し、1200rpmで10min遠心分離して上清液を得ることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(2)において、トリプシンで酵素分解する前処理の具体的な操作は、以下の通りであり、
前記特徴的なポリペプチド対照サンプル10mgを精密秤量し、100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、0.1mL、0.25mL、0.5mL、1mL、2mLをそれぞれ精密秤量し、それぞれ100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、それぞれ200μL秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で60min反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30min反応させ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液10μLを加え、37℃で90min酵素分解し、90℃で10min不活性化させ、室温まで放冷し、1200rpmで10min遠心分離して上清液を得ることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記液体クロマトグラフィー-質量分析計の質量分析の条件は、
エレクトロスプレーイオン源、陽イオンスキャンモード、多重反応モニタリング;ボルテックスイオンスプレー温度500℃;イオン化電圧:5.5kV;コリジョンセル出口電圧:10V、コリジョンセル入口電圧EP:10V;衝突エネルギーCE:いずれも45V、デクラスタリング電圧DP:135Vであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記測定されるサンプルは蛇毒であることを特徴とする、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析の検出及び応用の分野に関し、特に、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中国長白山マムシ(Agkistrodon halys)は、中国に特有な蛇種であり、主に中国東北部の長白山の山岳地帯に分布しており、Agkistrodon halys sussuriensis Emelianovとも呼ばれる。中国長白山マムシ毒を原料として抽出した蛇毒トロンビンは、アルギニンエステラーゼ及びアミダーゼ活性を有するセリンプロテアーゼであり、血液凝固過程で重要な役割を果たすことができる。その構造及び機能はヒトトロンビンに類似するため、「トロンビン様酵素」と呼ばれる。臨床的には、主に出血性疾患、特に毛細血管出血の治療に使用され、患者の出血時間を大幅に短縮し、出血量を減らすことができる。高効率、迅速な効果、長期的な効果、利便性、安全性、トロンビン阻害剤に影響されない等の利点を有するため、出血性疾患に対処するときの、臨床医の主な選択肢となっている。現在、中国で市販されている蛇毒トロンビン類製品は、主にアメリカハブ、ヒャッポダ、ラッセルクサリヘビ及び中国長白山マムシに由来する。異なる種類の蛇に由来するトロンビン様酵素は構造及び作用メカニズムが異なるため、対応する薬理作用も異なる。そのため、種属由来源及び含有量を判断する、特異性が高く感度が高い方法の開発は、蛇毒トロンビン類製品の品質の管理に非常に重要である。
【0003】
蛇毒は、蛇の毒腺から分泌される複雑な混合物であり、多種類のタンパク質、ポリペプチド、ヌクレオシド、酵素、金属イオン及びその他の低分子物質を含む。蛇毒は、自然界のすべての毒素の中で最も複雑な物質である可能性がある。蛇毒には50種類以上のタンパク質分解酵素が微量に含まれている。既存の中国長白山マムシ毒に対する品質標準は、その種属由来源が管理されておらず、トロンビン様酵素の含有量を特異的に測定する方法がない。既知の蛇毒中のトロンビン様酵素の含有量を測定する方法は、主にゲル電気泳動法及び力価測定法であり、これらの方法は複雑で精度が低く、蛇毒の品質を正確に反映することができない。そのため、便利で、高速で、定量が正確な中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の定性定量方法の開発は、幅広い社会的及び経済的利益がある。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の欠陥を克服するために、本発明によれば、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチド、及び測定されるサンプル中の蛇毒トロンビン様酵素の種属由来源及び含有量の判定におけるその使用が提供される。本発明の方法は、簡単で、便利で、定量が正確で、中国長白山マムシ毒の品質基準のギャップを埋め、品質管理のレベルを高める。
【0005】
上記発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決策を採用する。
中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドのアミノ酸配列はTLCAGVMEGGIDTCNRである。
【0006】
さらに、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドを用い、測定されるサンプル中の蛇毒トロンビン様酵素の種属由来源及び/又は含有量を測定する方法であって、
前記方法は、以下のステップ(1)から(5)を含む。
ステップ(1)において、測定されるサンプルを取り、トリプシンで酵素分解する前処理を行い、酵素分解液の上清をテストサンプル溶液として収集し、
ステップ(2)において、中国長白山マムシ毒に特徴的なポリペプチド対照サンプルを取り、トリプシンで酵素分解する前処理を行い、系列濃度の対照サンプル溶液を調製し、
ステップ(3)において、ステップ(1)の前記テストサンプル溶液及びステップ(2)の前記対照サンプル溶液をそれぞれ液体クロマトグラフィー-質量分析計に注入し、陽イオンエレクトロスプレーモードで多重反応モニタリングを行い、質量電荷比m/z二重荷電877.4→550.2及び二重荷電877.4→892.4を定性イオン対とし、二重荷電877.4→892.4を定量イオン対とし、
ステップ(4)において、ステップ(3)の前記定性イオン対及び定量イオン対を用いて作成したテストサンプル溶液のクロマトグラムに対照の特徴的なポリペプチドクロマトグラムの滞留時間と一致するピークが現れた場合、測定されるサンプルにアミノ酸配列TLCAGVMEGGIDTCNRが含まれることが示され、測定されるサンプルは中国長白山マムシに由来することが証明される一方、そうではない場合、中国長白山マムシに由来しないことが証明され、
ステップ(5)において、イオン対二重荷電877.4→892.4クロマトグラムを作成し、対照サンプルの系列標準溶液中の特徴的なポリペプチドの濃度を横座標とし、対応するピーク面積を縦座標とし、線形回帰方程式(r>0.99)を計算し、回帰方程式からテストサンプル溶液の濃度を算出し、さらに測定されるサンプル中のトロンビン様酵素の含有量を算出する。
【0007】
さらに、前記中国長白山マムシ毒に特徴的なポリペプチドの検出限界は2ng/mLであり、定量限界は6ng/mLである。
さらに、ステップ(1)において、トリプシンで酵素分解する前処理の具体的な操作は、以下の通りである。測定されるサンプル20mgを取り、10mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して定容し、200μL秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で60min反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30min反応させ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液10μLを加え、37℃で90min酵素分解し、90℃で10min不活性化させ、室温まで放冷し、1200rpmで10min遠心分離して上清液を得る。
【0008】
さらに、ステップ(2)において、トリプシンで酵素分解する前処理の具体的な操作は、以下の通りである。特徴的なポリペプチド対照サンプル10mgを精密秤量し、100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、0.1mL、0.25mL、0.5mL、1mL、2mLをそれぞれ精密秤量し、それぞれ100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、それぞれ200μL秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で60min反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30min反応させ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液10μLを加え、37℃で90min酵素分解し、90℃で10min不活性化させ、室温まで放冷し、1200rpmで10min遠心分離して上清液を得る。
さらに、前記液体クロマトグラフィー-質量分析計の液体クロマトグラフィー及び質量分析の条件は以下の通りである。
【0009】
液体クロマトグラフィーの条件は、Waters ACQUITY UPLC BEH C18;カラム:50mm×2.1mm、1.7μm;カラム温度:40℃;注入量:2μL;流速:0.2mL/min;移動相A:0.1%ギ酸溶液、移動相B:0.1%ギ酸アセトニトリル;グラジエント溶出;溶出プロセス:0→1min,移動相A 80%、1→5min,移動相A 80%→10%、5→7min,移動相A 10%→10%である。
【0010】
質量分析の条件は、エレクトロスプレーイオン源、陽イオンスキャンモード、多重反応モニタリング;ボルテックスイオンスプレー温度500℃;イオン化電圧:5.5kV;コリジョンセル出口電圧:10V、コリジョンセル入口電圧EP:10V;衝突エネルギーCE:いずれも45V、デクラスタリング電圧DP:135Vである。
前記方法において、前記測定されるサンプルは蛇毒である。
【発明の効果】
【0011】
(1)大量の実験的研究及びタンパク質データベースの比較により、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドセグメント(TLCAGVMEGGIDTCNR)が見出された。アメリカハブ、ラッセルクサリヘビ及びヒャッポダ等の蛇種に由来するトロンビン様酵素のアミノ酸配列にはこのセグメントのアミノ酸配列が含まれないため、測定されるサンプルの蛇毒トロンビン様酵素の種属由来源及び含有量の判断に適用できる。
【0012】
(2)本発明に開示の定性定量方法は、簡単で、便利で、定量が正確で、中国長白山マムシ毒の品質基準のギャップを埋め、中国長白山マムシ毒の品質管理レベルを大幅に向上でき、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素製品の臨床使用、有効性及び安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドの一次マススペクトルである。
図2】中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドの二次マススペクトルである。
図3】特異性評価グラフである。
図4】直線性と範囲グラフである。
図5】検出限界と定量限界グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
以下の実施例で使用される試薬及び溶液の調製方法は以下の通りである。
(1)試薬:トリプシン(Sigma,バッチ番号SLBS8956)、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素(錦州奥鴻薬業、純度98.5%)、塩酸グアニジン(VETEC、バッチ番号WXBC4261V)、トリヒドロキシアミノメタン(戸市、バッチ番号20181206)、ジチオトレイトール(BBI Life Sciences、バッチ番号D911BA0011)、ヨードアセトアミド(BBI Life Sciences、バッチ番号B326BA1943)。他の試薬はいずれも分析試薬である。
(2)25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液:79.06mg重炭酸アンモニウムを秤量し、40mL水を加えて溶解することで得られる。
(3)ジチオトレイトール(DTT)溶液:15.42mgジチオトレイトールを秤量し、500μL水を加えて溶解することで得られる。
(4)ヨードアセトアミド(IA)溶液(使用時に調製):18.5mgヨードアセトアミドを秤量し、500μL水を加えて溶解することで得られる。
(5)0.4mg/mLトリプシン溶液(使用時に調製):トリプシン8.0mgを秤量し、20mL水を加えて溶解することで得られる。
【0015】
実施例1
中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドのスクリーニング及び決定
1、装置
Thermo Fusion高分解能質量分析計(Thermo Fisher Scientific、米国)、EASY-nLC 1000ナノリットル液体クロマトグラフ(Thermo Fisher Scientific、米国)、CP225D電子天びん(Sartorius、ドイツ),Sigma 3-30K冷却遠心分離機(Sigma、ドイツ)、ミリポアMilli-QAdvantage A10超純水装置(Millipore、米国)
【0016】
2、クロマトグラフィー質量分析条件
カラム:実験室で作製した0.2mm×3.5cm(粒子径5μm)のReproSil-Pur C18-AQ Trap columnを用いて脱塩、濃縮し、実験室で作製した75μm×25cm(粒子径3μm)のReproSil-Pur C18-AQナノリットル分析カラムを用いて分離した。移動相Aは2%アセトニトリルの0.1%ギ酸水溶液であり、移動相Bは98%アセトニトリルの0.1%ギ酸水溶液であった。ナノリットル分離ポンプの流速は300nL/minであった。グラジエント溶出の設定を表1に示す。
【表1】
質量分析条件:陽イオンモードで分析を行った。スプレー電圧は2.0kV、イオントランスファーキャピラリーの温度は275℃、S-Lens伝送効率は60%に設定された。一次質量分析はOrbitrapを質量分析計として採用し、解像度は60,000、収集範囲は350-1650であった。二次質量分析はITを質量分析計として採用し、Rapid Scanモードでスキャンし、Top20データ依存モデルで前駆体イオンの選択を行い、HCDモードで断片化した。断片化エネルギーNCEは35%に設定された。
【0017】
3、データ採取
中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素5mgを取り、10mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して定容し、200μL精密秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で1時間反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30min静置し、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液(使用時に調製)10μLを加え、37℃で90min反応させ、90℃で10min不活性化させ、室温まで放冷し、1200rpmで10min遠心分離し、上清液をテストサンプル溶液として収集し、ナノリットル液体クロマトグラフィーにより分離して注入し、高分解能質量分析により一次及び二次マススペクトルを採取した。
【0018】
4、データベース検索、スクリーニング及び決定
NCBI及びUniProtを用いて関連する蛇タンパク質ライブラリと毒液タンパク質ライブラリとを統合し、蛇と毒液データベースを構築した。Uniprotによって提供されたPeptidemass機能によりトリプシン酵素を模倣して異なる蛇種の蛇毒トロンビン様酵素タンパク質を分解し、中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素タンパク質の配列と他の種の配列とを比較することにより他の種に対する中国長白山マムシの特徴的なポリペプチド配列を取得し、Proteome Discovererソフトウェア(バージョン2.2)によりデータベースで質量分析データを検索し、(1)8~25アミノ酸、(2)人為的に修飾されやすいペプチドセグメントをできるだけ回避、(3)酵素切断時に漏れた切断部位がない等の原則に従って、質量分析応答と分離状況を組み合わせて「TLCAGVMEGGIDTCNR」は中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の特徴的なポリペプチドとして使用できることを決定した。測定結果は、特徴的なペプチドの分子量及び二次質量分析はいずれも理論値と一致することを示している。結果を図1、2に示す。
【0019】
実施例2
多重反応モニタリング(MRM)によりサンプル中の中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素を定性・定量分析した。
1、装置
SCIEX Triple Quad 6500トリプル四重極質量分析計、CP225D電子天びん(Sartorius、ドイツ)、Sigma 3-30K冷却遠心分離機(Sigma、ドイツ)、ミリポアMilli-QAdvantage A10超純水装置(Millipore、米国)。
【0020】
2、クロマトグラフィー質量分析条件
液体クロマトグラフィー条件:Waters ACQUITY UPLC BEH C18カラム(50mm×2.1mm、1.7μm);カラム温度:40℃;注入量:2μL;流速:0.2mL/min;移動相A:0.1%ギ酸溶液、移動相B:0.1%ギ酸アセトニトリル;グラジエント溶出;溶出プロセス:0→1min,移動相A 80%;1→5min,移動相A 80%→10%;5→7min,移動相A 10%→10%。
質量分析条件:エレクトロスプレーイオン源、陽イオンスキャンモード、多重反応モニタリング;定量イオン対:質量電荷比(m/z)877.4(二重荷電)→892.4;定性イオン対:m/z877.4(二重荷電)→550.2。ボルテックスイオンスプレー温度500℃;イオン化電圧:5.5kV;コリジョンセルの出口電圧10V;入口電圧EP 10V;衝突エネルギー(CE):いずれも45V、デクラスタリング電圧(DP):135V。
【0021】
3、溶液の調製
3.1対照サンプル溶液の調製
実施例1でスクリーニングした特徴的なポリペプチド対照サンプル10mgを精密秤量し、100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解し、目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、それぞれ0.1mL、0.25mL、0.5mL、1mL、2mL精密秤量し、それぞれ100mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で目盛りまで希釈し、均一になるまで振とうし、それぞれ200μL精密秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃1時間反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30分間静置し、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液10μLを加え、37℃で90分間反応させ、90℃で10分間酵素分解し、室温まで放冷し、1200rpmで10分間遠心分離し、上清を対照サンプル系列標準溶液として収集した。
【0022】
3.2テストサンプル溶液の調製
測定されるサンプル20mgを取り、10mLメスフラスコに入れ、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して定容し、200μL精密秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で1時間反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30分間静置し、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液(使用時に調製)10μLを加え、37℃で90分間反応させ、90℃で10分間酵素分解し、室温まで放冷し、1200rpmで10分間遠心分離し、上清液をテストサンプル溶液として収集した。
【0023】
3.3ブランク溶液の調製
25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液200μLを精密秤量し、0.2mol/Lジチオトレイトール溶液10μLを加え、均一に混合し、60℃で1時間反応させ、0.2mol/Lヨードアセトアミド溶液20μLを加え、暗所で30分間静置し、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液760μL及び0.4mg/mLトリプシン溶液(使用時に調製)10μLを加え、37℃で90分間反応させ、90℃で10分間酵素分解10し、室温まで放冷し、1200rpmで10分間遠心分離し、上清液をブランク溶液として収集した。
【0024】
4、測定法
前記測定される溶液をそれぞれ2μL取り、「2、クロマトグラフィー質量分析条件」に記載の条件で測定し、対照サンプル系列標準溶液中の特徴的なポリペプチドの濃度を横座標、対応するピーク面積を縦座標とし、線形回帰方程式(r>0.99)を計算し、回帰方程式からテストサンプル溶液濃度を算出し、測定されるサンプル中のトロンビン様酵素の含有量を算出した。
【0025】
5、特異性の評価
テストサンプル溶液、ブランク溶液及び対照サンプル溶液をそれぞれ2μL取り、液体クロマトグラフィー-質量分析を行った結果、ブランク溶液は対照サンプル溶液のピーク位置に干渉ピークが現れる一方、テストサンプル溶液は対照サンプル溶液のピーク位置に応答ピークが現れた。これは、この方法が特異性が良好であることを示している(図1)。
【0026】
6、検出限界と定量限界
0.02μg/mLの対照サンプル溶液を取り、水で希釈して濃度が6ng/mL及び2ng/mLの対照サンプル溶液を調製し、それぞれを2μL取り、高速液体クロマトグラフィー-質量分析計に注入し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対として測定した。対照サンプル溶液の濃度が2ng/mLである場合、特徴的なポリペプチドの定量イオン対の信号対雑音比は3.4であり、濃度が6ng/mLである場合、信号対雑音比は11.8であった。従って、検出限界は2ng/mL、定量限界は6ng/mLであった(図3)。
【0027】
7、直線性と範囲
「3.1対照サンプル溶液の調製」に記載の方法に従って最終濃度が0.02μg/mL、0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.4μg/mLの対照サンプル系列標準溶液を調製し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対として測定した。対照サンプル系列標準溶液中の特徴的なポリペプチドの濃度を横座標とし、対応するピーク面積を縦座標として線形回帰方程式:y=783411x-10329(R=0.998)を計算した結果、0.02μg/mL~0.4μg/mLの範囲内では、特徴的なポリペプチドの濃度とピーク面積は線形関係にあった(図2)。
【0028】
8、再現性
テストサンプル溶液の調製方法に従って、6つの溶液を並行して調製し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対として測定した。その結果、並行して測定した6回の含有量RSDは2.2%であり、方法の再現性が良好であることを示している。
【表2】
【0029】
9、精度の評価
テストサンプル溶液を取り、6回の連続注入を繰り返し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対としてピーク面積を測定した結果、RSDは2.6%であった。これは、装置の精度が良好であることを示している。
【表3】
【0030】
10、安定性評価
テストサンプル溶液を取り、処理した後、8℃で静置し、それぞれ0、2、4、6、8、16及び24時間目に注入して測定し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対として測定した結果、ピーク面積RSDは3.0%であった。これは、テストサンプル溶液中の特徴的なポリペプチドが8℃で24時間以内で安定であることを示している。
【表4】
【0031】
11、回収率の測定
特徴的なポリペプチドの含有量が既知の蛇毒サンプル(含有量0.53μg/mg)19.80mgを精密秤量し、25mmol/L重炭酸アンモニウム溶液で溶解して10mLまで希釈し、200μL/組で9組取り、それぞれに適量の特徴的なポリペプチド対照サンプル溶液を加え、「3.2テストサンプル溶液の調製」に記載の方法により回収率測定溶液を調製し、877.4(二重荷電)→892.4を定量イオン対として測定した。その結果、3つの並行回収率はいずれも91.18%~107.84%の範囲内にあり、平均回収率は96.23%であり、RSDは6.6%であった。この方法は回収率が良好であった。
【表5】
【0032】
12、サンプル検出
「3、溶液の調製」、「4、測定法」に記載の方法により中国長白山マムシ毒(20180601F、20180702F、20170802)と標識されたサンプル、アメリカハブ蛇毒(2004171、2004172、2004173、2004174)と標識されたサンプル、及び蛇種が未知の蛇毒サンプル(20200304、20200405)を検出した。
【0033】
12.1定性分析
前記蛇毒サンプルの前処理方法及び分析方法により検出した結果、質量電荷比(m/z)877.4(二重荷電)→550.2及び877.4(二重荷電)→892.4イオン対を用いて作成したテストサンプルのイオン電流クロマトグラムにおいて、3バッチの中国長白山マムシ毒サンプルはいずれも対照の特徴的なポリペプチドのクロマトグラムの滞留時間(0.88分間)と一致したピークが現れ、4バッチのアメリカハブ蛇毒及び2バッチの未知蛇毒はいずれも対照の特徴的なポリペプチドのクロマトグラムの滞留時間にピークが現れなかった。従って、3バッチの中国長白山マムシ毒にはいずれも特徴的なポリペプチドTLCAGVMEGGIDTCNRが検出され、中国長白山マムシに由来することが確認された。4バッチのアメリカハブ蛇毒及び2バッチの未知蛇毒にはいずれもこの特徴的なポリペプチドが検出されなかったため、この6パッチの蛇毒は中国長白山マムシに由来するものではないことを示している。
【0034】
12.2定量分析
特徴的なポリペプチド(TLCAGVMEGGIDTCNR)が検出されたサンプルに対して、回帰方程式からテストサンプル溶液の濃度を算出し、さらにサンプル中のトロンビン様酵素の含有量を算出した。結果を表6に示す。3バッチの粗毒の含有量はいずれも0.4μg/mg以上であった。従って、この方法は、サンプル中の中国長白山マムシ毒トロンビン様酵素の含有量の測定に適用できる。
【表6】
以上の実施例は本発明の好適な実施形態であり、本発明の実施形態は実施例に制限されず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で行われた変更、修飾、組み合わせ、置換、簡素化はいずれも同等置換であり、本発明の保護範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
0007120586000001.app